毎回スペシャルなゲストをお迎えし、自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。
生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで幅広く取り上げご紹介しています。

Every Sun. 20:00~20:54

プレゼント、ゲスト・・・盛りだくさんな1週間
プレゼント、ゲスト・・・盛りだくさんな1週間
2022年6月のゲスト一覧

2022/6/26 UP!

◎柴田佳秀(科学ジャーナリスト)
「ハト」の知られざる世界 〜驚きの能力と、人とのつながり』(2022.06.26)

◎鈴木晶友(セーリング・チーム「MILAI」のスキッパー)
5万5千キロ! 世界一周ヨットレースへの挑戦!〜30年間、抱いてきた夢を追い求めて』(2022.06.19)

◎渡辺裕美(秘湯探検家)
ソロ秘湯、お湯も絶景も独り占め!~秘湯探検家の悦楽』(2022.06.12)

◎前田せつ子(ドキュメンタリー映画『杜人〜環境再生医 矢野智徳の挑戦』の監督)
ドキュメンタリー映画『杜人』〜大地の再生に挑む孤高の造園家「矢野智徳」』(2022.06.05)

「ハト」の知られざる世界 〜驚きの能力と、人とのつながり

2022/6/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、科学ジャーナリストの「柴田佳秀(しばた・よしひで)」さんです。

 柴田さんは1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業後、テレビ・ディレクターとして、「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」などの自然番組を数多く制作。2005年からフリーランスになり、本の執筆、監修、そして講演など、幅広く活動されています。

 都市に棲む鳥の観察や研究もされている柴田さんには、3年前にもこの番組に来ていただいて、ベイエフエムのすぐ近くにある公園でバードウォッチングの手ほどきを受けました。

柴田佳秀さん

 そんな柴田さんの新しい本が『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』。ハトに関するびっくりするような豆知識がたくさんつまっていて、話題になっています。

 きょうはハトの未知の世界にご案内します。

☆写真協力:柴田佳秀

『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』

ドバトというハトはいない!?

※ハトは街中や公園など、どこにでもいるように思うんですけど、それだけよく見かけるというのは、たくさんいるということですか?

「そうですね。街の中に、人のそばにいる鳥なので・・・人が活動するところにいるので、よく出会うという感じですかね」

●街中でよく見かけるのは、いわゆるドバトですよね?

「そうです。ドバトと言われているハトですね」

●ドバトという種類ではないんですよね?

「そうですね。よくドバト、ドバトというんですけど、ドバトという名前の鳥はいないんです。正しくは、カワラバトという名前で、それを昔人間が利用するのに家禽化(かきんか)したんですね。それをドバトというんです。だからニワトリやアヒルとかと同じです。

 ニワトリという鳥はいないんですね。あれは野生のセキショクヤケイという名前の鳥を、人間が利用するために改良したのがニワトリ、アヒルはマガモというカモを、人間が利用するのに品種改良したのがアヒル、それと同じようにカワラバトを家禽化したのが、ドバトと呼ばれています」

●人が改良したハトっていうことになるわけですね。

「そうですね。人が利用するのに改良したハトです」

●日本には何種類ぐらいのハトが生息しているんですか?

「身近にいるのはドバトなんですけど、日本には12種類、ハトの記録があります。身近にいるのはドバトと、キジバトいわゆるヤマバトとか言われているやつですね。その2種類が身近に、街の中にいます。
 そのほかの10種はそう簡単に出会えないものがほとんどです。実はドバトと言われるカワラバトは、日本の鳥ではないです。外来種です。

 もともとカワラバトはどこに棲んでいたかというと、エジプトとか中近東、あとは中国の西部やインドの乾燥地帯にいる鳥なので、それを昔連れてきて、逃げたり放したりしたのが野生化して、今街の中にいるのがドバトなんですね」

●世界にはもっと多くのハトがいるってことですか?

「はい、世界には今351種のハトがいます。ただこれは研究者によって分類の仕方が違うので、数の正確さは前後しますけど、大体350種くらいいると考えてもらっても問題ないと思います」

(編集部注:先ほど「家禽(かきん)」というお話がありましたが、「家禽」とは人間が繁殖させ、飼育している鳥のこと。動物だと「家畜」となります。
 通称ドバトが、人が近づいても逃げないのは、もともと人が飼っていたから。人に慣れるように改良された遺伝子のハトだけが残り、それが野生化しただけなので、逃げないということだそうです)

写真協力:柴田佳秀
ドバト

もともとハトは神社の鳥!?

※ドバトは公園や神社、お寺などにたくさんいて、群れているイメージがありますよね。それはハトの習性なんですか?

「そうですね。ドバトの、カワラバトのもともと持っていた習性です。カワラバトというのは、集団で群れで暮らしている鳥なんですね。一方、ヤマバトと言われているキジバトはほとんど群れないです」

●日本にはどちらもいるんですよね。

「どちらもいて、両方とも今、都会では普通にいるんですけど、キジバトのほうはひとりが好きみたいです。あとはペアですね。たまに食べ物がいっぱいあったりすると、ペア同士で集まって来て、群れみたいになるんですけど、それはただ集まっているだけなので、群れとは呼べないですね」

写真協力:柴田佳秀
キジバト

●ハトはハトでもぜんぜん違うんですね。

「神社や公園にいて、よく歩いている奴はドバトですね。それは群れています。なぜ神社にいるかといったら、もともとハトは神社の鳥だったんです」

●えっ!? 神社の鳥というと・・・?

「例えば、もともと八幡様、あの八幡宮のシンボルがハトなんですよ。鶴岡八幡宮に行くとわかるんですけど、鶴岡八幡宮と書いてある看板がありますよね。あれの「八」はハトです。ハトの絵になっていますよね。そして、鶴岡八幡宮ではハトサブレを売っていますよね」

●おおお〜。

「あれは八幡様の鳥がハトだから、そのシンボルとして、ハトサブレを売っているるんです。今(大河ドラマで)やっている鎌倉時代の、源頼朝のあの時代に遡るんですけど、昔はハトが来ると戦いに勝つ! みたいな瑞鳥(ずいちょう)として、八幡宮ではシンボルとされている鳥なので、それでずーっと八幡宮とか、そういうところで可愛がられていたんですね。日本ではそういった神社がいっぱいできて、そこでハトが可愛がられて、神社やお寺中心にハトがいるようになったんです」

●そういう歴史があったんですね!

「そうですね。その辺は話すとすごく長くなるので、一冊本が書けちゃうくらいなんですけど(苦笑)」

●いや〜、奥深いですね、ハトって!

写真協力:柴田佳秀
渋谷区にある鳩森八幡神社のドバト

ハトの特殊な能力

※ハト胸という言葉がありますが、胸の部分が盛り上がって見えるのは、どうしてなんですか?

「あれは、実は筋肉がついているんです」

●あれは筋肉なんですね。

「そうです。いわゆる胸肉と言っている、あの筋肉は何をする筋肉かというと、翼を動かすための筋肉なんです。あれだけ大きな筋肉がついているってどういうことかといったら、力強く羽ばたくことができるので、ハトはすごいスピードで飛ぶことができます」

●確かにそうですね。

「スピードも出せるし、さらに距離も長く飛ぶことができます。もともとハトの習性として、お家みたいな、寝るための巣を作ったりする場所があるんですね。

 ハトの食べ物って、大体みなさん豆だと思いますよね。確かに豆なんです。豆というか草のタネなんですね。草のタネがなっているところは、結構遠くに行かないとなかったりしますよね。
 広い範囲を飛び回って、わーっと群れで行って(タネが)あると、そこにばーっと降りて、食べてまた戻るという、お家に帰るという暮らしをしていたんです。すごく広範囲を飛び回らないと食べ物がないですよね。だから胸の筋肉が発達していて、別に渡り鳥ではないんですけど、ドバトは1日30キロほどの距離を飛びます。

 あと水もよく飲みます。食べ物がタネで乾き物なので、水を飲まないとうまく消化できないんですね。だから鳥の中では水もすごくよく飲むんですけど、水を飲みに行くのも遠くまで、砂漠に棲んでいる鳥だったので、胸(の筋肉)が非常に発達していたりします。

 森の中に棲んでいるハトも木の実を食べるので、どこか遠くへ木の実を取りに行かないと、いつも同じところにはないですよね。それで遠くまで飛んで行くので、筋肉が発達していて、ハト胸みたいに膨らんでいます」

●そうなんですね〜。

「もうひとつハト胸になる理由があって、それはよくタカに襲われるんです。タカ派とハト派ってあるじゃないですか。ハトってタカに食べられちゃうんですけど、食べられてばっかりだと絶滅しちゃうので、強力な筋肉で早く飛んで逃げ切るんです」

●先ほど水をよく飲むって話もありましたけど、水の飲み方もほかの野鳥とは違うんですよね?

