2018年6月2日

裏山に行こう!
〜昆虫たちの生きる戦略〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、昆虫学者・小松貴(たかし)さんです。

 小松さんは1982年生まれ。信州大学大学院から、九州大学・熱帯農学研究センターを経て、2017年より国立科学博物館の協力研究員として活動。そして先ごろ、新潮社から『昆虫学者はやめられないー裏山の奇人、徘徊の記ー』を出されました。
 自然豊かな場所で育った小松さんは、子供の頃から生き物好きで、大人になったら「虫の学者」になりたいと言っていたそうです。今回はそんな小松さんに、アリの巣に入り込んで生きている小さなコオロギや、木の枝や幹などに擬態する昆虫の見分け方などうかがいます。あなたを不思議な昆虫ワールドに誘っちゃいますよ!

髪を綺麗に洗うがごとく!?

※実は、収録の前にもフィールドで昆虫を観察してきたという小松さん。一体なぜそこまで昆虫にハマったのでしょう。

「当時、住んでいたのが静岡でして、周りがとにかく田んぼや畑以外に何もない所で、虫をいじったり探す以外、子供が遊ぶ手だてがなかったんですね。なので、虫などをいじっていくうちに、自然にそうなっていったという感じですね」

●身近にそういうフィールドがあったんですね。どうやって夢中になっていったんですか?

「私はもう、動いているものを見ると、とりあえず手で掴んで握らないと気が済まない性分だったんで、とにかく追っかけ回して掴む、触る、そしてにおいを嗅ぐというようなことをやっていました。それである段階から、ちょっと一歩引いて、捕まえる前に、その虫が何をやっているのか、自然の中でどういう動きをしているのかっていうのを見てから、その後は捕まえるなり握るなり嗅ぐなりして、その虫に対する理解や親しみっていうのを深めていったっていう感じですね」

●そういうふうにしていくうちに、虫に対する気持ちって変わりましたか?

「そうですね。最初は“狩る対象”でしかなかったわけですよ」

●こんな虫を捕まえたぞー! みたいな(笑)。

「捕まえた瞬間、興味をなくす感じだったんですけども、(私にとっては)捕まえる前の虫が“虫”なんですよ。捕まえた後の虫はもう、“人の手の内に落ちてしまった、虫未満の何かよくわからないもの”でしたから。でも例えば、捕まえる前に虫がエサを食べていたりエサを捕まえていたり、あるいは求愛をしていたりとか、そういう動きを見ることによって“あ、虫って小っちゃいし、人間から見たら本当にちっぽけで取るに足らないような生き物に見えるけれども、ちゃんと人みたいなことをして立派に生きているんだな”っていうことをだんだん理解できるようになっていったんですね」

●虫も人みたいなことをしているんですか?

「そうですね。意外とみんな知らないんですけども、昆虫は基本、ちゃんと触覚の手入れはするんですね。なにせ触覚はセンサーですから、触覚が汚れているとエサとか配偶相手のにおいとかが感知できなくなるんで、どんな種類の昆虫も触覚は綺麗にしているんですけども、例えばカメムシっているじゃないですか。掴むと臭い、あのカメムシですが、あれを見ていると頻繁に触覚を掃除するんですけども、その“綺麗の仕方”っていうんですかね、それがまたすっごくいいんですよ!」

●いいんですか!? 気になる!

「何て言うんですかね……触覚を手入れするときに、掃除するほうの片方の触覚を下げるんですよ。そうすると、前足で触覚の付け根ぐらいのところをバッと挟むんです。そして下に向かってグッとしごくんですけども、その様子がちょうど、髪を洗う乙女そっくりなんですよね! よくシャンプーとかのCMで、ツヤツヤした髪の長いモデルの人がやるじゃないですか、あれそのものなんですよ!  “こんなことするんだなぁ”って。私はそれを見て、カメムシに対しては一目置くことにしているんですよ」

●いや〜、まさかカメムシがシャンプーのCMのように触覚を洗っているとは思わなかった(笑)。

「多分、5分か10分じっとカメムシを見つめていれば、1回は必ずやるはずですよ!」

昆虫界最強の生き物!?

