2019年6月1日

北海道・美瑛町、農家が作り上げた風景

 今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、写真作家・中西敏貴(なかにし・としき)さんです。

 中西さんは1971年、大阪生まれ。独学で写真を学び、1990年頃から北海道に通い続け、2012年に美瑛町に移住。現在はそんな美瑛の自然の中に身を置き、春夏秋冬と変化する大自然と、そこに暮らす農家の営みを精力的に撮影されています。そして先ごろ、その集大成ともいえる最新の写真集『FARMLANDSCAPE(ファームランドスケープ)』を発表されました。
 今回はそんな中西さんに、農業という視点で見つめた美瑛の魅力や、大地と生きる農家さんの暮らしぶりについてうかがいます。

水が滴り落ちるアスパラガス

※まずは、中西さんを夢中にさせた美瑛町が北海道のどの辺りにあるのか、そしてどんな所なのか、教えていただきましょう!

「一番有名なところでいくと、みなさんも多分知っている“富良野(ふらの)”という所があって、富良野というのは“北海道のへその町”と言われているんですけど、(美瑛町は)ちょうどそこから30キロぐらい北にある場所で、東側に大雪山国立公園の山々がそびえていて、西側には芦別道立自然公園の山がそびえています。凄く大きな盆地というか、そういう場所にあります」

●富良野といえばラベンダー畑の風景が有名ですけど、美瑛町にはどんな景色があるんですか?

「大きさのスケール感でいうと、東京23区と同じ大きさで、大半が山林なんですよね。でも、残りはほとんどが農地や畑で、農業と林業が90パーセント以上ですね」

●私、千歳空港でいつも行列ができている、美瑛町のコーンパン、あれ食べたことありますよ!

「あれはね、美瑛町の農協さんが開発をして人気のパンになったんですけど、とにかく鮮度という意味でいくと、美瑛にいる限り、野菜は本当にリアルに、極端な話、きのう採れたものがきょう食べられるっていう感じですね」

●へぇ〜、そうなんですね! 採れたて野菜!

「今、ちょうどアスパラガスの時期なんですけど、グリーンアスパラガスは朝採れて、昼ぐらいに食べるのが一番美味しいって言われているんです。だから恐らく、東京の人たちが普段食べているアスパラガスって、僕たちが食べているのと味が全く違うと思いますね」

●そうなんですか! どんな味なんですか?

「甘いです、本当に! アスパラガスって乾燥しているイメージがあると思うんですけど、僕たちが食べているのは水が滴り落ちています」

●ええっ、そんなジューシーなんですか!? 食べてみたいなぁ……。

「今はもう本当にアスパラガスは人気で、農家の人は凄く大変なんです。本当に大変で、全部、手作業なんです! アスパラガスは機械じゃ採れないので、手作業で一本一本、農家の奥様が刈り採っているんですね。だからみなさん、アスパラガスは高いなと思うかもしれないですけど、あれは当たり前の値段です」

●手間暇かかっているんですね。やっぱり、季節ごとにいろんな作物ができるんですか?

「もちろん! これから夏になるとトウモロコシですよね。トウモロコシなんて、僕のお隣の農家の人は、“収穫から4時間以内に食べてくれ!”って言いますね。それより時間が経つと、甘みがなくなるって言います。だから、美瑛の農家の人がよく言うのは、“お湯を沸かしてから(トウモロコシを)採りに行く”」

●なかなか出来ないですよね(笑)!

「なかなか出来ないんですけど、農家の人たちは普段からそういうものを食べていて、本当に新鮮なトウモロコシはその場で、畑で、生で食べられるんです」

アウェイでは本物を撮れない!

※そんな美瑛町を撮り続けてこられた中西さんの、最新の写真集のタイトルが 『FARMLANDSCAPE』(ファームランドスケープ)、そこには一体、どんな想いが込められているのでしょうか。

「ランドスケープっていうのは、“風景”のことじゃないですか。ファームが“農業”のことですよね。
 北海道に対してみなさん、どういうふうに思っているのかって考えた時に、“風景が綺麗だ”とか、“自然が綺麗だ”とか、“北海道は大自然で美しいよね”って言うんですけど、これだけ(北海道に)通って見てきた僕からすると、北海道といえども手つかずの自然ってほぼ残っていないんですよね。原生林もなくて。要は、開拓の時代に人が入って、開拓をして、農地を開墾して、人がずーっと作り上げてきた風景なんですよ。
 じゃあ、どういう人たちがやっているのかというと、農家なんですよ。だから、本州の僕たちが“北海道は美しい”って思うということは、農家が作り上げた風景に対して美しいって思っているんだ、ということに気づいて、それをどうまとめていこうかなって思った時に思いついたタイトルが、これですね」