「そうですね。普通、鳥は水を飲む時に、水にクチバシを浸けてから、そのままストローみたいにゴクゴク飲まないで、ちょっと(水を)ふくんでは、上を向いて流し込むような感じ・・・ニワトリはそうしていますよね。
 ハトはクチバシを水に浸けて、そのままゴクゴク飲むことができるんです」

●下を向いたまま飲めるってことですよね!

「そうですね。それができるのはハトの仲間とサケイっていう仲間と、一部砂漠にいるキンカチョウっていう小鳥、それぐらいだけで、ほぼハトの専売特許というくらい特殊な飲み方です」

●へぇ〜〜、凄い能力ですね。

「なぜハトにだけそんな能力があるのかっていうのは、実はよくわかっていないんです」

●そうなんですか?

「一説によると、少ない水でも・・・森の中の浅い(水たまりの)ちょっとしかない水でも飲めるようにっていう説があります。とにかくハトは水を飲みたがるので、ちょっとの水でも飲めるように、そういった飲み方をするようになったんじゃないかなっていう説があるんですけど、まだはっきりしたことはわかっていないです」

写真協力:柴田佳秀

ハトはミルクで子育てをする!?

※野鳥の場合は、おもに春から夏にかけて、繁殖をすると思うんですけど、ハトも同じような感じなんでしょうか?

「ハトの繁殖シーズンは一年中なんです」

●えっ! 一年中!?

「一年中ですね。春から夏前は多いんですけど、一年中ハトは繁殖します。それはなぜかというと、ハトは結局、タネばかり食べているので、タンパク質がないですよね。そのタンパク質を補うのに普通、タネばっかり食べている鳥でも、繁殖期の時だけは、虫を取って来て(雛に)あげるんですね、スズメとか。
 だけど、ハトはずーっとタネを食べているので、ピジョンミルクという特殊な餌を雛に与えて育てるので、季節を問わないんです」

●ミルクで子育てをするってことですか?

「そうなんです。ミルクで子育てをするんです」

●えっ! どうやってミルクを出すんですか?

「鳥なので、おっぱいがあるわけじゃないので、ミルクといっても、まあミルクのようなものが・・・実は口の食道の一部に素嚢(そのう)という袋みたいなのが鳥ってあるんですけど、そこの一部が(ハトに)子供ができると、壁が厚くなるんですね。そこの部分が剥がれて溜まるとチーズみたいな感じになるんです。

 すごくタンパク質に富んでいて、それを吐き戻して雛に与えるってことをやっています。ハトの特殊な生態なんですけど、あたかもミルクみたいな感じなので、ピジョンミルクという名前をつけています」

●そのミルクを出せるのはメスだけですよね?

「いや、実はオスも出せるんです」

●え〜〜! じゃあオスのミルクで育っているっていうこともあるんですね?

「そうなんです。オスもメスも両方(雛にミルクを)与えないと、多分足らないんでしょうね。我が身を削って与えるし、そう簡単に食道の素嚢の壁が厚くならないので、だから代わりばんこに与えるんでしょうね。

 その代わり、ハトは雛の数が少ないんですよ。一羽か二羽なんですね、一回で育てられるのは。それはおそらく餌の量がそれほど用意できない、だから(オスとメスの)両方で育てないといけない、その代わり一年中、繁殖可能なので、ハトは数を期間で補うという戦略をとっているんだと思います」

(編集部注:ハトの繁殖シーズンは1年中ということで、求愛行動を観察するチャンスも多くあると思います。オスがノドを膨らませて、メスを追いかけ回すそうですが、主導権はメスが持っているとのことですよ。
 ちなみにドバトはオスとメスの、見た目の違いはほとんどないので繁殖行動のときに、ノドを膨らませているのがオスだとはっきりわかるそうです。ノドまわりの虹色にも注目してみてください。

 ハトはその昔、通信の手段、いわゆる伝書バトとして利用されていました。その起源は一説によれば、紀元前3千年前のエジプト、漁師さんが海に出るとき、ハトを連れて行き、どれくらいの量の魚が獲れたのかをいち早く知らせるために、ハトを使っていたそうです)

※これは、ハトが巣に戻る「帰巣本能」があるからだと思いますが、ハトはどうやって戻る方向を見極めているんですか?

「基本的には近い距離だと景色を憶えているみたいです。伝書バトクラスだと近い距離は憶えていているみたいですね。もうちょっと遠くなってくると、あらゆるセンサーを使って自分の位置がわかるみたいです。ひとつに、地磁気ってありますよね。地球の北とか南とか・・・それが正確にわかるらしいです」

●そういう能力があるんですね!

「そういう能力に長けていて、特にドバト、カワラバトというのはお家みたいなところがあって、どこかに行って帰って来るという、もともとの習性があったので、それをうまく利用したのが伝書バトなんです。だから本来の習性をうまく利用しているんです。

 キジバトとかアオバトとか、そういうハトに、それをやらせられるかっていうと、全然そういう習性がないので、やらせるのは無理ですし、賢いと言われているカラスもお家からどこかへ行って、また戻って来る暮らしをしていないので、いくらカラスに教えてもできないです」

(編集部注:ハトは時速60キロくらいで飛ぶことができ、ハトのレースに出場する訓練されたハトは、なんと1000キロほどの距離を休まず、15時間くらいかけて飛ぶことができるそうです。まさにアスリートですね。
 ちなみに昭和30年代くらいまで、新聞社は写真を送るために、ハトを使っていたそうですよ)

柴田佳秀さん

人間の生活が見えてくる!?

※きょうはハトの驚きの能力など、いろいろお話をうかがってきましたが、ハトのような身近な生きものに目を向けてみるのは、大事なことかも知れませんね。

「そうですね。色んな身近な生き物に目を向けてみると思わぬことがあって・・・
実は僕はそれほどハトが好きではなかったんです。今告白しちゃいますけど(笑)」

●そうなんですか〜。

「実はそうなんですね。鳥を好きな人って、ハト好きはそういないかもしれない」

●ちょっと地味なイメージがありますよね。

「地味ですし、わりと形にバリエーションがないので、まあアオバトとか綺麗なので、それは人気があるんですけど、身近にいるやつは、なんだハトか、なんだキジバトかという感じで、見ない人が多いんですね。

 僕もこの本を書くお仕事がきっかけで、ハトを見直してみたんですけど、いや面白いです、非常に! ハトから見えてくることがいっぱいあって、都市の鳥を僕は主に研究しているんですけど、都市の鳥を研究すると、人間の生活が合わせ鏡のように見えてくるので、鳥を見ているんだけど、人を見ているみたいな感じになります」

●例えば、どんなことがわかるんですか?

