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健気な虫の生き様を通して何を伝えられるのか〜絵本『がろあむし』の世界観〜

2021/1/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、絵本作家、そして生物画家の「舘野鴻(たての・ひろし)」さんです。

 舘野さんは1968年、横浜市生まれ。子供の頃、近くに住んでいた、のちに国際的に有名になる絵本画家「熊田千佳慕(くまだ・ちかぼ)」さんに絵を習うようになったそうです。そして大学進学後、演劇や現代美術、音楽活動を経て、生物調査の仕事から生物画を描くようになり、2009年に『しでむし』で絵本作家としてデビュー。2013年に『ぎふちょう』、2016年に『つちはんみょう』を発表。特に『つちはんみょう』は、ヒメツチハンミョウの観察を通して、明らかになっていなかった生態を解明するなど、高く評価されました。同作は2017年に小学館児童出版文化賞を受賞しています。

 そんな舘野さんが新しい絵本『がろあむし』を出されたということで、番組にお迎えしました。きょうは、長い時間をかけて観察する虫たち、そして緻密に描きあげる絵に込められた想いなどうかがいます。

☆写真&イラスト提供:舘野鴻

写真&イラスト提供:舘野鴻

ガロアムシは特徴がないのが特徴!?

※まずは舘野さんの新しい絵本『がろあむし』について。

●読ませていただきました。街の様子がガラッと変わっている間に、昆虫たちはたくましく生きているんだなという風に感じました。そもそもガロアムシっていう虫を、私は初めてこの絵本で知ったんですけれども、改めてどんな虫なのか教えていただけますか? 

「コオロギとか、ゴキブリとか、そういうのに近い仲間ですよね。絵本に描いてあるガロアムシは、アメ色と言いますかね、ちょっと茶色っぽくて、成虫になるとそういう色になるんですが、幼虫の時は真っ白けでシロアリみたいな感じですよね。だから何の特徴もない。

 昆虫と言いますと頭部と胸部と腹部があって、足が6本あって、そういう定義があるでしょ? 小学校の時に習う、まさに(ガロアムシは)あの図以外何物でもないっていう、何かツノが付いているわけでもないし、羽根もないんですよ。成虫になっても、普通は空を飛んだり移動するために羽根が出てきたりしますけども、この虫の場合は最初からないですね。

 ところがそのガロアムシ、どこに棲んでいるかというと、この絵本では地下間隙と言いまして、ガレ場がありますよね、山の中の沢の源頭部であるとか、そうすると岩盤が出ているところが風化して崩れていきます。何万年とかけて積み重なっていくと、その下はどうなるかっていうと、暗黒多湿の小さい隙間ができてくるんですね。それがどういう環境かというと、洞窟とほぼ同じ環境なんですね。

写真&イラスト提供:舘野鴻

 洞窟にしか棲めないような生き物の世界でもあったり、また、幼虫時代だけその土の中というか、暗いところで過ごすとか、昆虫、動物に関してはそういうのがいたりします。そういう風に適応していったガロアムシなんですけれども、1億5000万年前ぐらいの中生代のジュラ紀あたりにもいて、実は化石があるんですね。

 今はガロアムシ、日本で数種類ぐらいしかいないというか、研究者が分類している最中なんですけども、当時は80種類ぐらいガロアムシの仲間がいたのかな。なぜそんなに多かったかっていうと、繁栄していた時があって、昔は羽根があったんです。その羽根のあるガロアムシの化石がたくさん残っていて、おそらく羽根の形で分類して80種類ぐらいになっていたと思うんです。

 地下のことを考えると、菌類と植物の根っこ以外はほとんど動物質と言いますか、そういったものなので、目に見える範囲では肉食系の世界になっていくので、ガロアムシ自体も肉食なんですね」

●どうして舘野さんはそんなガロアムシを絵本にしようと思われたんですか? 

「まず、今言いましたように、何の特徴もないというのが最大の特徴じゃないですか(笑)。それが面白いというのと、あとやっぱり飛べないということを選んでいったということですね。
 飛べない虫ってたくさんいるんですけど、元々は羽根があった、それがどんどんなくなっていくという、その過程にある虫が、見ていると結構いるんですよ。そういうものを、例えば1億年前はこうだったのに、こういう風になってきたという、そこを想像することがすごく面白いですね」

舘野鴻さん

観察が導いてくれたストーリー

※絵本『がろあむし』を出版するまでに10年かかったということですが、どんな方法でガロアムシを観察していたんですか?