※それでは次に、小松さんの研究対象だというアリのお話をうかがっていきます。アリと言えば、「小さくて弱い虫」そんな印象があるかもしれませんが、実はアリは最強の生き物なんだそうです。一体どいうことなんでしょうか。

「実際のところは、かなりアリって強いんですよ。確かに、アリっていうと弱っちくてすぐ死ぬような生き物の代表格みたいな感じで世間一般では言われていますけども、アリっていうのは実のところ、自然界ではすごく恐れられている生き物です。
 というのも、アリっていうのは仲間で束になって敵なり獲物に喰ってかかったり、チームワークを使って行動するという、他の生物の中にはなかなか見られない特徴を持っているっていうのがあります。あと、アリは顎がすごく強くて、噛み付く力が強いんですね。加えて、種類によってはハチみたいに毒針を持っていて刺す奴もいるんで、肉食の生き物って意外とアリを捕まえて食べたがらないんです。なので、我々が思っているほどアリって、野外で他の生き物に食い殺されてない生き物なんですよ」

●そうなんですね、あんなに小っちゃいのに…!

「あと、アリは蟻酸(ぎさん)っていう、毒なんですけど、それを持っていて、味があんまりよくないっていうのも、捕食動物に好まれない理由のひとつなんですね。なので、他の昆虫の中には、アリとだいたいサイズ的に変わらない、それこそカメムシであったりカマキリであったりクモであったり、そういう生き物の中にはアリそっくりの形、見た目、色彩をして、他の捕食動物に自分をアリだと思わせて食われないようにしているっていう虫はたくさんいるんですよ」

●“アリの強いところを自分でも真似しちゃえ!”っていう虫もいるんですね。

「まあ、もっとも私は今では、アリがらみの研究をやってはいるんですけど、昔はあんまりアリは好きじゃなかったです」

●そうなんですか?

「というか、アリっていう生き物の生き様とかが、根本的にいけ好かなかったんですよ」

●何でですか(笑)?

「アリっていうのは常に集団で行動するんですよね。社会を作って生きていて、一匹では生きていけないんですよ。束にならなきゃまともに生きていけないっていう様が、見ていてなんか気に入らなかったんですよね。
 あと、私は昔から『ファーブル昆虫記』が好きで読んでいたんですけども、ファーブルも実のところ、アリがそんなに好きじゃなかったんですよね。本の中で色々と、話の端々で、ファーブルってアリのことをディスっているんですよ! アリっていうのはコオロギとか、卵から生まれた直後の幼虫を片っ端から捕まえて殺して食っちゃうんですよ。なので、『ファーブル昆虫記』のコオロギとかセミあたりの話を読むと、いかにアリっていうのが、そういう一生懸命生きようとしている虫の赤ちゃんを無慈悲に殺しまくる、悪逆非道な生き物かっていうのを滔々(とうとう)と語っていますんで、そういうのを幼少期に読んだっていうのも手伝って、私はアリがそんなに好きじゃなかったんです」

●じゃあ、何がきっかけでアリを研究しようと思うようになったんですか?

「大学の4年に昆虫の研究を始めたんですけども、研究の材料になったのが、アリの巣の中に生きている、別の昆虫だったんです。それが“アリを好む昆虫”と書いて、好蟻性(こうぎせい)昆虫というんですけども、その仲間だったんですね。この好蟻性昆虫っていうのは、いろんな分類群のものがいて、日本だけでも相当な種数がいるんですけれども、種類によって寄生するアリの種が決まっているんです」

●なるほど、パートナーみたいな感じなんですね。

「なので、好蟻性昆虫が寄生する、巣の中に入っているアリの種がわからないといけないわけですよ。そういうところから、アリをちゃんと調べようっていうことになって、そこから“アリもまぁ、悪くないな”って思えてくるようになったんですね」

アリの巣の中に、コオロギ!?

