毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

「波の裏側」を撮る〜海伏「杏橋幹彦」

2022/2/27 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、波の裏側を撮るワン・アンド・オンリーな写真家「杏橋幹彦(きょうばし・みきひこ)」さんです。

 杏橋さんは1969年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東オーストラリアでライフセービングのブロンズメダルを取得後、いろいろなレスキュー法を学びます。そして、人は海にシンプルに向かうべきだと感じ、酸素ボンベを付けずに海に潜り、波の裏側をファインダーをのぞかずに直感だけで撮っています。神秘的な写真は海外でも高く評価され、集大成的な作品『BLUE FOREST』は2016年に伊勢神宮に奉納されています。

 きょうはノーファインダーで撮る奇跡のような作品のことや、海に対する深い思いなどうかがいます。

☆写真:杏橋幹彦

写真:杏橋幹彦

命を賭けて

※それではお話をうかがっていきましょう。オフィシャルサイトで作品を拝見して、その神秘さに驚きました。サイトに掲載されている写真は全部、波の裏側をとらえた写真なんですよね?

「はい、酸素ボンベを使わずに泳いで波の中に行きます。片手にカメラを持って、使うのは水中眼鏡とフィンとカメラだけと、至ってシンプルな3つの道具だけで撮っています」

●そもそもどうして波の裏側を撮ってみようと思われたのですか?

「私の師匠はモデルとか車を撮っている人で、まあ大胆な人でね〜、”お前、写真なんか見ないで人の魂をつかめば”みたいな人でね。師匠のまた師匠が、ユージン・スミスで戦場カメラマンだったんですね。
そんな彼らの写真をずっと見ていて、若い時に俺の写真には奥のものがないな、薄っぺらだな、なんて思った時に、これは、ユージンたちのように命を賭けて何かをやらないと写らないんじゃないかと思ったんですね。

 自分にとって命の駆け引きができる場所、そして人は絡めずに僕個人、杏橋幹彦として純粋に対峙できる場所はどこだろうと、ふと思った時に、きっと海だと。思い切って全てを捨てて、命を賭してやった時に、何か写るんじゃないかと思ったんです。そんな動機から、思ったらすぐ実行でひたすら・・・約20年前かな。海に踏み込んだんです」

杏橋幹彦さん

●海に対する恐怖はなかったですか?

「いや〜今もありますしね、これは消えないです。怖い思いって不思議なもので、未だにどこかに蓄積されちゃって抜けきらないです。経験が邪魔をする時もあるし・・・。
 面白いものである時、禅の本に”全てを捨てろ”って書いてあったので、その時持っていたクラシックカーも全部泣く泣く売って、何かこの世にもう未練がないようにと・・・。海に頭を下げて、本当に低いところからお願いしますということで、何が撮れるか分かりませんから。

 今でこそ、こんな偉そうに喋っていますけれど、あの(波の裏側の)写真を見たこともないし、撮った人もいなかったので、撮れて日本に戻って現像して、あれが写って光った時に、現像所が大騒ぎしたんですよ、何を撮ったんだと。実は泳いで波を撮ってみたんだと・・・。
 人間の目って実は補正してしまって、本当の色ではないんですね。皮肉なことに人間が作ったカメラが、実は俺たちが見えていないものを写し出すんだってことも知りましてね。まあ海から色々教わっているわけです」

●酸素ボンベを付けずに、海に出るんですよね?

「付けたこともあるんですけど、付けると何分後に帰らなきゃいけないとか、誰かと行ってくださいとか、人間界のルールと制約と都合、そういったものを海に押し付けたりすることになるし、海にとって魚に対して、ストロボを当てて、すごくすごく失礼なことをしたと、僕は思って懺悔したんですよね、ごめんなさいと。

 俺はひとりで海に裸で行きますので、どうか海の神様か何か分からないですけど、守ってくださいと、ただ生き死には頼みませんと。ここから先はもう無情の世界なので、行くだけ頑張って行きますけど、何か写ればありがたいですと。そういうスタンスで、未だに海で色んなことをして撮っています」

写真:杏橋幹彦

真実を写す

※波の裏側をファインダーを覗かずに撮るんですよね?

「うん、覗かない。余談だけど、僕は色々写真を撮ったんだけど、写真家じゃないなと思ったりもして・・・あとで言うんだけど、”海伏”って名前を付けたりとか。

 撮っているものは今は波と人。波と人は波動で実は同じなんですね。来る前を予測して、位置が大事なんです。波の中もそうですけど、そんなに早く魚のように動けないじゃないですか。ですから予測して予測して、ちょっと前にそこに入り込んだ瞬間に(シャッターを)押してないと、見てからじゃ遅いんですよ。見てからではもう行ってしまうので、来る前に押す、ないものを押す、ないものをつかむ。

 例えば、皆さんが手でコップをつかむのを、僕は手を出すと手の中に入っているというか、変な言いかたですが、時間の使いかたがちょっと違うのかな・・・。これはちょっと変な話だけど、そういった意味で先に押していないと、(波は)早すぎるので見ても撮れないと思います」

●へぇ〜〜! 

「で、写真に入り込んでくる。結局写しているけれども、僕の感覚だと、あ、写っちゃったって感じなんですよ。両目で見て何かを感じて押しているのは、今でも忘れないし、必ず、はっ! って思わない時は押してないです。ファインダーを見ないので、超感覚的なこと。
 人間は五感ではなくて十感、二十感、五十感、百感って僕はあると思うんですね。それが、地球や宇宙の声を聞けないような、水槽みたいな暮らしをしていると、弱っちゃうんですよね。

 そういったことも研ぎ澄まして、自己満足もあるんだけども、気づかせてもらうことの大事さも泳ぐ度に教わります。
 ですから(ファインダーを)見ない。見ないし、人間の恣意、思惑、よく撮ってやろうとか波をこうしてフレームに入れてやろうって思うと、きな臭い写真になっちゃうんですよね。上手すぎる写真っていうんですか。

 だから写真ってすごいもので、”真実を写す”ってよく作ったなって思うんですけど、自分も気づかないような本物、魂、やっぱり本物しか写らないですよ。嘘をつくのは人間で、写真は一切嘘をつけませんから、そこに賭けているんですよね。だから俺、動画とかやりませんよ」

●一期一会というか、同じ写真は二度とないっていう感じですね。

「波も同じものはないし、撮れたら撮れた、撮れなきゃ撮れないで、そもそも撮れるような状況じゃないんです。片手で泳いで撮っています。水中で回転して撮るんで、(撮れたら)奇跡ですよね」

写真:杏橋幹彦

編集部注:杏橋さんの写真をオフィシャルサイトでぜひ見てください。波が崩れて泡立っているところを、裏側から撮っている写真が多くあります。言いかたを変えると、波がどこで崩れるか、それを直前に感じないと撮れない写真ばかりなんです。研ぎ澄まされた感覚がある杏橋さんだからこそ撮れる写真だと言えます。

☆杏橋幹彦オフィシャルサイト:http://www.mikihiko.com/

https://www.umi-bushi.com/

山伏ではなく、海伏

※先ほど、ご自分のことを山で修行する山伏(やまぶし)ならぬ、「海伏(うみぶし)」だと表現されていましたが、この海伏と名乗るようになったいきさつを教えてください。

「撮る時に、本当にお辞儀して祝詞を読んで小さな貝を吹いたり・・・それは最初からやっていたわけじゃないんですけど、色んな人に教わって、海に戻るおまじないのような・・・それこそ、いまだに忍者の呪文も唱えています。

 目に見えない力を借りないと、人間の力も心の許容も超えた場所に行くので、それには古来の人々が何か祈っていたことを取り入れさせていただいたらいいんじゃないかなっていうことで・・・僕は感じて、忍者の呪文とか、色んなことを、怪しいんだけど、取り入れてやっています。

 その中で、ある山伏に山に行ったり色んなところで会うようになった時に、自分たちと実は同じことをやっているなっていう老齢な山伏のおじいさんがいたり、僕に山伏の仲間にならないかって誘ってくださったかたも実際いらっしゃいました。

 その時にふと思ったのが、僕は海に対してまだ勉強中だし、色んなことを祈り続けるので、払い清めるというか、役目があると思うんです。私は皆さんと一緒に今できるレベルでもないんですと。

 そうではなくて、”海伏”って今思ったんですけど、海伏と言ってよろしいでしょうかと。海伏として海で、この宇宙を祈っていきたいと思うんですが、どうでしょう? って言ったら、面白いから、お前それはやりなさいと、そう言われました。

 僕が作った言葉なんですけど、山に伏せる、海に伏せる、彼らは山を宇宙と見て、命、水、その全ては山から生まれ、山に返る・・・おそらく古来には世界的に見ても海を祈っていたかたはいると思うんです。日本人もそうですけど、何か海に対して、義理を通して、胸を借り、思いを伝え、海と対話して、感謝を捧げる、じゃないけど、そういったイメージで、僕は自分を写真家ではなくて、海伏と呼ぶようになったんですね」

写真:杏橋幹彦

海は何かを返してくれる

※杏橋さんは、やはり子供の頃から海に親しんでいたんですか?

「茅ヶ崎で生まれ育ったんだけども、親父たちが山口県のほうで、おじいさんも山登りだったり、スキーだったりとか、僕の周りに大自然で遊ぶことを本当に心から楽しむことを知っていた大人たちがいたんですよ。
 子供ってやっぱり、入り口がないと行かれないじゃないですか。そういう大人たちが限られた休みの間に、どこのいちばんいい海に行ってやろうかなって考えたら、そりゃいい海に連れて行ってくれるわけですよね。

 面白いもので、魚が好きだったから、砂場に興味なかったので、海の家を使ったことはなかったですよ。岩場でずっと網を持って魚を捕まえて、一日中、海で遊んでいたっていう少年時代です。網がやがて釣竿になって、水槽で魚を飼ってみたり、色んなことしたけれども、飼われているのは俺で、あの魚は飼っていないんだとか、色んなこと思うわけですよ。

 例えば皆さんの家の、いいとか悪いとかではなくて、イカした植木鉢を置くじゃないですか。あれはやっぱり自然が恋しいから置くんだよね。いいことだと思う。いいことだと思うけど、フィジーの人は置いてないから、家の中に。なぜなら家の周りは木です。当たり前の話だよね。目の前に海があるハワイの人は、水槽で魚は飼わないですから」

●なるほど〜! 

「都会人には、やっぱりそういった宇宙観とか、自然観が必要なんですよ、結局は」

●自然を求めているんですね。

「うん、自然を求めるっていうのも、そうだけども、則して生きるしかないし、お互いが必要なんだと思う。ただ、お互いのバランスが崩れて、人間側だけのように見えちゃっているし、そういう暮らしになっているんですよ」

●ず〜っと海にいらして、どんなことを海から感じていますか?

「う〜ん、まだまだ・・・例えば1年後2年後にお話したら、色んなことを言えるかもしれないけど、今の僕として(言えるのは)海は生きている、間違えなくこっちを見ていて、礼を尽くすことを知っている、こちらから本当に海に対して気持ちを伝えれば、海はきっと何かの形で返してくれるでしょうね。

 おそらく海のエネルギーは、人間の体内の成分と同じっていうように、浄化力と言っては変だけれども、身も心もクリーンにする何かがあるんだとは思います。それは永久に生涯、分からなくていいことで・・・分からなくていいんですよ。今、人間は何でも知ろう、分かろう、手に入れようとするけど、そういうもんじゃないから。

 刻々と変わる海や風のように、そこにまず行くこと。行った者にしか分からない感覚。そしてある日、海のこととか、色んなこと、大事だなとか、綺麗だなとか、怖いなと・・・。
 そう思った時に、目の前に落っこちていた缶カラでもいいから、ポケットに一個入れて、その程度でいいことなんだよね。ビーチクリーンがどうではなくて、まず自分の心で本当に思った、心理の言葉っていうか、自分で本当に思った純粋な気持ちを海に伝えておけば、海はきっと人それぞれの形に何か返してくれるものではないかなと思ってます」

青い波の襖絵に心震える

※現在、京都の禅寺「西陣 興聖寺(にしじん・こうしょうじ)」の本堂で、杏橋さんが2002年にフィジーの離島で撮った、青く美しい波の裏側の写真が、全長14mの襖(ふすま)となって特別公開されています。

写真:杏橋幹彦

 このお寺で杏橋さんの作品が襖絵となって公開されるまでには、京都の知人と、お寺の住職、そして特別な技を持つ職人さんとの出会いがなければ実現しませんでした。不思議なご縁が導いた奇跡かも知れません。

 杏橋さんが、襖絵の並べ方に関して、こんなお話をしてくださいました。

「いちばん左と右は、実は同じコマで、僕は最初連続した3枚で時間軸を表そうって言ったんですよ。波は、皆さんが思うのは、ものという波。波というものは最初からなくて、うまく言えるかどうか分からないけど、水素がくっついては離れてを繰り返すドミノ倒しのような動きで、波動とエネルギーなんですね。

 よく見ていると、沖の波は一滴も岸には来ていないです。極端なことを言うと。お風呂で洗面器があって手で波を作ったら、波は来るけど、洗面器は動きませんから。来ているのは波動なんですね。

 フィリピンで発生した風は台風になるけど、日本にはフィリピンの風は一滴も入っちゃいないし、うまく言えないけど、あるものはある、ないものがない、そんな禅問答みたいな姿が実は波のありようです。

 ですから、僕は時間軸を表そうと思ったんだけど、住職が真ん中はこの写真にしたいって選んだのが今の写真で、実はそれは写真集の表紙に使って、伊勢神宮にちょっと前にご奉納させていただいた写真でもあるんです。あえて斬新な、左右は同じ時間に撮った1秒後だけど、真ん中だけは同じ場所だけど、日にちの違う波をそこにやって、何故か妙な一体感が生まれました」

●襖になった写真を見て、いかがでしたか?

