毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

サルの社会にボスはいない!?〜ニホンザルの新常識〜

2020/8/15 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストはニホンザルの研究者、石巻専修大学・准教授の「辻 大和(つじ・やまと)」さんです。

与えるサルと食べるシカ〜つながりの生態学

 辻さんは1977年、北海道生まれ。東京大学大学院・修了後、京都大学霊長類研究所を経て、今年から石巻専修大学の准教授としてご活躍されています。辻さんは大学生の時に、上野動物園のボランティア活動で担当したニホンザルに興味を抱き、研究をスタート。石巻市の沖合にある「金華山島」に生息する野生のニホンザルを20年にわたって観察・研究し、その成果を一冊の本、『与えるサルと食べるシカ〜つながりの生態学』にまとめ、先頃出版されました。

 きょうは「ニホンザルの新常識」! 知られざる生態について辻さんにうかがいます。

☆写真提供:辻 大和

写真提供:辻 大和

実はボス猿はいない!?

※ニホンザルは、群れを率いるボスがいて、そのボスを中心にサルの社会が成り立っているとよく聞きますが、辻さん、それは本当なんですか?

「それはよく誤解されている点なんですけれども、実は野生ではボスザルっていうのはいないっていう風に今、私たちは理解しています。群れの中でケンカの強いオスっていうのは確かにいるんですけれども、ただそのケンカに強いオスっていうのが人間の社会で言うところのボスの役割、例えばケンカを仲裁したりとか、争いが起きた時に最前線で戦うとか、あるいは群れの行き先を決めるといった役割は野生状態では確認されていないんですね。それで私たちは野生のサルにはボスはいないという風に理解しています」

●そうだったんですね! サルたちって家族単位で生息しているんですか? 

「そうですね。サルのオスは大きくなると生まれた群れを出て行くんですけれども、メスっていうのは基本的に生まれた群れで生涯過ごします。ですからサルの家族っていうのはメスとその子どもたちっていうことになりますね。群れの中でお母さんと娘、あるいはお姉さんと妹っていうのはとても仲がいいですね」

●子育てをするのはメスだけってことですか? 

「そうです。ですからサルの群れにはオスはいるんですけれども、お父さんはいないっていう風になります」

●ニホンザルって何を食べているんですか? 

「サルはなんでも食べる雑食性の動物ですけれども、でもいちばん好きなのは果物とかドングリの仲間ですね。他には葉っぱですとか花とか、あとはキノコとか虫なんかも食べます」

●サルたちの行動のどんなところに注目して研究されるんですか? 

「私は専門が“食べ物“ですから、サルたちがまず何を食べているか、どこで食べているか、あと誰と食べているかっていうところに注目しています。群れの中にはやっぱり順位関係ですとか性別とかいろんな状態、ステータスがありますよね。そういう社会的な要因がそのサルたちの”食べる“っていう行動にどう影響しているのかっていうのを調べるのが、私の専門としてそういうことに注目しています」

写真提供:辻 大和

サルの役割、種子散布

※続いて「ニホンザルの新常識」その2!
野鳥は植物の実を食べて、そのタネを遠くに運んで、植物の分布を助けているという話を聞いたことがありますが、野生のニホンザルもそんな役割を担っていたりするのでしょうか。

「はい、そうですね! 自然界におけるサルの重要な役割のひとつが種を運ぶ、種子散布と言うんですけれども、そういう役割です。私はサルの行動観察と一緒にサルたちのウンチを集めて分析をしたことがあるんですけれども、サルの糞からはなんと36種類の植物の種が出てきました。サルは鳥に比べて体も大きいですし、また動き回る範囲も大きいですから、より広い範囲にいろんな植物の種をばらまいていると考えられます」

●森にとってはサルの影響っていうのはすごく大きいんですね。

「はい、私はそう考えています」

●秋口になるとサルたちが里へ降りてきて、畑の作物を荒らしちゃうっていうようなニュースもありますけれども、気候変動とかによってサルたちの環境とかには影響はでているんでしょうか? 

