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南極〜忍び寄る地球温暖化の脅威

2020/12/20 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは写真家、そして科学ジャーナリストの「水口博也(みなくち・ひろや)」さんです。

 水口さんは1953年、大阪府生まれ。京都大学理学部卒業後、出版社で自然科学系の本の編集に携わり、1984年にフリーランスとして独立。世界中の海をフィールドに主にクジラやシャチ、イルカなどの海洋哺乳類と彼らが生息する自然環境を取材し、数多くの写真集や書籍を出版されています。20年以上前から南極にも通い、精力的に取材活動を続け、先頃、新刊『南極ダイアリー』を出されました。

 きょうは南極大陸の特徴や、数万羽の群れをつくるペンギンたちの習性、そして地球温暖化による影響についてうかがいます。

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☆写真協力:水口博也

南極大陸は最後の砦!?

*それでは水口さんにご登場いただきましょう。南極大陸は、いろいろな意味で特別な場所なんですよね?

「個人にとっても特別ですけれども、地球にとっても相当特別な場所ではあります」

●どのあたりが特別なんでしょうか? 

「私自身は20代から相当、世界中を旅行していますけれども、大陸としては最後に行った場所にどうしてもなります。地球環境から言えば、いろんな所で気候の変動は起こっているわけですけれども、それがある部分、特に今回の舞台になってる南極半島は最も出てる部分ではあります。

 それからもうひとつは、南極大陸っていうのは南極半島と違ってものすごくでっかい氷の大陸なので、実は地球上全部、温暖化していると言いながら、南極大陸自体はあんまり温暖化していないんですね。

 じゃあ温暖化は起こってないのかというと、間違いなくそれは起こっているんですけれども、南極大陸で温暖化が顕著に見えるようになれば、もう地球は終わりですねというくらい、最後の砦という意味でもあります」

●改めて、南極大陸の広さや特徴を教えていただけますか? 周りの海についても! 

「僕たちが南極大陸の大きさを実感することって実はほぼありません。というのはいちばん僕たちが行く、別のルートも通ったことありますけれども、最も使うのは南アメリカの最南端フエゴ島に、アルゼンチンのウシュアイアって町があって、そこから船で行くわけですけれども、見られるのは南極半島のちょろちょろっとした場所だけですね。
 時にはオーストラリアのタスマニアから南極大陸の反対側は行ったことはありますけれども、それも見られるのはピンポイントなんです。

 実際、日本の37倍とか38倍と言われる大陸のほとんど、これは僕に限らず多くの研究者の方もそうですけれども、そのほとんどは未知の部分なので、大陸の大きさ自体を実感することはまずない。

 ところが南極が皆さん寒いって言われるんだけど、実際、大陸のど真ん中に行けば寒いに決まっているんです。ただ私たちの取材とか、旅行に関していうと、行けるのは南極大陸にアクセスできる南極の初夏から秋までで、南極大陸から少し飛び出している南極半島というところに限られます。

 そこは南緯でいうと63〜64度なんです。南極はもちろん南緯90度、それに対して63〜64度。つまりなぜかっていうと南極大陸があまりにもでかいので、沿岸を旅行する程度の旅だと63〜64度、その辺りなんです。
 ところが北極圏に行くと、例えばノルウェー領でスヴァールバル諸島っていう、普通に飛行機が飛んで普通に皆さんが旅行に行けるところは北緯80度なんです。だからいかに南極って真ん中まで行けないか」

●なるほど〜! 

「真ん中まで行けない上に夏に行くものですから、特に最近、気温も上がっていることもあって、普通に夏に船で旅行すると、日中だと下手すると0度より少し高いぐらいの気温なんです。
 なので南極大陸って難しいと思われているかもしれませんけれども、今4〜5万人が旅行してるんです。今年はちょっとコロナがあってアレですけど、例年4万人を超えて旅行しています。で、その人たちの多くが船で旅行してるわけですけれども、その人たちにとっては、南極は旅行としては厳しいところではないんですよ」

海を一周できる唯一の場所!?

