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「COP 26」地球温暖化対策、1.5度の希望〜「グラスゴー気候合意」徹底解説〜

2022/1/16 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、WWFジャパンの気候変動の専門家「山岸尚之(やまぎし・なおゆき)」さんです。

 山岸さんは、温暖化に対する国際的な取り決め「京都議定書」が採択された1997年に立命館大学に入学、COP3が開催された京都にいたこともあって、気候変動の分野に関心を持ったそうです。その後、ボストン大学大学院を経て、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして活躍、現在は気候エネルギー・海洋水産室長の責務を担っていらっしゃいます。

 気候変動に関する国際会議、通称COP、正式名称は「国連 気候変動枠組条約 締約国会議」に毎年参加され、もちろん、去年英国のグラスゴーで開催された「COP 26」にも参加し、およそ2週間にわたって会議の動向を見てこられました。

 今回はそんな山岸さんに「COP26」の成果と、今後の課題についてわかりやすく解説していただきます。

☆写真:WWFジャパン

山岸尚之さん

温暖化の計り知れない影響

※ここ数年、異常気象による自然災害が国内外で目立つようになりました。このまま温暖化が進めば、もっと自然災害は増えていきますよね?

「今は大体、産業革命の前から1度くらい世界の平均気温は上がっているんですけど、このまま温暖化が進んで、1.5度とか2度とかになってくると、もっとこうした異常気象が増えてくるっていうのは科学的に予測されています」

●災害だけでなく、作物が育たなくなったりとか、食料が不足したりとか、そういったことも考えられますよね。

「やっぱり気温は農作物にとっても大変大事なファクターなので、それがあまりに高くなってしまうと、今だったらここで育つものが将来育たなくなってしまうとか、そういう被害が考えられています。そのほか感染症が拡大するという危機も懸念されています」

●今、感染症という言葉がありましたけれども、蚊が媒介するマラリアなどの感染症がもっと人間を脅かすかもしれないっていう話も聞いたことがあるんですけれども・・・。

「そうですね。今までだったら蚊があまり多くなかったような場所にも、蚊の分布域が広がっていくことによって、感染症も一緒に広がっていくんじゃないかと懸念されていて、それは日本でも実は懸念されているんですよね」

●平均気温が上昇することで、ほかにどんな影響が出てきますか? 

「端的にいうと、平均気温が上昇すると、北半球では段々と自分たちが住んでいる場所の緯度が上に上がっていく、それに近いわけですよね。だから東京が沖縄みたいな気温になっていくとか、気候的にもそういう風に少しずつシフトしてしまうっていうのがあります。

 それから、いわゆる異常気象だけではなくて、作物に対する被害であったりとか、干ばつが発生する可能性もありますし、異常に雨が降ることもあるし、台風が強力になるみたいなこともあるし、本当にいろんな被害が考えられますね。

 気温が上がるっていうとなんとなく単純な話のように聞こえますけど、やっぱり気候が変わるっていうのはそれだけ自然にとって、そして人間にとっての環境全部が変わることを意味しているので、影響はかなり計り知れないものがあります」

●しかもそれが地球規模ですよね。

「そうですね。カナダのリットンっていう場所で、49度ぐらいの気温が記録されています。そこは夏場でも平均気温20度台なんですよね。そんなところで40何度っていう気温が記録されると、それは元々暑いところで、例えば中東とかで40度とかいくようなところで、49度を記録するのと全然意味合いが違ってきますよね。

 社会のインフラが全然対応できていないわけじゃないですか、そんなに熱くならないんだから普通。そうすると人に対する被害が発生する、熱中症だとかそういった病気にかかってしまう人も増えますし、健康的な被害もどんどん出てくるようになるだろうということが懸念されていますね」 

 このあと山岸さんには「COP 26」の解説をしていただきますが、その前に2015年に採択された「パリ協定」について、ちょっとだけおさらいしておきましょう。

 「パリ協定」とは1997年の「京都議定書」に続く、温暖化対策の新しい枠組みで、「世界の気温上昇を産業革命前に比べて2度より十分に低く保ち、できれば1.5度に抑える努力をする」という世界共通の目標が掲げられました。

 この目標に向かって、先進国だけでなく、途上国も含むすべての参加国が温室効果ガスの削減に取り組むという点で、この「パリ協定」は歴史的かつ画期的な枠組みといわれています。

「グラスゴー気候合意」3つのポイント

写真:WWFジャパン

※実は、COP 26が開催される直前に、国連環境計画がこんな発表をしました。それは、世界各国が温室効果ガスの削減目標を達成しても、今世紀末には世界の平均気温は産業革命前から2.7度上がるというショッキングな報告でした。

 山岸さんは現場にいらして、この報告を各国はどんな風にとらえていたのか・・・何か感じることはありましたか?

