2016年12月3日

千葉県・いすみ取材第2弾
〜循環型酪農・高秀牧場〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、高橋憲二さんです。

 今回は千葉県いすみ取材の第2弾!乳牛が出すもの全てを有効活用している“高秀牧場”の取り組みにフォーカス。先日、いすみ市の丘の上にある高秀牧場にうかがって、代表の高橋憲二さんに“循環型の酪農”について色々お話をうかがってきました。

地域全体で循環

●私たちは今回、千葉県いすみ市にある“高秀牧場”に来ています。のどかな雰囲気のあるステキな牧場なんですが、その牧場の代表・高橋憲二さんにお話をうかがっていきたいと思います。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●この高秀牧場は、普通の牧場とはちょっと違うそうですが、どういった特徴があるんですか?

「うちは20年ぐらい前からずっと循環型酪農をしています。でも、その20年前には“循環型”という言葉がなかったんですよね。それで、北海道の酪農家、藤原(正博)先生に指導してもらって、世の中に初めて“循環型農業”という言葉を発信しました。そうしたら、最初に新しいことやると、みんなよく言わないんですよね。色々なことを言われて心が折れそうになったことがあるんですが、一緒にスタートさせた5軒の酪農家の仲間がいたので、何か言われる度に“いつか見返してやろう!”と言いながらどんどん絆が強くなっていきました。やり始めてから3年目ぐらいで結果が出始めてきて、周りの人たちの見る目が変わってきました。5年目ぐらいになったら視察に来る方が多くなりました」

●具体的にはどういったシステムなんですか?

「現代農業って、畑で作物を作って収穫しても(畑に)何も戻ってないんですね。それに対して“リサイクルもするべきじゃないか”ということで、これを始めました。山の木々を見れば分かるかと思いますが、何も足されてないんですよね。何も足されていないのに、自然界の木たちは何百年、何千年と循環しているじゃないですか。だからこそ、木は長く続くんだと思います。
 農業って普通は化学肥料をふって作物を作って販売するというものだと思い込んでいたんですが、そうじゃなく、作物を作って、作ったものを食べて、食べたものたちから出てくるものを畑に還すという形が自然に一番近いと思うんですね。それを農業の世界に取り入れてみようというのがキッカケです。これって、それほど難しいことじゃないんですよね」

●それを酪農でやるとなると、どんな感じになるんですか?

「酪農の場合は牛を飼ってますよね。牛はもちろんエサを食べて牛乳を出すじゃないですか。そして排泄物が出ます。その排泄物を堆肥化して畑に還します。それで作物を作って牛のエサとして食べさせています。そうやって循環させています。当初はうちの牧場だけでやっていたんですが、今はこの地域全体で循環しています。いすみは稲作地帯で稲作農家がすごく多いので、うちの牛の主食はお米です!」

●では、その牧場を今から見せていただきたいんですが、よろしいですか?

「はい、いいですよ」

高秀牧場を見学

※実際に見学しに行きました。

「ここが、搾乳している牛のいる牛舎になります」

●何頭ぐらいいるんですか?

「うちは全部で150頭いるんですが、搾乳しているのは75頭です」

●みんなキレイにならんでますね。

「今、みんな寝て休憩しているように見えるじゃないですか。でも、牛はこういうときに働いているんです。今、口を動かしている牛がたくさんいますよね。ああやって、食べたエサを一生懸命消化して乳に変えているんです。なので、寝てる時間が長い方が乳をたくさん作るんですね。逆に、立っている時間が長い方が牛乳の出る量が減っちゃうんです」

●怠けているように見えますが、今一生懸命仕事しているんですね。エサは何を食べているんですか?

「うちの牛の主食はお米です。見てもらえれば分かるかと思いますが、稲穂が付いてますよね。これは稲を茎ごと刈り取って細かく切って、ロールにして乳酸発酵させます」

●これは私たちが食べているものと同じ品種なんですか?

「同じです。これはコシヒカリです」

●コシヒカリを食べてるんですね!

「もっとたくさん採れる飼料専用品種もあるんですが、量が多いと、出来上がるまでに時間がかかってしまうんですよ。そうじゃなく、うちでは水田をフル活用して、田んぼでは年1回しかお米を作らないと思いますが、うちでは稲を刈り取った後、牛糞堆肥を田んぼの中に入れます。そのあとに牧草の種を撒きます。そうなると、牧草が田んぼで育ちます。それを春先や冬の間に収穫してロールにして貯蔵しつつ牛に食べさせています。なので、田んぼからは年3回収穫させてもらっています」

●ということは、お米を作らない時期も有効活用しているんですね。あと、牛舎って臭いがするじゃないですか。正直「臭いかな?」と思っていたんですが、臭いが全然しないですよね。それはエサのおかげですか?

「“小清水菌(こしみずきん)”というのを使っています。“サイレージ”という飼料を貯蔵したものがあるんですが、それを作るときに小清水菌を添加しています。それを牛が食べると、その菌が牛の胃腸の中ですごくいい働きをしてくれて、消化率も上がって牛乳の生産性も上がって、牛がどんどん健康になっていくんですね。それに、いい消化吸収をしているので、臭いも少なくなっていきます」

●人間も腸活が流行っていますが、ここの牛たちも腸活をしているんですね!

「それを20年前からやっています」

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稲作に液肥!?

