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夜は昆虫写真家!?〜ノコギリクワガタとウルトラマン〜

2020/9/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、昆虫写真家の「森上信夫(もりうえ・のぶお)」さんです。

 森上さんは1962年、埼玉県生まれ。子供の頃、おじいさまの影響で、虫取りなどの遊びを通して昆虫が大好きになった、まさに昆虫少年。そして立教大学在学中に撮影の技術を身につけ、現在は、昆虫写真家とサラリーマンを兼業、忙しい日々を過ごしていらっしゃいます。そんな森上さんが先頃、新刊『オオカマキリと同伴出勤〜昆虫カメラマン、虫に恋して東奔西走』を出されました。
 きょうは、兼業だからこそのエピソードやベランダ昆虫園、そして昆虫への熱い想いなどうかがいます。

☆写真提供:森上信夫

写真提供:森上信夫

オオカマキリと同伴出勤!?

※森上さんはサラリーマンとの兼業をされていますが、どうやって昆虫を撮影する時間を作っているのでしょうか?

「それはもう結局は、1日は24時間という上限があるので、寝る時間を削るしかないんですよね。
 で、幸いにというか、昆虫の羽化とか孵化とか脱皮のような劇的なシーン、それこそ本で使うためにまさに撮らなければならないシーンというのは、天敵である鳥が寝ている時間、つまり夜に行なわれることが多くて、夜から明け方にかけてですね。だから自分が寝る時間を削りさえすれば、意外に撮れるものなんですよ。
 日中にやられてしまうと出勤時間は動かせませんから、そこはどうにもならないんですけれども、夜にそういうことが起きることが多いので、単純に徹夜すればなんとかなるというケースが多いですね」

●でも、徹夜して次の日は普通に仕事に行くわけですよね? 

「そうなんですよ。徹夜明けで出勤するというのは、なかなかつらいものがあるんですけれども、撮れた時はそれでも満足感いっぱいで電車に乗れますからいいんです。でも、撮れなくて出勤時間を迎えた時ですね。羽化、孵化、脱皮が起きると踏んで徹夜で待機したのに、結果的に何も起きなかった場合というのは、出勤する時の疲労感といえば相当なものですね(笑)」

●そうですよね〜。この本にも、僕を28時間待たせたオオカマキリ、という風にありましたけれども、本当に徹夜の撮影っていうのは当然のようにあったわけなんですよね。

「そうです。ちょうどお盆の時期だったので勤務先も休みで、28時間待てたことはある意味幸せだったんですけどね」

写真提供:森上信夫

●オオカマキリと同伴出勤したのは本当なんですか? 

「あ、これは本当なんです」

●これはどういうことですか?(笑)

「卵を産みそうなオオカマキリがいまして、お腹がもうパンパンに膨らんでいて、身重な感じだったんです。それで締め切りのある仕事で、オオカマキリの産卵シーンを撮らなければいけなかったんですよ。結局その時も一晩徹夜して朝まで見ていたんですけれども、夜のうちに産まなかったんですね。
 スタジオで撮っていたわけですけども、これをそのままスタジオに放置して出勤してしまうと、昼のうちにおそらく産卵してしまうだろうということは予想できたので、もうこれは連れていくしかない! ということで、職場に小さな水槽に入れて連れて行ったんです」

●職場のみなさんはどんな反応されるんですか?(笑)

「それは分からないように、コンビニの袋に入れた状態でデスクの足元に置いて。それで職場で撮影できるわけではないので、何をしたかというと、そのコンビニの袋に入ったミニ水槽の上に足を乗せて、延々と貧乏ゆすりをしながら、上半身は普通に仕事をしているんですけど、下半身は延々と貧乏ゆすりをして、その水槽の中にいるオオカマキリがグラグラ揺れる中で産卵を始めないように、オオカマキリも落ち着かないですから、そういう形で産卵したいという気持ちを妨害し続けたんです」

●へ〜! で、無事に産卵シーンは撮影できたんですか?

「できました! その晩連れて帰って、スタジオの鉢植えに留めて、すぐに産卵するかと思ったけど、意外にそうでもなくて。まあオオカマキリにとっては激動の1日だったわけですから(笑)」

ベランダ昆虫園

写真提供:森上信夫

※いつ、羽化や孵化、そして脱皮をするのかなど、なかなか予測できない昆虫撮影で楽しい瞬間というのは、どんなときなんでしょうか?

「それは2つあります。1つはそれこそ自分が思い描いていた通りの絵を撮れた場合、つまり目の前でまさに待機中にことが始まった場合というのは1つそうですね。
 あともう1つは思い通りっていうのとは全く真逆の、思いがけない出会いがあったという時ですね。それは野外で思いがけない虫との出会いが思いがけない形であって、目の前で面白い行動を見せてくれた時なんていうのは、とても嬉しい瞬間ですね。こういうのは後からじわじわ嬉しさが来るタイプなんですけど」

●森上さんはご自宅にベランダ昆虫園があるということですけれども、それはどういったものなんですか? 

「 趣味的に飼っているわけではなくて、スタジオ撮影のためのバックヤードという位置付けなんです。例えば水生昆虫、水に棲む虫がいますね。ゲンゴロウとかそうした虫というのは、野外ではカメラを水に沈めて撮るわけにはいかないので、結局水槽で撮るしかないんですね。
 そうするとスタジオには撮影用の水槽があるんですけれども、その水槽で撮る虫を普段飼っておくバックヤードというのが、そのベランダの昆虫園なんです。同じ水槽にタガメが入ったりゲンゴロウが入ったりすることがありますけれども、そういういろんな虫をベランダで生かしているというのがベランダ昆虫園ですね」

写真提供:森上信夫

●今、何種類ぐらい飼っているんですか? 

「おそらく15〜16種類ぐらいいると思いますね」

●え〜!? そうなんですね。その昆虫の世話もしているんですよね? 

「そうです、毎日結構な時間がかかりますね。1時間ぐらいは虫の世話で時間を取られます」

●ちなみにどんな昆虫がいるんですか?

「今は水生昆虫ではタガメ、タイコウチ、それからゲンゴロウの仲間が4種類くらいいまして、後は水生昆虫ではありませんけれども、カブトムシ、クワガタムシもやはり継続して飼っていて、それはやっぱり写真の需要が多いからなんですね。毎年新作を撮っておかないと、例えば去年使った写真と同じものは同じ雑誌には出せないっていうようなことがありまして、それでカブトムシ、クワガタムシも結構たくさん飼っています」

写真提供:森上信夫

虫の感情を撮る!?

※森上さんの新しい本『オオカマキリと同伴出勤〜昆虫カメラマン、虫に恋して東奔西走』に載っている昆虫写真は、どれも表情豊かに見えるんです。何か心掛けていることがあるんでしょうか?

「そう言っていただけると嬉しいですね。それは特に気をつけて撮っていることなので。
 昆虫というのは外骨格という体の構造をしていまして、要するに身体の外側に骨があるのと同じですから、表情を作ることができないんですね。要するに柔らかくないので。

 そこで表情を感じていただけるというのは、言わばお面をした子ども、お面をしているから表情は分からないんだけれども、手足で何かアクションをとることで、お面の向こう側でどんな表情してるのかっていうことがある程度分かると思うんです。やはり昆虫の顔以外の、手足がどんな形をとってるかというポーズで、ある程度その表情というものを感じていただけるように努めて撮っているつもりなんです」

●へ〜! でも昆虫相手となるとなかなかお面を被った子どもと同じってわけにはいかないですよね? 

