2017年3月4日

15分に1頭、アフリカゾウが殺されている!?
〜アフリカゾウと日本人

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、山脇愛理さんです。

 NPO法人「アフリカゾウの涙」の代表理事、山脇愛理さんは、6歳から南アフリカで育ち、小さいころから自然や野生動物が大好きでした。その後、南アフリカの大学で動物行動学などを学び、動物番組をキッカケに、メディア・コーディネイターとして活動を開始されました。その後、どんどん減っていく野生のアフリカゾウやサイの現実を知った山脇さんは、2012年に獣医師の滝田明日香さんと2人でNPO法人「アフリカゾウの涙」を設立。現在ではゾウやサイの保護活動を行なっていらっしゃいます。
 そんな山脇さん曰く「10年後には野生のアフリカゾウが地球上からいなくなってしまうかもしれない。そして、そのことには私たち日本人も大きく関係している」そうなんです。今回はそんなアフリカゾウについてお話をうかがいます。

おばあちゃんゾウの知恵!?

※アフリカゾウは、そもそもどんな生き物なんでしょう?

「アフリカゾウは、アフリカを代表する大型哺乳類であり、すごく優雅で知的で、そして複雑な生き物なんです」

●“複雑”とは、どういうことでしょうか?

「とてもコミュニケーション能力が高い動物なんですね。ゾウというと“パオーン”と鳴くイメージを皆さんは持っていると思いますが、実は他にも色々な言葉があって、その研究も進んできています。例えば“集合”の際に発する言葉や、子どものゾウ同士が遊んでいる時の言葉、大人が子どもに向かって話す言葉などもあります。

 また言葉だけではなく、ゾウはものすごく記憶力もいいんです。一度会ったら忘れないくらい、個体識別ができる哺乳類なんです。なので、仲間のゾウや近くで遭ったゾウ、一度会ったゾウなどが亡くなって、その死骸を見つけると、それを認識する行動をとります。その行動がゾウにとっての“お葬式”であり、それはとても神秘的で、なかなか見られないものなんです。これは、相手とのコミュニケーションをとても大切にしているということなんです。

 また、コミュニケーション能力の高さは生存率にも関わってきます。アフリカゾウはメスで群れを作り、その群れのリーダーは“マトリアーク”と呼ばれるおばあちゃんゾウなのですが、群れの生存率はそのおばちゃんから受け継ぐ知恵にかかっているんです。自分たちが生活している場所のどこに危険があるのか、干ばつの時はどこを掘れば水が出てくるのか、近場の植物を全て食べ尽くしてしまった場合、どこに行けば植物があるのかなどの情報を、ゾウは代々受け継いでいるんです。それが途絶えてしまうと、子どもたちの生存率が下がってしまいます。なので、ゾウは10年以上子育てをしますが、子どもはその間に、親やおばあちゃん、親戚のメスのゾウたちから知恵を学びながら大人になっていきます」

●人間に近いですね。

「子どもに対する情や、家族の絆、おばあちゃんの知恵が必要だというところは、人間に近いですね」

●“ゾウ語”って、どんなものがあるのですか?

「私はゾウ語を話せないのですが(笑)、例えば人間の耳にも聴こえないような低音を発して、遠くにいる仲間とコミュニケーションをとったりします。また、すごく落ち着いている時に“ブルルルルル”と唇を震わせながら低音を発するのですが、これは“レッツ・ゴー”や“集まれ”という意味だったりします。皆さんが聴いたことのないような言葉が他にもたくさんあるので、ぜひ聴いてみていただきたいです」

“象牙大国”日本

※アフリカゾウは、密猟によって刻一刻とその数が減っていってしまっているそうなんです。一体、どれほどのペースで減っているのでしょうか?

