毎回スペシャルなゲストをお迎えし、自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。
生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで幅広く取り上げご紹介しています。

Every Sun. 20:00~

2020年11月のゲスト一覧

2020/11/29 UP!

◎上坂浩光(劇場版『HAYABUSA 2-REBORN』の監督・天体写真家) 『人の心を震わせる「はやぶさ」ミッション 〜小惑星探査機「はさぶさ2」、地球帰還直前スペシャル!』(2020.11.29)

◎仲川希良(モデル、フィールドナビゲーター)『山を旅する〜仲川希良さん流の山の楽しみ方 』(2020.11.22)

◎大竹英洋(自然写真家)『森と湖の大地ノースウッズ 〜オオカミに導かれて〜』(2020.11.15)

◎石倉良信(俳優)『「苔は死なない」主演:石倉良信~苔を愛した役者の熱愛物語〜』(2020.11.08)

◎雨宮国広(縄文大工)『石斧は“すべて丸く収まる”道具 〜縄文人から学ぶ持続可能な生活〜』(2020.11.01)

人の心を震わせる「はやぶさ」ミッション 〜小惑星探査機「はさぶさ2」、地球帰還直前スペシャル!

2020/11/29 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、劇場版『HAYABUSA 2-REBORN』の監督、そして天体写真家の「上坂浩光(こうさか・ひろみつ)」さんです。

 上坂さんは1960年生まれ、埼玉県出身。独自に3Dのソフトウエアを開発し、CG制作を行なってきたクリエイターでCMやゲーム映像など幅広い分野で活躍。その一方でアマチュアの天体写真家としての顔も持っていらっしゃいます。

 現在、全国の映画館でロードショー中の劇場版『HAYABUSA 2-REBORN』は小惑星探査機「はやぶさ」と、その後継機「はやぶさ2」を描いたプラネタリウム・フルドーム映像作品3部作の完結編で、1作目の『HAYABUSA-BACK TO THE EARTH』と3作目『HAYABUSA 2-REBORN』を再編集した作品となっています。

 「はやぶさ2」がいよいよ12月6日に地球に帰還予定。打ち上げられたのは2014年12月3日。課せられたミッションは小惑星「リュウグウ」から採取したサンプルを持ち帰ること。地球を旅たってから6年、いくつもの困難を乗り越え、今まさに帰還しようとしています。

 きょうはミッションをやり遂げようとしている「はやぶさ2」への想い、そして宇宙や天体へのロマンに迫ります。

☆写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

天文少年の憧れ

*今回の作品についてお話をうかがう前に上坂さんがどんな方なのか、迫ってみたいと思います。やはり、子供の頃から宇宙に興味があったのでしょうか。

「そうなんですよ。もう完全に天文少年というか科学少年というのか、宇宙・科学が大好きでした。そのきっかけというのは確か小学校4年生だったと思うんですが、アポロ11号が月に初めて人間を運んで着陸しましたよね。それでもうびっくりしてですね。地球から見えている月に人間が行ったのか! っていうのは大変驚きでした。

 その翌年にさらに火星大接近がありました。それをどうしても見たくて、望遠鏡を買いに走るっていう、新聞配達してお金貯めて。そのくらい熱心な少年でした」

●そういった宇宙、月、星のどういったところが上坂さんにググッときたんですか? 

「なんでしょう・・・人間っていう存在を遥かに超えた大きな存在っていうんですかね。そういうものを子ども心に感じたというか。すごく大きい世界に自分はいるんだなって思った時に、それはどんな世界なんだろうっていう興味が湧いたというか。

 1つエピソードがあるんです。そんな興味を持ったある日、自分の家の裏手で星をひとりで見ていたんですけれど、その時に大流星が飛びました。火球っていうんですけれども、普通の流れ星ではなくて、隕石みたいな感じなんですよ。

 途中でバラバラになるような、巨大な流れ星が飛んで、通った後に痕(こん)といって、光の帯みたいなのが残るんですけれども、それを見て本当に怖くなって家の中に駆け込んだっていう思い出があります。そのくらい自分の存在を超えた大きなものがあるんだなっていうのを感じたのが、きっかけだったんだなっていう風に思います」

●そんな上坂少年は宇宙飛行士になろうとは思わなかったんですか? 

「あ、思いましたよ(笑)。アポロ11号を見たときに、自分も行きたい! って思いましたね。天文学者にもなりたいと思いましたし、それと同じくらい絵を描くのが好きだったので、絵とか映像の仕事もしたいなと思っていて、結局映像の道に進んでしまうんですけれども、ここにきて2つが合わさったっていうか、一石二鳥というか」

上坂浩光さん

マイ・リモート天文台!

※上坂さんは天体写真家としても活動されているんですよね?

「元々子どもの頃から望遠鏡とか天文台を、いつかちゃんと持ちたいなっていう夢があって、実は那須に私設の天文台を持っているんですけれども、そこで星の撮影をしています」

●え、上坂さんの天文台、マイ・天文台っていうことですか? 

「マイ・天文台です」

●え!? それはどういうことですか? 天文台って造れるというか、自分のものが持てるんですね? 

「はい、努力をすれば持てると思います。東京とか明るい場所だと星空っていうのは撮影できないので、暗いところにそういう施設があるといつでも撮れるんです。それをするために天文台を造って、さらにインターネットを使ったリモート天文台にしてあります。例えば東京のパソコンからその天文台を操作することができるので、ドームを開けて、撮影したい天体に望遠鏡を向けて、撮影することができます。

 いろんな天体を撮るんですけど、いちばん好きなのが星雲の写真ですね。星雲って分かりますか? ガス状の天体なんですけれども、通常、目で見ることはほぼできないんです。ある程度大きな望遠鏡を使って長い時間露出することによって、何十時間も露出するんですけれども、そうすると見えなかったものが見えてくるっていうそういう喜びがあるんですね。

 見えないものって人間は見たくなるじゃないですか!? 行ったことないところに行ってみたいとか、それと同じだと思うんですけれども、そういう星雲の写真を撮ることが多いです」

●どんな気持ちで撮られているんですか? 

「撮っていくと見えなかったものが見えてきて。皆さんは信じられないかもしれないですけれど、星空を見たときに、まあ星は見えますよね? ポンポンポンと。でもその間に実は、すごくガスが広がっているんですよ。それを何十時間も露出すると浮かび上がってくるんですね。ちょっと信じられないかもしれませんが、自分で撮ってみるとすごく実感できます。

 だから宇宙って空っぽじゃないんですね。いろんなものが存在しているというか、そういうガスが集まって太陽とか星は生まれるので、そういうことを知っていくととっても面白いです」

JAXAはやぶさチームとの出会い

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

※全国の映画館で公開され、話題になっているCG作品『HAYABUSA 2-REBORN』。なぜ「はやぶさ」の映画を制作しようと思ったのか、何かきっかけはあったのでしょうか。

「実は、映像制作の仕事を何十年もしているんですけれども、ある時JAXAさんから、“はやぶさミッション”っていう、今の“はやぶさ2”の前の、初号機のミッションの紹介映像を創りたいというお話がありまして、僕がCG制作者として呼ばれて、JAXAさんに行ったのが始まりといえば始まりですね。

 その頃僕自身、実は“はやぶさミッション”っていうことをあまりよく知らなかったんですよ。ニュースで聞く程度で皆さんと同じくらいの感じだったんですけども、自分でその映像を作らないといけないってなると、そのミッションをよく知らなければいけませんよね? で、行ったら、その“はやぶさミッション”チームのメインのリーダーが一同に集まっていて、そこに通されたんです」

●ええ〜!? 

「これ、すごいことですよね? まさに役得というか、一般の人はそんなこと絶対にできないんですけども、たまたま映像を創んなきゃいけないので、そういう場に通されて、いきなりいろんなレクチャーを受けて、自分が質問をして答えてくれるようなことが、その場で始まったんですね。それが非常に面白かったんです。

 こちらの疑問を言うと、皆さんが真剣に答えてくれる。で、あっという間に仲間になったイメージがあって、自分もそのミッション・チームの仲間になったイメージがあって、とても素敵な人たちでした。

 仕事じゃなくて人生をかけてやっているっていうのが、もう肌を通してっていうか、話を通して伝わってくるんですよね。もうグイグイそのミッションに惹かれていきました。

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

 もちろんやっていることもすごかったんですね。世界初のこと、小惑星イトカワに行ってサンプルリターンといって、かけらを持って来るっていうのは世界初のことなので、そういうことにチャレンジしている人たちも含めて、すごく興味を持ったんですね。

 そういう映像を創り始めた、それは単純に普通の紹介映像だったんですが、その後プラネタリウムのフルドーム作品にしよう! ということになって、これもいろんな経緯があるんですけど、それで創りはじめました」

※そして完成したのが初号機の「はやぶさ」を映像化した1作目『HAYABUSA  BACK TO THE EARTH』、今回の『HAYABUSA 2-REBORN』の前半はその映像がフィーチャーされています。

 緻密な映像は宇宙航空研究開発機構JAXAのプロジェクト・チームからの正確な情報をもとに再現されていますが、実は当初、「あること」でプロジェクト・チームの大反対にあったそうです。いったい何があったのでしょうか。

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

「作品をご覧になっていれば分かると思うんですけれども、単純にミッションを説明するような映像ではなくて、はやぶさのことをきみと呼んだり、人格、生きているような感じで扱っていますよね? いちばん初め、それをこちらから提案したときに、ミッション・チームの皆さんには全否定されました」

●あ、そうだったんですか!? 

「単純に機械なので、なんでそこまで感情移入させる必要があるのかっていう風に言われてですね。まあそうですよね、科学映像って普通そういう描き方はしないので、特殊といえば特殊な感じだと思うんですよ。なので初め、大反対を受けました。

 自分も初めは単純に説明するような映像を創ろうと思っていたんですよ。でも『HAYABUSA-BACK TO THE EARTH』の前に創った『祈り』という作品を創った時に、(はやぶさが)地球を出発してイトカワに行ってサンプルリターン、タッチダウンして、地球に帰ってくるまでを描いたんですけれども、ある程度出来上がったものを通して1回観る機会があったんです。

 最後のシーンは地球をバックに、はやぶさが地球に帰ってくる、はやぶさがだんだん小さくなっていって、地球に帰ってくるっていうカットなんです。当然その時、はやぶさは火の玉になって燃え尽きるしかない運命だったんですけど、そのカットを自分で観た時になんかグッときてしまって。

 はやぶさの後ろ姿に人格を感じたんでしょうね。涙がじわっと出てきてしまって、その時の自分の気持ちを大事にして創るべきじゃないかっていう風に、制作途中で気が付きまして、そういう構成と設定にしたんですね」

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

●へ〜! そういったことをプロジェクト・チームの皆さんにも説明されて? 