「ここ毎日ハトがいるな、絶対ここで人が餌をあげているなと・・・ちょっと時間帯を変えてみると、やっぱり餌をあげる人がいて、話をしてみると・・・なんで餌をあげているんですか? って聞いたら、ここでハトに餌をあげられるのは、私くらいしかいなくてっていう人が何人もいたりするんですね(笑)。

 あと、街のビルの構造なんかも、あ〜、ハトが巣を作っているなって見えるんだけど、もうちょっと鳥のことを知っていたら、こんなところに巣を作られないように、隙間を作らないようにするんだろうなって思いながら、僕は見ているんです」

●もうちょっと気にしてみるっていうのがいいかもしれませんね。

「そうですね。気にして見ていると世界が変わります。普段の生活がかなり変わりますね」


INFORMATION

『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』

『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』

 柴田さんの新しい本をぜひ読んでください。国内外のハト全般に関する豆知識がたくさん掲載されています。一般的にはフンの被害があったり、時には害鳥として駆除されたりと、マイナスのイメージもあるかと思いますが、この本を読むと、ハトの能力や人とのつながりを知ることができて、見方が変わると思います。ぜひ身近なハトの世界を覗いてみてください。山と渓谷社から絶賛発売中です。
 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2821063100.html

 柴田さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎柴田さんHP:http://shibalabo.eco.coocan.jp/

オンエア・ソング 6月26日(日)

2022/6/26 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. ANYWAY / PIGEON
M2. SALLY’S PIGEONS / CYNDI LAUPER
M3. PIGEONS AND CRUMBS / NATALIE IMBRUGLIA
M4. LITTLE WING / THE CORRS
M5. LOUDER / SPiCYSOL
M6. HOME / BIRDY
M7. SKYLINE PIGEON / ELTON JOHN

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

5万5千キロ! 世界一周ヨットレースへの挑戦!〜30年間、抱いてきた夢を追い求めて

2022/6/19 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、地球を一周する外洋ヨットレース「GLOBE 40(グローブ・フォーティ)」に挑むセーリング・チーム「MILAI」のスキッパー「鈴木晶友(すずき・まさとも)」さんです。

 6月26日にスタートする「GLOBE 40」は、約5万5千キロを9ヶ月かけて走破するまさに地球規模の壮大なレースです。

 鈴木さんは1985年生まれ、千葉県出身。小学2年生の時に、稲毛ヨットハーバーのジュニアヨット教室に参加し、ヨットの楽しさに目覚めます。その後もヨットを続け、高校入学後に本格的に競技ヨットを始め、大学生の頃には、大会で優勝するなどの成績をおさめます。社会人になってもヨットへの情熱は燃え続け、ついには会社を辞め、2019年に大西洋横断レース「ミニトランザット」に挑戦し、完走を果たします。

 きょうはそんな鈴木さんに「GLOBE 40」にかける思いなどうかがいます。

☆写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

鈴木晶友さん

チーム名「MILAI」に込めた思い

※鈴木さんが挑む外洋ヨットレース「GLOBE 40」のお話の前に、「MILAI」というセーリング・チームについてうかがいましょう。このチームはいつ頃発足し、メンバーは何人いるんですか?

「私たちは2020年から、今年スタートする『GLOBE 40』を目指して活動を始めました。2020年にMILAIを発足して、最初は私と日本人のスキッパー中川紘司とふたりだったんですけれども、今はチームにセーラーが5人いて、その5人で世界一周をやろうということで活動しています」

●壮大なプロジェクトだと思うんですけれども、メンバーを集めたのは鈴木さんなんですか? 

「はい、そうですね。今回の世界一周ヨットレースの前に、2019年に大西洋横断ヨットレース『ミニトランザット』というヨットレースに出場したんですね。その後に世界一周をやろうということで、2020年から活動をすることになったんですが、当時、ミニトランザットで知り合ったセーラーに声をかけて、一緒に世界一周をやらないかということで、みんなに声かけあって、今5人のセーラーで活動しています」

●実際にヨットに乗るメンバー以外に、船の整備をするメカニックですとか、レースを支えるサポート・メンバーもいらっしゃるんですよね? 

「そうです。セーリングをする前に船の準備、あとは陸上でのいろんなサポートが必要になるんですけれども、多くのフランス人、あと日本人のスタッフに支えられながら、今全部で総勢5名ぐらいの陸上スタッフがいます。なので、約10名ぐらいのチームとして活動しています」

●チーム名のMILAIには、どんな思いが込められてるんですか? 

「MILAIの意味は日本語の、過去未来の未来で、というのも私たち外洋セーリング(のチーム)は今、フランスで活動しているんですけれど、なかなか日本人のセーラー、そもそも日本ってあまりヨットが盛んじゃないんですね。

 しかも、セーリングという競技の中で外洋に行くかたって少なくて、若手がなかなか育たないというような状況なんです。なので、私たちのチームMILAIの活動が次の若手のセーラーに、同じようなことやりたいと思ってもらえるようなきっかけになればと思って、MILAIという名前をつけて活動しています」

(編集部注: チーム「MILAI」に所属するセーラーは鈴木さんと中川さんのほかに、フランス人のアンさんと、エステルさんの女性ふたり、そしてイタリア人のアンドレアさんという 国際的なチームなんです)

風の力だけで世界一周!

※今回、鈴木さんたちが挑む外洋ヨットレース「GLOBE 40」、この「GLOBE」とは「地球」、「40」とはヨットの大きさを表わすそうですが、いったい、どんなレースなのか、教えていただけますか。

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

「GLOBE 40は全長40フィート、メートルにすると12メートルのヨットで、ふたり乗りで世界一周するヨットレースです。モロッコのタンジェというところをスタートして、世界8カ所に寄港しながら来年3月、9ヶ月間かけて世界を一周するヨットレースです」

●今回のGLOBE 40は何カ国から何艇のヨットが出場するんですか? 

「国数でいうと、8カ国のセーラーが集まっています。出場数が実は8艇程度と少ないんですけれども、これはコロナウィルスの影響で、大会が1年間延期されたことがひとつ大きな原因としてあるんですね。

 それとGLOBE 40は今回が初回の大会となります。これから4年に1回ずつこのGLOBE 40は開催されていくので、いつかは大きなヨットレースになって、1回目に日本人が出たんだねっていうような、ヨットレースになるんじゃないのかなと思っています」

●どんなコースで地球を一周するんですか?

「長いですよ(笑)。スタート地がモロッコのタンジェで、最初にカーボベルデ(共和国)に寄港します。その後、南アフリカのケープタウン沖を通った後に、モーリシャスを経由し、モーリシャスから次がニュージーランド、ニュージーランドからタヒチに一度北上します。

 その後、南米(アルゼンチン)のウシュアイア、その後、北上を始めて、ブラジルのレシフェを経由し、カリブ海のグレナダ、そして来年の3月にフランスのロリアンに戻ってくる、全部で3万マイル、約5万5千キロのセーリング・ヨットレースなりますね」

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

●すごいですね。ヨットで世界の海をセーリングするんですよね。

「風の力だけですよ」

●ということは、風がないと進まないっていうことですよね? 

「そうです。本当に風の力だけで走るのがヨットです。これはヨットレースなので、エンジンがついているんですけれども、レース中はスクリューを回して動力として使っちゃいけないんですね。
 風がない時は船は止まりますし、逆に嵐の時はもうそんな速く走らなくていいよっていうくらいに速く走るので、本当に自然の力を十分に受けるダイナミックなスポーツになります」

●風が吹かない海域っていうのはあるんですか?

「いちばん風が吹かない海域で有名なのは、赤道無風地帯というところで、その無風地帯にハマってしまうと、3日間から4日間、そこからまったく動けないということもありえるみたいですね」

●鈴木さん的にはどのあたりが、今回のレースを左右する地点だとお考えですか?

「ケープタウンを越すところと、あとは南米のケープホーン、この2カ所がいちばん難しいと言われているんですね。低気圧がどんどん来るところで、風速が40メートルにもなるような海域なので、そこを無事に突破できるかが勝負の分かれ目になるじゃないのかなと思っています」

奥さんにありがとう!

※ヨットで世界を一周してみたいという思いはいつ頃、芽生えたんですか?

