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Every Sun. 20:00~

寿司ネタが獲れなくなる!? 〜温暖化が及ぼす海の異変〜

2020/9/19 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海の潜水科学ジャーナリスト「山本智之(やまもと・ともゆき)」さんです。

 山本さんは1966年、東京都生まれ。東京学芸大学大学院を経て、朝日新聞記者としておよそ20年、科学報道に携わり、現在も「海洋」をテーマに取材を続け、調査も含め、国内外の海に500回以上も潜っていらっしゃいます。また、今年から朝日学生新聞社編集委員としてもご活躍されています。
 そんな山本さんが先頃、新しい本『温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系』を出されました。番組としても、とても気になる内容で、いったい日本の海で何が起こっているのか!? きょうはたっぷりお話をうかがっていきます。

☆写真協力:山本智之

写真協力:山本智之

ここは伊豆なの? 沖縄なの?

※まずは、国内外の海に500回以上、潜っているということで、やはり海の変化を肌で感じていらっしゃるのでしょうか?

「そうですね。自分の肌感覚としても海の変化を感じる場面っていうのはあります。私は元々ダイビングが趣味で水中写真の撮影を30年近く続けています。それで新聞記者としての取材ではヘドロの大阪湾から綺麗な沖縄の海までいろんな海で潜水しましたし、海外では赤道直下のガラパゴス諸島から氷の浮かぶ南極海まで、あちこちの海で潜ってきたんですね。ただ普段、趣味の水中写真の撮影でよく行くのは静岡県の伊豆半島の海なんです。

スズメダイの群れ(伊豆半島)
スズメダイの群れ(伊豆半島)


 そこでは、ちょうどこれからの時期は、黒潮に乗って本州の海にやってきたカラフルな熱帯魚の姿がとても目立つようになります。例えば、黄色いビー玉のような姿をしたミナミハコフグの子供ですとか、普通はサンゴ礁で見られるような種類のチョウチョウウオの仲間とか、そういったものが、日本列島に沿って流れる黒潮が巨大なベルトコンベアのようになって、熱帯魚の子供たちを運んでくるんです。

ミナミハコフグ(伊豆半島)
ミナミハコフグ(伊豆半島)


 ただ所詮は熱帯魚ですから、冬になると寒さで死んでしまうんですね。それでこういう熱帯魚の子供たちは“死滅回遊魚”と呼ばれています。回遊してきても死んでしまう魚たちという意味です。姿を見せては死んでいくというのが、伊豆半島の海では自然の現象として毎年繰り返されてきたんですね。それで私達ダイバーは、南の海から流れ着いた熱帯魚の子供たちを見つけると、よく水中写真を撮って記録を残します。特に南方系の珍しい魚を見つけると、あ、レアものが出た! なんて言って一生懸命シャッターを切ってきたわけです。

 ところが近年は伊豆半島の海で冬になっても、熱帯魚が死なずに生き残るという現象が目立つようになりました。瀬能宏さんという魚類の研究者が調べたところ、伊豆半島を含む駿河湾と相模湾の海では、過去20年間で59種の熱帯魚の越冬が確認されました。そんなわけで長年潜り続けてるダイバー達は、海の変化っていうのを目の当たりにしてるんですね」

●肌で感じてらっしゃるってことなんですね。

「そうですね。最近で言うと伊豆半島の大瀬崎って有名なダイビングポイントがあるんですけども、今年の春には沖縄でよく見られるアザハタっていう赤色の熱帯魚がいるんですが、これが2度冬を越して大きさが30センチぐらいに大きく成長しているのが見つかりました。ですからもうこうなるとダイバーからすると、ここは伊豆なの? それとも沖縄なの? っていうそういう驚きですね」

アザハタ(沖縄・慶良間諸島)
アザハタ(沖縄・慶良間諸島)


アワビやホタテが獲れなくなる?!

※山本さんは新刊『温暖化で日本の海に何が起こるのか』で、お寿司のネタが獲れなくなるかもしれないと指摘されています。これはほんとなんですか?