「言ったんです。そしたら全否定されました(笑)。でもここで面白いのは、はやぶさ初号機がだんだん地球に近づいてくると、ミッション・チームの皆さんも、はやぶさくんって呼ぶようになったり、はやぶさに感情移入を始めるんですよ、僕と同じように。

 プロジェクト・マネージャーの川口淳一郎さんは僕の提案を真っ先に否定していた人なんですけども、最後になってくると彼は何と言ったかというと“もう生きてるとしか思えない”って言うんですよ。だから、やった! と思いましたね」

「はやぶさ」壮絶な光景

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

*どうして「はやぶさ」はこんなに多くの人をわくわくさせてくれるのでしょうか?

「ひとつはもちろん今までやったことがないことをやっているってことですよね。見たことがない小惑星に行く、そこでそのかけらを持って帰ってくるっていうのは本当に世界初、人類初のことですから、それを行なうことってまずワクワクしますよね。

 あともうひとつは先ほどから言っている、なんでしょう、人って不思議で、はやぶさは単に機械なんですけれども、頑張って頑張って、もし困難に遭ったとしても挫けずに、しかも最後は燃え尽きながらもカプセルを届けるっていうことに、人の心ってやっぱり反応するんじゃないかなと。そういう姿をいろんな風に理解していって感情移入していくんじゃないかな・・・そこも大きいんじゃないかと思いますね」

●そうですよね〜。いよいよ、はやぶさ2が帰還予定となっていますけれども、今はどんなお気持ちですか? 

「すごく心配しています(笑)」

●心配ですか?(笑)

「心配ですね〜。ほぼ間違いないんですけれども、やっぱり何かひとつ手違いがあるとカプセルが地球に届かなくなってしまうので、すごく心配しています」

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

●もう奇跡ですよね。

「う〜ん・・・でも、はやぶさ2のミッション・チームはこれまでも、映画の中でも描いていますけれども、リュウグウに到着してから様々な困難というか、タッチダウンできないんですよね、平らな場所がなくてね。そういうことも全て乗り越えてきたチームなので、きっと間違いなくやってくれるんじゃないかなって思っていますけれども。

 本当は僕は、今回オーストラリアにカプセルを迎えに行きたかったんですが、コロナのために残念ながら行けないんです。初号機は見に行ったんですよ」

●あ、そうなんですね! その時どんなお気持ちでした? 

「いやーすごかったですね。自分実は、はやぶさ初号機のCGを創ってはいるんですけれども、1回も本物を見たことがなかったんですね。自分が創り始めた時はもう、はやぶさは宇宙に飛び立っていたので、1回も本物を見たことがなかったんです。

 それがいきなり火の玉となって目の前に現れて、1分くらいで燃え尽きて消えてしまったんです。すごく複雑な感情でした。自分の中では本当に、はやぶさって生きているなって思っていたので、それが消えていく姿っていうのはもう壮絶な光景でしたね」

JAXAお墨付きの映像

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

*現在ロードショー中の『HAYABUSA 2-REBORN』では、サンプルを採取するための、小惑星「リュウグウ」へのタッチダウンがリアルに、そして繊細に描かれているように感じたんですが、そこはかなりこだわったところでしょうか?

「なるべく今回、はやぶさ2の映像に関していえば、観た人に、はやぶさミッションの手応えを感じて欲しかったんですね。なのでなるべく精密に正確に描くっていうことを心掛けました。

 だからタッチダウンして、スラスターっていうロケットを吹いて上昇していくんですけれども、その時にリュウグウ表面の小石が飛び散りますよね。よく観ていただくと、その飛び散った小石が、はやぶさ2の、パドルって太陽電池パネルがあるんですけれども、あそこにちゃんと当たって跳ね返っているっていうところまで創ってあります。気付かれました?」

●えー!? ちょっとそこまでは。でも本当に細かく、何度も観たいと思うくらいの美しい映像でした。

「石が当たると、そのパドルがちゃんと当たった石の力によってブルンブルンってちょっと震えたりとかですね。
 結局、はやぶさ2のミッション・チームでさえ、リュウグウでの、はやぶさの姿っていうのは見てないじゃないですか。見てないので、その上でいろんな資料を元にこうだっただろうって描いてるんですけれども、それはいろいろ試行錯誤しながら、実際に近づけるように、JAXAの方とも協力しながら創っていました」

写真協力:HAYABUSA2~REBORN製作委員会

●最後に上坂さんから『HAYABUSA 2-REBORN』の見どころを改めて教えていただけますでしょうか? 

「先ほども言ったんですが、非常に精巧に創ったつもりでいます。特に1回目のタッチダウンでリュウグウに降下していく時、はやぶさがスラスターといって、四隅にある小型のロケットを吹いて姿勢を変えていくんです。このロケットが60分の1秒単位で制御されていて、細かく姿勢を制御しながら、自分の力で動いているんですね。そこを是非見て欲しいなって思っています。

 その映像は、はやぶさ2のプロジェクト・マネージャーの津田さんにも観ていただいて、お墨付きをもらっています。ぜひ映画館で、はやぶさ2がリュウグウで何をやったのか、その映像を、ほぼ本物に近いと思いますので、観ていただいて手応えを感じていただければと思います」

*「はやぶさ2」が帰還がいよいよ12月6日に迫ってきました。小惑星「リュウグウ」で採取したサンプルから生命の起源がわかるのか、わくわくしますね。ちなみに「はやぶさ2」は、次のミッションが決まっているそうですよ。それは11年かけて別の小惑星に行くこと。次に向かうのは「1998 KY26 」という天体でなんと直径はたったの30メートルだそうです。がんばれ! はやぶさ2!


INFORMATION

劇場版『HAYABUSA 2-REBORN』


劇場版『HAYABUSA 2-REBORN』

 「はやぶさ2」の活躍をリアルに、そして繊細に描いたこのCG作品は、上坂監督のはやぶさミッションへの想いや宇宙へのロマンを感じる感動作! 監修はJAXAの吉川真さんです。現在、全国の映画館で、絶賛上映中。ぜひご覧ください。詳しくは『HAYABUSA 2-REBORN』のオフィシャルサイトを見てください。

◎『HAYABUSA 2-REBORN』のHP:
http://www.live-net.co.jp/hayabusa2reborn/

◎株式会社ライブ(上坂浩光):
http://www.live-net.co.jp/live/news/news.htm

オンエア・ソング 11月29日(日)

2020/11/29 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. STARS / SIMPLY RED

M2. 天体観測 / BUMP OF CHICKEN

M3. A SKY FULL OF STARS / COLDPLAY

M4. SPACE COWBOY / JAMIROQUAI

M5. STARDUST / NAT KING COLE

M6. SHINING STAR / THE MANHATTANS

M7. 宙よ / CHIE UMEZAWA

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

山を旅する〜仲川希良さん流の山の楽しみ方

2020/11/22 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、モデルでフィールドナビゲーターの「仲川希良(なかがわ・きら)」さんです。

 希良さんは埼玉県出身。10年ほど前に、初心者向けアウトドア雑誌のお仕事をきっかけに山に登るようになり、登山歴1年半で雪山デビュー。真っ白な美しい世界を体験したことで、益々、山の虜に。そして山の魅力や体験を雑誌や本などで発信されています。

  そして先頃、新しい本『わたしの山旅〜広がる山の魅力・味わい方』を出されました。きょうは視点を変えて山を選ぶ「山旅」について。おすすめのルートや、女子らしい旅のヒントなどうかがいます。

☆写真協力:仲川希良

川の始まりを探す

仲川希良さん

*新しい本の第一章に希良さん流の山の楽しみ方として、「水の始まる山」があります。これは水を巡る山旅なんですか?

「私自身が山を深く味わうきっかけになった、すごく大きなキーワードなので、まず最初に水の始まる山っていうのをご紹介させていただきました。水の始まる、って聞くとちょっとイメージしづらいかもしれませんが、多くの川はそれをどんどん遡って、始まりまで辿っていくと山にたどり着くんですよ。

 そういったことをテーマにして、初めて川の始まりを見に行ったことがあったんです。宮城県の大滑沢っていうところだったんですけれども、沢登りの人にとってはすごく川底がなめらかで、ゆっくりお散歩するかのように沢登りを楽しむことができる素敵な場所なんです。その大滑沢をどんどん登り詰めて、最初の一滴を見よう! っていうチャレンジをしたことがあったんです。

 山の中でも細い沢筋を見ることっていうのはよくあるんですけれども、その最初の一滴って、見ようとも想像したこともなかったので、その時はいったい始まりってどんな感じなんだろう? って全然分からないまま、その沢を登っていっていたんです。

 途中で魚釣り、イワナを釣ったりだとか、火を起こして川沿いに泊まったりだとか、しながらどんどん登って行って。でもちょっと技術的に、滝とかも出てくるので、これ以上行くのが難しいなと思って、今度は山の尾根、出っ張っているところですね、尾根まで上がって、最初の一滴を探して今度は谷沿いを降りていくことにしたんです。

 尾根から降りて、ここが川が始まる場所だ! っていうところを歩き回ってみたら、深い苔と、ゴロゴロの石の隙間に、ぽちゃん、ぽちゃん、って水が滴る場所を見つけることができたんですね。その時はまだ、この一滴、本当に小さい透明な一滴が、私が上がってきた沢と繋がるっていうことは、正直に言えばちょっとピンとこなかったんです。もうただただ美しいひとしずくがぽちゃんと落ちているのを眺めているだけだったんです。
 でもそこから後ろを振り返ってみると、数メートル先にはもうそれが細い水の筋になっていて、それを辿りながら降りていったら、どんどん太くなって、ちゃんと自分が魚釣りを楽しんだもとの沢に戻ってくることができたんですね。

 戻ってきた! ってなった瞬間に、あの一滴っていうのは本当に川の始まりなんだ! っていうことをすごく実感することができたし、こういう風に沢がどんどん太くなって、たくさんの水を山から集めながら麓に流れていって、これが家の水道水になるんだっていうことに、はっとしたんですよ、そこで。

 どこかのダムだったり、湖だったり、溜められて、そこから取水場で水として取られて、浄水場を経て、お家に着くので、まだまだその先の旅も長いんですけれど、あ、私の川の始まりを見る旅っていうのは、つまり私の家の水道水の始まりを見る旅とイコールなんだっていうことにもその時気づいて。1回そういうことを味わうと、自宅で水道水の蛇口をひねる度に、山と繋がっている水が出てきたっていうことを感じられるし、すごく感謝の気持ちも湧いてくるんですよね」

水の運命を決める場所!?

