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捨てられる獣たちの命〜有害駆除の現状と、ある猟師の挑戦〜

2021/12/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、プロの猟師「原田祐介(はらだ・ゆうすけ)」さんです。

 原田さんは1972年、埼玉県生まれ。20年ほど外資系のアパレルメーカーに勤めたあと、唯一の趣味だった狩猟を職業にする、つまりプロの猟師として生きていくことを決意。まず、山を知るために林業の会社で働き、2015年に「猟師工房」を設立。2019年には君津市に「猟師工房ランド」をオープン! 駆除されるイノシシやシカなどの有効活用、そして、年々高齢化している猟師さんの後継者問題などを発信されています。

 きょうはそんな原田さんに、有害駆除の現状などをうかがいながら、命の尊さについて考えたいと思います。

☆写真:原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

人間の身勝手

原田祐介さん

●先頃出された本『週末猟師』には、猟をするというのは究極のアウトドアのひとつという文章もありましたけれども、山の中でソロキャンプをして火を起こして、そうやって夢中になってたどり着いた先に、週末猟師という選択肢があるという風に載っていましたよね。猟師の生活ってこういう感じなんだなって、未知の世界を覗いている気分ですごく興味深かったです!

「ありがとうございます」

●副題にある「ジビエ・地域貢献・起業」、そして「充実のハンターライフの始め方」という言葉が、この本の内容を表していると思ったんですけれども、中でも原田さんがいちばん重点を置いているのはどの項目なんですか? 

「そうですね〜。一生懸命、趣味で始まって、極まってくると地域貢献のための有害駆除なんていう、増えすぎた獣を獲って農業被害を減らしたりするような取り組みも行なっているんですが、いずれ獣を捕獲するかたが減ってくる中で、これから獣が増えすぎて、自然に非常に負荷がかかるような状況が出てくるんですね。そこをなんとかプロとして携わって、未来の日本のためになるような取り組みに、最後はつながっていく、そこがいちばん申し上げたいことだったんです」

●ジビエは専門のレストランがあったりというイメージはありますけれども、国内で獲れたジビエのお肉はどの程度、流通しているんですか? 

「これが非常に衝撃的な数字なんですけど、今国内で獲られる獣の数、有害獣として駆除される数が、年間120万頭だそうです。最近ジビエがブームになって、おっしゃった通り専門のレストランができたり、テレビ番組なんかで取り上げられたりする機会があるので、ブームにはなっているんですが、120万頭のうち、ジビエとかジビエのペットフードとかで、利活用されている数値が9%なんです」

●一桁? 

「残りの100万頭以上はどうなっているか・・・どうなっていると思います?」

●捨てられてしまっているということですか? 

「そう、人間の身勝手で農業被害を減らすと称して駆除されて、100万頭以上が今ゴミとして残念ながら捨てられている現状があります」

●千葉はどういう状況なんですか? 

「千葉は令和元年度の数字、これが最新の数値なんですが、年間5万頭の獣が獲られています」

●そのうち、ちゃんとお肉として活用されているのはどのくらいなんですか? 

「1500頭」

●え!? そうなんですね。それ以外は?

「残念ながら今のところ、猟師さんが自分たちで食べる以外はゴミとして処分されます。生きものを殺めた以上、日本人の道徳観からしたら、やっぱりきっちり最後まで、いただきますの精神で、きちっと食べて供養するっていう方向に持っていかなければいけないんですけど、そんな状況になっていないのが実情です」

千葉は埼玉の10倍!?

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

※君津市で運営されている「猟師工房ランド」は、どんな施設なんですか?

「これは昭和63年に廃校になって30年間放置されていた、旧鍵原小学校っていう山の中にある小さい山学校があるんですよ。そこを君津市さんから借り受けて、リノベーションを行なって、ジビエとか狩猟のテーマパークのようなものを作ったんですね」

●そもそもどうしてそういう施設を作ろうと思われたんですか? 

「やっぱりこの現状を広く都会のかたなんかに知っていただきたいと。たまたま、房総スカイラインっていう観光道路沿いにある学校だったんで、割と外房へ遊びに行くかたなんかが観光で必ず通る道なんですよ。

 山のほうの人は獣の実情をよく見たりするので、そういうのを知っているんですけど、千葉も北部の人とか、あとはアクアラインを使って(千葉に)来る東京のかた、神奈川のかたは、なかなかそういうことを知らないんで、是非そういうのを見て感じて味わっていただいて、この問題に一石を投じられたらいいなと思って作った施設です」

●オープンした時は、君津の山はどんな状況だったんですか? 

「私、埼玉から移住してきたんですけど、数値で言えば埼玉の10倍、獣が駆除されています。埼玉も素晴らしい自然があって、山もたくさんあるんですけど、全然比べものにならないほど、千葉は獣が多くて、獣という視点から見て、いろんな被害がすごいっていう感じだったんです」

●千葉はどんな生きものが多いんですか? 