●なるほど。私たちが“北海道の自然は美しい”って思っているものは、実は農家さんたちが作り上げた景色なんですね。

「全て、人の手で作り上げられたんです。北海道は開拓してまだ数百年ですけども、馬と牛と、全部人力でやってきた場所なので、そこに対するリスペクトというか、ただ単純に天然の自然がある場所じゃないよっていう意味を込めている感じです」

●そう考えると、バランスが絶妙というか、私たちが人工的だなって思わないということは、自然を生かしつつ農家の人たちは開拓したということですよね。

「これは日本中の農家の人に共通して言えることなんですけど、非常に自然と寄り添っているんですよね。自然に対して歯向かうことなく、寄り添いながら、押さえつけようっていう思いじゃなくて……。自然に対して諦めも半分あり、頑張っても無駄っていうか、日本ってそういう土地じゃないですか。台風は来るし、地震はあるし、火山はあるし……。

 どんなに頑張ってもリセットされてしまう風土の中で、日本人っていうのは育ってきているので、そうすると、自然を押さえつけるんじゃなくて、自然に対して上手く自分たちが寄り添いながら、“ここは風当たりが弱いから、ここに畑を作るんだけど、風当たりの強い土地は防風林を作ろう”とか、そういうふうにしてやってきているので……。
 だから、圧倒的に美しいのは、そうやって寄り添いながらやっているからなんだな、っていうところですかね」

●でも、そういうのってインターネットですぐ出てくる情報でもないですよね。

「そう! そこはやっぱりね、アウェイだとわからないですよね。だから僕が(美瑛町に)移住した最大の理由は、ホームで撮りたいって思ったことですね。アウェイ感のまま撮ると、どうしても観光客目線が抜けなくて、ビジュアル上、美しい場面ばっかりを撮りがちなんですよ。
 どうしても取材期間が限られていて、美しい瞬間ばっかりを追いがちなんですけど、ホームになると美しい瞬間が当たり前になってくるんです。ということは、美しくない瞬間も見えちゃうわけですよ。ということは、それも写真に撮らないと、本物は撮れない。そのために移住した感じです」

虹は、架けるもの!?

※では、美瑛ならではの特徴的な景色はあるのでしょうか。

「ありますよ! 美瑛っていうのは自然現象の宝庫なんですね。その理由はいくつかあって、東側にそびえている大雪山・十勝岳連峰っていうのが屏風(びょうぶ)のように立っているので、天気の変化が非常に激しいんです。だから、突然バァーって雨が降って、そうしていると西側がポコっと空いて、急に晴れるんですよ。そうすると、とんでもない虹が出るわけです」

●今回の写真集にも、いくつかありますよね!

「そうそう! 虹って実は、ただの自然現象じゃなくて、要はその土地の空気の流れというか、東に山があることで雨雲がぶつかって雨が降る。農家の人って、そういうのも非常にわかっていて、だから農家の人といつも話していると、“あ、中西さん、あそこからもうそろそろ雨が来るから、30分ぐらいで虹が出るよ”って言うんですよ!」

●わかっているんですね!

「虹が出るっていうことは、雨が止むっていうことだから、30分待てば農作業が再開できるっていうことなんです」

●なるほど! 虹もじゃあ、大きな時計のひとつなんですね。

「虹はプリズム現象で7色になるんですけど、今回の写真集には入れていないんですが、いろいろな虹があって、雨にかかる虹は7色なんですけど、霧にかかる虹は白なんですよ」

●白い虹!?

「そういった現象とかも、要は雨が降る、湿度が高くなる、翌朝に霧が出る、そこに白い虹がかかるんです。最初は僕も、そういう現象ばっかり追っていたんですけど、そこに農家の人の営みをどう組み合わせていくか、っていうところが最近のテーマで、この間は、ふたりのご夫婦が作業をしているところにドーンと虹を架けるとか……。それは僕の楽しみのひとつです! 写真家として、してやった感というか、“よし、撮ってやったぞ!”みたいな感じ!」

●でも、なかなか自然現象って、こちらの思い通りにならないと思うんですけど……。

「だから楽しいんですよ! みなさんは、突然虹って見られるものだと思っているかもしれません。“あ、虹だ! 写真撮りたい!”ってなると思うんですけど、僕たちは“虹がそろそろ出るな”っていうのがわかるんですよ。よく言うんですけど、“この場所に虹を架けたいな”と思うんです。だから、虹は架かっているものじゃなくて、虹は架けるものだと僕は思っているんですけどね」

●魔法使いみたい(笑)!