「もともと世界一周をしてみたいなっていうのは、小学生の頃からうっすら描いていたものはあったんです。ただ、2019年に初めて大西洋横断ヨットレースに出場した後に、急に世界の海はどんな海なんだろうなっていうのを、より強く感じるようになったんですね。なので、大西洋を横断した後から、次は世界一周だっていうのを目指して、この2〜3年、世界に向けて頑張ってきました」

●地球一周のヨットレースに参戦している日本人と言えば、この番組にも何度もご出演いただいている海洋冒険家の白石康次郎さんがいらっしゃいますけれども、やはり白石さんの影響というのは大きかったですか?

「大きいですね。白石さんには大変お世話になっています。というのも、私が今フランスのロリアンっていうところで活動しているんですけど、このロリアンは外洋セーリングの中心地と言われていて、多くの大西洋横断ヨットレースだったり、世界一周ヨットレースだったり、そういう(レースに出場する)ヨットがみんな集まっているような基地になるんです。

 そのロリアンに白石康次郎さんもベースを置いているので、ヨットのことだったり、フランスの生活のことであったり・・・例えば、困った時に誰を頼ったらいいのかなど、たくさんのサポートを白石康次郎さんからいただいて、今こうやって活動を続けられています。本当に感謝しています」

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

●ロリアンという街には、あまり知り合いもいらっしゃらなかったっていうことですか? 

「2018年に初めて行った時は、知り合いがまったくいませんでした。フランスのかたは、英語を話さないかたが多いですね。私はフランス語をまったく、今でも話せないんですけど、まずはフランス語ではなくて、英語が話せる人を探すところから始めたのがもう4年前ですね。本当にいい思い出です。

 今となってはたくさん仲間ができて、多くの友達もいるので、すごく心地がいいんですけれど、初めてロリアンに行った時は、なんでこんなところ来ちゃったんだろうぐらいの(笑)、完全に地の果てに来てしまったなというような感じでした」

●どうやって地元で人脈を作っていったんですか? 

「最初は本当に知り合いもいなくて、ヨット(レースの活動)を2018年に始めた時はお金もなかったので、まず自転車を買おうと思って自転車を買って、いろんなお店に行きました。そこでまず、あなたは英語を話せますか? こんなことで困っているんだけど、助けてください、っていうところから少しずつ始めたんですね。

 そうしたら、変わった日本人がいるぞって、ちょこちょこ噂が広まっていくんですよね(笑)。ある日突然、逆になんか困ったことがあったら言ってくれよっていうのを、フランスの現地のかたから声をかけてもらえるようになりました。そういう流れで、今となっては本当にたくさんの仲間たちに囲まれながらフランスで生活しています」

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

●もともと鈴木さんは会社員だったんですよね?

「そうです」

●会社を辞めて3年ほど前、単身フランスに渡られたというということですけれども、奥様のご理解あってこそですよね?

「ええ、ありがたい、ほんとうにこの場を借りて、奥さんにありがとう! って叫びたいぐらいなんですけど(笑)」

●普通はなかなか理解できないと思いますよ!

「もともと社会人、それからサラリーマンをしていた時も、ヨットは競技としてやっていたので、ヨットをやる旦那だっていうことを理解はしてもらっていたんですけど、まさか旦那が大西洋を渡ったり、世界一周に挑戦するなんて思ってもいなかった! とは今でもよく言われるんですね。ただこのヨットレースに参加するっていうのはある意味、ひとつの安全を確保するということでもあるんですね。

 ヨットレースに出場するには、数々の資格が必要だったり、予選レースがあったりとか、ある程度ボーダーを越えないとヨットレースに出られないというラインがあるので、僕はこのヨットレースで横断するんだよ、このヨットレースで世界一周するんだよ、だから僕は大丈夫だよっていうことで、ある意味、妻は納得してくれたというような感じです(笑)」
 
●そうなんですね〜(笑) 

「ただ、妻は日本で生活をしていて、私は日本に帰るのが、半年に一回くらいなので、毎回日本に帰るたびに、玄関のカギ、変わっていないでくれよ! って思いながら帰っています。今のところは家のカギは変わらずに生活しています(笑)」

●素晴らしい奥様ですね!

「ありがたいですね」

イルカの声、満天の星空

※6月26日に始まる本番のレースに向けて、大西洋横断レース「ミニトランザット」にも出場されました。レースとはいえ、ヨットの上で生活もしなくちゃいけませんよね。食事とかはどうされるんですか?

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

「何を食べているの!? って思いますよね。僕らの船ってヨットレース用なので、海の上でお湯しか沸かせないんですよ。日本人なので私はお米が食べたくなるので、アルファ米といわれる乾燥したお米をお湯で戻して食べたり、あとは日本のレトルト食品を持っていったりとか・・・。基本的には日本だと防災用に使われているような食料を海の上で食べることが多いですね。

 あとは、トイレがないんですよ。なので、船のデッキの上にバケツを置いて、そこで用を足して、という形です。用を足している時にイルカたちが来ると、今は来ないでくれ〜って(笑)思うような・・・イルカと会話をしながらの青空トイレです!」

●そうか! イルカやクジラにも遭遇する可能性もあるっていうことですよね。

「ほんとにこんなにもイルカやクジラって海にいるんだなって思うくらい、毎日のように遭遇します」

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

●すごいですね〜。

「船の中で寝ていると、イルカの声が聴こえるんですよ。”キュルルルル”っていう音が、水中から伝わってくるので、自分が船に乗って大海原を走っているんだなぁっていうのをすごく感じますね」

●すごいことをされているんですね、鈴木さん! 壮大だな〜。

「自分の力で太平洋を横断したい! 世界一周したい! っていうのを叶えられるのは、ヨットしかないので、ヨットで自分の力で走っているという感じですね」

●ふたりで乗っているっていうことですけれども、ということは、睡眠は交代交代で取るっていうことになるんですか?

「そうですね! 基本的にはひとりがオンで、ひとりがオフになるので、僕らは2時間交代制でヨットを走らせているんですね。基本的には2時間、実際は(ネットで)天気を見たりとか、例えばレポートを書いたりしないといけないので、1時間半くらいは1回の睡眠で取ることができます」

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

●1時間半ごとっていうと、ずっと仮眠状態という感じですね。

「そうですね。小刻み小刻みに1時間半ごとに、24時間ずーっと交代交代に回ってくるんですけれど、3週間とか4週間、海の上にいると、ヨットレースが終わった後に、家に帰っても2時間で起きちゃうんですよ。もうそういう体になっているんですよね」

●そうなんですね〜。鈴木さんは外洋に出られて、これまでにいちばん印象に残っている景色ってありますか?

「海の上は周りにまったく光がないので、月がない夜に空を見上げると、ほんと満天の星空が広がっているんですよ。陸の上で星空を見た時に、オリオン座があそこにあるなぁ〜とか思うんですけど、海の上で満天の星空を見ると、オリオン座がどこにあるか分からないくらい星が綺麗なんですね。
 その星空の下でセイリングをしていると、本当に自分が今、地球の上を走っているんだなっていうのを感じますね」

(編集部注:先ほど、ヨットの中で寝ていると、イルカの声が聴こえるというお話がありましたが、イルカやクジラ、そして海鳥など、生き物たちと出会えるのも楽しみのひとつだそうです。海鳥は羽を休めるために一晩中、ヨットにいたこともあるそうですよ)

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

30年間、抱いてきた夢

※いよいよ6月26日から地球一周の外洋ヨットレース「GLOBE 40」が始まります。ずばり、目標は?

「まずは無事に、船を壊さずに世界一周を遂げることが、私たちの目標です。船を壊さずにしっかり世界一周を遂げれば、それなりの成績がついてくるので、(何位になるかは)私も分かりませんけれども、なるべく上位を目指して、無事にフランスに帰ってきたいなと思っています」

●改めてこのレースを通じて、どんなことを伝えたいですか?