「やっぱりここ数年、危機意識の高まりがすごく大きくて、そのひとつは先ほども冒頭でお話があった異常気象が、本当に世界の色んなところで観測されるようになって、温暖化とか気候変動は将来の問題ですっていう雰囲気ではもうなくなってきたんですね。そこで起きているじゃないか! という危機意識が高まって、人的被害も結構発生しているので、どうにかせんとあかんという雰囲気は高まっていたと思います。

 今回の会議には多くの国が首脳クラスを送ったんですよ。日本で言ったら岸田首相、それが120カ国ぐらいが来ていたので、それはやっぱりすごいことですよね。それだけ大事な会議だっていう意識の表れだと思います」

●COP26では「グラスゴー気候合意」というものが採択されました。このグラスゴー気候合意にはどんなことが盛り込まれたんですか? 

「色んなことが書いてあるので、たくさん説明しちゃうと分かりにくくなるので、3つぐらいのポイントに絞ってお話しします。

 ひとつめが、世界全体のゴールがパリ協定にはあって、世界の平均気温を2度より十分低くっていうのと、それから1.5度に抑える努力を追求するっていう文言があるんですよ。有り体に言えば、2度に抑えるのが主目標で、1.5度はある種の努力目標みたいな書き方がされているんですね。

 なんだけど、今回の会議ですごく明確になったのは、やっぱり1.5度に抑えないとだめだよねっていうことに、国際的な合意がされたっていうことでした。グラスゴー気候合意はそういう1.5度の特出しみたいな書き方がされているのが、ひとつめのポイントです。

 ふたつめのポイントは、これもさっきお話ししたことに関わるんですけど、1.5度に抑えましょうっていう風に国際的になったのはいいことなんだけど、でもやっぱり現状の各国の対策は全然それに追いついていないと。だからもう1回強化をするために、来年も見直して持って来てよっていう指令が出たのがふたつめですね。

 3つめは、これは結構意外だったのが、日本の新聞でも話題になったんですけど、石炭火力発電は段階的に削減していきましょうねっていう文言が入ったんですね。国連の会議は各国の主権を尊重するので、普通あんまり国内の情勢について、国内で何をやるかっていうことについてまで、あまり書かないのが暗黙の了解みたいな感じなんですね。

 こういう風に石炭火力発電を、どうするみたいなことを指定して書くのは結構、国連会議としては異例の措置です。でも裏を返すと、今回のグラスゴー気候合意でそれが入ったのは、それだけ国際的に、さすがに石炭火力発電はもうやめていかないとだめだよねっていう合意が出来始めている証拠になりますね。この3つが大きな成果かなと思います」

石炭火力発電を削減!

写真:WWFジャパン

※気温上昇を1.5度にするために、各国にどんなことが課せられたのか、もう少し詳しく教えてください。

「これはやっぱりすごく大変な目標で、 本当に出来るのかな、出来ないのかなっていうレベルでの難しい目標です。端的にやらなきゃいけないこととしては、1.5度に抑えるためには削減目標を強化していかないといけないっていうのがあります。

 もちろん目標を強化するだけじゃなくて、それに伴ってやる対策も強化していかなきゃいけないってことですけど、今回のグラスゴー気候合意で言われているのは、先ほどのふたつめのポイント、来年までにもう1回、各国の2030年に向けての目標を見直してきてよっていう指令と言いますか、要請が出されました」

●温室効果ガスの排出をもう実質ゼロにしないと、1.5度には抑えられないんじゃないかって思いますけれども・・・。

「1.5度に抑えようとした時に、科学的に分かっていることは、1.5度に抑えようと思うと、世界全体の温室効果ガスの排出量、特にCO2の排出量を2050年までに事実上ゼロにしていかないといけないっていうことです。2度だともうちょっとあとでも、60年代から70年代でもなんとかなるかなっていうのが科学的な知見なんですけれども、1.5度にしようと思えば2050年にはゼロにしていかないといけないというのが分かっています」

●そして石炭火力発電ですけれども、なかなか国連の会議で話し合われることではないんですね? 

