2019年8月17日

地球は大きな薬箱
〜健康は食にあり。季節の旬を食卓に〜

 今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、千葉大学の名誉教授・池上文雄(いけがみ・ふみお)さんです。

 池上さんは1948年、福島県郡山市生まれ。千葉大学大学院・薬学研究科からベルギーに留学、1981年に薬学博士。2013年から千葉大学・名誉教授。専門は薬用植物・生薬学や漢方医薬学。
 「地球は大きな薬箱」をモットーに、薬学と農学の融合を目指し、健康科学を研究。また薬草栽培を通した地域産業の活性化を支援してらっしゃいます。

 そんな池上さんが先ごろ『図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典』を出されました。今回は、漢方の視点から、山の幸・海の幸の薬膳や、夏の果物や野菜の上手な食べ方など教えていただきます!

夏には夏の食材

※まずは漢方の視点から、夏はどんなものを食べるといいのかうかがいます。

「本来、夏っていう季節、これは漢方で言えば“心を養う”っていう考えがあるんですよ。暑くなって我々が汗をかいたりすると、体のバランスが崩れますよね。その結果として、循環器系が乱れる。あるいは、もうひとつは昔から心臓と同時に“心”、つまり気持ちですね。ということで、循環器系と精神的な部分が少し乱れてしまう。
 だから、それらを整えるような食材を食べるという教えなんですね。春夏秋冬、それぞれ旬の食事があるのは、そういうことなんですよ。
 果物にしてみれば、夏の果物といったら何を思い出しますか?」

●夏の果物は、スイカ!

「そうですね。スイカももちろん、お薬ですよね。さらに気になるものといったら、日本でいえばプラムというか、スモモですね。この暑い夏場にスモモを食べたり、あるいはスイカを食べたり……。これは体を冷やしてくれますから、クーラーが効いた部屋の中にいなくても自然とクールダウン、体の中から熱を鎮めてくれるんです。

 それと同時に、たくさんのミネラルを含んでいるんですよね。こういうミネラルイオンっていうのは、心を穏やかにするっていう意味では非常に大事な成分です。だから、知らず知らずのうちに夏にスイカを食べたりスモモを食べたり、あるいは南のほうに行くと、沖縄ではヨモギを食べたり……ってするのは、そういう植物あるいは果物からたくさんのミネラルを摂取したいからなんですね。

 汗をかくと、体の中のミネラルのバランスが崩れてしまいますよね。それを補ってあげると同時に、心も穏やかになる。要するに、暑くて眠れなかったりイライラしたり、それを和らげてくれるのは、こういう果物などから摂るんであって、別段、薬を飲む必要はないんですよ。夏には夏の食材があるんですよ」

●食べ方は普通でいいんですか? 私はよくスイカにお塩をちょっと振って食べるんですけど、オススメの食べ方とかはありますか?

「それでいいんじゃないですかね。ただ、どうして塩をかけるかっていうと、果物にはカリウムがたくさんありますよね。でもカリウムだけ摂ると、また体のバランスが崩れる。なので、そこにナトリウムを含んだ塩を少しかけることによって、(今までの)経験からも学んできたと思いますけど、カリウムと塩を摂ることによって、体の中のバランスを整える。専門的にはいっぱい表現があるんですが、ミネラルのバランスは非常に大事なんです」

●そうなんですね。私のおじいちゃんがよく(塩を)かけていたので、私もかけていました(笑)。

「おじいちゃんおばあちゃんの知恵っていうのは、昔はそのように、普段の食事の中に、体にとっていいことがあるんだよっていうことが代々、伝えられてきました。これが伝承医学と言われているもので、漢方も実は中国の伝承、そして伝統医学なんですね。
 だから、食べ物に限らず、夏場に食べる野菜なども、もちろんキュウリやナス、トマトもあるけど、みんな体を冷やしてくれる性質を持っているんです。
 どんな食べ物でも、体を温めたり冷やしたりする性質っていうものがあるんですよね。もちろん、それに味も加わるんですけど、味のバランスあるいは性質が、夏や冬で異なる。だから、冬には冬の根菜類がある。夏には夏の果菜類、スイカやプラモがあったりするんですよね」

●やっぱり、体が教えてくれているというか、夏に食べるスイカは美味しいけど、冬ってあんまり出回っていないですし、食べてもあんまり美味しくないじゃないですか(笑)。

「冬にスイカを食べるっていうのは、旬を考えたら普通じゃないですよね」

●美味しいって感じるっていうことは、やっぱり体にいいということなんですかね?