「私はずーっと子供の頃からヨットを続けていて、今回初めて世界一周に挑戦できるんですけども、この夢はずっと30年間、抱いてきた夢なんですね。ずっと抱いてきた夢を諦めずにいたからこそ、今回挑戦できているので、ぜひ次の世代の子たちには夢を諦めずに、何かしらの挑戦を続けてもらいたいなというのを、私の活動を通してお伝えできたらいいなと感じています」

写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

●レース中にネットで、リアルにつながることはできるんでしょうか?

「はい、できます! 実は、今はインターネットが海の上でもつながる時代なので、テレビ電話がなんとできちゃうんですね! 海の上からまたお電話できたら嬉しいです」

●レースに参加している気持ちで応援できるっていうことですね!

「そうです! リアルタイムでつながります。海の上で私たちは24時間、2時間交代で寝起きしているので、いつでもご連絡いただければ、お話できるかなと思います」

●鈴木さん、頑張ってください! 番組でも応援しています!

「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いいたします」

●ぜひまたお話し聞かせてくださいね!

「ありがとうございました!」


INFORMATION

 今年初開催の「GLOBE 40」は6月26日に、ジブラルタル海峡に面したモロッコのタンジェという港町からスタート、その後、8カ所の港に寄り、およそ9ヶ月かけて、2023年3月にフランスのロリアンに戻る予定です。総距離はおよそ5万5千キロ! 9つの区間(レグ)を鈴木さんは全部乗り、レグごとに相棒を代えて臨むことになっています。

 そんなチーム「MILAI」は、活動資金をクラウドファンディングで募っています。世界を巡るヨットレースは、船のメンテナンスやレースの継続などに費用がかかります。ぜひ鈴木さんたちの「夢」と共にご支援していただければと思います。

 チームやレースの詳細、そしてクラウドファンディングについては「MILAI」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎「MILAI」オフィシャルサイト:https://milai-sailing.com

◎「MILAI 」クラウドファンディング:https://milai-sailing.com/crowdfunding.html

オンエア・ソング 6月19日(日)

2022/6/19 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. RIDE ON TIME/山下達郎
M2. STORY OF MY LIFE / ONE DIRECTION
M3. GOIN’ WHERE THE WIND BLOWS / MR. BIG
M4. SEA OF LOVE / THE HONEYDRIPPERS
M5. 空と海の輝きに向けて / 荒井由実
M6. SAIL ON / THE COMMODORES
M7. SAILING / CHRISTOPHER CROSS

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

ソロ秘湯、お湯も絶景も独り占め!~秘湯探検家の悦楽

2022/6/12 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秘湯探検家の「渡辺裕美(わたなべ・ゆみ)」さんです。

 渡辺さんは奈良県出身。会社勤めをしていた15年ほど前、仕事のストレスで心身のバランスを崩したときに、バックパックを背負い、東北の温泉を巡り、自然と触れ合ったことで、とても癒されたそうです。そしてすっかり秘湯にハマり、これまでに国内外を含め、およそ2500カ所以上の温泉を制覇。温泉ソムリエの資格も取得し、現在は秘湯の旅番組などで活躍されています。

 そして先頃、アウトドア雑誌のネット版に連載していた温泉レポをまとめた本『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』を出されました。

 きょうはそんな渡辺さんをお迎えし、標高1400メートルの絶景温泉や、山に分け入り、やっとたどりつく、神々しい滝の温泉など、秘湯の話題満載でお届けします。

☆写真協力:渡辺裕美

渡辺裕美さん

サバイバル感も楽しめる「野湯」

※「秘湯探検家」という肩書は探検するかのように秘湯を追い求める渡辺さんの活動にぴったりだと思ったんですが、ひとりで行くのは何か理由があるんでしょうか。

「そうですね。やっぱりあんまり大勢で行くと、結局普通のお風呂と同じになっちゃうじゃないですか。やっぱりひとりで行く醍醐味は、自然をまさに独り占めできること。鳥の声、川のせせらぎ、あと自然に湧き出ている温泉そのものだったり・・・それを自分ひとりで満喫できるのは、多分ソロで行く以外できないですよね。

 そういう独り占め感と、あと道中なんですね。割と地図がない秘湯に行くことが多いので、何人かで行くとどうしても、おおよその場所が分かっていたり、ヒントを与えられてしまうんだけど、ひとりで行くとサバイバル感っていうか自分でその場所を探し当てるみたいな、そこがすごく楽しいところです」

●この本には、バックパックを背負って秘湯まで山の中を歩いたりっていう写真も載っていましたけど、怖くないですか?

「めっちゃ怖いですね。怖がりなので、人一倍、クマ除けスプレーだったり鈴だったり、例えば川が出てきたら、こう渡ろうとか、川の渡渉のスパッツを一応持って行ったりとかします。自然って何が起こるか分からないので、やりすぎるぐらいの準備をして挑むというのはあると思います。

 正直、いちばん怖いのは人間なんですよ。クマさんよりも動物よりもやっぱり人間がいちばん怖いですね。でも自然の中に入ってしまうと、それほど(自然が)怖いっていう感じはあんまりないですね」

●日本には秘湯と言われる場所は、どれぐらいあるんですか? 

「秘湯と言うと、割と宿も含んじゃうんで多くなるんですけど、野湯(のゆ)っていう山の中にポツンと湧いている、海岸にポツンと湧いている、そういう自然の温泉は300箇所以上あると思います」

●その中で何箇所ぐらいの秘湯を制覇されたんですか? 

「200箇所は超えていると思いますね」

●すごいですね〜! 先ほども野湯のお話がありましたけど、秘湯と一口に言ってもいろいろあると思うんですが、いくつかタイプに分かれているっていうことなんですか? 

「そうですね。秘湯って言っちゃうと割と広義な意味になって、秘湯の宿とか、宿も含んじゃうんですけど、野湯はその秘湯ジャンルの中でも、もっとニッチなところにあって、いわゆる未管理の、人間の手が加えられていない温泉です。
 山の中とか川にポツンと湧いているような、営業とかもしてないし、ただ湧き出ている、そういう温泉を野湯って言うんです」

湯船の中でご来光!

『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』

※新刊『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』には66カ所の秘湯が掲載されています。その中から気になった温泉をうかがっていきます。まずは、表紙になっている、この写真の温泉はどこなんですか?

「これは岩手県の八幡平市にある、本当に八幡平の山頂付近にあるポツンと一軒宿なんですけど、”藤七温泉(とうしちおんせん) 彩雲荘(さいうんそう)”さんって言います。

 なんで表紙になったかというと、綺麗なのもあるんですけど、私がすごく感動した、秘湯巡りを始めた初期に、初めて東北の温泉を周った時、この藤七温泉 彩雲荘さんに泊まって、あまりにも素晴らしい温泉でびっくりしたので、そういう印象的な思い出の温泉です」

写真協力:渡辺裕美

●どう素晴らしいんですか? 

「ほかの温泉と何が違うかっていうと、国立公園の中にいくつもの露天風呂がぽこぽこっていっぱいあるんですよ。それはもう本当に自然の中にただただ湧き出ている、まあ人工的に作ってはあるんですけど、でも本当に見た目は自然の中に湧き出ている、さっき言った野湯に近い形で、温泉も底からプクプクと気泡となって湧き出てくるんですね。

 まさに自然のジャグジーみたいな感じで、気泡が背中にポロロンって湧き出た時に付くんですけど、あ、今湧き出た! みたいなのがすごく分かるし、音もぽこぽこっと鳴るんですよ。

 これってもう究極の幸せで、温泉って本当に生まれたて、湧きたてがいちばん鮮度抜群なんで、その鮮度と自然の神秘を体感できるのが彩雲荘さんのすごいところです。
 あと泥パックとかもできるんですよ。下に泥が溜まっているので、女性のかたはすごく必見というか、顔に塗りたくっているかたもいらっしゃいますね」

写真協力:渡辺裕美

●写真を見ると、お湯が確かに白っぽいですけれども、これは泥なんですね。

「そうですね。ちょっとだけ茶色いっていうか薄いミルキーグレーみたいな色で、これがまさに泥と温泉が混ざった状態なんですよ」

●標高もかなり高い場所にあるっていうことですよね? 