『わたしの山旅〜広がる山の魅力・味わい方』

※新しい本の第二章では、「海を感じる山」という視点で山選びをされています。海と山がどうして結びついたのですか?

「山に登り始めた当初は、山に登っている時、海について考えることってなかったんです。尾瀬ってありますよね、大人気の場所ですが、尾瀬にある至仏山っていう山に登った時にちょうど霧雨も降っていて、足元が蛇紋岩っていうツルツル滑る岩で覆われている山なので、ずっと足元を見ながら歩いていたんですね。
 そしたらある尾根上を歩いてる時に、ガイドさんが、希良さんここが中央分水嶺ですよ! って仰ったんですよ。中央分水嶺はご存知ですか?」 

●いいえ、中央分水嶺って何ですか?

「分水嶺っていうのはまず、山の中にある水の境界線なんです。水がこれからどこの方向に落ちていくか、どこの海へ向かっていくかっていうことを決める線。山が尖ってますね? その尖った右側の斜面に降りるのか左側の斜面に降りるのか、っていうので、どっちの方に水が流れていくかって変わってきますよね。
 そういう水の分かれ目の部分を分水嶺って言うんですけれども、その中で特に日本海と太平洋に分かれる部分ていうのを中央分水嶺って言うんですよ。主に日本列島の真ん中あたりに背骨みたいに通っている線なんですけれど、私がその時登っていた至仏山っていうのが、ちょうどその中央分水嶺に当たる位置だったんですね。

 自分がその尾根の出っ張りの上を歩いているので、あ、私の右肩にぽちゃんと落ちた雨は今から太平洋に行くんだ! 左の肩に落ちた雨は今から日本海に行くんだ! っていう、ちょうどその雨の運命を分けるような、そういう線の上に立っているんだっていうことに、はっと気づいて。周り一帯は本当に霧に囲まれてる状態だったんですけど、この霧の向こうには太平洋があるんだ! 日本海があるんだ! って、急にそこで海の存在を意識することになったんですよね」

●山と海が繋がっているっていうことは、普段あまり意識しないと思いますが、そうやって考えてみると面白いですよね! 

「必ず土地っていうのは繋がっていますから、そこで水を意識するとたどり着く先は海だから、山、水の始まる場所っていうのは、必ず海と繋がっているんだなっていうことが分かりますよね〜」

※希良さんは「海を感じる山」のおすすめとして、“たくさんありすぎて迷う〜”とおっしゃっていたんですが、その中からひとつ挙げてくださいました。それは、山形県と秋田県にまたがる「鳥海山」。山から、青い日本海がど〜んと広がる大絶景が見られ、水平線がわん曲していて、地球が丸いことを体感できる場所だそうです。
 そんな鳥海山は下山後の、すごく美味しいお楽しみがあるそうです。

「その辺りの日本海では、岩牡蠣っていう牡蠣が採れるんです!」

●うわ〜、いいですね! 

「牡蠣はお好きですか? 」

●大好きです! 

「じゃあもうぜひ行っていただきたいんですけど、牡蠣って旬は冬っていうイメージがありません?」

●はい、あります。

「岩牡蠣の旬は夏なんですよ! だからちょうど登山シーズンと、牡蠣の旬も被っているんです。なんで夏に岩牡蠣が旬を迎えるかっていうと、山からの冷たい水が海の方にも流れ込んでいて、海底で山からの冷たい湧き水が湧いているんですね。

 その真水と海水が混ざることによって、たくさんのプランクトンが生まれて、牡蠣を大きく育ててくれるのと、冷たいお水なので、じっくり大きくなるまで牡蠣を育てることができるんですね。
 だからすごく大きい手のひらからはみ出しそうな、完全にはみ出てますね、そういう牡蠣の殻の上に、ぷっくりしたミルキーな牡蠣がぼてっと乗っかっていて、それをひと口でトゥルンといただくと、牡蠣なんだけど、これは山の恵みだなっていう気持ちにもなるんですよ。山の水が育んだ牡蠣を下山後にいただけるっていういい場所ですよ」

女子に役立つ山旅のヒント

写真協力:仲川希良

※新しい本には、希良さんらしい、女子に役立つ、山旅のアイデアが書かれているんです。

●この本には旅のコーディネート、着回しアイデアという感じで、山をしっかり歩く時はこんな着こなしとか、ゆるりと自然を楽しむ時はこんな感じとか、いろいろ希良さんが着回しアイデアということで提案してくださっていますけれども、すごくそういったことが女子的には嬉しかったです! 

「あ、よかったです!」

●どんな格好していいんだろうとか、何から用意したらいいんだろうっていうのがあったので、すごく分かりやすかったです。

「やっぱり山登りをするっていうとすごくビシッと揃えなくちゃ! って思いますよね。それもすごく大事なことなんですけれども、それと同時に麓の町歩きも楽しむって思うと、ちょっとしたリラックス・ウエアがあるだけで、その麓の町歩きがすごく楽しくなったり、実はそのウエアって山の上でも役立つものだったり、気合を入れすぎない山ウエアのコーディネートっていうのもあるはずだな、と思ってそういうページも作らせていただきました」

●女子目線でのヒントがたくさん載っているなっていう風に感じました! 

「嬉しいですね、そう言っていただけると」

●登山初心者の女性に向けて何かアドバイスがあるとしたら? 

「それは持ち物的な部分ですかね?」

●そうですね。あとは私、化粧とかも気になるんですけど。スキンケアだったりとか、化粧を直す時間もないだろうし、そもそも皆さん、どうされているのかなっていう、いろいろ不安です(笑)

「やっぱり行ってみないと分からない部分ですもんね〜。何泊するのか、日帰りなのかどうなのかっていうことでも、ずいぶん持ち物は変わってくると思います。日帰りだったら、とりあえずはいつも通りで行ってしまうのが、もちろんいいかなと思うんですけれども、もし1泊するってなった場合は、スキンケア類をどういう風にコンパクトにするのかっていうのが大事になってくるんですよね。

 特に山の中で使うためのスキンケアっていうのは、たくさん持っていってもなかなか使いきれなかったり、重くなってしまったりするので、化粧水だったり、それからメイク落とし化粧水みたいな、そういったものを全部コットンに染み込ませて、ビニールの中に入れて、きちっとパウチ状にして持っていくと、すごく小さくなりますよね。
 それからいつも使ってるものを山の中でも使うことができるので、安心してお肌にも使えるので、必要な分をコットンに染み込ませて、パウチするっていうのがスキンケアはおすすめですね」

●それは知らなかったです。いいですね! 全部持っていくと荷物になっちゃいますからね。

「そうなんですよ。もしそんなに何泊もしないような旅行だったら、山にかかわらず、そういうやり方の方がグッと荷物は少なくなりますよ。普通の旅行でもね」

●いいこと聞きました!

「ぜひやってみてください!」

山とパンを味わう!?

写真協力:仲川希良

*新しい本には、コラムが何本か掲載されていて、その中のひとつがとても気になりました。「山ごパン」と書かれていたんです。この「山ごパン」とはなんでしょう?

「私の友人であるモデルの“パン野ゆり”ちゃん、もうパンが好きすぎて名前にもパンを入れてしまったパン野ゆりちゃんという子がいるんです。資格もたくさん持っていてパンの魅力を日本中に広める活動をたくさんしているモデルさんなんですが、そんなパン野ゆりちゃんと一緒に山もパンも味わうっていう、パン・ハイキングをよくしていたんですよ。それについてコラムを書かせていただいたんです」

●「絶景パン」って書かれていて、ハイキング中に出会った絶景の中で、その土地に育まれたパンをパチリと撮影されてるんですよね? この景色とパンっていう、その写真がすごく可愛くって、すごく好きです! 

「そうなんです。あの写真を撮るのもパン・ハイキングの楽しみなんです。パンと山ってなかなか繋がらないかもしれないんですが、私は山を通してその土地を味わっていて、パン野ゆりちゃんはパンを通してその土地を味わっているって言うんですね。

 どういうことかなと思ったら、その土地で採れる野菜だったりミルクだったり小麦だったり、そういったものがパンの素材になっていたり。それからパン屋さんの見た目、お店の見た目にもその土地らしさってすごく出てきたりするんですよ。だからパン屋さんを巡ることも山を歩き回ることも、その土地を味わうことに繋がるね! って言って、どちらも巡るパン・ハイキングをしているんです。

 朝、麓のパン屋さんで買ったパンを背負って、もちろんその場でもちょっと食べちゃったりするんですけど(笑)。まずは里を巡ってパン屋さんでパンを仕入れて、そのパンをその土地を育んだ山に登って、山から見える絶景と一緒にそのパンを撮影したりだとか、麓の里の景色を眺めながら、その美味しいパンを頬張ったりして。下山後もまたお土産のためのパン屋さんを巡るっていうね(笑)、パン屋づくしの山旅ですね」

●おすすめのパンを巡るハイキング・コースっていうのはありますか? 

「そうですね・・・小尾さんはまだ山初心者ですよね?」 

●初心者です〜。

「そしたらぜひおすすめしたいのは鎌倉ですね。鎌倉って観光地としてもとてもメジャーで、美味しいパン屋さんもたくさんあるんですよ! もう選びきれないぐらいあるんですが、それと同時に鎌倉は山がすごく近い町でもあるんですね。

 ちょっと歴史の話になっちゃいますけど、鎌倉幕府ありましたよね? “いい国つくろう鎌倉幕府”。なぜ鎌倉幕府があそこにできたかっていうと、三方を山に囲まれていて、残る一面が海に面していて、すごく守られた土地だったんですよね。敵が攻め込みにくい、そういう場所だったから、あそこに幕府が置かれたわけなんです。なのでその鎌倉の市街地のすぐ後ろには三方を囲むように可愛い鎌倉アルプスっていう山並みがあるんです。

 だから鎌倉の町に行って、麓で美味しいパンを仕入れて、その後ろにある鎌倉アルプスをハイキングすると、山の上から、山に囲まれて、そして海に守られた鎌倉の市街地をしっかり見ることができて、あ、こういう地形だから鎌倉幕府ってあったんだな〜とか、そういう歴史についても味わいながら、ついでに美味しいパンも味わいながら(笑)、旅することができる素敵な場所ですね」

●へ〜! 参考にさせていただきます! 

「鎌倉アルプスだったらスニーカーとかで行くことができるので、山初心者の方にもおすすめの場所です! 」

山があるからこそ

*希良さんは10月末に、ご家族と一緒に北八ヶ岳の白駒池に行って、久しぶりの山旅を楽しんだそうですよ。では希良さん、今後どんな山旅をしたいですか?