山本智之さん

「そうですね。例えば高級な寿司ネタになるアワビですけど、高くてあまり食べられませんけども、既に昔に比べて漁獲量が大幅に減ってしまっています。これまでそのアワビが減った最大の要因として指摘されてきたのは乱獲、獲りすぎですけども、今後は地球温暖化が進んで日本近海の海水温が高くなっていくと、特に九州などの南の暖かい海ではアワビの餌になる海藻が育ちにくくなって、その結果アワビの漁獲量がさらに減ってしまうという可能性が高いです」

●嫌です!(苦笑)

「そうですね。食べられなくなるのは嫌なんですけど、1970年代から90年代の漁獲量のデータがあるんですが、それに比べて近年は平均して60%ほど漁獲量が少なくなってると、これは九州での話ですけども」

●ホタテとかマグロとかも、そういった危機にあるんですか? 

「そうですね。ホタテ貝も貝柱がプリッとした甘みがあって私好きなんですけど、刺身もそうですし、寿司ネタでも回転寿司なんかでもよく出てくると思うんですけども、これも海水温が暖かくなるとホタテ貝は将来ですね、今のようには獲れなくなるという風に予測されています」

●秋の味覚のサンマも、また今年も記録的な不漁と言われていますけれども。

「そうですね。サンマはただ、元々10年から20年の周期で漁獲量の変動が繰り返されてきた魚なんですね。なので年によって豊漁不漁というのは昔からあるんです。そのことを踏まえて考える必要があるんですが、ただサンマは水温の低い海域を好んで回遊するっていう性質があります。そして今年に限らず近年の不漁っていうのは、日本近海の高水温が影響しているという指摘があります」

水揚げされたサンマ。温暖化すると小型化すると予測されている。
水揚げされたサンマ。温暖化すると小型化すると予測されている。


●本来、日本の海は黒潮だったり親潮だったりが流れているので豊かな海なんですよね? 

「そうですね。黒潮は暖かい暖流ですし、親潮は冷たい寒流です。南北に3000キロ近い長さがあって、様々な環境の海があるってことが日本の海の豊さの理由なんですね。

 で、さっき言いましたサンマで言うと、黒潮と親潮の混ざる混合域ってところがあるんですけども、そういうところでプランクトンがたくさん出て、そういうものを食べて大きくなるっていうところがあるんです。ところが将来、地球温暖化が進んでいくと、そのサンマの餌になる動物プランクトンが減るという風なシュミレーションで予測されています。

 そうすると2050年にはサンマの体長が、今よりも1センチ小さくなると、2090年になると今よりも2.5cm小さくなる、そういう予測研究があります。だからちょっとサンマが小ぶりになって、あんまり食べ応えがなくなっていっちゃうかもしれませんね」

『温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系』

サンゴの白化現象

※海で起こっている異変、やはり温暖化が原因なんでしょうか?

「基本的には海の温暖化っていうのは地球レベルで起きています。ただ地球上の全部の場所、陸も海もそうですけど、同じように温度が上がるわけじゃなくて、場所によって温度の上昇率の高いところ、そうでもないところがあります。比較的、日本の近海というのは、世界の平均に比べて海水温の上昇のペースが早いっていうことですね。

●季節によって水温は上がったり下がったりするものだと思うんですけれども、平均の水温が上がっているのが問題なわけですか? 

「そうですね。気象庁によりますと日本近海の海面の水温が、過去の100年間で1.14度上昇しています」

●その1度ってそんな重要なんですか? 

「我々の日常の感覚で言うと、エアコンの1度だったならば、我慢できる範囲ぐらいかなっていう風に思うんですけども、海の生き物はたった1度の水温の変化にも敏感に反応します。例えばサンゴは、今いくつかの種類が日本列島に沿って分布を北上させてることが分かっています。

健全なサンゴ礁に集まる様々な魚たち(オーストラリア・グレートバリアリーフ)
健全なサンゴ礁に集まる様々な魚たち(オーストラリア・グレートバリアリーフ)


 問題は1日毎の変化じゃなくて、年間の平均の海水温が1度上がっちゃうっていうことなんですね。例えば、陸上の気候でも猛暑の年って昔からありました。でも全体の気温が、平均気温が1度底上げされるって言うと、その土台に乗っかってまた猛暑が起こりますから、猛暑の年はより強烈の猛暑になるということですね。
 これは海の中でも同じで、冷たい海水を好むホタテ貝とかサケ、それから海藻の昆布へのダメージが心配されているのは、これが大きな理由です」

●海水温が上がるとサンゴが死んでしまうということですけれども、どういう現象が起こっているんですか? 