「残念ながら、密猟はずっと続いているのですが、特にここ5年くらいはそれが目立っており、“15分間に1頭”というペースで密猟が進んでいます」

●15分間に1頭ですか!? 本当に頻繁に密猟が起こってしまっているんですね。

「“アフリカの貧困問題が原因”と言ったり、“密猟をもっと取り締まればいい”と言う人がよくいますが、この密猟の背景にはそれだけではない、もっと複雑な問題があります。これは環境問題の域を超えて社会問題にまでなっていて、需要と供給の関係だけでなく、それを取り巻く犯罪組織や汚職など、もはや一国の政府の力だけではどうにもならないような状態にまでなってしまっているんです」

●実はその問題に、私たち日本人も深く関わってしまっているんですよね。

「そうなんです。日本は70年代から80年代まで“象牙大国”と呼ばれていました。経済成長とともに、象牙を使うことが流行ったんですが、当時、世界の象牙の3分の2を日本が使ってしまいました。そして、1980年代に7年間で地球上のゾウが一気に半減してしまったのです。なのでこの問題については、日本にはかなりの責任があると思います」

●その象牙は、ハンコの材料として使われることが多いんですか?

「日本の象牙の消費率の6割から7割くらいをハンコが占めているので、とても多いですね。あとは三味線やお琴のバチ、着物や和服のアクセサリーなどで使われています。しかし、例えばバチは1本約600万円だったりと、ものすごく高価なので、それを扱う人の数はとても少ないです。なので、一般の人が使うものとしては、やはりハンコが一番多いです。

 私個人としては“今すぐ象牙の利用が禁止されてしまえばいいのに”とは思いますが、象牙を長く使ってきた国なので、現実的には、段階的な卒業の仕方を考えないといけません。なので、何に使う象牙をやめられるかなどを、順を追って考えていき、そのために、使っている人と守っている人が話し合うことが必要だと思います。

 現に、このままでは野生のゾウがいなくなってしまうという現状の中、国際社会では“もう象牙の利用は止めたほうがいい”という考えになってきていて、アメリカやケニア、さらには中国も2016年の末に、象牙の使用を止めることを発表しました。中には“今年中に象牙市場を閉鎖していく”という具体的な明言をしている国もあって、ヨーロッパやイギリスなど、他の国々も次々と象牙市場を閉鎖する動きに向かっています。しかしその中で、日本だけ唯一、象牙を使うことを正当化しようとしています。世界に取り残されないように、日本も一緒に考えて行動していくべきだと思います」

絵本『牙なしゾウのレマ』

※NPO法人「アフリカゾウの涙」は、どのような活動をしているのでしょうか?

「NPO法人アフリカゾウの涙は、日本とケニアを拠点に、2012年から活動を始めました。ケニア側では密猟対策に関わったり、“ゾウと人間の共存”に向けての活動をしています。
 野生動物の生活地域と人間の生活地域が重なることで、両者の衝突が起こることがあります。例えば、私たちがいる地域にはマサイ族が住んでいるのですが、彼らは、昔は牛を連れて動き回っていましたが、今は畑を耕しながら定住している、というように生活スタイルが変わってきているんです。しかし、彼らにとっての主食であるトウモロコシは、ゾウにとってはすごく美味しいおやつなんです。なので、本来なら食べなくてもいいものですが、そこにあるとついゾウは食べたくなってしまうんですね。そうなると、地元の人たちにとって、ゾウは“害獣”と見なされてしまうんです。この問題を解決するために、ゾウが怖がる“蜂”を使っています」

●ゾウってあんなに大きいのに蜂が怖いんですか!?

「そうなんですよ(笑)。なので、私たちがマサイ族の人に蜂の利用方法や、ハチミツを収穫できる数の蜂を、畑の周りに飼育することを教えることで、畑にゾウが入らず、さらには彼らがハチミツから現金収入を得られるようにします。現金収入が得られることで、森林伐採に歯止めをかけることができるのではないかという期待も持ちつつ、ケニアでは活動を行なっています。
 一方、日本では、それとは違った活動をしています。象牙という材料の後ろには必ず野生のアフリカゾウがいるという“繋がり”を知ってもらうための活動を行なっています」

