2019年5月11日

自然と生き物への想いを、オカリナの音色にのせて

 今週の、ベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、オカリナ奏者・宗次郎さんです。

 群馬県館林市出身の宗次郎さんは、1975年に、生まれて初めて聴いたオカリナの音色や響きに魅せられ、本格的にオカリナ作りを始めます。1985年にレコード・デビュー。その後、定期的にアルバムを発表し、全国各地でライヴを実施。1993年には自然3部作で、第35回日本レコード大賞・企画賞を受賞。常に自然や土とのふれ合いを大切にし、音楽活動を続けているアーティストです。そして先月6年ぶりにオリジナルのニュー・アルバム『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』をリリースされました。
 今回はそんな宗次郎さんに、10年ほど前から拠点にしている茨城県常陸大宮市にある「オカリーナの森」のそばでの暮らしや、ニュー・アルバムに込めた想いなどうかがいます。

小鳥のような楽器!?

※オカリナは、あの独特なフォルムのせいなのか、ちょっと普通の楽器とは違うイメージがありますよね。改めて、どんな楽器なのか教えていただきました。

「オカリナっていうのはイタリア語なんですけど、直訳しますと“ガチョウの子供”っていう意味があるんです。最初、イタリアで19世紀中頃に作られたと言われていて、形がどうやらガチョウの子供のようだったらしいんですよ。そこから愛称で“オカリーナ”と呼ばれるようになったそうです。向こう(イタリア)のオカリナはもっと細長くできているんですけど、僕のオカリナはそれよりもちょっとふっくらしていて、こぶりではあるんですけど、大きさでいうとヒヨドリぐらいと思っていただくといいかなと思います。これが、一般的なアルトC管と言われているキーです。一番オーソドックスな、中間の大きさと言っていいと思います」

●持たせていただいてもいいですか?

「いいですよ。思ったよりも重いと思います(笑)」

●あっ、確かに、持つとずっしりと重みがありますね!

「しかも今、触ってみてわかったと思いますが、少し温かいですよね」

●温かいです!

「これは今まで、温めていたんです」

●あ、温めているんですか!?

「実は、(オカリナを保管している)ケースの中にホカロンを入れているんです」

●何故温めるんですか?

「そのままですとちょっと冷たいんですね、素焼きなので。冷たいまま勢いよく息を入れると、吹き口のトンネルのところが結露しちゃったりして、ちょっとゴミが詰まったのと同じような感じになるんです。よく、子供の頃に習った縦笛なんかでも、吹き口のトンネルのところに唾液が詰まっちゃったりすると思うんですけど、なるべくそういうことが少ないようにするには、少し温めておいたほうがいいんです。
 なので、できたら笛のほうも温めておいて、それから吹いてあげたほうが笛にとっては優しいんです。(オカリナは)種類がいっぱいあるものですから、コンサートの時はこういうふうにして温めておきます」

●温かいし丸いフォルムなので、両手で抱えていると本当にヒヨドリを抱っこしているみたいな気持ちになりますね! 生き物のように可愛らしいです!

「そういう感じ! だから、調子がいい時も、時々拗ねている時もあって、その辺は僕が気をつけてあげないといけないと思っています。ちょっとトンネルの中を掃除してあげたりも、たまにするんですけど、いろいろ考えますね。
 それが一般的なアルトC管と言いまして、全部で穴が12個空いているんですけど、10個の穴を押さえると、ドレミでいうと“ド”の音になるんです。指使いは縦笛とだいたいは似ています。それで普通に、ドレミファソまでは縦笛と一緒なんです。右手から順番に指を離していくだけですね。ちょっと吹いてみると、こんな感じです……」

*ここで、実際に宗次郎さんがオカリナを吹いてくださいました!

●ドレミだけなのに、凄く素敵!!

「そうなんです(笑)。ドレミだけでもコンサートとかで紹介すると、それだけで拍手とかをいただけて“嬉しいな”と思ったりもしますけど(笑)」

●(笑)。何でしょうね、オカリナの音色って温かいというか、懐かしい感じがしますね!

「そうですね。“なんか、どっかで聴いたことがあるような音”と思いますし、僕がいつも聞かれた時に言うのは、“多分、母親のお腹の中にいた時に聴いているんじゃないか”っていう、そういう懐かしさかなぁと……これは僕が勝手に思っているだけで、本当かどうかはわからないですけど(笑)、でもそれと同じような懐かしさがあるのかなと思っていますね。これが一般的なオカリナで、これよりオクターブ高い笛が……これです」

●あっ、小っちゃいですね!

