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東京は山岳都市!?〜「超低山」を楽しむ

2021/8/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストレーターの「中村みつを」さんです。

 中村さんは1953年、東京生まれ。16歳から山登りを始め、その後、国内のみならず、ヒマラヤやヨーロッパアルプス、南米パタゴニアなどにも遠征。現在はフリーのイラストレーターとして自然や旅のイラストやエッセイを多く手掛けていらっしゃいます。また、2年前には「山の日アンバサダー」に就任されました。

 そんな中村さんの新刊が『新装版 東京まちなか超低山〜50メートル以下、都会の名山100を登る』。3年前に出された本のリニューアル版になります。

 「超低山」と呼び始めたのは中村さんで、その定義は本の副題にあるように、登山口から山頂までの高さが50メートル以下となっています。実は東京には、それも、23区内にはたくさん山があるんです。きょうは都内にある、とっても低い山「超低山」の話題をお届けします。

☆写真協力:中村みつを

写真協力:中村みつを

自分の懐に収まる山

※では早速、中村さんにお話をうかがっていきましょう。都内の超低山に注目するようになったのは、なにかきっかけがあったんですか?

「都内で打ち合わせの帰り道に、まっすぐ帰るのも面白くないなーと思って、散歩がてら新橋の辺りを歩いていたんですね。そうしたら、こんもりとしたものが目の前に現れたんです。気が付いてみたら、そこは前から知っていたんですけど、その時に何故か山に見えたんですよ。それが虎ノ門にある標高26メートルの愛宕山(あたごやま)という、東京タワーの近くにあるんですね。多くの人が結構行かれるところなので、ご存知だと思うんですけど、出世の石段という急な階段があるんです。それが有名ですけど、そこを見た時に今までも来ていたはずなのになんで山に思えたのかな? って自分でちょっと向き合ってみたんですよね。

 そうして、ちょっとぐるっと周りを歩いてみたんです。超低山のいいところは小さいんですよね。超低山って言うくらいで、あっという間に周れちゃうんです。これがなんとも小気味よくって、自分の懐にスッと収まる、山ってなかなかそんなこと、本来はできないですよね。富士山をくるっと周ろうなんてことももちろんできないし、それがあっという間にできちゃうミニチュアの面白さみたいな、そういう感覚がありました。

 それで歩いてたらトンネルが現れたんですよね。車がそこを通っているんです。都心の真ん中に山があって、トンネルがあってっていうのはちょっと想像つきにくいっていうか、改めて見た時の発見と驚きみたいなのをその時に感じたんですよね。だから今までいかに僕たちは普段、生活の中で見ているようで見ていないんだなっていうことを改めて思ったんですよ。

 それで改めて石段をトコトコ登って頂上に行って、今はもうビルに囲まれたりして江戸時代のように展望がいいわけではないんですけど、僕にはとてもそれは雄大な景色に見えたんです。かつてフェリーチェ・ベアトっていう明治時代に来た(イギリス人)写真家が当時の写真を残しているんですけど、それを見た時に、まさしく山だったんだなっていうのが、またさらに気付いていくことに面白さが出てきて、そこからスタートしたような感じですね。よくよく見れば、山ってちゃんと付いていますよね? 愛宕山・・・」

●あ〜、確かにそうですね!

「それは都内にもたくさんあるわけですよね。飛鳥山とか代官山とか、それこそ拾っていくとたくさんあるんですよ。何とか山とか、何とかヶ丘とか、丸っていうのもそうですよね、何とか台、そういうのは全部山なんですよね。だからそういう地形を表したことにだんだん興味が向いてくると、東京というのは山岳都市なんじゃないかって思えてきて、山があれば当然、谷もあるんで、渋谷は谷なんだとか、そういうことが見えてくるんですよね」

『新装版 東京まちなか超低山〜50メートル以下、都会の名山100を登る』

江戸時代、大名が山を造る!?

※ひとくちに超低山といっても、いくつかタイプがあるんですよね?

「はい、分かりやすく説明すると、人工の山、人の手で造った山っていうのは築山(つきやま)って言うんですけど、例えば築地ってありますよね、あの築と同じです。あれは造った土地なので築地って言うんですけど、それと同じで造った山を築山って言うんですよ。だから日本語っていうのはすごく分かりやすくできているんですね。その文字を紐解いていくとね。そういうのがひとつひとつまた面白いんですよ。

 その人工の山っていうのは多くは大名庭園に造られていることが多いんですよね。大名庭園っていうのは江戸時代に造られるんですけど、徳川が幕府を開いて日本中の大名がそこに屋敷を持つわけですよね。時代は安定してきているので、それぞれが庭に凝るわけですよね。藩の力の大きさっていうのももちろんあるんですけど、徳川御三家なんかは広大なお屋敷を持っているんで当然お庭も広いんです。