「そうですね。行きたいところは溢れて溢れて、とめどなく出てくる感じなんですけれども(笑)、やっぱり今は息子が小さいというのもあって、改めて気負わずに自然の中に身を浸せる場所っていうのを探していきたいなと思っています。
 一生懸命歩いてたどり着く山頂っていうのもすごくいいんですけれども、そういった限られた場所だけじゃなくても、やっぱり自分なりの視点を持つことで、山の味わいってどんどん深めていくことができると思うので、まずはそういったハードルの低いところから、家族を改めて連れて歩いてみたいなと思います」

● では最後に、希良さんにとって山とは? 

「山があるから本当に私が私でいられるなっていうのを、今改めて感じています。山に行くことによってすごく心も体も整うなっていうことを、改めて久々に山に足を運んだことで実感しています。
 自分の生活のすぐそばに山があるっていうことを感じること、それが日常の支えにすごくなっているので、私が私でいるためになくてはならない存在、山があるからこそ、私の日常があるんだなっていうことを常に考えていきたいなと思います」

☆過去の仲川希良さんのトークもご覧下さい。


INFORMATION

わたしの山旅〜広がる山の魅力・味わい方


『わたしの山旅〜広がる山の魅力・味わい方』

 今回お話いただいた「水の始まる山」「海を感じる山」のほかに、「生き物に会える山」「信仰を集める山」など希良さんらしい視点で山旅を紹介。また海外で楽しんだトレッキングの旅も掲載しています。
 旅のヒントになるコラム、そしてアウトドアスタイル・クリエイターの「四角友里」さんやサバイバル登山家「服部文祥」さんとの対談のページもあり、写真も素敵です。ぜひ読んでください。枻出版社から絶賛発売中。詳しくは枻出版社、またはランドネのサイトを見てください。

◎枻出版社:
https://www.ei-publishing.co.jp/magazines/detail/book-494142/

◎ランドネ:https://funq.jp/randonnee/article/633817/

◎仲川希良さんのオフィシャルサイト:http://kirayukiyama.jp/

◎仲川希良さんのFacebook https://www.facebook.com/yummy.yu/about

◎仲川希良さんのインスタグラム:
https://www.instagram.com/kiranakagawa/

◎パン野ゆりさんのインスタグラム:
https://instagram.com/yuri.yamano?igshid=p5ypxbm8fp4u

オンエア・ソング 11月22日(日)

2020/11/22 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. WALKING ON THE WATER / ATOMIC KITTEN

M2. THE WATER IS WIDE / KARLA BONOFF

M3. WATER FROM THE MOON / CELINE DION

M4. YOU’RE READY NOW / FRANKIE VALLI

M5. 心音 / 福山雅治

M6. パンと蜜をめしあがれ / クラムボン

M7. TRUE / SPANDAU BALLET

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

森と湖の大地ノースウッズ 〜オオカミに導かれて〜

2020/11/15 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然写真家の「大竹英洋(おおたけ・ひでひろ)」さんです。

 大竹さんは1975年、京都府生まれ、東京・世田谷育ち。一橋大学卒業後、北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに大自然、野生動物、人々の暮らしを撮影。人と自然とのつながりをテーマに作品を作り、国内外の新聞や雑誌などで発表されています。

 そして今年、集大成的な写真集『ノースウッズ〜生命(せいめい)を与える大地』を発表。また、現在、六本木の富士フィルムスクエアで写真展を開催されています。

 「ノースウッズ」と呼ばれる広大なエリアには原生林と多くの湖があり、オオカミなどの野生動物が生息しているそうです。きょうはそんなノースウッズの大自然や野生動物、そして、そこに暮らす人々との出会いなどうかがいます。

☆写真協力:大竹英洋

写真協力:大竹英洋

20年の集大成!

*写真集のタイトルにある「ノースウッズ」、私は初めて聞く言葉だったんですが、これは地名なんですか?

「この言葉、多分ほとんどの人が知らないと思います。僕も20年前に実際行ってみるまで、そういう場所があるって知らなかったんですけど、地名ではなくて、北の森っていう意味なんです。北アメリカの真ん中ですね。

 北米で自然の写真とか野生動物を撮っているというと、やっぱりアラスカとかロッキーとかのイメージが強いと思うんですけども、そこよりもさらに東側の内陸部に、広大な森と湖の世界が広がっていて、そこのことをなんとなく北の森って呼んでいる、そういう場所です。地名ではないので、地図を開いても出ていないですね」

●やはり冬が厳しい場所ということなんですか? 

「そうですね。緯度が北緯45度から60度の間で、北海道よりもさらに北なので、非常に寒いところですね。マイナス30度とかは当たり前の世界です」

大竹英洋さん

●人は住めるんですか? 

「この場所は、最後の氷河期が1万年前に終わったあとから人類がやってきているので、人々はずっとここで暮らしてはいるんですよね」

●大自然はすごく残っているっていう感じですね?

「そうですね。人々はそこで狩猟採集の暮らしをしてきたんですけれど、特に豊かな土壌があるわけではないんです。地面が全部岩盤なんですよ、硬い岩盤で覆われていて。山が全然ない場所で、窪みのところには水が溜まってるので、無数の数え切れないぐらいの湖があるんです。

 農作に適した場所ではないので、開発とかはされずに、あと森林資源はあるんですけど、やっぱり僻地なので、コストの面からなかなか開発の手が及んでない場所が多いですね」

●野生動物はどういった感じなんですか? 

「北国の森なので、南の国ほど、ものすごく種類がいるってわけではないんです。ただ大型の哺乳動物だと、世界最大の鹿のムースであるとか、日本のツキノワグマに似たクロクマ、アメリカクロクマですね。
 ノースウッズでも北の方に行くと、ホッキョクグマがいる場所があったりとか、あとは野生のオオカミが暮らしていますね。そういう大型の動物もたくさん棲んでいる場所です」

●このノースウッズに通い始めて、どれぐらい経つんですか? 

「1999年に初めて行ったので、20年ちょいが過ぎたぐらいですかね」

●その集大成がこの写真集ということなんですね! 

「そうですね。あっという間に20年経ってしまったっていう感じなんです。なかなか情報がないところなので、現地でガイドがいて動物を探してくれるわけでもないですし、自分で行って情報を集めて自分の足で歩いてっていう風な感じなので、どうしても時間がかかってしまって。
 初めての写真集で集大成になったのは、そういうわけなんですけど、20年経ってしまったって感じですね」

写真集『ノースウッズ〜生命を与える大地』

夢の中のオオカミ

※ところで、写真家になろうと思ったのはいつ頃だったんですか?

「元々僕は写真部にいたこともないし、本格的なカメラに触ったこともないぐらいだったんです。小さい頃は昆虫採集とか虫網を持って、外を歩き回るような少年ではあったんです。

 本格的にすごく大きな自然っていうのに、目が開かれたのは大学時代ですね。ワンダーフォーゲル部っていう部活に入って、街を離れて山の中を歩くようになって、そこで自然に触れて。

 元々ジャーナリストになりたいな〜なんて思いがあったんですけれど、政治とか経済も大事ですけど、僕は自然を見ていく、自然の中を歩く技術を手に入れたので、自然のことを伝える、その先にあったのは自然写真家っていう道ですね」

●この写真集のあとがきにも「自然の奥を旅して、その先に見えてくることを伝えたい、そして人間と自然との繋がりについて人々とともに考えていきたい、その手段として選んだのがカメラという道具だった」と書いてありますね。

「そうですね。沢登りっていうのをしていたんですけど、焚き火をしたりとか、滝壺で釣ったイワナを炙って食べたりとか。
 僕は東京育ちで都会で育っているので、なかなかそういう自然に触れたことがなくて、自分が住んでいる星ってこういうところなんだって思い、目が開かれた感じで、本当にハマってしまったというか、そんな感じですね」

写真協力:大竹英洋

●ノースウッズに通うようになったきっかけは、何かあったんですか? 

「そうなんですよ。まず写真家になろうっていう思いは決まったんですけれど、どこからスタートしたらいいかっていうのがなかなかなくて。世界中にはいろんな地域があるし、いろんな動物がいるし、何からテーマにしていこうかな〜ってすごく悩んでいたんですけど、悩んでも答えって出ないんですよね。

 結局そんな時に、ちょっと変な話かもしれないんですけど、ある夢を見て・・・夢の中でオオカミを見たんですよ。
 僕は小さな小屋の中にいて、外は雪が降っていて、森の中だったんですけれど、そこに何かすっと入ってくるものがいて、それが大きな犬のようで。オオカミを見たことはなかったんですけど、あ、オオカミだ! と思って。そのオオカミはすっと森の奥に消えてしまったんです。

 それだけの夢なんですけど、当時、何をテーマにしようかって悩んでいた時で、オオカミについて考えたこともなかったので、なんでオオカミの夢を見たんだろうなと思って、それで地元の世田谷の中央図書館に調べに行ったら、そこで写真集と出会うんです。オオカミの写真集です。それに感銘を受けたというか。

 その写真集が撮られたのが、アメリカのミネソタ州の北部にある森で、撮った人が、『ナショナル・ジオグラフィック』という世界的な雑誌があるんですけど、そこで活躍されている写真家のジム・ブランデンバーグという方の写真集だったんですね。

 それを見て、ミネソタ州の北の方には森が広がっていて、オオカミがいるんだと。じゃあ、野生のオオカミは日本にもういないので、それを見てみたいな、そしてできることなら彼に弟子入りしたいなって思って。無謀な思いですけど、相手は世界的な方なので、まさか会えるとも思ってないですけれど、ちょっとやってみようかっていう感じで、旅に出たのが1999年ですね」

奇跡的な出会い!