「その点については、はっきりしたことは申し上げられないんですけれども、ただサルたちが畑を荒らす行動っていうのが山の実りと関係があるっていうことはよく言われています。サルたちが大好きな木の実の実りには、年によって大きな違いがあるんですね。山の実りが乏しい年にサルたちが食べものを求めて畑にやって来ちゃうんです。その結果多くのサルが有害獣として駆除されてしまうっていう、そういう現象があります」

●それはどうしたら対策できるんでしょうか。

「例えばですね、山の実りはどれくらいかっていうことをモニタリングするっていうのがひとつ方法かもしれません。今年は山にドングリがあんまりないなっていうことが分かれば、今年は畑にやって来そうだぞっていうことを、あらかじめ予想して対策が打てるかもしれませんね。そしたらむやみに殺さなくても済むんじゃないかっていう風に私は思っています」

●今、辻さんがいちばん気になっていることってなんですか? 

「そうですね。1年間に2万頭を超えるサルが有害駆除されてしまっているって現象はとても心が痛いですね。実際、駆除に科学的な根拠があるわけでは必ずしもないんです。ですから山の実りをモニタリングして、サルたちが畑にやってくる時期を予測したりとか、あとはさっき種子散布の話をしましたけれども、サルたちが山の中でこんな大事な働きをしているんだよっていうことを、多くの人に知ってもらうことによって、サルたちに対するネガティブなイメージを改めていただければなという風に思っています」

辻 大和さん

サルの楽園「金華山島」

※「辻」さんの研究のメイン・フィールド「金華山島」は、いったいどんな島なんでしょうか。

「島の大きさは10平方キロメートルくらいで、そんなに大きな島ではないんですけれども、東北地方の三大霊場のひとつになっています。島の中には大きな神社がありまして、昔から信仰を集めています。ブナとかモミの林で覆われたとても美しいところです」

写真提供:辻 大和

●ニホンザルは何頭くらいいるんですか? 

「はい、現在は200〜250頭ぐらいいまして、6つの群れに分かれて暮らしています」

●その島は人は多いんですか? 

「神社の関係者と参拝客、そして私たち研究者以外には実はいません。それに昔から狩猟が禁じられていますので、サルたちはとてものんびりと暮らしています」

●人よりもサルのほうがのびのびとたくさんいるようなイメージなんですね!? 

「そうですね。サルの楽園と言ってもいいと思います!(笑)」

●それってわんぱくに育っちゃったりしないんですか? 

「金華山のサルは他の場所に比べて性格が穏やかで、顔もとても美人というか可愛いサルが多いですね」

●具体的に注目しているサルはいるんですか? 

「はい、学生時代は対象の群れの1個体ずつ、17個体いたんですけれども、それぞれマークして3カ月くらいぶっ続けでそいつらを、1日3個体ぐらいずつ決めて追っ掛けていました」

●素人からすると違いが分からないような気もするんですけども(笑)、どうやって見分けるんですか? 

「サルたちは比較的表情が豊かで、しかも個性的なんですよね。ですから他の動物に比べると、これは誰かっていうのは非常に分かりやすいと思います。私は人間の識別よりもサルの識別のほうが楽だと思います(笑)」

●本当ですか!?(笑)サルに名前を付けたりしないんですか? 

「付けていますよ。アテナちゃんとかビーとかシフとか、そういう名前はずっと代々先輩たちから受け継いだ名前を付けています!」

●辻さんも名前を付けることはあるんですか? 

「一度付けたことがあります(笑)。オトハちゃんとかネネちゃんとか付けました。今元気かなぁ」

写真提供:辻 大和

サルとシカが共生!?

写真提供:辻 大和

※ラストは「ニホンザルの驚くべき新常識」その3です。「サルの楽園」ともいえる「金華山島」には、ほかにどんな動物がいるのでしょう。そしてその動物との関係は!?

「サルの他には大型の動物としてシカが500頭くらいいます。あとはモグラですとかネズミ、そして鳥とか虫の仲間なんかもたくさんいますね」

●へ〜! じゃあ本当に動物たちの楽園ですね。この“与えるサルと食べるシカ”というタイトルですけれども、この本のタイトルにもなっているサルとシカの珍しい行動を目撃されたということですね。それはどんな行動だったんですか? 