※いすみ市で循環型の酪農を行なっている高橋さんに、“いすみ市と牛の関係”についてうかがいました。

「この辺りは稲作地域で、もとからお米が美味しいことで知られていたんです。稲作農家の人たちは“昔はどこの家にも牛がいた”というんですよ。ある家には3頭ぐらいいて、牛の乳搾りをしてから学校や会社に行って、帰ってきてからも牛の世話をしていたそうなんですね。
 そのときに出た糞は1年間貯めて田んぼに戻していたそうなんです。でも、その作業がものすごく大変で、50年前ぐらいだとそれほど大きな車やトラクターなんてなかったので、リアカーなどに積んで、人力で田んぼまで運んで、“田舟”というものに乗せて、腰に紐を付けて舟を引っ張って、手で撒いてたそうなんですね。それがすごく嫌で、“自分が米づくりをするようになったら、この作業はやめたい”ということで、今の稲作農家の人たちは牛を処分して化学肥料でお米を作るようなったんですが、“食味が落ちた”と感じていたんですね。私たちは畜産農家で牛がいるので、“稲作農家に貢献できることが絶対にある!”と思っていたので、昔に戻すのではなく、液肥を作って、稲作農家さんに紹介しました。

 最初に稲作農家50人ぐらい集めて、藤原先生の勉強会をやったんですね。藤原さんはめちゃくちゃ優しい人なんだけど口が悪くて“ここの土壌は重粘土壌で、すごく恵まれているだけで、あなた方は何も努力をしていない。そんな中で作ったお米が日本一美味しいだなんて、甚だおかしい!”というんですね。ほとんどの人が初対面なので、“なんだあの人は!”みたいな感じで会場がざわめいて“あ〜、これは終わったなぁ”って思ってました。
 その中で1人だけ“この先生の言うとおりだ。これ面白そうだからやってみるよ”と言ってくれた人がいたんです。それで試験栽培に入ってもらったんですが、1年目は失敗してしまったんです。“今度こそ終わった。この地域に液肥が浸透することがない”と思っていたら、その人が“これで分かった! 来年は絶対に(稲を)倒さない自信があるから、もう1年やる!”と言ってくれたんですね。それでもう一度チャレンジしてくれたら、翌年はすごくいいお米ができたんです! それで“あの液肥はいいかもしれない”という雰囲気になってきて、それで利用してくれる農家が増えたんですね」

●味はどのぐらい違いますか?

「食味計を使えば、味が数字化されるようになったんですが、それで計測してみたら、液肥を入れたところで作ったお米は、普通のお米よりも点数が高いんですよね。農業改良普及センターという農業の技術指導をしているところがあるんですが、そこの人が“液肥を入れた田んぼは、入った瞬間に分かります。田んぼの土自体は柔らかくなっているけど、根がしっかり張っているから、足を入れてもくるぶしぐらいまでしか潜らないですよ”っていうんですよね」

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毎日、命をいただいている

※高秀牧場は酪農体験も人気だそうです。

「予約は必要ですが、2時間半ぐらいの酪農体験は常時受け付けています。まず、先ほど回ったように、説明しながら牧場の見学をして、乳搾りをして、バター作りをします。あと、将来酪農家になりたい人や酪農の仕事をしてみたい人に対して、私たちと同じ生活を体験してもらうこともやっています」

●体験された人たちの感想はどんなものがありますか?

「私が説明すると大人向けになってしまって話が難しくなってしまうんです。大人の方たちからは“今まで聞いたことのない話で、すごく勉強になりました!”と言ってくれるんですが、子どもは飽きてしまったりするんですよね。それに対して、(スタッフの)若い子たちは子どもの心を鷲づかみにして、笑顔で“楽しかった!”って言ってくれるような体験をさせてくれるんですよね。

 体験の最後に私が話すことがあるんです。
 牧場は牛乳を生産するだけのところだと思っているかと思いますが、その牛の尿はお米づくりに役だって、堆肥は野菜づくりや果物づくりに役だっているわけですよね。植物全てに牛は関わることができるんですね。また、牛乳を生産しながら、歳を取ったら最後は食肉になります。皮膚はランドセルやベルト、靴になりますし、爪や角からはボタンを作っているそうなので、ご飯を食べるときに牛乳を飲むときだけ感謝をするのではなく、お米を食べるときも牛が活躍してくれているんですよね。そういうことをみんな今まで思ったことがないというんですね。でも、人の生活には牛の存在は欠かせないんです。そんなことも理解してもらいたいと思っています。
 私たちが食べているものって、牛もそうですが、お米や野菜も生きているじゃないですか。それを刈り取って食べさせてもらっているじゃないですか。私たちは毎日命をいただいて生きているじゃないですか。だからこそ無駄にしちゃいけないし、感謝しながら残さずに食べて、自分の命もその命のうえにあるもんだから、精一杯生きていかないといけないですよね!ということを話しています」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 高橋さんのお話を伺っていて酪農家なのに「稲作」についてとても詳しいことにビックリしました。
 牧場だけでなく、農家や地域を巻き込んだ循環にするために、きっと農業のこと、地域のことをすごく勉強されているんですね。そんな高橋さんの努力があるからこそ、高秀牧場に関わるすべての人がハッピーになれる「輪」がどんどん広がっているんだと感じました。

INFORMATION

 高秀牧場では、乳搾りやチーズ作りなど、子供から大人まで楽しく学べる牧場体験ができます。また、美味しいナチュラルチーズを手づくりして販売しているチーズ工房や、こだわりのジェラートやクリームシチューなどを食べられるミルク工房もあります。ぜひお立ち寄りください。

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今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. LITTLE BITTY / ALAN JACKSON

M2. RAMBLIN' MAN / THE ALLMAN BROTHERS BAND

M3. THE WEIGHT / THE BAND

M4. BLACK COW / STELLY DAN

M5. TURN! TURN! TURN! / THE BYRDS

M6. WHAT A WONDERFUL WORLD / LOUIS ARMSTRONG

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」