毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

2022年1月のゲスト一覧

2022/1/30 UP!

◎野村哲也(写真家)
地球は最高の芸術家〜辺境に住んで、感動を撮る写真家〜』(2022.01.30)

◎前田雄大(脱炭素メディア「エナジーシフト」の編集長)
「カーボンニュートラル」徹底解説!〜脱炭素社会がもたらす未来生活〜』(2022.01.23)

◎山岸尚之(WWFジャパンの気候変動の専門家)
「COP 26」地球温暖化対策、1.5度の希望〜「グラスゴー気候合意」徹底解説〜』(2022.01.16)

◎大野裕明(福島県田村市にある「星の村天文台」台長)
冬の星座と天体ショー!〜心を清めてくれるスターライト』(2022.01.09)

◎雨宮国広(縄文大工)
Jomonさんがやってきた!〜子供たちに伝えたい「命」のものづくり』(2022.01.02)

地球は最高の芸術家〜辺境に住んで、感動を撮る写真家〜

2022/1/30 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、写真家の「野村哲也(のむら・てつや)」さんです。

 野村さんは「地球の息吹」をテーマに、主に辺境や秘境といわれる、人がほとんど立ち入らないフィールドで撮影を行なっていらっしゃいます。

 きょうはそんな「野村」さんに、移住生活をしながら撮影するスタイルや、強く印象に残っている世界の絶景のお話などうかがいます。

☆写真:野村哲也

野村哲也さん

星野道夫さんとの出会い

※1974年、岐阜県生まれの野村さんは高校生の頃に、お兄さんの手ほどきで山登りと写真を始めたそうです。そしてなんと、いまなおたくさんのファンがいる写真家星野道夫さんに出会います。

 やはり星野さんとの出会いは、その後を決定づけるものだったんですか?

「星野道夫さんに会った時は、僕は20歳で星野さんは41歳だったと思うんです。とにもかくにも星野道夫というその背中の大きさを・・・写真の撮り方とか教えてくれるんではなくて、写真家とは何だという背中があまりにも大きすぎて・・・星野さんが亡くなってから色んなかたにお会いしていますけれども、あれ以上の背中のでかい人を見たことがないですね。それを20歳の時に見たっていうのは、やっぱり若かりし頃の自分にも本当に衝撃的だったんだろうなっていうのは、今でも思いますね」

●そういった出会いがあって、写真家になって、定期的に住む場所を変えるという移住生活をしながら撮影されているんですよね? 

「そうですね。星野さんと実際に、自分が重ねられた時間というのは2年しかなくて、2年後に星野さんはロシアのカムチャツカ半島で衝撃的な死を迎えられたんですね。僕としては本当にアラスカに星野さんを追おう、写真もテーマもアラスカでと思っていたんですけど、亡くなってしまって・・・星野さんがいるアラスカが僕は好きだったみたいで、何も手がつかない時に写真の先輩たちから、南極にでも行ってこいよみたいなことを言われたんですよ。

 ペンギンは好きだったので、南極にすごく安く行けるっていう裏技を聞いて、それで行ってみたのが22〜23歳で、南極に2回ほど行かせてもらって、ペンギンの写真集を作りました。

 その時、実は南米のいちばん最南端から南極に行ったんですね。その途中で出会ったパタゴニアの風景、南米のアルゼンチンとチリの南のほうをパタゴニアって言うんですけれども、その風景に惚れてしまって、そこから10年ぐらい通い続けて、やっぱり旅行で、旅で撮れる写真に、ある時、限界を感じてしまい、それであればもう住んでみようと。
 ちょうどその頃、結婚することになって、奥さんと一緒に住んじゃおうということになりました。そこから2年ごとに住処を変えながら、写真を撮り始めるようになったんです」

写真:野村哲也

●今までどんな場所で暮らしてきたんですか? 

「チリの南のほうのパタゴニアで2年間とか、あと南アフリカにも花とか動物の写真を撮るために2年間、またイースター島にも、本を作ろうと思っていたので、全部で6ヶ月ぐらい住んでいました」

●やっぱり住むことで撮れる写真っていうのは、だいぶ変わってくるんですか? 

「まずは、結論は変わります。圧倒的に変わります。でも、そこの土地に自分が染まっていって、僕が変わることで、周りの自然の見え方が変わっていくのか、または自分がそこにいることで、根をおろしたから、仕方がないなっていうことで、自然が僕を受け入れてくれるようになったのか、どっちなのかは分かりません。
 分からないですけれども、明らかに今まで撮れなかった写真、そこの大地が許してくれるような、優しく接してくれるようなことにはなりますね」

地球がNO.1!

※今までに撮影のために訪れた国は、何カ国くらいあるんですか?

「今、国連加盟国は全部で193カ国あるんですけれども、そのうちの150カ国ほどに足を踏み入れています」

●どうやってこの国に行こうとか、撮影場所を決めるんですか? 

「気に入った場所(笑)。でも基本的には僕は、友達にも冷たいやつだって、たまに言われるんですけれども・・・人間も好きなんですが、大好きなんですけれども、それよりも地球のほうが好きなんですよ。
 人間よりも地球のほうに興味があるので、簡単に言ってしまうと、人間が作った最高峰の盆栽と、グランドキャニオンと、どっちが見たいって言われたら、僕は別に盆栽が嫌いじゃないですけれども、やっぱりグランドキャニオンを見たいんですよね。

 地球が創り上げた、盆栽も自然が創り上げているんですけれども、人の手が全く入っていない、地球が創り上げた造形物のほうに僕は興味があるので、そういう造形物が残っているところを重点的に、やっぱり辺境とか秘境とか、皆さんがなかなか行かない自然が多いところ、大自然の中に行きたいというか、そういうところのほうが多いかもしれないですね」

●これまで野村さんが訪れた場所の中で、個人的にここの絶景すごかった! っていう場所を3つほど挙げていただきたいんですけれども・・・。

「もし答えをひとつって言うなら、地球です! 地球があまりにも美しすぎるので、地球がすべてで、地球がNO.1だと思っていますし、地球が最高の芸術家だとも思っています。
 場所を3つって言われると、難しいですけど、まずは地球が創り上げた壮大なもののひとつで、南アフリカにある砂漠が集中的な雨によって花園になるんですよ。それが600キロ続くんですよ。600キロって、東京から岡山まで新幹線に乗って行ったら、左右が全部花園だったら、ちょっとびっくりしません?」

写真:野村哲也

●うわー! すごいですね、そう考えると。

「そんな場所もありますし、この前ちょうどNHKの『ダーウィンが来た』かな。 自分がガイドで入ったんですけれども、ホタル(の乱舞)が100キロ続いたらビビりません?」

●ええ〜! すごい! 

「それ、アルゼンチンにあるんですよ。僕たちの中で絶対そんなのあり得ないっていうものが、地球はそんなにちっぽけじゃないので、爆発的な自然(現象)を産むんですよね。そんなことあり得ないっていうことがあり得るのが地球なんですね。
 もちろんパタゴニアの山々の険しさっていうか美しさもまた絶景ですね。3つ挙げろと言われたら、それですかね」

(編集部注:野村さんに海外でのコミュニケーションはどうされているのか、お聞きしたら、言葉は英語とスペイン語はしゃべれるそうですが、どちらも通じないときは、笑顔とオーバーリアクションでコミュニケーションをとるとおしゃっていましたよ。笑顔は共通言語なんですね。

 野村さんはこのコロナ禍で変わったこととして、みんなが爆笑しなくなったと言ってましたよ。心のことを考えるとマイナスだな〜と心配されています。大自然の中に出かける野村さんは、動物たちと一緒に大笑いしているとおっしゃっていましたよ)

世界に誇れる千葉の宝

※野村さんはいま、新しい本を準備中です。その内容は、国内47都道府県の素晴らしい場所をひとつずつ紹介する、というものなんだそうですが、どんなテーマで選んでいるのか、ちょっとだけ教えていただけますか。

「今回はちょうど今、縄文が数年前からやっぱりブームになっているんですよね。少し前に世界遺産に北海道と北東北(の縄文遺跡群)がなりましたけれども、縄文文化はあまりにも面白くて、そういう目線で僕は47都道府県を見たことがなかったので、新たな目線でまた47都道府県の取材をずっとしてきたこともありましたね」

●例えばどういう場所になるんですか? 

「縄文というのは日本中全部にあったんです。僕たちの持っている死生観とか、あと僕たちの核になっている、日本人ってどういう宗教観ですかって言った時に、もちろん仏教徒とかキリスト教徒とかイスラム教徒とか、色々いらっしゃると思いますけれども、基本的にいちばん近いもののひとつは古神道からきていて、八百万(やおよろず)の神信仰というか、アニミズム信仰というか、全ての巨木、全ての巨石、そこに神を見るっていう、だから僕たち日本人はその全部が神なんですよね。

 周りにいる全てのもの、関わっているものが神様、ひとりだけじゃなくて、八百万信仰で八百万の神がいるっていう、数えられないくらいの神に自分たちは包まれていて、生かしてもらっているっていう文化が日本文化の神髄のひとつだと思っているんです。
 そういうのが実は縄文(時代)からあったことも、縄文文化を学ぶことによって確信したというか、なんて昔の日本は高度だったんだろうっていうことを、遺跡として色んな方たちが必死に守ってきてくれたおかげで、今の僕たちがそれを拝見する、見て学ぶことができるのは非常にありがたいことだなって思いますね」

●例えばベイエフエムの地元千葉だったら、どこを撮影されるんですか? 

「千葉はいいところなんですよ。本当に好きなんです、海も綺麗ですし・・・。僕が今、新しい本で取り上げているのは自然が創ったもので、そんなに有名ではなくて、世界に誇れるものなんですよ、むしろ世界唯一のもの。僕はそれが47都道府県に必ずひとつあると思っています。世界唯一です。日本唯一じゃなくて、世界一と言っていいものです。
 それぞれ47都道府県の世界一が必ずあるんですけど、千葉は自然っていう視点で見た時にちょっと困ったことがあって、でもこれは絶対何かあると思って探していたら、ぶっちぎり世界一のものがありました!」

●え、何でしょう? 