「標高は1400メートルぐらいですね」

●自然のジャグジー、いいですね! 

「そうなんですよ。一回、小尾さんも泊まっていただきたいですけど、この温泉、すごいのが次の日、朝5時ぐらいに岩手山の方向を見るとご来光が出るんですよ。周りがオレンジ色に包まれて、そこにちょこんと露天風呂があるんですけど、その湯船の中でご来光を浴びる、これ最高です。
 とにかく朝昼晩、自然の神秘に触れられるっていうのが彩雲荘さんのすごいところかなと思いました」

(編集部注:渡辺さんが野湯に出会ったのも、温泉巡りを始めた15年ほど前、東北の温泉を巡っていた時だったそうです)

神々しい滝の秘湯

※本に載っている秘湯のお話を続けましょう。栃木県の那須方面にある幻といわれる滝の秘湯、これにも驚きました。これはどんな場所にあるんですか?

写真協力:渡辺裕美

「栃木県の那須郡にある「両部(りょうぶ)の滝」ですね。那須の茶臼岳の八合目付近に潜んでいる温泉の滝なんですよ。実はこれ全然知らなくて、情報を誰かから聞いたんです。こういうのがあるよ、みたいなのを・・・。

 ただ地元の人も誰も知らないし、ガイドブックでも一切紹介されていなくて、地元の観光協会や山岳クラブみたいなところに電話したんですけど、いや知らない!の一辺倒。知っていたとしても、そこはもう言えません! みたいな感じで、すごく隠している、じゃないですけど、ほとんど知られていないのが8割で、一部は知っているけど、知らんふりみたいな感じでした。

 いろんな情報を一生懸命探して、行ってみたんですよ。温泉の滝なんですけど、すごいのが温泉の滝にもうひとつ向かい合うように普通の沢水の滝があって、ふたつの滝が向かい合って落ちているんです。本当に神々しい、絶景を超えて神々しい雰囲気が漂っている場所なんですね。

 温泉は100メートルくらい上流の岩場から湧き出ているんですけれども、滝に行き着くまでに、(温度が)40度くらいから30度弱くらいになるんですね。それでも外気温が結構冷たい時は、あたりに湯気がふわぁ〜っと舞って、本当に神々しいの一言ですね」

写真協力:渡辺裕美

●ネットとか雑誌にも載っていないような場所なんですね。すごい! まさにパワースポットですね!

「そうなんですよ。本当にパワースポットでした!」

●知る人ぞ知るというか・・・。

「そうなんですよ。いろいろ歴史を調べていくと、もともと100メートル上流の源泉湧出地が、江戸時代からずっと山岳信仰の御神体みたいになっていたところで、結構、信仰者たちがそこをお参りするのがひとつの流れだったようです。それぐらい温泉と信仰が結びついていることにも、神秘的というかストーリーを感じました」

●そうですね〜。

「これはすごい滝でした。この滝は正直(温度が)30度もないので、温かいっていうわけではないんですけど、見るだけでも、さっきおっしゃったパワーをもらえるような、そういう場所ですね」

※続いて、私が特に気になった温泉が岩手県にある「国見(くにみ)温泉」、お湯がグリーンなんですよね?

「そうなんですよ。あそこは私も藤七温泉の次の日に行ったんですけど、本当に入浴剤みたいな色でびっくりしました! 

 面白いのが、すごくきつい炭みたいな、墨汁みたいな、よくアブラ臭とかって表現されるんですけど、独特な匂いもするんですよ。すごく成分が濃い温泉で、不思議な墨汁みたいな匂いがして、入ったら、服を着替えてもTシャツにずっと匂いが付いて、帰る新幹線まで匂っているみたいな感じです。

 色も強烈、匂いも強烈な国見温泉はぜひ温泉、秘湯巡りを始めたいっていう人にまず足を運んでいただきたい場所です。岩手県の雫石っていうところにあります。一軒宿です」

写真協力:渡辺裕美

ルールとマナーを守って楽しむ

※秘湯に行くときに心がけていることはありますか?

「野湯は調べていくと、結局あんまり責任者がいないんですよ。個人の敷地にあったら、その人のものだったりするんですけど、例えば国有林の中にあるような野湯は、森林管理者さんが森林を保全するために管理しているだけで、野湯は特に管理もされていないし、入浴を認めてくれているかっていうと、そうでもなかったりします。

 その中でマナーが悪かったり、ちょっとした事故が起こったりすると閉鎖されたりとか、いろいろそういう事象があって・・・私たち野湯愛好家は、その土地にある自然公園法だとか、そういうルールを守って、環境保全に配慮しながら温泉を楽しまないと、いつかなくなっちゃうかもしれないような温泉なんですよ。

 街のスーパー銭湯とかだったら、廃業しないかぎりは絶対に維持されていくじゃないですか。そこがすごく違うところですね。
 結構、幻の野湯ってあるんですよ。あの時、何十年前はあったよね! みたいな。だから本当に個人のマナーとルールに任されているっていうか・・・なので、できるだけ温泉に着いたら、温泉そのものを楽しむけど、余計な手は加えない。人工物を置いたり、形を大きく変えたりとかしないで、そのままありがたく自然の恵みを楽しむ、みたいなことを私は結構心がけています」

ワクワク探検! サバイバル感!

※ネットで検索しても出てこないような秘湯の情報は、どうやって調べているんですか?

「結構難しいですね。例えばですけど、国土地理院の地図、温泉マークってあるんですよ。全然知らなかった温泉が湧出してたりとか。ぼこぼこって出てるんですけど、噴気のマークとかってあるんですよ。そういうところをたどったら、実は新しい野湯が出てましたとか。あと地元の林業関係者のおじさんにめっちゃ聞いたりします。

 山を知っている人って、意外にそういう温泉も知っていたりするので、この辺にこういうのありますか? とか聞いたり、聞き込み調査! あとGoogleの航空写真! 上から見て、山肌に白いのが付着しているのが見えたりするんですよ。そういうところは、ピンを付けておいて、どういうふうにアプローチしたらいいのかを見て行ったりします」

●まさに探検ですね! ワクワクしますね〜。

「そう、むちゃくちゃワクワクしますね!(笑)。温泉にたどり着くよりもそこがメインになってきていて、去年も北海道なんですけど、往復11時間かけて、温泉は20分もなかったかな。 浸かったといっても本当に寝転がっただけで、冷たい20度の温泉が岩盤を這うように流れているだけのところなんですけど、そのためだけに往復11時間歩いて(笑)、それぐらい自然と一体化できる道中に、また最高のものがありますね! 癒されるというか」

●改めて、ソロで行く秘湯の魅力とはなんでしょうか?

「そうですね。やっぱりふたつ! 自然との一体化、サバイバル感、道中ですよね! あと温泉の独り占め感! このふたつに尽きると思います。
 日本にはいろんな素晴らしい秘湯があって、実はガイドブックにも出ていない、実は地元の人も知らない、みたいなところが結構あるんですよ、探していくと。そういう自然の素晴らしさがやっぱり野湯にはあると思うので、これからも行きたいなと思っています」

写真協力:渡辺裕美

INFORMATION

『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』

『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』

 渡辺さんの新しい本をぜひお買い求めください。これまでに訪れた温泉の中から厳選した66ヶ所の秘湯を掲載。中にはここが温泉!?と、目を疑うような写真に驚きますよ。写真がたくさん載っているので、見ているだけでも楽しい! そしてお話の中にもありましたが、野湯を楽しむときのルールやマナー、注意事項についてもしっかり掲載されています。小学館から絶賛発売中です。

◎小学館HP:https://www.shogakukan.co.jp/books/09311507

◎渡辺裕美さんのブログ:http://shifukuonsen.blog94.fc2.com/

オンエア・ソング 6月12日(日)

2022/6/12 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. VIVA LA VIDA / COLDPLAY
M2. COUNTRY ROAD / JAMES TAYLOR
M3. SUNRISE / NORAH JONES
M4. GOOD TO ME / INARA GEORGE
M5. 時代遅れのRock’n’Roll Band  
  feat. 佐野元春, 世良公則, Char & 野口五郎/桑田佳祐 
M6. VISITING HOURS / ED SHEERAN
M7. COURAGE / ORIANTHI

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

ドキュメンタリー映画『杜人』〜大地の再生に挑む孤高の造園家「矢野智徳」

2022/6/5 UP!