※お話に出てきたジム・ブランデンバーグさんは、世界的な雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」の写真家として、数多くの作品を発表してきた著名な自然写真家です。また、映像作家としてネイチャー系のテレビ番組も手掛けていらっしゃいます。オオカミを撮った写真集など、ベストセラーになった写真集も多く、アメリカ国内外で数々の賞を受賞されています。

 そんなジムさんの、オオカミの写真集に出会って、導かれるように旅に出た大竹さん、実は事前にジムさんに、“弟子にしてほしい”という熱い思いをしたため、手紙を出したそうです。

 目立つように手作りの封筒を作り、住所がわからないので、「ナショナル・ジオグラフィック」誌の編集部に送り、ジムさんの手元に届くことを期待していたんですが、結果的に返事は来なかったそうです。

 それでも、ノースウッズ・エリアに向かった大竹さんは、なんと!奇跡的にジムさんに会うことができたんです! いったいどうやって出会えたのでしょうか。

写真協力:大竹英洋

「彼は森の奥に住んでいて、当然その住所も分からないんですけど、実は彼の写真集にフィールド用の、彼の撮影地の地図が載っていたんですね。それを何かのヒントになるかなと思って、コピーして持ってたんです。それと現地で手に入れた詳細な地図が一致してですね、彼この辺にいるんじゃないかなっていうのが分かって(笑)。

 でもそこは、道路は繋がっていたんですけど、僕は車の免許も取りたてだし、左ハンドルは怖いし、どうしようかなと思っていたら、実はノースウッズはカナディアンカヌーが生まれた場所だったんです。湖がたくさんあるので、湖を漕ぎながら旅をするスタイルの場所なんですけれど、ジムの住んでいる辺りまで、どうも水路で繋がっているなっていうことが分かって・・・。

 僕はカヌーを漕いだことないので、聞いたらカヤックの方がまだ初心者には簡単だよって言われて、それでカヤックを買って。すぐに行けば、2泊3日で着ける距離なんですけれど、早く行ってもしょうがないし、弟子とってないとか、帰れって言われたら帰らなきゃいけないので(笑)、ゆっくり8日間ぐらいかけて、自然の中にどっぷり浸かりながら・・・。

 でもそれが逆に、返って本当に良かったというか、彼に出会う前に自然のことを少し分かったというか、体験することができて。出会った時の最初の会話も自然の話ができて、突然日本からカヤックに乗って会いに来たっていう、弟子にしてくださいって人を追い返せないかと思うんですけど(笑)。ただ僕の真剣な想いっていうのも通じたみたいで」

●どんな会話をされたんですか? 

「彼の最初の言葉は“こんにちは”っていう日本語だったんです。突然(彼の家に)行ったわけではなくて、途中に間を繋いでくれた方がいて、それで会うことができたんです。それで玄関に立ったら、向こうから“こんにちは”って言ってくれて。結構日本の美術とかにも造詣が深くて、日本のことにすごく興味を持ってくださっている方だったので。

 最初そういう話をしたあとに、僕がカヤックに乗って旅をしてきたっていうことも聞いていたので、僕がいろいろ途中で出会ったことなんかを話したら、アビっていう鳥がいるんですけれど、それの巣を見つけたとか、ハクトウワシの巣があったとかって言うと、彼がすぐ地図を取り出してきて、どこの話しだい? みたいな感じで、彼の撮影の思い出話なんかもしてくれて、すごく話に花が咲きましたね。最初に会って何を話そうっていうか、緊張もしていたんですけど、そんなのもいつの間にか吹き飛んで」

『そして僕は旅に出た。』

●写真のこととか、ノースウッズのこととかも、実際に教わったっていうことですか? 

「結局、実はこの顛末って本にしていて、『そして僕は旅に出た。』っていう、あすなろ書房から本にして出しているんです。それを読んでない方にはネタバレになっちゃうんですけど、弟子入りはできなかったんですよ。

 弟子はとっていなくて、弟子にはなれなかったんですけど。そして彼も手取り足取り何か教えてくれるというわけでもなく。僕が聞けばよかったのかもしれないですけれど、僕もそんなに質問したわけでもなく、とにかく彼の一挙一動を見て、側にいさせてもらって。

 日本に帰るまでの間、2か月半ぐらいですけれど、一緒に生活をして、そこで彼の生き様というか、同じ空気を呼吸するというか、それだけですごく影響を受けるものがあって。だから何か写真の技術的なこととか教わったわけではないんです」

●ただその出会いというのは、大竹さんの人生をすごく左右するものですよね? 

「本当にあの時会えたのが、何度思い返しても奇跡的なことだったなというか。しかも今回写真集を出したんですけど、その序文も彼が書いてくださって。僕がお願いしに行ったんですけど、自分の最初の写真集には是非書いてもらいたいなと思って、また会いに行ってお願いをして。そしたら二つ返事で“喜んで”って言って書いてくださったんです。

 その時に弟子入りしたいと思って飛び出していった20年前の自分と、それから20年後の、今回成果をやっと自分の仕事として、こういうのをやりましたっていうことを見せることができたので、本当に大変ありがたい恩人ですね」

子鹿を踏みそうに!?

*広大なノースウッズ・エリアで、どうやって撮影場所を決めているんですか?

「日本が8つ入るくらい広い場所なので、その時その時でテーマにするものも変わってくるというか。旅をして現地に行くといろんな生の情報が手に入るんですよ。
 例えば、最初からホッキョクグマが自分のエリアにいると知っていたわけではないんです。ホッキョクグマに関しては2013年ぐらいに、どうもホッキョクグマがいるらしいということで、ちょっとテーマにやってみようかなっていう感じで、そこに通うようになったり。

写真協力:大竹英洋

 あと2005年の秋から1年半ぐらいカナダに住んでいたことがあるんです。その時に野生のトナカイ、向こうではカリブーと言うんですけれど、森に棲むカリブーが実はこのノースウッズを象徴するような生き物だと。写真集の表紙にもなっている生き物ですけれど、それをテーマに撮影しようとした時に、この島に行くと結構個体数が多いよとか、そういう情報を手に入れるとやっぱりそこに行ってみたりとか、その年その年でいろいろ変わっていくし。

 あと写真集にまとめようとするとやっぱり四季、いろんな季節を見たいなと思うので、こないだは冬に来たから今度は春に行こうかとか、夏に行こうかとか、季節を変えたりとかして。20年だって、そうするとあっという間に過ぎてしまう感じですね」

●実際に地元の方々からの情報っていうのも多いんですね〜。

「非常に大事ですね。本当にそこからしか始まらないというか。大体僕は向こうに行ったら、学者の人であったりとか、公園局の人たちであるとか、自然の中に出かけていってる人たちに会って、得る情報は非常に大きいものがありますね」

●今まで出会った野生動物で、いちばん忘れられないっていう動物はいますか? 

「よく写真展会場でも、どの動物がいちばん好きですかと聞かれるんですけど、なかなか決められなくて、すべて一期一会。全部の出会いにエピソードがあって、やっぱり選べないんですよ。

 ただひとつだけ挙げるとしたら、かなり最初の頃なんですけど、2000年に森の中で、生まれたばかりの子鹿を実は踏みそうになったことがあるんですね。地面に横たわっていて全然動かなかったんですよ、僕は気づかなくて。

 森を歩いてたら倒木があって、それ乗り越えようとして足を上げたら、その向こう側に(子鹿が)いたので、本当にまさに踏みそうになって、うわっ! と思って。なんでここで横たわっていて、大丈夫なのかな? 怪我しているのかな? っていう感じなんですけど。

 結局それはあとで分かったことなんですが、死んだふりをしていたんですよね。森の中にはオオカミもいるので、その身に危険が迫った時であるとか、あとは母鹿が森の中を歩いて草を食べている間は、そこでじっと気配を消して、静かにしているらしいんです。たまたまそれと僕は出会ってしまったらしくて。それが結構最初の頃に起きた出来事なので、非常に印象には残っていますね」

写真協力:大竹英洋

●撮影するためには、いろんな動物の習性も学ばないといけないですね。

「もちろんそうなんですよ。ですから20年の撮影期間がある中で、やっぱり後半の方が動物と出会える可能性は非常に高くなってきて、本当ようやく今みたいな感じですね。今この季節この地域であれば、動物がどの辺にいるだろうっていう感じがなんとなく分かってきたので、出会えることは非常に多くなってきて、写真も撮れるようになってきたんですね。

 ただ思い返すとその子鹿の写真もそうですが、全く何も知らないからこそ、真昼間にあんなところを、今だったら逆に情報があって、あんまりそこを歩いてないかもしれないんですよね。だから最初の頃にその子鹿と出会ったのは、やっぱり森の中って出かけてみないと、知識を詰め込みすぎて、そればっかりになってても、あまり面白い、予想を覆すような出会いっていうのは、ないかもしれないなってことは思いますね」

先住民に学ぶ

*野生動物たちとの出会いはもちろんなんですが、先住民の方たちとの出会いも、大竹さんにとって大きな出来事だそうです。

「この土地で8000年、9000年という長い歴史の中、生命の営みを続けてきた方たちがいるので、彼らと出会っていろいろ教わったこともたくさんあります。本当に、行って綺麗だなとか、可愛いなとか、そういうことではなく、そこでやっぱり命を、自然からの恵みを得て生きてる人たちに触れられたっていうのは、非常に自然を見る目が変わってくるというか、そういう体験になりますね」

●具体的にどんなものを得ることができました? 

「一度、彼らとヘラジカの狩りに出かけたことがあるんです。獲れたんですけれど、その時に粛々と、誰か獲った人が自慢するわけでもなく、獲ったぞって喜ぶわけでもなく。

 秋の発情期に、メスの鳴き真似をしてオスを呼び寄せて。その時も森の向こうからムースがやってきて、それを撃って、次の日みんなで、家族で行って解体するんですけれど、本当に誰か手柄を誇るわけでもなくですね。森から与えられたギフトとして感謝をしながら、その肉を得て、それを他の家族にも分け合うような形で。

 自然に対する感謝とか、特別なことではないというか、そういう姿を見て、非常にやっぱり、こういう風に人間って粛々と生きてきたのかなっていう感じを受けますね。何か僕たち現代人はちょっと学ばなければいけないというか、忘れてしまったことであるなら、もう一度取り戻さなきゃいけないんじゃないかなっていうことを感じますね」

●いろんな学びがありそうですね。

「薬草なんかも採りに行ったりしますね。彼らは薬があるわけではなかったので、薬草を森の中で手に入れるんです。彼らの目で見ると、その自然はまた違った形で見えてくるというか、僕たちの知識とは違う形で。それぞれの植物の名前も違うし、季節ごとの手に入る薬草も違うらしいので、まだまだ奥深いんだろうな〜と思っています。僕はまだその入り口に立ったぐらいですからね」

写真協力:大竹英洋

●現在、写真展を開催中ということですけれども、どんな内容なんですか? 

「この写真展も写真集が出たのと同じタイミングなんですけれど、やっぱり自分の20年の撮影の集大成としての写真展です。昔のフィルムで撮っていた頃の作品から、つい去年撮ったデジタルの作品まで、20年の集大成として大体約50点ぐらいですね。是非会場で体験してほしいんですけど、非常に大きいんですよ! 

 今回のプリントって、特大のは横幅1.5メートル縦1メートルの、本当に大きなプリントであるとか、あと横幅2メートル超えるパノラマのプリントなんかもあります。全部、銀塩の富士フィルムのプリントなんですけれど、僕は撮影した時からこれぐらいの大きさでやりたいと思って、シャッター切ってるものもいくつかあるので、その大きさとか迫力とか、あと空間の広がりみたいなものをその形でぜひ見てもらいたいですね」

●スケールがすごいですね!