「チバニアンです!」

●あ〜! チバニアン! 

「日本中の名前で、(地質)時代の名前に千葉っていう、チバニアンっていう名前が付けられているのは、日本では千葉しかないですからね。それは世界に誇る、俺たちの県は世界の地質年代の、一部の名前として認定されてんだぞって、千葉人は絶対に自信を持って、異国の方たち、または県外の方たちに胸を張って言うべきですね! とんでもなく面白かったです。
 チバニアン自体の地球が創り上げた本当に美しいアートが、あんな壁面にあんなにくっきりわかりやすく、それもあんなに簡単に見られてしまう。もう僕は本当に奇跡だと思いますよ。千葉の宝だと思います」

写真:野村哲也

思いっきり感動しようぜ!

※野村さんが主催されているディープ・ツアーがありますよね。これはどんなツアーなんですか?

「僕は基本的に海外にいるので、今までにアラスカやら、ペルーのマチュピチュとか、パタゴニアとか、色んな海外のツアーをしてきているんです。今回1年半、日本にほぼ軟禁状態なので、それだったら国内で、自分が大好きなところ=人が全く知らないところ、人がいないところに行くのが僕の仕事なので、旅行や観光情報サイトにはほぼ載っていないところだけを巡るツアーをしています。
 毎月(行き先を)1個ずつ決めて、少し前は沖縄のヤンバルに人をお連れしたんですけど、誰にも会いませんでした(笑)」

●本当ですか!? 

「人が来るところに行かないので(笑)。皆さんにも感動してもらいたくて、来月は高知に行って、実は日本最大の磐座(いわくら)があるので、そこの磐座をみんなで巡ろうとか。
 3月は北海道に、モモンガってご存知ですか? 真っ白くて目がくりくりのモモンガがいるんですけど、普通会いに行くって言ってもなかなか見られないんですよ。でも一応、僕は写真家なので、モモンガの家を7個ぐらい知っているんですよ。なので、ツアーが始まる前に7個のモモンガの家を、コンコンコン、いますか〜? いますか〜? って、いるよって言ったところに皆さんをお連れしようかなとか」

写真:野村哲也

●行き先も内容もディープになっているんですね。

「そうですね。屋久島に行っても縄文杉には絶対行かないとか。でも人が知らない、縄文杉に負けない杉があるので、その杉に会いにみんなで行きましょうとか」

●定番の場所は行かないんですね? 

「一切行かない。だって定番の場所に行っちゃったらディープにならないから(笑)」

●そうか、そうですよね! 面白い、興味深いですね。

「普通、見られないものを見ると、人ってやっぱり感動するんですよね。そのディープツアーには、僕はいつも言っているんですけど、予習は必要ない、予習してこなくて結構ですと。そもそもネットにも載っていないですから、予習のしようがないんですけど。
 載っていたとしても予習なんていらない。僕としては、いちばん何が大切かっていうのは、最初に自分がまっさらな、何も知らない状態で会うファーストインパクト、何も知らなかった時に出会って感動したことって、一生で一度きりしかないんですよ。

 ファーストコンタクトまでに、予習や復習をしていると色んなバイアスがかかっちゃって、つまんなくなっちゃうと僕は思っています。予習は一切してこずにそのままボーンって放り出しますから、放り出したところで自分の五感を最大限研ぎ澄まして、まず感じてほしいと。例えばモモンガがいたら、そのモモンガの可愛らしさにまず感動して大きく心を揺らしてほしい。

 心揺らしたあとにもしかしてモモンガに興味を抱いたら、モモンガの勉強をして復習すればいい、そっちのほうが僕は全然学びとしていいんではないかなと、頭にも定着するんじゃないのかなと思っているんですね。

 実は感動も僕はこのコロナ禍で皆さんが失ったもののひとつ、笑いと同じで失ったものではないかなと思っていて、せっかくだったらおもいっきり感動しようぜ! 感動させる場には自分が連れてったるから! って思ってます」

●いいですね〜!

「そこでゲラゲラ笑えればもう言うことないですよね。感動して笑って、最後に学べれば、僕としては言うことないかなって思いますね」

写真:野村哲也

どう感じるかはお任せします

※改めて写真を通して、どんなことを伝えたいですか?

「多分、写真家の方たちは、自分の写真を見て、こういう風に勇気を与えたいです とか、なんとかを感じて欲しいですとか、そう言う方も多いとは思うんですけど、僕はそんなことは言えなくて、写真を見て感じるのはそれぞれの方たちなので、そこはその人たちにお任せします。

 僕は、僕の写真を見て、こういうことを感じてほしいとか、それは僕の中ではちょっとおこがましいなって。僕はたまたま自分が見て感動した大自然を出来るだけそのまま、そこのエネルギーも気も含めて封じ込めた状態で写真を撮ってきているつもりなので、その気やエネルギーを感じてもらって、皆さんがどう思うかは、当然僕と同じじゃなくていいですし、違って当たり前ですし、何か感じたことを大切にしてもらえれば、僕はいいのかなって思っています」

☆この他の野村哲也さんのトークもご覧下さい。


INFORMATION

 野村さんの写真、そして近況については野村さんのオフィシャルサイト、そしてブログをぜひご覧ください。素晴らしい写真がたくさん載っています。ブログはまめに更新されていて、野村さんがいま何をしているか、よく分かりますよ。

◎オフィシャルサイト:http://www.glacierblue.org/home.shtml

◎ブログ:http://fieldvill.blog115.fc2.com/

 野村さんが主催するディープツアーはいずれも定員に達していて、キャンセル待ちの状態だそうです。なお、新型コロナウィルスの影響で延期または中止になることもあります。

オンエア・ソング 1月30日(日)

2022/1/30 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. OBLIVIOUS / AZTEC CAMERA

M2. LIVING TOGETHER, GROWING TOGETHER / BURT BACHARACH

M3. ALL AROUND THE WORLD / LISA STANSFIELD

M4. TREASURE / BRUNO MARS

M5. BADモード / 宇多田ヒカル

M6. IN TOO DEEP / BELINDA CARLISLE

M7. CAN’T STOP THE FEELING! / JUSTIN  TIMBERLAKE

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

「カーボンニュートラル」徹底解説!〜脱炭素社会がもたらす未来生活〜

2022/1/23 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、“世界でいちばん脱炭素に熱い魂!”脱炭素メディア「エナジーシフト」の編集長「前田雄大(まえだ・ゆうだい)」さんです。

 前田さんは1984年生まれ。2007年に東京大学を卒業後、外務省に入省。2017年から気候変動を担当。パリ協定に基づく国家戦略の調整にも尽力。そして2020年から「エナジーシフト」の発行人 兼 編集長として活躍中です。週末は群馬のご自宅で有機栽培にも取り組む自然派でいらっしゃいます。

 「エナジーシフト」はネットの情報メディアで、脱炭素に関連するニュースが満載! さらにYouTubeチャンネル「エナシフTV」も大人気で脱炭素について熱く語る「ゆーだい」さんの熱量が凄いんです。

 そんな前田さんが先頃『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』という本を出されたということで、きょうはカーボンニュートラルについてわかりやすく解説していただき、さらに脱炭素社会に向けた企業の取り組みや、注目すべき新技術についてもお話しいただきます。

☆写真協力:エナジーシフト

前田雄大さん

カーボンニュートラルとは

※ここ数年、ニュースなどでも多く取り上げられ、最近ではテレビCMでも見るようになったワード「カーボンニュートラル」、カーボンは炭素のことですが、改めて、カーボンニュートラルとは何か教えていただけますか

「今、世界全体で、これは日本も含めてですけれども、気候変動という問題が大きな問題になってきております。この原因が何かと科学者の方々が突き止めた結果、二酸化炭素が問題であると、主要因であるという形に落ち着きました。

 この二酸化炭素は産業革命以後、石油とか石炭とかそういうのを燃やすと当然出るんですけれども、大気中の濃度が濃くなってきているので、これ以上増やしてはならないということになっています。

 ”カーボンニュートラル”というのはどういう状態かというと、例えば、車がガソリンを使って走った時に CO2を排出します。そういった世界全体で出るCO2の量と、例えば、森林のようにCO2を吸収するものがありますけれども、出る量と吸収される量、これがちょうど同じようになれば、大気中のCO2は増えません。

 ニュートラルというのは中立という意味なので、出る量のプラスの分と吸収されるマイナス分、これが等価になるとゼロで中立の状態。これがカーボンニュートラルという状態です」

『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』

●前田さんの新しい本『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』を 拝見しました。なぜ今、このカーボンニュートラルなのか、その理由や背景について改めて分かりやすく解説していただけますか。 

「はい。ひとつには、やはり段々とこの大気中のCO2の濃度が濃くなってきていて、それによってもたらされる地球温暖化、これが進展してきています。今、産業革命以降、地球の平均気温の上昇は1度ぐらい上がっている状況なんですけれども、実は国際社会は、この温度を2度未満の上昇に抑えようということになっています。
 2度とか1度とかだと実感として大したことないんじゃないかというふうに思われるんですが、これが2度上昇するだけでも、生態系とかにもかなり大きな影響を及ぼしたりとか、甚大な影響が出ます。

 今この1度上がった世界でも、日本でも西日本で豪雨が頻発したりとか、ああいうような被害が出るようになってきていて、世界全体でかなり経済活動にもマイナスの影響を及ぼすようになってきていると・・・。

 従いまして、世界全体で自分たちの将来を、子供たちに残していく未来も考えた時に、この気候変動問題にしっかり向き合って対策を取らないといけない、ここが急務になったというところがあります。そのためには、カーボンニュートラルな状態に持っていかなければならないというところがひとつあります。

 あともうひとつは、このカーボンニュートラル、例えば車で言えば、EV(電気自動車)とか、電気で言えば、再生可能エネルギーというのが手段としてあるんですけれども、ここのイノベーションの加速度がすごくなっていて、ここを抑えることが未来の経済社会モデルを作る上において、非常に有益だろうと思われるようになってきています。
 環境的な側面もそうなんですけれども、経済的な側面でも注目が集まってきています。経済成長しながら地球環境もよくなるという両立の論点が出てきたので注目が集まってきていて、カーボンニュートラルにみんないこう、ということになっています」

●経済とか社会の仕組みを変える可能性もあるってことですよね? 