「でもそこに僕はほぼ同じという認識があって、それは結局、昆虫カメラマンの仕事というのは、大人向けの本より児童書で使われることが多いんです。
 そうすると、子どもというのはやはり虫に対して、自分と違う生き物というよりはかなり擬人化して捉えていて、自分との共通した感情とか表情を持つ生き物というような感じで捉えることが多いので、擬人化して見るであろう子ども達に、実際に喜びとか悲しみとか怒りとか、虫の感情を感じてもらえるような撮りかたを、努めてそうしているっていうところがありますね」

●へ〜そうだったんですね! 森上さんが一番好きな昆虫って言うと何になるんですか? 

「はい、好きな虫はたくさんあるんですけども、そう聞かれることが多いので、一応ノコギリクワガタと。これは実際、嘘ではなくて、たくさん好きな虫が何種類かいる中で、無理に1位を決めるとノコギリクワガタかなという感じですね!」

●どうしてですか? 

「それはね、かっこいいから!」

●そうなんですか〜(笑)

「非常に単純な理由なんですけれども(笑)、姿・形がかっこいいっていう、フォルムのかっこよさだけではなくて、クワガタムシって黒いものが多いんですけれども、ノコギリクワガタはワインレッドの体の色をしているんですよ。この美しい体っていうのがノコギリクワガタが他のクワガタムシより、ちょっと好きだなという理由だと思いますね」

写真提供:森上信夫

昆虫はチャンピオン!?

※最後に・・・長年、昆虫の撮影を続けていて、昆虫からどんなことを感じますか?

「もともと鳥とか魚も含めて、生き物は何でも好きだったんですけれども、被写体として見た時にやっぱり昆虫が一番だなという感じです。他の生き物に興味が広がっていくタイプの人もいるんですけれども、僕の場合はその昆虫愛というものに収れんしてきたという感じで、どんどんその虫の魅力の奥深さに引き込まれてきたという感じがあります」

●その魅力ってのは何ですか? 

「やはり虫の場合は多様性ですね。足が6本とか羽が4枚という、割と小学校の理科的な知識ですけれども、そういった昆虫の体の構造を決定づける制約の中でも、ここまでデザイン的に遊べるのかというような。
 鳥とか魚というのは、見れば鳥であったり魚であったりということが、ある程度分かるレベルの多様性だと思うんですけれども、昆虫の場合、本当にこれ生き物なの? っていう、生き物かどうかすら見て分からないというような形の多様性があって、そこが昆虫の一番の魅力だと思いますね」

『オオカマキリと同伴出勤〜昆虫カメラマン、虫に恋して東奔西走』

●本の中に「時として下から見上げるようなかっこいい存在だ」って書いていましたけれども、本当に崇拝しているような感じですよね(笑)

「はい、そう思います(笑)」

●ウルトラマンのような存在だとも書かれていましたけれども、とにかくかっこいいんだ! っていう思いがすごく伝わってきました。未だにかっこいいなって思われてますか? 

「そうですね。だからよく虫って可愛いって目線で見る人もいて、どの虫が一番可愛いですか? っていう質問が非常に困るんですけども。可愛いと思ったことはなくて(笑)、それこそウルトラマンを可愛いとは言わないじゃないですか。ですから虫に対してリスペクトに近い感情もあって。

 非常にこれは大雑把な分類ですけれども、背骨のある脊椎動物と背骨のない無脊椎動物という2つの生き物に分けると、人間がその脊椎動物という進化のチャンピオンにいるとすると、昆虫は無脊椎動物というもう1つのリーグのチャンピオンという感じがあって。
 ですので、僕としてはセ・リーグのチャンピオン・チームが、パ・リーグのチャンピオン・チームを見てるような、そういった感じで昆虫という存在に一目置いてるという、そういう感じが昆虫を見るスタンスと近いかもしれないですね!」


INFORMATION


オオカマキリと同伴出勤~昆虫カメラマン、虫に恋して東奔西走


『オオカマキリと同伴出勤~昆虫カメラマン、虫に恋して東奔西走』

 文章がメインの自伝的エッセイ。ご本人曰く、サラリーマンとの兼業写真家の、毎日のドタバタ劇ということですが、昆虫との生活がリアルに描かれていてとても面白いですよ! そして掲載されている昆虫の写真が生き生きとしているので、昆虫の表情にも注目しながらぜひ読んでください。詳しくは、築地書館のサイトをご覧ください。

◎築地書館HP:
http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1604-4.html

 森上さんの活動についてはぜひオフィシャルブログを見てください。

◎森上信夫さんのHP:http://moriuenobuo.blog.fc2.com/

オンエア・ソング 9月26日(土)

2020/9/26 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. Turn over?  / Mr.Children

M2. 9 TO 5 (MORNING TRAIN) / SHEENA EASTON

M3. PHOTOGRAPH / RINGO STARR

M4. TRUE  / SPANDAU BALLET

M5. #やっぱもっと / 大原櫻子

M6. IF I LIKE IT, I DO IT / JAMIROQUAI

M7. THE WINNER TAKES IT ALL  / ABBA

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

地球の雑学

2020/9/26 UP!

<昆虫食>

 今年2020年1月に私の恩師、立教大学・教授の「野中健一」さんをお迎えし、「昆虫食」の話題をお届けしました。その模様は番組ホームページに載っているのでぜひ見ていただければと思っていますが、ここで改めて、今後起こりうる食糧危機を、救うとされている昆虫食について触れておきたいと思います。

 地球温暖化による気候変動や、世界人口の増加により、人類は将来、深刻な食糧危機に見舞われることが懸念されています。FAO=国連食糧農業機関は2008年、「栄養的に優れた昆虫食を積極的に推進する」という方針を示し、さらに2013年の報告書では「世界人口の増加による食料不足の対策として昆虫食を推奨する」というメッセージを発表しました。

 昆虫食のメリットとして、まずは「種類が多く、繁殖力が強い、飼育に伴う環境負荷が小さい」という点。現在、食用にできることが確認されている昆虫は世界で2000種類とされ、多くの昆虫は大量の卵を産み、成虫になるのが早いなど、強い繁殖力を誇ります。
 そして、人工的に飼育できるものも多く、家畜に比べエサが少量で、生育に伴う温室効果ガスの排出量も少ないなど、環境負荷を小さく抑えられるとされています。

 さらに、最大のメリットが「栄養豊富」だということ。例えばコオロギに含まれるタンパク質は同じ重さの牛肉と比べても遜色はなく、加えてカルシウムや鉄分なども豊富です。ほかにもビタミンやミネラルを多く含む昆虫もいるんだそうです。

 世界中に昆虫食の文化は残っていて、特にタイや中国などのアジア、中南米やアフリカなどは日常的に昆虫食が見られるそうです。日本でも古くからイナゴやハチの子、ザザムシなどが食べられてきましたよね。
 最近では、「コオロギせんべい」や「コオロギラーメン」が話題になったり、昆虫食の自動販売機が東京都内にお目見えして、注目を集めています。

寿司ネタが獲れなくなる!? 〜温暖化が及ぼす海の異変〜

2020/9/19 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海の潜水科学ジャーナリスト「山本智之(やまもと・ともゆき)」さんです。

 山本さんは1966年、東京都生まれ。東京学芸大学大学院を経て、朝日新聞記者としておよそ20年、科学報道に携わり、現在も「海洋」をテーマに取材を続け、調査も含め、国内外の海に500回以上も潜っていらっしゃいます。また、今年から朝日学生新聞社編集委員としてもご活躍されています。
 そんな山本さんが先頃、新しい本『温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系』を出されました。番組としても、とても気になる内容で、いったい日本の海で何が起こっているのか!? きょうはたっぷりお話をうかがっていきます。

☆写真協力:山本智之

写真協力:山本智之

ここは伊豆なの? 沖縄なの?