※小松さん曰く、アリを嫌っていたというファーブルですが、実はアリの実験もしていたそうです。列を作るアリを不思議に思ったファーブルは、アリの通り道にみぞを作ったり、新聞紙で道をかくしたり……。それでも道を見つけ、列を作るアリを見て、アリが列を作るのは何か「印」があるのだと考えたんだとか。そして最近、その印がフェロモンというにおいの一種ということがわかりました。
 でもアリの実験って、子供の頃にやってみたことがあるリスナーの方も多いのではないでしょうか? いつの間にか、大人になるとそんなことは忘れてしまいますが、ファーブルや小松さんのように、あの頃の気持ちを忘れずに継続して調べていれば、今ごろは何か新しい発見をしていたのかもしれません。

 さあ、それではアリの巣でちゃっかり暮らす虫、好蟻性昆虫のお話を詳しくうかがっていきましょう。ある特殊な方法でアリの巣の中に入る好蟻性昆虫がいるそうなんですが、一体どんな虫なんでしょう。

「アリヅカコオロギっていう、成虫になってもせいぜい米粒(ほどの大きさ)しかないコオロギの仲間がいるんですよ。これはコオロギなんですけど羽がなくて鳴くことができないんです。ですが、勝手にアリの巣の中に入り込んで、アリが外から運んできたエサを食べたり、あるいはアリの卵とかを勝手に食べちゃったりっていうことをやっていて、基本的にはアリにとって何も利益にもならない、敵なんです」

●迷惑な奴ですね!

「でも! アリはこのアリヅカコオロギを外に追い出すことができないんです(笑)」

●そこですよ! 何で追い出すことができないんですか!?

「実はですね、このアリヅカコオロギっていうのは、“身分証を偽造する”のが得意なんですね」

●ええ〜!

「というのも、アリっていうのは自分の巣の仲間を認識するのに、体の表面を覆っている匂いを使っているんです。それは炭化水素なんですけど、その匂いを巧みに嗅ぎ分けているんですね。その匂いを頼りにして、“こいつは自分の仲間だ”“こいつは自分の仲間じゃない”っていうふうにアリは自分の巣の仲間を認識しているんです。
 ですが、アリヅカコオロギというのはアリの巣の中を走り回りながら、隙をついてアリの体の表面をちょっと触って逃げる、ということを何回も繰り返すんですね。そうしているうちに、アリの体の表面についている匂いがアリヅカコオロギの体の表面にだんだん染み付いてくるんですよ。
 その結果、アリヅカコオロギはアリではないけれども、アリの匂いを体から放つことができるようになるわけです。アリにとっては、姿形がどうであろうと、アリの匂いさえ出ていればもう、仲間と認識する他ないんですね。なので、アリヅカコオロギを自分の巣の仲間だと勘違いして、巣の中に置いちゃうわけです。それをいいことに、アリヅカコオロギはアリの巣の中で好き放題するわけですね」

●アリに教えてあげたい! 同じ匂いがしてるけど、そいつは偽物ですよって(笑)! でも、賢いというか、生きる戦略は素晴らしいですね。

「そうなんですよね。それも、考えてやっているわけじゃなくて、自然に上手くやる個体だけが生き残った結果、そういうアリヅカコオロギみたいなものが誕生して、存続しているっていうことなんですよね。それが進化の不思議ですよね」

●あと、昆虫といえば“擬態”もすごく面白い特徴のひとつだなと思うんですけど、まるで忍者みたいに擬態する昆虫もいるそうですね。

「有名なのがナナフシっていう、枝にそっくりな細い虫ですね。他にも、樹皮の表面に張り付いて、なおかつ模様が樹皮そっくりな蛾の仲間とかもいて、ああいうのも野外でパッと見ただけでは、なかなか存在に気づくことができないんですよ」

●見分けるポイントはあったりしますか?

「一番大事なのは、“自然の中に不自然を見つける”っていうことなんですよ。“この木の樹皮は、筋の流れの方向がおかしいぞ”とか、あるいは、“この枝だけなんか変な方向に伸びているぞ”とか、そういうのを見つけてよく見ると、だいたいそれが虫だったりするんです。あと、“左右対称の形を見分ける”っていうことですね。いくら似せていても、絶対に誤魔化しようがないところっていうのがあるんですよね。体や模様が左右対称である場合が多いんで、そういうのを上手く見つけると見破れたりします。