「そうですね。産業革命以後、ずっと化石燃料を燃やしてエネルギーを得るというのがベースになって、普段我々も生活している中で、電気が何由来とかあまり思ったこととかないと思うんですけれども、この電気の成り立ちも変わってくると・・・。

 例えば、太陽光パネルの値段も下がってきていますけれども、それに応じて、その便利度合いというのは上がってきているので、家の屋根に太陽光パネルを載っける、これがそんなに値段が高くなく、今はもう載っけられるようになってきているので、お宅の電気代が下がることにもなってきます。
 結構発電をしますので、災害時に停電をしてしまっても、そういうお宅のところは電気があることになってきたりとか、生活のあり方もだいぶ変わるようになってきています。

  EVも航続距離が延びてきていますので、これを使うと、例えば今キャンプとか流行っていますけれども、キャンプに行った先で、ドライヤーとか普段使えなかったものが車につなぐだけで使えるようになってきたりとか。そういう利便性も増えてきていて、徐々に社会、経済のあり方というのが変わってきています」

(編集部注:日本の国としては2年前に菅前総理が臨時国会で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と発表。カーボンニュートラルと脱炭素社会を目指すと宣言しました。

 野心的な目標として国際的にも評価されたということですが、そこに向かうビジョンともいえる「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」も策定されています。これは前田さんいわく、経済成長していくためのロードマップといえるものだそうです)

EV、モーター、蓄電池

昨年グラスゴーで開催された気候変動に関する国際会議「COP26」でも、世界の国々による温室効果ガスの削減に向けて、いろいろな合意がなされましたが、企業の取り組みがなければ「脱炭素社会」は実現しませんよね?

「そうですね。CO2の排出はやはり企業から出ている部分がかなり多いというところもあります。商品やサービスを提供するのはやっぱり企業ですので、我々が利用するようなサービスで、例えばCO2が減っているようなものを提供するかどうかというのは、やっぱり企業にかかってきているところがあって、企業の役割というのは非常に大きいかなと思います」

●例えば、国内の産業分野の中から、脱炭素に向けた積極的な取り組みはどういったところがあるんですか? 

「今、様々な分野で、このカーボンニュートラルに向けたコミットメントというのは出てきています。最近ですと、ニュースで大きく取り上げられたのはトヨタ自動車ですね。”トヨタイムズ”なんてCM でも、水素社会の実現とか、それから話題になったのはEVの戦略、これも本腰を入れて、レクサスなんかも将来的に全部EVにするんだというような話が出てきました。

 やはりそういう有名企業がアクションを起こしているというのは、一般の方々にとっても、”あ、もう脱炭層社会になるんだ!”っていうようなところも、可視化されるという意味においてもいいですし、世界に与えたインパクトっていう意味に置いても大きかったかなと思います」

●トヨタのお話もそうですけれども、様々な企業にとって大きな変化が求められてくるのかなと思うんですけれども、業種によっては追い風となる企業も多いんじゃないですかね? 

「そうですね。追い風としているような企業はやはりいらっしゃると思います。例えば、岩谷産業さんですね。ガスを扱っている会社さんですけれども、水素も元々扱われていたというところがあります。水素となると、日本の第一人者が岩谷さんになります。

 まさにこの脱炭素方針が示されてから、岩谷さんの株価というのはグッと上がったところもありますので、これまで取り組まれてきた水素の知見を活かして、さらに伸ばしていくというような方向性で事業戦略を組まれていると思いますから、追い風にされてビジネスをされているんだと思います」

●世界の脱炭素に向けて貢献する日本の技術もきっと多いですよね? 

「多いと思います。例えば、車もEV化が脱炭素においてはひとつキーとなるんですけれども、そこの中ではモーター、それから蓄電池というこのふたつが結構鍵になります。
 モーターは日本電産という企業が非常に高い技術を持って、世界のシェアを多く取りながらやっているところがありますので、このモーター技術を活かして脱炭素社会に貢献していくという文脈もあります。

 蓄電池も、アメリカではEVとなると、テスラという会社が非常に有名ですけれども、テスラのこれまでの蓄電池のところを支えてきたのは、日本のパナソニックになっています。今は中国、それから韓国の蓄電池メーカーも台頭してきているので、テスラはそういうところとの提携も始めてはいるんです。

  そうは言っても、パナソニックも重要な提携先になっているという意味においては、世界の3強と言われている蓄電池の一角をパナソニックが占めていますので、世界に対して貢献していると言えるんじゃないかなと思います」

写真協力:エナジーシフト

注目すべき人工光合成の技術

※ほかに前田さんが注目している技術はありますか?

「この脱炭素時代、どうしても再生可能エネルギーのように、これまで出ていたCO2を出さないという方向性にいくものが多いんですけれども、カーボンニュートラルの成り立ち、出すほうもあれば吸うほうもあるというところで、注目している技術として、人工光合成というのがあります。

 元々、森林が行なっている光合成、これはCO2を吸収してという話ですけれども、これを人工的に行なうということで、大気中のCO2を活用しながら、別のものを生み出していくというような概念になっています。

 これが本当に経済的にもしっかり成り立つような形で確立されると、いくらCO2を出しても、人工光合成で吸収しきれば、カーボンニュートラルになっていきますので、かなり注目かなと思っています。
 実は日本の企業も東芝さんとかトヨタさんも取り組まれているんですけれども、世界で最高効率を叩き出していたりもしますので、日本が貢献出来るというところもそうですし、出す側を減らすだけではなくて、どうやってそもそもあるCO2を減らしていくのか、これを突き詰めていくと面白いかなと思っています」

●一方で取り組みが遅れている分野で、ここは頑張って欲しいなっていうところありますか? 

「やはりこの脱炭素の流れで、様々なところで取り組みが加速していくことが重要なんですけれども、ベースとなるところで再生可能エネルギーというのがひとつ大きな鍵になってきます。

 今この再生可能エネルギーで、拡大していくとみなされているふたつの分野があるんですが、ひとつが太陽光発電、もうひとつが風力発電になります。いずれも日本の企業の存在感が薄くなってきてしまっています。
 太陽光発電に関しては2005年ぐらいまでは太陽光パネルは世界のシェアNo. 1は日本だったんですけれども、今はもう1%まで下がってしまっていますので、こうしたところは巻き返しをしてもらってと思いたいところです」

カーボンニュートラルが生活を変える!?

※やはり気になるのが、カーボンニュートラルの社会になると私たちの生活がどう変わるのか、だと思います。生活面でどんな変化がありそうですか?

「世界の潮流から申し上げると、実はこの再生可能エネルギー自体が、コストが下がってきているというところがひとつ特色になっています。この流れをしっかり日本も汲むことができれば・・・今は再生可能エネルギーは国民負担になってしまって、電気代を上げる方向にいってしまっているんですけれども、期待したい方向性としては、日本の電気代が再生可能エネルギーの導入によって長期的に下がる、もしこういうことが出来れば、実感値として出てくるかなという風に思います。

 あとは都心と地方で少し変わってくるところはあるかなと思うんですけれども、地方のお宅で太陽光パネルを(屋根に)載せることができれば、今もうそれだけで電気代が下がるようになります。

 そうなってくると、それをEVにためるということが出来れば、今もこの瞬間、実はランニングコストでいうと、EVのほうがガソリンで走るよりも電気で走るほうが安いので、そういうところでお財布にも優しくなっていきます。

 プラスその車にためた電気を使って、家の電気を効率よく回していくというようなことも出てくるようになるかなと思います。車さえあれば、どこでも電気が使えるようになってくると、車のあり方もまた変わってきます。

 カーシェアみたいなことも出てきて、これが例えば、携帯のアプリと連動して、車を持たなくても勝手に車が来るような、車の自動化もこの電動化に合わせて行なわれているところになっていますので、もしかすると交通のあり方も変わってくるかもしれません」

●私たちの生活を振り返ってみると、本当にエネルギーなしでは成立しないですよね。ということはCO2を出さないと生活できないじゃないかって思っちゃいますけれども、カーボンニュートラルは生活全般に関係しているっていうことですよね。

「おっしゃる通りです。今の社会のモデルというのは基本的に何をするにしてもCO2が出る、電気を使おうが車に乗ろうが出るようになっていますので、これがガラッと変わっていく、これが脱炭素トランスフォーメーションと言われている由縁になるんですけれども、ここの前提を変えないといけないというところがあります。今あらゆるところから生活しながら出ているCO2、これが2050年にはゼロになっていくという話ですから、すごいことだなと思います」

※やはり、私たちひとりひとりの意識や行動が大事ですよね。

「今カーボンニュートラルの動きというのは、どうしても国の政策であったり、それから企業の役割であったりというところに焦点が当たりがちなんですけれども、(企業が)供給をするだけではなくて、やはり(消費者から)必要だというニーズが出てきて、歯車が噛み合うような部分もあるかなと思います。

 ひとりひとりの取り組み意識が変わって需要が出てくると、そこに目をつけてビジネスが生まれてくるという好循環になるかなと思います。
 例えば、地方に住んでいるのであれば、屋根置きの太陽光パネルを載せてみるとかもそうですし、都心であっても再生可能エネルギーの電気のメニューというのが、今はもう電力の小売り自由化になっています。

 実は東京電力さんとかの電気プランよりも、再生可能エネルギーなのに安いプランも出ていますので、そうしたものに切り替えていただくというのもそうですし、それから車をEVにしていただくとか、様々あるかなというふうに思います。
 ちょっとでもいいので、そういう意識を持っていただくと、需要のほうが動き始めますので、そういうところに取り組んでいただければなと思います」

●個人ひとりひとりが出来ることっていうことですよね。

「そうですね。そういう取り組みが、例えばそこに目をつけた日本の企業がイノベーションを起こして、そのイノベーションが世界に広がると、世界のCO2を減らす方向にもつながるかなと思います。

 そうなると世界全体の気候変動が、進展が遅くなる、ないしは改善しますので、例えば日本の、西日本豪雨のようなことがありましたけれども、ああいうようなことが減って、未来の社会が安定したものになる、そういうところにも回りまわってつながると思います」

脱炭素メディア「エナジーシフト」

※前田さんが発行人 兼 編集長を務めるメディア「エナジー・シフト」は脱炭素に関連するニュースが満載ですね。どんなところにポイントをおいているんですか?

