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今こそ「利他行動」「ヒューマニティ」!

2021/1/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立環境研究所の生物学者「五箇公一(ごか・こういち)」さんです。

 五箇さんは1965年生まれ。富山県出身。京都大学大学院を経て、宇部興産株式会社で農薬の研究・開発に従事。1996年に国立環境研究所に入り、外来生物の研究などをされています。ご専門は保全生態学、農薬科学、ダニ学。

 テレビなどのマスコミを通じて、環境科学の普及に力を入れていらっしゃいます。黒いファッションとサングラスでお馴染みですよね。

 そんな五箇さんが去年、新しい本『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』を出されました。きょうは、地球規模の問題に直面している私たちが、これからの時代をどうやって生き抜いていけばいいのか、生物学の視点でお話いただきます。

写真提供:五箇公一
写真提供:五箇公一

生きていけるのは、生物多様性があるから

●この番組「ザ・フリントストーン」を担当してから「生物多様性」という言葉をよく聞くようになりました。五箇さん、この「生物多様性」はだれがいつ頃、提唱したのでしょうか。

「誰がいちばんの提唱者かっていうのはちょっとはっきりしないというか、割と1980年代くらいからアメリカ国内の生物学者たちの間で提唱され始めた概念とされています。生物多様性は英訳すると、バイオダイバーシティですね。

 この言語がパブリッシュされたのが、1988年にアメリカの昆虫学者エドワード・オズボーン・ウィルソンが記したバイオダイバーシティに関する本ですね。この本でこの言葉がある意味、オーソライズされたとされていますね」

●人間が生きていく上で必須の環境要素だという風に、『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』でも書かれてましたけれども、多様性があるから生き物、そして私たち人間が繁栄したと言ってもいいということなんですか? 

「そうですね。要は生物多様性っていうのは階層性のある概念で、最初は遺伝子の多様性から始まって、いろんな遺伝子があることで、いろんな種が進化して種の多様性があります。いろんな種が集まることで、今度は生態系ができます。

 生態系にも多様性があって、言ってみれば、山には山の生き物が集まって山の生態系、川には川の生き物が集まって川の生態系という具合に、ですね。そういった遺伝子や種、生態系というバリエーションが、いろんな機能を生みだしてくれるわけです。

 生物学的な機能、あるいは生態的な機能が、水や空気、あるいは温度を一定にするといったような形で、我々人間も含めて生き物が生きていける環境を創ってくれます。生物圏と言われる、地球上にある生き物が生きていける空間の、環境の安定性というものは、そういった様々な機能が集まることで維持されている。

 ということは、いろんな生き物がいるからこそ、この地球環境というのは安定していて、いろんな生き物もまた進化を繰り返すことができ、人間もその中で生かされているということですね。本当に端的に言えば、生物多様性があるから人間も生きていけるということになります」

五箇さんの研究室。フィギュアの多様性!?  写真提供:五箇公一
五箇さんの研究室。フィギュアの多様性!? 写真提供:五箇公一

●生態系のバランスが崩れて環境が変化していくと、いつか人間も絶滅する可能性はありますか?

「この地球上で最も環境変化に脆弱で、危機的状況に立たされるのはむしろ人間だということになりますね。率直に言って、この地球上の生き物はもっと酷い目にあってきたというか、大絶滅という時代が5回くらい繰り返されていて、下手すると地球上の生き物95%が死滅したという時代もあるわけですね。

 それは本当に地球環境の大きな変化で、地殻変動とか火山の大噴火、あるいは隕石の衝突といったような、避けがたい大きな変動がある中で、それだけ生物が減ってもまたちゃんと回復する。
 要は微生物しか生き残れなかったとしても、生き物はまた進化して回復することができるという、抵抗力というか回復力を持っている。そういうことを繰り返しながら、この地球環境にずっと生き物が生き続けてきているということですね。

 ただその大変動に人間が耐えられるかっていうと、絶対耐えられないですね。我々はすごく弱い動物で、生物学的に言ってもいちばん脆弱な、環境変化に弱い動物なんですね。皆さんも寒い冬の中で当然、服を着てないと生きてられないし、住居がないと生きていけないという動物であって。

 ただ、他の動物だったら環境という変化に対して、進化して適応しているのに、人間はそうじゃなくて、自分たちの技術で周りの環境を変えて、生き長らえてきたわけですね。要は家や暖房を作ってみたり、あるいは都市環境を作るという中で、自分たちが進化しなくても、周りの環境を安定させるということで、人間は繁栄するということができた。それが文明であり、文化であるということで、人間が作り出してきた環境ですね。