※まずは、国内外の海に500回以上、潜っているということで、やはり海の変化を肌で感じていらっしゃるのでしょうか?

「そうですね。自分の肌感覚としても海の変化を感じる場面っていうのはあります。私は元々ダイビングが趣味で水中写真の撮影を30年近く続けています。それで新聞記者としての取材ではヘドロの大阪湾から綺麗な沖縄の海までいろんな海で潜水しましたし、海外では赤道直下のガラパゴス諸島から氷の浮かぶ南極海まで、あちこちの海で潜ってきたんですね。ただ普段、趣味の水中写真の撮影でよく行くのは静岡県の伊豆半島の海なんです。

スズメダイの群れ(伊豆半島)
スズメダイの群れ(伊豆半島)


 そこでは、ちょうどこれからの時期は、黒潮に乗って本州の海にやってきたカラフルな熱帯魚の姿がとても目立つようになります。例えば、黄色いビー玉のような姿をしたミナミハコフグの子供ですとか、普通はサンゴ礁で見られるような種類のチョウチョウウオの仲間とか、そういったものが、日本列島に沿って流れる黒潮が巨大なベルトコンベアのようになって、熱帯魚の子供たちを運んでくるんです。

ミナミハコフグ(伊豆半島)
ミナミハコフグ(伊豆半島)


 ただ所詮は熱帯魚ですから、冬になると寒さで死んでしまうんですね。それでこういう熱帯魚の子供たちは“死滅回遊魚”と呼ばれています。回遊してきても死んでしまう魚たちという意味です。姿を見せては死んでいくというのが、伊豆半島の海では自然の現象として毎年繰り返されてきたんですね。それで私達ダイバーは、南の海から流れ着いた熱帯魚の子供たちを見つけると、よく水中写真を撮って記録を残します。特に南方系の珍しい魚を見つけると、あ、レアものが出た! なんて言って一生懸命シャッターを切ってきたわけです。

 ところが近年は伊豆半島の海で冬になっても、熱帯魚が死なずに生き残るという現象が目立つようになりました。瀬能宏さんという魚類の研究者が調べたところ、伊豆半島を含む駿河湾と相模湾の海では、過去20年間で59種の熱帯魚の越冬が確認されました。そんなわけで長年潜り続けてるダイバー達は、海の変化っていうのを目の当たりにしてるんですね」

●肌で感じてらっしゃるってことなんですね。

「そうですね。最近で言うと伊豆半島の大瀬崎って有名なダイビングポイントがあるんですけども、今年の春には沖縄でよく見られるアザハタっていう赤色の熱帯魚がいるんですが、これが2度冬を越して大きさが30センチぐらいに大きく成長しているのが見つかりました。ですからもうこうなるとダイバーからすると、ここは伊豆なの? それとも沖縄なの? っていうそういう驚きですね」

アザハタ(沖縄・慶良間諸島)
アザハタ(沖縄・慶良間諸島)


アワビやホタテが獲れなくなる?!

※山本さんは新刊『温暖化で日本の海に何が起こるのか』で、お寿司のネタが獲れなくなるかもしれないと指摘されています。これはほんとなんですか?

山本智之さん

「そうですね。例えば高級な寿司ネタになるアワビですけど、高くてあまり食べられませんけども、既に昔に比べて漁獲量が大幅に減ってしまっています。これまでそのアワビが減った最大の要因として指摘されてきたのは乱獲、獲りすぎですけども、今後は地球温暖化が進んで日本近海の海水温が高くなっていくと、特に九州などの南の暖かい海ではアワビの餌になる海藻が育ちにくくなって、その結果アワビの漁獲量がさらに減ってしまうという可能性が高いです」

●嫌です!(苦笑)

「そうですね。食べられなくなるのは嫌なんですけど、1970年代から90年代の漁獲量のデータがあるんですが、それに比べて近年は平均して60%ほど漁獲量が少なくなってると、これは九州での話ですけども」

●ホタテとかマグロとかも、そういった危機にあるんですか? 

「そうですね。ホタテ貝も貝柱がプリッとした甘みがあって私好きなんですけど、刺身もそうですし、寿司ネタでも回転寿司なんかでもよく出てくると思うんですけども、これも海水温が暖かくなるとホタテ貝は将来ですね、今のようには獲れなくなるという風に予測されています」

●秋の味覚のサンマも、また今年も記録的な不漁と言われていますけれども。

「そうですね。サンマはただ、元々10年から20年の周期で漁獲量の変動が繰り返されてきた魚なんですね。なので年によって豊漁不漁というのは昔からあるんです。そのことを踏まえて考える必要があるんですが、ただサンマは水温の低い海域を好んで回遊するっていう性質があります。そして今年に限らず近年の不漁っていうのは、日本近海の高水温が影響しているという指摘があります」

水揚げされたサンマ。温暖化すると小型化すると予測されている。
水揚げされたサンマ。温暖化すると小型化すると予測されている。


●本来、日本の海は黒潮だったり親潮だったりが流れているので豊かな海なんですよね? 

「そうですね。黒潮は暖かい暖流ですし、親潮は冷たい寒流です。南北に3000キロ近い長さがあって、様々な環境の海があるってことが日本の海の豊さの理由なんですね。

 で、さっき言いましたサンマで言うと、黒潮と親潮の混ざる混合域ってところがあるんですけども、そういうところでプランクトンがたくさん出て、そういうものを食べて大きくなるっていうところがあるんです。ところが将来、地球温暖化が進んでいくと、そのサンマの餌になる動物プランクトンが減るという風なシュミレーションで予測されています。

 そうすると2050年にはサンマの体長が、今よりも1センチ小さくなると、2090年になると今よりも2.5cm小さくなる、そういう予測研究があります。だからちょっとサンマが小ぶりになって、あんまり食べ応えがなくなっていっちゃうかもしれませんね」

『温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系』

サンゴの白化現象

※海で起こっている異変、やはり温暖化が原因なんでしょうか?

「基本的には海の温暖化っていうのは地球レベルで起きています。ただ地球上の全部の場所、陸も海もそうですけど、同じように温度が上がるわけじゃなくて、場所によって温度の上昇率の高いところ、そうでもないところがあります。比較的、日本の近海というのは、世界の平均に比べて海水温の上昇のペースが早いっていうことですね。

●季節によって水温は上がったり下がったりするものだと思うんですけれども、平均の水温が上がっているのが問題なわけですか? 

「そうですね。気象庁によりますと日本近海の海面の水温が、過去の100年間で1.14度上昇しています」

●その1度ってそんな重要なんですか? 

「我々の日常の感覚で言うと、エアコンの1度だったならば、我慢できる範囲ぐらいかなっていう風に思うんですけども、海の生き物はたった1度の水温の変化にも敏感に反応します。例えばサンゴは、今いくつかの種類が日本列島に沿って分布を北上させてることが分かっています。

健全なサンゴ礁に集まる様々な魚たち(オーストラリア・グレートバリアリーフ)
健全なサンゴ礁に集まる様々な魚たち(オーストラリア・グレートバリアリーフ)


 問題は1日毎の変化じゃなくて、年間の平均の海水温が1度上がっちゃうっていうことなんですね。例えば、陸上の気候でも猛暑の年って昔からありました。でも全体の気温が、平均気温が1度底上げされるって言うと、その土台に乗っかってまた猛暑が起こりますから、猛暑の年はより強烈の猛暑になるということですね。
 これは海の中でも同じで、冷たい海水を好むホタテ貝とかサケ、それから海藻の昆布へのダメージが心配されているのは、これが大きな理由です」

●海水温が上がるとサンゴが死んでしまうということですけれども、どういう現象が起こっているんですか? 