「鳥に例えると、シジュウカラとかゴジュウカラとか、それぐらい小さい小鳥のような大きさですね。これはかなり高い音なんですけど、ちょっと吹いてみましょうか?」

*続いて、宗次郎さんがオクターブ高いオカリナを吹いてくださいました!

●これまた、鳥の鳴き声のような美しい音色ですね!

「これは外で吹いたほうがいいぐらいですね。スタジオで吹くとマイク(で収録した音が割れて聴こえるぐらい)強過ぎて、エンジニアの人に嫌がられるくらいなんですよ(笑)。森の中で吹くとちょうどいい響きになって、気兼ねなく思いっきり吹けるので、小鳥たちも本当に喜んでくれますよ!」

●森の中で吹いたら、本当に共鳴しそうですね!

「もう、反応が凄いです!」

自作のオカリナには心がある!

※オカリナの作り方ですが、「土から作る」と聞くと、なんとなく陶芸作りと似たイメージを持ちます。陶芸のように上手くいかず、失敗してしまうこともあるのでしょうか?

「あります、あります! 失敗というか、粘土で作って焼くもんですから、ちょっと土の状態によっても(違ってきますし)、粘土は乾いただけで収縮して、焼くとさらに収縮して、要するに小さくなります。その小さくなる段階で音も高くなっていくわけなんですけど、その収縮具合も微妙に違うんですね。なのでピッチが変わってしまうと、楽器として使えないんですね。ピッチがちょっとだけ低いとか、ちょっとだけ高いとかそういう笛が、失敗作といえば失敗作ですね」

●そうすると、より土を知っていないといけないじゃないですか。土の状態を把握しないと難しいんじゃないですか?

「そうなんです! 一番難しいのは、土の状態を保っておくこと。“これぐらいの柔らかさで練っておいて、一晩寝かせて次の日にそれを使おう”とか、そういう土の管理が一番難しいし、神経を使いますね。
 収縮した時に、“これぐらいの大きさになる”っていうのをちゃんと想定して作っているので、その状態を保って製作に取りかかることが大事なんですけど、コンサートに行って戻ってきたりとか、行ったり来たりしていると(土の)管理が微妙にできていない時もありますね。それでも、強引に作っちゃう時もあるんですけどね。そうやって強引に作った時は、失敗しますね(笑)。“やっぱりダメだ、もう基本に返らないと”。ちょっと焦ったりしていると、いいことないですね」

●何となく、そういう気持ちもやっぱり土に伝わっちゃったりするんですかね?

「もちろん、そうですね。まず、作る前に気持ちが整っていて、精神的にも余裕を持っておかないと厳しいですね。次の工程までの状態管理、例えば、乾き過ぎないようにビニールで覆っておくとか、濡れた布を掛けておいてあげるとか、そうやってきちっと管理しておかないと、土に怒られますね(笑)」

●なんか、そういうお話を聞くと、オカリナと土と、そして自然とが凄く繋がっているんだなという感じがしますね。

「そうですね。全部その辺もわかって、マイナス面も承知の上で僕もやっていますので、焼いてできたオカリナはみんな子供のような感じですから、ちょっとピッチが低くても壊せない! ピッチが合わないと(楽器として)使えないけど、それでも吹いてあげたいなと思っていて……。作ったものには、絶対に心があると信じていますので、そのまま壊すのはちょっと忍びなくて、お客様を集めて、ピッチ合ってないけど、ちょっと一回、聴いてもらいたいな。その笛の音を聴いてもらって、壊すにしてもそれからにしたい……! ちゃんと鳴って花を咲かせるというか、綺麗な音が出ることが、この笛にとっていいことなので、そうしてから壊したいと思っています」

現代人が忘れているもの

※ 6年ぶりにリリースされたニュー・アルバム『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』についてうかがっていきましょう! 一体どんなきっかけで生まれたのでしょうか?

「僕の知り合いで、加藤孝昭(かとう・たかあき)さんという画家の方がいらっしゃって、もう40年のお付き合いになるんですけど、数年前に加藤さんの個展にお伺いして、その作品を見た時から(アルバムを作り始めた)、という感じですね」

●それはどんな作品だったんですか?

