2018年11月24日

空は「心の鏡」
〜空は、身近な大自然

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、空の写真家HABUさんです。

 HABUさんは1955年、東京都中野区生まれ。大学卒業後に10年間、サラリーマン生活を送ったあと、写真家に転身。「空の風景」をテーマに世界各地で撮影を続け、写真集や雑誌、写真展などで数多くの作品を発表されています。そして先ごろ、最新の写真集『空は、』を出されました。そんなHABUさんとこの番組はふる〜いお付き合いなんです。
 今回はHABUさんに、最新の写真集に込められている思いや、千葉でオススメの空の撮影スポットのお話などうかがいます。

娘に捧げる本

※最新の写真集『空は、』のタイトルには、実は父親としての思いが秘められています。

●今回、写真集のタイトルが『空は、』なんですが、以前HABUさんは『空へ』っていう写真集を出されていましたよね。

「最初にこの番組に出させていただいたのが16年ぐらい前かな。その時は『空へ』っていう写真集を出した時で、サンシャインシティの展望台のギャラリーで写真展をやっていたんですよね。その時に出演させていただいたんですけど、実は『空へ』っていう写真集は僕の3冊目の写真集なんですけど、ちょうどその前の年に子供が生まれまして、その子供の名前が“空海(そらみ)”っていうんですよ。それでみんな、“そら”って呼んでいて、“じゃあ、その娘に捧げる本を創ろう”と思ったんですね。そうすれば、手抜きしないできっと一生懸命創るんじゃないかなと思って。」

●そういう裏があったんですね(笑)!

「それで『空へ』っていう写真集を作った時にご縁があって、この番組に出させていただいたんです。そして今回のは『空は、』っていうタイトルなんですよ。その娘が18歳になりまして、大学受験で新しい道を歩んでいくので、どんな道を歩むのかなぁと思って、娘へのプレゼントみたいなつもりでね。“空は…どうなるのでしょう?”そんな感じで、これもなるべく手抜きをしないように(笑)、まとめました」

●本当にそれだけ、娘さんの年齢と同じくらい、それ以上に空の写真を撮り続けていらっしゃるということですよね。

「もう30年です」

●もうそんなに撮り続けているんですか!? 30年前に空の写真を撮り始めたきっかけというのは何だったんでしょうか?

「えっとね、32歳までサラリーマンをやっていて、たまたま出張でオーストラリアに行きまして、そこで見た空とか自然の美しさとか人のおおらかさとか、そういうのにちょっとショックを受けて、そこに住みたいと思ったんです。それで、その半年後にはもう会社を辞めて、オーストラリアに移っていたんです。その時に簡単な英語を習って、それから車でオーストラリアを放浪したんですけど、とにかく広いでしょ! 初めて地平線を見たのもその時だし。地平線の上って全部、空じゃないですか!」

●ああ〜、言われてみればそうですね!

「ね! 海の上、水平線の上もそうなんだけど、その広さに結局、あたっちゃったんだろうね。最初は地上にあるものを撮っていたの。野生動物とか家、建物とか人とかを撮っていたんだけど、段々、気がつくとカメラが上に向いて、いつの間にか空の写真家になっていたんです」

●そうだったんですね(笑)! 最初から空を撮ろうと思っていたわけではなくて、気がついたら空に惹かれていったっていう感じですかね?

「たまたまグループ展をやった時に、飾れる点数が少なかったんで、僕の写真は空が広い写真が多かったので、“じゃあ空が主役の写真を並べよう!”と思って10枚ぐらい並べたんですよ。そしたら親子連れのお客さんが来て、僕の隣には猫の絵を描いていた画家がいたんだけど、その人の絵を見て、“この猫ちゃん、可愛いわね! この人は猫(の画家)なのね”って言って、それで今度は僕のところに来て、“あら、この人はお空なのね! 本当に綺麗だね”って言っていたの。それを僕は後ろで聞いていて、“あ、俺は空なんだ! そう言われてみれば、そうだな!”と(笑)」

●お客さんがたまたまそう言ってくれたから、気づけたんですね!

「だから最初に出した本は『雲の言葉』でしょ。2冊目が『空の色』で、ずっと空がらみだもん!」

●それだけ長いこと撮り続けて、空にちょっと飽きちゃう、とかいうことはないんですか?