「今回は本当に、初めてのギャラリーでの写真展なんです。やっと20年越しの夢が実現した形ですね」


INFORMATION

ノースウッズ~生命を与える大地


写真集『ノースウッズ〜生命を与える大地』

 大竹さんの眼に写ったノースウッズの自然、動物、植物、風景など、見る人の心に何かを訴えかけてくるような力強さがあります。20年かけて熟成させた想いがこもっている素晴らしい写真集です。Crevis(クレヴィス)から絶賛発売中です。詳しくは以下のサイトをご覧ください。

◎CrevisのHP:https://crevis.co.jp/publishing/08/

写真展

 現在、六本木の富士フィルムスクエアで写真集の発売を記念して、写真展を開催中! 大判のプリントで展示された迫力のある写真をぜひ体感してください。
開催は11月26日まで。入場は無料です。
開催期間中は会場に大竹さんもいらっしゃるということですよ。

 詳しくは、大竹さんのオフィシャルサイトを見てください。

◎大竹英洋さんHP:http://www.hidehiro-otake.net

オンエア・ソング 11月15日(日)

2020/11/15 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. NEW KID IN TOWN/ EAGLES

M2. SAME OLD LANG SYNE / DAN FOGELBERG

M3. RADIO / KARL WOLF

M4. YOUR SMILING FACE / JAMES TAYLOR

M5. THERE YOU’LL BE / FAITH HILL

M6. TAKE ME HOME, COUNTRY ROADS / JOHN DENVER

M7. HEAVEN / BRYAN ADAMS

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

『苔は死なない』主演:石倉良信~苔を愛した役者の熱愛物語〜

2020/11/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、苔をこよなく愛する俳優「石倉良信(いしくら・よしのぶ)」さんです。

 石倉さんは1968年生まれ。東京都出身。舞台をメインに活躍されている石倉さんは、苔好きの役者、苔役者としても知られていて、ご自身のサイトやYouTubeで、苔の魅力を発信されています。きょうはそんな石倉さんに、苔に感じたシンパシーや萌えるポイント、そして都会の苔の楽しみ方などうかがいます。

石倉良信さん

☆写真協力:石倉良信

役者業とリンク!?

*石倉さんが苔に出会ったのは17年ほど前。盆栽に興味があって、ホームセンターに行って紅葉(もみじ)を購入。そして、プラスチックのパックに入った苔を見つけ、育て方もわからないまま、それも買って帰り、植木鉢に紅葉を植え、苔を根元にあしらったそうです。

 ところが数日経って、苔がカラカラに乾いてしまい、慌てた石倉さんはネットで対処の仕方を調べたところ、あるサイトの説明に目がとまったそうです。なんと書いてあったのでしょうか。

「苔は死にません! って出たんですね」

●苔は死にません!? 

「はい、それで、ええ!? と思って、そこをクリックして、苔は死にませんってどういうことだろう? って思ったら、苔って普通の植物と違って根っこから水を吸収するんじゃなくて、葉っぱ本体から水をもろに吸収して、乾燥したらそこから水がなくなるっていう生き方をしているんですね。すごく単純な構造をしているんですよ。

 だから本当に乾燥すると体の中の水がなくなるからカラカラになるのは当然で、それを読んでいたら、そういう体の機能をしているから苔は諦めずに水をあげていれば、ちゃんと吸収したら綺麗な苔に戻りますよって書いてあったんです。

 こんな苔がそんなに戻るもんなのかな? と思って、見様見真似で心配だから毎日水をあげていたんですね。そしたらもう2〜3日したらパーッと苔の葉っぱが開いて、本当に死なないじゃん! って思ったんですね! 

 その時に(僕は)舞台を中心で役者家業をやらせていただいている分、やっぱり舞台でもメインさんがいて、脇役とか、主役を引き立てる役とかが多かったりとか、端っこの役とか何番手の人とか、そういうポジションの役が多いんですね。

 その時に主役の紅葉を輝かせている苔が死なないって、かっこいいな! って役者業とリンクしちゃって、こいつかっこいいなと思って(笑)、自分も死なないで頑張ろうみたいな感じで、苔にすごくリスペクトというか、シンパシーを感じたのが、単純に言うときっかけだったんですよ」

苔は都会にもたくさん!

※石倉さん、いまは何種類くらいの苔を育てているんですか?

「苔って世界中に20,000種類くらいいるんですよ」

●ええ〜〜!? そんなに! 

「すごいでしょ? 日本には1,800種類くらいいると言われていまして、まだ実際にどのくらいいるかっていうのが、あまりにも小さい植物だからちゃんと解明されていないらしいんですよ。

 日本にもそのくらいいる中で、いわゆる都会で生きていける苔とか、例えば苔テラリウムみたいな、ガラスのビンの容器の中でも生きていきやすい、種類が多い分、いろんな環境によって苔の生きやすい生態があるんですね。
 そういう種類の中で言うと、今僕が家で育てているのは20種類もいないかな? 10種類くらいかな? っていう感じではありますね」

写真協力:石倉良信
写真協力:石倉良信

●へ〜! 私本当に苔初心者なので、何が違うのかとか全く分からないんですけれども。

「そうですよね。あのね、苔初心者というか、大体の普通の人はそうなんですよ(笑)。小尾さん、苔って見たことある?って聞かれたらどういう答えになります?」

●あるはずなんでしょうけど、でもじゃあ、どんなもの?って言われても具体的に言える自信ないです(笑)。

「そこなの! そうなんですよ! でも、絶対に苔って見ているはずなんですよね。ただ意識していないだけで。
 例えば簡単に言うと、行ったことなくても屋久島とか、奥入瀬渓流みたいな、自然の、苔だけじゃなくて木とか生茂って、綺麗なところに苔がいるんだなぁ、苔むしているんだろなぁっていうのって、小尾さんもイメージとか、写真見たら、ああ〜!と思うじゃないですか。だけど苔って、都会の片隅とか、道端、簡単に言ったら自分の家の玄関を開けて、駅まで行く道に絶対にいるんですよね」

●そんな身近なものではあるんですね! 

「そうなんです! ただ小尾さんが意識していないだけなんです! 」

一同(笑)

「でもそれは普通の人は全員そうなんですよね〜」

ナンバー1はギンゴケ!

写真協力:石倉良信

※改めて石倉さんにうかがいましょう。苔の魅力はどんなところなんですか。

「生き方がかっこいいかな、佇まいが。先ほど言った役者業とのリンクっていうのもあるんですけれど、そこで生きてるの、お前!っていうね(笑)。だからもう道端を歩いていると大体下向いて歩いていますよね」

●なるほど、苔を探して! 

「はい! 雨上がりなんて大体下向いて歩いています。スマホ片手に」

●あ、苔を見つけた場合はどうしたらいいんですか? スマホで写真を撮って観察したらいいですか? 

「そうですね〜。僕の場合はスマホで写真を撮るんで、都会だと触らない方が、触っちゃうとばい菌とかもあったりするのもよくないので、触らないで写真だけ。観察会に行ったりするとルーペを持って、すごく拡大して見たりとか」

●私の知り合いにも苔好きの女性がいて、苔が可愛い可愛いって言ってるんですけど、どの辺が可愛いんですか? 

「本当に都会とかの場合は、やっぱり地べたとかにいるやつはあんまり触らない方がいいって言いましたけど、実際触るとすっごくしっとりしていて、可愛いんですよ。もう本当にね、癒してくれます! 

 苔ってあんなに小っちゃいんだけど植物なんですね。だから、お水と、明かりが必要なんですけど、被子植物とかだと、やっぱりちゃんとした陽の当たるところじゃないとダメじゃないですか。だけど、苔の場合はLEDライトの光量だけで十分光合成ができるんですよ」

●強いですね〜。

「そうなんですよ! 強いの! かっこよくて可愛くて強いって、すごいですよね!」

●たくましいですね! 

「僕が一番大好きなギンゴケっているんですけどね。葉先に葉緑体と言って、緑になる色素みたいなのがないから、先っぽがちょっと白っぽいんですけど、本当に街中で見る、一番都会で見る苔のナンバー1と言っていいくらいの、僕が大好きな苔のギンゴケってやつは、富士山の頂上から南極大陸までいますからね。だからどんな環境でも生き延びることができる種もいたりするんですよ」

●私たちの身の周りにもギンゴケはいますか? 

「ギンゴケこそ都会の苔! って言われているくらいです」

●そうなんですね!

*「石倉」さんは苔を使ったオリジナルのグッズを作っていて、例えば、スマホケース。これは本物の木に苔を編み込んだもの。ほかにも苔を植えた指輪などもあります。

写真協力:石倉良信
手前が指輪、その後ろにあるのはなんとスマホケース!

写真協力:石倉良信
これはGパン。「NO MOSS NO LIFE」(MOSS=苔)

写真協力:石倉良信
Gパンの裾に苔!

東京苔展at 渋谷

*現在「東京苔展〜あなたの傍にそっとコケ」が「渋谷区ふれあい植物センター」で開催されています。石倉さんのほかに、どんな方たちが協力されているんですか?

「苔クリエイターの石河さんにお声がかかって、僕とか苔アクセサリーを作っている吉田有沙さんとか、茨城県自然博物館の学員さんをやられている鵜沢さんとか、あと鎌倉の苔むすびという苔ショップのオーナーの園田さんとか、みんなで。

 ほかにも苔仲間で岡山の方に、岡山コケの会という学会というか、そういう会があるんですね。そこの皆さんにもいろいろ苔の写真とかを提供してくださっていて、そういう形で、いわゆる都会の苔をみんなで注目していこう!みたいな、そういう企画展を今やっているんですよ」

●苔の写真がたくさん並んでいるっていうことですか? 

「はい! それがまた街並みの苔に限定してみようみたいな、アスファルトの隙間じゃないですけど、そういうそっといる苔、森にいる苔じゃなくて。そういうのに注目していこうと、写真を飾ったり、あとテラリウムという形だったりして、生の苔を来てくださる方に見ていただいたり。

 こういう環境ですけれども、ルーペで見られる、大きさとか、霧吹きをかけると葉が開くっていう状態も、コロナ禍対策をしながら消毒もして、ちゃんと皆さんに楽しんでもらえる環境を作ったりっていう、苔展ですね。

 今回は渋谷区ふれあい植物センターさんの近くの街並みを、僕と鵜沢さんで、苔散歩を動画で撮りまして、こういう苔がこの街にはいっぱいいますよとか。そこでは鵜沢さんがちゃんと調べた中で、これは何苔ですってこともちゃんと提示してます。だから植物園を出たあとでも、渋谷区の、都会の周りを苔散歩できるというふうにしてますね」

●へ〜! 苔散歩!