「そうです。これは漢方薬もそうなんですけど、飲んだ漢方薬が美味しいと感じたら、それは自分の体に合っているっていう証拠なんです。“良薬口に苦し”って言いますし、味は不味いかもしれないんですけど、飲んで“あ、これ美味しいな!”って思えるのは、非常に大事なんですね。

 これは果物ばかりじゃなくて、すべての食材に言えることだと思うんですよ。体にいいからといって、不味いのを食べたら気が回らないですよね。美味しいものを食べれば、気も巡りますよね。それに伴って食欲も増すということで、漢方の教えでいう、気の巡り、そして血(けつ)の巡り、水(すい)の巡りに繋がるっていうことになってくるんですよね」

皮やタネも食べる!?

※他にも、効果的に果物を食べる方法として、こんなことを教えていただきました。

「これはどんな果菜類でも、俗にいう豆類でも、実は皮のほうが大事なんです。皮を我々は捨てますよね。例えばミカンを食べて、皮をむいて、果肉のところを食べるんですけど、実は漢方では、その皮のところを使うんです。

 スイカもしかりで、中の果肉の部分も、それはもちろん(食べるのは)いいんですけど、実は皮の部分の利用性っていうのは、ずーっと科学的に証明されてきているんです。だから、皮を捨てずにとっておく。そして別の料理にする。……もったいないじゃないですか、せっかく何年も育ってきたスイカの、赤いところだけ食べてポイッてするよりは、もっともっと資源を大事にするっていうことです。

 同時に、皮の部分に、紫外線から自分たちの身を守るための物質を植物は作りますからね。そういう活性を持ったものを、やっぱり我々もいただいた方がいいんじゃないかなっていうことで、今回、(新刊の中に)いろんなものを組み入れたのは、タネだって、皮だって、もちろん果肉だって大事ですよっていうことなんです。銀杏だってタネですよね。」

●なるほど! あえてタネを食べていますもんね(笑)。

「そういうふうに、タネの重要性っていうのは昔から重要視されていて、漢方薬に使う中にはたくさんのタネが入っています。お米だってタネですよね。小麦だって、あるいはハトムギだって……。我々が普段食べているタネって、ひとつの生命体ですよね。これを蒔けば、要するに命が育つわけじゃないですか。そうすると、タネには全ての栄養素とか養分などが含まれている。それを捨てるのはないんじゃないか、というのが昔の人の考えです」

●確かに、そう考えるともったいないですね!

「ただ、そう言っても全てが食べられるとは限らないです。タネに毒性を持ったものもあります。食べられるのを防ぐために、植物はそういう成分を作り出しますから、それは見極めないといけない。伝統的に、昔の人たちが経験したものをずーっと今に伝えてきているわけなんですよね。青梅は食べちゃいけないって言われたりしているのは、そういういわれなんです。

 まぁ、学校で教わらないと言われてしまうかも分からないんですけど、一般的にこういう知識っていうのは、昔から我々家族の中で、あるいは地域にいれば、おじいちゃんおばあちゃんの知恵として我々は学んできました。

 僕なんかも田舎っぺですから、みんなで山に行った時に、学年の上の子がいろいろと教えてくれるわけですよね。それで、どこにセンブリがあるのかとか、どこに行くと美味しい栗が採れるかとか……。そういうものをみんなで採ってきて食べたりしていたんですよね」

人間は、海水と同じ!?