「サルが木の上で葉っぱとか果物を食べている時に、サルたちが一部をぽろっと落とすんです。その木の下にシカがやってきて、サルが落とした葉っぱや果物を食べるという関係です。私たちはこれを“落穂拾い”と呼んでいます」

●木の上で暮らすサルと地上で暮らしているシカって、なかなか関わりがなさそうなイメージがありましたけど、関わっているんですね。

「はい、私も初め見たとき、すごくびっくりしました。無関係だと思っていたのに、実はこうやって食べ物を通じて結びついていたんだなと分かって、とてもびっくりしました」

●シカはサルの行動を分かって集まってくるってことですか? 

「私は多分シカはサルの出す音を聞きつけて、集まってくるんだと思っています。例えばサルが木に登って食べる時に枝をガサガサと揺らしたり、あるいは大きな声で鳴いたりするんですね。多分ご馳走を見つけて嬉しいのかなと思うんですけれども、シカたちはそういう音を聞きつけて集まってくるのかなと思います」

写真提供:辻 大和

●逆にサルはシカたちによって何かプラスなことはあるんですか?

「金華山では、私はサルがシカから何か利益を得ているっていうのは、まだ見たことはありません。ただ他の国ではですね、例えばこれはインドの例なんですけれども、外敵が近づいてきた時にシカが警戒音をピーって上げるんですね。それを聞いてサルたちが逃げるっていう関係も知られています」

●そういった動物たちの関係性って他の動物とかにもあるんですか? 

「そうですね。これは共生関係って言うんですけれども、例えばイソギンチャクとヤドカリのように、ヤドカリが住処を提供してあげる、イソギンチャクは食べ物のおこぼれに預かるとか、そういう関係は古くから知られています。ただ大型の動物でこういう共生関係っていうのが見つかったのは、多分私たちの研究が初めてじゃないかなと思います」

●そうだったんですね〜。もし島のサルと話ができるとしたら何を聞いてみたいですか? 

「そうですね。私が気になっているのは、木の上からサルたちが葉っぱを落とす時に、それは本当に私たちが思っているようにたまたまなのか、それともシカのことを考えて、わざと落としてあげているのかなって可能性もありますよね。それはやっぱり彼らに聞いてみたいと思っています(笑)」

●確かに!


INFORMATION


辻大和さん情報

与えるサルと食べるシカ〜つながりの生態学

与えるサルと食べるシカ〜つながりの生態学


「金華山島」に生息するニホンザルの、20年にもおよぶ観察・研究の集大成。山小屋に寝泊りしながら、長い時には3〜4ヶ月も観察していたそうです。そんな地道な研究がサルとシカの共生関係を明らかにしたんですね。ニホンザルに関する“新常識”が満載の本です。ぜひ読んでください。 詳しくは、地人書館のサイトをご覧ください。

◎地人書館のHP:
http://www.chijinshokan.co.jp/Books/ISBN978-4-8052-0942-4.htm

 辻さんの活動については研究室のサイトを見てください。

◎辻さんのHP:
https://hirakuogura.com/https://sites.google.com/view/animal-ecology-lab/%E6%95%99%E5%93%A1%E3%81%AE%E7%B4%B9%E4%BB%8B

前の記事
次の記事
サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW
  • 番組のシンボル、風間深志さんが登場!「生きている限り、青春だ!」

     今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、記念すべき第1回目の出演者、冒険ライダー、そして地球元気村の大村長「風間深志」さんです。  風間さんは1950年生まれ、山梨市出身。1……

    2024/4/7
  • オンエア・ソング 4月7日(日)

    オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」 M1. 地球は元気 / 地球元気村の仲間たちM2. PEACEFUL EASY FEEL……

    2024/4/7
  • 今後の放送予定

    4月14日 ゲスト:自転車の旅人、モデルの「山下晃和(やました・あきかず)」さん  東南アジアや中南米の“いきあたりばったり”自転車旅のお話ほか、自転車とキャンプを楽しむイベントについて……

    2024/4/7
  • イベント&ゲスト最新情報

    <風間深志さん情報> 2024年4月7日放送  山梨市の地球元気村ファーム「天空のはたけ」では5月中旬にサツマイモの植え付けが予定されています。また、地球元気村が運営している山梨県山中湖……

    2024/4/7