「うーんとね……まぁ、時々スランプはありますけど、でも、凄い空に久しぶりに出会ったら、またそんなの忘れちゃって、“どひゃ〜!”ってなって慌てて撮ってますよ。ガシャガシャって! だからやっぱり、そういう時がまぁ1ヶ月に1回でも2回でもあれば、やっぱり辞められないですね」

同じ場所でも、違う景色!?

※そんな空の中で、HABUさんが特に印象に残っている景色を教えてもらいました。

「湖の写真がいっぱいあるんですけど、これ、同じ湖で、シドニーから北に400キロぐらい行ったところにある、スワンレイクっていう、海のすぐそばにある湖なんですね。たまたま知り合いになったのが、そのキャンプ場のオーナーで、プライベートのキャンプ場なんですよ。それで、林の中に他のテントが見えないようなテントサイトがポコッポコッてあるわけ。音も聴こえないくらいの距離なの。そのテントから湖までが50メートルぐらいなんですよ。テントの前で火を焚いてもいいんです」

●最高ですね!

「そう! それでまず、最初にひとりで行って、テントを張って、そこで生活を始めるんですけど、やっぱり最初のうちはね、日本のいろんな想いとか情報とか、日本のペースとか、そういうのを引きずっていて、なかなか写真を撮る気にならないんですよ。写真を撮っても、無理して撮ろう撮ろうとしちゃうんですね。
 ところがテントで暮らしていると、一日中外にいるようなものじゃないですか。ちょっと昼寝してても、“どんな空かな?”ってちらっとのぞいて、夕方はご飯を食べてから湖のほとりに行って、目の前に夕陽が沈むのを見るわけですよ。その時が一日の中で一番忙しい、ハイライトの時間ですね。

 そんなことを一週間ぐらいやっていると、だんだん自分の中に溜まっていた殻みたいなものがバラバラ剥がれていって、本当に見えなかったものが見えるようになるんですよ。雲がちょっと動いただけで気がつくようになるし、“あ、風が変わったな”とか、“鳥が鳴いているな”とか、そういうことが凄くはっきり感じるようになるの。そうすると、自分の中のペースが自然のペースにだんだん合ってきて、そうすると景色を見る時に、今までは考えて撮っていたけど、考えなくても景色の方が、“これを撮れ!”って言っているようなイメージになるんですよ。だから自然と、そういう強い空のエネルギーの写真が撮れるようになるんです」

●そういうふうにして撮れた一枚が、今回の写真集『空は、』に載っている湖なんですね!

「これ、同じ写真なんですよ!」

●うわっ、凄く綺麗ですね! (写真集を見開いた状態の)右側が夕陽の湖で、左側が日中の湖の写真なんですけれど、まず夕陽の方は、本当に湖と地平線の境界が金色に輝いていて、そして雲がまたいい感じですね!

「そうですね。こういうのはだいたい、夕立の後に空がパカっと割れて、そこから太陽が出てこういうふうになって、ところが風が強いから雲がどんどん流れていって、どんどん景色が変わるんですよ。もう、忙しくてしょうがない! 右を向いても左を向いても後ろを向いても、“あ、こっちも撮らなきゃ! こっちも!”って、そういう感じ」

●もう、スター大集合みたいな感じですね(笑)。

「この写真の時は素晴らしくて、もう何ロール撮ったかわからないくらい」 

●うろこ雲のような雲が、何となく奥から手前にガーッと来るような感じが伝わってきますね。そして、(写真集を見開いた状態の)左側の写真を見ると、同じ湖なんですけど、また違った雰囲気なんですよね。

「こっちは水辺でパチャパチャやっていて、“あ、この雲いいな”っていう感じで撮っているんで、のんびりした気分で撮っています」

●南国でバカンスをしているような、青い海、白い雲、そして青い空! みたいな感じの写真ですよね。でも本当に、空の景色だけでここまで違う表情を見ることができるんですね。

「そうなんです。今回の写真集で、僕が最初に浮かんだ言葉が“空の景色は毎日変わる”っていう言葉だったの。自分の部屋のベランダから見ても、空の景色って毎日違うじゃないですか。光の色とか雲の形とか、それによって物凄く変化していく。それがここで同じように、同じ場所なんだけど、物凄く違う景色に見える。そういう風なまとめ方をしたら面白いかなって思ったんですよね」

千葉はフォトジェニックの宝庫!?

