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台風の制御に挑む!〜災害をゼロに、そして台風発電

2022/3/27 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、台風研究の第一人者、横浜国立大学の教授で、気象学者の「筆保弘徳(ふでやす・ひろのり)」さんです。

 筆保さんは1975年、岩手県生まれ、岡山県育ち。現在は横浜国立大学・教育学部・教授。専門は気象学。そして、気象予報士でもいらっしゃいます。

 筆保さんがセンター長を務める「台風科学技術研究センター」は台風を専門に研究する機関で、海外ではアメリカや中国、フィリピンなどにはあるそうなんですが、実は日本では初めてなんです。このセンターには、台風観測、台風発電開発、地域防災など、全部で6つの研究ラボがあり、大変注目されています。

 きょうは、台風を制御するという夢のような計画に挑む筆保さんに台風研究への思いや、台風のパワーを発電に利用しようという、壮大なお話などうかがいます。

☆写真協力:筆保弘徳、台風科学技術研究センター

筆保弘徳さん

台風研究、半世紀前の試み

※台風の研究をされているということですが、人間が台風をコントロールするなんて可能なんですか?

「コントロールというと、ちょっと語弊があるんですが、台風の勢力を少しでも弱めたいっていう目的のもとで、そういう研究を始めています。実際に我々が台風を制御したい、台風の制御をやると言ったのは、最初だったわけではなくて、筆保が突拍子もないことを言っているなっていうことではなくて、実は1960年頃に、アメリカがもうすでにやっています。

 半世紀前に、アメリカなのでハリケーンになるんですけど、ハリケーンの制御を試みています。実際にプロジェクトも立ち上がって、約20年くらい続いて、ハリケーンをどうやったら制御ができるか、実際に記録上では4つのハリケーンに航空機で接近して、制御できるかという介入を少しやっています」

●具体的にどんな方法で台風を制御するんですか?

「どうやったら制御が出来るかっていうのは、考えなければいけないところなんですが、アメリカが半世紀前にやっていたのは、ドライアイスとかヨウ化銀っていう物質を航空機で近づいて撒く。で、撒いた後、台風の構造が少し変わることで、勢力が少し弱まるっていうやりかたです。ただ、その時の制御のやりかたもあまりよくなかったのか、いろいろ大きな壁があって、制御研究自体は中断しています」

●ではまだ叶ってはいないという段階なんですね。

「そうですね。半世紀前は。そして、その時できなかった理由がふたつあって、ひとつは半世紀前なので、台風の制御というよりも、台風がどういうメカニズムを持っているか、そもそもの現象として、台風をよく理解できていなかったっていうのが壁でした。

 もうひとつは相手が台風という自然なので、例えば、台風になにか人為的な介入をして、台風の構造が変わったり、勢力が弱まったり、進路方向が変わったりしたとしても、それが人間が介入をしたせいなのか、何もしなくても変化したのか、分からないっていう大きな問題があります。
 効果判定というんですけども、その効果判定とか、制御方法とか、そういうのが半世紀前にはしっかり分かっていなかったのが中断した原因です」

●それから半世紀たった今、さらにいろいろ進化していますよね?

「昔できなかったことが、いろいろできるようになりましたし、我々も台風がどういった現象なのか、発生や発達のメカニズムがよくわかるようになってきました。そして、その昔できなかったこととして、どうやったら制御できるかも大事なんですけども、効果判定が、まずできるようになったと。

 スーパーコンピューターなどの新しい計算機技術が本当に発展したおかげで、台風を、より現実的にリアリスティックにシミュレートできるようになりました。で、シミュレーションコンピューターの中で作った台風に、人為的に介入した場合と、しなかった場合を比較することで、台風の効果判定がしっかりわかるようになったというわけです」

(編集部注:ここで台風発生の仕組みを、ごく簡単に説明しておきましょう。太陽の熱で温められた海水が水蒸気となり、渦を巻きながら上昇し、上昇気流が発生。そして上空に行った水蒸気は雲となり、その雲はやがて積乱雲となって、さらに発達し、台風になるとされています)

台風からエネルギーを奪う!?