「ガロアムシはガレ場の中に棲んでいます。これは黙って待っていても絶対出てきませんので、常に掘るわけですね。常にガレ場に行って、鍬でガーって掘っているわけです。
 時によっては1メートルくらい掘って、そこをずーっと崩しながら沢の上の方まで行ってということですから。空間的に全体を見て、それの関係性だとか、生物と生物の環境とか、だって見えないでしょ? いつも見えているのは断片しか見えていないので、その断片を繋ぎ合わせる。

 例えば、食物網とかあるじゃないですか。何が何を食ってとか、そういうことは非常に分かりにくいので、一個一個、肉眼で見えるやつだと生きたまま獲ってきて、シャーレの中に入れます。ガレ場の中って温度が安定しているんですね。低い状態で15度から20度ぐらいで安定していたりするんで、外気のところに持ってくると、暖かくて死んじゃう。だからずっと冷蔵庫で飼うんですね。

 それでどうなっているか。なにしろ部屋を寒くして、寒い状態のまま、顕微鏡でずっと動きを見ていたりとか。例えば、きのう入れたシャーレのこれとこれで、これが食われていたとかっていうことを結びつけていくんですね。

 僕は研究者じゃないから、僕がやっているのはただの検証なので、これで合っている? って詳しい人に聞くわけですね。そうすると、意外とそういうことまでは追いついてないのが現状なんですよ。
 土壌動物に関しては分類をしないと。その分類のあとに、こういう種はどういう暮らしているんだっていうことで、その環境との関係を探していって。しかも、この虫がいるってことは、この環境はこうなんだねって評価に繋がるわけでしょ? それのいちばん大事なところが分類なんですね。

 それがまだ追いついていないところで、僕はそのちょっと先の、これとこれの関係がどうなっているんですかね? って。それが分からないと絵にドラマがなくなっちゃうんですよ。ここにこういうのがいたっていう情報はあるんだけど、ここで何かをしていてくれないと、どうにもならないところがあって。そういう難しいところは、今回のガロアムシはありましたよね。

 虫の科学絵本というか、説明をしたいわけじゃないんですよ。その生き様を通して何を伝えられるのかっていうことがいちばん僕の中で大事なことなので。
 (事前に考えた)ストーリーは、現場に行くと、自分の思った通りになんかなっていないですから、絶対そうですね。人間が想像したようになんかできていません。いくら研究成果があって、その通り検証しようと思っても、見る人によって、見る季節によって違う振る舞いをするんですよ。そうなると想定外ってなっちゃうでしょ? だけど自然のことに関してはいつも想定外があるわけですね。

 こういう可能性だってある(って思わないと)、誰かが見て観察したっていうのは全体の中の一点に過ぎないと僕は思うんですよ。そういう姿勢を持っていないと、俺こう見たんだから、こうに違いないみたいな。そんな本が出ていたら僕自身が嫌だからね。自然って分かんないからさ(笑)。 観察していくと逆にストーリーを教えてくれるところがあるんですよ。それを組み込んでいって。ガロアムシも最初は全然違う話でしたけど、ああいう形になったっていうのは、観察が導いてくれたようなところがありますね。だから僕が何か描いたとか、やったとかっていう実感がどの絵本もないですね」

<春の女神「ギフチョウ」>

 今週のゲスト、絵本作家の舘野鴻さんは以前『ぎふちょう』という絵本を発表されていますが、この「ギフチョウ」はアゲハチョウの仲間で“春の女神”と呼ばれ、その羽化は桜前線の移動とともに日本列島を北上、ギフチョウ生息の北限とされている秋田県・鳥海山で終わりを告げるそうです。
 写真愛好家のかたにとっては、春の妖精「カタクリ」の花に留まるギフチョウが絶好の被写体となっています。春の女神と妖精の共演ですね。

 そんなギフチョウは原始的な特徴を備え、氷河時代から生き残っている“生きた化石”とも呼ばれています。さなぎで10ヶ月は寝て過ごすそうで、舘野さん曰く、その生態が絵本を作るきっかけにもなったそうです。ちなみに成虫の寿命はおよそ10日から2週間なんです。

 里山の代表的な蝶々のひとつとされているギフチョウですが、雑木林などが手入れされなくなったことなどからギフチョウが好む生息環境が減ってしまい、環境省のレッドデータブックで絶命危惧種II種に位置付けられています。

純粋で健気な魂

※舘野さんは子供の頃から絵本画家「熊田千佳慕(くまだ・ちかぼ)」さんに絵を習っていたということなんですが、熊田さんからいただいた言葉で特に印象に残っている言葉はありますか?