※ここで、夏バテ気味のあなたに池上さんの本からオススメの食材をご紹介しましょう! それは、千葉ではおなじみの果物「びわ」。
 実は、びわは江戸時代から、その葉っぱが薬として使われ、暑気払いの妙薬として街中で売られ、その様子は夏の風物詩だったそうです。

 熱中症対策として一番簡単なのは、生葉を3枚500ミリリットルの水に入れて、弱火で20分から30分煮出す。それを冷蔵庫で冷やして、麦茶の代わりとして飲む。他にも入浴剤として使ったり、ホワイトリカーにつけて、びわ酒として飲むのもいいそうですよ。
 詳しくは池上さんの新刊『図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典』をご覧ください。作り方がイラスト入りでわかりやすく書かれています。

 それでは、海の幸についてもうかがっていきましょう!

●ここ、千葉といえば、アサリだと思います! アサリは、食べ方としてはアサリご飯とかアサリのお味噌汁とかあると思うんですけど、体にいい食べ方とかはありますか?

「ここは、あっさりとですね(笑)、酒蒸しにして食べたい! 別にアサリに限らずですね、こういう貝類はもちろん漢方薬にも使っていますので、これはハマグリもしかりですけど、貝類はたくさんミネラルやアミノ酸などを含んでいて、そういうのが総合的に働いているんですね。アサリだけ食べたいとは思わないですよね? お米も噛んで食べて……」

●お米も噛んで食べることが大事なんですかね?

「丸飲みしたら、美味しくないでしょ?」

●私は割とせっかちなんで流し込んじゃうんですよね(笑)。

「忙しいか分からないけど、流し込んだ分、自分の体に跳ね返ってきますから、やはり食事の時間っていうのは大事にしてもらいたいんですよね。どんなに忙しくても、食事を中途半端にしちゃうと、結局、自分の健康も中途半端になってしまうので、せめて食事の時間はしっかりと取ってもらいたいですね。

 アサリを食べるにしたって、ヒジキや昆布、ワカメを食べるにしたって、どんな海産物も、それを食べることによって海水と同じような塩分を摂取できますよね。
 塩を食べる時に、ピュアなNaCl(塩化ナトリウム)って言われる食卓塩を摂っちゃ、実は体によくないんですよ。海水塩っていう、海の水を煮詰めた塩がありますよね。あれを岩塩っていう、自然界にあるいろんなミネラルを含んだ塩を摂取すること、それが非常に大事なことです。

 我々はこうやって地上に生きていますけど、かつては海の中の生き物ですよね。だからこそ、海産物を摂らなくちゃいけない。我々の体の中の塩分構成は、海水と同じなんですよ。だから海の幸を摂らなくちゃいけないし、ただナトリウムやカリウムだけを摂ったりするんじゃ、いけないんです。海の中にあるマグネシウムやカルシウムなど、実はいろんなミネラルを摂取することによって、もともとの体に戻るんだということなんです」

●そういうことだったんですね! だいたい、どの先生も、健康についての番組とかを見ても、海藻がいいとか、お魚や海のものがいいって必ず言いますけど、もとをたどれば、そういうことがあるんですね!

「そういうことを、学校で教わらないからっていうんじゃなくて、やはり自分たちの健康を考えた時に、人はなぜいろんなものを食べるのかっていうことも考える。自分の健康を考えた時に、食卓にどういうバランスのものを並べて食べるかっていうことも大事になってくると思うんですよね」

食をもって病を治す

※最後に、普段、私たちが何気なく繰り返している食事の習慣。これにも意味があるというお話です。

「まず、食前酒を飲む。アルコールっていうのは気を巡らすし、そして最初に飲むと、胃の中の血の巡りがよくなって、消化吸収もよくなるんですよね。なので、まず食事の前に軽くお酒を飲んで、それから実際に食事をして、そして食後に今度はお茶を飲む。国によってはコーヒーになったり紅茶になったりしますけども、お茶の持っている作用っていうのは非常に重要な部分があるんですよね。

 僕は薬学(が専門)ですけど、薬を学んでいく中で、薬とは何なのかなということを考えた時に、究極的には薬っていう漢字には“草かんむり”がありますから、植物に由来する。そして、それによって体が楽になったり、お腹が満たされたり、そういう薬であるっていうことなんですね。