「銅版画の作品なんですけど、暗い森の中でリスのような、タヌキのような動物が、北斗七星が輝いている夜空を見上げているような、そういう作品なんです。それが左ページにあって、右のページには古い原稿用紙に“昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ”と加藤さんが鉛筆で書かれていたんですね。その2つのページでひとつの作品になっているような、そんな作品だったんです。それを見て“あ、そうだよな……”と思いました。

 本当に僕も忘れていたような……。僕のオカリナの笛自体が、もともとは現代人が何か忘れているんじゃないかと思うようなものを、思い起こさせてくれるものがあるとずっと思って、このオカリナをやってきたんです。けど、ずっと音楽活動をやっている中で、なかなかそういうことを自分でさえも忘れていたりするんです。
 でも、加藤さんの作品を見て、自分のオカリナの音色と同じ想いがこの作品に入っているような、そんな気がしたものですから、もう一度、“昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ”っていう、そういう観点から音楽アルバムを1枚作りたいというふうに思ったし、作らなくてはいけないなと思いましたね。そんな作品だったんです」

●だから、今回のアルバム・タイトルも同じく、『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』となったんですね。

「そうですね、加藤さんにお話しして“アルバムのタイトルもこういうふうにしたいんですけど、使わせていただけますか?”ということで、作品ももちろん、そのままアルバムの(ブックレット)の中に入れさせてもらいました」

●現代人が忘れているものって、どんなものなんですかね?

「僕の場合は、土に根ざした暮らしかたとか、僕らの父親や祖父母や、その世代ぐらいの、土と共に、自然の摂理に従って暮らしてきたような、そういう、慎ましく暮らしてきた人が大半だと思うんですけど、そういう暮らし方ですね。土に根ざして畑を耕すとか、土を感じさせてくれるような暮らしかたとか……。
 子供の頃は土の道を裸足で歩いたりとか、僕らはしていたんですけど、そういう土の道を裸足で歩くことさえも、なかなか今の人はしていないかなと思うので、そういうことも含めて、ちょっと前の日本の人が暮らしていた、そういう暮らし方でいいと思うんですけどね」

●確かに、物理的にも土からちょっと離れちゃっていますし、精神的にも離れちゃっているのかなというのは感じますね。

「そうですね。割と皆さん、“未来へ、未来へ!”とか、月へ行くとか宇宙の話とか、新しい話題が豊富で、それは素晴らしいことだと思うんですけど、僕の場合は未来というよりも、過去をもう一回振り返ることのほうが大事じゃないかなと、いつもそう思っているんですね。もうちょっと、今までの人間の暮らし方で素晴らしかったことはたくさんあるんじゃないかなと思うと、そういう感覚ですね」

ちょっと昔を思い出してみて!

※土に根ざした、ちょっと前の日本人の暮らし……。その“ちょっと前”とは、いつ頃のことを宗次郎さんは考えているのでしょうか?

「インナーの中にもメッセージが書いてあるんですけど、“昔々、あるところに……”っていう昔話じゃなくて、ちょっと前の、自分たちの昔、僕の場合だったら40〜50年前でいいと思っているんです。自分の父親や母親、そして祖父母の生きてきた生き様みたいなものを(感じることが必要なんだと思います)。両親がいて、今の自分がいるわけなので、ちょっと自分の家族を遡るだけで原点に返れるような、そんな気もしていたものですから」

●今ではエコとか言われていますけど、おじいちゃんおばあちゃんの暮らしをちょっと思い返してみるだけでもいいんですかね?

「そうですね。それが凄く大事かなと思います」

●今回のアルバムの中に「森の中の散歩道」という曲が収録されていますが、これは自然のキラキラ感というか、そんな感じがしました。

「ちょうどオカリーナの森はこの季節、新緑が一番いい季節で、交流館も造っているんですけど、畑もあって野外音楽ドームもあったり……。その辺は森の中の道なんですけど、そこも蛇行して行くとヘアピンカーブのようになっていたり、ちょっと峠っぽくなっていたり……。
 交流館の周りには面白いところがたくさんあるんですよ! 幅が2メートルぐらいの、普通乗用車がやっと1台通れるぐらいの道幅なんですけど、それがちょうどハイキング・コースのようになっているんですね。そこを自分が歩っているような感じ。しかも、ちょうどこの5月の新緑の頃のイメージで作った曲なんです。なので、ちょうど歩くテンポの速さで曲を作ろうと、最初からそう思って作った曲ですね」

●じゃあ、せっかくなのでその曲をリスナーの皆さんに聴いてもらいましょうか!

*ここで、番組では「森の中の散歩道」をOAしました。

●う〜ん、本当にこの曲を聴いていると、宗次郎さんがおっしゃるように森の中をお散歩しているような、そんな気持ちになりますね! 宗次郎さんはいつもお散歩をされているんですか?

「森にいるときは、朝とかはまず畑に行って、ぐるっとどんな状態か見たりしながら、そのまま50メートルぐらい歩くと道路にでます。この時期になると毎日変化があって、道端にもいろんな花が咲いているので結構、散歩はしますね」

●野菜づくりとかもされているんですか?