「僕らが苔散歩した苔をちゃんと解説している苔図鑑も、来た方には無料でプレゼントしますので、それを片手に都会の苔に触れ合えるきっかけになってもらえたらなっていう感じで、みんなで盛り上がっています!」

写真協力:石倉良信

苔が好きすぎてYouTuber!

*ほかにも石倉さんは、YouTubeで苔の魅力を発信する動画を配信されているんですよね?

「そうなんですよ! よくぞ聞いていただきました! これもやっぱりきっかけは新型コロナウイルスの影響かもしれないんですけど、いろんな方がYouTubeを始めている中で、僕も結構何年か前からよく居酒屋で苔のことを喋っていたんですね。ここがいいんだ!みたいな、きょう小尾さんに話しているみたいな感じで、熱量を持って喋っていたら、そういうのお前、配信したら? なんて言っていたんですけども。

 じゃあやってみようかなと思って“苔道チャンネル”というYouTubeを始めちゃいまして、これがまた5分くらいだったり、対談では1時間くらい喋ったりするんですけれど、どなたでも見やすい、苔に興味がない人でも、こんな風に思っている人がいるんだな〜とか、っていうのが分かってもらえたら。

 まぁニッチな世界ではあるんですけれど、こういうことで楽しんでいるとか。あとこういう時代になって、1人でも楽しめること、外に行かなくても楽しめること、外に行っても密にならなくても楽しめることを、なんか自分たちで探していかなきゃいけないのかなって思った時に、あ、俺元々やってたなっていうね(笑)。だったらその楽しさを配信して、じゃあこんな感じでやってみようかなみたいな」

*最後に苔を育てるときに、心がけて欲しいことをお話しいただきました。

「ギンゴケっていうのはね、なかなか苔テラリウムとかには向いていないんですよ、都会にいる苔って。だからくれぐれも地面にあったやつとか、他の方の敷地内のはもってのほかで、苔は採取はしないでほしいんですね。自分の家のお庭だったらいいと思います」

●じゃあホームセンターとかでちゃんと購入して育てるっていうのがいいってことですね?

「そう、ネットでも売っているし。自分の家の敷地内だったらいいんですけど、でも取るとしたら、例えば野球ボールくらいの群落があるとするじゃないですか。だけど、このくらいならいいかなって、ビンに入れようと思って、丸ごと取っちゃダメです」

●あ、ダメなんですか? 

「野球ボールくらいの群落になるまで、何年かかっていると思うんですか? と思うわけ(笑)。だから本当に野球ボールくらいだったら、1センチぐらいちょっとだったらいいけど、もうごそっと取っちゃうと、せっかく作った群落の生態系がまたなくなっちゃうから。

 苔はちょっとなくなっても、また自分たちで頑張って仲間というか群落を広げていくので、そういう意味で言ったら、購入しないで自分の敷地内から取るとしても、そんなにガサッと取らないで」

写真協力:石倉良信

☆過去の石倉良信さんのトークもご覧下さい。


INFORMATION

「東京苔展〜あなたの傍にそっとコケ」


 都会に生えている苔の写真や、苔の生態がわかるテラリウムの展示ほか、苔に触れる体験コーナー、そして苔散歩の動画の上映、さらに希望者には苔のミニ図鑑をプレゼント!

◎会場:渋谷区ふれあい植物センター。
◎開催:11月23日(月・祝)まで。
◎毎週月曜日は休園。入園料100円。
詳しくは、渋谷区ふれあい植物センターのサイトを見てください。

◎渋谷区ふれあい植物センターHP:https://www.botanical-fureai.com

 YouTubeの「苔道チャンネル」、そして石倉さんのオフィシャルサイト「苔園」もぜひご覧ください。

◎苔道チャンネルHP:https://www.youtube.com/channel/UCHMWu4Zh_FqLSS2zE7aDc6g

◎苔園HP:https://kokeen.net

オンエア・ソング 11月8日(日)

2020/11/8 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. HANABI / Mr.Children

M2. YOU ARE MY SUNSHINE / SARA GAZAREK

M3. I KNOW THIS TOWN / BETTE MIDLER

M4. PRETTY LITTLE BABY / MARVIN GAYE

M5. 馬と鹿 / 米津玄師

M6. WALKING THE LINE / THE EMOTIONS

M7. Garden / Sugar Soul feat. Kenji

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

石斧は“すべて丸く収まる”道具 〜縄文人から学ぶ持続可能な生活〜

2020/11/1 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、縄文大工の「雨宮国広(あめみや・くにひろ)」さんです。

 雨宮さんは1969年、山梨県生まれ。20歳のときに丸太の皮を剥くアルバイトをきっかけにチェーンソーを使いこなすログビルダーに憧れ、大工の道へ。その後、伝統的な木造建築を学ぶために弟子入りし、大工修業。そして石の斧「石斧(せきふ)」に出会い、人生が一変。縄文時代の人々の知恵や技術に傾倒し、いまでは縄文大工と名乗って活動されています。

 そして先頃『ぼくは縄文大工〜石斧でつくる丸木舟と小屋』という本を出されました。

 きょうはそんな雨宮さんに石の斧だけで作った縄文小屋や丸木舟、縄文の暮らしから見えてきた、先人たちの知恵や技術についてうかがいます。

☆写真:的野弘路

写真:的野弘路

すべてが丸く収まる!?

*それでは雨宮さんにお話をうかがいましょう。縄文大工と名乗っているのは雨宮さんだけなんですか?

「そうですね、私が知る限りでは多分私だけではないかと思います」

●では縄文大工とは? 

「私が作った言葉です。縄文という言葉はみんな、縄文時代ということで知ってると思いますけども、縄文大工って確かに一体何? っていうところで、僕は縄文大工って、本にも書かしてもらってるんですけども、簡単に一言で言いますと、“すべてが丸く収まるものを作る”大工さんですかね(笑)」

●丸く収まるというのは? 

「私たちは人のためにと言って一生懸命毎日仕事しています。でも、これから私は地球のために仕事をするべきだなと思っています。(石斧は)人間以外の、地球上に生きているすべての生命が笑顔で楽しくて面白く暮らせる、そんなものが作れる道具ではないかなと思っています。そういう道具を使う大工さんのことを私は縄文大工と名付けました」

●石斧とはどこで出会ったんですか? 

「やっぱりチェーンソーに憧れました、そして伝統的な手道具の鉄の道具にもハマって、大好きで、その世界をまっしぐらで走っていました。でも何かしっくりするものがなかった、何かモヤモヤがあったんですね。

 あるときその石斧と出会った。自分で石斧を作って、栗の木にひと振り、振り下ろした時にですね、もう今までの曇っていた心が、ほんとその時は青空だったんですが、もう澄み渡るその青空の気持ちになって、これだ! と思ったわけですよ。その時にこの石斧と一生共に生きていくっていう覚悟しました! たとえお金にならないと分かっていても、共に生きていくぞとその時思ったんですね。2008年ぐらいの時ですね」

写真:的野弘路

●何が違ったんですか? 

「一言で言えばすべてが丸く収まるなと思いましたね。そのモヤモヤっていうのは結局、人間中心主義の物づくりを感じていたってことなんですよ」

●この本にも1本のペンがあれば何でも書けるように、1本の石斧があれば何でも作れるという風に書かれてましたけど、そんなにこの石斧ってすごいものなんですか? 

「私も最初は石斧自体、まぁ石自体ただの石ころだと思っていました。皆さん斧って聞くと大体は薪を割る斧を想像されると思うんですが、私もその1人でした。しかしですね、鉄の斧も石斧を使う前にたくさん使ってたんですけども、斧1本で木を切り倒すこともできる、そして柱とか梁(はり)とか角材にもできます。板を作ることもある意味できます。
 そして穴を掘ることもできる。伝統的な木と木を組み合わせる継手(つぎて)・仕口(しくち)なども作ることができるんですね。ということは斧1本あれば、家ができてしまうということがやってみて分かりましたね」

かわいい縄文小屋!? 

写真:的野弘路

※雨宮さんは石川県・能登の貴重な縄文遺跡「真脇遺跡(まわきいせき)」で縄文小屋を造ったそうですが、石の斧を使ってすべてひとりで作業されたんですか?

「設計は大学の先生、研究者と共に考えた中で、大まかな基本的な設計は私が任されてやったわけです。なぜこれをやったかと言いますと、私常々思っていたんですが、日本全国の遺跡にある縄文小屋を見まして、皆さんも感じてると思いますが、まずそこに入りたくありません。

 中に入ったらじめじめしてる、カビ臭い、虫がいっぱいいる、床は濡れている、真っ暗、薄暗い、出入り口から風がピューピュー入ってくる、そこでとても住みたいと思えない縄文小屋だらけでした。こういう小屋は絶対私は作りたくないなと思ってたんですね。

 私がやっぱり作りたいのは、見てかわいい! まずはかわいい。そして中に入ったら素敵だな! 実際にそこで暮らしたら本当に居心地がいいね! 健康的に暮らせるね! 機能的だね! そういう小屋を作りたかったんですね。

 自分の思いを100%ぶつけました。やっぱり先生方もその情熱に納得して頂けまして、雨宮に任せるから是非やってみてくれ! ということで、もうこれはいくぞって感じで、走り出したんですが、実際の作業は地方創生事業の中で、能登町が主催でいろんな人が参加できるワークショップという形でやりました」

写真:的野弘路

●どれくらいの期間がかかったんですか? 

「設計に1年かかりまして2015年。で、2016年〜2017年の2年間で完成まで作業を進めていきました」

●実際作られていかがでした? 

「とにかく縄文人たちのレベルの高さ、また自然を活用する高度な技術と知識と、とにかく精神性にびっくりさせられるところが大きかったですね」

●例えばどんなところに感じます? 

