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「波の裏側」を撮る〜海伏「杏橋幹彦」

2022/2/27 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、波の裏側を撮るワン・アンド・オンリーな写真家「杏橋幹彦(きょうばし・みきひこ)」さんです。

 杏橋さんは1969年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東オーストラリアでライフセービングのブロンズメダルを取得後、いろいろなレスキュー法を学びます。そして、人は海にシンプルに向かうべきだと感じ、酸素ボンベを付けずに海に潜り、波の裏側をファインダーをのぞかずに直感だけで撮っています。神秘的な写真は海外でも高く評価され、集大成的な作品『BLUE FOREST』は2016年に伊勢神宮に奉納されています。

 きょうはノーファインダーで撮る奇跡のような作品のことや、海に対する深い思いなどうかがいます。

☆写真:杏橋幹彦

写真:杏橋幹彦

命を賭けて

※それではお話をうかがっていきましょう。オフィシャルサイトで作品を拝見して、その神秘さに驚きました。サイトに掲載されている写真は全部、波の裏側をとらえた写真なんですよね?

「はい、酸素ボンベを使わずに泳いで波の中に行きます。片手にカメラを持って、使うのは水中眼鏡とフィンとカメラだけと、至ってシンプルな3つの道具だけで撮っています」

●そもそもどうして波の裏側を撮ってみようと思われたのですか?

「私の師匠はモデルとか車を撮っている人で、まあ大胆な人でね〜、”お前、写真なんか見ないで人の魂をつかめば”みたいな人でね。師匠のまた師匠が、ユージン・スミスで戦場カメラマンだったんですね。
そんな彼らの写真をずっと見ていて、若い時に俺の写真には奥のものがないな、薄っぺらだな、なんて思った時に、これは、ユージンたちのように命を賭けて何かをやらないと写らないんじゃないかと思ったんですね。

 自分にとって命の駆け引きができる場所、そして人は絡めずに僕個人、杏橋幹彦として純粋に対峙できる場所はどこだろうと、ふと思った時に、きっと海だと。思い切って全てを捨てて、命を賭してやった時に、何か写るんじゃないかと思ったんです。そんな動機から、思ったらすぐ実行でひたすら・・・約20年前かな。海に踏み込んだんです」

杏橋幹彦さん

●海に対する恐怖はなかったですか?

「いや〜今もありますしね、これは消えないです。怖い思いって不思議なもので、未だにどこかに蓄積されちゃって抜けきらないです。経験が邪魔をする時もあるし・・・。
 面白いものである時、禅の本に”全てを捨てろ”って書いてあったので、その時持っていたクラシックカーも全部泣く泣く売って、何かこの世にもう未練がないようにと・・・。海に頭を下げて、本当に低いところからお願いしますということで、何が撮れるか分かりませんから。

 今でこそ、こんな偉そうに喋っていますけれど、あの(波の裏側の)写真を見たこともないし、撮った人もいなかったので、撮れて日本に戻って現像して、あれが写って光った時に、現像所が大騒ぎしたんですよ、何を撮ったんだと。実は泳いで波を撮ってみたんだと・・・。
 人間の目って実は補正してしまって、本当の色ではないんですね。皮肉なことに人間が作ったカメラが、実は俺たちが見えていないものを写し出すんだってことも知りましてね。まあ海から色々教わっているわけです」

●酸素ボンベを付けずに、海に出るんですよね?

「付けたこともあるんですけど、付けると何分後に帰らなきゃいけないとか、誰かと行ってくださいとか、人間界のルールと制約と都合、そういったものを海に押し付けたりすることになるし、海にとって魚に対して、ストロボを当てて、すごくすごく失礼なことをしたと、僕は思って懺悔したんですよね、ごめんなさいと。

 俺はひとりで海に裸で行きますので、どうか海の神様か何か分からないですけど、守ってくださいと、ただ生き死には頼みませんと。ここから先はもう無情の世界なので、行くだけ頑張って行きますけど、何か写ればありがたいですと。そういうスタンスで、未だに海で色んなことをして撮っています」

写真:杏橋幹彦

真実を写す

※波の裏側をファインダーを覗かずに撮るんですよね?