 そうするとまず池を掘って、池を掘った時に土をどうするかっていうと、それを山にするんですよね。掘った土を盛って山を造るんです。そういう手法をどこの庭園もやるわけですよね。松を植えたりとか、楓を植えたりとか、園路を造ったりとか、東屋を作ったりとか、色んな工夫をして、六義園とか、小石川後楽園とか、清澄庭園とか、浜離宮とかたくさんありますけど、みんなそれぞれ持ち味が違うんですよね。それは考え方の違いで、それぞれなんですけど、そういうところに築山を造るですよね。

 その築山もほとんど、自分が生まれ育った場所を思い起こすようなものを造ったりとかって意外とあるんですよね。あとは富士山を模したものももちろん造られました。大体高さにすると5メートルぐらいなんですよね。元気な人は30秒ぐらいで登頂できちゃうんですけど、それを人工の山、築山っていう大名庭園にたくさん造られたっていうのがまずひとつですね」

●超低山を登ることは歴史を体感することにも繋がりそうですね。

「そうですね。だからさっきの大名屋敷の山、例えば浜離宮でもいいですけど、山に登ると時の将軍もそこに立ったんだなっていうことが分かるんですよね。だから今はもう、もちろん将軍さんはいないですけど、同じものがそこにあるんですよね。だから同じことを体験できるっていうか、それがなかなか面白いんですよ」

<超低山の種類>

 超低山のタイプは、先ほど中村さんのご説明にあった、大名屋敷内の庭園に造られた人工の山「築山」のほかに、江戸時代の「富士信仰」の影響で街中にたくさん造られた「富士塚」、これは今も都内に50くらいは残っているそうですよ。

 そしてもうひとつのタイプが「天然の山」。都内には、中村さんが超低山に注目するきっかけになった虎ノ門の「愛宕山」のほか、王子の「飛鳥山」、そして浅草の「待乳山(まつちやま)」があります。

 まとめると超低山のタイプは「築山」「富士塚」そして「天然の山」の3つなんですが、その3つに収まらない山として、いわゆる、崖のような場所を「見立ての山」と中村さんは呼んでいます。実はこのタイプが都内にはいちばん多く、代官山や五反田、品川などにもあるそうですよ。探しに行くのも楽しそうですね。

おすすめの超低山

※お勧めの超低山を教えてください。

「これがね、いっぱいあって困っちゃうんですけど(笑)。季節に分けてもいいし、色々考え方はあるんですけど、まず理解しやすいところで言うと、さっきの3つ挙げた天然の山っていうのが分かりやすい山だと思うんですよね。行けばそこにそそり立っているんで。

 今そそり立っているって言い方をしましたけど、これは大げさに表現することが大事なんですよ。だから登るところは登山口って言うようにしているんですよね。小さくてもそこは雄大な山として取り上げるような気持ちで登ってほしいと思うんです。じゃないとあっという間に終わっちゃうんで(笑)。僕はゆっくり愛でながら登ろうということで、さっきの飛鳥山、愛宕山、待乳山、これらは登っといた方がいいと思います。

 あと可愛い山をひとつ紹介しておきたいんですけど、東京の小金井市に野川という清流が流れているんですね。野川公園っていうのが近くにあるんですけど、そこに”くじら山”という名の標高53メートルの山があるんですね。これは何がいいかって言うと、大名屋敷でもなんでもないんですけど、築山なんですね。雑木林が周りにあって公園の一角なんです。近くの小学校を改築する時に土が余って、それをそこに盛ったわけなんですよ。子供たちが遊んでいるうちにくじらの形になって山が残ったんですよね。

 で、気が利いている大人たちがいたんですね。それをちゃんと大事にそのまま残したわけですよ。そこにシロツメクサとか全山を覆うように咲き誇るわけです。それがもう本当に可愛らしい山で、そこから見る西側の風景は雄大で、夕焼けを見るには本当にいいところです。本当にそこは、お殿様も誰もいない子供たちのパラダイスなんですけど、大人が行っても楽しいです」

写真協力:中村みつを

浦安で富士巡り!?

※千葉にもお勧めの超低山はありますか?