「サンゴは、姿は樹木のような形をしていたりとか、テーブル状だったり、ちょっと植物っぽい形をしてるんですが、イソギンチャクに近い種類の動物です。そしてその体の中に褐虫藻という直径が0.01ミリほどの藻類、植物ですけど、小さいつぶつぶの植物が共生しているんですね。

 サンゴはイソギンチャクの仲間ですから、触手を使って動物プランクトンを捕まえて、餌として食べることもできます。でも実際は、生きていく上で必要な栄養の大部分を褐虫藻から貰って生きているんですね。褐虫藻はつまり植物なので光合成をして栄養を作り出すんですよ。それをサンゴに分けてあげるんです。サンゴはかなり頼り切って生きてるということなんですね。

健全なサンゴ礁の色(和歌山・串本)
健全なサンゴ礁の色(和歌山・串本)


 さっきおっしゃった海水温が上がるとサンゴが死んでしまうっていう話なんですけど、海水温が高くなってストレスが加わると、サンゴの体に棲んでいる褐虫藻が大幅に減ってしまうんです。そうするとサンゴはどうなるでしょうか? 栄養を褐虫藻に頼っていますから、栄養不足になりますよね。その時サンゴの体が白っぽくなるため、白化現象と呼ばれています。それでこの白化現象が長く続くと、サンゴは栄養失調になって最後は死んでしまうということですね」

●それも全て地球温暖化が原因ということですね? 

「そうですね。全体が底上げされていますので。白化現象は昔からたまにはあったんですけども、米国の研究チームによりますと、これから地球温暖化が進んでいくと、白化現象と次の白化現象の起きる間隔がだんだん短くなっていくと。 そうするとどうなっちゃうかって言うと、サンゴは結構強い生き物で、死んでもまた再生して新しく群体ができて増えていく力があるんですけども、ダメージを受けたまま、すぐに次のダメージが来ちゃうので回復する間がなくなっちゃうと。ということはサンゴ礁がどんどん衰退していっちゃう、これが温暖化で今すごく心配されてることですね」

大問題!? 海の酸性化

写真協力:山本智之

※山本さんは新しい本『温暖化で日本の海に何が起こるのか』の中でもうひとつの問題として、海の酸性化をあげていらっしゃいます。なぜ酸性化するのでしょうか。

「まずは温暖化の話で言いますと、いちばん原因物質として言われるのが二酸化炭素ですね。他のガスもありますけども、その二酸化炭素にはもうひとつ厄介な性質があって、地球を温めるだけじゃなくて、水に溶けると酸として働くっていう、そういう性質があるんです。
 そうするとどうなっちゃうかっていうと、私たち人類が大気中に排出した二酸化炭素が、どんどん海に溶け込みます。そうすると海水を酸性化させてしまうんですね。世界全体では人類が排出した二酸化炭素の約23%、大体4分の1が海に吸収されているという風に推計されています」

●海がそもそも酸性化しちゃうと、どうなっちゃうんですか? 

「元々海水は、世界の海の表層の平均が、 pHって理科で出てきますね、pHが8.1の弱アルカリ性なんです。海水は弱アルカリ性なんだけど、二酸化炭素が溶け込んで酸性化が進むと、だんだんpHの値が8.1から7に向けて低くなっていっちゃうと。
 だから海の酸性化の問題っていうのは、海水が完全な酸性になるわけじゃないんですけど、弱アルカリ性から中性にpHが下がっていくということだけで、生物にはものすごく影響が出てしまうっていうことですね」

●例えば、海の生態系にはどんな影響が出ちゃうんですか? 