「やっぱり、まずはこういう場をいただけたのがすごかったなと。皆で心震えましたよね。自分たちが感動して心震えないと、人には伝えられないっていうのが根本じゃないですか。皆さんも同じようなお仕事されているので、そこがまず本当に嬉しかったし、すごいな〜って。自分たちで自画自賛じゃないけど、心震えてびっくりしていましたね。

 あとひとつ感じたのは、所詮俺の命は、なんとか海から戻ってきても60年から80年です。
 そのお寺は”古田織部(ふるた・おりべ)”さんという茶人と、”曾我蕭白(そが・しょうはく)”という江戸時代の画家の菩提寺でもあるんです。人々の評価や色んなものを気にせず、利休のわびさびの中から、人をもてなすという茶道、器に花鳥画を描いたり、様々なことをして楽しんでもらおうと、自分の中の美意識を貫いた人たちの菩提寺。

 そこに数百年後、斬新な青い海が現れたっていうのも、彼らが何か後ろで背中を押してくれたのかもしれないし、彼らに対しても、供養っていったらおこがましいけど、現代でも皆さんの意思を引き継いで、鼻垂らして頑張っている者がいるんです。本当にありがとうございますと、そんな風に思いましたよ」

☆この他の杏橋幹彦さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

写真:杏橋幹彦

 ぜひ杏橋さんの作品をオフィシャルサイトでご覧ください。水と光と影が織りなす不思議で神秘的な写真に圧倒されます。見ていると空にも宇宙の銀河にも見えてきます。見えかたが違うのは、その時の自分の心象風景なのかもしれません。

◎杏橋幹彦オフィシャルサイト:http://www.mikihiko.com

https://www.umi-bushi.com/

 現在、京都の禅寺「西陣 興聖寺」の本堂でフィジーの離島で撮った、青く美しい波の裏側の写真が、全長14mの襖となって特別公開されています。この襖絵は普段は非公開です。会期は3月18日まで。詳しくは京都市観光協会のサイトをご覧ください。

◎京都市観光協会 :
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=5636

「ご近所半日旅」のすすめ! 〜こんなときだからこそ、安近短! 

2022/2/20 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、旅行作家の「吉田友和(よしだ・ともかず)」さんです。

 吉田さんは1976年、千葉県生まれ。デビュー作は、旅行記サイトを本にした『世界一周デート』。その後、会社員生活の中で海外旅行の体験を綴った本が話題になり、旅行作家としての活動を本格化。これまでに訪れた国はおよそ90か国だそうです。現在はライターのほか、編集者として旅行ガイドを手がけるなど、旅のスペシャリストとして幅広い活動をされています。

 きょうは、こんなときだからこそ、安くて近くて、短い旅のすすめ! 吉田さんに、ご近所を「旅感覚」で楽しむコツや、大人も楽しめる自然豊かな公園めぐりのお話などうかがいます。

☆写真協力:吉田友和

吉田友和さん

身近な場所でワクワクドキドキ!

※それでは早速、吉田さんにお話をうかがいましょう。

●現在、海外どころか国内の旅もままならない状況が続いていますけれども、そんな中、吉田さんが去年出されました「半日旅」のシリーズが注目されています。

 そのシリーズのいちばん新しい本が、去年出された『ご近所半日旅』ということで、私も読ませていただきました。他人が見たら、ただの散歩に見えるかもしれないけれど、自分の中で旅であるならばそれでいい! ということで、いつもの道でもプチ冒険気分を味わえるな〜という風に感じたんですけれども、この「ご近所」というのがポイントなんですよね?

吉田さんの著書を手に

「そうですね。単純にちょっと遠出がしにくいという状況なので、家の近くで楽しめないかっていうところが出発点なんですけど、自分の場合はもともと、旅行先でどんな行動していたかなっていうと、知らない街とかをぶらぶら歩いて、ちょっとした探検気分を味わうような、そういうことは、通常の近所じゃない旅行でもしていたんですよね。

 それって、ご近所でも同じことがやろうと思えばできちゃうわけで、見方を変えるとご近所の散策なんですけど、それがちょっと旅目線で見るっていうところが面白いかなと思っています」

●散歩ではなく、あくまでも旅なんですよね?

「そうですね。旅行で知らない街へ行った時のような気持ちで向き合うというか、そういう感じですね」

●本の中で例えば、こんな「ご近所半日旅」はどうですか? っていう提案がありました。その中でレインボーブリッジを歩いて渡るというような項目があって、私も早速やってみました!

「あ、本当ですか(笑)」

●何度も、ゆりかもめでレインボーブリッジを渡ったことはあったんですけど、歩いて渡るのが初めてだったので、とっても楽しかったです。

「そうですよね。すごく身近な存在なのに体験自体は新鮮ですよね」

●ですね〜。30分ほど歩いて渡るという感じでしたけれども、マスクを着けながらですし、ソーシャルディスタンスも保たれていますし、しかも眺めも最高で、スリリングでもあって、まさにワクワクドキドキ冒険気分というか・・・。

「自分的にはドキドキのほうが大きかったですけど(笑)。ちょっと恐いじゃないですか、結構高いので・・・」

●高さもありますからね。いや〜こういうことか〜という風に思いました! ご近所半日旅、いいですね、楽しいですね!

写真協力:吉田友和

近所ほど知らないことが多い!?

※吉田さんはご近所を旅されていて、どんな発見がありましたか?

「そうですね。近所って意外と、普段は素通りしてしまうというか、そんなに熱心に見ていなかったんですけど、改めてご近所半日旅をしてみると、結構見どころがあるんですよね。

 全国区で有名な観光スポットではないんですけど、地元で知る人ぞ知るようなスポット、例えばお城があったりとか、古墳があったりとか、だいぶ前からあったんでしょうけれども、全然今まで自分が意識していなかったんで、気がついていなかったっていう、そういうのを発見して、ちょっと得したような気持ちになれるというところが、ご近所半日旅の魅力かなと思います」

●半日旅を楽しむコツがあれば是非教えてください。

「短時間でもできるので、思い立った時にすぐ行けるっていうところがコツというかメリットというか、魅力でもありますね。
 普通、旅行って、前もって計画を立てて、どこに泊まって、どういう移動手段かって考えるんですけど、ご近所半日旅だと思い立ってすぐ行けるので、特に身構えずに、行きたいな〜って思った時に行くのがコツじゃないなかなと思います」

●気の向くままに、ですね。

「気の向くままに、実際出発してからも別に予定通りじゃなくてもいいと思うんですよね。ちょっとここの路地を曲がってみたいなって思ったら曲がってみたりとか、気になるお店を見つけたら入ってみるとか、思いつくままに行動するというのがいいですね」

●自分が住んでいる街を知ることにも繋がりますよね?

「はい、そうですね」

●歴史を含めてやはり知らないことって多いですよね。

「特に自分の住んでいる街のほうが知らなかったりするんですよね。知らない遠くの街とかに行った時って、色々調べたりするじゃないですか。意外と自分の住んでいる近所のほうが知らなかったりするので」

●そうですね〜。普段、通勤や通学でいつも乗っている電車の沿線に行ってみるっていうのも楽しそうですね。

「そうなんです。普段から毎日乗っているような電車で、途中下車したりとか、あるいは、いつもと逆方向に乗ってみたりとか・・・その電車の終点の駅名とかって特に長い路線であればあるほど、結構、長時間乗らないと終点まで行けないんですよね。
 ”なんとか行き”とかって見慣れているんだけど、実際行ったことがなくて、どんなところなんだろうなって、ずっと思っていたところにあえてちょっと行ってみたりとか、些細な行動ですけど、そういうのも面白いですね」

東京都の公園数は全国一!?

※吉田さんは去年、『大人の東京自然探検』という本も出されています。この本では東京都内にあるお勧めの公園が紹介されているんですが、東京にはたくさん公園があるんですね?

「そうなんです。実は都内が日本の全都道府県の中でいちばん公園の数が多いみたいなんですよね」

●それ、知らなかったです! 

「結構意外なんですけどね」

●特に私が気になったのが、洋も和も一度に楽しみたい欲張りな人に、っていうことで「旧古河庭園」っていう所がありました。

「あ〜、はいはい」

●ここに行ってみたいな〜と思いました。すごいですね。薔薇もあって、洋館があって、ちゃんと和もあるんですね

写真協力:吉田友和

「そうなんです。高台に洋館が建っていて薔薇が咲いているんですけど、そこからちょっと階段を降りて、なんか下界に降りるみたいな感じで降りていくと、そこは全部、日本庭園になっていて、和の世界なんですよ。高低差があるところが面白くって、上のフロアと下のフロアで違うみたいな・・・」

●へぇ〜、斜面を下っていくと今度は和の世界が広がっているんですね。

「そうなんですよね〜。不思議なところですよね」

●吉田さんが特におすすめしたい公園ってありますか?

「僕、結構人が少ないところが好きなんですよね。空いている公園というか。逆に混んでいるところが好きではなくて、分かりやすい言葉でいうと穴場みたいなところだと思うんです。そういう意味でいうと”小山田緑地”っていうところがあるんですけど、ここが特におすすめですね。

 町田市なんです。ここって谷底で、そこに緑地が広がっていて・・・ここもさっきの旧古河庭園と一緒で、エリアが高低差によって別れているんですよ。
 最初に(緑地に)着くと谷底から始まるんですけど、そこから段々上に、谷の上のほうに上がっていく感じになっています。いちばん上は展望台で、本当に富士山が見えるような、見晴らしがいいようなところまであるんです。

 そこは何段階かエリアに別れていて、いちばん下が本当にうっそうとした谷底の、自然の野生的な雰囲気なんですけど、少しずつ開けていくみたいなところで、途中、野球場がある階層があったりとか、サッカー場があったりとかもするんです。結構敷地も広くて、人口密度も薄いというか、人も少ないので、開放的ですね」

写真協力:吉田友和

(編集部注:東京都にある都市公園の数は、東京都の2020年のデータによると、8,287箇所! ちなみにその内訳は国営公園が2箇所、都立公園が82箇所、残りが区や市町村の公園。

 お話に出てきた北区にある「旧古河庭園」は都立公園。現在は、新型コロナの影響で臨時休園となっています。町田市にある「小山田緑地」も同じく都立公園で、こちらは通常通り、ご利用できます。詳しくはそれぞれの公園のホームページをご覧ください)

初の海外が世界一周の新婚旅行

※吉田さんが旅行作家になったのは、もともと旅好きだったからなんですか?

「それが違うんですよね、よく聞かれるんですけど。もともと全然、旅行はしていなくて、新婚旅行で世界一周したんですよ。それが初めての海外旅行でして・・・」

写真協力:吉田友和>

●え〜〜〜っ! 

「それ以来、旅行の本を書いたりとかってことをやるようになったんですよね。なので、きっかけがその新婚旅行なんですけど、それより前は全然旅行はしたことなかったです」

●作家としてのデビュー作が『世界一周デート』なんですよね?

「そうなんですよ」

●初めての海外で、いきなり世界一周っていうのは、すごく色んな衝撃があったんじゃないですか?

「逆に初めてなので色々全部、偏見がなく、フラットな目線で色んなものを楽しめるっていうのはありましたね」

●何日かけて、何ヵ国行ったんですか?

「その時は607日で、45ヵ国です」

●え〜〜! いいですね〜。どこ行くのかは奥様と一緒に決めたんですか?

「そうですね。まずタイのバンコクに行きまして、そこまで行けばなんとかなるからという感じで、その後は完全にノープランだったんですよね」

●ええ〜!? 

「何も決めていなくって、とりあえず、タイのバンコクへ行ってから、行き先をその都度考えていったみたいな感じですね」

●タイのバンコクで、その後の予定をどうやって決めていったんですか?

「当時はまだ、それほどネットとか普及していなかったんで、航空券とかも旅行会社で買ったりしていたんです。現地のオフィスに行って・・・。
 タイのバンコクに行くと、安くて色んな航空券が買えるよっていうのがあったんですよね。なので、最初にまずそこに行ったんですけど、行ったらそこで仲良くなった人がカンボジアにこれから行くっていうので、じゃあ一緒について行こうみたいな感じで・・・タイの次は、2ヵ国目でカンボジアに行ったんですよね」

●おお〜! 

「だからもう、本当に成り行きで、そういう流れに乗って、どんどん色んな国を旅したっていう感じですよね」

●いいですね。ノープランの旅!

「その頃からあんまり考えていなかったんですね。旅行するのに計画を立てないっていうか」

●でも、いいですね。本当に半日旅のご近所旅と繋がりますよね。ワクワクさっていうのは・・・。

「世界一周と半日旅じゃ、全然スケール感が違いますけど、やっていることはあんまり変わっていないと思います」

●そんなに長く一緒にいて、夫婦喧嘩とかなかったんですか?