 その中でしか生きられないから、そういうものが取っ払われてしまうと、まず人間が生き残るチャンスは非常に低くなる。で、今の環境変化っていうのはまさにそういったことがじわじわと近づいてきていると。地球温暖化であったり、それがもたらす異常気象、あるいは大地震であったりとか、そういったことが起こると、人間という生き物はおそらく、いとも簡単に地球上から消えてなくなるかもしれないということを、我々はちょっと考えておかないといけないということですね」

『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』

地産地消、ローカリゼーション

●生物多様性を維持するために、私たちが取り組むべきことは何でしょうか?

「基本的にこの生物多様性っていうのが劣化しているとはいえ、やっぱり身近なところに生き物がいる環境にほとんどの人はいない中では、あんまり身近に感じられる問題ではなく、なおかつそういった絶滅が大きく進行している、例えば熱帯雨林といったような、遠い外国の、言ってみれば自然界で破壊が続く中で起きているということなんですよね。

 熱帯雨林の破壊ひとつ取っても、そういう生物多様性の重要なところが今急速に減っているいちばんの原因っていうのは、南北の経済格差という中で生み出される、南から北へと資源が搾取され続けるグローバル資本主義が大きなバックボーンにあります。

 あとは先進国でじゃんじゃん石油化学を使って、いわゆるプラスチックなんか作って、それを垂れ流しにしてしまって、海洋汚染を引き起こすという具合に、基本的には物質文明といったものにどっぷり我々自身が浸かって、日本人自身が非常に豊かで、便利な生活を送るということ自体が大きな環境負荷を与える。

 結果的に私たち自身が輸入している安い農産物、そういうものを作るためには大きな畑が必要であり、そのために生物の住処が奪われる。あるいは木材とか鉱物資源、日本ではほとんど採れないからじゃんじゃん輸入して使う。
 そういったものを採掘する、伐採するという過程で生じる大きな自然破壊、それと水質汚染、そういったようなことが海外で起こって、結局大きな負荷が与えられて、我々の生活が潤っているという状況を考えると、結果的に私たちがこれだけ便利で、安心して豊かに生活できるという背景に、実は生物多様性の劣化があるということも思いを馳せなくてはならない。

 そうした中で何をするかっていうことは、やっぱり個人レベルでライフスタイルをどんどん見直していかなきゃいけない。やっぱり無駄な消費を抑えるべきだろうし、無駄なエネルギーというものの消費も抑えなきゃいけないということを考えていく。そういうことをまず考えることが第一歩になってくる。

 そういった意味で我々がよく口にしているような“地産地消”というライフスタイル。できるだけ地域レベルで生産されたものを地域で循環し、エネルギーも地域レベルで生産して、地域レベルで消費していくというような、ローカリゼーションですね。グローバリゼーションというものから脱却してローカリゼーションに持っていくということが、これからの地球環境、及び生物多様性と共生していく上での重要なひとつの行動、生活変容という方向になる。

 個人でまずできることとしては、まず地産地消というライフスタイルを心がける。それと同時に身近な自然に目を向けて、元々何が棲んでいたか、今何がその身近な自然で起こっているか。要は外来種ばっかりになっているとか、あるいはあったはずの川や雑木林がなくなっている、そういったことに思いを馳せながら、どういう地域環境を取り戻していくかということを地域レベルで考え、個人レベルで考えていくというところから、生物多様性との共生はスタートするという風に思っています」

ハダニのオスはドラマティック!?

カンザワハダニ 写真提供:五箇公一
カンザワハダニ 写真提供:五箇公一

※続いて「五箇」さんのご専門、ダニの学問についてお話いただきました。

「ダニ学、まあ昆虫学と一緒でダニの種類を調べてみたり、新種を探してみたり、あるいはダニがどういう生活をしているか、生態なのか、どんなところ棲んでいるか、あるいはどういった繁殖様式をとっているかということ。

 それと、そのダニ自体が自然界においてどういう役割をしているか、あるいはそのダニが人間社会にとって有害なのか、それとも有益なのかといったようなそういう働き。そういったことを調べているのがこのダニ学といった学問分野になります。

 私自身は、いろんな種類のダニをやってきたんですけど、学生時代からやってきたのはハダニという、いわゆる植物に付く農業害虫になるダニです。植物の葉っぱに付いて、植物の汁を吸って生きているというダニ、これをハダニと言います。こういったものを研究してきました」

●どうしてハダニを研究することになったんですか? 