「サンゴは、姿は樹木のような形をしていたりとか、テーブル状だったり、ちょっと植物っぽい形をしてるんですが、イソギンチャクに近い種類の動物です。そしてその体の中に褐虫藻という直径が0.01ミリほどの藻類、植物ですけど、小さいつぶつぶの植物が共生しているんですね。

 サンゴはイソギンチャクの仲間ですから、触手を使って動物プランクトンを捕まえて、餌として食べることもできます。でも実際は、生きていく上で必要な栄養の大部分を褐虫藻から貰って生きているんですね。褐虫藻はつまり植物なので光合成をして栄養を作り出すんですよ。それをサンゴに分けてあげるんです。サンゴはかなり頼り切って生きてるということなんですね。

健全なサンゴ礁の色(和歌山・串本)
健全なサンゴ礁の色(和歌山・串本)


 さっきおっしゃった海水温が上がるとサンゴが死んでしまうっていう話なんですけど、海水温が高くなってストレスが加わると、サンゴの体に棲んでいる褐虫藻が大幅に減ってしまうんです。そうするとサンゴはどうなるでしょうか? 栄養を褐虫藻に頼っていますから、栄養不足になりますよね。その時サンゴの体が白っぽくなるため、白化現象と呼ばれています。それでこの白化現象が長く続くと、サンゴは栄養失調になって最後は死んでしまうということですね」

●それも全て地球温暖化が原因ということですね? 

「そうですね。全体が底上げされていますので。白化現象は昔からたまにはあったんですけども、米国の研究チームによりますと、これから地球温暖化が進んでいくと、白化現象と次の白化現象の起きる間隔がだんだん短くなっていくと。 そうするとどうなっちゃうかって言うと、サンゴは結構強い生き物で、死んでもまた再生して新しく群体ができて増えていく力があるんですけども、ダメージを受けたまま、すぐに次のダメージが来ちゃうので回復する間がなくなっちゃうと。ということはサンゴ礁がどんどん衰退していっちゃう、これが温暖化で今すごく心配されてることですね」

大問題!? 海の酸性化

写真協力:山本智之

※山本さんは新しい本『温暖化で日本の海に何が起こるのか』の中でもうひとつの問題として、海の酸性化をあげていらっしゃいます。なぜ酸性化するのでしょうか。

「まずは温暖化の話で言いますと、いちばん原因物質として言われるのが二酸化炭素ですね。他のガスもありますけども、その二酸化炭素にはもうひとつ厄介な性質があって、地球を温めるだけじゃなくて、水に溶けると酸として働くっていう、そういう性質があるんです。
 そうするとどうなっちゃうかっていうと、私たち人類が大気中に排出した二酸化炭素が、どんどん海に溶け込みます。そうすると海水を酸性化させてしまうんですね。世界全体では人類が排出した二酸化炭素の約23%、大体4分の1が海に吸収されているという風に推計されています」

●海がそもそも酸性化しちゃうと、どうなっちゃうんですか? 

「元々海水は、世界の海の表層の平均が、 pHって理科で出てきますね、pHが8.1の弱アルカリ性なんです。海水は弱アルカリ性なんだけど、二酸化炭素が溶け込んで酸性化が進むと、だんだんpHの値が8.1から7に向けて低くなっていっちゃうと。
 だから海の酸性化の問題っていうのは、海水が完全な酸性になるわけじゃないんですけど、弱アルカリ性から中性にpHが下がっていくということだけで、生物にはものすごく影響が出てしまうっていうことですね」

●例えば、海の生態系にはどんな影響が出ちゃうんですか? 

「二酸化炭素の濃度で言うと産業革命前は大体278ppmだったものが、最近は400ppmを超えていますね。そうすると世界の海のpHは、産業革命の前に比べると既に0.1ほど低下したという風に見積もりが出ています。

pHが下がってなんなの? っていうのが今のご質問だと思うんですけど、海が酸性化することの最大の問題は、貝とかウニ、それからサンゴといった生物が炭酸カルシウムの殻や骨格を作りにくくなってしまうという、そういう点なんです。つまりさっきもちょっとお寿司の話がありましたけど、海の酸性化が進むと、寿司ネタで言えばウニやホッキ貝などが減ってしまう恐れがあるんです」

●えー! それは困ります。海の酸性化って地球温暖化をどんどんまた進めてしまいそうな気もするんですけれども、悪循環な感じですよね?

「要は、この2つのキーワードは根っこは一緒なんですね。海の温暖化と海の酸性化、これは両方とも私たちが排出する二酸化炭素が原因なんですね。なので同じ二酸化炭素って物質が物理的な変化として気温や海水を上昇させます。それと同時に海に溶け込むことで、まるで生活習慣病のように、海水の海の科学的な性質も変えてしまうと。そして海水のpHが低下すると今度は、大気から海洋に二酸化炭素が溶け込みにくくなって、海はつまり温暖化のブレーキ役としての力があるんですが、その力が削がれてしまって、結果として温暖化の加速に繋がるという風に言われています」

解決できるのか!?

ガラスのように透き通った海(沖縄・慶良間諸島)
ガラスのように透き通った海(沖縄・慶良間諸島)


※最後に・・・海の温暖化、そして海の酸性化、その問題を解決する糸口はあるのでしょうか?

「そうですね。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな例え話になっちゃうんですけども、私たちの生活に伴って大気中に排出される二酸化炭素の量、これを減らす取り組みが海の温暖化や酸性化から生態系を守り、そして寿司ネタを守ることにも繋がります。
 個人のレベルで言えば、日々の省エネの工夫がそうですし、行政のレベルで言えば風力発電や太陽光発電といった自然エネルギーをもっと増やすことなどが取り組みとして挙げられます」

●私たち一人一人が気をつけることで、海の異変を改善できるってことですね。

「そうですね。積み重ねによってそういうことが言えると思います。海の酸性化はもう世界中で同時に進行しています。気象庁が日本近海で行なっている海洋観測でも海水の pHが下がっているっていうのが記録として出ていますし、同じことがハワイの海で観測してもやっぱりあるという風に、地球全体で海の酸性化が進んでるということです」

●そういうことは私たち一人一人が知っていなきゃいけないですね。

「なかなか海の酸性化っていうキーワードは、まだ一般にはまだ知られていないところがあって、我々も伝えていかなきゃいけないところなのかなと思います」

●今後、山本さんが取材したいことはどんなことですか? 

「温暖化への対策として今注目されてるのは適応策ですね。つまり地球が暖かくなっちゃった中で、どうやって適応して生きていくのかっていうことなんですけども、例えば農業の分野だと気温が高くてもよく育つような作物を導入する動きは既に始まっています。
 東京の八王子市だと、南国のフルーツのパッションフルーツを13軒の農家さんが育てて、今名物にしようってやっています。気温が高くなってそういう環境に適応して農業をこれからもやってこうっていう、そういう取り組みですね。

 同じように海の温暖化についても適用策っていうのが研究、それから実践でも始まっています。具体的に言うと昔よりも高い海水温でよく育つワカメ、これ徳島県とかでやっています。あと高い水温でも枯れない海苔ですね。こういった研究が進められています。
 今後は海の温暖化に私たちがどう適応していくのかっていう、適応策についてさらに取材を進められたらなという風に思っています 」


INFORMATION

『温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系』

温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系


 海の中の変化は、陸上で起こっていることとは違い、なかなか目につかないので気がつかないことが多いですよね。それを海に潜って肌で感じていらっしゃる、海の潜水科学ジャーナリスト山本智之さんが鋭く指摘してしてくださっています。ぜひ読んでください。
 講談社からブルーバックス・シリーズの一冊として絶賛発売中です。

 詳しくは、講談社のサイトをご覧ください。

◎講談社HP:
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344368

オンエア・ソング 9月19日(土)

2020/9/19 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. BEYOND THE SEA  / STEVIE WONDER

M2. IT DON’T MATTER  / DONAVON FRANKENREITER

M3. LIFE IS BEAUTIFUL  / 平井大

M4. BEAUTIFUL  / G.LOVE FEAT.TRISTAN PRETTYMAN

M5. DON’T ANSWER ME  / THE ALAN PARSONS PROJECT

M6. THE OCEAN / THE MA’AM

M7. LIFE GOES ON  / FERGIE

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

さばいどる「かほなん」〜夢は無人島暮らし!〜

2020/9/12 UP!