「もう、しょっちゅうです(苦笑)」

●そうなんですね(笑)。新婚旅行なのに・・・。

「お互い、家じゃないんで、ホテルの一緒の部屋にいなくちゃいけないじゃないですか、喧嘩しても。だからある日突然、ウチの奥さん宿出をしたりとか(笑)」

●あははは(笑)そんなことがあったんですね!

「連絡も取れなくなって、メールとか送っても返事来ないみたいな・・・。2〜3日したら近くの他のホテルに泊まっているところ見つけて・・・それがオチなんですけど(笑)」

●そうだったんですね! しっかりと仲直りは出来たんですね?

「一応そうですね、その時は」

●で、また別の国に行ったんですね。

「はい」

自分の中の地図が広がる

※海外でも国内でも、旅の醍醐味というか、面白さって、どんなところにあると思いますか?

「やっぱり色んな自分の知らないものを見たりとか、食べものだったら食べたりとか・・・体験するって自分は言っているんですけど、ちょっとだけかもしれないけど、自分の中で世界が広がるみたいなところがありますね。
 単純に旅行が楽しいから行ってるっていうのはあるんですけど、結果的に自分の中で視野が広がったりとか、知識が増えたりっていうのがあるので、そこはひとつ醍醐味ではあると思います」

●確かに世界が広がるっていうのはありますね、心も豊かになりますよね。

「はい。例えば、海外の何かニュースをやっていたりした時に、自分が行ったことのある場所だとピンとくるんですよね。見ていても、あそこだ! っていうのが・・・。行ったことのない場所より、やっぱり親近感が湧くというのがあるので、自分の中の地図がどんどん広がっていく感じというか、それが旅を繰り返していると積み重なっていくのかなと思います」

●今後、海外に気兼ねすることなく旅に行けるようになったとしても、半日旅っていうのは続けますか?

「そうですね。半日旅って今回始めてみて、非常にいいなって思ったので、半日旅は半日旅で、ちょっと海外旅行とは別の楽しみがあるので、継続したいですね!」

●そうですね〜。吉田さん、ご出身は千葉県だそうですね?

「はい。千葉県船橋市です」

●お〜〜、是非、千葉の半日旅の本を出してください! 

「はい。是非やりたい! っていうのをずっと言っているので、いずれ千葉県限定でやりたいですね」

●是非お願いします〜! 

「結構面白いところたくさんあるので、はい!」

●房総半島は水に囲まれた島ですから面白いですよね! 

「そうですね、はい。房総大好きなので」

●いいですよね。その本を楽しみにしています。最後に吉田さんにとって、旅とは何でしょうか?

「ひとことで言うと、エンターテイメントかなと思っています! 楽しむもの」

●その心は? 

「結果的に、先ほど言ったように、自分の世界が広がるっていうのはあるんですけど、世の中に数ある趣味のひとつというか、楽しいことだと思うんですね。辛いことじゃないし、修行とかでもないですし、実際に結果的に旅をして成長したりってこともありますけど、基本的には色んなところへ行って、美味しいもの食べて、綺麗な景色を見て帰ってくるっていうだけで、すごく楽しめるエンターテイメントなのかなと、そういう考えかたですね」


INFORMATION

『ご近所半日旅』

 こんなときだからこそ、吉田さんの本をぜひ参考にされて、ご近所、そして公園に出かけて、リフレッシュしませんか。ご自宅の近所を旅するときのヒントが満載の『ご近所半日旅』はワニブックスPLUS新書シリーズの一冊として発売中です。

『大人の東京自然探検』

 また、都内のお勧めの公園をタイプ別で紹介している『大人の東京自然探検』は、エムディエヌ コーポレーションから出ています。

 そしてもう1冊、海外気分を味わいたいかたには、産業編集センターから出版した『いちばん探しの世界旅』という本がおすすめです。読むだけで世界の国めぐりが楽しめるエッセイとなっています。

『いちばん探しの世界旅』

 いずれも詳しくは吉田さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎吉田友和さんHP:http://tomotrip.net

「SDGs〜私たちの未来」エコな暮らしを楽しくお洒落に〜ゼロウェイスト「ミニマルリビングトーキョー」

2022/2/13 UP!

 今週はシリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第6弾! ゲストは、ゼロウェイスト・セレクトショップ「ミニマルリビングトーキョー」の赤井エリさんです。

 オンラインショップの「ミニマルリビングトーキョー」では、環境や健康に徹底的にこだわった商品を販売、特に子育て世代のママや、エコ意識の高い女性に大好評なんです。

 そんなショップの共同代表、赤井さんにお話をうかがいながら、エコな暮らしを、お洒落に楽しく続けていくにはどんなことが大事なのか、一緒に考えていきたいと思います。また、おすすめのエコな生活用品やコスメなど、耳寄りな情報もお届けします。

☆写真協力:ミニマルリビングトーキョー

キャプ:共同代表の赤井エリさん(右)と同じく千葉エリナさん
キャプ:共同代表の赤井エリさん(右)と同じく千葉エリナさん

「つくる責任 つかう責任」

 赤井さんにお話をうかがう前に、少しだけ「SDGs」のおさらいです。SDGsは「SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の頭文字を並べたもので、日本語に訳すと「持続可能な開発目標」。

 2015年の国連サミットで採択され、2030年までに達成しようという目標=ゴールが全部で17設定されています。その範囲は飢餓や貧困、環境問題、経済成長、そしてジェンダーに関することまで、いろいろな課題が入っています。
きょうは17設定されているゴールの中から「つくる責任 つかう責任」について考えていきましょう。

 きょうのゲスト、赤井さんは、2019年6月に共同代表の千葉サイナさんとふたりで、ゼロウェイストにこだわったショップ「ミニマルリビングトーキョー」を立ち上げ、子育てをしながら、日々奮闘されています。販売している商品は、キッチンやバスルーム用品から、エコバッグやコスメなど、およそ70種類。どれもお洒落で素敵なんです。

写真協力:ミニマルリビングトーキョー

お店、やっちゃおう!

※それでは赤井さんにお話をうかがっていきましょう。まずはショップのコンセプト「ゼロウェイスト」について。改めて、どんな意味があるのか、教えてください。

「ゼロウェイストの本当の意味というのが、まずゼロは数字のゼロ、何もない状態を表していて、ウェイストは英語でゴミのことを表しています。ゼロウェイストって造語なんですけど、ゴミがない状態を表しているんですね。

 私たちが普段生活している中でゴミってどうしても出てしまって、それはしょうがないことなんですけど、ゼロウェイストのコンセプトを基にしていると、そもそも最終的にゴミになってしまうようなものを、自分の手に持たないっていうことなんですね。

 だから例えば、何かものをひとつ買う時に、これって最終的にどういったものになるんだろうって考えて、ずっと使えるのかな、それともいずれゴミになってしまうのかなって考える。で、ゴミにならないようなものを使う、もしくは生産する。生産者側にも言えることなんですけど、それを全部まとめてゼロウェイストっていう言葉の意味になっています」

●ゼロウェイストをコンセプトにしたセレクトショップを始めようと思ったきっかけは何だったんですか? 

「いろんな人に聞かれて、必ず私もパートナーのサイナも、”ノリだったんだよ”って話をよくするんですけど、そもそも私たちは学生時代に留学先のカナダで知り合っているんですね。
 その時に普通に友達として仲良くしていて、お互いにもともと、例えばサイナは大学でアグリカルチャーやオーガニック農法を専攻していたので、そういうことにすごく詳しかったのと、私も環境問題にちょっと関わるような授業を受けていたり、卒業後もそういう仕事に少し就いたりしていたので、もともと興味があったんですね。

 私たちが住んでいたバンクーバーは、2010年に(冬季)オリンピックを開催した都市で、世界で最もグリーンな都市って言われているんですよね。
当たり前のようにダウンタウンのビルの上がルーフガーデンになっていたり、当たり前のように野菜が、オーガニックのものや裸売りのものが買えたり、あとは量り売りも当たり前にあったりっていう中で暮らしていたので、ふたりとも日本に帰国したあとに、すごく逆カルチャーショックみたいなのを受けてしまって・・・。

 今まで当たり前に買えていたものが何も買えないよねってなって。かつお互いにひとり目の子供が生まれ、子育てをする中でも、やっぱり何か良いものって手に入れづらいね。その良いものっていうのは、高くて良いものではなくて、本当に体に良いものとか、環境に良いものは手に入りづらいよね。

 でもきっと、こういう思いしている人って、私たちだけじゃないよねっていう話をしていて、“じゃあ、お店やっちゃう!?”みたいな感じで(笑)。だってお店があったら困ることなく必要なものが全部そこで買えるし、自分たちの問題も解決するよねみたいな感じで、“やっちゃおう!”って言って、1週間後に会社を立ち上げていました」

(編集部注:ショップをノリで始めたとおっしゃっていましたが、勢いと熱意を維持しながらも、ビジネスとして継続させるために、販売する商品のリサーチやセレクトには、ものすごく時間をかけたそうです。ショップのサイトを見ると、そのこだわりが伝わってきますよ)

写真協力:ミニマルリビングトーキョー

環境アクションのきっかけに

※ショップの名前「ミニマルリビングトーキョー」には、どんな思いが込められているんですか?

「これも結構悩んだんですよ。 すごく名前がシンプルで悩む余地もないんじゃないかって感じなんですけど・・・それこそシンプルリビングがいいかな〜、オーガニックリビングがいいかな〜、それともゼロウェイストがいいかなとか、すごく色々考えて、日本人でも分かる英語、かつ覚えやすい名前にしようと。

 実は”トーキョー”を付けたことにすごく意味があって、私たちの事務所が今、東京ベースなんですけど、東京ってすごく都会っていうイメージがあって、みんなが忙しなく働いていて、環境に対する意識とか、何かを頑張ろうっていうのもすごく大変な感じがするんですよ。

 都会に住んでいるとゴミが出ちゃうとか、何かそういったイメージを覆して、東京という世界屈指の大都市に住んでいるからこそ出来るサステナブルなアクションがあるよっていうことを発信したかったので、トーキョーって名前を最後に付けて、ミニマルリビングトーキョーにしました」

●へ〜〜、そういった思いが込められているんですね! 販売しているエコな商品に赤井さんと千葉さんのメッセージも込められているんですよね? 

「そうですね。もちろん会社のミッションとしてもあるんですけど、私たちのいちばんの目的は、私たちが取り扱っているものを通して、ひとりひとりの人が、環境アクションってこんなに簡単なんだとか、めちゃくちゃ楽しんで出来るんだ、みたいなきっかけや気付きを持ってほしいっていうところがいちばんなんです。

 そこからそれぞれの人が考える力が出てきて、色んなことへのマインドがちょっと環境に優しいものだったりにシフトしていく、そういうことが出来るようになるんですよね。

 何かひとつでも環境に配慮したものを自分の生活の中に取り入れることで、そういった考えに変わっていく人がどんどん増えていくことで、日本が変わっていくとか、世界が変わっていくとか、本当にそういうことに繋がるから、そんなマインドシフトのきっかけになりたくて、こういうショップを運営したいねっていうことにもなりました」

(編集部注:「ミニマルリビングトーキョー」では、国産も販売していますが、主なものはアメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、そして台湾などから輸入した商品だそうです)

商品選びの妥協のないこだわり

※販売する商品を選ぶときのポイントというか、こだわっているのはどんなところですか?

「ここはすごくこだわっているので、かなり基準が高いんです。まず、もちろんプラスチックフリー。使い捨てプラスチックや石油ベースの原料を使っていないものを中心に取り扱っているんですね。

 だから例えば、中身の原材料がすごく良いものでも、結局使い捨てのプラボトルに入っていて、そのプラスチックの原料がバージンプラスチック、リサイクルされているものでもなくて、本当に石油から作られた新しい製品だったりしたら、もうそこでブッブーってなっちゃうんです。

 あとは例えば、製品を使い終わったあとに土に返せるかどうかもすごくポイントが高くて、コンポストできるかどうかってことですよね。容器とか製品自体を土に埋めた時に最終的に堆肥にできるかも高いポイント。もちろん小物雑貨が多いので、耐久性と実用性は必須で、これエコな商品だから、使いづらいけど、しょうがないよねっていうのはないようにしているんですね。

 だから初めて使った人が、それがエコな製品かどうかを分からないぐらい、従来のものと変わらない、もしくはそれ以上の実用性と耐久性があるものを探していて、この辺がやっぱり製品の特徴なんですね。

 あとは日本に既にあるかどうか、珍しいもの、話題性があるものかどうか。結局、最終的に使っていて気分が上がるかどうかなので、見た目が可愛いとか、かっこいい、お洒落とかもすごく大事です。やっぱりそれって続けられるポイントにもなるし、色んな人の目に留まることにもなるっていうポイントもあるので、それもすごく大事ですね」

●ご自身で使われて、試してみてっていうこともあるんですか? 

