2019年6月8日

「地球の水を汚すことは、自分の体を汚すこと」

 今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、自然写真家・高砂淳二(たかさご・じゅんじ)さんです。

 高砂さんは1962年、宮城県石巻市生まれ。ダイビング雑誌の専属カメラマンを経て、1989年に独立。世界中の国々を訪れ、精力的に撮影を行ない、これまでに『Dear Earth』『night rainbow 祝福の虹』『ペンギン・アイランド』など数多くの写真集を発表されています。そして先ごろ、「水」をテーマにした最新写真集『PLANET of WATER』を出されました。

 今回はそんな高砂さんに、動植物の命を育んでいる「水」をテーマにした、その写真集のお話をたっぷりうかがいます。

僕らは「水」そのもの!

※地球の3分の2を覆う水ですが、「水」と一口に言っても、海水や雲、雨、雪、氷と、さまざまな形で存在しています。今回の写真集では、その全ての形を見ることが出来ます。そんな写真の中に、雲、氷河、そして海が一枚に収められている、そんな景色もあるんです。どこで撮ったのでしょうか?

「これは南米のパタゴニアで撮った氷河なんですけど、氷河っていうのもやっぱり、もう本当に1000年とか前に、山のほうに雪が降って、それがだんだん固まって、少しずつ山と山の間の谷間にズルズルと行って、それが海のほうに向かって降りてくるわけですよね。それが川みたいだっていうんで、“氷河”と言うようになったんですけど、悠久の時間を経て、その水が下に降りてきて、長い時間をかけて海の水になっていくわけですよね。その“時間を超えている”というか、自分たちの命よりもはるかに長い時間を見た気がしてね……。

 水は地球の上を循環していて、3分の2を水が覆っていますけど、氷があったり氷河とか雪があったり、水蒸気になったりとグルグル回っているじゃないですか。その循環の様子っていうのも面白いし、いろんな生き物を生かしているんだなっていう、そういうシステム自体が面白くって、それを意識してずっと撮っています」

●あともうひとつ、違う種類の水かなって私は思ったんですけれど、滝のしぶきが霧状になって、そこに虹がかかっているじゃないですか。これも水の仕業なんですよね!

「そう! ある意味で水滴ですから、液体とも言えるし、ちょっと気体がかっているとも言えると思うんですけど、そこに光が当たって、光と水の共演みたいな感じですよね。虹は僕、好きでずっと撮っていますんでね! 虹を撮っていた時も、“あぁ、水だよね、これ!”って思いながら撮っていたんですよね」

●いやぁ、水はなんと美しい姿を私たちに見せてくれるのか……!

「本当ですよね! しかも、今わかっている範囲で、宇宙で水があって綺麗な青い星になっているのって、地球だけじゃないですか。本当に奇跡の星みたいな感じですよね。その青い命をつくっている張本人が水ですからね。僕らの体の3分の2も水なわけですよね。まさに、僕らは水そのものって感じですよね」

●そこも面白いですよね! 地球も人間も同じく、ほぼ水で出来ている。

「だから、地球と人ってある意味、一心同体みたいな感じですよね」

※では人間以外の生き物、動物たちは水とどのように関わっているのでしょうか?

「やっぱりね、地球の一年のサイクルを基準に生きているのが多いんですよね。人もある意味、そういうところが多いと思うんですけど、動物たちっていうのは、もっとそのサイクルで動いていて、例えば特にわかりやすいのは、ウミガメとかも写真集に使っていますけど、大産卵大会みたいな時があってね。僕が撮ったのは南米のコスタリカっていうところですけど、一年のうち9月〜11月ぐらいに、何十万頭のウミガメがそこに来るわけなんですけど、そこのビーチっていうのが、彼ら彼女たちが30年ぐらい前に生まれたビーチなんですね。

 生まれた時に小っちゃいウミガメになって海に入っていって、その後は30年間ぐらい、ずっと遠くの海外の海をグルグル泳いでいるんですよ。それで30年ぐらい経ってやっと成熟して、卵が産めるようになると、自分の生まれたところにどういうわけか、ちゃんと戻ってきて、そこでみんなで申し合わせたように同じ日にビーチに上がっていって、ワサワサっと卵を産むんですね。長い年月をかけて、自分が生まれたところに戻ってきて、それまでに自分は成長して……。どうやってそのシステムがあるんだろうとか、どうやってその場所がわかるんだろうとか、不思議なことだらけじゃないですか!」

●本当に凄いですよね! 私はヨットを昔やっていたんですけど、海上に出ると目印がないから、自分が陸に戻るのにコンパスがないと方向を失っちゃうじゃないですか! それなのに、ウミガメたちはちゃんと30年経って自分が生まれたところに戻ってこれるって、本当にどういうシステムなんですかね!?