「大学が京都大学の農学部なんで、農学部ということは農学の一環として害虫学が研究講座としてあって、その中で農業害虫としてハダニというものが研究されていたので、その講座に入ってこのハダニを対象に研究を始めたということになります」

●この本にも、今でもダニは見ているだけでかっこいいと書いていますけれども、どんなところがいちばん面白いですか? 

「普通に肉眼で見ても見えない世界で、それを顕微鏡で覗くと初めて、形であったり、行動であったりっていう生き様が見えるという、そのSFチックな感覚がやっぱり面白い(笑)。

 顕微鏡の下でしか見えない、すごくミクロなのにそこにはやっぱりちゃんと進化もあり、競争もあり、ドラマがちゃんと展開されている。多様性もある。いろんな生き様もあって、いろんな形もあるという、そういった部分が、見えない多様性っていうんですかね。そういうのが魅力ですよね。まあ見えないものを覗くという感覚が楽しいということですね(笑)」

●ハダニのオスが自分の子孫を残す方法というのもまた、面白いんですよね? 

「ハダニはちゃんとオスとメスがいて、メスの取り合いをちゃんとするんですよ、あいつら。ハダニのメスっていうのは最初に交尾したオスの精子で、精子の貯蔵タンクがいっぱいになっちゃうんで、最初の交尾をしたオスの精子しか子孫を残せないんですね。

 未交尾のメスというものをオスは探さないと自分は子孫を残せない。遺伝子が残せないっていうので、その未交尾のメスっていうのは普通に歩いているメスを見てても見分けがつかない。どれが未経験かって分からないっていうことで、そこで進化したオスの行動っていうのが、大人になる前、成虫になる前のメスのさなぎの上に乗っかって待つという“ガーディング”という行動が進化しているんですね。

 メスのさなぎを見つけたら、三日三晩飲まず食わずでオスは一生懸命そのさなぎの上で待ち構えて、ガーディングして、他のオスに取られまいと一生懸命守ってやって、メスが脱皮し始めたらすぐに脱皮を手伝ってその場で交尾すると。ちょっと人間社会では例えようもない行動様式をとるんですが(笑)。

 そうすると、メスのさなぎに乗っかっているオスに喧嘩を売ってくるオスもいたりして、取り合いするわけですよ。取り合いしている内に、メスが脱皮を始めたところで全然関係ない間男がやってきて、それで交尾しちゃうとか。見ていて非常に滑稽でもあり、ドラマティックというか、オスの必死さっていうんですかね。そういったものが伝わってくるということで、それを最初に見てダニ学にハマっちゃったというところもありました」

五箇さん制作のCG「クワガタナカセ」。クワガタムシの背中に寄生して ゴミやカビを食べている掃除屋、クワガタと共生している善良なダニ。 画像提供:五箇公一
五箇さん制作のCG「クワガタナカセ」。
クワガタムシの背中に寄生して ゴミやカビを食べている掃除屋、
クワガタと共生している善良なダニ。
画像提供:五箇公一

今こそ、利他意識、利他行動!

*五箇さんが去年出された本『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』の中から、番組が特に気になった点についてお話をうかがっていますが、やはりいま、最も気になる感染症についても触れていらっしゃいます。生物学的に見ると環境破壊が感染症を招いていると言ってもいいのでしょうか?

「方程式としてはそういった形になると思うんですが、結局、感染症の原因となる病原体ウイルスっていうのはどこにいるかというと、自然界の中で、いろんな野生動物の中で、ある意味大人しく共進化して生きているという状態です。

 自然界の奥深くまで今、人間の活動というものが侵食してしまっているから、そういったウイルスとの接触も起こってスピルオーバーしてしまっているということが、今の新興感染症のひとつの大きな原因とされるわけですね。

 むしろウイルスも込みで生態系のバランスが取れている中に、人間がそれを壊すという行動をするから、ウイルスが吹き出してしまうということで、起こって当然と言えば起こって当然ということですね。

 自然界でも感染症といった問題は過去から現在に至るまで、人間の歴史の中で何回も繰り返されていることなんですけど、今まではローカルなエリアに収まっていたんですね。人間活動がそこまで広く動き回っていたわけじゃない時代では、それほど地球レベルで大きな問題にはなることはなかった。