 

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サバイバル・アイドル、さばいどるの「かほなん」さんです。

 かほなんさんは岐阜県生まれ。自然豊かな環境で育ち、キャンプ好きのお父さんと、登山好きなお母さんの影響でアウトドア好きな女の子に。そして、およそ4年半、東海地方をメインに、ご当地アイドル・グループのメンバーとして活動し、2018年からソロ活動をスタート。現在はテレビ、雑誌などのメディアほか、アウトドア系のYouTuberとしても活躍されています。
 「さばいどる」という肩書には、厳しいアイドル業界を生き抜くことと、サバイバル生活ができるようになること、そのふたつの意味が込められています。

 きょうはそんなかほなんさんにソロキャンプの極意や、こだわりのアウトドア・グッズ、そして夢の無人島暮らしのことなどうかがいます。

☆写真協力:かほなん

かほなんさん

ソロキャンプは自由!?

●キャンプ歴20年のかほなんさん、基本はソロキャンプなんですか?

「そうですね、基本はソロです!」

●ソロキャンプのいちばんの楽しみって何ですか? 

「ソロキャンプの楽しみはやっぱりひとりなので、好きな時間に好きなことができるっていう、自由ですね、ソロの自由さが好きですね」

●寂しいって思ったりはしないですか? 

「結構聞かれるんですけど、寂しいは今のところないです(笑)。楽しくて自由で」

●ソロキャンプで注意すべき点って何かありますか? 

「注意すべき点だと、キャンプするところは動物とかもいるところになるので、食べ物を放置して寝ないとか、あとキャンプ場だと他に人がいるので、高価なものを外に出したまま寝たりすると盗っていかれちゃったりとかそういう話も聞くので、そういう防犯とかも大事かなと思います。
 あと女子ソロキャンプって今流行ってるんですけど、女の子ならではの危険みたいなものもあるので、SNSとかにキャンプが終わるまでは、自分のテントとか自分がどこにいるかとかをアップしないようにしたりとか。危険になっても叫んだりしたら他の人に気づいてもらえるような場所でキャンプするっていう、ファミリーのそばでキャンプしたり、管理棟のそばでキャンプしたりとか、そういうところも頭に入れておくといいかなと思いますね」

『お金をかけない! 山登り&ソロキャンプ攻略本』

●なるほど〜! かほなんさんの本にアウトドアでも落ちにくいメイク術とか、日帰り山歩きのスタイルとか、あとザックの中身といった、すごく女性にとっても嬉しい情報がたくさん載ってるなという印象があったんですけれども、やはり女性のキャンパーは多いなーって感じますか? 

「そうですね。以前はファミリーのお母さんとかはキャンプ場で見かけたんですけど、最近はソロの女性の方とか、女性ふたりとか、ツーリングのキャンプの女の人とか見ますね」

●キャンプ女子増えてるんですね〜。
 お金をかけずに可愛くとか、プチプラブランドっていう風に高価なものを買わなくても、手軽にできるんだなーっていう風に今回かほなんさんの本を読んで感じたんですけれども、工夫次第でお金かけなくてもキャンプはできるんですね!

「そうなんですよ! キャンプ道具とか、この本には山登りとかも入ってるんですけど、キャンプとか登山とかのグッズって結構高価なんですよ! なかなか始めるにはちょっとハードルが高いというか、はじめの一歩が踏み出しにくい感じなんですけど、でも探せば、専門店のグッズじゃなくても代用できるものって結構あって、それこそ私は100均のグッズとかも使うので、そういうところを取り入れたりすれば、もっと始めやすいし、続けやすいし、楽しめるかなと思います」

機能性とカッコよさを重視!

写真協力:かほなん

●YouTubeのさばいばるチャンネルも見させていただきました! 

「ありがとうございます!」

●山登りとかキャンプとか釣りとか、もうあまりにも本格的でびっくりしちゃいました! アウトドアの知識とか技術っていうのはどうやって学んだんですか? 

「これはですね、さばいどるに隊長というのがおりまして、私のアウトドアの師匠に当たるんですけど」

●どなたですか? 

「名前がですね、ヒロシ隊長っていうんですけど、 あのキャンプ芸人さんのヒロシさんとはまた別の方で、あんまり知られてないんです。さばいどるチャンネルの再生リスト、シーズン1 に、サバイバルを始めた頃によく登場している私の隊長がいるんですけど、その方から学んでおります!」

●その方はどういう方なんですか? 

「その方はですね、ご覧になっていただければ分かりやすいと思うんです。大仏っぽいフォルムの、キャラクターに近いんですけど、ヒロシ隊長というスペシャルな方がおりまして(笑)」

写真協力:かほなん

●そうなんですね。例えばキャンプ、アウトドアグッズを使いこなされていたんですが、グッズ選びのこだわりっていうのはどんなところにありますか? 

「やっぱり見た目のかっこ良さとか、あと機能性を重視していますね。あまりブランドとかもこだわりがなくって、それこそホームセンターとか、100均とかで買ったものも使っています。ひとつのグッズで2つの機能があるとか、そういう多機能なグッズとかも結構好きです。

 例えば今使っているナイフだと、さばいどるとナイフ屋さんでコラボレーションして作ってもらったナイフが今2種類、“さばいどるナイフ”っていうのが出ているんです。薪割り用の斧とか鉈と、あと包丁とか、ナイフをいろいろ持っていかなくても、ひとつで済ませられるようにさばいどるナイフを作ってもらいました。

 1本のナイフで、先端は鋭いから料理がしやすいとか、刃が6ミリとかで太いので薪割りもしやすいんですよ。1本で何でもこなせるナイフとかそういうのも使っていまして、多機能というか荷物の数を最小限にするっていうか、機能的なグッズとか結構好きで使っています」

●へ〜! 荷物は少ないほうが行動しやすいですよね。

「そうなんですよ。どれだけでも増やせるんですけど、私は持ち運び便利とか、そういうところ好きなので。
 キャンプでよく、コンテナボックスって言って60センチ×40センチくらいの、高さも40センチくらいの箱をよく使うんです。その箱にキャンプ道具を詰め込んで、その箱2つ分くらいでよくキャンプをするんですけど、そういうボックスとかにグッズを入れて移動したほうが楽じゃないですか。片付けも簡単だし移動も簡単だし、そうするとやっぱり道具の数を抑えなきゃってなるので、そうやっていろいろ工夫をしています」

山を買って、マイ・キャンプサイト!?

写真協力:かほなん

●YouTubeのさばいどるチャンネルを見ていたら、山を購入したと動画にありました。ほんとに山を買ったんですか?

「買いました!」

●どうして山を買おうと思われたんですか? 