 どうしてもやむを得ない時には、薬に頼らなくちゃいけないのはわかります。だけど、普段きちんとした食事をしないで、何かというとすぐに薬っていうのは、“これ、逆じゃないかな?”と思いますね。やっぱり、自分の健康は自分で守らなくちゃなりませんし、日頃の食事の材料もさることながら、季節感を味わうっていうことも含めて、旬のものを食べながら生活することも大事かなと思いますね」

●そう考えると、自然環境が破壊されてしまったり、今まで採れていたものが採れなくなってしまうと、間接的に私たちの体や健康にも、凄く影響がありますね。

「自然を冒涜すると結局、自分に返ってくるって昔から言われていますよね。自然を壊せば、我々が食べるものも、本当に美味しいものとかが食べられなくなってくるし、自然と共生って言っていますけども、人間だけがこの地球を制覇しているわけじゃなくて、自然界があるから人は生きられるんです。

 やっぱり、先人たちが野山に行って木の実を採ってきたり、キノコを食べたり、菜っ葉を採ってきたり、あるいは海に行って貝やワカメ、昆布を採ったりしてきて、そういうものを食べながら生きてきたっていうことなんですよね。

 薬の原点は、我々の言っているように、食材の“食”なんです。医療の世界では、すぐに薬っていうんですけど、古典を紐解くと病気になった時にまず、食事療法から入るんですよ。“ろくなものを食べていないから、きちんとした食事を!”。あるいは、食べ過ぎとか偏食とか……。

 そういうことで、“食をもって病を治す”という考えなんですね。それは漢方という、東洋医学の思想だけじゃなくて、西洋医学の思想でも言われているんですよね。ヒポクラテス、紀元前の彼でさえもやっぱり、“汝の食は薬とせよ”と言うくらいに、食事は凄く大事にしていたんです」

●やっぱり朝・昼・晩の3食を全部、きちんとしなきゃダメですよね。

「まぁ仕事の関係で、どうしても3食が摂れなくても、せめて朝はコーヒー1杯でもいいから、あるいは牛乳1杯でもいいから口に入れるっていうことをしていただきたいですね」

●朝がやっぱり、一番大事ですか?

「基本的には、朝と昼ですよね。やっぱり活動するために、朝に何も体に入れなかったら頭が働かないじゃないですか。脳細胞を活性化させるのは、甘いものですからね」

●じゃあ、いい仕事をするために朝はしっかり食べて、糖分を摂取して。そして昔から言われていますけど、海の幸・山の幸をバランスよくいただいたほうがいいですよね。
 やっぱり池上さんは、食べながら自然に想いを馳せるということを、いつもされているんですか?

「いつもしているわけじゃないですよ(笑)。ただ、ものを見れば、それをつくった生産者のことが思い浮かぶ……まぁ、最近はトマトを買っても、つくった人の顔が浮かばないくらいに流通が複雑になりましたけどね。
 地方に行くと、“誰々さん家でつくったトマト”とか、“誰々さん家でつくったキュウリ”とかって、まだ売っていますよね。そのトマトやキュウリを食べながら、“ああ、あの人がつくってくれたんだな”といった、そういう風景が見られるところもあるんです。やっぱり、つくっていただくっていうことへの、感謝の気持ちは忘れちゃいけないかなと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 漢方にはこんな教えがあるそうです。「自然を味わい、自然を想う」。日々の食事でこの教えを意識すれば、自分の体も、地球も健康になれそうです。

INFORMATION

新刊『図解 山の幸・海の幸 薬効・薬膳事典

 農山漁村文化協会 / 税込価格 2,376円

 私たちの健康を支えている山の幸・海の幸の食材の中から、果実、キノコ、海藻、魚介など50種を集め、漢方の視点から薬膳的な利用法を紹介。活用する方法を、イラストでわかりやすく解説しています! 詳しくは農山漁村文化協会のサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. GETCHA BACK / THE BEACH BOYS

M2. SUMMER PARADISE feat. Taka from ONE OK ROCK / SIMPLE PLAN

M3. 少年時代 / 忌野清志郎

M4. ALL OUT OF LOVE / AIR SUPPLY

M5. SALTWATER / JULIAN LENNON

M6. 世界一ごはん / 植村花菜

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」