「人間だったら、漁師さんとかでもやっぱり、“山立て”って言って、陸に何か物が見えて、二つのポイントを重ね合わせて方向がわかるとかいいますけど、だけど彼女らは水中ですから、目の前は多分、何メートルとかしか見えないし、ただの水しか見えないのに、どうやってわかるんだろうっていう、それも不思議ですよね」

●もしかしたら、海の水が導いたりしているんですかね?

「磁力とか、いろんな説がありますけども、不思議なことだらけ!」

●でも、そこで人間が砂浜を変えてしまったり、何か手を加えてしまうとやっぱりウミガメたちは困りますよね。

「まさにその通りですよね。そこはオスティオナルビーチって言うんですけどね、現地のコスタリカの人たちも、その時期は全部ビーチをクローズして、免許を持ったガイドさんたちだけが少数の観光客を連れて入っていって、絶対に荒らさないようにしているんですね。それをしないと、あっという間に(ウミガメは)上陸もしなくなるし、彼女らは産むところがなくなっちゃって、簡単に生態も崩れ、システムがバラバラになっちゃうんですよね。そういうのっていうのは本当に多くってね……」

●水はもちろんですけど、そこに生きる生き物たちも合わせて守っていきたいですね。

「そうですね。やっぱり水があって、そこで生き物が生きて、人間も生きているんで、水を中心にしたシステムっていうのをよくわかる必要が多分、あるんじゃないですかね」

アザラシと氷のサイクル

※それでは、そんな生き物たちが写った写真を、写真集の中から高砂さんに紹介してもらいましょう! まずは表紙にもなっている、フラミンゴの写真。ピンクのフラミンゴが10数羽、遠くに横一線にたたずみ、空の水色と白い雲が湖面に映っていて、現実にある風景とは思えないほど綺麗な写真なんです。一体、どのようにして撮ったんでしょうか?

「南米のウユニ塩湖で撮りました。そこも標高3700メートルっていう凄く高いところにあるんですけども、何であそこに塩湖があるかっていうと、その塩っていうのはもともと、海の塩なんですよ。あそこが昔は海底で、だんだん隆起して、それで3700メートルまで上がって、海の水とともにバアーンと上がっちゃったものですから、そこに海水が残って、水が干上がって、あれだけの塩が出来たらしいんですね。あの塩湖の周りには珊瑚の化石がいっぱいあるんですよ! ウユニの町の家なんかは、塀を珊瑚で作っていたりとかするんですよ! だからいろんなことが多分あって、地球が変化しつつ、ここまで来たんだろうなっていうのも本当に感じますよね」

●ちょうど今、そのフラミンゴの話が出たので、それについてうかがいたいんですけど、本当に綺麗に(フラミンゴが)揃って整列していますよね!

「そうそう(笑)! “綺麗に並べたね”ってよく言われますけど(笑)」

●あれは高砂さんが号令をかけたわけじゃないですよね?

「そういうわけじゃないんですよ。あのフラミンゴはすぐに飛んで逃げちゃうんですよね。なので、静か〜に近寄っていって、ちょっとでもフラミンゴがこっちのことを気にしたらしゃがんで、知らん顔をしてずっと静か〜にして、またちょっとこっちを気にしなくなった時に立ち上がって、少〜しずつ歩いて、またちょっとこっちを見たらしゃがんで……っていう(笑)」

●“だるまさんがころんだ”みたい!

「そうですね。ただ、しゃがんだり立ったりしていると高度が高いから、酸素が薄くって目が回っちゃう(笑)」

●だいだい、どれくらいの時間をかけて、あの一枚を撮ったんですか?

「どうだろう……小1時間ぐらいやっていたんじゃないですかね」

※続いては、氷の上にゴロンと寝転がって、こちらを見て笑っているようなかわいいアザラシの赤ちゃんの写真! この写真はどんな風に撮ったのでしょうか?

「カナダのセントローレンス湾っていうところで撮ったんですけど、だいたい2月ぐらいになるとグリーンランドのほうから氷が降りてきて、それと一緒にアザラシの親たちも降りて来るんですよ。それで2月の末になると、一斉に赤ん坊をワァーっとお母さんたちが産むんですね。本当に同じ日に産むんですよ! そこからお母さんたちの子育てが始まって、4週間ぐらい子供たちには氷が必要で、その中の2週間ぐらいはおっぱいをあげて育てて、泳ぎを教えて、4週間目でだいたい独り立ちが出来るようになるらしいんですね。

 その模様を僕は撮りましたけど、去年は久しぶりにちゃんとした氷が張ったということで、行ってみたんですね。その話の通り、しっかりとした氷だったんで、そこに降りることが出来て、今回の写真も撮ることが出来たんですね。そこで何日間か撮影して、その後、別の場所に移動して、他の撮影をしていんですけども、その時に流氷の分布を示すサイトがカナダにあって、それをたまたま見たんですよ。そしたら、僕が撮影していた辺りの氷がもう、なくなっちゃってて……」

●ええっ!?