「もちろん、畑もやっていますよ。この時期は一番気持ちいいですね! 花も咲き乱れているぐらいで、野の花とか、自分が植えたツツジとかいろんな花があるんですけど、緑が凄くて、新緑が一番いい季節なので、散歩するだけで十分に満ち足りてきますね。それぐらい、いい場所です!」

自然の循環の中に

※最後に、アルバムのブックレットにも書かれている「生き物たちの物語をきいてみよう」、その想いをうかがいました。

「ずっと、オカリナを始めた頃からそういう気持ちはあるんですけど、今はオカリーナの森とかに暮らしていると、本当に動物や植物も、全て生き物たちなので、オカリーナの森は特にそういう感じがありますね。もう10年ちょっと経つので、そういうものでさえも家族のような感じ。
 毎年、同じところに花が咲くし、森の中を散歩するだけで、“そろそろサクラソウや春のリンドウが出てくるな”とか、いろいろあるので、それだけでもいいなと思いますけど、そういう小さな命がたくさんわかるんですね。
 落ちていたドングリが5〜6月になると、そのドングリの実が割れて赤い部分がちょっと見えてきたり、根っこを張っているのが見えてきて、“ああ、ここから始まるんだなぁ”と、命の始まりを見ていたりとか……。
 草を刈って伏せておいたところには、その下にはミミズがいたりとか、蟻もたくさんいますし、大きな畑でサヤエンドウとかを作っていたりすると、ミツバチがずっと蜜を吸って渡り歩いていたりしているんですね。

 生き物と自分は全部、一緒になってこの世界が成り立っている。全部循環しているので、その自然の循環の中に自分もいるんだなというふうに思える場所ですよね。それが一番、いいことだなと思っていて、全ての生き物は理由があってそこにいるはずなので、そういう全てを受け入れて暮らしていくっていうのが本来の姿なんだと思います。
 だから、“害虫”って言っても、どこまでが害虫なのかは、わからないじゃないですか。場合によっては益虫の方が怖いっていうこともあるし……。そういう、全ての生き物をちゃんと受け入れるということが、地球にとっては大事なことだろうなぁ……。細かいことはわからないですけど、そういうふうに思わせてくれるところなんですね。
 例えば夜になると、昼間咲いていた花も閉じて、“夜はゆっくりと休みの時間”みたいな感じで、まぁ夜に活動する動物もいますけど、昼間に輝いていたものが夜になると静かに落ち着いたりする。夜になると、そういうことを特に感じたりしますよね。そういうのが凄くわかるところなんです。

 “美しき森に棲むものたち”っていう曲もあるんですけど、本当に純真無垢な心の持ち主だけが、この森に居られるんだよねっていう、そういう森を“美しい森”と言っていいんじゃないかと思っているんですね。最初、この曲は北欧とかアイルランドとか、ケルト系の透き通ったイメージの曲で考えていたんですけど、作っているうちに“やっぱり自分の森だな”と思うようになって(笑)、自分の前にいる動物たちや木々たち、花たちとみんな一緒になって、ここで暮らしているんだよねっていうのを曲にできたらいいな、と思うようになりましたね」

●ぜひ、そんな宗次郎さんの想いも感じながら、聴いていただければと思います。

*ここで、番組では「美しき森に棲むものたち」をOAしました。

☆この他の宗次郎さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 宗次郎さんのオカリナの音色を聴いていると、今回のお話に出てきたようなおじいちゃん、おばあちゃんと過ごした懐かしい風景が浮かんできます。やっぱり土から出来たオカリナは、土に根付いた暮らしと繋がっているのかもしれませんね。宗次郎さんの曲を聴きながら「ちょっと昔の暮らし」に思いを馳せてみたいと思います。

INFORMATION

『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』

最新アルバム
『昔むかしの物語(はなし)を聴かせてよ』

 6年ぶりの、オリジナル曲が収録されたニュー・アルバム。心に染み入るオカリナの音色を、ぜひ堪能してください!

 近々、コンサートもあります。5月18日(土)には福島の南相馬市民文化会館「ゆめはっと」、翌19日(日)には、宗次郎さんの地元、茨城県・常陸大宮市にあるオカリーナの森・野外音楽堂で「森の音楽会」が開催されます。ぜひお出かけください!

いずれも詳しくは、宗次郎さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. いつも何度でも / 木村弓

M2. BLACKBIRD / THE BEATLES

M3. WE ARE HERE / ALICIA KEYS

M4. 海の声 / 桐谷健太

M5. ときの旅路 / 米米CLUB

M6. 森の中の散歩道 / 宗次郎

M7. 美しき森に棲むものたち / 宗次郎

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」