2017年4月15日

ほっとする心のふるさと
〜47都道府県の原風景

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、佐藤尚さんです。

 1963年、福井県に生まれた佐藤さんは、東京写真専門学校を卒業後、日本山岳写真協会の会長を務めた風見武秀さんの指導を受けたあと、フリーカメラマンとして、日本各地の農村風景、自然風景などを撮影。最近は47都道府県の、心温まる日本の原風景を精力的に撮り続けています。また、写真ワークショップ「里ほっと」を地元埼玉で行なってらっしゃいます。
 そんな佐藤さんは先ごろ、最新の写真集『47(よんなな)サトタビ』を出されました。とても懐かしく、ほっとする写真がたくさん掲載されています。
 今回はこの写真集の撮影秘話や、「里ほっと」についてたっぷりとお話をうかがいます。

まずは挨拶から!

※佐藤尚さんの最新の写真集『47 サトタビ』は、とても心温まる作品集となっていますが、どうして佐藤さんは、人間の営みを感じる「里山」や「里海」を被写体にしようと思ったのでしょうか。

「多くの人が写真を見て“懐かしい”“ホッとする”“一味違う”などと言ってくださり、どこがいいのかはまだ分からない部分もあるんですけど、全国の風景写真を撮っているうちに、自分の動きが無意識のうちに、人里に向かうようになっていったんだと思います」

●森の奥や、荒れ狂う海など(笑)、自然そのものよりも、人と自然が共存しているような場所に惹かれているということですね。

「森の中で撮る人や海の中で撮る人など、色々な写真の撮り方があると思うんですけど、私の場合はそういうところに行くよりも、人里に惹かれますね。むしろ、森の中を一人でいると怖いので、そこは他の人に任せておこうと思っています」

●(笑)。どうして人里に惹かれるんでしょうか?

「以前までは、森の中や海も撮っていたんですが、人里に行って風景を探して撮っていると、やがて景色だけでなく、“人が温かい”ということを知ってきたんですね。そこに惹かれているのかもしれません。例えば、取材で青森県に行った時に、農家の人たちが“リンゴあるから持っていきなよ”と言ってくれたり、他にもネギや白菜、里芋など、自分の畑で育てたものを私に勧めてくださる人がいます。そういう人との交流が私にとって嬉しかったから、人里に惹かれるんだと思います」

●それが影響しているからでしょうか、佐藤さんの写真を見ると人が結構映っているんですが、みんな優しそうな感じなんですよね。

「里の人に会った時に挨拶をするのが私は好きなんですよ。はじめに挨拶をすることで、自然とコミュニケーションが取り易くなっているんじゃないかなと思います」

夜の雲海は水墨画!?

※47都道府県を制覇した佐藤さんは、もちろん千葉県でも写真を撮っています。それが、黄色に染まった菜の花畑を走る、小湊鉄道を写した写真なのですが、なぜこの景色を撮ろうと思ったのでしょうか?

「千葉県の“県の花”は菜の花ですよね。私はその土地ごとの特徴を出すことを大事にしているので、県の花を意識し、またそこには旅心をくすぐる“春先の空気感”があると思ったので、そこで取材をしました。」

●電車が来るタイミングも考えたりと、写真を撮るには時間がかかると思ったのですが、そこに取材に行った際、写真はすぐに撮れたんですか? 

「はい、撮れました。ただ、電車が来るタイミングはドキドキしますね(笑)。電車を撮る際に難しいのは、時刻表通りに来ないことがあるため、いつ電車が来るのか分からないことですね。また、電車の長さも分からないので、撮り終わるとホッとしますね」

●黄色い絨毯(じゅうたん)の中を向こう側からゆっくり来ている様子が、メルヘンな感じでした!

「黄色の景色の中に、赤とクリーム色の電車が走っている様子は可愛らしいですよね」

●リスナーの皆さんにも見ていただきたいですね!

「そうですね、ぜひ!」

●もう一枚、おうかがいしたい写真があるのですが、先ほどの写真とは全く違い、千葉の幻想的な風景を撮った写真も掲載されていらっしゃいますよね。撮影場所は君津市の鹿野山と書かれていますが、山頂で撮られたんですか?

「山頂のすぐ近くの峠に展望台があり、そこを下に行くと“九十九谷(くじゅうくたに)”と呼ばれる、折り重なる山並みがあるんですが、そこは気象条件が揃うと雲海が出る場所なので、その瞬間を前から撮りたいと思っていました」

●この写真は狙って撮ったんですね!