●今、手元に『牙なしゾウのレマ』という絵本がありますが、これを使ってそのような活動をされているんですね。

「そうですね、これは私たちが日本で行なっている活動のうちの1つになります。“No Ivory Generationプロジェクト”という、“象牙を必要としない世代を育てる”ことを目的としたプロジェクトです。この絵本を全国の小学生に届ける活動もしていて、2年間ほど前から毎月少しずつ寄付し、2017年2月までで約4000校に寄付しました。今後は絵本だけでなく、イベント出展や講演など、幅広く展開していこうと思っています」

●私も先ほど、この絵本を読ませていただきました。厳しいお話もありましたが、アフリカの自然やゾウについて色々と分かって、とても読みやすかったです。この絵本を読まれたお子さんたちは、どんな反応をしていましたか?

「この絵本は、小学校4年生向けに描かれているのですが、特に読み聞かせのときには、そのドラマチックな内容にみんな引き込まれていますね。私は読み聞かせのたびに泣いてしまいます(笑)。最後はハッピーエンドですが、メッセージ性が強いため、小学校高学年の子たちの反応が一番大きいと思います。残念ながら、大人は考え方が硬くなってきてしまっていますが、子どもたちはまだまだ柔らかい考え方をしていますので、このような現状を知ると“知らなかった!”“なんとかしたい!”“帰ったらお父さんやお母さんに言う!”“自然を大切にしていきたい!”という反応がものすごく多いです」

私たちが今できること

※山脇さんたちはアフリカゾウや野生動物を救うために様々な活動をしていますが、私たちにも何かできることはあるのでしょうか?

「元々、アフリカゾウの涙を立ち上げたのは“子どもの将来にアフリカゾウを残したい”という思いからでした。このままでは10年後、20年後には野生のゾウがいなくなってしまうかもしれないぐらい現状は厳しいです。その中で、アフリカ育ちの日本人である私たちが変えていかなければいけないと思いました。アフリカゾウやサイなどの野生動物を残すためには“自分たちから変えていかなければいけない”という意識を持ちつつ、子どもたちのために取り組んでいます」

●私たちができることは、まず普段何気なく使ってしまっているものを見直すことですね。

「ハンコを買いに行く時に“よし、象牙のハンコを買おう”と思っている人はほとんどいなくて、何となくハンコ屋さんに行って、店員に“何かオススメはありますか?”と聞くと“象牙は長持ちしますし、朱肉がのりやすいし、縁起もいいのでオススメですよ”と言われ、いい物が好きな日本人はなんとなく手にしてしまいます。そしてそれが、結果的に象牙の需要を生んでしまうのです。なので、象牙はただの材料ではなく“環境と繋がっている”と思っていただければ、変わっていくのではないかなと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 アフリカ象が今どんどん減ってきてしまっている。しかもその原因に私たち日本人が深く関わってしまっている。私たち日本人としては耳が痛い話ですが、逆に言えば私たち次第でアフリカ象を救う事も出来るということですよね? まずは象牙に対する意識を変えてみようと思います。

INFORMATION

NPO法人「アフリカゾウの涙」

 山脇さんが代表理事を務めているNPO法人アフリカゾウの涙では、密猟者を追跡する犬たちを支援する“ドッグユニットに対するサポート”や、ゾウによる作物被害を防ぐ“養蜂プロジェクト”、子供達に向けた“牙なしゾウの絵本プロジェクト”など、様々なプロジェクトを行なっています。ぜひご支援ください! 毎月500円から3,000円の寄付で、大きな支援につながります。日本人だからできる、日本にいてもできる支援活動に、ぜひご協力をお願いいたします。
 詳しくは『アフリカゾウの涙』のオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. WAMBA / SALIF KEITA

M2. AFRICA / TOTO

M3. 7 SECONDS / YOUSSOU N'DOUR feat. NENEH CHERRY

M4. MY KINDA GIRL / KEZIAH JONES

M5. TALKING TO THE MOON (acoustic piano version) / BRUNO MARS

M6. WAVIN'FLAG / K'NAAN feat. WILL.I.AM, DAVID GUETTA

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」