写真協力:水口博也

※新しい本に、南極大陸を取り巻く海に「南極前線」があると書いてありますが、この「南極前線」とはなんでしょうか。

「もちろん海の上でその線が見えるわけではありません。南極大陸の周りは地球上の中でも極めて特殊なんですけれども、ちょっと地球儀を思い浮かべていただくと、同じ緯度のところで、ぐるっと海を一周できるところを探すと、南極大陸の周りしかないんです。

 例えば、赤道だとすぐどこか大陸にぶつかりますね。日本の緯度辺りを辿ってもアメリカ大陸にぶつかったり、ヨーロッパにぶつかったりします。南半球でもあまり緯度が高くなければ、すぐ南米大陸やアフリカにぶつかります。何の大陸にもぶつからないで一周できるのはあそこだけなんですね。

 そうすると何が起こっているかというと、南極大陸を取り巻いて、南極還流という大きな海流が南極大陸を取り巻いてぐるぐる流れている。それが温度というか熱力学的には地球の他の部分とを分けるバリアリーになっていて、そのために南極大陸が非常に氷の大陸になっちゃったわけです。

 で、南極大陸の方から流れ出すすごく冷たい水と、地球の北側にある温かい水が南に流れ、ぶつかっているところが南極前線です。

 僕たちが船で南極へ行くのは、アルゼンチンの南、フエゴ島から南極半島に向かうわけですけれども、そこにはだいたい800キロぐらいのドレーク海峡があります。一般の船だと2日くらいで横断するわけです。
 ちょうど真ん中くらいで水温が6度から2度くらいにストンと落ちるところがあるんですよ。それが南極前線を超えたっていう・・・南極前線を超えたっていうことは、海の環境的には南極と呼ばれるエリアに入ったということです」

ペンギンたちの子育て

※続いて水口さんの本に掲載されているペンギンの、気になる写真についてお話をうかがいました。

●中には数万羽のペンギンの群れの写真が載っていましたけど、これすごいですね! 隙間がないくらいぎっしりとペンギンたちがいますけど、実際にご覧になったら迫力というか圧倒されたんじゃないですか? 

「圧倒されますね。実はその島っていうのはサウスジョージアという南極大陸ではなくて、亜南極、南極大陸の周りに広がってる海に浮かんでいる島なんですけれども、そういう所の方が実は生き物が相当豊かに残っている。

 やっぱり僕たちが何かの風景を見て驚くとか、感動するのは、多くの生き物が密集している風景なので、多分ご覧になった写真の場所は、地球上の中でも生き物が最も集中している場所じゃないですかね」

●どうしてこんなにペンギンたちは、群れているんですか? 

「ひとつはそのペンギンの敵がいなかったっていうことです。それからペンギンは陸のものを食うわけではなくて、海へ出て行って餌を獲るわけです。
 さっき言いました南極前線は、ふたつの水の塊、つまり南極側からの冷たい水と北側からの幾分温かい水がぶつかってできる線ですけれども、サウスジョージアは南極前線の近くに浮かんでいるんですよ。

 ふたつの水の塊がぶつかり合うところは生物がより豊かに発生する所ですから、もう餌がめちゃくちゃあると。だから餌がめちゃくちゃある海の真っ只中に浮かんでいる敵のいない島なので、あれだけ増えたんでしょう」

●居心地がいいんでしょうね。繁殖のためっていうのもあるんですか? 

「もちろん繁殖のためです」

●へ〜! ペンギンたちはどんな風に子育てをするんですか? 