「いちばん多いのはイノシシ。ほかにシカ、アライグマ、キョンなどが今たくさん駆除されていますね」

●千葉の特徴としてはどんな感じですか? 

「特徴としては温暖な地域で、海沿いにはドングリがたくさん成ったりする木がいっぱい生えているので、大きいイノシシが増えやすい状況にありますね。やっぱりイノシシがいちばん多い」 

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

(編集部注:「猟師工房ランド」ではイノシシやシカなど、有害駆除された野生動物をきちんと処理して、食品衛生法に従って、いわゆるジビエのお肉として販売しています。

 美味しい食べ方として原田さんのおすすめは、その肉の風味を感じて欲しいということで、塩・コショウで味わっていただきたいとのことでした。また、シカのお肉はしゃぶしゃぶも、おすすめだそうですよ。

 「猟師工房ランド」ではお肉のほかに、毛皮やツノ、骨などを素材にしたキーホルダーやアクセサリーなどを元小学校の体育館を改装した、広々とした店内で展示・販売しているそうです)

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

土砂崩れは獣の仕業!?

※地元の君津で野生動物の被害が増えていることと、猟師さんの後継者問題は、関連があるんですよね?

「そこなんですよ。そこがあったんで、この本がその入り口になってくれればって思いもすごく強くて、(本に)書いているんですよね」

●どんどん(猟師さんが)高齢化してきちゃって、山に人が入らなくなってしまったら、どうなってしまうんですか? 

「もう無尽蔵に獣が増えます。獣が増えると・・・山の上のほうに獣が棲んでいるとしますよね。人間と一緒で歩きやすい道をずっと毎日歩くんですよ。で、歩いて、川に水を飲みに行ったりご飯を食べに行ったりすると、”けもの道”って言われる道ができます。

 今から20〜30年前は千葉の山もここまで獣が多くなかったはずなんです。でも今や、ひとつの山に例えば、昔は2頭しか獣がいなかったけど、今はひとつの山に20頭いる、10倍いるんですよ。毎日20頭が同じ道を行ったり来たりするのと、1頭や2頭が行ったり来たりする場合と、けもの道のほじくれ具合が違いますよね。数が多いほうがたくさんほじくれちゃいますよね。

 気候変動の影響で、ここ最近の、昔はなかったゲリラ豪雨みたいなのが、集中的にばーって雨が降るとします。掘り下がった、けもの道に雨水が流れちゃうわけですよ。昔より掘れているから、そこを川みたいに(雨水が)流れちゃう・・・。

 そうすると何が起こるかっていうと、表面の泥を洗い流す”洗掘”っていう現象が起きる。そうすると地下に雨水が染み込んで、たふたふのスポンジみたいになって、表層崩壊っていう土砂崩れが起きたりする原因にもなっているそうです」

●ただただ作物を荒らすとか、そういった獣の被害だけではなくて、土砂災害にまでつながってくるんですね。

「最近各地で起こっている土砂災害も複合要因なんだけど、獣もその原因のひとつにはなっているはずです」

●そもそもなんでそんなに獣が増えちゃったんですか?

「これはやっぱり捕獲する人が急激に減ってしまったんですね。昔はたくさん獲る人がいた。それこそ明治の頃まではニホンオオカミがいたんで、捕食するオオカミがいることによって、獣たちが神経を尖らせ、そこまで爆発的に繁殖できなかったりする現状があったんですけど、今オオカミも絶滅してしまって、捕獲従事者、趣味でやるかたも有害駆除で捕獲するかたも高齢化で減っちゃっていると。それがゆえに増えてしまったという現状もあります」

爆発的に増えている「キョン」!

※「猟師工房ランド」には、どんな方が来ますか?

「割と都会のニューファミリーとか、家族連れのかたが寄ってくれて,お子さんが毛皮とか角とか、色んなものを見て触って・・・ニューファミリーの方が多いかな」

●確かにお子さんは、ちょっと興味深いかも知れませんね。

「僕の取り組みの中で、やっぱり全くこのことに触れないで一生を終えるようなかたたちに、ちょっとでも日本の自然のことを垣間みていただけるような施設にしたいなっていう、そんな思いもあって、あの施設を作ったんだけどね」

●きょうも色々スタジオに(販売している商品を)持ってきていただきましたけれども、この毛皮は何ですか?

「これは、キョンなんですよ。聞いたことあります?」

キョンの毛皮

●あります! あります!

「最近また報道番組とかで、(キョンが)増えて東京に進出するんじゃないかなということで、うちにもすごく取材が来たりするんですけど、これ今、千葉で爆発的に増えてしまっているんですね」

●キョンは改めてどんな生き物なんでしょう?

「日本でいうと特定外来生物で、よくご存知なところではブラックバスと同じような、日本にいちゃいけない生き物です。これは勝浦にある、とあるレジャー施設から逃げ出したもので、昭和50年にそのレジャー施設が潰れたんだそうです。そこで放し飼いになっていた個体が、餌をもらえなくなったので、外にどんどん広がっていったっていうのが経緯らしいんです。今、千葉県内で4万4千頭、生息しているって言われています」

●大きさはどれくらいなんですか?