「やっぱり好きに遊べる場所がずっと欲しかったんですよ。でもキャンプ場とかだとやっぱり使えるもの、木を拾っても良いところとダメなところとあったりとか、いろいろルールとかもあって、キャンプ場でもキャンプは楽しめるんですけど、でも自由がちょっとなかったので、山を買って自由にキャンプしたいなと思って、そういうところで今は遊んでますね(笑)」

●でも手入れされていないと、荒れた状態ってことですよね? それはどうされるんですか? 

「結構、雑草というか山なのでいろいろ生えていたので、チェーンソーでいらない木を伐ってみたりとか、草刈り、刈り取り機で草を刈ってみたりとか」

●チェーンソーも使いこなせるんですね! 

「そうですね。私はまだまだなんですけど(笑)」

●綺麗に整地された場所でソロキャンプということですけれども、ご自身で作ったキャンプサイトってどうでした? 

「愛着ありますよね! 自分が整えたところ以外は草がボーボーに生えているのと、山ってやっぱり斜面じゃないですか。斜面ではなかなかテントで快適に寝られないので、土を掘ったりしてテントが張れるくらいのスペースを平らにしたんですけど、平らのスペースって結構貴重なのでそこに(テントを張って)泊まっていると嬉しくなっちゃいますね! 私が作った土地! みたいな(笑)」

●そうですよね〜特別な場所ですよね! ないものは現場で調達するという感じなんですか? 

「枝とか木とかはどんだけでも山にはあるので、そこで木を伐ってキャンプサイトを整えるっていう、ブッシュクラフトって言うんですけど、自然にあるものでものを作ってみたりとかキャンプサイトを作ってみたりして、キャンプを楽しむっていうことをよくやってますね。ないものを工夫して調達するっていうところがまたソロキャンプ、山キャンプの楽しみ方かなと思っています」

<ブッシュクラフトの説明>

 かほなんさんのお話に出てきた「ブッシュクラフト」は、最低限の装備だけを用意し、その場にあるものを活用しながら大自然の中で過ごすキャンプ・スタイルで、発祥の地は北欧と言われています。

 ガスコンロを使わずに焚火でお湯を沸かしたり料理を作ったり、箸や食器も木を削って自分で作ったりするそうです。食材も現地調達が基本! 食べられる野草やきのこ、木の実を探したり、魚を釣るなど、自力で調達します。

 ブッシュクラフトの必須アイテムはナイフ! そして火を起こすためのマッチなど。

 キャンプとしてはどちらかというと、上級者向けかも知れませんが、アウトドアで培った知識や経験を活かしながら、より自然と一体になれるアウトドア・スタイルではないでしょうか。

無人島で暮らしたい!?

写真協力:かほなん

●本にも最終目標は無人島を買って、そこで暮らすことと書いてあるんです。夢は無人島なんですか?

「そうです。無人島で暮らしたいんですよ! テレビ番組とかで無人島で3日間生き残るとか、無人島脱出とかはあるんですけど、そういうのじゃなくて、私は無人島で暮らしたい! かなりビッグなドリームかなと自分でも思っているんですけど(笑)」

●この本の中にも、支給された最低限のアイテムだけで、無人島模擬サバイバルに挑戦されましたけれども、やってみていかがでした?

「やってみた全体的な感想は、空き缶ってすごいなーって思いました!」

●空き缶、ですか? 

「缶詰をいくつか支給してもらってっていう今回の本の企画だったんですけど、料理をするフライパンとかの代わりになるクッカーがなかったんですよ、支給品の中に。どうやってご飯を炊こうかなとか、どうやって煮物しようかなとか色々考えたんですけど、空き缶、缶詰の缶があるじゃないかと思って。中身を食べてから残った空き缶を洗って、ご飯を炊くのに使ってみたりしたんですけど、結構上手に美味しくできまして、全然これでいいじゃんと思って、空き缶いいな〜って思いましたね」

●食料も缶詰とお米だけでしたよね!?

「そうなんですよ。テントも支給されてなくて、その時はブルーシートが1枚あったんですよ。なので木にロープを縛り付けて、ブルーシートをかけてみて、いろんなかけ方を工夫してみて、テントというか タープというか、ちょっと落ち着ける空間を作れたのでそこで寝てみました。朝起きたら結露でベチャベチャでしたね(笑)」

写真協力:かほなん

●実際に釣った魚を召し上がったりとかもされていましたけど。

「そうですね。私よく渓流釣りに行くんですけど、最初はみんなリリースしちゃうようなお魚を食べて美味しいって言ってたんです。だんだん釣るのが難しい魚とかも釣れるようになってきて、そういう魚って筋肉があって美味しいんですよ。アマゴとかヤマメとかなんですけど。今回の無人島模擬サバイバルではアマゴを釣ったんですけど、釣った魚美味しいですね〜!」

人間も自然のひとつ

●自然の中に身を置くとどんなことを感じますか?

「心地いいですよね。自然の中にいて、海もだし、川も山もそうなんですけど、やっぱり心地よさから居場所だなーって思いますね。大きい自然の中にいると自分がちっぽけに感じるんですけど、でもそれがまたいいというか 、人間も自然のひとつというか 動物のひとつなんだなーって改めて感じさせられて、心地いいですね、自然の中」


INFORMATION


かほなんさん情報

『お金をかけない! 山登り&ソロキャンプ攻略本』

お金をかけない! 山登り&ソロキャンプ攻略本


 かほなんさんが実体験で培った知識や技術をわかりやすく解説。高価な道具がなくても、アウトドアを楽しめるヒントが満載です。女子に役立つ情報もあり、巻末には創作野外料理のレシピも公開しています! 初心者の方はぜひ参考にされてみてはいかがでしょう。KADOKAWAから絶賛発売中です。詳しくは、KADOKAWAのサイトをご覧ください。

◎KADOKAWAのHP:
https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000957/

 真のアウトドアズ・ウーマンぶりが見られるYouTubeさばいばるチャンネルもぜひ見てください。かほなんさんのオフィシャル・サイトから飛んでいけます。

◎かほなんさんのHP:http://survidol.com/

 かほなんさんは「おぎやはぎのハピキャン」にゲスト出演中! ぜひご覧ください。

◎番組HP:
https://happycamper.jp/tv_program

オンエア・ソング 9月12日(土)

2020/9/12 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. SATURDAY NIGHT  / BAY CITY ROLLERS

M2. PEACEFUL EASY FEELING / EAGLES

M3. SURVIVOR  / DESTINY’S CHILD

M4. I WILL SURVIVE  / GLORIA GAYNOR

M5. 空の青さを知る人よ / あいみょん

M6. (YOU MAKE ME FEEL LIKE A) NATURAL WOMAN / CAROLE KING

M7. WIND BENEATH MY WINGS  / BETTE MIDLER

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

恐竜少女、夢の古生物学者に!

2020/9/5 UP!

 

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、恐竜博士に憧れて古生物学者になった国立科学博物館の研究員「木村由莉(きむら・ゆり)」さんです

 木村さんは長崎県佐世保生まれ、神奈川県育ち。早稲田大学卒業後、2006年にアメリカに留学し、博士号を取得。その後、スミソニアン国立自然史博物館の研究員を経て、2015年から国立科学博物館・地学研究部の研究員。専門は陸上の哺乳類化石、特にネズミやリスなどの、齧歯類(げっしるい)の進化と生態を研究していらっしゃいます。そして先頃、『もがいて、もがいて、古生物学者〜みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから』という本を出されました。

 きょうは古生物学や化石の発掘、そして大好きな恐竜への思いなどうかがいます。

☆写真協力:木村由莉

木村由莉さん

骨の研究のため、アメリカへ!

※木村さんのご専門、古生物学とはどんな学問なんでしょう?

