2018年7月14日

日本人の祖先は偉大な航海者だった!?
〜「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」完結編へ!!

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、国立科学博物館の人類進化学者・海部陽介(かいふ・ようすけ)さんです。

 海部さんは1969年、東京都生まれ。東京大学・理学部卒業。1995年から国立科学博物館に勤務し、化石などを通して、およそ200万年にわたるアジアの人類史を研究。特にアジアへのホモ・サピエンスの拡散について、これまでの定説に疑問を抱き、再検討。アジア各地の遺跡や化石、そしてDNAの証拠などを見直し、「日本人の祖先はどこから来たのか」についての新しい説を提唱しています。
 海部さんは、日本人の祖先はおよそ3万年以上前に日本列島にやってきたのではないか、そしてそのルートは「対馬ルート」「北海道ルート」そして「沖縄ルート」の3つだったのではないかと推測しています。
 そんな海部さんが2016年から進めている「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」は、当時の人類にとって、もっとも難しい航海だったと考えられる「沖縄ルート」を検証するプロジェクトで、最終的に台湾から沖縄の与那国島までの航海を目指しています。

 この番組では、2年前からこのプロジェクトに注目し、代表の海部さん始め、参加メンバーにお話をうかがってきました。そしていよいよ、このプロジェクトが完結編に向かうということで、今回は、今年2018年の6月に台湾で行なったテスト航海、そして本番に向けたシナリオについてうかがいます!

竹舟で再挑戦!

※3万年前といえば、縄文時代より前の旧石器時代。その時代の航海を再現するなんて壮大なプロジェクトですよね。まずは、どうしてこのプロジェクトを始めようと思ったのか、そのきっかけとなった、ある場所のお話から。

「僕らが注目しているのは沖縄、琉球列島ですね。ここに3万年前ぐらいから6つの島に突然、遺跡が現れるわけですね。これは要するに、その頃から人が海を越える技術を持ち始めて、あの広い海を渡って小さな島に次々と辿り着いていったということを物語っているわけですね。それが一体どんな挑戦だったのか、彼らがどんな航海をして、どうやってあの難しい海を渡ったのか……。これを実験することによって探りたいっていうのが、このプロジェクトです」

●実験をするんですね。

「実は遺跡から出てくるものの中に船はないので、実際に僕ら自身が舟を推定してつくって、それに乗って航海をしてみる。そうすることによって初めて、祖先たちがいかなる挑戦をしたのかっていうことがわかると思うんですね。ある意味、それをやらないと分からないんじゃないかな、ということで始まったのが、このプロジェクトです」

●ただ、つくった舟に乗って島に行くだけじゃないんですよね。

「ええ、昔の人と同じ条件でやらないといけないですから、もちろん地図なんか持っていない時代ですよね。コンパス、スマートフォン、時計もない。だから、このプロジェクトの漕ぎ手たちには、それらは持たせない。方角も、太陽、星、風、波など、そういった自然を頼りに進路を見つけるわけですね。それからもちろん、人力で行きます」

●今では当たり前にGPSが使える時代になっちゃっているので、現代において、そういう航海をするのは大変なんじゃないですか?

「そうなんですよ! でも、それが逆に、どれだけ大変かがわかることが大事で、祖先たちはそれをやったということなので、そういう人たちがいて、今の僕らがあるということを理解したいなと思っています」

●では、最新の実験航海についてうかがっていきたいなと思いますが、どのように行なわれたんですか?

「今年6月の前半に台湾の海で、舟の実験をやってきました。今回は竹の舟ですね。僕らはまだ、3万年前の舟が何だったかはわかっていないです。まだ謎なんですけど、草か、竹か、木か。これらのどれかであるということで、その全てを検証しています。竹は、去年に続いて2回目なんですけど、去年の上手くいかなかった点を改良しまして、今年は竹の潜在力を知りたい、という目的の実験だったんですね」

●竹の舟っていうと、イカダみたいなものを想像しちゃうんですけど、どんな感じの舟なんですか?

「竹って、人類学者の間では人気のある仮説なんですね。手軽に使える材料で舟にしやすいんで、それ(竹の舟)で移住したんじゃないかと多くの人が想像しているんです。じゃあ、本当にそれは使えるのかということで、僕らは実験をしています。ただ、イカダの形にしてしまうと遅いのは目にみえています。僕らが相手にしているのは、遠い島にたどり着く、その間にある潮の流れです。これに対抗するには自分たちの舟がある程度速くないといけません。
 ただ、まだ帆はない時代です。なので、基本的に手漕ぎの人力で行くことになりますね。そうすると、その手漕ぎの舟でどれだけ速い舟ができるかということで、僕らのデザインで竹の舟を作ってみたんです」

●いわゆる、舟の形にしたということですか?