「そうですね。大体サンプルを取り寄せて、ものによってですけど、コスメだとやっぱりお肌とかにつけるものなので、数ヶ月間試してみて、かつ自分たちだけじゃなくて違った肌質の人とか、違った生活態度をしている人とか、色んな人に試してもらってどうかなっていうのがありますね。
 それで結局やっぱり駄目だったねっていうものももちろんあるし、これならいけるねっていうものが、今オンラインのストアに並んでいるものですね」

ベストセラーは固形の食器用洗剤

写真協力:ミニマルリビングトーキョー

※特にどんな商品が売れていますか? その特徴も含めて教えてください。

「今いちばん人気は固形の食器用洗剤なんですけど、こちらはリピーター率がとても高いっていう意味で、すごく人気の高い商品です。
 やっぱり液体から固形にスイッチするって結構チャレンジングなことなんですよね。いきなり固形!? みたいな・・・でもみんなちょっと試してみて、そうしたら、すごくびっくりした! っていう感想をよく聞いていて、みんなすごく使いやすいと言って使ってくれているのが食器用の固形洗剤です。毎日使うものだし、本当に使えるものじゃないと意味がないので・・・あと最近だと、若い女性の層でも環境に対する意識がすごく高まっているのもあって、メイク用品がすごく人気ですね」

●固形の洗剤ですけど、手を洗う時の固形の石鹸ではなくて、食器用の洗剤が固形ってことですよね? 

「そうなんです。普通にボトルの洗剤をスポンジに付けていたように、固形の洗剤にスポンジを擦り当てるだけで泡立って、そのままお皿が洗えるっていう使いかたですね」

●やっぱり容器も今まではゴミになってしまいましたよね。

「プラボトルがやっぱりネックで、多くのものが実は再利用されていない、リサイクルされていないっていう現状ももちろんありますね。日本はすごくプラスチックのリサイクル率も低いので、根本からそういうところも変えていくのにすごくいいアクションかなと思います」

●コスメ用品でいうと、特に売れている商品はありますか?

写真協力:ミニマルリビングトーキョー

「今人気が急上昇しているのが、今年に入ってから入荷した新製品なんですけど、アイシャドーパレット。3色のパレットになっていて、それが3種類あるんです。容器がワインのコルクをリサイクルして、それをアップサイクルして、その容器にアイシャドーを入れていて、箱も再生紙で出来ているんですね。そのコスメが、要はチークとかシャドーとか全体的に使えるもので、かつ動物性の原料を一切使ってないヴィーガンのメイク用品なんですね。

 もちろん製造過程で動物実験をしていない。環境を汚染するような原料、例えばパームオイルとかそういったものを使っていない。人工的な着色料や香料も一切入っていないものなので、すごくクリーンなメイク用品っていう感じで、発色がすごく綺麗なんですよ! ぜひサイトで見てもらいたいんですけど、メイクにこだわるかたでも気に入ってもらえて、今それが人気急上昇中ですね」

※ほかに今、特におすすめの商品はありますか?

写真協力:ミニマルリビングトーキョー

「例えばスキンケアにすごく興味があるかたとか、化粧水、乳液だなんだって色々使っていて、もう大変みたいな感じの人におすすめなのが固形のセラムバーです。セラムって美容液なんですね。

 もともと高級美容液として知られているもので、皮膚を活性化させて、お肌を蘇らせる機能があるんですけど、結構な確率ですごく立派な瓶に入っていたりとか、キャップもすごく重めのプラスチックで、中身はちょっとだけ。それでも、ものすごく高いのが割とセラムなんです。うちのオンラインストアでもそのセラムは扱っていて、ただこれは固形なんですよね。

 水分を省いて凝縮した固形のバーで、それを直接肌に当てて塗っていくんですね。先ほど言ったように、例えばヴィーガンであったりとか、動物実験を一切していない、オーガニック成分を使っている、天然オイルがベースだったりするなど、色々こだわりの過程を経て出来上がったセラムバーで、これを使っていると化粧水とか乳液とか全部いらないんですよね。

 だから自分の普段の生活がこの3センチ×3センチぐらいの小さい缶に収まるぐらいのスキンケアで済むっていう、すごくミニマリストであり、シンプルであり、でもお肌の状態をよく保ってくれます。

 私たち結構これを気に入っていて、私も割とアウトドア派でキャンプに行ったりとかするので、そういう時にさっと持っていけてっていうのもすごく便利で、詰め替えとかもあるので、ゴミが増えない、容器をずっと繰り返し使えるっていうところもすごくいいポイントですね」

(編集部注:当番組のパーソナリティ小尾さんがショップのサイトを見て、特に気になったというのが「キューボトル」と「バンブーシリコンの綿棒」。

写真協力:ミニマルリビングトーキョー

「キューボトル」はプラスチックフリーの水筒で、飲み終わったら、半分の大きさに縮めることができるんです。「バンブーシリコンの綿棒」は、使い終わったら、洗って何度も使えます。ぜひチェックしてください)

やろうよ、みんな一緒に!

※今やエコバッグやマイボトルは当たり前になってきたと思いますが、エコなことや、ゼロウェイストな活動は、ちょっと面倒だったりすることもあるかな〜と思います。長続きさせるコツがあれば、教えてください。

「本当に色んなことが凄くシンプルなので、そんなに難しく捉えないでほしいんですよね。私がこれをやらなきゃ地球が壊れる!とか、そうやって思っている人はもちろん全然いいんですけど、そういうプレッシャーを感じるよりかは、まず楽しむことがいちばんだと思うんです。自分が気に入ったやりかたとか、これだったら無理せず出来るなっていうものを取り入れるのが、本当にいちばん大事なことだと思うんですよね。

 やっぱりエコなアクションとか、ゼロウェイストって考えると、ちょっと引き気味になってしまったりとか、ちょっと面倒くさいかな〜って思ったりすると思うんですね。

 面倒くさいって思うか、それを便利と思うか、今私たちの心理自体に問いかける必要があって、当たり前に毎日消費しているものとか、自分のとっている行動、そのひとつひとつが環境や自分の子供たちの未来に、どういう風に影響するかなって真剣に考えた時に、同じ選択って多分出来ないと思うんですよね。

 だから自分の当たり前を何かひとつでも覆すことで、新しい扉も開くし、新しい自分にも出会えるし、きっとそういうことで生活が多分変わっていくと思うんですよね。

 ゲーム感覚でいいんですよ、ひとつひとつ・・・”きょうマイボトル、クリア!”とか、”今週ビニール袋を1枚ももらわなかった、クリア!”とか。特に小さい子供がいるご家庭だったら、そういう感じで子供とも楽しめるし、自分にとってもいいリマインドにもなるし、とにかくなんでもいいからやってください! っていうのはいつも言ってますね。

 やるかやらないかって、誰でもやれるっていう選択肢があるから、やらないっていう理由はないんですよね。だからなんでもいいからやろうよ! みんな一緒に! っていう感じで出来たらいいですよね」

 今回はSDGsのゴールの中から「つくる責任 つかう責任」について考えてきましたが、プラスチック・フリーな生活は「海の豊かさを守ろう」にもつながりますし、パームオイルを使ってない商品を選ぶことは「陸の豊かさも守ろう」にもつながると思います。私たち消費者の日々の選択と本物を見極める目が大事だなと改めて思いました。あなたはどう思いますか。


INFORMATION

 「ミニマルリビングトーキョー」では環境や健康に徹底的にこだわって選んだ商品が販売されています。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。

 「ミニマルリビングトーキョー」はオンラインでの販売がメインですが、ユーザーさんと直接やりとりができるイベントなどに、月一回程度で出店しています。今月2月は16日から22日まで、新宿伊勢丹本館1階で開催される「マザーチャレンジ」に出店。3月は横浜・日出町で開催されるマルシェにも出店する予定となっています。
 なお、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、延期または中止になることもありますので、お出かけ前にチェックしてくださいね。

◎「ミニマルリビングトーキョー」HP:https://minimal-living-tokyo.com

山村の活性化にもつながる森林レンタルサービス「フォレンタ」

2022/2/6 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、岐阜県東白川村(ひがししらかわむら)で林業と製材業を営む「田口房国(たぐち・ふさくに)」さんです。

 田口さんは1977年、岐阜県東白川村生まれ。学習院大学を卒業後、家業の林業・製材会社に就職。2007年に三代目社長となり、会社名を「山共(やまきょう)」に変更。理念は、会社名そのもので「山と共に、あしたをつくる」としています。

 そして、仲間とともにおよそ400ヘクタール、東京ドーム100個分の、会社の山林を管理。木を植え、育て、伐採し、板や柱などを作る仕事を日々進めていらっしゃいます。ちなみに田口さんのキャッチフレーズは「カントリージェントルマン」なんですよ。

 田口さんは、キャンプ好きに向けた森林レンタルサービス「forenta(フォレンタ)」を2年前に始め、アウトドア派だけでなく、全国の林業関係者からも注目を集めています。

 きょうはそんな田口さんに「フォレンタ」のシステムや特徴、そして林業や山村への思いについてお話しいただきます。

☆写真協力:田口房国

田口房国さん

東濃ヒノキの産地

※森林レンタルサービス「フォレンタ」のお話の前に、田口さんが生まれ育った、岐阜県東白川村はどんなところなのか、お話しいただきました。

「岐阜県には村がふたつしかなくて、ひとつはこの東白川村、もうひとつは合掌造りで有名な白川村があります。名前は東が付くか付かないかの差なんですけれども、場所は全然違っていて、東白川村には合掌造りの家はありません。
 昔はよく間違えて、こっちに来られるかたがいらっしゃったので、申し訳ないという気持ちがありましたね。周りは自然に囲まれていて、下呂温泉なんかも近くて、人口が2000人くらいの本当にほのぼのとしたいいところだと思っています」

写真協力:田口房国

●木曽地方の木材の産地なんですよね? 

「そうですね。木曽というのは厳密には長野県のほうを言います。ただその長野県と隣接しているような場所ですので、こっちのほうを裏木曽って言うんですけども、木曽の裏側というような感じですね。そのような場所です」

●主な木はなんですか? 

「やっぱり有名なのはヒノキですね。木曽ヒノキが元々有名ですけれども、このあたりは岐阜県美濃地方の東のほうなので、東濃という地域で呼ばれます。ここのヒノキを東濃ヒノキと言い、これもひとつの銘柄材として有名です。このヒノキとかスギのような針葉樹ですね。建築用材に使われる材料、この辺が有名かなと思います」

●ずっと昔から森作りの技術や文化が、受け継がれてきているような場所なんですか? 

「そうですね。うちの近くには神宮備林という伊勢神宮を建てるための専用の山、これ国有林ですけれども、そういうものもあったりして、江戸時代、もしくはそれ以前、昔からの木材の産地ということになっています」

●現在の林業が置かれている状況は、どうなんでしょうか? 

「日本全国、同じようなものかもしれませんけれども、木というのは育てるのにやっぱり50年とか100年とか、そういう時間が必要なんですね。それを維持しながら、その時その時でそこに携わる人たちがちゃんと稼ぎながら、人を入れながら、新陳代謝を図りながらやっていくという意味では、短期的にも長期的にも見ていかなければいけない仕事ですので、そういったところは非常に難しいかなと・・・。

 木材の単価そのものが昔に比べると、かなり下がっているというところもありますし、肉体労働でもあるし、天気に左右される仕事でもあります。そういったところからなかなか、なり手が不足していたりとか、色々な問題があるかなと思います」

写真協力:田口房国

山林購入はハードルが高い。ならばレンタル!

※会社の事業として2020年に森林レンタルサービス「フォレンタ」をスタートされました。このアイデアを思いついたのは田口さんですよね。何かきっかけがあったんですか?

「自粛期間がありましたよね。感染拡大が始まって最初の年の4月から6月あたりですかね。僕自身もあまり外に出ることなく、家でYouTubeを見たりとかしていました。その時にキャンプが最近流行っていると・・・ソロキャンプだとか色んな形で流行っているよっていうのを見ました。

 キャンプをしたいがために、山林を購入されるかたも増えているというのを見た時に、山林の購入はやっぱりハードルが高いというか、購入したあと、その山林に対して、単に自分の持ち物というだけではなくて、社会的な役割も山林というのは持っています。そういったところの責任の問題であるとか、もちろん登記とか税金の問題とか、諸々のことを考えていくと、山林を購入するというのはハードルが高いんだろうなということを思いました。

 でも一方で、一般のかたが森林に足を踏み入れてくれることは、僕としてはとても歓迎すべきことであると思っているので、それならレンタルという形をとれば、山側の人もそれを利用したい側の人も、両方にとっていいんじゃないかなとひらめいたというか、思いつきましたね」

写真協力:田口房国

●森林のレンタルサービスって本当に面白いなって感じたんですけれども、実際スタートするまではなかなか大変だったんじゃないですか? 

「そうですね。実際に森林をレンタルするというサービスは、それまで日本ではなかったと思います。僕もそういう事例がないか(ネットで)調べたんですけれども、やっぱりヒットしませんでした。
 そんな中、その仕組みをどう作るかがいちばん悩んだところというか・・・実際に借りてくれる人もいるかどうか分からないので、とりあえず自社林で試しにやってみて、その反応を見ようかなと。そんな感じで、とにかくやってみようと思ってやりましたね」

●募集をスタートしたのはいつ頃だったんですか? 

「2020年の11月に募集を始めましたね」

●反響はいかがでした? 