写真協力:筆保弘徳、台風科学技術研究センター

※筆保さんがセンター長を務める「台風科学技術研究センター」の研究ラボの中に、「台風発電開発」というラボがありますが、これは台風で発電するっていうことですか?

「はい。実はそこは台風の制御研究と繋がるんです。まず台風はエネルギーの塊って言われているんですけども、大体どれくらいのエネルギーを持っているか分かりますか?」

●いやぁ〜ちょっと想像つかないですけど・・・。

「例えると、世界中で作るエネルギー、具体的にいうと何日分の電気をひとつの台風は作りだしていると思いますか?」

●何日分ですか〜、2日とか3日とか?

「お、いいですね。答えは、約30日分です」

●30日分!! え〜そんなにパワフルなんですね!

「すごくパワフルです。もし台風ひとつのエネルギーをまるまる使えたら、世界中の1ヶ月分のエネルギーになるというのを試算しました」

●すごいですね! 実際に台風の膨大なエネルギーを利用しよういうわけですか?

「利用したいと思ってはいます。制御をするってことは、その膨大なエネルギーを少しでも奪うっていうことで、奪うんであれば、ぜひ我々の、人類の活動に使いたいなっていう目的になります」

●どうやってそんなことができるんですか?

「これもまだ今、考えているところなんですけども、我々のチームのひとりが10年前くらいから提案していたものは、船を使って発電をすることです。
 今よく話題になっているのは風力発電で、しかも洋上風力発電。海岸沿いの風が強いところの陸地に建てている風力発電用のプロペラを、海の上に建てればいいっていう話で発展しているんです。(船を使った発電は)それに近いんですが、風力を使うって言いながら、ちょっと違います。

 台風が来た時に風力発電は、ものすごく風を受けるので、くるくるくるって回っているプロペラは実は止めたり畳んだりしています。風を強く受けすぎて回転が速くなればなるほど、遠心力などでプロペラが壊れてしまうので、実は台風が来ている時は風力発電をしないのが普通です。

 我々の考えているのは、台風に船で近づいて、その船はヨットみたいな形で台風の風を受けて進む、推進力として進んで行くと。そして水中にあるスクリュー、プロペラを使って発電するっていうものになります。

 強い風を受けてそれで発電するわけじゃなくて、船を動かすだけ、推進力を使うだけなので、船は動くと。動くことで前から来る海の流れを使って発電をすれば、常時、発電できるんじゃないか、というのを提案しているのが、うちのチームにはいます」

●へぇ〜〜! 

「先ほど言った洋上風力発電に近いんですけれども、洋上風力発電は難しいところがいくつかあります。それは、作った電気を日本に持ってくるというか、送らなければいけないんですね。そうなると、海のほうからケーブルを引っ張って、電気を送るしかないんですが、すごくコストがかかるんですよ。

 台風発電は、船で発電しながら船の中に電気を溜める。もうひとつ大変な送電も船でやることで、船がその電気を運ぶ。本当に必要な所に電気を運んで行けるのが、船を使う大きなプラスになるところです」

運命の台風、プレッシャーディップ!?

※筆保さんは、高校生の頃から気象や風に興味を持ち、岡山大学に進学後も気象研究室で活動していたそうです。そして大学4年生のときに恩師から、調査・研究のために一緒にチベット高原に行かないかと誘われ、すでに就職先が決まっていたそうですが、その場で「行きます!」と即断。
 その後、大学院に進学するわけですけど、筆保さんの気象学人生はこのとき、決まったんですね。ちなみにチベットに行ったのは何年だったんですか?

「1998年なんですけど、『セヴン・イヤーズ・イン・チベット』っていう映画を小尾さんは知っていますか?」

●いや〜知りません・・・。

「ブラッド・ピットが主演の映画で、チベット高原で暮らすみたいな話なんですけれども、それをチベットの観測に行く前に僕は観ていて、もう気分はブラッド・ピット!」

●あははは(笑)

「で、チベットに行ったら、そこには本当に青い空があって、広大な自然があったんです。そして、大きな自然をなんとかつかまえてやろうという気象学者の先生方がいて、それを見て憧れて、僕は気象学者になりたいと思ったのが、大学院1年生でした」

写真協力:筆保弘徳、台風科学技術研究センター

●チベットでは具体的にどんな研究されたんですか? 