 

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ドキュメンタリー映画
『杜人〜環境再生医 矢野智徳の挑戦』の監督「前田せつ子」さんです。

 前田さんは1984年に現在のソニー・ミュージックエンタテインメントに入社、音楽雑誌などの編集者から、フリーランスとなり、雑誌「Lingkaran(リンカラン)」ほかの編集や執筆に携わります。

 映画『杜人(もりびと)』は、孤高の造園家、矢野智徳(やの・とものり)さんに3年間密着したドキュメンタリーで、前田さんにとっては初の長編作品なんです。主人公の矢野さんは植物や自然の再生を、経験に裏打ちされた矢野理論ともいえる手法で取り組み、全国各地の庭園やお寺の植栽などを見事に蘇らせています。

 この4月に公開された同作品は、公開直後から評判を呼び、続々と上映する映画館が決まり、全国でいま静かなブームとなっています。きょうはそんな『杜人』、そして矢野さんについて、監督の前田さんにじっくりお話をうかがっていきます。

☆写真協力:Lingkaran Films

©Lingkaran Films
©Lingkaran Films

「杜人」に込めた思い

※まずは映画のタイトル「杜人」、これは木編に土と書く、杜の人です。このタイトルした理由はなんでしょうか?

「木編に土と書く”杜”っていう字は、この場所を傷めず、けがさず、大事に使わせてくださいと、人が森の神に誓って紐を張った場、という古語だそうです。昔の民が使っていた言葉で、今、辞書を引いても出てこないんですね。
 主人公の矢野智徳さんはこの言葉の意味を3日かけて、国会図書館に行って必死で探して、この言葉にたどり着いたそうなんです。

 で、やっぱりそういう自然と人との関係が蘇りますようにという願いを込めて、木と土と人と書いて”杜人”というタイトルをつけました」

(編集部注:造園家の矢野智徳さんは1956年、北九州市生まれ。父親が私財を投じて造った花木植物園「四季の丘」で、子供の頃から植物の世話をしながら育ちます。そして、東京都立大学在学中に1年間、休学し、日本全国の自然環境を見て回ったあと、1984年、28歳のときに「矢野園芸」をスタートさせています。

 前田さんと矢野さんとの出会いは2014年、前田さんが暮らす東京都国立市で街路樹の桜を一斉に伐採する計画が持ち上がったときだったそうです。住民から、本当に伐る必要があるのかを矢野さんにも見てもらいたいという要望を受け、桜を1本1本診断してもらった結果、ちゃんと手当てすれば、まだ大丈夫という矢野さんのアドバイスもあり、一斉伐採は見送られたそうです)

前田せつ子さん©Lingkaran Films
©Lingkaran Films

虫、草の視点

※矢野さんの活動を撮影し、映画にしようと思ったのは、どうしてなんですか?

「初めて矢野さんの言葉を聞いた時に衝撃を受けたんですね。衝撃っていうよりは、なんか救われるような気がしたんです。2014年の、桜を全部伐採するっていう計画は、矢野さんを始め、全国の心ある造園家のかたが駆けつけてくださって、市民と共に動いたことで、痛んだ桜だけを植え替えるっていうふうに、市は方針を変えてくれました。

 その翌年、運動というか動いていたことがきっかけで、矢野さんの講座が国立市内で開かれて、私はその時は市議会議員ではなかったので、2日間その講座に参加しました。それで改めて矢野さんの自然を見る目に触れて、すごく驚いたんです。

 例えば、植物に虫がつくと、ついつい人は殺虫剤を撒いたりしがちなんですけど、矢野さん曰く”葉が混み合っていて、風通しが悪いから虫がつく。虫たちは葉っぱを食べて、空気の通りをよくしてくれているんです”っていうことをおっしゃったんですね。

 それは、世界が180度クルッと違って見えてくる気がして・・・あー虫たちって、ただ単に葉っぱが食べたくて食べているんじゃなくて、そうやって風通しをよくしてくれている、そんなふうに世界を見られたら、この世界はまた違って見えてくるし、人間はもっと豊かに生きられるなっていう感じがしたんです。

 草も、生えてくるのがよくて、根こそぎ抜いたり、地ぎわから刈ったりするから反発して暴れる。でも風が揺らすところで刈ってやると、途端に大人しくなるっておっしゃるのを聞いて、なんか子育てと繋がっているような気もして、とっても肩の力が抜けるというか自分が楽になってくる気がしました。

 大地が人間と同じように呼吸しているっていう言葉を聞いた時に、水のことは考えていても、空気のことは全然考えていなかったなって思って・・・。

 そんな視点というか、自然と人との関係がとても新鮮だし、すごく嬉しかったんですね。講座が終わったあと、すぐに矢野さんのところへ行って、“本とかDVDとかなんかないですか?”って聞いたら、忙しくて何もないんですって言われて・・・あ〜なんてもったいないんだろうって思ったのと、もっと知りたいって思ったことが、最初の動機です」

©Lingkaran Films
©Lingkaran Films

風の草刈り

※映画には矢野さんの自然や植物、そして造園に対する考え方が随所に出てきます。その中から印象に残った言葉をいくつかお聞きしたいと思います。まずは結ぶと書く結(ゆい)、これはどんな意味なんですか?

「映画の中では矢野さんは、ほかの動物たちには動物たちなりの結(ゆい)があって、人社会には人が群れをなす時の大事な連携機能として、結のコミュニケーションがあるっておっしゃっています。

 もともと結作業ってどんな集落にもあったもので、人間がまだ重機とかそういう動力を持たなかった時代には、人ひとりひとりがやるんじゃなくて、みんなが群れをなして、自然と向き合うことが必要とされていました。

 その中で、大人も子供も歳を取ったかたも女性も男性も、みんなが群れをなしてひとつの目的に向かって、その集落が無事であるようにという祈りを込めて、結作業をやって、そこに教育もあれば、コミュニケーションがあって、自分の居場所があったっていうことなんです。

 かつての結作業を、大地の再生講座をやる中で復活させたっていうのか、やっていたら、いやおうなくその結作業になっちゃったって、矢野さんはおっしゃっていました。

 その結って、人と人との関係もそうですけど、人と自然もやっぱりその結のコミュニケーションがあって、言ってみれば、同じ目的に向かって同じ祈りを込めて共同作業をするっていうことなんですね。

 それが今現代社会の中ではとっても失われているので、作業をされたかたの表情とかを見ていると、とても大変だけど、とっても清々しい楽しそうな顔をして作業されているのが、ずっと印象に残っています」

●そうなんですね。続いて「風の草刈り」と表現されて、草を刈っていらっしゃいましたけれども、この言葉の裏にはどんな意味があるんでしょうか?