「千葉だと例えば、浦安に3つの富士塚があるんですね。富士巡りができるんですけど、堀江富士っていうのがあるんですね。これは清瀧(せいりゅう)神社っていうところにあるんですけど、もうひとつは猫実(ねこざね)富士っていうのがあって、これは豊受(とようけ)神社っていうところにあるんですね。もうひとつが当代島富士っていうのがあって、これは当代島稲荷神社っていうところにあるんですけど、この3つは大体3〜7メートルほどのミニチュアの富士山があります。駅からも近いんでこれは楽しめると思います。

 あとおすすめなのが、流山にある流山富士っていうのがあって、これ江戸川に沿ったところにあるんですけど、そこに浅間神社があって、浅間神社っていうのは富士信仰ですね、富士を祀ったところですけど、そこに高さ6メートルの立派な富士塚があります。ここも街歩きをしながら尋ねると楽しいと思います。

 (超低山は)思い立ったときにふっと寄れるよさがあるので、そんなに大げさな格好はいらないんですけど、できたら手に(物を)持たない、要するにデイパックを背負うとか、手はブラブラさせておいたほうがいいと思います。というのは富士塚の中には岩登りに近いような感じで、結構手を使って登るところもあるんですよね。そういうところもあるんで、手が空いた方がいい。あとはこの時期だと暑いんで水分補給は欠かせないっていうこともありますよね。

 いちばん重要なのは想像力ですね。その超低山を前にした時に、そこに行くまでのことを色々想像しながら気持ちを膨らませていく、そういうものがいちばん肝心かもしれないですね。山頂に立った時に見える風景を想像してみるのもすごく楽しいと思います」

気の向くまま、あえて迷ってみる!?

※去年から続くコロナ禍で遠出することが難しくなっていますよね。そんななか、近場に日帰りで行くような「マイクロツーリズム」という旅のスタイルが注目されています。超低山はマイクロツーリズムそのものですよね?

「そうですね。このマイクロツーリズムというのはこのコロナ禍で生まれてきたって言ってもいいと思うんですけど、それまであまり言われませんでしたよね? 遠くに行くのがひとつのステータスだったり、夢だったりというのがあったと思うんです。(以前は)今さらそんな家の近所を歩いてどうすんの!? みたいなことだったと思うんですよね。

 でもこのコロナ禍でマイクロツーリズムがだいぶ言われるようになって、僕が書いたこの本もそういう意味では非常に喜んでもらえる本にはなったんですね。
 自分の住んでいる街でもいいし、あと勤めている会社との距離でもいいし、その間に結構あるんですよね、今まで見落としていたこととか。そういうのをちょっと調べてみると山があったりするんで、そういうところに足を運んでみるといいかと思います」

●朝起きて、その日の天気を見て、ちょっと行ってみようかっていうその手軽さ、気軽さっていうのも超低山の魅力ですね?

「そうですね。寝坊しても行ける良さがあるんで非常にいいです(笑)。で、どこかでお昼を、江戸時代からやっているお蕎麦屋さんで食べようかとか、ここの団子屋さんに帰りは寄っていこうとかね、そういう気持ちを緩やかにする良さがある。緊張することのない山登りかもしれないです。

 で、よく言われるんですけど、迷ったらどうするんですか? っていう人がいるんですよね。本当の山だったら大変ですよね。迷ったりすると帰って来られなかったりするわけですけど、この都内での山歩きですから、僕は迷うことはお勧めしているんですよね、どんどんと迷ってと。
 丁寧なコースガイドがあったらいいのにっていう風に、今の人は捉えがちなんですよね。右に曲がったらこれがあって、左に曲がったらこれがあるっていう、もう道順のように行くのに慣れちゃっている部分もあると思うんですけど、そんなものはもうやめて、気の向くままに歩く。最終的に例えば、愛宕山だったら愛宕山にたどり着くまでを楽しんだ方がいいと思いますよね」

●中村さんのお話を聞いて超低山に行ってみようって思った方、たくさんいらっしゃると思うんですけれども、そんな方に何かアドバイスがあるとしたら。

「とにかく頭を柔らかくして、想像力を豊かに楽しむっていうことだと思います。疲れたら休めばいいし、雨が降ったらどこかに雨宿りすればいいし、そのぐらいの気持ちで行くといいと思います。あとは何とか山っていうのを、地図を広げた時に見つけたら、なんだろう? ってそういう不思議さを思うことも大事だと思います」


INFORMATION

新装版 東京まちなか超低山〜50メートル以下、都会の名山100を登る


『新装版 東京まちなか超低山〜50メートル以下、都会の名山100を登る』

 都内にこんなにも「山」があるのかと驚きますよ。普段意識していないので「山」と認識していないだけ。思い立ったらすぐ行ける山や、山をめぐるコースも紹介。付録には「東京の超低山 百名山リスト」も掲載。ぜひ読んでください。ぺりかん社から絶賛発売中です。
 詳しくは、ぺりかん社のサイトをご覧ください。

◎ぺりかん社HP:http://www.perikansha.co.jp/Search.cgi?mode=SHOW&code=1000001871

写真協力:中村みつを

 中村さんは今年12月に恵比寿の「ギャラリーまぁる」で個展を開催予定。山の世界を描いた作品を中心に展示するそうですよ。

◎ギャラリーまぁるHP:https://galeriemalle.jp

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