「それは自然現象を読みながら、“何時何分に行けば虹が架かるだろうな”っていうのは予測しているので、よく“ここのトラクターに虹を架けようかな”って思ったりして狙いに行くんですよ。そういう写真もいくつか(今回の写真集に)入っているんですけど、トラクターの上に虹を架けてみたり、白い虹をグルっと架けてみたり……」

●そんな低いところにも虹は架かるんですか?

「朝夕の虹は高いんですが、昼間の虹は低いんですよ。水平の虹になるんです。太陽の角度の関係だから。極めて科学的なんですよ」

農家をリスペクト

※では具体的に、美瑛の農家の人たちはどんな暮らしをしているのでしょうか。

「北海道って半年が冬なんですよ。6ヶ月が雪に覆われているので、6ヶ月しか農業ができない。農作業をする時間っていうのが限られているわけですよ。
 ということは農家の人って、日の出よりも前に起きるんです。よく“ニワトリを起こす”って言うんですけど、ニワトリって朝、コケコッコーって鳴いて人を起こしてくれるっていうイメージでしょ? 違うんです、ニワトリを起こしに行く(笑)。その時間から、下手したら次の日の朝までやっていますよ、(農作業が)終わらない時は!」

●えぇ〜! 徹夜で農作業するっていうことですか!? 暗いと見えないですよね。

「だから、ライトを点けてひたすらやっています。なぜかっていうと、農業って天候が相手なんですよね。会社みたいに、“よし、きょうはノー残業デーだから、夕方の6時でピタッと終わって、(残りは)明日やろう”って出来ないんですよ。明後日が雨だってわかると、きょう中にやって明日の朝までに仕上げておかないとダメなんです」

●大変……。

「だから彼らは、自然に合わせている感じ。そこが一番、大変そう。どんなに眠くても、どんなに辛くても、やっちゃわないと追いつかなくなるんですよ。結構農家の人ってゆったりしているようで、分刻みですよ! “お昼までにこれを終わらせよう”とか、そんな感じ。そこが一番大変そうですね」

●冬も大変ですよね。

「冬は逆に、何もしていないです(笑)。もう、反動が凄いんです、冬は!」

●(笑)。それもなんか、本当に自然と共に、自然の流れに沿っているんですね。

「そうそう! だって、どうしようもないじゃないですか。1メートルも雪が積もられたらどうしようもないので、そこが北海道の農家の凄いところかなって。もう、冬は諦め!」

●ジタバタする人っていないんですか(笑)?

「ジタバタしても、冬って美瑛は何℃になるか知っています? マイナス30度になるんですよ! ジタバタして何をやっても、作物が育たないので無駄なんです」

●圧倒的な自然の前にいくと、人ってそういうふうに謙虚になるんですね。

「謙虚にならざるを得ないというか、無理しても……っていう感じ。ただね、その中でも、じゃあ、いい作物をどう作っていくのかっていうところは、彼らは本当に科学的に考えていて、例えば“温度がいくつぐらいになったら、この作物を植えよう”っていうのは経験上わかっているし。
 特に僕ら風景を撮っている写真家って、天気を読むのが仕事みたいなところがあるんですけど、僕はそれを“肌感覚”って言うんですけど、例えばその日の朝に起きて玄関を出て“あ、きょうは雨が降りそうだな”とか、“風が強いから何時間後には雨が来そうだな”ってわかるんですよ。農家の人もそうなんです。“昼頃に雨が来るから、午前中にやっちゃうわ”とかね」

●ドラマ『下町ロケット』にも、そういう場面がありましたね!

「そうでしょ! だからね、職人技だって言われたらそれまでなんですけど、毎日毎日、自然の中で作業をしていると、わかるんですよね」

●研ぎ澄まされてくるんですかね?

「研ぎ澄まされてくる、五感がね。だから、理論はもちろんあるんですけど、天気予報よりも当たるんです」

●凄い! 例えば、“ツバメが低く飛んだら”とか、“桜の花が咲いたら”とか、そういうのも利用するんですか?