「風の草刈りって、すごく詩的な表現だと思うんですね。まさに風がやるように草を刈る。文字通り、風に揺らしてみると、草がある一定の点で揺れる。そこを鋸鎌(のこがま)って言われる小さな手鎌で、ちょんちょんとはねてやると、草は風がやったと思い込んで、これ以上伸びてもまた風が吹いてきたら、ここを折られるからと思って、構造を変える。そこから枝分かれして、それと同時に地下の根っこを細根にして細い根をいっぱい生やして安定しようとする。

 そうなると、細い根ができると地下に空気がたくさん通るようになるので、雨が降っても、ちゃんと雨も浸透するし、空気と水の循環がよくなって、すごく合理的で持続可能なやり方が、風の草刈りです」

●風で揺らぐ部分を切るってことですね。

「自分が風になったつもりっていうか、自分の鋸鎌が風になっているのを感じるくらいに一体となって、自然と一体、自分が風なんだっていう感じでやると、みんなが帯のようになって、風の草刈りをやっていたところに、本当に風がすーっと通るんですよね。その時、みんなが同じ感覚を味わって、“今(風が)通ったね〜”って、すごく嬉しそうな顔されるんです。

 風の草刈りは、本当に根こそぎ刈っていくよりずっと楽しいし、見た目も綺麗だし、綺麗っていうよりは、遠くの山々と一体化した一枚の風景になって、草はとっても大事な風景の一部だなって思います」

©Lingkaran Films
©Lingkaran Films

水脈と点穴

※続いては、矢野さんの自然再生手法のポイントともいえる「水脈と点穴(てんあな)」について。どういうことのなのか、教えていただけますか。

「大地は人間と同じように呼吸しているって、矢野さんはおっしゃっています。水脈は人間の身体でいうと血管のようなもので、大地の中にも動脈から毛細血管まで様々な脈が流れて、空気や水を循環させているというのが、矢野さんのひとつの理論というか、植物の命と長く向き合ってきて、見えない空気が大切であることを発見されたんですね。

 自然はもともと、ちゃんと脈が地面の下に、人間に脈があるのと同じように大地にも脈があって、それを塞いできてしまって、今の大地は息苦しくなっているから、そこに溝を掘ったり、その溝は流線型で掘っていくんですけど、その所々に点穴と呼ばれる穴を掘って、より一層脈が渦を巻くように作っていくのが水脈と点穴なんですね。

 東洋医学でいうと、筋に当たるのが水脈で、ツボに当たるのが点穴みたいな感じです。そこを押してあげると、人間もちょっと体調がよくなったりするように、ペたーんとまっ平らにしてしまった地面に溝を掘って穴を開けてあげると、本当に地面が柔らかくなるし、立った時に空気が変わるんです。

 (大地の)脈をすごく大事にされているので、地上と地下の脈を循環させる。そのいちばんの立役者が植物だってよく言われています」

大地の深呼吸

※映画の中では、ここ数年の自然災害で大変ご苦労をされたかたたちとの出会いや支援活動のシーンもありました。その中で矢野さんの「土砂崩れは大地の深呼吸」という表現も強く印象に残りました。このあたりのご説明もお願いできますか。

©iDaps 石田伸二
©iDaps 石田伸二

「2018年の5月から(矢野さんを)追いかけ始めたんですけど、その2ヶ月後に、矢野さんに初めてお会いした時からずっと警告されていた、そのうちひどい土砂災害が起きますよっておっしゃっていたことが現実になりました。西日本豪雨で広島や岡山、愛媛のほうも土砂災害が起きて、亡くなられたかたには本当に胸が詰まる思いです。

 なぜ土砂崩れが起きるのか、ただ単に雨がたくさん降って大雨のせいで土砂崩れが起きるわけじゃなくて、やっぱりどこかしら人間が止めているから、その脈を取り戻そうとして、自然は土砂崩れを起こしているっていう見方を(矢野さんは)されていました。

 私は正直、その土砂災害の現場に矢野さんが行くからついていくってことは、戸惑いもあったんです。被災地でみなさん本当に困ったり、またボランティアのかたが一生懸命、復旧作業をされている中にカメラを持っていくってことは、とても申し訳ないし、不躾な行為だと思ったんですね。でもやっぱり矢野さんが行くって言うんだったら、私も行こうと思って一緒に行きました。

 崩れた現場にはU字溝っていう小さなU字型のコンクリートブロックが必ずあって、それがバンッて崩れていて、ちょっと山のほうを見ると砂防ダムって言われるコンクリートの塊がありました。
 で、その先のほうに崩れている、岩がむき出しになった爪で引っ掻いたような跡があって、本当にコンクリートがせき止めていることで、この土砂崩れが起きて、土砂崩れは呼吸を取り戻すための最後の自然の抵抗なんだなっていうのを目の当たりにしたんですね。

 そこには自然界が一晩で作ったS字のカーブの水脈ができていて、自然が作った点穴がありました。で、必ず痛んだ木が、その大地が詰まっていたんだってことを証明するかのように、葉が茶色くなった松がいて、幹がボロボロになった梅の木があって、植物が警告を発していたんだなっていうのが分かる光景がそこにありました」

同じ生き物同士と思える感覚

※最後に改めて、この映画でいちばん伝えたいことを教えてください。

「撮っている時に思ったのは、映画を見る前と後とで木の見え方が違ってくるっていうか、植物や自然の見え方がちょっと違って見えるような映画になるといいなっていうのをずっと思っていましたね。

 今、街路樹が鳥の糞が落ちるからだとか、落ち葉が汚いからだとか、むげに伐られることも多いし、いろんなところで木が伐採されているんですけど、木がどれほどのことをやってくれているかっていうことを、もっと私たち人間が分かれば、そんなに簡単に伐れなくなると思っています。

©Lingkaran Films
©Lingkaran Films

 植物のことを語る時の矢野さんって、すごく愛おしそうに語られるんですよね。
本当に植物みたいな人にはなれませんと・・・こんなに苦しめられても、何かちょっと手をかけてやると、すごい勢いで復活してくる健気な存在とおっしゃっている、そんな感じを映画をご覧になったかたが植物に対して、この自然界のあらゆる生き物に対して、持ってもらえるといいなって思っています。

 今回映画を公開した時に、矢野さんに植物の声って聞こえているんですか? って、あえて舞台挨拶の時に質問したら、聞こえませんよって。聞こえる人もたまにいらっしゃるみたいだけど、僕には聞こえません。でも感じはするっておっしゃっていました。

 ひとりで深夜までずっと作業していると、何かが背中を触って、あれ何かな? と思って振り返ると、それは動物じゃなくて、しだれ桜の枝が自分の背中をふっとさすった・・・それを見た時に、同じ生き物同士分かり合えるのかなって、感じたんですとおっしゃっていました。

 同じ生き物同士っていうふうに、植物にも小さなアリやチョウやトンボにも、その同じ生き物同士って思える感覚が、人間にはまだまだ動物だった頃の記憶がちゃんとあると思うので、そういう気風が生まれてくるといいなって思っています」


INFORMATION

杜人〜環境再生医 矢野智徳の挑戦

© Lingkaran Films
© Lingkaran Films

前田さんの初めての長編ドキュメンタリー作品をぜひご覧ください。
映像はもちろんなんですが、ぜひ音楽にもご注目を。
優れた音楽家のかたによるサウンドトラックに前田さんのこだわりを感じますよ。
今後、英語の字幕を入れたインターナショナル版と、
子供向けのチャイルド版を作ることにしているそうです。こちらも楽しみですね。

*上映情報
首都圏で現在上映されているのは千葉県柏の「キネマ旬報シアター」で6月10日まで、逗子の「シネマアミーゴ」で6月18日まで、
「あつぎのえいがかんkiki」で6月17日までとなっています。

ほかにも東京や栃木、埼玉や群馬など、続々と上映が決まっています。
詳しくは「杜人」のオフィシャルサイトでご確認ください。

◎「杜人」HP:https://lingkaranfilms.com/

オンエア・ソング 6月5日(日)

2022/6/5 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. YOUR SMILING FACE / JAMES TAYLOR
M2. PUT YOUR RECORDS ON / CORINNE BAILEY RAE
M3. THE WIND / AMOS LEE
M4. TURN ME ON / NORAH JONES
M5. 深い森 / Do As Infinity
M6. ALIVE / GABRIELLE APLIN
M7. わたしをつつむもの / G.Yoko

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

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