「大きさは柴犬くらい。これは中国南東部とか台湾の生き物なんですね。中国や台湾では超高級食材として、非常に高い評価を受けて流通しているようなものです」

●毛皮はすごく滑らかな美しい毛並みですね。

「シカはたくさんの種類がいるんですけど、キョンはシカの中でも毛皮が最高峰って言われています」

●艶やかですね!

「そう、キューティクルがね・・・」

●それから他の商品・・・こちらは? 

「捕獲個体をゴミとして捨てないで、ちゃんと利活用していくっていうのも、うちの社の理念の根幹となっているんですね。捕獲個体そのものも、極力余すところなく使っていきましょうっていう取り組みの中で、人間が食べられないというか、例えばイノシシも、小っちゃい、うりぼうちゃんから、100キロも150キロもある、おばけみたいな、ドラム缶みたいな個体もいるんですよ。

 大きい個体は、割と人間にはちょっと硬くて不向きだったり、あとは、可哀想なんですけど、美味しく食べるためには、血抜きっていう作業が必要で、毛細血管の隅々までの血を排出するような、特殊な絞めかたがあって、それをちょっと失敗してしまったものは、人間には血生臭くて不向きなんですね。

 硬かったり血生臭かったりするものは、逆にワンちゃんには栄養価の高いとても喜ぶご飯になるので、そういう意味で人間が食べられない、でもワンちゃんにはとてもプラスになるものを、ワンちゃんたちに手伝ってもらっているということで、ペットフードもたくさん作っているんですよね」

●なるほど〜! 

(編集部注:原田さんは君津市から委託を受け、狩猟をする後継者を育てるために「君津市狩猟ビジネス学校」を開催したり、小学生から高校・大学生に向けて、有害駆除の現状や命の尊さを伝える教室「命の授業」を行なったりされています。

 高校生向けの「命の授業」ではイノシシを解体し、お肉になる過程をあえて見てもらい、時にはまだ温かいお肉をビニールの手袋をして触ってもらうこともあるそうです。そこには原田さんの、命の尊さを伝えたい、そしてともに、日本の自然を未来に引き継いでいこうという、そんな熱い思いが込められています)

命の授業

※「命の授業」に参加された生徒さんの反応は、どんな感じなんですか?

「初めは、やっぱりちょっとギョッとした感じです。なかなか今を生きるかたたちって、それこそ、スーパーに並んでいるお肉が、どういう行程を経てお肉になるのかっていうのを知らないので・・・。

 私は49歳で、小っちゃい頃、田んぼの真ん中に住んでいたので、近所のお爺ちゃんが、ニワトリを絞めてお鍋にするのを近くで見ていたりとか、猟師さんがハトを獲ってきて捌いているのを見ていたりしてましたね。何となく生きものの生き死にとか、命のいただきかたをぎりぎり見られた世代なのかなと思うんだけど、今の小学生の親御さんなんかは、お若いからそんなことは知らないんですよ。

 だから、僕らがやっている家業がそういうことなんで、子どもとかに伝えられるじゃないですか。どうやってお肉って出来上がっていくんだろう、どうやって生きものを殺めると美味しいお肉になるんだろう、生きているものが亡くなっていくって、こういうことなんだなっていうのを、子どもたちが見てくれることによって、これはいずれ、フードロスの問題とか、食べものへの感謝とか、そういったものに・・・SDGsですよね。そういうものにつながってくると思うので、そんな感じの取り組みをしていますね」

(編集部注:「命の授業」については原田さんの本『週末猟師』にも掲載されています。ぜひご覧ください)

未来の日本のために

●改めて、この本を通していちばん伝えたいこと、最後に聞かせてください。

「はい。今、猟師も減っています。未来に向けて獣と人間がうまく共存出来るような仕組みを作るには、やはりきちっとした知識を持った猟師が、未来の日本のためには必要なので、興味があるかたがいたら、この本を読んでいただいて、本気でやるつもりがあるんだったら、猟師工房ランドに来てくれて、僕と話をしましょう」


INFORMATION

週末猟師〜ジビエ・地域貢献・起業、充実のハンターライフの始め方

『週末猟師〜ジビエ・地域貢献・起業、充実のハンターライフの始め方』

 週末にハンターとなって過ごすための基礎知識から、有害駆除の取り組み、週末猟師を体現している人たちのインタビューなども掲載。知られざる猟師の生活やリアルな現状を理解できる一冊です。徳間書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎徳間書店 HP:https://www.tokuma.jp/book/b592900.html

 君津市にある「猟師工房ランド」ではジビエなどの販売ほか、元小学校の広い校庭を利用して、ソロキャンパー専用のキャンプサイトも運営しています。詳しくはオフィシャルサイトを見てくださいね。

猟師工房ランド

◎猟師工房ランド HP:https://www.facebook.com/Hunter.workshop/

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