「そうですね。先ほど申し上げたように、特定の燃料を狙い撃ちにするのは、国連の会議自体ではあまりやりたがらないことなんです。なんだけれども、今回はそれでも敢えてやらなきゃいけないっていうことと、特に議長国だったイギリスがここは(グラスゴー気候合意に)入れたほうがいいと強く押したみたいで、それが功を奏したってところがありますね」

●やっぱり石炭の火力発電は二酸化炭素の排出量が多いっていうことですよね。

「ふたつポイントがありまして、ひとつはCO2の排出量を見た時に、やっぱり原因は化石燃料を燃やしていることなんですね。なんで燃やしているかってエネルギーが欲しいから燃やすわけなんですけれども、その燃やしている化石燃料の中でいちばんCO2の排出量が多いのが石炭なんです。これがひとつめのポイントです。

 ふたつめは、世の中の色んな部門を見た時に、いちばん排出量が多い部門、経済の部門ってどこなのかっていうと電力なんですよね。その電力はやっぱりいちばん排出量が大きい部分なので、対策をしていかなきゃねっていうのがコンセンサスなんです。

 だからいちばん排出量が大きい部門の、いちばん排出量が大きい燃料を、まずはどうにかしましょうっていうので、石炭火力発電はまず最初にやめていかないとだめだよねっていうのが、国際的なコンセンサスになってきていることですね」

●日本は火力発電に依存していますよね? 

「そうですね。特に震災で原発が止まって以降、火力発電に対する依存度が高まっていて、今でも多分30%近くが石炭火力発電ですね。エネルギー基本計画っていうのがあって、その中に書かれているんですけど、2030年時点でも19%ぐらい石炭火力発電はとっておこうっていう計画に今はなっているんです。

 これが国際的にはすごく評価が悪くて。というのは今回、議長国だったイギリスは、先進国は少なくとも2030年までに石炭火力発電はやめていこうぜっていう呼びかけをしていたんですね。そこにきて、日本は2030年までに19%まだとっておきたいですって言っていたので、国際的な感覚からズレてしまっているというのがありますね」

「パリ協定」ルールブック

写真:WWFジャパン

※もうひとつの成果として、温室効果ガスの削減量の国際取引を認める仕組みが採択され、「パリ協定」で採択されたルール作りが完成したと、WWFジャパンのサイトでも紹介されていましたが、これはどういうことなんでしょうか?

「2015年にパリ協定がまず採択されたあとに、パリ協定を実際に国際的な仕組みとして動かしていくために、もうちょっと細かいルールを整備する必要があったんです。大方のルールは2018年の、今から3年前の会議の時に合意出来たんですけど、まだ何個か残っていたルールがあったんです。

 そのうちのひとつというか、いちばん論争が大きかったのが、この国際的な排出量の取引を認めるっていうルールだったんですね。それが今回、何とかまとまったということで、とりあえずこれをもって、”パリ協定のルールブック”って、よく俗称で呼んでいましたけど、それが完成しましたねっていう評価になっていました」

●これは大きな成果ですよね?

「そうですね。これも期待している人たちも多かったので、それなりに大きな成果ということが言えます。何が大事かっていうと、ふたつぐらいポイントがあって、何のために国際的に排出量の削減量を取引出来るようにするのかっていうと、ひとつは各国が目標を達成しやすくするためなんですよ。国によっては、同じ1トンのCO2を削減しようとした時に、かかるお金、費用が違うんですよ。

 すでに色んな技術が進んでいる国、特に先進国でこれから1トン削減しようと思うのと、まだそういう技術が入っていない、先進国だと当たり前のような技術が入っていない途上国で、同じ1トン削減するのにかかる費用が違います。でもCO2の削減っていう意味でいうと地球全体のことなので、別にどこで削減してもいいじゃないですかっていう話があるんです。

 ほかの国で削減する代わりに、その削減した量をうちの国で、例えば日本の企業さんがインドネシアに出かけて行って、インドネシアで削減をする代わりに、そこで削減した量を、日本の目標の達成のために使わせてよと。そうするとインドネシアの側からしてみると、日本の企業が入って来てくれて、技術とお金を落っことしてくれるという利点があると。日本の立場からすると、日本で同じ量を削減するよりも安くあがると。そういう利点があるんですよ。

 だから目標を達成しやすくする仕組っていう意味でひとつめがあって、ふたつめは、今申し上げたような感じで、日本とインドネシアの間で協力が進みそうな感じがするじゃないですか。日本とほかの国、色んな国同士での協力を進めるみたいな意味合いがこの仕組みにはあるんですね。ただ、ルールをちゃんと作らないと大変な問題になるので、今回まで結構もめていたっていうことがあります」