 それから、さっきナナフシの話をしましたけれども、ナナフシって実は夜探しに行くと簡単に見つかるんですよ。基本的にナナフシは昼間、敵に襲われるとすぐに対応できないんですね。つまり昼間、敵に見つかりたくないので、なるべく昼間に枝っぽいそぶりをして、枝のところで静止しているんでなかなか見つからないんですよ。
 でも、夜になると動いて、木の葉っぱとかを食べるんですね。つまり、擬態している枝っぽい体勢を解いているんですよ! 割とトンチンカンな姿になっているんで、それで簡単に見分けられるっていうのがひとつですね。

 あと、ナナフシに限ったことじゃないんですけど、擬態する昆虫の体の表面の質感やツヤっていうのは、日中の太陽光の中で上手く馴染むようになっているんですよね。なので、夜に人工の懐中電灯の光を照らしていくと、明らかにああいう昆虫の体の表面って、人工の明かりの下では自然の葉っぱや枝とは違うテカリ方をするんです! なので、簡単に見つけられちゃいます」

●昆虫たちもそこまでは対応しきれてはいないんですね。

もっと子供に対して“大らか”に

※最後に、虫好きのお子さん、そして親御さんに小松さんからメッセージを頂きました。

「そうですね、強いて言うならば、“やりたいようにやる”っていうことですかね。これは子供の心がけというよりは、どっちかというと子供の周りにいる大人に向けて言いたいことなんですけれども、例えば最近は虫を捕ったりいじくっていたりすると、“やめなさい!”みたいなことを言う親御さんが多かったりするじゃないですか。かく言う私も、小さい頃は親にそういう風に言われましたけれども、それでもやっぱり、子供っていうのは身の回りになんか動いているようなものがいたら、“なんだろう?”っていじくりたいし、持って帰ったりしたいわけですよね。そういうのは自由にやらせてあげるべきだと、私は思いますね。

 あと、最近はどこの公園に行っても“虫を捕ってはいけません”“草をむしってはいけません”って書かれている立て看板ばっかりじゃないですか。人がいっぱい来るような施設では、ある程度は仕方がないことなのかもしれないですけど、それでもせめて、子供だけはもうちょっと大めに見て自由にやらせてあげるっていう大らかさが、今の社会にはもうちょっと必要なんじゃないかなって思いますよ。 私も今でこそ“虫のことを大事にしよう”と言っていますが、小さい頃は私も相当、虫を踏み潰したり、蝶々を捕まえてきてはちょっと羽をむしって、どのくらい羽をやぶいたら飛べなくなるか、などやっていました。でもやっぱり、そういうことを幼いうちのどこかでやる経験っていうのは必要なんだと思います。最初の頃はやっぱり面白がって子供はやるんですけども、どこかの段階で、なんだかすごく罪悪感が芽生えてくるんですよ。“もう、こんなことは二度とするまい……!”“もっと大事にしよう”って思うきっかけに、多分なると思うんですよね」

●うん、そうですよね……。小松さん自身は、今後も昆虫探しはもちろん、続ける予定ですよね?

「そうですね。多分、死ぬまで続けると思います」

●昆虫学者は、やめられないですか?

「ええ! 多分もう、(自分が)死んでもあの世で絶滅した昆虫を捕り続けるんじゃないでしょうか」

一同「(笑)」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 アリの巣にちゃっかり暮らすそんな昆虫がいるとは驚きでした。でもそんな昆虫の存在を小松さんは既に2歳の時に認識していたそうです。小さい頃から自然に触れさせて、不思議を追求し続ける姿を応援すれば、あなたのお子さんも未来のファーブルになるかも?!

INFORMATION

新刊『昆虫学者はやめられないー裏山の奇人、徘徊の記ー

 新潮社 / 税込価格1,512円

 昆虫の面白くて不思議な生態が満載です。小松さんの観察眼に驚きます! 文章が面白くて楽しく読めます! 昆虫好き、生き物好きの小松ワールドに、ぜひ浸ってください!
詳しくは、新潮社のオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. MAGICAL MYSTERY TOUR / THE BEATLES

M2. 亜麻色の髪の乙女 / 島谷ひとみ

M3. ありの歌 / やなわらばー

M4. CALL ME MAYBE / CARLY RAE JEPSEN

M5. YOUR BODY IS A WONDERFUL / JOHN MAYER

M6. 少年時代 / 井上陽水

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」