「チベットでは、僕の師匠は空と地面の間がどうなっているかを研究する研究者でした。なので、僕もそれを手伝っていました」

●台風の制御をしようという発想はどこから・・・?

「台風の研究者になろうというのは、僕も周りも全然思っていなかったんです。チベット高原に降りて、観測したデータを解析しながら、自然の中で観測をしている、気象学者の中でも観測屋ってその頃、言われていたんですけれども、観測屋になりたいなって思って、気象測器を恩師から借りて、色んなところに持って行っては観測をしていたんです。

 岡山県と鳥取県の間に、那岐山(なぎさん)という山があって、そこから南側の岡山方面に吹くおろし風『広戸風(ひろとかぜ)』という風があるんですけれども、その広戸風を観測したいと思っていました。
 高校の時、気象に興味があるって言ったのは、その広戸風を偶然、たまたま父親の車に乗っていた時に出会い、気象が楽しくなったので、これは観測したいなって思って、恩師から気象測器を借りて観測をしていました。それが98年で、何回やっても上手くいかなかったんですね。広戸風は滅多に吹かなくて、台風が和歌山県を通る、決まったルートの時にしか広戸風は吹かないんですよ。

 台風が日本に接近する度に、測器を持って山頂に上がっては、台風が全然思った方向に近づいてこなくて、観測失敗ばかりをしていたんですが、僕にとっては運命の台風、98年の台風10号が10月16日から17日にやって来たんですよ。

 その台風で広戸風が吹くかもしれないと思って、測器を設置していたら、和歌山のほうに行かずに、逆に我々が観測していた那岐山のほうにやって来たんですね。和歌山に直撃して大きな被害が出たんですけども、測器は無事でした。

 気象測器の観測データを見ると、台風の内部の珍しい現象を観測していて、これは面白いと思って、台風の研究を始めました。だから本当に偶然というか、たまたまというか、それが台風の研究の始まりです」

●それで今に至るわけなんですね。

「そうですね。あの時は台風の制御をしたいとか、そういうんじゃなくて、単純にたまたま、出会い頭だけれども、台風がやってきて観測した”プレッシャーディップ”っていう現象、それが何なのかを調べたいっていう、その知的好奇心だけでやっていました」

(編集部注:「広戸風」は那岐山の南側にある狭い範囲に吹く局地的な強風のことで、風速50メートルを超えることもあるそうです。筆保さんが1998年に観測に成功した現象「プレッシャーディップ」は台風に伴って発生する、気圧が突然、急降下する珍しい現象だそうです)

筆保弘徳さん

台風は生き続けられる!?

※温暖化によって、年々、台風が大きくなっているように感じているかたも多いかもしれませんが、巨大化しているか、どうかは、まだ研究中だそうです。ただ、本来なら、台風は北上して日本に近づいてくると、日本近海の海面の水温が低いことなどから、勢力は弱まるそうなんですが、最近は弱まらずに北上してくる傾向にあるとのことです。ちなみに台風の平均寿命はどれくらいなんでしょうか?

「それもすごくいい質問で、気象庁が発表している平均は5日間なんですが、台風の寿命には実は定義があります。熱帯で発生する低気圧の渦があって、それが弱かったらまだ台風ではなく、最大風速17メートル超えた瞬間に台風ですよと定義をしています。
 その逆で今度は台風の渦が弱まっていったら、台風ではなくなりましたよっていうこの期間を台風の寿命としています。でも、現象としては実は風速17メートルなる前から渦はあるんです」

●なるほど。

「だから、実は台風の寿命は5日間の平均よりももっと長いです。10日以上あると思います」

●そうだったんですね。

「はい。なので実は僕は、台風がほかの自然現象に比べて、非常にサイズにしては長寿な渦巻きだと思っています。で、小尾さんが今すごくいい質問をしたと思っていたのは、先ほど台風のエネルギーは無茶苦茶あるって言ったじゃないですか。