 ところが今回の新型コロナは、現代のグローバル経済の中で、あるいはグローバルサプライチェーンという中で、人と物の動きがものすごい勢いで、まあ世界が繋がっちゃっているという状態だからこそ、世界的なパンデミックが起こっている。ということは、自然破壊と同時にこのグローバル経済という社会構造、これ自体が新興感染症を深刻化させている原因となっているということです」

●新型コロナウイルスを制するためには「利他行動」にかかっているとこの本に書かれていますけれども、具体的にどんなことなんでしょうか? 

「このウイルスは非常によくできていて、感染力は高いんだけど、ほとんど若い人中心に、不顕性感染と言って、かかっても全然発症しないという状況で潜伏しているわけですね。そういった元気な人たちが動き回るということで確実に感染が広がり、結果的に病気を持っている人や、あるいは高齢者といった免疫が弱っている人にたどり着くことで発症して重症化してしまうという、非常に効率よく社会の中で巡り続けるシステムを、このウイルスはとっているという状態です。

 こういったウイルスに対抗するにはどうしたらいいかって言うと、基本的に誰が持っていてもおかしくないということを前提に、感染を広げないようにすることがいちばん大事。

 特に今の段階では、このウイルス自体が新型、まさに新興感染症の最先端ということで、まだ未知な部分も多い上に、治療法というものが確立していない。最近ワクチンも出てきたところではありますが、これから世界中にデリバリーするにも時間かかる中で、いちばん守るべきはまさに医療現場ですね。

 ここを守るためには、感染を広げないということが最優先になってきます。自分が(ウイルスを)持っているかもしれないという前提に立つと、自分がかかるかもしれないっていう以前に、自分が持っているとして相手に感染させない、相手や社会を思いやるところから行動を見直さざるを得ないということです。

 利他意識や利他行動というものが、このウイルスを管理する上では今最優先な方策ということになるということですね。だからこそ皆さんマスクをしてください、あるいはソーシャルディスタンスで距離を取ってくださいということが、今一生懸命うたわれているということになります」

弱いから寄り添いあう

●この本『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』で、いちばん伝えたいことはどんなことでしょうか?

「そうですね。一言でいうっていうのは難しいところだけど、人間も生き物、動物だけど、生物だけど、でも人間は他とは違うというところなんですよね。先ほどもお話ししましたけれども、人間という生き物はすごく脆弱で、本来自然淘汰という形で、自然界の中で生き残ろうとすると、まあ生き残れないわけですね、動物学的なケースからすれば。

 とにかく力は弱い、環境適応力も低いという、そういった生き物で、それが生き残ったのは、他の動物と違う決定的なポイントとして、“ヒューマニティ”という助け合いの精神を持っている。要は弱いものだからこそ、寄り添いあって生きてきたというそのヒューマニティという特質。

 この特質によって生き残っているということは、ヒューマニティというものを今見直さないと人間の未来というものはないかもしれない。現代社会に入って本当にみんな豊かになって、自分ひとりで生きているように、特に東京みたいな都会だと感じてしまう。

 でも今回の新型コロナというのはそういう部分で大きな影響が出た。知らず知らずのうちにどんどん感染が広がってしまう。要は相手のことを思いやるという余裕もなければ意識もない。
 まさに都市部を中心に感染が広がってしまったということから考えても、やっぱり今改めてこのヒューマニティというものを考えないと、新型コロナも含めて、環境の変化というものには人間自身が追いついていけなくなるかもしれない。

 だからやっぱり人間性ってなんだろうっていうことを改めて感じてほしいっていうのがこの本で言いたかったことかなと思います」

※過去の五箇公一さんのトークもご覧下さい


INFORMATION


これからの時代を生き抜くための 生物学入門


『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』

 ぜひ五箇さんの本を読んでください。私たちが直面している地球規模の問題を解決するヒントがあると思います。ほかにもオスとメスの性の仕組みや、生物学から見る人間社会、そして五箇さん自身の生い立ちや研究など、面白い話が満載です。
  詳しくは辰巳出版のオフィシャルサイトを見てください。

◎辰巳出版のHP: http://www.tg-net.co.jp/item/4777820548.html?isAZ=true

◎国立環境研究所のHP:http://www.nies.go.jp/

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