「やはり多くの方々に情報を届けたいと思っています。単にそこに存在する情報を横流しにするだけだと、面白いと思っていただけないと思いますので、人がより興味関心を示していただくように、これをどうにか面白いと思っていただけるように出来ないか、掛け算をちょっと意識しながら、日々、人の興味関心に脱炭素が掛け算出来るように意識しながら発信をさせていただいています」

写真協力:エナジーシフト

●その「エナジーシフト」から生まれたYouTube チャンネル 「エナシフTV」 では、前田さんが「ゆーだい」として気候変動や再生可能エネルギーなどをテーマに熱く語ってらっしゃいますけれども、パワフルですよね! “世界でいちばん脱炭素に熱い魂”というフレーズが印象的でしたけど、本当に熱いですね!(笑) 

「ありがとうございます! もう暑苦しいくらいです(笑)。(世界は)脱炭素を、地球の温度を下げにいく方向性ではあるんですけれども、私自身は熱量を上げにいっているんじゃないかっていう(笑)」

●すごく上がっていますよね!(笑) 本当に脱炭素に人生をかけているんだなっていう印象がありますけれども。

「はい! 人生、もう完全に全振りして、脱炭素にかけてやらせていただいています」

●今後はどんな発信をされていきたいですか? 

「そうですね。日本もカーボンニュートラルの宣言が出て、2021年には本当に多くの企業から、脱炭素に関するコミットメントが出てくるようになりました。これが2022年は、加速をしていくことになるかなと思っています。

 そうなると、ひとつひとつの単発の情報だけでなくて、これらがどうつながっていくのか、社会全体を網目状に底上げしていくような形にしていきたいなとに思っていますので、そうした形のハブのひとつになれればなと思って、意識しながらやっていきたいなと思っています」

●カーボンニュートラル、そして脱炭素に向けて、改めてリスナーの皆さんにいちばん伝えたいことってどんなことでしょうか? 

「はい。デジタルの世界が、デジタルトランスフォーメーションと言われましたけれども、人々の生活を変えて、それが当たり前になったというのが、今の世の中だと思うんです。それが起きる前は、誰もこういうようなことが起きるとは思わなかったと思います。

 世界は今、脱炭素の流れというのは、単に持続可能な世界を未来に残すというだけでなく、やはり社会、経済のあり方を変えていくというところにありますので、ぜひアンテナを高く・・・そして社会、経済が便利になる方向に、この流れはいくかなと思いますので、それを上手く活用していただきながら、皆様の生活も豊かになっていくといいかなと思っております」 


INFORMATION

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「エナジーシフト」「エナシフTV」

 前田さんが発行人 兼 編集長を務めるネットの情報メディア「エナジーシフト」、そしてYouTubeチャンネル「エナシフTV」もぜひ見てくださいね。「ゆーだい」さんの熱さに圧倒されると思いますよ。詳しくは「エナジーシフト」のサイトをご覧いただければと思います。

◎エナジーシフト HP:https://energy-shift.com

オンエア・ソング 1月23日(日)

2022/1/23 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. A CHANGE IS GONNA COME / SEAL

M2. SUNSHINE / LOUIE VEGA FEAT. BLAZE & RAUL MIDON

M3. CHURCH (FEAT. EARTHGANG) / SAMM HENSHAW

M4. I SAVED THE WORLD TODAY / EURYTHMICS

M5. Wake Me Up / milet

M6. TOP OF THE WORLD / DIANA ROSS

M7. Change / ONE OK ROCK

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

「COP 26」地球温暖化対策、1.5度の希望〜「グラスゴー気候合意」徹底解説〜

2022/1/16 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、WWFジャパンの気候変動の専門家「山岸尚之(やまぎし・なおゆき)」さんです。

 山岸さんは、温暖化に対する国際的な取り決め「京都議定書」が採択された1997年に立命館大学に入学、COP3が開催された京都にいたこともあって、気候変動の分野に関心を持ったそうです。その後、ボストン大学大学院を経て、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして活躍、現在は気候エネルギー・海洋水産室長の責務を担っていらっしゃいます。

 気候変動に関する国際会議、通称COP、正式名称は「国連 気候変動枠組条約 締約国会議」に毎年参加され、もちろん、去年英国のグラスゴーで開催された「COP 26」にも参加し、およそ2週間にわたって会議の動向を見てこられました。

 今回はそんな山岸さんに「COP26」の成果と、今後の課題についてわかりやすく解説していただきます。

☆写真:WWFジャパン

山岸尚之さん

温暖化の計り知れない影響

※ここ数年、異常気象による自然災害が国内外で目立つようになりました。このまま温暖化が進めば、もっと自然災害は増えていきますよね?

「今は大体、産業革命の前から1度くらい世界の平均気温は上がっているんですけど、このまま温暖化が進んで、1.5度とか2度とかになってくると、もっとこうした異常気象が増えてくるっていうのは科学的に予測されています」

●災害だけでなく、作物が育たなくなったりとか、食料が不足したりとか、そういったことも考えられますよね。

「やっぱり気温は農作物にとっても大変大事なファクターなので、それがあまりに高くなってしまうと、今だったらここで育つものが将来育たなくなってしまうとか、そういう被害が考えられています。そのほか感染症が拡大するという危機も懸念されています」

●今、感染症という言葉がありましたけれども、蚊が媒介するマラリアなどの感染症がもっと人間を脅かすかもしれないっていう話も聞いたことがあるんですけれども・・・。

「そうですね。今までだったら蚊があまり多くなかったような場所にも、蚊の分布域が広がっていくことによって、感染症も一緒に広がっていくんじゃないかと懸念されていて、それは日本でも実は懸念されているんですよね」

●平均気温が上昇することで、ほかにどんな影響が出てきますか? 

「端的にいうと、平均気温が上昇すると、北半球では段々と自分たちが住んでいる場所の緯度が上に上がっていく、それに近いわけですよね。だから東京が沖縄みたいな気温になっていくとか、気候的にもそういう風に少しずつシフトしてしまうっていうのがあります。

 それから、いわゆる異常気象だけではなくて、作物に対する被害であったりとか、干ばつが発生する可能性もありますし、異常に雨が降ることもあるし、台風が強力になるみたいなこともあるし、本当にいろんな被害が考えられますね。

 気温が上がるっていうとなんとなく単純な話のように聞こえますけど、やっぱり気候が変わるっていうのはそれだけ自然にとって、そして人間にとっての環境全部が変わることを意味しているので、影響はかなり計り知れないものがあります」

●しかもそれが地球規模ですよね。

「そうですね。カナダのリットンっていう場所で、49度ぐらいの気温が記録されています。そこは夏場でも平均気温20度台なんですよね。そんなところで40何度っていう気温が記録されると、それは元々暑いところで、例えば中東とかで40度とかいくようなところで、49度を記録するのと全然意味合いが違ってきますよね。

 社会のインフラが全然対応できていないわけじゃないですか、そんなに熱くならないんだから普通。そうすると人に対する被害が発生する、熱中症だとかそういった病気にかかってしまう人も増えますし、健康的な被害もどんどん出てくるようになるだろうということが懸念されていますね」 

 このあと山岸さんには「COP 26」の解説をしていただきますが、その前に2015年に採択された「パリ協定」について、ちょっとだけおさらいしておきましょう。

 「パリ協定」とは1997年の「京都議定書」に続く、温暖化対策の新しい枠組みで、「世界の気温上昇を産業革命前に比べて2度より十分に低く保ち、できれば1.5度に抑える努力をする」という世界共通の目標が掲げられました。

 この目標に向かって、先進国だけでなく、途上国も含むすべての参加国が温室効果ガスの削減に取り組むという点で、この「パリ協定」は歴史的かつ画期的な枠組みといわれています。

「グラスゴー気候合意」3つのポイント

写真:WWFジャパン

※実は、COP 26が開催される直前に、国連環境計画がこんな発表をしました。それは、世界各国が温室効果ガスの削減目標を達成しても、今世紀末には世界の平均気温は産業革命前から2.7度上がるというショッキングな報告でした。

 山岸さんは現場にいらして、この報告を各国はどんな風にとらえていたのか・・・何か感じることはありましたか?

「やっぱりここ数年、危機意識の高まりがすごく大きくて、そのひとつは先ほども冒頭でお話があった異常気象が、本当に世界の色んなところで観測されるようになって、温暖化とか気候変動は将来の問題ですっていう雰囲気ではもうなくなってきたんですね。そこで起きているじゃないか! という危機意識が高まって、人的被害も結構発生しているので、どうにかせんとあかんという雰囲気は高まっていたと思います。

 今回の会議には多くの国が首脳クラスを送ったんですよ。日本で言ったら岸田首相、それが120カ国ぐらいが来ていたので、それはやっぱりすごいことですよね。それだけ大事な会議だっていう意識の表れだと思います」

●COP26では「グラスゴー気候合意」というものが採択されました。このグラスゴー気候合意にはどんなことが盛り込まれたんですか? 