「先ほども言いましたように、まったく今までにないサービスですし、もちろん知名度もゼロからのスタートでしたので、本当にどれだけ人が来てくれるのかなというのが不安でした。

 とりあえず自分の山を17区画に区切って、17人の物好きさんがいてくれればいいかなと思って募集を始めました。募集期間は1か月半くらいとっていたんですよ。そうしたら最初の1週間で、エントリーが100組を超えて、なんかものすごく来た! と、逆にちょっと焦って、1か月半もやったら大変なことになるなと思って、1か月に短縮しまして、11月いっぱいまで。1か月募集して、最終的には444組のエントリーがありましたね」

(編集部注:ここで「フォレンタ」のシステムや使用料について説明しておきましょう。岐阜県東白川村の田口さんの山林の場合は、ひと区画300坪、年間の使用料は66,000円、月割りにすると5,500円。借りるほうからすると、これは安いですよね。田口さんいわく、山林の所有者にとっては、こんなにもらっていいの、という金額だそうです。この料金設定は両者にとっていい価格帯ではないかともおっしゃっていました。

 使用する際のルールについては、借りた区画内の細い木は伐ってもよく、キノコや山菜なども採っていいそうです。焚き火もOKですが、直火は禁止。焚き火台などを使い、延焼を防ぐ手立てはしっかりしてくださいとのこと。スギやヒノキを植えた大事な山林をお借りするわけですから、火の取り扱いに十分に注意するのは当たり前ですよね。「フォレンタ」のシステムやルールなど、詳しくはオフィシャルサイトhttps://www.forenta.net/ をご覧ください。

フォレンタが集落に!?

写真協力:田口房国

※「フォレンタ」ならではの特徴というと、どんなことがありますか?

「やっぱり年間契約というのがいちばん大きな特徴かなと思っています。年間契約ですので、チェックイン、チェックアウトだとか、予約というものが利用者様にとっては必要がないんですね。
 例えば急にきょうキャンプしたいな〜って思い立っても来ていただけますし、もちろんいつ帰っていただいても構いません。まず、そういう気軽さというのがあるかなと思います。

 あと、これ僕自身も想定していなかったことなんですけども、最初は山を借りたかたがテントを持ってきて、泊まって帰っていく、普通のキャンプをされていくんだろうなって思っていたら、そこに皆さん、いわゆるブッシュクラフトというか、物を作り始めたんですね。

 落ちている木を拾ってきて、柵を作ったりとかデッキを作ったりとか、もしくは小屋のようなものを作ったりとかして、だんだんひとつの集落が出来上がってきているような、なんかそんな感じなんです。
 1泊2日で帰るようなところだったら絶対無理ですけれども、1年間借りていられる、1年後に更新すればもっと借りられますけれども、そういう長期スパンで同じところを借りていられるっていうところから、皆さん色々なものを作り始めていると、自分だけの秘密基地のようなものを作り始めている、これがフォレンタとほかのキャンプ場の大きな違いじゃないかなと思いますね」

写真協力:田口房国

●実際、利用されているかたの反応はどんな感じですか?

「そうですね・・・このフォレンタの場所は、本当に電気も水道もない、全然設備が整っていないところなんですね。仮設トイレをいくつか置いているというくらいの設備しかなくて、本当に、ここに何で皆さん来てくれるのかなっていうのが僕自身も不思議だったんですね。
 僕自身も度々(様子を)見に行きまして、ご利用者さんとお話ししていく中で、皆さん、ここのどこがいいんですか? って聞くと、いちばん最初に出てくるのは、静かなところっていうふうに言っていただけるんですね。

 ご利用されているかたは、このあたりで言うと名古屋とか、もしくは東京や神奈川からもいらっしゃっているかたもいるんですね。やっぱり日常、どうしても喧騒というか、なんらか音が溢れているところで生活をされていて、週末くらいは静かなところで、自分だけの時間を過ごしたいというようなところが、いちばんニーズとしてあったのかなと。
 僕らにとってみれば、静かすぎてごめんなさいという感じですけど、そういうところがよかったのかなと思いましたね」

(編集部注:実は田口さん、キャンプの経験がほとんどなかったので、だれかにキャンプの大事なポイントを教えてもらいたいと、YouTubeで調べていたら、以前この番組にも出てくださった、岐阜県出身のさばいどる「かほなん」さんを見つけ、アドバイスをお願いしたそうです。かほなんさんは快く引き受けてくださり、現地にも来て、いろいろアドバイスをしてくださったそうですよ)

ドイツでは、森林はみんなのもの!?

※田口さんは以前、ドイツの山岳地帯シュヴァルツヴァルト、これはドイツ語で「黒い森」という意味があるんですが、そんな針葉樹の森が広がる場所に視察と研修のために行き、いろいろ見て回ったそうです。滞在中に、なにか発見というか、参考になることはありましたか?

「いちばん驚いたのは、ドイツの人って休みの日になると、みんな森林に遊びに行くんですね」

●へぇ〜! 

「もちろん、みんながみんなじゃないでしょうけれども、多くの一般市民のかたが森林に自由に入っていって、そこでハイキングを楽しんだりバーベキューをしたり自転車に乗ったりだとか、そういうことをされているんですね。そこにいちばん驚きましたね。日本もすごく森林は多いんですけれども、日本でそういう光景って見たことないなと。

 僕も田舎に住んでいますけれども、そういう光景は全然見なくて、一般の人が森林に気楽に入れるのが、僕らの木材産業にとってみても、そういう文化があるのがとても心強いことですし、森林が一般の人に必要とされているんだなっていう、それがすごく伝わってきたんですね。

 もちろんそこに仕組みだとか法律だとか、そういったものが整備されている背景もあるんでしょうけれども、そういうのが日本でも実現できるといいなと思ったのも、このフォレンタを始めたひとつのきっかけですね」

●森林が日常の一部になっているんですね。

「そうですね。日常の一部ですし、みんなのものであるという意識が高いんですね。ドイツも森林は個人が所有しているものでもあるんですけれども、同時にみんなのもの、公共のものということで、自由に森に入ってもいい権利というのがちゃんとあるらしいんですね。それって素敵だなって思いましたね。

 どうしても日本だと、個人所有の森林には勝手に入っちゃダメ! って、個人のかたが、どこか強くなっちゃう部分があったりするんですね。歴史的なバックグラウンドもあるんでしょうけれども、ヨーロッパのかたがたのそういう感覚って素敵だなって思いましたね」

山村に自信と誇りを

※「フォレンタ」のサイトで知ったんですが、静岡にも「フォレンタ」があるんですね?

「はい、そうです。この仕組みをフランチャイズにしようと思いまして、その第1号として、静岡の伊東市で”フォレンタ静岡”として、去年の暮れにオープンしましたね」

●今後は色んな場所で展開していくという感じなんでしょうか? 

「はい、もうすでに日本全国から、うちの山でも出来ないかな? というようなお問い合わせを毎日のようにいただいています。こういう風に山を活用したいという山主さん側のニーズというか希望もありますし、山を利用したいという利用者様側のニーズもありますので、それにお答えするような形で、どんどん広げていければ嬉しいなと思っています」

写真協力:田口房国

●山村地区が抱えている問題の解決にもつながりそうですよね。

「そうですね。このフォレンタという事業が、単に今キャンプブームだから、それに乗っかってというだけではなくて、僕自身の思いですけれども、森林が今まではそこに生えている木材の価値でしか、はかられてこなかったんですね。

 僕も木材を取り扱う仕事をしていますけれども、木材の価値が下がったことによって、森林の価値が下がってしまう・・・この東白川村は90%が森林ですけれども、森林の価値が下がるということは、この山村の価値そのものが下がってしまうというふうに思ってしまうんですね。

 山村の価値が下がるということは、そこに住んでいらっしゃるかたがたが、みんな自信だとか誇りだとかを失って、例えば子供に、もうこんなところに住まないほうがいいぞと。大人になったら名古屋へ行け、東京へ行けとか言って、どんどん(子供を)送り出して、過疎化が進んでいってしまう・・・そういう悪循環になってしまうと思っているんですね。

 でも、一方で森林の価値は木材だけじゃなくって、こういうキャンプ利用もそうですし、そこにまだまだたくさんの魅力があって、恵みがあって、そういったところを再認識出来れば、自ずと森林の価値の高まりにつながっていきますし、それが地元に住んでいる人たちの自信とか誇りにもつながっていくと思うんです。

 だからやっぱり、この森林というものに、新しい価値を見出すことで、この山村地域そのものが自信や誇りを取り戻して、また盛り上がっていってくれればいいなというのが僕の思いですね」


INFORMATION

写真協力:田口房国

 田口さんはいわく、山村には、森が醸し出す空気、水、そして雰囲気がある。「フォレンタ」を通じて、都会のかたが山村にもっと来ていただけるような、そんな仕組みづくりをしていきたいともおっしゃっていました。

 「フォレンタ」について詳しくは、オフィシャルサイトをご覧ください。

◎「フォレンタ」HP:https://www.forenta.net/

 田口さんは林業や製材業の仕事のほかに、ふるさと東白川村の文化や暮らしを広く発信する活動もされています。ぜひ田口さん個人のサイトも見てくださいね。

◎田口房国さんHP:https://www.fusakuni.com/

地球は最高の芸術家〜辺境に住んで、感動を撮る写真家〜

2022/1/30 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、写真家の「野村哲也(のむら・てつや)」さんです。

 野村さんは「地球の息吹」をテーマに、主に辺境や秘境といわれる、人がほとんど立ち入らないフィールドで撮影を行なっていらっしゃいます。

 きょうはそんな「野村」さんに、移住生活をしながら撮影するスタイルや、強く印象に残っている世界の絶景のお話などうかがいます。

☆写真:野村哲也

野村哲也さん

星野道夫さんとの出会い

※1974年、岐阜県生まれの野村さんは高校生の頃に、お兄さんの手ほどきで山登りと写真を始めたそうです。そしてなんと、いまなおたくさんのファンがいる写真家星野道夫さんに出会います。

 やはり星野さんとの出会いは、その後を決定づけるものだったんですか?

「星野道夫さんに会った時は、僕は20歳で星野さんは41歳だったと思うんです。とにもかくにも星野道夫というその背中の大きさを・・・写真の撮り方とか教えてくれるんではなくて、写真家とは何だという背中があまりにも大きすぎて・・・星野さんが亡くなってから色んなかたにお会いしていますけれども、あれ以上の背中のでかい人を見たことがないですね。それを20歳の時に見たっていうのは、やっぱり若かりし頃の自分にも本当に衝撃的だったんだろうなっていうのは、今でも思いますね」

●そういった出会いがあって、写真家になって、定期的に住む場所を変えるという移住生活をしながら撮影されているんですよね? 

「そうですね。星野さんと実際に、自分が重ねられた時間というのは2年しかなくて、2年後に星野さんはロシアのカムチャツカ半島で衝撃的な死を迎えられたんですね。僕としては本当にアラスカに星野さんを追おう、写真もテーマもアラスカでと思っていたんですけど、亡くなってしまって・・・星野さんがいるアラスカが僕は好きだったみたいで、何も手がつかない時に写真の先輩たちから、南極にでも行ってこいよみたいなことを言われたんですよ。

 ペンギンは好きだったので、南極にすごく安く行けるっていう裏技を聞いて、それで行ってみたのが22〜23歳で、南極に2回ほど行かせてもらって、ペンギンの写真集を作りました。

 その時、実は南米のいちばん最南端から南極に行ったんですね。その途中で出会ったパタゴニアの風景、南米のアルゼンチンとチリの南のほうをパタゴニアって言うんですけれども、その風景に惚れてしまって、そこから10年ぐらい通い続けて、やっぱり旅行で、旅で撮れる写真に、ある時、限界を感じてしまい、それであればもう住んでみようと。
 ちょうどその頃、結婚することになって、奥さんと一緒に住んじゃおうということになりました。そこから2年ごとに住処を変えながら、写真を撮り始めるようになったんです」

写真:野村哲也

●今までどんな場所で暮らしてきたんですか? 

「チリの南のほうのパタゴニアで2年間とか、あと南アフリカにも花とか動物の写真を撮るために2年間、またイースター島にも、本を作ろうと思っていたので、全部で6ヶ月ぐらい住んでいました」

●やっぱり住むことで撮れる写真っていうのは、だいぶ変わってくるんですか? 

「まずは、結論は変わります。圧倒的に変わります。でも、そこの土地に自分が染まっていって、僕が変わることで、周りの自然の見え方が変わっていくのか、または自分がそこにいることで、根をおろしたから、仕方がないなっていうことで、自然が僕を受け入れてくれるようになったのか、どっちなのかは分かりません。
 分からないですけれども、明らかに今まで撮れなかった写真、そこの大地が許してくれるような、優しく接してくれるようなことにはなりますね」

地球がNO.1!

※今までに撮影のために訪れた国は、何カ国くらいあるんですか?

「今、国連加盟国は全部で193カ国あるんですけれども、そのうちの150カ国ほどに足を踏み入れています」

●どうやってこの国に行こうとか、撮影場所を決めるんですか? 