「うん、覗かない。余談だけど、僕は色々写真を撮ったんだけど、写真家じゃないなと思ったりもして・・・あとで言うんだけど、”海伏”って名前を付けたりとか。

 撮っているものは今は波と人。波と人は波動で実は同じなんですね。来る前を予測して、位置が大事なんです。波の中もそうですけど、そんなに早く魚のように動けないじゃないですか。ですから予測して予測して、ちょっと前にそこに入り込んだ瞬間に(シャッターを)押してないと、見てからじゃ遅いんですよ。見てからではもう行ってしまうので、来る前に押す、ないものを押す、ないものをつかむ。

 例えば、皆さんが手でコップをつかむのを、僕は手を出すと手の中に入っているというか、変な言いかたですが、時間の使いかたがちょっと違うのかな・・・。これはちょっと変な話だけど、そういった意味で先に押していないと、(波は)早すぎるので見ても撮れないと思います」

●へぇ〜〜! 

「で、写真に入り込んでくる。結局写しているけれども、僕の感覚だと、あ、写っちゃったって感じなんですよ。両目で見て何かを感じて押しているのは、今でも忘れないし、必ず、はっ! って思わない時は押してないです。ファインダーを見ないので、超感覚的なこと。
 人間は五感ではなくて十感、二十感、五十感、百感って僕はあると思うんですね。それが、地球や宇宙の声を聞けないような、水槽みたいな暮らしをしていると、弱っちゃうんですよね。

 そういったことも研ぎ澄まして、自己満足もあるんだけども、気づかせてもらうことの大事さも泳ぐ度に教わります。
 ですから(ファインダーを)見ない。見ないし、人間の恣意、思惑、よく撮ってやろうとか波をこうしてフレームに入れてやろうって思うと、きな臭い写真になっちゃうんですよね。上手すぎる写真っていうんですか。

 だから写真ってすごいもので、”真実を写す”ってよく作ったなって思うんですけど、自分も気づかないような本物、魂、やっぱり本物しか写らないですよ。嘘をつくのは人間で、写真は一切嘘をつけませんから、そこに賭けているんですよね。だから俺、動画とかやりませんよ」

●一期一会というか、同じ写真は二度とないっていう感じですね。

「波も同じものはないし、撮れたら撮れた、撮れなきゃ撮れないで、そもそも撮れるような状況じゃないんです。片手で泳いで撮っています。水中で回転して撮るんで、(撮れたら)奇跡ですよね」

写真:杏橋幹彦

編集部注:杏橋さんの写真をオフィシャルサイトでぜひ見てください。波が崩れて泡立っているところを、裏側から撮っている写真が多くあります。言いかたを変えると、波がどこで崩れるか、それを直前に感じないと撮れない写真ばかりなんです。研ぎ澄まされた感覚がある杏橋さんだからこそ撮れる写真だと言えます。

☆杏橋幹彦オフィシャルサイト:http://www.mikihiko.com/

https://www.umi-bushi.com/

山伏ではなく、海伏

※先ほど、ご自分のことを山で修行する山伏(やまぶし)ならぬ、「海伏(うみぶし)」だと表現されていましたが、この海伏と名乗るようになったいきさつを教えてください。

「撮る時に、本当にお辞儀して祝詞を読んで小さな貝を吹いたり・・・それは最初からやっていたわけじゃないんですけど、色んな人に教わって、海に戻るおまじないのような・・・それこそ、いまだに忍者の呪文も唱えています。

 目に見えない力を借りないと、人間の力も心の許容も超えた場所に行くので、それには古来の人々が何か祈っていたことを取り入れさせていただいたらいいんじゃないかなっていうことで・・・僕は感じて、忍者の呪文とか、色んなことを、怪しいんだけど、取り入れてやっています。

 その中で、ある山伏に山に行ったり色んなところで会うようになった時に、自分たちと実は同じことをやっているなっていう老齢な山伏のおじいさんがいたり、僕に山伏の仲間にならないかって誘ってくださったかたも実際いらっしゃいました。