「そうですね、一期一会でしょうね。みんなよく知っている言葉ですけれど。絵描きですから、最後の“会”は絵描きの“絵”なんですよね。

 何を言っているかというと、いつも言うんですけど、虫を見ていると、やっぱりいつ死ぬか分からないっていう中で生きていますよね。僕らだってそうですから。明日何が起こるか、君は明日死ぬんだったら、どういう絵を描きますかっていうつもりで毎日描きなさいと。この絵を描くっていうのは、一生に一度だったらどうしますか。それとか、最低の道具で最高のものを描けっていうこととかね。

 愛するから美しい、とかって言うんだけど、その愛するって言葉って臭くて嫌じゃないですか。でもね、だんだん分かってくるんですよね。僕もだいぶおっさんになってきたんで。そうすると、美しいと思わなければ、美しい絵は描けないわけですね。

 例えば、ツチハンミョウの話をさっきしましたけれども、見苦しいとかね。シデムシだったら死体を食っていて、汚い臭いってなるじゃないですか。ただそれをじっくりもう執拗に追い続けますよね。ずーっと追い続けていくと別のものに見えてきますね。

 それまで見ていた汚いってものじゃなくて、触るの気持ち悪い、臭いとかっていうことじゃなくて、だんだんそういうものが落ちていくんです。そうすると、最後に残るのは、単純に純粋で健気な魂しか残らないですね。

 なんて健気でね。僕は虫を見ていて思うのは、無垢で勇敢で潔いっていう、天真爛漫でね。僕らみたいな、打算とかね、ずるいこととかね、どうやって楽しようとかって考えてないですよ。一瞬一瞬をなにしろ懸命に生きているでしょ? 何考えているか分からない、何もしないでぼーっとしているとかってこともあるけど、そうやって死んでいくんですよ。

 その死体を見た時に、やっぱり生き様っていうのがそこにあるわけでしょ? 生きてきたから死んでいるっていうことですから、そういうことですかね。その美しさって、一言でいうと何になるのかって言ったら、やっぱり接しているうちに愛情を持っちゃうんでしょうね」

絵の中に込められた想い

がろあむし

※最後に、絵本『がろあむし』を通して、伝えたいことを教えてください。

「これクチで言っちゃったりするとすごく鬱陶しいし、でも言いたいことは山ほどあるんだけど、まずは先入観とか、何もなしに読んでいただいてですね。何回読んでも、絵はものすごく情報がいっぱい入ってるんですよね。例えば地質の情報だとか、地域、人文的な歴史のことであるとかね。

 絵を描くってことは全部意図で描くでしょ? 意図しないと描けないわけですよね。意識していることは、かなり僕も細かくやってるつもりなんですよ。実はこんなところにこんなものが描かれていて、それにはこういう意味があるっていう仕掛けが、どの本にもたくさん入っていてですね。

 さっきも言いましたけれど、今僕たちが生きているってこととか。あと、僕は人間ですからね。人間が虫のことを描いて、人に見てもらおうと思って描いているんだから、虫にガロアムシを描いたからガロアムシを見てよって喜ぶわけないでしょ? 結局は人に向けて描いているということですからね。

 人ってどこから来て、どういう風に暮らして、今これでいいのかなって。いろいろ問題があるって世間で言いますよね。資源の問題であるとか、ゴミの問題であるとか、色々ありますけれども。
 虫は僕らみたいにいろんなことで、命をそんなに怖がってない。死ぬということを怖がってない。怖がる機能を持ってないっていうかね。人間は死ぬということが怖い。そこがこういう風な世の中になってきた大きな理由のひとつ。だけど未来を想像することができるでしょ? 人間って。こんなにでかい脳味噌があるんだから。

 だったら未来をどうすればいいのかということを、今僕らは世界を作っているわけですから、子供たちに何を伝えればいいのか。一応これね、こんな絵本だけど、児童書なんですよ。子供たちがこれを読んでどう感じるのかと。親御さんが買うものですから、親御さんはこの絵本の内容をどう子供に説明しますかっていうことですかね」

写真&イラスト提供:舘野鴻

●まずは想像してもらうっていうことですね。

「そうですね。自分の捉え方で、自分の立場で、こういうことがあるけどって。僕は事実をある程度描いたつもりなんですね。ちょっと誇張はしているとは思うんですけど。でもこういう世界があるよっていうことを伝えたい。
 で“あ、あるんだな!”って分かったら、もう知らんぷりはできないですよね。あるって分かったらどう振る舞いますか? っていうところだと思うんですね。でも、自由です」


INFORMATION


がろあむし


がろあむし

 緻密で繊細! 丁寧に描きあげた「がろあむし」の世界に引き込まれます。出版までに約10年かけた力作をぜひご覧ください。どんなストーリーなのかは絵本を読んでのお楽しみです。お子さんと一緒に絵に描き込まれた情報を読み解くのもいいかもしれません。おうち時間にいかがでしょうか。偕成社から絶賛発売中です。 詳しくは偕成社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎偕成社HP:https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784034370803

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