「気に入った場所(笑)。でも基本的には僕は、友達にも冷たいやつだって、たまに言われるんですけれども・・・人間も好きなんですが、大好きなんですけれども、それよりも地球のほうが好きなんですよ。
 人間よりも地球のほうに興味があるので、簡単に言ってしまうと、人間が作った最高峰の盆栽と、グランドキャニオンと、どっちが見たいって言われたら、僕は別に盆栽が嫌いじゃないですけれども、やっぱりグランドキャニオンを見たいんですよね。

 地球が創り上げた、盆栽も自然が創り上げているんですけれども、人の手が全く入っていない、地球が創り上げた造形物のほうに僕は興味があるので、そういう造形物が残っているところを重点的に、やっぱり辺境とか秘境とか、皆さんがなかなか行かない自然が多いところ、大自然の中に行きたいというか、そういうところのほうが多いかもしれないですね」

●これまで野村さんが訪れた場所の中で、個人的にここの絶景すごかった! っていう場所を3つほど挙げていただきたいんですけれども・・・。

「もし答えをひとつって言うなら、地球です! 地球があまりにも美しすぎるので、地球がすべてで、地球がNO.1だと思っていますし、地球が最高の芸術家だとも思っています。
 場所を3つって言われると、難しいですけど、まずは地球が創り上げた壮大なもののひとつで、南アフリカにある砂漠が集中的な雨によって花園になるんですよ。それが600キロ続くんですよ。600キロって、東京から岡山まで新幹線に乗って行ったら、左右が全部花園だったら、ちょっとびっくりしません?」

写真:野村哲也

●うわー! すごいですね、そう考えると。

「そんな場所もありますし、この前ちょうどNHKの『ダーウィンが来た』かな。 自分がガイドで入ったんですけれども、ホタル(の乱舞)が100キロ続いたらビビりません?」

●ええ〜! すごい! 

「それ、アルゼンチンにあるんですよ。僕たちの中で絶対そんなのあり得ないっていうものが、地球はそんなにちっぽけじゃないので、爆発的な自然(現象)を産むんですよね。そんなことあり得ないっていうことがあり得るのが地球なんですね。
 もちろんパタゴニアの山々の険しさっていうか美しさもまた絶景ですね。3つ挙げろと言われたら、それですかね」

(編集部注:野村さんに海外でのコミュニケーションはどうされているのか、お聞きしたら、言葉は英語とスペイン語はしゃべれるそうですが、どちらも通じないときは、笑顔とオーバーリアクションでコミュニケーションをとるとおしゃっていましたよ。笑顔は共通言語なんですね。

 野村さんはこのコロナ禍で変わったこととして、みんなが爆笑しなくなったと言ってましたよ。心のことを考えるとマイナスだな〜と心配されています。大自然の中に出かける野村さんは、動物たちと一緒に大笑いしているとおっしゃっていましたよ)

世界に誇れる千葉の宝

※野村さんはいま、新しい本を準備中です。その内容は、国内47都道府県の素晴らしい場所をひとつずつ紹介する、というものなんだそうですが、どんなテーマで選んでいるのか、ちょっとだけ教えていただけますか。

「今回はちょうど今、縄文が数年前からやっぱりブームになっているんですよね。少し前に世界遺産に北海道と北東北(の縄文遺跡群)がなりましたけれども、縄文文化はあまりにも面白くて、そういう目線で僕は47都道府県を見たことがなかったので、新たな目線でまた47都道府県の取材をずっとしてきたこともありましたね」

●例えばどういう場所になるんですか? 

「縄文というのは日本中全部にあったんです。僕たちの持っている死生観とか、あと僕たちの核になっている、日本人ってどういう宗教観ですかって言った時に、もちろん仏教徒とかキリスト教徒とかイスラム教徒とか、色々いらっしゃると思いますけれども、基本的にいちばん近いもののひとつは古神道からきていて、八百万(やおよろず)の神信仰というか、アニミズム信仰というか、全ての巨木、全ての巨石、そこに神を見るっていう、だから僕たち日本人はその全部が神なんですよね。

 周りにいる全てのもの、関わっているものが神様、ひとりだけじゃなくて、八百万信仰で八百万の神がいるっていう、数えられないくらいの神に自分たちは包まれていて、生かしてもらっているっていう文化が日本文化の神髄のひとつだと思っているんです。
 そういうのが実は縄文(時代)からあったことも、縄文文化を学ぶことによって確信したというか、なんて昔の日本は高度だったんだろうっていうことを、遺跡として色んな方たちが必死に守ってきてくれたおかげで、今の僕たちがそれを拝見する、見て学ぶことができるのは非常にありがたいことだなって思いますね」

●例えばベイエフエムの地元千葉だったら、どこを撮影されるんですか? 

「千葉はいいところなんですよ。本当に好きなんです、海も綺麗ですし・・・。僕が今、新しい本で取り上げているのは自然が創ったもので、そんなに有名ではなくて、世界に誇れるものなんですよ、むしろ世界唯一のもの。僕はそれが47都道府県に必ずひとつあると思っています。世界唯一です。日本唯一じゃなくて、世界一と言っていいものです。
 それぞれ47都道府県の世界一が必ずあるんですけど、千葉は自然っていう視点で見た時にちょっと困ったことがあって、でもこれは絶対何かあると思って探していたら、ぶっちぎり世界一のものがありました!」

●え、何でしょう? 

「チバニアンです!」

●あ〜! チバニアン! 

「日本中の名前で、(地質)時代の名前に千葉っていう、チバニアンっていう名前が付けられているのは、日本では千葉しかないですからね。それは世界に誇る、俺たちの県は世界の地質年代の、一部の名前として認定されてんだぞって、千葉人は絶対に自信を持って、異国の方たち、または県外の方たちに胸を張って言うべきですね! とんでもなく面白かったです。
 チバニアン自体の地球が創り上げた本当に美しいアートが、あんな壁面にあんなにくっきりわかりやすく、それもあんなに簡単に見られてしまう。もう僕は本当に奇跡だと思いますよ。千葉の宝だと思います」

写真:野村哲也

思いっきり感動しようぜ!

※野村さんが主催されているディープ・ツアーがありますよね。これはどんなツアーなんですか?

「僕は基本的に海外にいるので、今までにアラスカやら、ペルーのマチュピチュとか、パタゴニアとか、色んな海外のツアーをしてきているんです。今回1年半、日本にほぼ軟禁状態なので、それだったら国内で、自分が大好きなところ=人が全く知らないところ、人がいないところに行くのが僕の仕事なので、旅行や観光情報サイトにはほぼ載っていないところだけを巡るツアーをしています。
 毎月(行き先を)1個ずつ決めて、少し前は沖縄のヤンバルに人をお連れしたんですけど、誰にも会いませんでした(笑)」

●本当ですか!? 

「人が来るところに行かないので(笑)。皆さんにも感動してもらいたくて、来月は高知に行って、実は日本最大の磐座(いわくら)があるので、そこの磐座をみんなで巡ろうとか。
 3月は北海道に、モモンガってご存知ですか? 真っ白くて目がくりくりのモモンガがいるんですけど、普通会いに行くって言ってもなかなか見られないんですよ。でも一応、僕は写真家なので、モモンガの家を7個ぐらい知っているんですよ。なので、ツアーが始まる前に7個のモモンガの家を、コンコンコン、いますか〜? いますか〜? って、いるよって言ったところに皆さんをお連れしようかなとか」

写真:野村哲也

●行き先も内容もディープになっているんですね。

「そうですね。屋久島に行っても縄文杉には絶対行かないとか。でも人が知らない、縄文杉に負けない杉があるので、その杉に会いにみんなで行きましょうとか」

●定番の場所は行かないんですね? 

「一切行かない。だって定番の場所に行っちゃったらディープにならないから(笑)」

●そうか、そうですよね! 面白い、興味深いですね。

「普通、見られないものを見ると、人ってやっぱり感動するんですよね。そのディープツアーには、僕はいつも言っているんですけど、予習は必要ない、予習してこなくて結構ですと。そもそもネットにも載っていないですから、予習のしようがないんですけど。
 載っていたとしても予習なんていらない。僕としては、いちばん何が大切かっていうのは、最初に自分がまっさらな、何も知らない状態で会うファーストインパクト、何も知らなかった時に出会って感動したことって、一生で一度きりしかないんですよ。

 ファーストコンタクトまでに、予習や復習をしていると色んなバイアスがかかっちゃって、つまんなくなっちゃうと僕は思っています。予習は一切してこずにそのままボーンって放り出しますから、放り出したところで自分の五感を最大限研ぎ澄まして、まず感じてほしいと。例えばモモンガがいたら、そのモモンガの可愛らしさにまず感動して大きく心を揺らしてほしい。

 心揺らしたあとにもしかしてモモンガに興味を抱いたら、モモンガの勉強をして復習すればいい、そっちのほうが僕は全然学びとしていいんではないかなと、頭にも定着するんじゃないのかなと思っているんですね。

 実は感動も僕はこのコロナ禍で皆さんが失ったもののひとつ、笑いと同じで失ったものではないかなと思っていて、せっかくだったらおもいっきり感動しようぜ! 感動させる場には自分が連れてったるから! って思ってます」

●いいですね〜!

「そこでゲラゲラ笑えればもう言うことないですよね。感動して笑って、最後に学べれば、僕としては言うことないかなって思いますね」

写真:野村哲也

どう感じるかはお任せします

※改めて写真を通して、どんなことを伝えたいですか?

「多分、写真家の方たちは、自分の写真を見て、こういう風に勇気を与えたいです とか、なんとかを感じて欲しいですとか、そう言う方も多いとは思うんですけど、僕はそんなことは言えなくて、写真を見て感じるのはそれぞれの方たちなので、そこはその人たちにお任せします。

 僕は、僕の写真を見て、こういうことを感じてほしいとか、それは僕の中ではちょっとおこがましいなって。僕はたまたま自分が見て感動した大自然を出来るだけそのまま、そこのエネルギーも気も含めて封じ込めた状態で写真を撮ってきているつもりなので、その気やエネルギーを感じてもらって、皆さんがどう思うかは、当然僕と同じじゃなくていいですし、違って当たり前ですし、何か感じたことを大切にしてもらえれば、僕はいいのかなって思っています」

☆この他の野村哲也さんのトークもご覧下さい。


INFORMATION

 野村さんの写真、そして近況については野村さんのオフィシャルサイト、そしてブログをぜひご覧ください。素晴らしい写真がたくさん載っています。ブログはまめに更新されていて、野村さんがいま何をしているか、よく分かりますよ。

◎オフィシャルサイト:http://www.glacierblue.org/home.shtml

◎ブログ:http://fieldvill.blog115.fc2.com/

 野村さんが主催するディープツアーはいずれも定員に達していて、キャンセル待ちの状態だそうです。なお、新型コロナウィルスの影響で延期または中止になることもあります。

「カーボンニュートラル」徹底解説!〜脱炭素社会がもたらす未来生活〜

2022/1/23 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、“世界でいちばん脱炭素に熱い魂!”脱炭素メディア「エナジーシフト」の編集長「前田雄大(まえだ・ゆうだい)」さんです。

 前田さんは1984年生まれ。2007年に東京大学を卒業後、外務省に入省。2017年から気候変動を担当。パリ協定に基づく国家戦略の調整にも尽力。そして2020年から「エナジーシフト」の発行人 兼 編集長として活躍中です。週末は群馬のご自宅で有機栽培にも取り組む自然派でいらっしゃいます。

 「エナジーシフト」はネットの情報メディアで、脱炭素に関連するニュースが満載! さらにYouTubeチャンネル「エナシフTV」も大人気で脱炭素について熱く語る「ゆーだい」さんの熱量が凄いんです。

 そんな前田さんが先頃『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』という本を出されたということで、きょうはカーボンニュートラルについてわかりやすく解説していただき、さらに脱炭素社会に向けた企業の取り組みや、注目すべき新技術についてもお話しいただきます。

☆写真協力:エナジーシフト

前田雄大さん

カーボンニュートラルとは

※ここ数年、ニュースなどでも多く取り上げられ、最近ではテレビCMでも見るようになったワード「カーボンニュートラル」、カーボンは炭素のことですが、改めて、カーボンニュートラルとは何か教えていただけますか

「今、世界全体で、これは日本も含めてですけれども、気候変動という問題が大きな問題になってきております。この原因が何かと科学者の方々が突き止めた結果、二酸化炭素が問題であると、主要因であるという形に落ち着きました。

 この二酸化炭素は産業革命以後、石油とか石炭とかそういうのを燃やすと当然出るんですけれども、大気中の濃度が濃くなってきているので、これ以上増やしてはならないということになっています。

 ”カーボンニュートラル”というのはどういう状態かというと、例えば、車がガソリンを使って走った時に CO2を排出します。そういった世界全体で出るCO2の量と、例えば、森林のようにCO2を吸収するものがありますけれども、出る量と吸収される量、これがちょうど同じようになれば、大気中のCO2は増えません。

 ニュートラルというのは中立という意味なので、出る量のプラスの分と吸収されるマイナス分、これが等価になるとゼロで中立の状態。これがカーボンニュートラルという状態です」

『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』

●前田さんの新しい本『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』を 拝見しました。なぜ今、このカーボンニュートラルなのか、その理由や背景について改めて分かりやすく解説していただけますか。 

「はい。ひとつには、やはり段々とこの大気中のCO2の濃度が濃くなってきていて、それによってもたらされる地球温暖化、これが進展してきています。今、産業革命以降、地球の平均気温の上昇は1度ぐらい上がっている状況なんですけれども、実は国際社会は、この温度を2度未満の上昇に抑えようということになっています。
 2度とか1度とかだと実感として大したことないんじゃないかというふうに思われるんですが、これが2度上昇するだけでも、生態系とかにもかなり大きな影響を及ぼしたりとか、甚大な影響が出ます。

 今この1度上がった世界でも、日本でも西日本で豪雨が頻発したりとか、ああいうような被害が出るようになってきていて、世界全体でかなり経済活動にもマイナスの影響を及ぼすようになってきていると・・・。

 従いまして、世界全体で自分たちの将来を、子供たちに残していく未来も考えた時に、この気候変動問題にしっかり向き合って対策を取らないといけない、ここが急務になったというところがあります。そのためには、カーボンニュートラルな状態に持っていかなければならないというところがひとつあります。

 あともうひとつは、このカーボンニュートラル、例えば車で言えば、EV(電気自動車)とか、電気で言えば、再生可能エネルギーというのが手段としてあるんですけれども、ここのイノベーションの加速度がすごくなっていて、ここを抑えることが未来の経済社会モデルを作る上において、非常に有益だろうと思われるようになってきています。
 環境的な側面もそうなんですけれども、経済的な側面でも注目が集まってきています。経済成長しながら地球環境もよくなるという両立の論点が出てきたので注目が集まってきていて、カーボンニュートラルにみんないこう、ということになっています」

●経済とか社会の仕組みを変える可能性もあるってことですよね? 