「そうなんです。去年の2017年に、最初に試作した舟は、実はちょっと大き過ぎて重かったんです。そのせいもあったのか、スピードがあまり出なかったんですね。とても安定はしていました。つまり、舟がひっくり返る心配はなかったです」

●今回は、どれくらいの長さの舟になったんですか?

「前回は11メートルあったんですけど、今回はそれを軽量化しましたね。そのぶん、浮力は減るんですけど、長さは8メートルにしました。幅は去年と同様、1メートルぐらいの細長いタイプですね。ただ、つくってみたら、スピードはあまり変わらなかったです(笑)」

●そうなんですか!?

「去年の課題が、スピードが出ないということだったので、(結果として)草の舟と変わらなかったんですよね。これではとても、黒潮を越えることはできない。黒潮っていうのはなにしろ、毎秒1メートルから1.5メートルのスピードで流れるんです。これは、人が歩くか早歩きするぐらいのスピードなんですね。それが幅100kmに渡って流れているという巨大な海流ですから、3万年前もそういう黒潮があって、それを超えたとしたら、これはもう大ごとですよね。相当な舟のスピードがないといけない。ですが、どうもちょっと上手くいかないというのが、今年の結論だったかもしれないですね」

なぜ海を渡ったのか!?

※黒潮の幅は約100kmとのことですが、100kmといえば大体、千葉から宇都宮の距離なんです。そんる黒潮を、エンジンはおろか、帆さえない舟でどうやって越えたんでしょうか。

●世界最大の海流である黒潮をどう越えたのかというのも気になるんですけど、それは今までの実験からだと、なかなか難しそうだなと思うんですが、どうでしょう?

「もうこれは、理屈で考えてもダメで、部屋の中で考えていても何も分からないことですから、なにしろ舟をつくって出してみる、それしかないですよね。僕らのプロジェクトの漕ぎ手は“3万年前の漕ぎ手チーム”って呼んでいますけど、みんなプロ、あるいはプロ級の漕ぎ手たちです。経験のある人でないとやっぱり、ああいう原始的な舟は扱えないので、プロの人たちがやっているんですが、その彼らですら、黒潮って経験したことがないんですね。なので、多くの人にとってこれは初体験です。そういう本当の外洋、巨大な海流を、まずは経験する。

 それでわかってきたことは、まず黒潮に入っても流されているっていう自覚がないんです。分からないんですね。気がついたらいつの間にか流されているんです。要するに、巨大なベルトコンベアに、知らずにふっと乗っていて、自覚のないままそれに流されている、そんな雰囲気なんですよ。ですから、常に自分たちが出た陸を振り返ったり、自分がどこにいるのか見ていないと、気がついたら本当にとんでもないところに連れていかれている。これが海の怖さだと思いますけどね。それを理解しながら、自分の位置をちゃんとわかって、前に進むということをやらないといけないんです」

●なおかつ、3万年前の人は、黒潮っていう(海流が存在するという)認識があったかどうかも微妙なところですよね。

「もちろん、黒潮なんて呼んでいないと思いますが、ただ、沖に出ると北に流されるっていう経験を何度もしたんだと思うんですよね。つまり、台湾と与那国島の間に黒潮が通っていて、それを横断しないといけない。これをまっすぐに行っても間違いなく行けないですから、流されることを計算に入れないと、渡るのは無理ですね。それから、戻ることについても、少なくとも同じ場所には戻れないですね。

 僕らはどうしても地図を見ながら議論してしまうんですけど、彼らは地図を持っていませんから、見えている世界や自分が体験した世界が全てですよね。ですから、舟を沖に出した時に流され、それで必死に戻ってくるっていうことを繰り返し、沖に出ると必ず北に流されるっていうことを理解したんだと思うんですね。そこからそれを計算した作戦を立てる、というシナリオになるんだと思います」

●3万年前の人はそういった感覚が相当、優れていたんですかね。

「機械がない、自然しかない時代ですから、そういう感覚は研ぎ澄まされていると思いますね。ただ、それだけじゃなくて、そこまでして島に行くかっていうのが、本当に不思議でしょうがないですよね。北から来ようが南から来ようが、沖縄の島に行くのは難しいんですよ。なぜ、そこまでするかなぁって、僕らが失敗すれば失敗するほど、本当に疑問が深まっていきますよね」

見えないと言われた島が見えた!