「そう! だから、今回の写真集『FARMLANDSCAPE』にも入れているんですけど、桜の花っていうのが結構重要で、日本人って桜が好きじゃないですか。本州は、例えばお寺だとか、家の側だとか、お墓の側だとかに桜を植えていると思うんですけど、農村地帯に行くと、だいたい畑の脇に桜って植えられているんです。
 それはどういう意味かっていうと、種まきザクラなんですよ。桜が咲くっていうことは、温度が暖かくなって、夜温(やおん)が氷点下まで下がらない。っていうことは、土が凍らないから“そろそろあの豆の苗を植えよう”とか……。要は、桜は大きな意味での“時計”ですよね。農家にとって、桜は重要な要素です」

●なるほど、桜はお酒を飲むためのつまみじゃないわけですね(笑)。

「違う、違う(笑)。だから農家の人たちって、桜が咲いたからって花見はしないですね」

●そっか(笑)。むしろ、桜が咲いたら忙しいんですね。

「畑の脇に桜だとかサクランボ、スモモの花とかって結構植わっているんですけど、それは目安。愛でるためというよりは、目安です」

●だからですかね、なんか、この中西さんの写真集にある桜の写真って、普通の桜の美しさというよりも、もう少し“地に足ついた”美しさがありますよね。

「そうですね。北海道は特に、ソメイヨシノっていう桜は咲かないんですよ。それは函館ぐらいまでしか咲かなくて、エゾヤマザクラっていう、もともと自生していた原種というか、山桜なんで、野性的な趣もあるんですよね。
 それが咲くと、1週間後にカッコウが鳴くって農家の人は言うんですよ。カッコウが鳴いたら豆を植え付けよう、みたいな。聞いてたら、本当に面白いですよ! “あ、確かにカッコウが鳴いているな”って思うんですよね」

●そういうのって毎年、変わらずやってくるんですか?

「そう! だから暦よりも、桜が咲いたら“あ、やっと大丈夫だな。もう、雪は降らないな”とか、そういう感じ」

※最後に、中西さんに写真集『FARMLANDSCAPE』を通して一番伝えたいことをうかがいました。

「写真家って、その時代その時代の、目の前にあるものを残していかなきゃいけないっていうのが仕事のひとつだと思うんですけど、やっぱり美瑛って開拓からずっと変わってきているんですよね。
 明治時代に開拓が始まって、当時は原生林だったわけですよ。それを人力で開墾して、今、ここまで作り上げて……。それから時代の流れで、1000戸ぐらいいた農家が、今では500戸ぐらいになっている。20年後には200戸ぐらいになるって言われているんですよ。
 っていうことは、今回ここに写真集として残した景色が、30年後に同じとは限らないわけですよ。それが写真家の仕事というか……。なので、本にして世の中に出さないといけない」

●そうですね。この写真を見ることで、美瑛のそういった美しい景色を守りたいなって思う人が増えるといいですよね。

「うん、あと農家に対するリスペクトをする人がひとりでも増えてくれればいいなと思います。ただ“綺麗だから行ってみたい!”じゃなくて、“農家の人に会いたい!”っていう人がひとりでも増えてくれたらいいなって思いますね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 中西さんの写真を見ていると、『種を蒔く人』などで有名なフランス人画家ミレーの絵と通ずるものを感じます。「崇高な農民の姿を写実的に描いた画家」と言われているミレーですが、中西さんも同じように、写真を通して美瑛の農家さんの姿を伝えているんですね。美しい景色だけではない美瑛を、ぜひ中西さんの写真集で見てください。

INFORMATION

『FARMLANDSCAPE』

新刊『 FARMLANDSCAPE

 青菁社/ 税込価格2,916円

 農業の視点で捉えた、美瑛の素晴らしい風景写真が満載です!
詳しくは、青菁社のHPをご覧ください。

 この写真集の発売を記念して、北青山のNINE GALLERYで6月9日まで写真展を開催中です。6月2日(日)の夕方4時からは、中西さんによるギャラリートークもありますよ。ぜひお出かけください!
詳しくは、NINE GALLERYのHPをご覧ください。

 中西さんのオフィシャル・サイトもぜひご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. I WANT CRAZY (RYAN TEDDER MIX) / HUNTER HAYES

M2. ベジタブル / 大貫妙子

M3. カントリーロード / 羊毛とおはな

M4. 麦の唄 / 中島みゆき

M5. THE RAINBOW CONNECTION / CARPENTERS

M6. 大空と大地の中で / 松山千春

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」