「これが面白くて、多くのペンギン、17種類いるペンギンの中の、多くのペンギンは元々全部、南半球ですけど、南半球の春に、あるいは初夏に繁殖をスタートして、秋に繁殖が終わって冬を迎えるというのが普通のパターンですね。夏の方が当然餌を獲りやすいので、子育てがしやすい。

 ところが今話題になっている、そのサウスジョージアのぐっしゃり群れているところはオウサマペンギン、キングペンギンっていうペンギンで、これがものすごく変則的な繁殖をするので、ものすごく表現しにくい(笑)。

 例えば繁殖のサイクルが14ヶ月とか15ヶ月、長いので16ヶ月なんです。15ヶ月とか16ヶ月って言ったら1年じゃないので、普通生き物って1年サイクルで、春に子どもを産みましてとかって説明ができるんですけど、15ヶ月16ヶ月の繁殖サイクルを持っているやつはそういう説明が実はできない。で、それぞれに個別な特殊な事情を持っているので、そこは本を読んでいただいた方が効率はいいかもしれない(笑)」

※もっと珍しい子育てをするペンギンがいるそうです。

「本の表紙になっているコウテイペンギンはもっと極端な子どもの育て方で、真冬が始まる頃に卵を産むんですね。こんな珍しい生き物はあまりいないんですけれども。卵を産む時って当然オスとメスが出会うわけだけど、卵を産んでしまうとメスは海に帰っちゃうんです。で、オスが1羽で、足の上で2ヶ月間、卵を温め続ける。

 南極の真冬ですから、要するに昼もないような極寒の世界で、オスが1羽で足の上で卵を温め続けるわけです。ただオスが1羽って言っても、そういうオスが固まっているので、オスの集団はあるんですけれども、2ヶ月かけて温める。

 で、2ヶ月かけて温めて雛が孵る頃に、メスが海から餌を取って帰ってきて、ようやく交代ができる。その間オスは飲まず食わずで、卵を温めるっていう非常に特殊なことをやるペンギンです」

●そうなんですね〜。こんなに群れがある中で、すぐにパートナーのもとに辿り着けるものなんですか? 

「それは僕たちも実際行ってみると驚きますけれども、見つけるんですよね。鳥は基本的には音というか、声の動物なので、声で鳴き交わしながら、大体自分の巣のあるところ、パートナーのいるところは、おおよそは分かっていますけど、最終的には鳴き交わしながら自分のパートナーであったり、子どもを見つけるというやり方です」

南極半島にドカ雪と雨!

写真協力:水口博也

*水口さんは地球温暖化が南極に与える影響についても新しい本で指摘されていますが、大きな変化が広大な南極大陸全域で起こっているわけではないそうです。顕著に地球温暖化の影響が出ているのは「南極半島」だとおっしゃっています。いったいどんな変化が起こっているのでしょうか。

「興味深い例なんですけど、ものすごく雪が降るようになっているんです。一般の観光客、これは私たちも含めてですけれども、温暖化っていうと氷とか雪が少なくなる風景を思いますけど、ただ、まだそうではない、非常に面白い局面があって、気温も上がってるし、南極を取り巻く海の水温も上がってるいんですね。

 水温が上がると、海からの蒸発量もものすごく増える、だから海から水分がものすごく大気中に移動します。移動した水分はいずれ何らかの形で地上に降り注ぐわけですけれども、南極半島が暖かくなったと言っても、例えば冬とか春だったらまだマイナスです、氷点下なんですね。だから降る水分は雪という形をとるわけですよ。

 今までより大量に大気中に行った水分がより多く雪として降るために、特に春にものすごくドカ雪が降るようになった。だから僕たちが20年前に行った時より、むしろ、前ここ、こんな雪なかったよね? というようなところにドカ雪を見ることがものすごく多くなりました。

 もうひとつは春までは雪でも、夏でもうちょっと気温が上がると今度は雨になるんです。30年前ぐらいまでは、南極半島はそんなに雨は降らなかったよって言われたんですけど、最近は夏にやっぱり雨が降るようになった。そのふたつが大きな違いです」

●変わってきてるんですね。温度も上がってきてるんですね? 

「温度が上がっていることだけは、まず間違いない事実です」

●温度は何度上がると大変と言われているんですか?

「例えばこの間、日本も2050年までに温室効果ガスをゼロにしようという話がありましたけど、せめて1.5度上昇に抑えようという。1.5度でも大きな影響があるけれども、せめて1.5度に抑えようっていうことから計算されたことなので、普通にいうと、地球上全部の平均温度が1度上がるってことは非常に大きな変化です」

●それが南極半島では、平均温度が何度ぐらい上がっちゃってるんですか? 