「私たちは当たり前なことなんですけども、森との付き合い方を忘れてしまってるんですね。たまたまその縄文小屋に使った木は、近くの栗の木が主体の雑木林だったんですけども、その30年〜40年前に炭を作るために、その雑木林が切られていたわけですよ。

 その切られた株から“ひこばえ”と言って、また元の切り株からいっぱい赤ちゃんが出てくるんですよ。それが2〜3本、ぐぐーんと一緒に成長するわけですよね。そうすると1つの株から2本〜3本、ちょうど直径15センチぐらいの、すーっとまっすぐな栗の木が育ってくるわけですよ。実はそういう細い、小径木の栗の木が一番使いやすいし、加工しやすい、っていうことなんですね。

 それをまた切りますよね。そうするとまたそこの株からまた出てくるわけですよ。そういう風にして森との循環型の暮らしというんですかね。人が手を加えることによって、自分たちの住むところもできる。
 その間にはまた30年経てば、また建築材に使える材料は出てくる。だけど建物自体は30年〜100年以上持ちますから、その材はまた違うものに使ったりという風に、どんどん恵みを生み出してくれる。そして自分たちの暮らしも豊かになっていくっていう森との付き合い方、自然との付き合い方をやっぱり知ってる人達なんだなっていうことは感じましたね」

<縄文時代の基礎知識と加曽利貝塚>

 ここで縄文時代はどんな時代だったのか、おさらいしておきましょう。
 縄文時代は紀元前1万3000年頃から1万年以上の長きにわたって続いたとされています。厳しい氷河期が終わり、気候が温暖になってきた頃で、ドングリやクルミが実る落葉広葉樹の森ができ、海や川では魚介類が豊富に獲れるようになり、人々は木の実や魚、貝などを獲って食べたほか、森にいる鹿やイノシシ、ウサギなどを狩りで捕まえていたと考えられます。

 食料が安定的に確保できることから人々は竪穴住居を作り定住するようになり、土をこねた縄文土器で「煮る」などの調理や、食料の貯蔵も行ない、狩りのパートナーとして犬との暮らしも始まっていたようです。そして、竪穴住居がいくつか集まって「ムラ」となっていきました。

 そんな人々の暮らしを現代に伝えるのが貝塚。大量の貝殻のほか、動物の骨や土器の破片なども含まれていて、当時の食生活などが垣間見えます。かつては「縄文時代のゴミ捨て場」という認識でしたが、丁寧に埋葬された人骨などが出土することもあり、「もっと神聖な場所だったのではないか」という説も出てきています。

 実は、千葉市は貝塚の数が日本一多く、全国でおよそ2400カ所あるとされる縄文時代の貝塚のうち、およそ120カ所が千葉市内に集中しています。
 中でも有名なのが、国の特別史跡に指定されている加曽利貝塚。日本最大級の規模を誇るだけでなく、集落跡としても、およそ2000年間にわたり栄えたムラの変遷がたどれる貴重な遺跡で、それが21世紀の現代まで自然環境とともに保全され、考古学研究の発展にも多大な貢献をしてきました。

 加曽利貝塚では今月28日までの予定で本格的な発掘調査が行なわれていて、ムラの構造解明を目指しています。発掘実施日には毎日、学芸員による説明が行なわれたり、加曽利貝塚博物館のホームページでも調査の様子を発信していますので、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

◎加曽利貝塚博物館HP:https://www.city.chiba.jp/kasori/

旧石器人の超高度な技術

※さて、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」をご存知でしょうか。

 このプロジェクトは国立科学博物館の人類進化学者「海部陽介(かいふ・ようすけ)」さんが中心となって進めたプロジェクトです。
 目的は、旧石器時代に日本人の祖先がどうやって海を渡って日本列島にやってきたのか、それを実証するために、当時あったであろう技術と素材を使って舟を作り、人力だけで海を渡るというもの。

(*詳しくは以下の番組アーカイブをご覧ください)
https://www.bayfm.co.jp/flint/20190831.html
https://www.bayfm.co.jp/flint/20190907.html

 このプロジェクトは2016年に実験が始まり、2019年に台湾から沖縄・与那国島までの本番の航海が行なわれ、黒潮に流されながらも見事、渡りきりました。そのときに使った丸木舟、全長およそ7メートル50センチ、重さ200キロの舟を、石の斧だけで造ったのが雨宮さんだったんです。

 この歴史的なプロジェクトに参加して、いまどんなことを思っていますか?

「とにかく旧石器人、半端じゃないレベルだなと思いましたね。とにかく木工技術が超高度なレベルですよね。これは私が30年間大工をやってきまして、特に手道具を主に使ってやってきた職人の私ですら、石斧を使うには非常に高度な技術がいるなってことが分かったんです。

 それを使いこなしてる旧石器人たちって一体どんなレベルなんだっていうことですよね。それはきのうやきょうにできることではなくて、何十年も積み重ねないと道具ってのは自分の手足にならないんですよ。ということは、日頃からものづくりをたくさんしていたってことですね。石斧でね。これはすごいことですよね」

『ぼくは縄文大工〜石斧でつくる丸木舟と小屋』

※縄文時代よりも前の、旧石器時代の人たちも優れた技術を持っていたんですね。

 雨宮さんは石の斧で丸木舟を造っている時に、多くの人たちから「大変ですね」と声をかけられたそうです。そんな時、雨宮さんはこう応えていたそうですよ。

「でもよく考えてみてくださいって私言うんです。大変なことになってるのはチェーンソーを使う時なんですよ」

●え!? どういうことですか? 

「多分皆さん、単純に体が大変だろうって言っていると思うんですけれども、体は正直、汗かきます。でもそれ気持ちいいんですね。とても楽しいです。健康的です。だから全然大変じゃないんです。

 何が私は大変になるかって言うと、地球環境がめちゃめちゃ大変なことになっちゃう、チェーンソーを使うとね。そういうところまで皆さん考えてないなーって。そういうこともまた伝えたいんですけどもね」

●具体的にどういったことなんでしょうか? 

「一番最初に頭に置かなければいけないことは、私たち人間もそうですけども、生命にとって必要なものは空気、水ですね。これはもう絶対的な条件なんですけども、その水とか空気を作っているものは何かっていうことですね。これは木、森ですね。

 その森の木を今、チェーンソーという木の伐採道具を使って、世界の肺もと言われる森林を今もバンバン伐っているわけですよ。石斧の大体200倍〜300倍ぐらい早さで、あっという間に伐り尽くしていきます。その木を伐り尽くせば、当然、空気も水もなくなっていくわけですね。これ大変なことになりますね。

 あとチェーンソーを使う時には化石燃料が必要なわけです。その地下資源もあともう何十年でなくなるっていうことも分かってることですね。そしてそのチェーンソーを維持するにも、壊れたら、ほとんどが皆んなそうですけども、使い捨て文化でして。
 チェーンソーが壊れたらまた新しいものを買う。そしてまた作るのに大量のエネルギーを使う。という風な大量生産、大量消費の中の道具でもあるんですよね。

 やっぱりその速さ、大量に速く伐っている行為は非常に危ないですよね。石斧だと、1日に1本しか伐れない木が、チェーンソーを使うと何百本も伐れるわけですよ。それを世界中の至る所で毎日行なっているんですね。これはもう空気がなくなるぞと言っても過言ではないですね」

縄文暮らしは毎日がワクワク!

*雨宮さんは現在、山梨のご自宅にある縄文小屋で暮らしています。どんな小屋なんですか?

「大きさは、畳で言いますと3枚分の大きさですね。そして真ん中に炉がありまして、火を焚くところがありまして、床は土です。壁は土壁で、屋根は板葺き(いたぶき)で、自然素材の縄文小屋に近いような小屋に暮らしています」

写真:的野弘路

●寒くないですか? 

「夏は涼しく、冬はぽかぽかです!」

●ええ〜〜!? 

「私は1年中、半袖と裸足で暮らしてるんですけども、全然寒くないです。毎年暑さは厳しくなってくるんですけども、そんな小っちゃな小屋に夏にいて、『ぼくは縄文大工』の執筆もしたりしましたけども、小屋にこもっていても、全然暑さは感じませんね。

 それはですね、土の床、そして土の壁が湿気を含んでいまして、それが蒸発する時に熱を奪い取っていく、気化熱って言うのかな。熱を奪い取ってくれるんですよ。それで空気が冷やされるんですよね。だからとてもひんやりとするんですね。
 皆さんも多分、体験として古い民家に真夏に入った時に、ひやっとした感じを受けたと思うんですけども、それはそういうことだと思いますね」

●ご家族は何とおっしゃっているんですか? 

「小さい時からこういう変わり者の父さんですから、変わったことをやっているってことが当たり前に見てますんで、普通に思ってるんじゃないですかね。ただ普通のお父さんと違うなとは思っていると思いますけど、普通ってなんだよってことですけどね(笑)」

●実際に縄文小屋で暮らしてみて一番感じたことってどんなことですか? 

「とにかく日々の暮らしが楽しいですよ。外との一体感がありますからね。常に外を感じながら、だけど壁に囲まれ、火に温められ、なんとも自然と一体になる。そして(現代社会は)これだけ物にありふれているのに、毎日何か新しい発見がありますね。食べることとか寝ることにしても着ることにしても、何にしても発見がありますね。ワクワクします!」



●食事はどうされているんですか? 

「食事は、一番大きなところは米を食べてないですね。なんでだ?って言われるんですけれども、やっぱり弥生時代に渡来人が米を伝えた、伝えたというか持って作り始めた、その農耕に対して、縄文人になってみて、縄文人としてと言わせていただいて(笑)、やっぱり森との共生、これを実践していけるような暮らし方を自分でやりたいんですね」

●縄文の生活から学ぶことってすごく多そうですね! 

「そうですね。今世界が目標としている持続可能な暮らしっていうのは、そこにあると思うんです。やっぱり自然との共存ですね。自然と共に暮らすっていうこと。

 いわゆる農耕社会って、やっぱり温暖な気候、安定してる気候だったらいいんですけども、どうも地球は10万年周期で寒冷な気候になる。農耕ができない時代の方がはるかに長かったわけですよ。いま現在、1万2000年前から続いている温暖な気候も、もう終わろうとしてると言われてるんですね。

 そういう時にどうやって今のこの世界の77億の人口を支えていくんだ!? ということですね。それはやっぱり豊かな自然環境、豊かな森、そういうものを私たちはもう一度、森と自然と関わって、作り上げていくことをしていかなきゃいけないんじゃないかなと思います」

●改めて自然のことを学ばないといけないですね。

「本当に目先だけの暮らしを成り立たせるっていうことではなくて、やっぱり今を生きる人の使命として、未来へつなげる暮らしをすることが使命ではないでしょうか」

☆過去の雨宮国広さんのトークもご覧下さい。


INFORMATION

ぼくは縄文大工〜石斧でつくる丸木舟と小屋


『ぼくは縄文大工〜石斧でつくる丸木舟と小屋』

 石の斧「石斧(せきふ)」など、太古の道具で物作りをする面白さなどを紹介しています。また、縄文小屋や丸木舟を造ったときの記録や、縄文暮らしなど興味深い話が満載で、写真も豊富です。私たちの生活様式を見直すきっかけにもなるかもしれません。平凡社新書シリーズの一冊として絶賛発売中です。ぜひ読んでください。詳しくは平凡社のサイトをご覧ください。

◎平凡社HP:https://www.heibonsha.co.jp/book/b517408.html

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