※来年の2019年に行なわれる本番の航海は、台湾から与那国島まで、直線距離で110kmのルート 実際には、黒潮の流れも計算して、流されながら漕ぐため、200kmぐらいを約2日間かけて航海することになります。その航海を前に現在、12の謎が出てきているそうです(その詳しい内容は「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の公式Facebookで見ることができます)。
 その中のひとつが“祖先たちはどうやって、目指すべき「島」をみつけたのか?”。台湾には高い山があるので、与那国島から台湾は見えますが、逆に台湾から与那国島は見えるのでしょうか?

「それがね、当然、見えているだろうと思っていたんですね。ただ、確認しないといけないので、現地に行って“(台湾から与那国島は)見えますか?”というインタビューをしました。ところがですね、地元の観光客に聞いても、山に住んでいるおじいさんに聞いても、みんな“見えない”って言うんですよ」

●実は私も最近、台湾に旅行に行ったので、その時に私も何人かに聞き取り調査をしてみたんですけど(笑)、“見えるわけないじゃ〜ん!”みたいな感じに言われちゃったんですよ!

「でも、見えてなかったら、それは困るんですね。見えない島にたどり着いたら、ただのミステリーですよね。ただ、理論上は見えるはずなんですよ。山の上に登れば見えるはずなので、自分でも確かめました。
 まず、“見えたら情報をください!”っていう広告を出したんですね。そしたら、(情報が)出てきたんです。写真が出てきまして、偶然とらえた写真だったんですけど、実は見えるんだということがわかってきました。
 そのあと、自分でもどういうふうに見えるのか確認する必要があるということで、僕も実は2017年の夏に台湾の山に行ってきました。4日間、ひとりで山ごもりをしまして、毎日、与那国島が見えるであろう場所に通って狙っていたんですけど、雲がかかっていたりして、見えないんですよね。

 ですが、だんだん狙いがわかってきたんです。実は、見える時間帯があるんです。日中は見えないです。高さ1,200メートルの地点にいたんですけど、そこまで高いと100kmぐらい先まで見えるんですが、その高さだと水平線と空が区別できないぐらいにぼんやりしてしまうんです。
 ところが、そうならなくて水平線が見える時間帯が2つあるんです。ひとつは朝です。与那国島の方から太陽は昇ってきますんで、太陽が昇ってくる時に水平線がシルエットになって見えてくるんですよ。そして島があれば、そこに(島の)シルエットがポンと浮かぶはずなんですね。それを狙っていたんですが、残念ながら雲が毎朝かかっていました。毎朝、夜明け前に行って見たんですけどダメでした。それでがっかりしていたんですけど、ぼんやりずーっと眺めていたら、夕方に……実は、見えたんですね!」

●今、ちょっと鳥肌たっちゃいました……!

「夕方になると、逆に太陽が背後から島の方向を差すんですね。この時間帯は水平線が区別できるということに気が付きました。それで、ふと見たら雲はかかっていたんですが、雲の隙間に、島がポコっとあったんですよね!」

●あっちゃったんですか〜!

「もう、ひとりで興奮していましたけどね(笑)」

●あったぞー! みたいな感じですね(笑)!

「そうですね、(周りに誰もいないんで、)誰にもしゃべれなかったんですけどね。でも、やっぱり見えるんだっていうことがわかりましたので、祖先たちはこうやって島を見つけたに違いない。ただ、海岸まで降りると島のシルエットは見えなくなってしまいます。
 それから、黒潮の存在にも気がつく。ですから南から出発しないと、与那国島までは行けないということを悟るわけですよね。方角については、太陽が出てくる方向、あるいは星を使うことで大体わかりますので、それで何とか、与那国島に行くことを考えたんじゃないのかなと、そういうシナリオをつくったんです」