残された課題は資金支援

写真:WWFジャパン

※COP 26では、課題も残されたと思います。そのひとつが先進国による途上国への資金支援だと聞きました。これは具体的にどういうことなんでしょうか。

「元々このテーマってすごく大きくて、先進国からしてみると、途上国にもっと頑張ってもらわないという思いがあります。特にここでいう途上国って中国とかインドとかも、いわゆる普通の文脈だと新興国って呼ばれるような国々も含めて途上国と、この交渉の分野ではいうので、そういった国々にも頑張ってもらわないと削減はままならないっていう思いがある一方で、途上国からすると、今の温暖化って基本的に先進国が引き起こしてきたので、その対処がすごく遅れに遅れてここまで来ている・・・アメリカの歴史なんか見ていると、それはすごくよく分かると思うんですけど、そういうのを見ている中で、何で俺たちにしわ寄せが来るんだっていうのが、すごくあるんですよね。

 その間を取り持つ議論として、途上国に対する資金支援がすごく大事なお話になっていて、今からもう10年以上前の2009年に、段階で先進国から途上国に総額で公的なお金も、それから民間のお金も合わせて2020年までに、1000億ドル資金の流れを作りますよという風に約束をしているんですね。

 これがどうやら達成出来なそうだっていうのが分かっていまして、現状で大体800億ドル弱しかいってなくて、トータルで1000億ドルには届いていないんですよね。なので、途上国の側からからしてみると、いやいや、約束が違うじゃないかっていう話になっているのがひとつ大きな問題です」

COP27の展望と、ユース世代の台頭

※次のCOPは今年エジプトで開催されることになりました。このCOP27に期待することはなんでしょうか?

「はい、COP27はさっきもちょっと申し上げたように、もう1回、各国が削減目標を持ってくるっていう一応約束にはなっているんですよね。そこで、どれくらい積み増し出来るのかを、引き続き見ていかなければいけないことかなと思います。

 日本も、例えば今年、削減目標を1回積み増ししているんですよね。元々、2030年までの日本の温室効果ガスの排出量の削減目標は、2013年と比べて26%削減しますっていう目標だったんです。これを46%削減にしますと菅前首相はアナウンスをされて、実際に国連に提出されています。

 もうひとつ、その46%には但し書きみたいなものがあって、出来れば50%の高みにチャレンジしていきますというような付け足しみたいのがあるんです。努力目標みたいな奴がね。なので、その50%の方向にどれくらい近づけていけるのかっていうのが、まずひとつは課題になるのかなと日本的にいうとあります。

 ほかの国でも、削減目標をちゃんと積み増していくことが大事ですし、それはもうアメリカやヨーロッパの国々みたいな先進国だけじゃなくて、中国とかインドに対しても必要なことで、世界全体で削減目標を積み上げて、何とか1.5度の希望が消えないようにしていくのが、COP27の大きな課題かなと思っています」

写真:WWFジャパン

●山岸さんは、長年COPの現場に行かれて、気候変動の問題もずっと見てこられたと思うんですけど、山岸さんとしては今、どんな思いがありますか?

「そうですね。やっぱりふたつ相反する思いがありますね。昔から言ってきたけどまだ不十分だなっていう思いと、他方でようやくここまで来たなっていう思いと、ふたつあります。
 なるべく希望を持っていただきたいので、後者をちょっと強調して言うと、過去2〜3年の日本の流れを見ていると、ずいぶん変わったなって思うんですよ。何でかって言うと、それこそパリ協定が採択された2015年の段階から、CO2の排出量をゼロにしましょうっていう話って結構あったんですよ、その当時から。

 でも、そんなの絶対無理だよ! っていう雰囲気がやっぱり世の中には多かったんですね。今は、まあ今でも無理だよって人は多いですし、実際無理だなって思っている人も多いと思うんだけど、”脱炭素化”っていうキーワードによく表れているように、とりあえずここを目指さないといけないよね! っていう雰囲気はだいぶ、特に大きな企業さんの間では広まってきています。それは本当に隔世の感がありますね。

 あとは、若い人の台頭が日本でも見られるようになってきたのは、結構希望が持てるなと思っています。今回のCOP26も若い人が、ユースの方々が何名か、すごく来にくい状況下に関わらず(会場に)来ていたんですよね。で、一生懸命、日本の若者として他国の若者と連帯してメッセージを出していて、岸田首相にお手紙を届けたりとか、そういうことを一生懸命やっていらっしゃいました。

 そういう新しい力が、この分野にも流れ込んできているなっていうのはすごく感じるので、そういう意味で言うと、ようやくここまで来たねって、まだまだ希望は捨てられないねっていうのが、18年間くらいかな、このCOPの流れを見てきて、国連気候変動会議の流れを見てきても思うようになりました」

☆この他の山岸尚之さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

 COP26については、WWFジャパンのサイトに詳しく載っています。  ぜひご覧ください。また、WWFジャパンでは、活動を支援してくださる会員、そして寄付を随時募集しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎WWFジャパン HP:https://www.wwf.or.jp

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