「そうですね。産業革命以後、ずっと化石燃料を燃やしてエネルギーを得るというのがベースになって、普段我々も生活している中で、電気が何由来とかあまり思ったこととかないと思うんですけれども、この電気の成り立ちも変わってくると・・・。

 例えば、太陽光パネルの値段も下がってきていますけれども、それに応じて、その便利度合いというのは上がってきているので、家の屋根に太陽光パネルを載っける、これがそんなに値段が高くなく、今はもう載っけられるようになってきているので、お宅の電気代が下がることにもなってきます。
 結構発電をしますので、災害時に停電をしてしまっても、そういうお宅のところは電気があることになってきたりとか、生活のあり方もだいぶ変わるようになってきています。

  EVも航続距離が延びてきていますので、これを使うと、例えば今キャンプとか流行っていますけれども、キャンプに行った先で、ドライヤーとか普段使えなかったものが車につなぐだけで使えるようになってきたりとか。そういう利便性も増えてきていて、徐々に社会、経済のあり方というのが変わってきています」

(編集部注:日本の国としては2年前に菅前総理が臨時国会で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と発表。カーボンニュートラルと脱炭素社会を目指すと宣言しました。

 野心的な目標として国際的にも評価されたということですが、そこに向かうビジョンともいえる「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」も策定されています。これは前田さんいわく、経済成長していくためのロードマップといえるものだそうです)

EV、モーター、蓄電池

昨年グラスゴーで開催された気候変動に関する国際会議「COP26」でも、世界の国々による温室効果ガスの削減に向けて、いろいろな合意がなされましたが、企業の取り組みがなければ「脱炭素社会」は実現しませんよね?

「そうですね。CO2の排出はやはり企業から出ている部分がかなり多いというところもあります。商品やサービスを提供するのはやっぱり企業ですので、我々が利用するようなサービスで、例えばCO2が減っているようなものを提供するかどうかというのは、やっぱり企業にかかってきているところがあって、企業の役割というのは非常に大きいかなと思います」

●例えば、国内の産業分野の中から、脱炭素に向けた積極的な取り組みはどういったところがあるんですか? 

「今、様々な分野で、このカーボンニュートラルに向けたコミットメントというのは出てきています。最近ですと、ニュースで大きく取り上げられたのはトヨタ自動車ですね。”トヨタイムズ”なんてCM でも、水素社会の実現とか、それから話題になったのはEVの戦略、これも本腰を入れて、レクサスなんかも将来的に全部EVにするんだというような話が出てきました。

 やはりそういう有名企業がアクションを起こしているというのは、一般の方々にとっても、”あ、もう脱炭層社会になるんだ!”っていうようなところも、可視化されるという意味においてもいいですし、世界に与えたインパクトっていう意味に置いても大きかったかなと思います」

●トヨタのお話もそうですけれども、様々な企業にとって大きな変化が求められてくるのかなと思うんですけれども、業種によっては追い風となる企業も多いんじゃないですかね? 

「そうですね。追い風としているような企業はやはりいらっしゃると思います。例えば、岩谷産業さんですね。ガスを扱っている会社さんですけれども、水素も元々扱われていたというところがあります。水素となると、日本の第一人者が岩谷さんになります。

 まさにこの脱炭素方針が示されてから、岩谷さんの株価というのはグッと上がったところもありますので、これまで取り組まれてきた水素の知見を活かして、さらに伸ばしていくというような方向性で事業戦略を組まれていると思いますから、追い風にされてビジネスをされているんだと思います」

●世界の脱炭素に向けて貢献する日本の技術もきっと多いですよね? 

「多いと思います。例えば、車もEV化が脱炭素においてはひとつキーとなるんですけれども、そこの中ではモーター、それから蓄電池というこのふたつが結構鍵になります。
 モーターは日本電産という企業が非常に高い技術を持って、世界のシェアを多く取りながらやっているところがありますので、このモーター技術を活かして脱炭素社会に貢献していくという文脈もあります。

 蓄電池も、アメリカではEVとなると、テスラという会社が非常に有名ですけれども、テスラのこれまでの蓄電池のところを支えてきたのは、日本のパナソニックになっています。今は中国、それから韓国の蓄電池メーカーも台頭してきているので、テスラはそういうところとの提携も始めてはいるんです。

  そうは言っても、パナソニックも重要な提携先になっているという意味においては、世界の3強と言われている蓄電池の一角をパナソニックが占めていますので、世界に対して貢献していると言えるんじゃないかなと思います」

写真協力:エナジーシフト

注目すべき人工光合成の技術

※ほかに前田さんが注目している技術はありますか?

「この脱炭素時代、どうしても再生可能エネルギーのように、これまで出ていたCO2を出さないという方向性にいくものが多いんですけれども、カーボンニュートラルの成り立ち、出すほうもあれば吸うほうもあるというところで、注目している技術として、人工光合成というのがあります。

 元々、森林が行なっている光合成、これはCO2を吸収してという話ですけれども、これを人工的に行なうということで、大気中のCO2を活用しながら、別のものを生み出していくというような概念になっています。

 これが本当に経済的にもしっかり成り立つような形で確立されると、いくらCO2を出しても、人工光合成で吸収しきれば、カーボンニュートラルになっていきますので、かなり注目かなと思っています。
 実は日本の企業も東芝さんとかトヨタさんも取り組まれているんですけれども、世界で最高効率を叩き出していたりもしますので、日本が貢献出来るというところもそうですし、出す側を減らすだけではなくて、どうやってそもそもあるCO2を減らしていくのか、これを突き詰めていくと面白いかなと思っています」

●一方で取り組みが遅れている分野で、ここは頑張って欲しいなっていうところありますか? 

「やはりこの脱炭素の流れで、様々なところで取り組みが加速していくことが重要なんですけれども、ベースとなるところで再生可能エネルギーというのがひとつ大きな鍵になってきます。

 今この再生可能エネルギーで、拡大していくとみなされているふたつの分野があるんですが、ひとつが太陽光発電、もうひとつが風力発電になります。いずれも日本の企業の存在感が薄くなってきてしまっています。
 太陽光発電に関しては2005年ぐらいまでは太陽光パネルは世界のシェアNo. 1は日本だったんですけれども、今はもう1%まで下がってしまっていますので、こうしたところは巻き返しをしてもらってと思いたいところです」

カーボンニュートラルが生活を変える!?

※やはり気になるのが、カーボンニュートラルの社会になると私たちの生活がどう変わるのか、だと思います。生活面でどんな変化がありそうですか?

「世界の潮流から申し上げると、実はこの再生可能エネルギー自体が、コストが下がってきているというところがひとつ特色になっています。この流れをしっかり日本も汲むことができれば・・・今は再生可能エネルギーは国民負担になってしまって、電気代を上げる方向にいってしまっているんですけれども、期待したい方向性としては、日本の電気代が再生可能エネルギーの導入によって長期的に下がる、もしこういうことが出来れば、実感値として出てくるかなという風に思います。

 あとは都心と地方で少し変わってくるところはあるかなと思うんですけれども、地方のお宅で太陽光パネルを(屋根に)載せることができれば、今もうそれだけで電気代が下がるようになります。

 そうなってくると、それをEVにためるということが出来れば、今もこの瞬間、実はランニングコストでいうと、EVのほうがガソリンで走るよりも電気で走るほうが安いので、そういうところでお財布にも優しくなっていきます。

 プラスその車にためた電気を使って、家の電気を効率よく回していくというようなことも出てくるようになるかなと思います。車さえあれば、どこでも電気が使えるようになってくると、車のあり方もまた変わってきます。

 カーシェアみたいなことも出てきて、これが例えば、携帯のアプリと連動して、車を持たなくても勝手に車が来るような、車の自動化もこの電動化に合わせて行なわれているところになっていますので、もしかすると交通のあり方も変わってくるかもしれません」

●私たちの生活を振り返ってみると、本当にエネルギーなしでは成立しないですよね。ということはCO2を出さないと生活できないじゃないかって思っちゃいますけれども、カーボンニュートラルは生活全般に関係しているっていうことですよね。

「おっしゃる通りです。今の社会のモデルというのは基本的に何をするにしてもCO2が出る、電気を使おうが車に乗ろうが出るようになっていますので、これがガラッと変わっていく、これが脱炭素トランスフォーメーションと言われている由縁になるんですけれども、ここの前提を変えないといけないというところがあります。今あらゆるところから生活しながら出ているCO2、これが2050年にはゼロになっていくという話ですから、すごいことだなと思います」

※やはり、私たちひとりひとりの意識や行動が大事ですよね。

「今カーボンニュートラルの動きというのは、どうしても国の政策であったり、それから企業の役割であったりというところに焦点が当たりがちなんですけれども、(企業が)供給をするだけではなくて、やはり(消費者から)必要だというニーズが出てきて、歯車が噛み合うような部分もあるかなと思います。

 ひとりひとりの取り組み意識が変わって需要が出てくると、そこに目をつけてビジネスが生まれてくるという好循環になるかなと思います。
 例えば、地方に住んでいるのであれば、屋根置きの太陽光パネルを載せてみるとかもそうですし、都心であっても再生可能エネルギーの電気のメニューというのが、今はもう電力の小売り自由化になっています。

 実は東京電力さんとかの電気プランよりも、再生可能エネルギーなのに安いプランも出ていますので、そうしたものに切り替えていただくというのもそうですし、それから車をEVにしていただくとか、様々あるかなというふうに思います。
 ちょっとでもいいので、そういう意識を持っていただくと、需要のほうが動き始めますので、そういうところに取り組んでいただければなと思います」

●個人ひとりひとりが出来ることっていうことですよね。

「そうですね。そういう取り組みが、例えばそこに目をつけた日本の企業がイノベーションを起こして、そのイノベーションが世界に広がると、世界のCO2を減らす方向にもつながるかなと思います。

 そうなると世界全体の気候変動が、進展が遅くなる、ないしは改善しますので、例えば日本の、西日本豪雨のようなことがありましたけれども、ああいうようなことが減って、未来の社会が安定したものになる、そういうところにも回りまわってつながると思います」

脱炭素メディア「エナジーシフト」

※前田さんが発行人 兼 編集長を務めるメディア「エナジー・シフト」は脱炭素に関連するニュースが満載ですね。どんなところにポイントをおいているんですか?

「やはり多くの方々に情報を届けたいと思っています。単にそこに存在する情報を横流しにするだけだと、面白いと思っていただけないと思いますので、人がより興味関心を示していただくように、これをどうにか面白いと思っていただけるように出来ないか、掛け算をちょっと意識しながら、日々、人の興味関心に脱炭素が掛け算出来るように意識しながら発信をさせていただいています」

写真協力:エナジーシフト

●その「エナジーシフト」から生まれたYouTube チャンネル 「エナシフTV」 では、前田さんが「ゆーだい」として気候変動や再生可能エネルギーなどをテーマに熱く語ってらっしゃいますけれども、パワフルですよね! “世界でいちばん脱炭素に熱い魂”というフレーズが印象的でしたけど、本当に熱いですね!(笑) 

「ありがとうございます! もう暑苦しいくらいです(笑)。(世界は)脱炭素を、地球の温度を下げにいく方向性ではあるんですけれども、私自身は熱量を上げにいっているんじゃないかっていう(笑)」

●すごく上がっていますよね!(笑) 本当に脱炭素に人生をかけているんだなっていう印象がありますけれども。

「はい! 人生、もう完全に全振りして、脱炭素にかけてやらせていただいています」

●今後はどんな発信をされていきたいですか? 

