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ヒグマは豊かな自然の証 〜ヒグマを通して自然との付き合い方を考える〜

2020/7/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、北海道大学大学院・教授の「増田隆一(りゅういち)」さんです。

 増田さんは1960年、岐阜県生まれ。北海道大学大学院からアメリカ国立がん研究所を経て、現職の北海道大学大学院・理学研究院・教授としてご活躍中です。先頃出版された『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』という本では全体の構成なども手掛けていらっしゃいます。

著書「ヒグマ学への招待」

 きょうはそんな増田さんに北海道に生息するヒグマの生態や森との関係性、そして私たち人間がヒグマを通して考えるべきことなどお話いただきます。

*写真協力:知床財団・山中正実、増田隆一

知床のヒグマ親子,11月。後ろ2頭は大きくなった満1歳の子グマ(知床財団 山中正実氏撮影)
知床のヒグマ親子、11月。
後ろ2頭は大きくなった満1歳の子グマ(知床財団 山中正実氏撮影)

隔離された島に数千頭!?

※ヒグマは北海道には何頭くらいいるのでしょうか?

「正確には推定できていません。しかし毎年、有害獣駆除、町の中に出てきて人に危害を加えるのではないかということでハンターによって捕獲されることもありますし、農作物の被害で駆除されることもありますし、狩猟獣ですのでハンティングされることもありますけれども、そういうものを含めると去年ですと900頭以上捕獲されています。実際にはその数倍以上は北海道に生息しているのではないか、という風に考えている研究者もいます。ですから数千頭ですね。

 北海道って言いますと北の大地ということで、日本では広大な地域だという風に思われていますけれども、世界地図を見てみますとヒグマは北半球に広く分布していまして、大陸から見ると狭い分布域なんですけれども、その中に、隔離された島の中に数千頭のヒグマがいるということは世界的に見ても非常に密度の高い地域になります」

●ヒグマって1年をどのように過ごすのですか? 

「夏の間は山を巡ってですね、しょっちゅう食べ物を食べています。だいたい冬の12月から3月ぐらいまで北海道は雪で覆われるんで、その間は餌を捕るのは非常に難しい時期になりまして、穴を掘ってヒグマは冬眠をします。他の動物は冬眠をしない動物もいるんですけれども、ヒグマは冬眠をするという、そういう道を選んだ動物です」

●繁殖行動は夏になるんですか? 

「そうですね。交尾をするわけですけれども、オスとメスは単独で生活しているんですが、オスはメスを求めて6月から7月くらいに交尾行動をとります。その後ですね、オスとメスは分かれて生活しまして、オスもメスも冬眠するんですけれども、この冬眠中の2月くらいにメスは穴の中で出産します。ですから完全に眠っているわけではなくて、穴の中では起きて出産と子育て、母乳を与えているので、冬眠というよりかは冬籠りという風に言ったほうが正確かもしれません」

ヒグマ頭骨標本。オス成獣(左)、メス成獣(右)
ヒグマ頭骨標本。オス成獣(左)、メス成獣(右)

ヒグマの食生活!?

※写真や映像でヒグマが川に入り、サケを捕まえているシーンを見たことありますよね? やはりヒグマの好物はサケなんでしょうか。

「そうですね。もちろんサケがいるところじゃないとサケを食べることはできないですけど(笑)。北海道でもサケとかマスが秋になると川を遡上してくるのは、北海道の東部に限られることが多いんですけれども、そういうところでは自然環境も保護されていますし、人もほとんど立ち入らないような、国立公園とかそういう地域では浅い川をサケが産卵のために遡上してきますので、それをヒグマが捕獲して食べるという、そういう光景があります。

 それはそういう地域で、かつ、夏の終わりから冬の初めにかけて、秋を中心とした時期ですけれども、それ以外の地域とかそれ以外の時期にはサケはいません。実はクマは肉食性の食肉類って分類されているんですけれども、肉だけではなくてアリとか、それから土の中にいる小さな昆虫を食べたり、それからドングリとか、それからふきですね。ふきのとうのふき、そういうものを食べたり、秋には山ぶどうとかありますので、そういう木の実を食べたりしています」

カラフトマスをとらえたヒグマ(知床財団 山中正実氏撮影)
カラフトマスをとらえたヒグマ(知床財団 山中正実氏撮影)

●そうなんですね! もうサケのイメージが強すぎて、(笑)そういったものも食べるんですか。

「だから平均的に見ると植物性のものを食べていることのほうが多いと思います」

●ヒグマが生活できているということは、そこの場所はすごく豊かな自然があるということなんですか?  

「まさにそうです。ヒグマが食べることのできる植物が多様に繁殖していたり、それから昆虫がたくさん見られるような環境、それからサケとかマスがたくさん遡上してくるような、そういう環境がないとヒグマも生活できないということです。

 ヒグマが生活できる環境があるってことは非常に自然豊かで、その下ではいろんな生物が多様に生活することができるということで、傘種。種っていうのは生物の種っていうことですけども、英語では傘のことはアンブレラ、種のことはスピーシーズって言いますので、アンブレラ・スピーシーズという風に生態学では呼ばれることがあります。

 それはヒグマに限ったことではなくて、この『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』の中にも書かれていますけれども、北海道にシマフクロウという大型のフクロウがいるんですが、そのシマフクロウが生活できるような環境では、いろんな生物が生息できるっていうことで、シマフクロウもアンブレラ・スピーシーズという風に呼ばれています」

紅葉の知床半島とオホーツク海(知床財団 山中正実氏撮影)
紅葉の知床半島とオホーツク海(知床財団 山中正実氏撮影)