※千葉ではどんな場所が空のオススメ撮影スポットなのでしょうか。

「フォトコンテストの審査員をしていた時に、“ああ、ここいいな、行ってみたいな!”っていうところがあったんですよ。ひとつが、木更津の江川海岸っていうところで、電柱が海にずっと立っているの! 夕陽に向かって電柱がずっと続いている。それで風が止むと、その電柱が海面に写って物凄く綺麗なの! 昔は密漁の監視所があったらしくて、そこに電気を繋ぐためのものだったらしいんですけど、いまはもう使ってなくて、だけど電柱はずっと立っている。それが凄くフォトジェニックでいいんですよ!」

●よさそうですね! 他にはありますか?

「あとね、富浦町の原岡海水浴場っていうところの、これは桟橋なんですけど、木製の桟橋で、やっぱり桟橋の上に電柱が立っているの。その真正面に富士山があって、そこに夕陽が沈むの! そこはちょっと有名で、アマチュアの人も結構、写真を撮りに行っているみたい!
 あと、いすみ鉄道って凄く人気なんですよね! 大多喜町からいすみ市大原まで続いている、一両だけの電車ですよね。そこの大多喜町の田園風景と電車と空(がいいんですよ)。

 空の写真ってね、空だけ撮っていてもなんか面白くないんですよ。ちょっとアクセントに、例えば電柱でもいいし、小っちゃい建物でも木でもいいんですけど、それがちょこっと入ると、その空のスケール感がわかるんですよ、どのくらい広いかとか……。見る方もイメージが湧きやすいんですよね。それでこの電柱とか桟橋、電車とか、ちょこっとそういうのを組み合わせると、絵としてまとまりやすいですよね。

 それと、佐倉ふるさと広場っていうのがありまして、オランダの風車があって、春はチューリップ、夏はひまわり、秋はコスモス。そこは結構、広いんですよね! かなり広角で撮っても切れないお花畑と風車。ここも、ひまわりの季節に行ってみたいなぁ!」

●じゃあ、来年の夏ですね! 花と空っていうのも、相性がいいですか?

「いいですね! 花を下から見上げて空を撮るっていうのは結構、やりますよ」

●“花なめの空”っていう感じですね!

「“花なめの雲”とかね、面白い形の雲と組み合わせるために、花の周りをぐるぐる回って下から見上げたりしてね。そうやって撮りますね。あとはやっぱり夕方を狙うんだったら、千葉の内房っていうのは結局、西向きの海岸なんで、どこでも夕方は空の写真を撮るには適していますよね」

●じゃあ、bayfmリスナーのみなさんは、空の写真家になりやすいというか、向いているのかもしれませんね!

空は手つかずの大自然!

※30年に渡り、空の写真家として活躍しているHABUさんですが、実はこんなスランプがあったそうです。

「一時期、スランプみたいに写真が撮れないっていうかね……撮ってもデジタルだとすぐに見れちゃうじゃない。フィルムだと、撮って写っているか写っていないか(すぐには)わからないから、その不安を抱えながら撮影しているんですよね。多分、その差だと思うんですけど、その微妙な差で、写真を撮るのが面白くなくなっちゃったんです。
 それがやっと最近になって、フィルムを一回デジタルデータに変えて、自分でどういう色にしたいかを考えて、自分でフィルムを作るつもりで色調整して、印刷屋へ回すっていう方式を今回、初めて採ったの。2冊目に『空の色』っていう写真集を作った時以来、20年ぶりぐらいに初めて全部の作品のプリントを作ってから、印刷に臨んだんです。一回出力して、自分で色を決めてから、印刷屋さん任せにするんじゃなくて、“この色に近づけてください”っていうやり方でやりました。そうしたらなんか、凄く納得のいく色が出て、それでデジタルに対する考え方とフィルムに対する考え方が、自分の中で整合性がついたっていうのかな、そういうところはありますね」