●いろんな条件が重なって、祖先たちは“よし、じゃあ行ってみよう!”みたいになったんですかね。

「そうですね。だから、その背景を知っていないといけない。見えたから、はいポンっと行けるわけではないということですね、周到な作戦を立てないといけないですから。
 あと、もうひとつ大事なのは、出航する時期ですね。1年間のうち当然、冬は海が荒れるからダメですし、夏の間はいいんですけど、特にその間のどこがいいかとか、実はいろいろ考えることが出てきますね。
 でも、ある意味、実験をやっているからこそ、僕らが足を動かして現地に行っているからこそ、こういうことに気がつくんですね。それがこのプロジェクトの大きな意義なんだと思います。3万年前の人たちが見たものを僕らも見ようと(しているんです)。彼らの目線で、彼らの立っている場所でものを考えないと、分からないと思うんですよね」

みんなで動かすプロジェクト

※最後に、プロジェクトの今後についてうかがいました。

「プロジェクトの最終目標は、台湾から、日本列島の一番台湾側にある与那国島を目指すことなんですけど、直線(距離)で110kmあります。ただ、黒潮に流されることを考えると、200kmぐらいの距離を漕がないといけない。舟のスピードを考えると、2日はかかる航路になります。これが僕らの最終目標で、つまりこの本番をやるために、今は準備をしているところですね。3万年前はこうであったはずだっていう、僕らのベストの仮説をつくりたいんです。

 まず、舟は何かということを検証する。それから移住に必要な人数ですね。男性も女性も行かないと移住にならないので、そういったことをいろいろと合わせて、最後にベストの仮説をつくって本番に挑む。それが、祖先たちがやったであろう航海の再現になればいい。それをやった時に初めて、彼らの挑戦を僕らは理解できるようになると思うんですよね。そんなふうに来年まで計画を考えています」

●それでは、今後のスケジュールを教えてください。

「まず、僕らは草と竹の舟をやってきました。それで、あと残る第3の可能性が、木です。丸木舟ですね。3万年前の道具で丸木舟をつくれるのかっていうのが大問題なんですけど、今、実はその実験を始めているんです。これは公開する予定があります。
 夏休み期間中、2018年の7月26日から8月6日まで、東京の国立科学博物館で一般公開します。3万年前の石の斧で大きな丸太をくり抜いて、舟が果たしてできるのかということをやりますので、ぜひご覧いただきたいと思います。

 これで舟ができたら、今度はその舟の性能をテストします。そして最終的に舟をどれにするのか選択し、残りの12の謎を解いていって、来年の本番に走り出すというのが、僕らのプランですね。

 ただ、その前にとっても大事なことがありまして、前回、僕らのプロジェクトはクラウドファンディングで運営していて、民間のいろんな方々からたくさんの支援をいただいていたんですが、その資金が底を尽きてしまいましたので、本番に向けて新しくクラウドファンディングをやる予定です。
 今、ちょうどそれが始まったばかりで、9月14日までやっています。ご支援いただくと、僕らの仲間になる、そういう考え方です。定期的に今、どこまで進んでいるかという僕らの最新情報をお届けしますし、そのほか、博物館でさまざまなおもしろいリターンもありますので、そこも楽しんでいただいて、このプロジェクトのフォロワーになっていただきたいと思います。ぜひとも多くの方にご支援ご協力いただいて、一緒にこのプロジェクトを動かしていけたらなと思っています」

☆ 写真提供:国立科学博物館「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」


※この他の海部陽介さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私達の祖先は、なぜ海を渡ったのか。ますます謎は深まってきましたが、台湾から与那国島が見えたとなると、「あの島に行ってみたい!」という好奇心や冒険心が、そこにはあったんじゃないかな? と私は思います。

INFORMATION

 現在、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の完結編に向けて、クラウドファンディングを実施しています。ぜひご支援ください。
 今回は5,000円からとなっていますが、金額によって様々なリターンが用意されています。例えば、縄文人の研究者体験、夜の博物館見学、石斧で丸木舟を作る実験に参加などなど、魅了的なリターンがたくさん! 締め切りは9月14日まで。ぜひ、あなたもこのプロジェクトの仲間になってください!

 また、7月26日から8月6日にかけて、旧石器時代の丸木舟の製作実験が公開されます! 会場は国立科学博物館の正面玄関前。

 いずれも詳しくは「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」のホームページをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. I BET MY LIFE / IMAGINE DRAGONS

M2. TROUBLE AGAIN / KARLA BONOFF

M3. THE REASON / HOOBASTANK

M4. GET TOGETHER / BIG MOUNTAIN

M5. SAILING / ROD STEWART

M6. DON'T STOP BELIEVIN' / JOURNEY

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」