「色んなことが書いてあるので、たくさん説明しちゃうと分かりにくくなるので、3つぐらいのポイントに絞ってお話しします。

 ひとつめが、世界全体のゴールがパリ協定にはあって、世界の平均気温を2度より十分低くっていうのと、それから1.5度に抑える努力を追求するっていう文言があるんですよ。有り体に言えば、2度に抑えるのが主目標で、1.5度はある種の努力目標みたいな書き方がされているんですね。

 なんだけど、今回の会議ですごく明確になったのは、やっぱり1.5度に抑えないとだめだよねっていうことに、国際的な合意がされたっていうことでした。グラスゴー気候合意はそういう1.5度の特出しみたいな書き方がされているのが、ひとつめのポイントです。

 ふたつめのポイントは、これもさっきお話ししたことに関わるんですけど、1.5度に抑えましょうっていう風に国際的になったのはいいことなんだけど、でもやっぱり現状の各国の対策は全然それに追いついていないと。だからもう1回強化をするために、来年も見直して持って来てよっていう指令が出たのがふたつめですね。

 3つめは、これは結構意外だったのが、日本の新聞でも話題になったんですけど、石炭火力発電は段階的に削減していきましょうねっていう文言が入ったんですね。国連の会議は各国の主権を尊重するので、普通あんまり国内の情勢について、国内で何をやるかっていうことについてまで、あまり書かないのが暗黙の了解みたいな感じなんですね。

 こういう風に石炭火力発電を、どうするみたいなことを指定して書くのは結構、国連会議としては異例の措置です。でも裏を返すと、今回のグラスゴー気候合意でそれが入ったのは、それだけ国際的に、さすがに石炭火力発電はもうやめていかないとだめだよねっていう合意が出来始めている証拠になりますね。この3つが大きな成果かなと思います」

石炭火力発電を削減!

写真:WWFジャパン

※気温上昇を1.5度にするために、各国にどんなことが課せられたのか、もう少し詳しく教えてください。

「これはやっぱりすごく大変な目標で、 本当に出来るのかな、出来ないのかなっていうレベルでの難しい目標です。端的にやらなきゃいけないこととしては、1.5度に抑えるためには削減目標を強化していかないといけないっていうのがあります。

 もちろん目標を強化するだけじゃなくて、それに伴ってやる対策も強化していかなきゃいけないってことですけど、今回のグラスゴー気候合意で言われているのは、先ほどのふたつめのポイント、来年までにもう1回、各国の2030年に向けての目標を見直してきてよっていう指令と言いますか、要請が出されました」

●温室効果ガスの排出をもう実質ゼロにしないと、1.5度には抑えられないんじゃないかって思いますけれども・・・。

「1.5度に抑えようとした時に、科学的に分かっていることは、1.5度に抑えようと思うと、世界全体の温室効果ガスの排出量、特にCO2の排出量を2050年までに事実上ゼロにしていかないといけないっていうことです。2度だともうちょっとあとでも、60年代から70年代でもなんとかなるかなっていうのが科学的な知見なんですけれども、1.5度にしようと思えば2050年にはゼロにしていかないといけないというのが分かっています」

●そして石炭火力発電ですけれども、なかなか国連の会議で話し合われることではないんですね? 

「そうですね。先ほど申し上げたように、特定の燃料を狙い撃ちにするのは、国連の会議自体ではあまりやりたがらないことなんです。なんだけれども、今回はそれでも敢えてやらなきゃいけないっていうことと、特に議長国だったイギリスがここは(グラスゴー気候合意に)入れたほうがいいと強く押したみたいで、それが功を奏したってところがありますね」

●やっぱり石炭の火力発電は二酸化炭素の排出量が多いっていうことですよね。

「ふたつポイントがありまして、ひとつはCO2の排出量を見た時に、やっぱり原因は化石燃料を燃やしていることなんですね。なんで燃やしているかってエネルギーが欲しいから燃やすわけなんですけれども、その燃やしている化石燃料の中でいちばんCO2の排出量が多いのが石炭なんです。これがひとつめのポイントです。

 ふたつめは、世の中の色んな部門を見た時に、いちばん排出量が多い部門、経済の部門ってどこなのかっていうと電力なんですよね。その電力はやっぱりいちばん排出量が大きい部分なので、対策をしていかなきゃねっていうのがコンセンサスなんです。

 だからいちばん排出量が大きい部門の、いちばん排出量が大きい燃料を、まずはどうにかしましょうっていうので、石炭火力発電はまず最初にやめていかないとだめだよねっていうのが、国際的なコンセンサスになってきていることですね」

●日本は火力発電に依存していますよね? 

「そうですね。特に震災で原発が止まって以降、火力発電に対する依存度が高まっていて、今でも多分30%近くが石炭火力発電ですね。エネルギー基本計画っていうのがあって、その中に書かれているんですけど、2030年時点でも19%ぐらい石炭火力発電はとっておこうっていう計画に今はなっているんです。

 これが国際的にはすごく評価が悪くて。というのは今回、議長国だったイギリスは、先進国は少なくとも2030年までに石炭火力発電はやめていこうぜっていう呼びかけをしていたんですね。そこにきて、日本は2030年までに19%まだとっておきたいですって言っていたので、国際的な感覚からズレてしまっているというのがありますね」

「パリ協定」ルールブック

写真:WWFジャパン

※もうひとつの成果として、温室効果ガスの削減量の国際取引を認める仕組みが採択され、「パリ協定」で採択されたルール作りが完成したと、WWFジャパンのサイトでも紹介されていましたが、これはどういうことなんでしょうか?

「2015年にパリ協定がまず採択されたあとに、パリ協定を実際に国際的な仕組みとして動かしていくために、もうちょっと細かいルールを整備する必要があったんです。大方のルールは2018年の、今から3年前の会議の時に合意出来たんですけど、まだ何個か残っていたルールがあったんです。

 そのうちのひとつというか、いちばん論争が大きかったのが、この国際的な排出量の取引を認めるっていうルールだったんですね。それが今回、何とかまとまったということで、とりあえずこれをもって、”パリ協定のルールブック”って、よく俗称で呼んでいましたけど、それが完成しましたねっていう評価になっていました」

●これは大きな成果ですよね?

「そうですね。これも期待している人たちも多かったので、それなりに大きな成果ということが言えます。何が大事かっていうと、ふたつぐらいポイントがあって、何のために国際的に排出量の削減量を取引出来るようにするのかっていうと、ひとつは各国が目標を達成しやすくするためなんですよ。国によっては、同じ1トンのCO2を削減しようとした時に、かかるお金、費用が違うんですよ。

 すでに色んな技術が進んでいる国、特に先進国でこれから1トン削減しようと思うのと、まだそういう技術が入っていない、先進国だと当たり前のような技術が入っていない途上国で、同じ1トン削減するのにかかる費用が違います。でもCO2の削減っていう意味でいうと地球全体のことなので、別にどこで削減してもいいじゃないですかっていう話があるんです。

 ほかの国で削減する代わりに、その削減した量をうちの国で、例えば日本の企業さんがインドネシアに出かけて行って、インドネシアで削減をする代わりに、そこで削減した量を、日本の目標の達成のために使わせてよと。そうするとインドネシアの側からしてみると、日本の企業が入って来てくれて、技術とお金を落っことしてくれるという利点があると。日本の立場からすると、日本で同じ量を削減するよりも安くあがると。そういう利点があるんですよ。

 だから目標を達成しやすくする仕組っていう意味でひとつめがあって、ふたつめは、今申し上げたような感じで、日本とインドネシアの間で協力が進みそうな感じがするじゃないですか。日本とほかの国、色んな国同士での協力を進めるみたいな意味合いがこの仕組みにはあるんですね。ただ、ルールをちゃんと作らないと大変な問題になるので、今回まで結構もめていたっていうことがあります」

残された課題は資金支援

写真:WWFジャパン

※COP 26では、課題も残されたと思います。そのひとつが先進国による途上国への資金支援だと聞きました。これは具体的にどういうことなんでしょうか。

「元々このテーマってすごく大きくて、先進国からしてみると、途上国にもっと頑張ってもらわないという思いがあります。特にここでいう途上国って中国とかインドとかも、いわゆる普通の文脈だと新興国って呼ばれるような国々も含めて途上国と、この交渉の分野ではいうので、そういった国々にも頑張ってもらわないと削減はままならないっていう思いがある一方で、途上国からすると、今の温暖化って基本的に先進国が引き起こしてきたので、その対処がすごく遅れに遅れてここまで来ている・・・アメリカの歴史なんか見ていると、それはすごくよく分かると思うんですけど、そういうのを見ている中で、何で俺たちにしわ寄せが来るんだっていうのが、すごくあるんですよね。

 その間を取り持つ議論として、途上国に対する資金支援がすごく大事なお話になっていて、今からもう10年以上前の2009年に、段階で先進国から途上国に総額で公的なお金も、それから民間のお金も合わせて2020年までに、1000億ドル資金の流れを作りますよという風に約束をしているんですね。

 これがどうやら達成出来なそうだっていうのが分かっていまして、現状で大体800億ドル弱しかいってなくて、トータルで1000億ドルには届いていないんですよね。なので、途上国の側からからしてみると、いやいや、約束が違うじゃないかっていう話になっているのがひとつ大きな問題です」

COP27の展望と、ユース世代の台頭

※次のCOPは今年エジプトで開催されることになりました。このCOP27に期待することはなんでしょうか?

「はい、COP27はさっきもちょっと申し上げたように、もう1回、各国が削減目標を持ってくるっていう一応約束にはなっているんですよね。そこで、どれくらい積み増し出来るのかを、引き続き見ていかなければいけないことかなと思います。

 日本も、例えば今年、削減目標を1回積み増ししているんですよね。元々、2030年までの日本の温室効果ガスの排出量の削減目標は、2013年と比べて26%削減しますっていう目標だったんです。これを46%削減にしますと菅前首相はアナウンスをされて、実際に国連に提出されています。

 もうひとつ、その46%には但し書きみたいなものがあって、出来れば50%の高みにチャレンジしていきますというような付け足しみたいのがあるんです。努力目標みたいな奴がね。なので、その50%の方向にどれくらい近づけていけるのかっていうのが、まずひとつは課題になるのかなと日本的にいうとあります。

 ほかの国でも、削減目標をちゃんと積み増していくことが大事ですし、それはもうアメリカやヨーロッパの国々みたいな先進国だけじゃなくて、中国とかインドに対しても必要なことで、世界全体で削減目標を積み上げて、何とか1.5度の希望が消えないようにしていくのが、COP27の大きな課題かなと思っています」

写真:WWFジャパン

●山岸さんは、長年COPの現場に行かれて、気候変動の問題もずっと見てこられたと思うんですけど、山岸さんとしては今、どんな思いがありますか?