「古生物学、漢字で書くと古い生物学ですよね。絶滅して化石になってしまった生物について、その生物が一体どんな姿をしていたのかとか、見た目ですね。あと何を食べていたのかを知る学問になるんですけれども、今生きている生物と絶滅した生物は全然、無関係ではなくて、必ず進化の道筋で繋がっているんです。

 古生物学っていうのは何か地面から見つけたものをなんだろう? っていう、それだけではなくて、生物の進化について研究するために、絶滅した生物を研究材料にしているっていうような感じになります。
 どうしても恐竜の骨とかが一般的なイメージになるんですけれども、例えばその生物が付けた足跡とか、あとは住処、それに排泄物も実は研究対象になるんです」

●そうなんですね〜。古生物の研究が進んでいる国っていうと、どちらになるんですか? 

「地面から見つかっている、偶然出てくるものを対象にするので、保存状態の良い化石が産出する国じゃないといけないんですよ。日本っていうのはなかなか大きな化石を見つけるのはすごく大変です。どうしてもやっぱり土地自体が広くて、あんまり人が住んでいないようなところが、化石を見つけるのにちょうどいいんで、アメリカやカナダ、最近では中国辺りがやっぱり古生物の研究、良い標本があるっていう意味では進んでいる国なのかなって思っています。

 中国なんて羽毛恐竜なんていうのも見つかっているんですね。それに対して日本はどうかというと化石自体はそんなに見つからないんですけども、その分クリエイティビティの高い研究がたくさんされているので、論文を読んでみると、日本人の著者の論文は実はすごく面白かったりもするんです」

●へー! では木村さんも海外で学ばれたということですよね?  

「そうなんです。大学は東京の大学に行っているんですけども、大学院の時に、そのまま進学したんです。でも、やっぱり骨の研究したいな〜って思った時に、当時はまだ骨化石を専門にする先生が(日本の)大学にほとんどいらっしゃらなかったっていうのもあって、アメリカに行ってみようということで、テキサス州の大学院で、修士課程、博士課程を学びました」

木村由莉さん

<恐竜化石の宝庫>

 さて、木村さんのお話にもあった通り、恐竜の化石はカナダ、アメリカ、中国で多く発掘されています。
 カナダで世界屈指の化石発掘地として知られるのがアルバータ州のカナディアン・バッドランドで、氷河の浸食による荒涼とした大地から恐竜や古代生物の化石が数多く発見されています。
 また、ユネスコの世界遺産にも登録された州立恐竜公園があり、白亜紀の化石が世界で最も見つかる場所として今も発掘作業が行なわれています。

 アメリカでは様々な州で恐竜の化石が発見されていますが、特に有名なのがモンタナ州で、州内各地で恐竜たちの痕跡が見つかっています。マコシカ州立公園内やその周辺では10種類もの恐竜が発見され、トリケラトプス・ホリドゥスの完全な頭の骨や、非常に珍しいテスケロサウルス類のほぼ完全に近い形の化石も見つかりました。州内にはこれらを展示している施設もたくさんあります。

 そして、中国で世界有数の恐竜化石の産地となっているのが、モンゴルにかけて広がるゴビ砂漠。1922年から30年にかけてアメリカの調査隊が数々の化石を発見し、保存状態の良いものが多数見つかったことで知れ渡りました。日本の大学の調査隊も2016年に1メートルを超える足跡の化石を発見したそうです。

写真協力:木村由莉

 一方で日本でも恐竜の化石は発見されています。まずは福井県。勝山(かつやま)市で恐竜の化石が多数発掘され、「恐竜王国」とも呼ばれています。また、北海道も恐竜やアンモナイトなどの化石の宝庫として知られ、展示施設も多数あります。

大恐竜博とジュラシック・パーク

※ところで、古生物学者になろうと思ったのはいつ頃だったのでしょうか。

「結構ずーっと子供の頃から恐竜のことを好きだったんですけども、すごくよく覚えているのが6〜7歳の時に行った恐竜展なんですよ。幕張であった『大恐竜博』っていう展示なんですけども、その時日本にいながらカナダの化石がいっぱいやってきて。
 すごく大きな会場で、ある人はクリーニングしていたり、あとは復元された恐竜がドーンと展示されていたりで、もうワクワクがいっぱいの場所だったんですね。その時にやっぱり恐竜好きだな〜って小さいながらに思ったんですよ。

 で、もうひとつの転換期が、小学校高学年になってから上映された初代の『ジュラシックパーク』です。これで古生物学、むしろ恐竜がお仕事になるんだっていう風にわかったんですよね。古生物学者っていう人たちがいて、恐竜を対象にお仕事をしている、これを自分でもやってみたいなっていうのが、古生物学者になろうと思ったきっかけになります。

 (『ジュラシック・パーク』で)すごく印象的なのが、今もすぐに思い出せるシーンなんですけども、トリケラトプスが毒の草を飲んでちょっと弱っているような状態で、女性の古植物学者さんがそのトリケラトプスに近づいて、もしかしたら毒を飲んだのかもしれないって言って、排泄物に手を入れて一体何が問題だったのかを探ろうとするようなシーンがあるんですよ。それがすっごい衝撃的で、その時に初めて、今までは化石っていうのは石に閉じ込められてしまった動物みたいなイメージもあったんですけども、実際、恐竜はこういう風に地球上に生きていた動物なんだなっていう風に、すごく気付くようなきっかけになりました」

●余談なんですけれども、テレビの科学番組で再現される恐竜が大きく変わってきたということで話題になったりします。そのひとつが体毛や体の色ということなんですけども、昔は爬虫類のような皮膚で再現されていたものが、今はどんどん変わってきているということで、その辺り木村さんはどのように感じられていますか? 

「鳥に近いグループですよね。昔は鱗で表現されていたのが、羽毛恐竜っていうのが実際に見つかって、だんだん復元図でも羽毛が足された姿が出てきましたよね。昔はまさに羽毛こそが鳥の印だったんですけども、実際は恐竜の段階から羽毛っていうものが生えていたっていうことが分かったっていうので、ここ10年は特にすごくて羽毛の色っていうのも分かってくるようになりました。

 それは化石化したメラノソームっていうものなんですけども、色素を作っているようなところ、それの形態を見ることによって大体こんな色っていうのが特定できるんですね。それによっていくつかの恐竜に関してはトサカの部分は赤くて体の部分が黒、ちょっと白が混じっているだとか、そういう風に本当の、石に閉ざされた生物じゃなくて、昔、地球上にいた生物として復元が鮮やかになってきています。そういうのはすごく嬉しいです」

もうひとつの明るい道

※恐竜が大好きだった少女がどうやって古生物学者になったのか、そこには古生物学の第一人者「冨田幸光(とみだ・ゆきみつ)」先生との運命的な出会いがあったからなんです。

 木村さんが高校一年生のときに、国立科学博物館で開催された、南半球・ゴンドワナ大陸の化石を展示した恐竜展を見学。その恐竜展を監修したのが冨田先生だったんです。木村さんは古生物学者になりたい一心で、その熱い思いを何枚もの便箋にしたため、冨田先生に送ります。そして、分厚い封筒を受け取った先生からなんと返事が来たんです。

 実は当時、先生はアメリカで開催される学会を前に多忙を極めていて、何通も来る相談の手紙を読むような時間はなかったそうです。ところが! 気分転換のつもりで、たまたま木村さんの手紙を開き、そして興味を持った先生は、学会が終わったら、研究室で話を聞く約束をしてくれたんです。

 冨田先生と出会ったことで、木村さんは一気に古生物学者への道を進んでいったことは言うまでもありませんよね。冨田幸光先生との出会いについては、木村さんの本『もがいて、もがいて、古生物学者〜みんな恐竜博士になれるわけじゃないから』に詳しく載っています。