 人間が作り出す世界中のエネルギーの約1ヶ月分って言ったのは、そこの長寿がカギで、ほかの自然現象のエネルギーも見積もったんですけども、まあせいぜい1日いくかいかないかくらいなんですよね。だから台風は30倍もあって、すごいエネルギーを生み出す、空飛ぶ発電所みたいなものなんですね。

 彼が、台風を彼っていうのも変ですが、彼がそんなにエネルギーを作り出せるのは長寿だからです。台風はエネルギーを自分でどんどん作り出して、10日くらい寿命があって、なんでそんな寿命を持っているかっていうと、自分でエネルギーを作り出せるからなんですね。

 エネルギーを作っては放出をしているんだけれども、そのうちの一部は自分が次の瞬間にもう一回生きられるように自分にエネルギーを使っているんです。だから、台風はエネルギーをたくさん生み出しながら、外に放出しながら、持続的にエネルギーを自分に返しているので、もしもマイナスの影響、つまり上陸したとか風に流されたっていうことがなければ、台風は生き続けられます」

●すごいですね! 台風の威力って。

「威力もありますし、そのメカニズムですよね。そういうのを自己発達型っていうんです。台風は自分で自分を育てられるっていう・・・なので、先ほど言ったようにエネルギーは1ヶ月分だっていうことになります」

どこでも台風、だから防災

※今後の台風研究は将来、私たちの生活にどんなことをもたらしますか?

「直接的な影響や間接的な影響あると思うんですけど、本当に最近の台風を見ていると今まで来なかったようなところも台風が来るようになったなと。僕は岡山出身ではあるんですけども、岩手県生まれなんですよね。
 東北地方の特に岩手県は、台風なんて全然来ないところで、台風よりも津波の方が心配だった地域なんですよね。それが台風10号がやって来て、岩手県に上陸したんですよ。

 本当に過去半世紀、僕の教え子が100年前まで調べているんですけども、100年間通しても台風が岩手県に上陸したことはなかったんですよね。それが上陸してしまって・・・勢力はさすがにもう弱かったにも関わらず、岩手県では大きな被害が出てしまったんですよね。

 岩手県の人たちもびっくりしたと思うんですよ。台風がうちに来るなんて・・・そういうところに台風が来ると、勢力が強い台風が来て、台風に対して強い防災意識があるところよりも、弱い台風がまったく台風に関心がないところに来るほうが、大きな被害が出るんだなっていうのを実感しました。

 日本に住んでいる以上、台風はどこにでもやって来ると思ったほうがいいと思います。台風の勢力に関わらず、台風による研究、台風の防災に対しての新しい技術開発っていうのは、これからどんどん求められると思います」

(編集部注:台風10号が岩手県大船渡市に上陸したのは、2016年8月のことで、太平洋側から直接、東北地方に上陸、気象庁が統計を取り始めて、初めてのケースだったようです)


INFORMATION

「台風科学技術研究センター」

 台風を制御する研究は始まったばかりですが、筆保さんは少しでも台風の勢力を弱められれば、被害が減る、そして将来的には被害をゼロにする、そんな思いで取り組んでいらっしゃると思います。筆保さんがセンター長を務める日本初の台風専門の研究機関「台風科学技術研究センター」にぜひご注目ください!

◎台風科学技術研究センター HP:https://trc.ynu.ac.jp

横浜国立大学「そらの研究室」

写真協力:筆保弘徳、台風科学技術研究センター

 筆保さんの「そらの研究室」では、学生さんたちと毎日夕方4時に屋上で空や雲を観察、その日の「空当番」が明日の天気を予測し、その予測が当たったのか、外れたのかを半年記録するそうです。筆保さんいわく、天気図だけでなく、毎日、目の前の現象を見ることが大事だとおっしゃっていました。

 そして、教え子には「気象予報士」の資格を取ることを勧めているそうです。その理由として、例えば、初対面の人とお話するとき、「きょうはお天気いいですね〜」と天気の話になることが多い、そして、特に就職の面接時、履歴書の資格欄に「気象予報士」と書いてあるだけで、話が盛り上がる。つまり「人生に役立つよ」ということでした。

◎「そらの研究室」:http://www.fudeyasu.ynu.ac.jp/

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