「そうですね。やっぱりふたつ相反する思いがありますね。昔から言ってきたけどまだ不十分だなっていう思いと、他方でようやくここまで来たなっていう思いと、ふたつあります。
 なるべく希望を持っていただきたいので、後者をちょっと強調して言うと、過去2〜3年の日本の流れを見ていると、ずいぶん変わったなって思うんですよ。何でかって言うと、それこそパリ協定が採択された2015年の段階から、CO2の排出量をゼロにしましょうっていう話って結構あったんですよ、その当時から。

 でも、そんなの絶対無理だよ! っていう雰囲気がやっぱり世の中には多かったんですね。今は、まあ今でも無理だよって人は多いですし、実際無理だなって思っている人も多いと思うんだけど、”脱炭素化”っていうキーワードによく表れているように、とりあえずここを目指さないといけないよね! っていう雰囲気はだいぶ、特に大きな企業さんの間では広まってきています。それは本当に隔世の感がありますね。

 あとは、若い人の台頭が日本でも見られるようになってきたのは、結構希望が持てるなと思っています。今回のCOP26も若い人が、ユースの方々が何名か、すごく来にくい状況下に関わらず(会場に)来ていたんですよね。で、一生懸命、日本の若者として他国の若者と連帯してメッセージを出していて、岸田首相にお手紙を届けたりとか、そういうことを一生懸命やっていらっしゃいました。

 そういう新しい力が、この分野にも流れ込んできているなっていうのはすごく感じるので、そういう意味で言うと、ようやくここまで来たねって、まだまだ希望は捨てられないねっていうのが、18年間くらいかな、このCOPの流れを見てきて、国連気候変動会議の流れを見てきても思うようになりました」

☆この他の山岸尚之さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

 COP26については、WWFジャパンのサイトに詳しく載っています。  ぜひご覧ください。また、WWFジャパンでは、活動を支援してくださる会員、そして寄付を随時募集しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎WWFジャパン HP:https://www.wwf.or.jp

オンエア・ソング 1月16日(日)

2022/1/16 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. BAD WEATHER / YOUNG DISCIPLES

M2. STRANGE WEATHER / GLENN FREY

M3. PROMISES / BASIA

M4. ENERGY / KERI HILSON

M5. 懐かしい未来 / 上白石萌音

M6. BRAND NEW SET OF RULES / MICK JAGGER

M7. WE MAKE THE WEATHER / HOWARD JONES

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

冬の星座と天体ショー!〜心を清めてくれるスターライト

2022/1/9 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、福島県田村市(たむらし)にある「星の村天文台」の「大野裕明(おおの・ひろあき)」さんです。

 大野さんは1948年、福島市生まれ。小学生の頃に担任の先生が小さな望遠鏡で太陽を天井に映し出してくれたのをきっかけに天文に興味を持つようになり、将来は天文学者になる夢を抱きます。

 高校生のときに国際的に活躍する天体写真家「藤井旭(ふじい・あきら)」さんと知り合い、天体写真を撮りはじめ、益々のめり込んでいったそうなんですが、天文学者の道ではなく、家業を継ぐことになります。

 その後は、仕事のかたわら、天文ファンには有名な「白河天体観測所」のメンバーとしても活動。そして1991年に「星の村天文台」の責任者「台長」に就任、天文台のお仕事のほかに、ラジオやテレビ番組で星や天体の解説など幅広い分野で活躍されています。

 きょうはそんな「星の村天文台」の大野さんに、おすすめの冬の星座や、今年注目の、天体ショーのお話などうかがいます。

☆写真協力:大野裕明

写真協力:大野裕明
大野裕明さん

誕生星座を探してみよう

※今月1月から2月かけてのおすすめの星座はありますか?

「色々あるんだけど、春、夏、秋、冬、という地上の季節感と、お空のほうの決められた春の星座、夏の星座、秋の星座、冬の星座っていうのは、ちょうどひと月ぐらいズレが生じるんですよ。ですから1月2月、今のシーズンですとまだ秋の星座も夕暮れに残っています。
 それから冬の星座、有名なのではオリオン大星雲とかオリオン座、牡牛座とか。先月12月は、双子座流星群という流れ星がたくさん飛びました。その双子座もやっぱり今いちばん見ていただきたい星座かな」

写真協力:大野裕明

●私のような初心者に向けて、星空や天体を見るコツがあれば、ぜひ教えてください。

「今のシーズンですから、サッと見るんではなくて、防寒用具をしっかり着込んで、使い捨てカイロなんかも胸にお尻に色んなところに仕込んで、長時間見るっていうことがまず基本です。そして初めてのかたは天体望遠鏡を直接覗くんじゃなくて、自分の肉眼だけ、肉眼の世界で楽しむことなんですね。そして星座、オリオン座とか双子座だとか、そういうものを確認することでしょう。あと自分の誕生星座。小尾さんは何?」

●私は山羊座です! 

「山羊座ですか。今どこにあるかは特別に言いませんが(笑)、自分の誕生星座をまず探し出すことです。そこから入り込んでいただく」

●肉眼でちゃんと見えるものですか? 

「山羊座もちゃんと見えますよ。ただ、都会地だと街明かりでちょっと見にくいかなという星座ではありますけれども。でも山羊座のすぐそばに、知れ渡ったもうちょっと明るい星座がありますから、そういうところから紐解いて順繰りとその山羊座に辿り着けばいいんですよね。

 私は6月生まれですから、双子座だから、激しく流れ星が飛ぶところなので誰しもが知っているんですが、でも探しにくいんですよね。どうすればいいかって言ったら、双眼鏡を手に入れることなんですよ。望遠鏡はこの段階ではいりません」

●望遠鏡じゃなく双眼鏡?

「そう、初心者のかたは、例えばカメラ屋さんとかで売っていますが、倍率が8倍ぐらいの、片手で持てるぐらいの、両目でしっかりと見えるような、8倍ぐらいの双眼鏡がいいです」

写真協力:大野裕明

夜空にスマホをかざして!?

※ほかにこの時期の、おすすめの星座があったら教えてください。

「今ちょうど、夕暮れから8時〜9時ぐらいになりますと、頭のてっぺんにごちゃごちゃっと集まった牡牛座の”昴(すばる)”という星があるんです。あの谷村新司の、目を閉じて〜何も見えず〜♪ って目を閉じちゃったら何も見えないんだけど(笑)」

●あははは〜(笑)

「目をしっかり見開いて見ると、清少納言の枕草子にも書いてあるんですが、全天でいちばん綺麗な星の集まりだよっていう。そのすばるがあるから、そこに双眼鏡を向けるとキラキラってね、星が見えます」

●星座の早見表とかも活用したほうがいいですか? 

「そうですね。本屋さんに星座早見表というのがあります。それから天文書の間に星座早見盤がはめ込んであったりしますが、もうひとつはスマホ(のアプリ)で無料で星座を探し出そうというものがあるんですね。フリーでダウンロードできます。望遠鏡メーカーさんも一生懸命そういうようなものを出していますので、それを活用するんですよ。

 それで夜空のあの星なんだろうっていう方向にそのスマホを向けてあげますと、木星ですよとか、オリオン座ですよとか、それこそ山羊座も分かりやすいです。そういうものを入手することですね。スマホとかそういうものを十分活用するような方法をとっていただきたいと思います」

『星座の見つけかた』

今年、注目の天体ショー

※今年注目すべき天体ショーがあれば、いくつかご紹介いただけますか。

「たくさんあるんですよ。やはりなんてったって、金星とか、火星とか、木星とか、土星、そういうのが夜明けの空に(集合して)見える時があります。ひと昔前に惑星直列なんて言って、世界中が大騒ぎになったこともあるんですが、そういうものがあります。それから流れ星ですね。流れ星は見たことあるでしょ?」

●そんなに綺麗にちゃんと見たことはないです。

「そうですか。去年12月の双子座流星群も、うちの天文台で夜間公開やっているので、たくさん集まっていただいて。周りにもたくさんいるんですよ、駐車場のところにも。そうすると明るい星が流れる度に、“おお〜っ!”って地鳴のようになってね。大したことない流れ星だと、“おっ”っていうくらいで、それで明るさの度合いが分かるくらい(笑)。

写真協力:大野裕明

 流れ星は通常でも、私が一晩観測している時は3個か4個なんですが、1時間あたり10個とか20個とか流れる場合があるんですね。流星群と言われる時期があるんですが、夏休みの8月13〜14日がペルセウス座流星群っていうのがあります。これは毎年同じように1時間あたり50〜80個くらい出ます。

 それともうひとつおすすめなのは、12月になるんですが、先ほど言った双子座流星群。12月の13日、14日、15日あたり、クリスマスの前の週ぐらいですね。1時間あたり50個ぐらい出るかな。でも流星群の場合、(流れ星の数を)ものすごく多く言いますよね。50個とか100個とかって、騙されてはいけないです。 

 全天で100個だとしても、自分の見ている方向は3分の1ぐらいなんですね。100個と言われた時は、まあいいところで20個か30個かな。ところがご家族で、僕はこっち、君はこっちっていって全天をカバーすれば100個、そういう風になります」

●おお〜、いいですね。

「おすすめは8月のペルセウス座流星群と12月の双子座流星群なんですが、それと今年は11月の8日に皆既月食があるんです。昨年の暮れに皆既月食らしいものがありましたよね。今年の11月8日は皆既月食ということで、全部隠されます。

 夕方、東の方向から満月が出てきて、それで欠けるということで、全国で見ることができますので、日本全国の方々も東のほうをこの日は見ていただきたいと思います。あとは様々、小さいのも、天文関係者も大喜びなのがたくさんあるんですが、皆さんにはやはり春先に惑星が明け方に集合するよということと、流星群、それと皆既月食ということですね。今年もたくさん天文現象があります」

(編集部注:大野さんは1986年に地球に接近し、当時、国内外で大変話題になった「ハレー彗星」を見る日本航空主催のオーストラリア・ツアーに、白河天体観測所のメンバーとともに講師として参加。1ヶ月ほど滞在し、大きな望遠鏡を使ってテレビ番組で生中継も行なったそうです。また、日本全国を車で回るツアーも行ない、世界でいちばん望遠鏡を通してハレー彗星を見たのはきっと私でしょうとおっしゃっていましたよ)

見えたら長生き、カノープス

※大野さんがいちばん好きな星は何か教えてください。

「ここ福島県は、ある星が北限になっているんですよ。何かと言うと、りゅうこつ座のカノープス」

写真協力:大野裕明

●カノープス?