「狙って撮ったんですけど、今回の写真集に掲載されているものは、10回目くらいに撮ったものだと思います。全然期待通りの景色になってくれなかったんですよ。“明日はきっと雲海が出るだろう”と思って行くんですが、朝起きると何もない、という日々を繰り返していました。
 掲載されている写真を撮った時は、前日からスタンバイして、山頂付近の駐車場で車中泊をして朝を迎えようと思っていたんですが、なぜかその日は夜中に目が覚めたんですね。“今、外の景色はどんな感じかな?”と思い、駐車場から出て外を見下ろしてみると、見事な雲海が広がっていたんで、急いでカメラを引っ張り出してきて撮影したんです」

●もし夜に目を覚まさなかったら、撮れなかった一枚なんですね!

「そうですね。そして、朝に近づくにつれてその雲海は消えていってしまったんですよ。なので、今までのように目覚まし時計で起きていたら撮れませんでしたね。もしかしたら今まで撮れなかった日でも、夜中は雲海が出ていたのかもしれません(笑)。タイミングなどが噛み合ってくると、このような“神がかったこと”が起きてくるんだな、といつも感じています」

●佐藤さんの他に、雲海が出ていることに気づいて撮っていた人はいたんですか?

「朝になって、写真愛好家さんたちがやってきましたね。その人たちと“綺麗ですね!”って言い合っていたんですが、実はその時にはだいぶ雲海が少なくなっていたんですね。ただ、その人たちも一生懸命撮っていたので“さっきのほうが良かったな”とは言わずに、“今日はいいですね!”と言って盛り上がっていました(笑)」

●でも心の中では“俺、もっといい景色を撮っているぞ”と思っていたわけですね(笑)。

「絶対言いませんけどね(笑)」

●やっとの思いで撮れたこの雲海の写真、水墨画を思わせるような濃紺の色がとても綺麗ですね。

「実際は真っ暗なので、写真に映っているようには肉眼では見えていないんですよ。デジタルカメラだから写せる世界もあるので、そこを計算しつつ、街明かりが雲海を照らす時間帯に撮ったことも、幻想的な写真になった理由なのではないかと思います」

●幻想的な景色の下に街灯が写っているのも、いいですよね!

「人が暮らしているからこそ、この写真のよさが伝わりやすいんじゃないかなと思います」

山には山の、海には海の・・・

※桜を撮るために全国に旅に出ることもある佐藤さんは、各地の春の訪れにも違いを感じているようです。

「雪国では、春になるとクロッカスやムスカリ、チューリップや菜の花、桜などが一斉に咲くんですが、例えば千葉のような温暖な場所だと、まず1月にスイセンが咲き、次に梅が咲き、3月に菜の花や桜が咲く、というようにゆっくりと進んでいくんです。このような違いは東西南北ありますし、標高の差によっても感じることはありますね」

●確かに、寒いところだと一気に咲きますよね。佐藤さんは、どんな時の流れ方が好きですか? 「千葉! と言いたいところですが(笑)、『47 サトタビ』を作る前に、新潟県魚沼地方の写真集を作ったことがあるんですが、そこでは春になって雪溶けが進んでいくと、“喜ぶ庭の表情”がすごいんですよ! 花が一気に芽吹いて、水が勢いよく流れるようになるんです。そういう意味では、雪国のほうが好きですね」

●そのように一気に春が来た瞬間は、生命力やパワーを感じますか?

「そうですね。まず何よりも、綺麗ですからね!」

●他にも全国で写真を撮られていた際に、印象に残っている場所はありますか?

「今回出した写真集『47 サトタビ』でも比較的田んぼの写真を載せているんですが、“里”といっても、撮影当初は山里の方が多かったんです。でも、この本を作っている途中で、次第に海の方にも足を向けるようになっていったんですね。すると、海には海の表情や色があるということを、最近知ってきたんです。山の方にはない色彩が海にはあるんですね。家や植物の色など、とにかくいろいろな色が違うので、今後は海にも目を向けていきたいなと思っています。まだ言葉や写真にできない部分があるんですけど、そこには明らかな違いがあるんです。そして、それが楽しいんです」

●どんなところが楽しいんですか?

「やっぱり色ですね! 今まで見ていない色が海にはあるんですよ! もしかしたら山よりも明るい色なのかもしれません。風景写真を撮る際、海は晴れていないと水平線がよく見えないし、海自体も青く見えないので、今まで行かなかったんですよ。里の方にいると、雨が降っていても渓流が美しかったりするので、ついつい内陸で写真を撮っていたんです。しかし最近になって、海であっても、雨でも曇っていてもいい表情があるんだ、ということを感じてきています」

友だちが欲しい!?

※山と海、それぞれに自然の魅力があり、その自然に寄り添った人々の暮らしにも、それぞれの魅力があるんですね。それでは最後に、佐藤さんが地元で行なっているワークショップ『里ほっと』についてうかがいます。

「『里ほっと』は私の地元、埼玉県でやっているワークショップなのですが、始めた理由は、私が“地元に友だちが欲しい”と思ったからなんです。写真ワークショップ『里ほっと』として始めたところ、最初は4人でしたが、今では50人近く来るようになりました。“当日自由参加型で無料。私、佐藤尚は教えません”ということでやっています。無料である以上、プロとして写真の技術を教えてしまってはいけませんからね」

●フィールドはどこなんですか?