 その時にふと思ったのが、僕は海に対してまだ勉強中だし、色んなことを祈り続けるので、払い清めるというか、役目があると思うんです。私は皆さんと一緒に今できるレベルでもないんですと。

 そうではなくて、”海伏”って今思ったんですけど、海伏と言ってよろしいでしょうかと。海伏として海で、この宇宙を祈っていきたいと思うんですが、どうでしょう? って言ったら、面白いから、お前それはやりなさいと、そう言われました。

 僕が作った言葉なんですけど、山に伏せる、海に伏せる、彼らは山を宇宙と見て、命、水、その全ては山から生まれ、山に返る・・・おそらく古来には世界的に見ても海を祈っていたかたはいると思うんです。日本人もそうですけど、何か海に対して、義理を通して、胸を借り、思いを伝え、海と対話して、感謝を捧げる、じゃないけど、そういったイメージで、僕は自分を写真家ではなくて、海伏と呼ぶようになったんですね」

写真:杏橋幹彦

海は何かを返してくれる

※杏橋さんは、やはり子供の頃から海に親しんでいたんですか?

「茅ヶ崎で生まれ育ったんだけども、親父たちが山口県のほうで、おじいさんも山登りだったり、スキーだったりとか、僕の周りに大自然で遊ぶことを本当に心から楽しむことを知っていた大人たちがいたんですよ。
 子供ってやっぱり、入り口がないと行かれないじゃないですか。そういう大人たちが限られた休みの間に、どこのいちばんいい海に行ってやろうかなって考えたら、そりゃいい海に連れて行ってくれるわけですよね。

 面白いもので、魚が好きだったから、砂場に興味なかったので、海の家を使ったことはなかったですよ。岩場でずっと網を持って魚を捕まえて、一日中、海で遊んでいたっていう少年時代です。網がやがて釣竿になって、水槽で魚を飼ってみたり、色んなことしたけれども、飼われているのは俺で、あの魚は飼っていないんだとか、色んなこと思うわけですよ。

 例えば皆さんの家の、いいとか悪いとかではなくて、イカした植木鉢を置くじゃないですか。あれはやっぱり自然が恋しいから置くんだよね。いいことだと思う。いいことだと思うけど、フィジーの人は置いてないから、家の中に。なぜなら家の周りは木です。当たり前の話だよね。目の前に海があるハワイの人は、水槽で魚は飼わないですから」

●なるほど〜! 

「都会人には、やっぱりそういった宇宙観とか、自然観が必要なんですよ、結局は」

●自然を求めているんですね。

「うん、自然を求めるっていうのも、そうだけども、則して生きるしかないし、お互いが必要なんだと思う。ただ、お互いのバランスが崩れて、人間側だけのように見えちゃっているし、そういう暮らしになっているんですよ」

●ず〜っと海にいらして、どんなことを海から感じていますか?

「う〜ん、まだまだ・・・例えば1年後2年後にお話したら、色んなことを言えるかもしれないけど、今の僕として(言えるのは)海は生きている、間違えなくこっちを見ていて、礼を尽くすことを知っている、こちらから本当に海に対して気持ちを伝えれば、海はきっと何かの形で返してくれるでしょうね。

 おそらく海のエネルギーは、人間の体内の成分と同じっていうように、浄化力と言っては変だけれども、身も心もクリーンにする何かがあるんだとは思います。それは永久に生涯、分からなくていいことで・・・分からなくていいんですよ。今、人間は何でも知ろう、分かろう、手に入れようとするけど、そういうもんじゃないから。

 刻々と変わる海や風のように、そこにまず行くこと。行った者にしか分からない感覚。そしてある日、海のこととか、色んなこと、大事だなとか、綺麗だなとか、怖いなと・・・。
 そう思った時に、目の前に落っこちていた缶カラでもいいから、ポケットに一個入れて、その程度でいいことなんだよね。ビーチクリーンがどうではなくて、まず自分の心で本当に思った、心理の言葉っていうか、自分で本当に思った純粋な気持ちを海に伝えておけば、海はきっと人それぞれの形に何か返してくれるものではないかなと思ってます」