「僕が撮影をしていた後半は結構、暖かくなっちゃって、もう溶け始めていたんですけれど、その後、急激に溶けてなくなっちゃったんですね」

●そんな数週間で!?

「そうなんですね。それで詳しい人に聞いたら、“アザラシの赤ちゃんにとってはまだ2週間目ぐらいだったので、多分ダメだっただろう”っていう話で……。アザラシも氷のサイクルに乗っかって、産むサイクルもそれによって決めてやっているわけなんですけど、それが狂ってきたし、赤ちゃんもやっぱり、育てたり育てられなかったりっていう状況になって……。結構大変な状況だと思います」

海に入ると“抜けるね〜”!?

※「地球の水を守る」という意味では、マイクロプラスチックについては早急に考えていかなければいけない問題ですよね。なんと、世界で年間 800 万トンのプラスチックが海に流入しているんです! また、海洋に存在するプラスチックは推定で1 億5千万トン、日本の海岸や水辺にも国内外で発生した大量のプラスチックごみが漂着。その一方で他国に日本から流出したプラスチックごみが大量に漂着しているそうです。

 先日、WWFジャパンなどによるNGOネットワークが、プラスチックを減らす提言書を国に提出しました。また、2020年までにレジ袋が有料になったりと、行政や企業も動いていますが、やはり私たち自身が考えて、行動していかなければいけない問題ですよね。

 グリーンピースジャパンでは、「Tokyoペットボトルフリー」キャンペーンを行なっています。日本では毎年、227億本もペットボトルが作られているそうなんですが、東京に30台のマイボトル給水機が設置されれば、半年間でおよそ100万本減らすことができるかもしれないんです! そこで現在、その給水機の設置を東京都に働きかけるようなキャンペーンが行なわれています。
 ペットボトルを捨てる瞬間、またはプラスチック製の商品を買う時に、「これって本当に必要なのかな?」と、一度立ち止まって考えてみることも大切ですね。

 さあ、それでは高砂さんに再びお話をうかがいましょう。人間の子供は水遊びを楽しんだりしますが、他にも水と遊ぶ生き物はいるのでしょうか?

「やっぱり遊ぶのは圧倒的にイルカが多いですね! 船がつくった波でも波乗りするしね。あとは、クジラなんかもよくジャンプしたりしますよね。あれはいろんな説がありますけど、僕は見ていて“遊んでいる時も絶対にあるよね!”と思ったりもしますね。
 アシカとかも波乗りをしたりしますし、僕らが潜ったりとかしていても近寄って来てちょっかいを出したりもするし、結構遊び好きですよ。やっぱり哺乳類っていうのは、僕らも哺乳類ですけどね、ただ食べて子孫を残して生きているだけじゃなくって、好奇心旺盛で、特に子供なんかは面白いことをしたくてしょうがないっていう生き物ですよね」

●そうすると、私たちももっと水と親しんで遊んで、そこから水を大切にする気持ちが生まれるといいんですかね?

「基本的にはやっぱり、水の中に入ると気持ちがいいじゃないですか。日本でもそうですけど、“お清め”をみんな水でやりますし、塩でもそれをやりますし、ハワイなんかでも、海の水の中にまず浸って、それから儀式をやったり、病気の人とかは、ヒーラーに治してもらう時に、まず一緒に海に入って清めてからやるんですよ。だから、そういう意味でも水っていうのは本当に僕らにとって欠かせないし、僕なんかは海に撮影に行ったりすると、出来る所だったらまずは水の中に入って、少し緩んでから撮影したりするんですよ。

 水の中に入ると何かがバッと抜けるんですよね、一発で! まぁ、“憑いている”っていうほどのものじゃないかも知れないけど、都会で暮らしてきて、いろんな心配ごととかも持っていくわけですけど、水の中に入ると何だかわからないけど、それがスポーンと抜けるんですよね。多分、それがお清めにもつながったりするのかも知れないですけどね。なんか、水って特別な意味があると思いますね。

 いちばん最初に僕がこの仕事を始めた時に、やっぱり海パン一丁で海の浅いところにバッと入って、プカーっと浮かんで力を抜いたら、物凄い気持ちがよくって、ほとんど自分と海の境目もわからなくなるくらいの感じを受けたことがあってね。その後、いろいろとやっているうちに、自分の体っていうのは水でほとんど出来ていて、しかも血液とか体液は、海水とほとんど組成が一緒なんだということがわかったんですね。それを知って“あぁ、だから海の中に入っても、なんだか里に帰った感じだったんだな”と思いましたね」

●じゃあぜひリスナーの皆さんも、ベイエリアは海が多いですからね、今年の夏はちょっと海の上でプカ〜っと浮かんでみるのもいいかも知れないですね!