「カノープス、一等星なんです。ところが、南に低いばっかりに、福島では白河市あたりが北限なんですよ。もちろんオーストラリアとかに行くと、頭のてっぺんに見えるんですが、福島市だと一等星がうんと暗くて南に低くて見えます。
 白河でも4等星か5等星くらい、肉眼で見えるか見えないか。双眼鏡じゃないと見えないというくらいなんですが、それが昔からこだわっているんですよ、私は。つまり見えないものを見たいというのは誰しもある感情でしょ?」

●はい、そうですね。

「ですから、北限記録を白河の人が持っていたんですよ。見えたよということで、写真撮影して。そしたらそれを少しでも北上させようということで、安達太良(あだたら)という山、あの智恵子抄(ちえこしょう)で有名な安達太良なんですが、そこの山のてっぺんに行きまして、それで観察したことあるんです。
 それも夏は見えないんですよ。冬じゃないと見えないんです。で、11月くらいに仲間と登りまして、南のほうになんとか見えました。そして、降りてきた翌日は雪が積もっていたという・・・」

●お〜〜! 

「もう死ぬ思いでした。それで、みんなに綺麗に見えたよ、見えたよ!って言ったばっかりに、今度は仙台の人が蔵王であっさりと見ちゃって。そしたら、あまりにも彼たちが喜んでいたので、山形のかたが月山(がっさん)に行ってなんとか見ちゃったんですね。

 小躍りしすぎたなっていう感じがするのですが、月山以上はもう絶対見えないので、もうやめましょうと言うことで終息宣言を出しました。それは今、私のいるこの星の村天文台でもなんとか見えるんです。

 つまり北限の白河よりは北のほうなんですが、山の高さがあります。標高がある分見渡せるんですね。ですから、11月から今の1月2月くらいまでかな。なんとか南のほうに、ひょっこりと見えるという、そういうことでカノープス。
 カノープスは中国の伝説で、滅多に見ることが出来ないものだから、見えたら長生きできるよ!という長寿星なんですよ」

●おお〜!

「結構、日本中の人たちは、南東北から西日本の人たちは、割とたやすく見える位置にありますので、そういう人たちも見えたよ!って言って、大変喜ぶお星様です。ぜひ見ていただきたいと思います」

丸い地球を見てみたい!

※一般のかたが宇宙に行ける時代になってきましたよね。大野さんは、行けるとしたら、どの星に行ってみたいですか?

「お月様には行きたいですね! なぜかと言うと、(宇宙ステーションのように)地球の表面上だけ周っていると地球がまん丸く見えないんですって。私の知り合いの宇宙飛行士もそういう風に言っているんです。ただ、知り合いの宇宙飛行士は船外活動で外に出ましたから、くるりと見まわして丸く見えたというんです」

写真協力:大野裕明

●へぇ〜〜! 

「船内にいると、一部分しか、丸く見えないんですって! だから(地球を)まん丸く見るためには、地球を離れることですから、お月様に行きたいというのは、振り返ってみて、地球がまん丸いのを見てみたいです。

 私たちが望遠鏡で木星を見るとまん丸く見えるでしょ。土星を見ると丸く見えて輪っかが見えるでしょ。お月様も丸く見えるでしょ。望遠鏡を使わなくても月は丸く見えるでしょ。月に向かう途中でも(地球は)丸く見えるという、アームストロング船長とか、お月様に行った人たちはそういう風に言っているので、そういうシーンを見てみたいなって感じがしますね」

●では最後に、大野さんにとって、星や宇宙の魅力って何でしょう?

「そうですね。やっぱり何でも忘れさせてくれますよね。皆さん人生で色んなことが起きるでしょ。どんな時でもお空を見ると、気がスッキリするよということでありますよね。いつでも星は同じところに輝いているし・・・。

 それからたまに、先日もレナード彗星っていう箒星が接近して帰っていくという、そういうものを見たりすると、やはり心が安まりますよね。心を癒してくれる。喜びも悲しみも人生で色々あるのを少し冷静にしてくれる。そういう部分があるんじゃないかと思います。だから、星の光には、何か我々の心を洗い清めてくれるものがあるんじゃないでしょうかね」


INFORMATION

「星を楽しむシリーズ」

 大野さんは誠文堂新光社から「星を楽しむシリーズ」という本を出していらっしゃいます。このシリーズは『星座の見つけかた』や『双眼鏡で星空観察』など全5タイトル。初心者に向けて、星の見方や星座の探し方など、楽しくわかりやすく解説しています。ぜひ参考になさってください。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎誠文堂新光社 HP:https://www.seibundo-shinkosha.net/series/enjoy_the_stars/

写真協力:大野裕明

 「星の村天文台」は田村市の観光名所「あぶくま洞」という鍾乳洞のすぐ近くにあります。標高は650メートル、空気が澄んでいて、街の明かりもないため、天体観測にとても向いている場所にあります。

写真協力:大野裕明

 福島県で最大級の、口径65センチの反射式天体望遠鏡が設置されていて、天文ファンだけでなく、子供たちにも人気のスポットです。星空の観望会などを定期的に実施しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎星の村天文台 HP:https://www.city.tamura.lg.jp/soshiki/20/

オンエア・ソング 1月9日(日)

2022/1/9 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. MOONLIGHT SERENADE / CHICAGO

M2. 天体観測 / BUMP OF CHICKEN

M3. ORION / 中島美嘉

M4. 流れ星 / スピッツ

M5. 星のかけらを探しに行こう Again / 福耳

M6. WHEN YOU WISH UPON A STAR / IDINA MENZEL

M7. TALKING TO THE MOON / BRUNO MARS

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

Jomonさんがやってきた!〜子供たちに伝えたい「命」のものづくり

2022/1/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、縄文大工の「雨宮国広(あめみや・くにひろ)」さんです。

 雨宮さんは1969年生まれ、山梨県出身。丸太の皮むきをするアルバイトをきっかけに大工の道へ。古民家や文化財の修復に関わり、先人の手仕事に感動し、伝統的な手法を研究。そして石の斧に出会い、能登半島にある真脇遺跡の縄文小屋の復元を手掛けました。

 この番組では、石の斧で作業をする大工、雨宮さんの存在を知り、2014年6月に山梨県甲州市にあるご自宅兼作業場を訪ね、お話をうかがい、その模様を放送したことがあります。その後、雨宮さんは国立科学博物館の人類進化学者、海部陽介さんが進める「3万年前の航海〜徹底再現プロジェクト」で、石の斧を使いこなす縄文大工として、丸木舟を造る重要な役割を担い、一躍注目を集める存在になりました。

 今回はそんな雨宮さんが、現在進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」をクローズアップ!  いったいどんなプロジェクトなのか、その全貌に迫ります。

☆写真協力:Jomonさんがやってきた!  三万年前のものづくり

2021 @kurokawa hiromi
2021 @kurokawa hiromi

求めていたものづくり

※改めて縄文大工を名乗るようになった理由や、石の斧との出会いについてお話しいただきました。

「縄文大工って、なんだそりゃ!? と思われるんだと思うんですけども、地球のためになる仕事をする人っていうことなんですね。そして今の仕事というのはほとんど人のためになる、もしくはお金を稼ぎやすい仕事が一般的なんですよね。これからの持続可能な暮らしを切り開いていく中で、やはり地球のためになる仕事を作り上げていきたい、そういう思いで縄文大工という名乗りかたをさせていただいています」

●石の斧との出会いというのは、どういった感じだったんですか? 

「私も、そもそも石斧っていうのは木工道具とは思わなくて、マンモスを狩るような狩猟の道具かなという程度だったんですね。もしくはただの石ころみたいな、そんなものは何の役にも立たない石ころだ、みたいな思いを抱いていたんですけども、2008年にその石斧と初めて出会う場面がありました。

 それから自分で石斧を作って、栗の木にひと振り石斧をコンと打ち付けた瞬間に、自分が求めていたものづくりはそこに全てあったみたいな、そこにもう引き込まれまして、以来研究を続けながら縄文大工としてやってきています」

●鉄の斧と比べて石の斧っていうのは、木を伐るにしても時間も手間もかかりますよね? 

「そうですね」

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

●でもそこが、あえて石を使いたいというか、石の斧がいいというか、そこが大事っていうことですよね。

「私も最初から石を使っていたわけじゃなくて、当然機械の道具、そして鉄の道具を使って効率よくものを作るっていう仕事をずっとしてきました。木という命あるものと向き合っているんですけども、それはただの木、命がないものとして、ものとして見ていたなっていうのがあったんですね。

 それはやっぱりその命と向き合う時間、ものと向き合う時間があまりにも目の前を一瞬で通り過ぎるというところで、感じることができなかったんだなと思うんですよね。石の斧を初めて手にして木と向き合った時に、その命を伐る時にもすごく時間を要するわけで、そしてその木を使って、家なり舟なり作るにしてもすごく時間がかかる。そういう中で、そのものが持っている本当の、脈打つ鼓動というか、そういうものを感じてくるんですよね。そういうところに惹かれましたね」

(編集部注:雨宮さんが使っている石の斧は全部自分で作っていて、用途によって使い分けるため、大きい斧から小さい斧まで、全部で100本くらいはあるそうですよ)

子供たちと丸木舟を作るプロジェクト

※雨宮さんは去年の夏に「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」プロジェクトをスタートさせました。来年の10月まで続くということなんですが、どんなプロジェクトなのか、まずは概要を教えていただけますか。

「ひとことで言いますと、全国の子供たちと石斧を使って、ひとつの丸木舟を作り上げるというプロジェクトなんですね。そして昨年の夏に丸木舟になる材料となる杉の木の命を子供たちと一緒にいただいて、今は富士五湖のひとつ、西湖という湖のほとりで、全国ツアーを前にして削り込みの作業を今、しているところです。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 これから今年5月に北海道に向けてスタートして、北海道から47都道府県を順番にツアーをしながら、子供たちが少しずつ丸太を削りながら、沖縄で最終的に完成させてその舟に乗るという、そういうプロジェクトですね」

●参加者はみんな、お子さんたちなんですか? 