青い波の襖絵に心震える

※現在、京都の禅寺「西陣 興聖寺(にしじん・こうしょうじ)」の本堂で、杏橋さんが2002年にフィジーの離島で撮った、青く美しい波の裏側の写真が、全長14mの襖(ふすま)となって特別公開されています。

写真:杏橋幹彦

 このお寺で杏橋さんの作品が襖絵となって公開されるまでには、京都の知人と、お寺の住職、そして特別な技を持つ職人さんとの出会いがなければ実現しませんでした。不思議なご縁が導いた奇跡かも知れません。

 杏橋さんが、襖絵の並べ方に関して、こんなお話をしてくださいました。

「いちばん左と右は、実は同じコマで、僕は最初連続した3枚で時間軸を表そうって言ったんですよ。波は、皆さんが思うのは、ものという波。波というものは最初からなくて、うまく言えるかどうか分からないけど、水素がくっついては離れてを繰り返すドミノ倒しのような動きで、波動とエネルギーなんですね。

 よく見ていると、沖の波は一滴も岸には来ていないです。極端なことを言うと。お風呂で洗面器があって手で波を作ったら、波は来るけど、洗面器は動きませんから。来ているのは波動なんですね。

 フィリピンで発生した風は台風になるけど、日本にはフィリピンの風は一滴も入っちゃいないし、うまく言えないけど、あるものはある、ないものがない、そんな禅問答みたいな姿が実は波のありようです。

 ですから、僕は時間軸を表そうと思ったんだけど、住職が真ん中はこの写真にしたいって選んだのが今の写真で、実はそれは写真集の表紙に使って、伊勢神宮にちょっと前にご奉納させていただいた写真でもあるんです。あえて斬新な、左右は同じ時間に撮った1秒後だけど、真ん中だけは同じ場所だけど、日にちの違う波をそこにやって、何故か妙な一体感が生まれました」

●襖になった写真を見て、いかがでしたか?

「やっぱり、まずはこういう場をいただけたのがすごかったなと。皆で心震えましたよね。自分たちが感動して心震えないと、人には伝えられないっていうのが根本じゃないですか。皆さんも同じようなお仕事されているので、そこがまず本当に嬉しかったし、すごいな〜って。自分たちで自画自賛じゃないけど、心震えてびっくりしていましたね。

 あとひとつ感じたのは、所詮俺の命は、なんとか海から戻ってきても60年から80年です。
 そのお寺は”古田織部(ふるた・おりべ)”さんという茶人と、”曾我蕭白(そが・しょうはく)”という江戸時代の画家の菩提寺でもあるんです。人々の評価や色んなものを気にせず、利休のわびさびの中から、人をもてなすという茶道、器に花鳥画を描いたり、様々なことをして楽しんでもらおうと、自分の中の美意識を貫いた人たちの菩提寺。

 そこに数百年後、斬新な青い海が現れたっていうのも、彼らが何か後ろで背中を押してくれたのかもしれないし、彼らに対しても、供養っていったらおこがましいけど、現代でも皆さんの意思を引き継いで、鼻垂らして頑張っている者がいるんです。本当にありがとうございますと、そんな風に思いましたよ」

☆この他の杏橋幹彦さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

写真:杏橋幹彦

 ぜひ杏橋さんの作品をオフィシャルサイトでご覧ください。水と光と影が織りなす不思議で神秘的な写真に圧倒されます。見ていると空にも宇宙の銀河にも見えてきます。見えかたが違うのは、その時の自分の心象風景なのかもしれません。

◎杏橋幹彦オフィシャルサイト:http://www.mikihiko.com

https://www.umi-bushi.com/

 現在、京都の禅寺「西陣 興聖寺」の本堂でフィジーの離島で撮った、青く美しい波の裏側の写真が、全長14mの襖となって特別公開されています。この襖絵は普段は非公開です。会期は3月18日まで。詳しくは京都市観光協会のサイトをご覧ください。

◎京都市観光協会 :
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=5636

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