もがいて、もがいて、古生物学者〜みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから

 現在木村さんの専門は恐竜ではなく、ネズミやリスなどの齧歯類。なぜ哺乳類化石の研究者になったのか、そのいきさつについてお話しいただきました。

「冨田先生はゴンドワナの恐竜展を監修していたんですけども、その頃の専門はウサギの化石がメインだったんですよね。私は大学に入ってから富田先生の研究室にちょこちょこ出入りするようになるんですが、先生の部屋っていうのは小さな哺乳類の化石だとか、あとは今生きている動物の、骨になった姿とかがたくさん置いてあるんですよ。

 空き時間に先生の部屋でそういう動物たちのスケッチとかしていると、スケッチがだんだん溜まっていって愛着が湧いて、大学生の低学年の頃には結構、齧歯類も可愛いなと、ウサギも可愛いなと思うようになったんですよ。骨を見て可愛いなと思っているんで、ちょっと気持ち悪いかもしれないんですけど(笑)、骨を見て可愛いなと思っていたりするんですね。

写真協力:木村由莉

 一方で大学に入って、恐竜の研究をしたいって言っている別の学生にも出会うわけですよね。その時に自分が恐竜を研究したいっていう広い枠組みで思っていることに対して、その時に出会った今の友人たちは、こういう研究をしたいっていうテーマがすごく特定されていたんですよ。

 大学生の段階でそのくらい違うっていうことを考えた時に、もしかしたら恐竜っていうのは古生物っていう入り口なだけであって、本当に恐竜を研究したいっていうのとちょっと違うかもしれない、もしくは恐竜(専門)で進んでいったら、きっと友人たちは学者さんになるけど、自分は学者さんにはなれないかなとか、そういうことを思っていたんですね。

 また一方でフィールドワークって言って、野外に化石を探しに行くっていう調査に参加するようになるんですけれども、その調査ですごく身に染みたのは、自分は身体も小さいので周りの人に比べて背負えるリュックの重さっていうのが断然軽いんですよ。そうなると大きな恐竜の化石を見つけた時にそんな非力な人をなかなか連れて行かないんじゃないかなって。

 もし私が先生で誰か学生さんと恐竜発掘に行くみたいになった時に、恐竜が実際に見つかりました、川で見つけてそれを例えば道路まで運びますってなった時に、やっぱり力のある人を連れて行くんじゃないかなと思った時に、自分はもしかしたら恐竜をやっていると選ばれないかもしれないなっていう風に思ったんです。

 それがちょっとした挫折のポイントだったんですけど、その時にいろいろやっていたひとつとして小っちゃな齧歯類化石、小っちゃいから運べるじゃん! っていう(笑)、これだったらできるじゃん! みたいな感じで結構明るい道として私には映ったんですよ。恐竜でもしかしたらできないかもしれないな、研究者にはなれないかもしれないなって思った時に、齧歯類の化石がすごい明るい道に見えて、これで行けるところまで行ってみたいっていうのが、私が今、齧歯類の化石で研究者になっている経緯になります」

写真協力:木村由莉
写真協力:木村由莉

夢の捉え方

※木村さんの専門、ネズミなどの哺乳類は小さいので、その化石を見つけるのは大変じゃないですか?

「本当にその通りで、実際には死んでしまって有機物の部分がバラバラになった時に、骨自体が一個一個バラバラになってしまうんですね。それでも大きな動物の場合は重量があるから、ある程度まとまって留まってくれるのに対して、小さい骨の場合は本当にバラバラに崩れて壊れてしまって、川に流されたりして崩れてしまうんですよ。

  そういう意味で小さい動物の化石そのものを探すのは実はすごく大変なんですけども、小さい動物の場合たくさん子供を産むし、それに1匹の個体の生きている年齢もそんなに長くないですよね。地質年代的にはすごくたくさんのネズミが存在していることになるので、確率論的にはネズミの化石もバラバラに崩れながらも実はたくさん見つかるんです」

写真協力:木村由莉

●なるほど〜! 

「骨はやっぱり壊れやすいんですけども、歯はすごく硬い物質、アパタイトって硬い鉱物でできているので、砂粒みたいな状態で残ってくれるんですよ。
 フィールドワークに行くと、みんながコンコンって化石発掘したり、ブラシで表面を拭ったりして骨を出して、ジュラシックパークみたいな状態で化石発掘している人たちの横で、私はどんなことをしているかっていうと、堆積物を土嚢の中に入れてたくさん取ってきて、それをふるいの上で洗うんですよ。

 ふるいの上には少し粗いものが残って、下からは泥が出てくっていう風になるんです。砂つぶと、もしあったら歯の化石とか骨の化石がふるいの上に残るので、そのふるいの上に残った残渣物を集めて、それを顕微鏡でゆっくり見ていって化石を探していく、そんな感じで、実は小型の哺乳類の化石はたくさん見つかるんです」

写真協力:木村由莉
写真協力:木村由莉

●研究している上でいちばん嬉しい瞬間ってどんな時ですか? 

「日本から出ないと思われていた化石が出てきたっていう報道ってありますよね、新聞の報道に。そういう風に通説を覆すような発見に繋がりそうって分かった時に嬉しいな〜っていう風に思います」

●小さい頃からそういった化石とかがお好きだったわけですからね! 

「そうですね!」

●子どもの頃から考えたら夢のような日々ですよね〜! 

「本当にそうだと思います、自分でもびっくりするくらい。恐竜っていう部分に関しては、いつも少し夢が叶って少し夢が叶わなかったな〜なんて思うんですよ。
 私は東京近辺に住んでいたので国立科学博物館によく通っていて、なんとなくイメージとしてこんなところで働きたいなっていう風に小っちゃい頃は思っていたので、そこで今働けているって意味ではひとつ夢が叶っているんです。

 ただ恐竜の博士になりたいっていうのも、ものすごく大きな夢だったので、それが恐竜から体のサイズをぐーっと小さくした齧歯類の研究をしているってことで、ひとつ夢が叶わなかったっていうのはあるんですけど、その夢も夢の捉え方なのかなって思っていて。もし恐竜をやっていたら学者になれなかったかもしれないっていう、道が先にあるんだったら、自分はすごい研究者になってみたいと思っていたので、齧歯類の化石をこれから自分で有名にしていくぞ!っていう気持ちで研究ができる、こっちのほうが今は好きかなって思っています」


INFORMATION


木村由莉さん情報

もがいて、もがいて、古生物学者!!〜みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから


もがいて、もがいて、古生物学者!!〜みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから

 タイトル通り、恐竜博士になることを夢見た少女が、もがいて、もがいて小さな哺乳類化石の研究者になるまでを綴った自伝的エッセイ。応援したくなる感動の一冊! 古生物学者を目指す子供たちへの進路アドバイスも載っています。ぜひ読んでください。ブックマン社から絶賛発売中です。

◎ブックマン社HP:
https://bookman.co.jp/book/b524508.html

 木村さんの研究や活動については国立科学博物館のオフィシャル・サイトを見てください。

◎木村由莉さんのHP:
https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=ykimura

オンエア・ソング 9月5日(土)

2020/9/5 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. Birthday  / Mr. Children

M2. BRIGHTEST STAR  / DRIZABONE

M3. BONES / GALANTIS FEAT. ONEREPUBLIC

M4. ときの旅路〜レックスのテーマ  /米米CLUB

M5. WALK THE DINOSAUR / WAS (NOT WAS)

M6. I STILL HAVEN’T FOUND WHAT I’M LOOKING FOR / U2

M7. 夢への地図 / スターダスト レヴュー

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

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