「埼玉県の見沼(みぬま)田んぼです。私が住んでいる地元ですね」

●田んぼの風景を皆さん自由に撮るんですね。

「田んぼや畑、公園があったり、人が暮らしている空間などを1時間半ぐらいかけてみんなで歩いていきます。参加している方々は写真を撮るというよりも、おしゃべりしにきているという感じです(笑)」

●おしゃべりがメインになっているんですね(笑)。当初の目的だった友だちはできましたか?

「いっぱいできました(笑)! 私自身も友だちができたんですけど、そこに集まって来る、40代から70代の人たちみんなが口を揃えて、“この歳になって新しい友だちがこんなにいっぱいできるとは思っていなかった!”って言うんですね」

●それは何がよかったんでしょうか?

「結局みんな、地元に友だちを求めていたんじゃないでしょうか。そういう人たちが、たまたま“風景写真をみんなで撮ろうよ”ということで集まってきたんですよ。写真っていうのは、撮って誰かに見せて楽しむものだと思うんです。自分で撮った写真を見ててもいいんですけど、仲間がいることで“こんなの撮れたんだけど、どう?”と言ってみんなで会話もできますし、“今度の休みの日に見沼田んぼに行こう!”と思って行くと、そこには友だちがいて挨拶を交わしたりもするようになっていくんですね。そういうことが、自然にみんなの中で生まれていったんですよ。そのことが、『里ほっと』が続いている理由なんだと思います。ワークショップを常にやっているからではなく、いつも知らないところで繋がっているからだと思っています」

●きっと『里ほっと』は、地元のよさや里山の素晴らしさを再発見することにも繋がっているんでしょうね。

「そうですね。参加した多くの人が、“住宅街が多いさいたま市の中に、こんなに豊かな自然が残っているとは思わなかった”と言っているんですよ。そしてまた何度も『里ほっと』に通い、その度に違う景色を見つけるんですよ。“まだまだ風景、あるなぁ”って思います」

●ということは、埼玉県以外でも、千葉県や日本全国どこにでも、まだまだ私たちが気づいていない素敵な風景はありそうですね!

「絶対ありますね! きっとみなさんの家の近くにありますよ」

●それを見つけるコツってありますか?

「そんなに難しく考えないで、自転車やウォーキングなどでもいいので、ぶらっと外に出てみることだと思います。公園でもいいので、そこで空を眺めたり、池にいるコイやカモを眺めたりして自然を感じると、“もうちょっと先に行ってみようかな”と思い始めて、その先で“おはよう”“こんにちは”など言葉を交わすとまた、“もうちょっと遠くまで行ってみようかな”と思ったりするかもしれません。その繰り返しの中でいろいろな自然と触れ合うことで、身近にある自然のよさを認識できるんじゃないですかね」

●そうすれば、日本の自然をどんどん好きになりそうですね。

「そうですね。今の時期だと、これから木々にも若葉が付いていきますが、若葉はどんどん色が変わっていくんです。そういう変化を見るだけでも楽しいと思うんですよね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 大自然の風景はもちろん美しいのですが、人の暮らしと自然が一体となった風景も本当に美しい! ということを今回改めて感じることが出来ました。日本茶を飲んだ時のような「ほっこり」感も味わえる佐藤さんの写真、ぜひ一度ご覧下さい。

INFORMATION

『47 サトタビ』

写真集『47 サトタビ

 風景写真出版/税込価格2,949円

 写真を見ているだけで、ほっとしたり、癒されるような素敵な写真集です。日本にはまだまだ素敵な里山や里海があり、そんな風景を撮った写真からは、写っている地元の人たちの会話が聞こえてくるようです。日本再発見の旅を、ぜひページをめくりながら疑似体験してください!

 また、今年の夏に大阪で佐藤さんの写真展が開かれます。『47 サトタビ』に掲載されている写真などを、8月25日(金)から31日(木)にかけて、富士フィルムフォトサロン大阪にて展示予定です。
 その他、ワークショップ『里ほっと』も含め、詳しくは佐藤さんのHPをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. KISS ME / SIXPENCE NONE THE RICHER

M2. Hello Goodbye / 木村カエラ

M3. BACK TO THE EARTH / JASON MRAZ

M4. 桜 / bird

M5. HAVE YOU NEVER BEEN MELLOW / OLIVIA NEWTON-JOHN

M6. Don't Know Why / 原田知世 feat. JESSE HARRIS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」