「50年で3度です」

●それはものすごく大変なことですよね?

「ものすごく大変なことですね。ただそこに人間の住まいがあるわけではないので、僕たちが直感しにくいだけで、例えば僕たちが住んでいる東京だとか、あるいはアメリカだとかヨーロッパだとか、人口の多いところで平均温度が3度上がるなんていうのは、まあとんでもない話です」

温暖化とペンギン

*ペンギンたちにも地球温暖化の影響は出ていますよね?

写真協力:水口博也

「これも南極半島のみに限ってお話しします。南極大陸のほかのところでは違う状態もあるので、南極半島だけに限ってお話しすると、ドカ雪が降っている。

 で、実は春にペンギンたちは何をするかというと、アデリーペンギンという南極大陸に典型的な、数の多いペンギンがいるんですけど、アデリーペンギンが海での生活から帰ってきて、繁殖を始めようとするんですね。ところが彼らが巣を作るためには、雪がなくなって地面なり岩場が露出した所が必要なんです。雪の上では巣が作れないので。

 今までは、彼らが繁殖始めようとする時期の、しかるべき所にはそういう場所ができて、巣を作って卵を産んで子供を育てるということがやれた。ところが今ドカ雪なので、彼らが繁殖を始めようとする時期には、まだそこに雪が残っているので繁殖がどんどん遅れる。

 あまり繁殖のスタートが遅れると、彼らは秋口までに雛を育てて、繁殖を終わらないとだめですけど、それがうまくいかなくなるので、アデリーペンギンが特に南極大陸ではなくて、南極半島だけですけども、極端に数が減っています。

 20年前はアデリーペンギンは南極半島でも非常にポピュラーなペンギンだったので、どこでも固まって巣作りをしてる光景は見られたんですけれども、今は南極半島でアデリーペンギンを見ることが非常に難しくなりました」

●減ってきちゃってるんですね〜。

「それに対して、ペンギンの数全体が減ったのかっていうとそうではなくて、ジェンツーペンギンっていう、水族館にもよくいるのでご覧になった方々もいらっしゃるかも分かりませんけど、本来は、南極半島よりもうちょっと北側の、いわゆる亜南極の島々に多いペンギンだったんです。

 そのジェンツーペンギンが南極半島にどんどん入り込んで、個体数がものすごく増えてるという、ペンギンの組成が20年前あるいは15年前と比べて非常に大きく変わっているという風な現象があります」

●へ〜! そうなんですね! 改めて、水口さんはこの『南極ダイアリー』を通して、いちばん伝えたいことはどんなことですか? 

「ひとつはやっぱり、僕たちは都会で暮らしていると気候変動は本当に起こっているの?とか、温暖化は本当に起こっているの?って考える人たちがいる。世界のリーダーの中でもそんなことは嘘だと言っている人がいるわけですけれども、別にこれ南極に行かなくても、アフリカであってもどこであっても、実際自然の中では起こっているわけです。

 それが最も顕著に目に見える形で起こっているのが南極半島であったり、北極なんですけれども、それが目に見える形でご報告するのが最も説得力があるだろうというところではあります」

☆この他の水口博也さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

『南極ダイアリー』

南極ダイアリー


 例年なら年間4万人ほどの観光客が行く南極とはいえ、そう簡単には行けない南極に水口博也さんは20回以上も通って、南極の自然や生き物の変化を見てきた、いわば目撃者。その証言には重みがあります。なにより、南極のことがよくわかる本で、紀行文的な要素もあって、旅の気分も味わえます。講談社から絶賛発売中! 
 詳しくは講談社のホームページか、水口さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎講談社のHP:
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000347002

◎水口博也さんのHP:http://www.hiroyaminakuchi.com

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flint@bayfm.co.jp

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プレゼントのご応募は締め切りました。たくさんのご応募をいただきまして、誠にありがとうございました。

『黄昏 in the twilight』

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