<世界のクマ>

 さて、日本にはヒグマとツキノワグマの2種が生息しています。ヒグマは北海道のほとんどの森林にいて、大人になると体長2メートル前後、体重は200キロ以上ということで、その巨体を維持するために、とにかくよく食べる! 冬眠前の秋には1日40キロも食べるそうです。

 一方、本州と四国に生息するのはツキノワグマ。かつては九州にもいましたが、絶滅した可能性が高いとされています。こちらは体長が1メートルちょっとで、平均的な体重はオスが80キロ、メスは50キロ程度です。毛の色はヒグマが茶色に対し、ツキノワグマは黒。胸に三日月のような白いマークがあるのが特徴です。主食はヒグマと同じく植物で、昆虫や蜂蜜、魚や動物の死骸も食べます。

 世界には、日本にいるヒグマとツキノワグマを含め、全部で8種類のクマが確認されています。最も大きいのは北極圏に生息する地上最大の肉食動物・ホッキョクグマで、次に大きいのがヒグマ、そして最も小さいのは東南アジアにいるマレーグマです。

 そして、忘れちゃいけないのがジャイアントパンダ、現在は中国南西部・四川省などの標高の高い地域に生息していますが、かつてはベトナムやミャンマーにもいたとされています。竹やタケノコばかり食べているイメージがありますが、野生では鳥や小型の哺乳類なども食べるんだそうです。

 このほかには、北米大陸のアメリカクロクマ、インド東部やスリランカに生息するナマケグマ、そして南米大陸にはメガネグマがいて、これら全て日本の動物園で見られます。「クマのいる動物園」をまとめたサイトもあるので、気になるクマがいたら、会いに行ってみてはいかがでしょうか?

ヒグマに遭遇したら・・・!

※北海道の知床半島では、ヒグマとの共存・共生がうまくいっているそうです。それはどうしてなんでしょうか。

「行政の環境省とか、それから知床には知床財団という財団がありまして、そこにクマの生態に詳しいスタッフがいます。一方で知床半島は観光地にもなっていまして、観光客も毎年大勢が訪れます。で、自然の中に入っていくわけですけれども、その時にクマに出会わない対策を事前にレクチャーして、それを学んだ後、自然の中に入っていくというエコツアーもあるんです。

 ただ単に自然の中に入っていくだけではなくて、事前に自分は自然の一部なんだっていうことを学んで、そして自然の中に入っていって、自然を観察すると、そういう学習がしっかりされているということで、ヒグマと出会っても事故が起こらないと」

●なるほど! 学んだ上で自然の中に入るんですね。ちなみにもしヒグマに遭遇したらどのようにしたらいいんですか? 

「私も遠くから見たことはあるんですけども、近くでは出会ったことないので、出会わないってことがいちばん大切です。そのためには鈴を鳴らしたり、時々大声を出したり、それからラジオを大きな音量でかけて、私がここにいるということをクマに知ってもらうために音を出して対応するということが重要であるっていう風に考えられています。

 で、もし出会った場合は慌てて走って逃げることは絶対しないという風に言われています。少しずつクマの目を見ながらクマからゆっくり離れるということが重要です。で、自分が思っているものを、例えばタオルとか帽子とかリュックサック、そういうものを自分の身から離して、タオルは置き去りになりますけれども、そのタオルにクマが気をとられている間に自分自身は少しずつクマから離れていくということが大切であるという風に言われています」

冬の知床連山(知床財団 山中正実氏撮影)
冬の知床連山(知床財団 山中正実氏撮影)

ヒグマとサケが森を育てる!?

※ヒグマがサケを食べることで森が育つという話を聞いたことがあるんですが、どういうことなんでしょうか。

「サケは元々は川で産卵して、その卵が孵化して海に戻っていって、数年かけて海で生活して成長してまた川に戻ってきます。だからサケは海の恵みを受けて成長するんですけれども、その成長したサケが川へ遡上してきた時に、今度はヒグマがサケを捕獲して食べることになります。

 そのサケの肉なり消化物が、クマによって山の中に運ばれて、それが排泄されると、その排泄されたものは山の中で分解されて、それが植物の栄養素になっていきます。それによって木とか草がまた成長していくということで、海の栄養素が山に移動するんです。

 それがサケとヒグマ、食べる食べられるの関係にありますけれども、それによって物質循環が海から陸地の山に循環していくということで、ヒグマの存在、それからサケの存在は非常に重要であるということになります」

●今後、私たちはヒグマとどのような付き合いかたをしていくべきでしょうか? 

「クマとの付き合いっていうのは自然との付き合いと言い換えることもできるんですけれども、ヒグマとはなにかっていうことを考えることが重要という風に思います。ヒグマだけではなくて自然とはなにかということを考えることによって、私たちが自然の中でいかに生きていくか、いかに共存していくかという道が開けてくると思います」


INFORMATION

増田隆一さん情報

著書「ヒグマ学への招待」の表紙
(著書「ヒグマ学への招待」の表紙)

厳冬のフィンランド・ハイルオト島(北緯65度)にて。
厳冬のフィンランド・ハイルオト島(北緯65度)にて。

ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える



 増田さんが編集も手掛けた新刊『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』は、ヒグマを学問ととらえ、動物や生物の視点だけではなく、歴史や文化などあらゆる側面からヒグマを探求していて、その道の専門家が原稿を寄せた、まさに「ヒグマ学」といえる充実した内容になっています。
 北海道大学出版会から絶賛発売中です! 詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎北海道大学出版会のHP:
http://hup.gr.jp/modules/zox/index.php?main_page=product_book_info&products_id=992

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