※最新の写真集『空は、』の帯には、こんなメッセージが書かれています。「空は、心の鏡 自分の思いを空に見る」。この言葉の意味をうかがいました。

「僕、実は写真を撮る時には、そんなにいろんな思いをもって写真は撮っていないんですよ。まとめたり、あとで見たりする時には、“こういうイメージが湧いてくるな”とかがあるんですね。
 あと、写真展とかをやっている時に、皆さんが僕の写真を見ていろんなことを想像するわけですよね。僕の仕事って、人の想像力のスイッチを押してあげることだと思っているんですよ。だから僕の写真を見て、何を考えてもらってもいいんだけど、自分の頭で何かを想像して、その想像力を広げていって欲しいなと思うんですね。
 思うことは、みんな本当に違う。人それぞれ違うし、悲しく見える人もいるだろうし、楽しく見える人もいるだろうし……。見る人のコンディションとか、見る人の気分とかによっても違うし、それぞれみんな、自分の思い思いに空の写真って見るんだな、空って見るんだなと、そんな思いでこの言葉をつくりましたね」

●逆にこの写真を見て、自分がどんなことを感じるかによって、“いま、自分はこういう思いがあるんだ”って気づけるかもしれないですよね。

「そうなんです! だからね、同じ本でも見る度に、ちょっと感じることが違ったりするんですよ。今回の写真集には言葉はほとんど入っていないので、自分のイメージでどんどん、見る度に感じることが変わっていったりするし、そのほうが面白いしな、って思いますね」

●空自体もそうですよね。その時の気分によってどんより見えたり、晴れ晴れと見えたりしますよね! でもなんで、私たちは空を見上げて写真を撮ってしまったり、空を眺めてぼーっとしたくなるんでしょうね?

「空って一番身近にある、手つかずの大自然なんですよ。手の加えようがないわけ。自然って例えば、木や森、林でも人が手を加えてるじゃないですか、道があったりとか……。そういうのが空には、一切ない。せいぜい、飛行機雲ぐらいじゃないですかね」

●確かに(笑)!

「だから、例えばぼんやり眺めていると、雲はゆっくり流れていくじゃないですか。“最近、あんまりそういうふうに見ないな”と思ってこの間、空を見たの。昔ってよく、そういうことしていませんでした?」

●してました。子どもの頃、ずーっと空を見ていました。

「そう。子どもの頃は本当によくそんなことをしていましたよね。だから、そういうのを思い出すんじゃないかな。自然のペースっていうのかな」

●ちょっと疲れた時には、空を見上げたほうがいいですね!

「いいですよ〜! 土手にでも寝転んで、空、見上げてください!」

●では最後に、HABUさんにとって空は、どんな存在ですか?

「考えたことなかったな……。やっぱり、最高に魅力的な被写体ですね。撮っても撮っても飽きないし、撮っても撮っても同じものはないし……。本当に心から感動させてくれますね。作為がないでしょ? 向こうは感動させようと思っていないんだけど、言葉もなく感動してしまう時がある。そういう時には慌ててシャッターを切っていますしね。頭の中が空っぽになっちゃうんですよ。忙しくて忙しくてしょうがないの! “あ、こっちも! こっちも! あ、これはアップで撮らないと! こっちは広く撮る! これは三脚立てないと……”もう忙しい、忙しい。でも、そういう時が一番幸せですね」


※この他のHABUさんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 「空は手付かずの大自然」そんなHABUさんの言葉が印象的でした。山や海に行く時間がなくても、空を見上げるだけならいつでも出来るので、忙しい時こそ空を見て自然を感じ、ゆったりとリラックスしたいですね。

INFORMATION

『空は、』

最新の写真集『空は、

 PIE INTERNATIONAL / 税込価格2,592円

 国内外で撮影された、素晴らしい空の写真が満載! 写真集の表紙と裏表紙には、とある仕掛けが…!?

 そして、写真集の発売を記念して現在、渋谷にある「tokyo arts gallery」で写真展を開催中です。会期は12月2日まで。入場は無料。ぜひお出かけください!

 いずれも詳しくは、HABUさんのオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. 俺の空 / 山下達郎

M2. LIKE A ROLLING STONE / DR. JOHN

M3. THE POWER OF LOVE / CELINE DION

M4. WORLD OF LOVE / 杉真理

M5. TEQUILA SUNRISE / EAGLES

M6. 空はまるで / MONKEY MAJIK

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」