「二酸化炭素の濃度で言うと産業革命前は大体278ppmだったものが、最近は400ppmを超えていますね。そうすると世界の海のpHは、産業革命の前に比べると既に0.1ほど低下したという風に見積もりが出ています。

pHが下がってなんなの? っていうのが今のご質問だと思うんですけど、海が酸性化することの最大の問題は、貝とかウニ、それからサンゴといった生物が炭酸カルシウムの殻や骨格を作りにくくなってしまうという、そういう点なんです。つまりさっきもちょっとお寿司の話がありましたけど、海の酸性化が進むと、寿司ネタで言えばウニやホッキ貝などが減ってしまう恐れがあるんです」

●えー! それは困ります。海の酸性化って地球温暖化をどんどんまた進めてしまいそうな気もするんですけれども、悪循環な感じですよね?

「要は、この2つのキーワードは根っこは一緒なんですね。海の温暖化と海の酸性化、これは両方とも私たちが排出する二酸化炭素が原因なんですね。なので同じ二酸化炭素って物質が物理的な変化として気温や海水を上昇させます。それと同時に海に溶け込むことで、まるで生活習慣病のように、海水の海の科学的な性質も変えてしまうと。そして海水のpHが低下すると今度は、大気から海洋に二酸化炭素が溶け込みにくくなって、海はつまり温暖化のブレーキ役としての力があるんですが、その力が削がれてしまって、結果として温暖化の加速に繋がるという風に言われています」

解決できるのか!?

ガラスのように透き通った海(沖縄・慶良間諸島)
ガラスのように透き通った海(沖縄・慶良間諸島)


※最後に・・・海の温暖化、そして海の酸性化、その問題を解決する糸口はあるのでしょうか?

「そうですね。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな例え話になっちゃうんですけども、私たちの生活に伴って大気中に排出される二酸化炭素の量、これを減らす取り組みが海の温暖化や酸性化から生態系を守り、そして寿司ネタを守ることにも繋がります。
 個人のレベルで言えば、日々の省エネの工夫がそうですし、行政のレベルで言えば風力発電や太陽光発電といった自然エネルギーをもっと増やすことなどが取り組みとして挙げられます」

●私たち一人一人が気をつけることで、海の異変を改善できるってことですね。

「そうですね。積み重ねによってそういうことが言えると思います。海の酸性化はもう世界中で同時に進行しています。気象庁が日本近海で行なっている海洋観測でも海水の pHが下がっているっていうのが記録として出ていますし、同じことがハワイの海で観測してもやっぱりあるという風に、地球全体で海の酸性化が進んでるということです」

●そういうことは私たち一人一人が知っていなきゃいけないですね。

「なかなか海の酸性化っていうキーワードは、まだ一般にはまだ知られていないところがあって、我々も伝えていかなきゃいけないところなのかなと思います」

●今後、山本さんが取材したいことはどんなことですか? 

「温暖化への対策として今注目されてるのは適応策ですね。つまり地球が暖かくなっちゃった中で、どうやって適応して生きていくのかっていうことなんですけども、例えば農業の分野だと気温が高くてもよく育つような作物を導入する動きは既に始まっています。
 東京の八王子市だと、南国のフルーツのパッションフルーツを13軒の農家さんが育てて、今名物にしようってやっています。気温が高くなってそういう環境に適応して農業をこれからもやってこうっていう、そういう取り組みですね。

 同じように海の温暖化についても適用策っていうのが研究、それから実践でも始まっています。具体的に言うと昔よりも高い海水温でよく育つワカメ、これ徳島県とかでやっています。あと高い水温でも枯れない海苔ですね。こういった研究が進められています。
 今後は海の温暖化に私たちがどう適応していくのかっていう、適応策についてさらに取材を進められたらなという風に思っています 」


INFORMATION

『温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系』

温暖化で日本の海に何が起こるのか〜水面下で変わりゆく海の生態系


 海の中の変化は、陸上で起こっていることとは違い、なかなか目につかないので気がつかないことが多いですよね。それを海に潜って肌で感じていらっしゃる、海の潜水科学ジャーナリスト山本智之さんが鋭く指摘してしてくださっています。ぜひ読んでください。
 講談社からブルーバックス・シリーズの一冊として絶賛発売中です。

 詳しくは、講談社のサイトをご覧ください。

◎講談社HP:
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344368

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