「そうですね。例えば房総とかは、浮かんでいるだけで気持ちがいいですよね! それで、意識して力を抜いてみると、“うわぁ、こんなにリラックスするんだ! 抜けるねぇ〜”みたいな感じがします(笑)」

水を汚すことは、自分の体を汚すこと

※最後に、なぜ今回の写真のテーマを「水」にしたのかをうかがいました。

「この仕事をして32年なんですけど、いちばん最初は海に潜って撮る水中写真でしたけど、その時から水にずっと関わって、その後、陸に上がってきて、いろんな生き物とかを撮っていますけど、常にやっぱり、水がそこにいつもあって、水の循環とか、そういうのを撮り続けてきているんですね。

 僕は今から20年ぐらい前に、ミッドウェーっていう太平洋に浮かぶ島がありまして、そこに行った時に、そこはコアホウドリの大繁殖地なんですけど、そこでコアホウドリがいっぱいいるところの写真を撮っていたんです。ですけど、ビーチでその雛がゴロゴロと死んでいるのを見たんですよ。“うわぁ、何でこんなに死んじゃっているんだろう?”と思って近くに寄ってみると、雛が半分腐っているんですけど、胃の部分だけ、胃の形としてカッチリ残っているんですね。よく見ると、プラスチックの破片がいっぱいその中に入っていて、100円ライターが入っていたり……。そういうのでビッチリなんですね。つまり、それで餓死しちゃっているんですよ。

 現地のガイドさんに聞くと、“お母さんが海に行って子供に与えるエサを取って来て、口移しであげるんだけど、それが漂流しているプラスチックなんです”と。それでお腹がいっぱいになって死んじゃうんですって。20年前に、もうそれがすでにあったんです」

●今、マイクロプラスチックが凄く問題になっていますけど、それが20年前にすでにあったんですね。

「そうなんですよ。それに凄くショックを受けて、その時からずっと、ゴミとかが気になっていましたけど、またここ何年か、プラスチックのゴミ問題が物凄くなってきましたよね。2016年にダボス会議っていうのがあって、その時には“2050年になったら、魚の量よりも海のゴミの量のほうが上回る”って言われていて、それがショックでね……。やっぱり、水は大事だよね。ということで、水でまとめる方向にだんだんなってきました。

 先ほど長澤さんがおっしゃったマイクロプラスチックは、どんどん小さくなって、でも、なくならないじゃないですか。それをプランクトンも取り込むっていうのがわかって、プランクトンがそれを食べたら、それを次は魚が食べて、それを人が食べる……。
 まぁやっぱり、地球の水を汚すっていうのは、自分の体を汚すことなのでね。僕はそういう汚い部分を写真に撮って本として出すわけじゃないんですけど、水によって生かされている生き物とか、水の綺麗さとか、そういうのを撮って、(見た人が)ちょっとでも感じてもらえたらいいかなと思って、この写真集を作りました」

☆この他の高砂淳二さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 地球の水を汚すことは、自分の体を汚すこと。そんな高砂さんの言葉が印象的でした。地球は「水の惑星」と呼ばれていますが、それが「プラスチックの惑星」にならないように、美しい地球の水を守るために何が出来るのか、今一度考えてみようと思います。

INFORMATION

『PLANET of WATER』

最新写真集
PLANET of WATER

 日経ナショナル ジオグラフィック社 / 税込価格2,592円

 地球の「水」のある景観を守りたくなる、そんなさまざまな美しい水の姿が映し出された写真集です。

 また、写真集の発売を記念して、6月24日までニコンプラザ新宿THE GALLERY1+2で写真展を開催中です。期間中、高砂さんのトークイベントもありますよ! 日時は、6月15日と22日のいずれも土曜日、午後2時から3時まで。ぜひお出かけください!

 いずれも詳しくは、高砂さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. INTO THE BLUE / KYLIE MINOGUE

M2. CARIBBEAN BLUE / ENYA

M3. 美しき大地〜NUNARPUT KUSANAQ / NANOOK

M4. 踊ろよ、フィッシュ / 山下達郎

M5. SWIM / PAPA'S CULTURE

M6. SALTWATER / JULIAN LENNON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」