「はい、地元の子供が主体に参加する形ですね」

●子供たちと一緒に進めていくということに意味があるということなんですか? 

「そうですね。これからの未来を担っていく、作っていくっていう子供たちと進めます。この地球上にたくさん生き物がいる中で、道具を手にして、ものを作る生き物は人間だけなんですね。その人間として、どういうものづくりをしていかなきゃいけないかっていうことを、子供たちと一緒に丸木舟を作りながら向き合って考えていきたいなと思うんですね」

●まずは石の斧を作ることから始めたそうですね?

「子供が好きなものっていうと大体、棒とか石なんです。それを合わせたものが石斧になるわけですけども、本当に無我夢中になって楽しく石斧を作って、丸太をコンコン削る作業を、子供たちってがむしゃらに楽しくやるんですよね」

●そもそもこのプロジェクトを始めようと思ったきっかけっていうのは、何なんですか? 

「やっぱり命をいただくっていう行為をしっかりと受け止めて、その命を活かしたものづくりをしたいっていうことを思ったんですね。どうしても今、私たちのものづくりって本当にただのものとして見ていて、木にしても道具にしても、その命をいただくっていう行為になっていないと思うんですね。

 何故かっていうと、そのいただくって行為は相手に対して、あなたの命をいただいてもいいですかっていう対話をしなければいけないんですけども、その対話がなく一方通行で、力づくで、ある意味その命を奪い取ってしまっているというか、そういう形になっているんですよね」

巨木との対話

※雨宮さんが進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」はパート1が、去年の夏に愛知県北設楽郡東栄町の森の中で実施されました。

 丸木舟にするための大きな杉を、石の斧で伐り倒す作業を子供たちと一緒に、18日間かけて行なったということなんですが、その杉の巨木はなんと樹齢が約250年、高さは50メートル、いちばん太い部分の幹周りが1メートル40センチ。雨宮さんいわく「おそれ多い、神の宿る木」という印象だったそうですよ。

 雨宮さんはその木に常に話しかけ、こういう理由であなたの命をいただきたい、と語り、対話を続けていたといいます。その巨木にご自身の思いは伝わったと思いますか?

「おそらく、その思いが伝わらなければ、私の言っていることに、もし偽りがあれば、それは間違いなく命を差し出してくれることはしてくれないなと思ったんですね。本当に嘘ごまかしなく、本心をとにかく伝えました。 そして杉の木の根元に寝たというのは、何故そこに寝たかというと、私の命を向こうも奪うことが出来るんですよ。それは250年生きた木で、50メートルという高さになって、太い枝がいっぱい付いているんですけども、枯れたような枝もいっぱい付いているんですね。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり
写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 木はそういう枝は自然に落とすんですよね。神社なんかでも枯れた枝が落ちているのをよく目にすることがあると思いますけども、そういう風に、私がそこの根元に寝て、もしお前なんかに命を渡さない! そんな汚い心だったら渡さない! っていうことを杉の木が決めれば、寝ている間に私の上にその太い枝を落とすことが出来るんですよね。そういうことを私も分かっていてそこに寝るわけですよ、びくびくしながらね。

 だけども、本心を伝えているから、これでもし命がなくなったら、それはそれで伝わらなかったんだろうという覚悟のもとに寝たんですね。そういう中で、杉の女神が枕元に立ってくれればいいなと思ったんですけども、なかなか女神様は訪れませんでした。

 そうこうしている間に実際、石斧を入れて、斧入れ式をして、斧を入れ始めたんですけれども、実は斧を入れる前日の夜に私がそこにまた寝ようと思って、夜中に杉の根元に行って、木として最後の晩を共に過ごしたいなと思って行ったんですよ。
 そうしてその杉の木の前に行ったら、光る点滅するものが現れたんですよね、杉の木の根元に。何だろうって思って、一瞬その光るものが杉の心臓の鼓動みたいな感じに見えたんですけども、近づいたらみたら実は、それは“ホタル”だったんです」

●え〜〜〜っ! 

「でも、8月の中くらいですから、もうホタルなんていないんですよ、本来なら。大体(ホタルが飛ぶのは)6月頃ですからね。しかも広大な山の中に、たまたまその木の根元の所にいるわけですよ。その時私は本当に、あ! 杉の木が今まで私がそういう心を伝えたことによって、“明日、僕に斧を入れてもいいよ!”っていうことを言ってくれているのかなと、そういう風に思ったんですよね」

●すごい! 対話が出来ていますね! 

「そうですね。木は言葉が喋れないから、そんなことしたって無理だよとか、意味がないよとか、そういう風に言ったら、命をいただくってことが成り立たないですよね。たまたま人間の言葉が喋れないだけで、やっぱり全てのものは意思疎通が出来る、そういうもので繫がっていると思うんですよ。それが、生きること、他のものの命をいただくことだと思うんですね。そういうことをやっぱり子供たちに伝えたい」

(編集部注:去年の夏に丸木舟を作るために伐り倒した杉の巨木は、現在、富士五湖のひとつ、西湖のほとりのキャンプ場に保管。長さ11メートル 50センチで10トンの重さがあるそうですが、丸木舟作りを体験してもらう全国ツアーに出るために石の斧でくり抜く作業を続け、4トンくらいの重さにするとのこと。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 予定では今年5月に北海道を皮切りに南下し、1年かけて沖縄まで。その沖縄で、子供たちに丸木舟に乗る体験をしてもらったあとに「みんなの舟」ということで、瀬戸内の海や浜名湖、そして西湖でやはり体験をしてもらう予定だそうです。

 雨宮さんの夢はもっと膨らんでいて、丸木舟で与那国島から沖縄本島、そして九州から北海道まで日本一周、さらに太平洋を渡りサンフランシスコまで行きたいとおっしゃっていました)

木の命をいただく

※プロジェクトのイベントに参加した子供たちに接する時、どんなことを心がけていますか?

「本来であれば、昨年の夏に行なわれた(パート1の)“杉の木の命をいただく”イベントに、みんな参加していただきたかったですね。そこが本当にこのプロジェクトの肝なんですけども、残念ながら参加出来ていない人たちに、いかに私が木の命をいただくことを伝えられるか、どんな気持ちでその命をいただくのか、そしてそのいただいた命をどういう風に活かしていくのか、そのところをしっかりと伝えていきたいと思ってですね。

 私が今まで感じたことは、木をただのものと思っている、あと道具をただのものと思っている、だからどうしても扱い方が非常に乱暴になる傾向があるんです。それをなくしたい。

 自分の命を守ってくれる舟、これは当たり前ですね。海というある意味、宇宙的な空間に出れば、その舟が沈没すれば、自分も生きられないわけで、壊れれば生きられない。自分の命を守ってくれる舟、それと心を通わす、思いを込める。

 そして、その舟を造るには、自分の手とか歯とか、体では造れない。道具を通して初めて造れる。で、その道具に感謝して、道具を通して木と一体となり、全てのものと仲よく、舟を造る心を通わせる、そういうものづくりを目指したいと思っています」

●木があることが当たり前ではないんだよっていうことは、日々生活している上でなかなか感じないですよね。

「そうですね。なかなか命をいただくって行為が、しっかりと出来ていない現代社会なので・・・奪い取るんではなくて、やはり対話をしていただくことで、そのいただいた命をしっかりと次の未来のために活かすことが、生きる、食べる、いただくってことなんですね」

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

丸木舟は地球船

※子供たちは純粋ですから、伝えたいことをすべて吸収してくれそうですね。

「そうですね。子供は本当に素直に聞き入れて、理解力抜群ですね。大人はどうしても、しがらみとか、この矛盾しきったものが分かっているんだけれども、今を成り立たせなければ、生きられないことを、どうしても優先して考えちゃうので、思考がちょっと止まっちゃうところがあるんです。でも子供は本当に普遍的なものをしっかりと理解するんですね。

 どんな時代になろうと、生きる! 人間らしく生きる! っていうことをちゃんと受け入れられる、それを目指そうとする。それを子供が、例えば大人になった時に、”縄文大工に僕はなりたい!”と言った時に、親が“いや、お前そんなものは金にならんからダメだ”と、”もっとお金になる仕事を探せ! やれ!”と言うんではなくて、やっぱり社会全体で地球のためになる仕事を応援してあげる。で、その子の夢が実現するように支えてあげる。そういう世界に変えていきたいなと思いますね、このプロジェクトを通してね」

●雨宮さんのプロジェクトに参加した子供たちの中には、将来“縄文大工さんになりたい”っていう子供もいたんじゃないですかね?

「そうですね。今の世界の目標が持続可能な暮らしですからね。やっぱり人間だけが幸せになる仕事ではなくて・・・地球の、いわゆる丸木舟って地球船そのものなんですよね! 実は」

●地球船!?

「丸木舟の中の全ての生きものが、楽しく仲良く面白く暮らせるものづくりって何かな? って考えたり、そういう風に出来るようにするにはどんな仕事があるのかなということを考えて、想像してもらいたいですね、これからの子供たちに」

●最後に改めて、このプロジェクトを通してどんなことを伝えたいですか?

「そうですね。やっぱりこの地球上に敵はいないってことなんですね。無敵っていうのは、敵を作らない、当然そもそも敵がいない、みんな仲間だっていうことですね。そういう意識を常に持つ。そうすると小さな丸木舟の中でもみんなで楽しく仲良く暮らせるんですね。みんな仲間ですから。同じ命です」

☆この他の雨宮国広さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 雨宮さんが進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた!  3万年前のものづくり」にぜひご注目ください。今年5月から1年かけて行なうパート2の「丸木舟作り全国ツアー」のあと、来年8月に沖縄で行なうパート3の「航海体験」まで続きます。

 現在、活動のための資金をクラウドファンディングで募っています。ぜひご支援いただければと思います。詳しくはクラウドファンディングのサイトを見てくださいね。

https://readyfor.jp/projects/Jomonsan

 プロジェクトの詳細と雨宮さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎雨宮国広さん HP:https://jomonsan.com/

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