「そうですね。日本もカーボンニュートラルの宣言が出て、2021年には本当に多くの企業から、脱炭素に関するコミットメントが出てくるようになりました。これが2022年は、加速をしていくことになるかなと思っています。

 そうなると、ひとつひとつの単発の情報だけでなくて、これらがどうつながっていくのか、社会全体を網目状に底上げしていくような形にしていきたいなとに思っていますので、そうした形のハブのひとつになれればなと思って、意識しながらやっていきたいなと思っています」

●カーボンニュートラル、そして脱炭素に向けて、改めてリスナーの皆さんにいちばん伝えたいことってどんなことでしょうか? 

「はい。デジタルの世界が、デジタルトランスフォーメーションと言われましたけれども、人々の生活を変えて、それが当たり前になったというのが、今の世の中だと思うんです。それが起きる前は、誰もこういうようなことが起きるとは思わなかったと思います。

 世界は今、脱炭素の流れというのは、単に持続可能な世界を未来に残すというだけでなく、やはり社会、経済のあり方を変えていくというところにありますので、ぜひアンテナを高く・・・そして社会、経済が便利になる方向に、この流れはいくかなと思いますので、それを上手く活用していただきながら、皆様の生活も豊かになっていくといいかなと思っております」 


INFORMATION

60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門

『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』

 前田さんの新刊。脱炭素に向けた国内外の動きや取り組み、そして技術などが、図やイラストでわかりやすく解説。さらにYouTubeチャンネル「エナシフTV」と連動しているので楽しみながら理解できますよ。おすすめです! 技術評論社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎技術評論社 HP:https://gihyo.jp/book


「エナジーシフト」「エナシフTV」

 前田さんが発行人 兼 編集長を務めるネットの情報メディア「エナジーシフト」、そしてYouTubeチャンネル「エナシフTV」もぜひ見てくださいね。「ゆーだい」さんの熱さに圧倒されると思いますよ。詳しくは「エナジーシフト」のサイトをご覧いただければと思います。

◎エナジーシフト HP:https://energy-shift.com

「COP 26」地球温暖化対策、1.5度の希望〜「グラスゴー気候合意」徹底解説〜

2022/1/16 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、WWFジャパンの気候変動の専門家「山岸尚之(やまぎし・なおゆき)」さんです。

 山岸さんは、温暖化に対する国際的な取り決め「京都議定書」が採択された1997年に立命館大学に入学、COP3が開催された京都にいたこともあって、気候変動の分野に関心を持ったそうです。その後、ボストン大学大学院を経て、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして活躍、現在は気候エネルギー・海洋水産室長の責務を担っていらっしゃいます。

 気候変動に関する国際会議、通称COP、正式名称は「国連 気候変動枠組条約 締約国会議」に毎年参加され、もちろん、去年英国のグラスゴーで開催された「COP 26」にも参加し、およそ2週間にわたって会議の動向を見てこられました。

 今回はそんな山岸さんに「COP26」の成果と、今後の課題についてわかりやすく解説していただきます。

☆写真:WWFジャパン

山岸尚之さん

温暖化の計り知れない影響

※ここ数年、異常気象による自然災害が国内外で目立つようになりました。このまま温暖化が進めば、もっと自然災害は増えていきますよね?

「今は大体、産業革命の前から1度くらい世界の平均気温は上がっているんですけど、このまま温暖化が進んで、1.5度とか2度とかになってくると、もっとこうした異常気象が増えてくるっていうのは科学的に予測されています」

●災害だけでなく、作物が育たなくなったりとか、食料が不足したりとか、そういったことも考えられますよね。

「やっぱり気温は農作物にとっても大変大事なファクターなので、それがあまりに高くなってしまうと、今だったらここで育つものが将来育たなくなってしまうとか、そういう被害が考えられています。そのほか感染症が拡大するという危機も懸念されています」

●今、感染症という言葉がありましたけれども、蚊が媒介するマラリアなどの感染症がもっと人間を脅かすかもしれないっていう話も聞いたことがあるんですけれども・・・。

「そうですね。今までだったら蚊があまり多くなかったような場所にも、蚊の分布域が広がっていくことによって、感染症も一緒に広がっていくんじゃないかと懸念されていて、それは日本でも実は懸念されているんですよね」

●平均気温が上昇することで、ほかにどんな影響が出てきますか? 

「端的にいうと、平均気温が上昇すると、北半球では段々と自分たちが住んでいる場所の緯度が上に上がっていく、それに近いわけですよね。だから東京が沖縄みたいな気温になっていくとか、気候的にもそういう風に少しずつシフトしてしまうっていうのがあります。

 それから、いわゆる異常気象だけではなくて、作物に対する被害であったりとか、干ばつが発生する可能性もありますし、異常に雨が降ることもあるし、台風が強力になるみたいなこともあるし、本当にいろんな被害が考えられますね。

 気温が上がるっていうとなんとなく単純な話のように聞こえますけど、やっぱり気候が変わるっていうのはそれだけ自然にとって、そして人間にとっての環境全部が変わることを意味しているので、影響はかなり計り知れないものがあります」

●しかもそれが地球規模ですよね。

「そうですね。カナダのリットンっていう場所で、49度ぐらいの気温が記録されています。そこは夏場でも平均気温20度台なんですよね。そんなところで40何度っていう気温が記録されると、それは元々暑いところで、例えば中東とかで40度とかいくようなところで、49度を記録するのと全然意味合いが違ってきますよね。

 社会のインフラが全然対応できていないわけじゃないですか、そんなに熱くならないんだから普通。そうすると人に対する被害が発生する、熱中症だとかそういった病気にかかってしまう人も増えますし、健康的な被害もどんどん出てくるようになるだろうということが懸念されていますね」 

 このあと山岸さんには「COP 26」の解説をしていただきますが、その前に2015年に採択された「パリ協定」について、ちょっとだけおさらいしておきましょう。

 「パリ協定」とは1997年の「京都議定書」に続く、温暖化対策の新しい枠組みで、「世界の気温上昇を産業革命前に比べて2度より十分に低く保ち、できれば1.5度に抑える努力をする」という世界共通の目標が掲げられました。

 この目標に向かって、先進国だけでなく、途上国も含むすべての参加国が温室効果ガスの削減に取り組むという点で、この「パリ協定」は歴史的かつ画期的な枠組みといわれています。

「グラスゴー気候合意」3つのポイント

写真:WWFジャパン

※実は、COP 26が開催される直前に、国連環境計画がこんな発表をしました。それは、世界各国が温室効果ガスの削減目標を達成しても、今世紀末には世界の平均気温は産業革命前から2.7度上がるというショッキングな報告でした。

 山岸さんは現場にいらして、この報告を各国はどんな風にとらえていたのか・・・何か感じることはありましたか?

「やっぱりここ数年、危機意識の高まりがすごく大きくて、そのひとつは先ほども冒頭でお話があった異常気象が、本当に世界の色んなところで観測されるようになって、温暖化とか気候変動は将来の問題ですっていう雰囲気ではもうなくなってきたんですね。そこで起きているじゃないか! という危機意識が高まって、人的被害も結構発生しているので、どうにかせんとあかんという雰囲気は高まっていたと思います。

 今回の会議には多くの国が首脳クラスを送ったんですよ。日本で言ったら岸田首相、それが120カ国ぐらいが来ていたので、それはやっぱりすごいことですよね。それだけ大事な会議だっていう意識の表れだと思います」

●COP26では「グラスゴー気候合意」というものが採択されました。このグラスゴー気候合意にはどんなことが盛り込まれたんですか? 

「色んなことが書いてあるので、たくさん説明しちゃうと分かりにくくなるので、3つぐらいのポイントに絞ってお話しします。

 ひとつめが、世界全体のゴールがパリ協定にはあって、世界の平均気温を2度より十分低くっていうのと、それから1.5度に抑える努力を追求するっていう文言があるんですよ。有り体に言えば、2度に抑えるのが主目標で、1.5度はある種の努力目標みたいな書き方がされているんですね。

 なんだけど、今回の会議ですごく明確になったのは、やっぱり1.5度に抑えないとだめだよねっていうことに、国際的な合意がされたっていうことでした。グラスゴー気候合意はそういう1.5度の特出しみたいな書き方がされているのが、ひとつめのポイントです。

 ふたつめのポイントは、これもさっきお話ししたことに関わるんですけど、1.5度に抑えましょうっていう風に国際的になったのはいいことなんだけど、でもやっぱり現状の各国の対策は全然それに追いついていないと。だからもう1回強化をするために、来年も見直して持って来てよっていう指令が出たのがふたつめですね。

 3つめは、これは結構意外だったのが、日本の新聞でも話題になったんですけど、石炭火力発電は段階的に削減していきましょうねっていう文言が入ったんですね。国連の会議は各国の主権を尊重するので、普通あんまり国内の情勢について、国内で何をやるかっていうことについてまで、あまり書かないのが暗黙の了解みたいな感じなんですね。

 こういう風に石炭火力発電を、どうするみたいなことを指定して書くのは結構、国連会議としては異例の措置です。でも裏を返すと、今回のグラスゴー気候合意でそれが入ったのは、それだけ国際的に、さすがに石炭火力発電はもうやめていかないとだめだよねっていう合意が出来始めている証拠になりますね。この3つが大きな成果かなと思います」

石炭火力発電を削減!

写真:WWFジャパン

※気温上昇を1.5度にするために、各国にどんなことが課せられたのか、もう少し詳しく教えてください。

「これはやっぱりすごく大変な目標で、 本当に出来るのかな、出来ないのかなっていうレベルでの難しい目標です。端的にやらなきゃいけないこととしては、1.5度に抑えるためには削減目標を強化していかないといけないっていうのがあります。

 もちろん目標を強化するだけじゃなくて、それに伴ってやる対策も強化していかなきゃいけないってことですけど、今回のグラスゴー気候合意で言われているのは、先ほどのふたつめのポイント、来年までにもう1回、各国の2030年に向けての目標を見直してきてよっていう指令と言いますか、要請が出されました」

●温室効果ガスの排出をもう実質ゼロにしないと、1.5度には抑えられないんじゃないかって思いますけれども・・・。

「1.5度に抑えようとした時に、科学的に分かっていることは、1.5度に抑えようと思うと、世界全体の温室効果ガスの排出量、特にCO2の排出量を2050年までに事実上ゼロにしていかないといけないっていうことです。2度だともうちょっとあとでも、60年代から70年代でもなんとかなるかなっていうのが科学的な知見なんですけれども、1.5度にしようと思えば2050年にはゼロにしていかないといけないというのが分かっています」

●そして石炭火力発電ですけれども、なかなか国連の会議で話し合われることではないんですね? 

「そうですね。先ほど申し上げたように、特定の燃料を狙い撃ちにするのは、国連の会議自体ではあまりやりたがらないことなんです。なんだけれども、今回はそれでも敢えてやらなきゃいけないっていうことと、特に議長国だったイギリスがここは(グラスゴー気候合意に)入れたほうがいいと強く押したみたいで、それが功を奏したってところがありますね」

●やっぱり石炭の火力発電は二酸化炭素の排出量が多いっていうことですよね。

「ふたつポイントがありまして、ひとつはCO2の排出量を見た時に、やっぱり原因は化石燃料を燃やしていることなんですね。なんで燃やしているかってエネルギーが欲しいから燃やすわけなんですけれども、その燃やしている化石燃料の中でいちばんCO2の排出量が多いのが石炭なんです。これがひとつめのポイントです。

 ふたつめは、世の中の色んな部門を見た時に、いちばん排出量が多い部門、経済の部門ってどこなのかっていうと電力なんですよね。その電力はやっぱりいちばん排出量が大きい部分なので、対策をしていかなきゃねっていうのがコンセンサスなんです。

 だからいちばん排出量が大きい部門の、いちばん排出量が大きい燃料を、まずはどうにかしましょうっていうので、石炭火力発電はまず最初にやめていかないとだめだよねっていうのが、国際的なコンセンサスになってきていることですね」

●日本は火力発電に依存していますよね? 

「そうですね。特に震災で原発が止まって以降、火力発電に対する依存度が高まっていて、今でも多分30%近くが石炭火力発電ですね。エネルギー基本計画っていうのがあって、その中に書かれているんですけど、2030年時点でも19%ぐらい石炭火力発電はとっておこうっていう計画に今はなっているんです。

 これが国際的にはすごく評価が悪くて。というのは今回、議長国だったイギリスは、先進国は少なくとも2030年までに石炭火力発電はやめていこうぜっていう呼びかけをしていたんですね。そこにきて、日本は2030年までに19%まだとっておきたいですって言っていたので、国際的な感覚からズレてしまっているというのがありますね」

「パリ協定」ルールブック

写真:WWFジャパン

※もうひとつの成果として、温室効果ガスの削減量の国際取引を認める仕組みが採択され、「パリ協定」で採択されたルール作りが完成したと、WWFジャパンのサイトでも紹介されていましたが、これはどういうことなんでしょうか?

「2015年にパリ協定がまず採択されたあとに、パリ協定を実際に国際的な仕組みとして動かしていくために、もうちょっと細かいルールを整備する必要があったんです。大方のルールは2018年の、今から3年前の会議の時に合意出来たんですけど、まだ何個か残っていたルールがあったんです。

 そのうちのひとつというか、いちばん論争が大きかったのが、この国際的な排出量の取引を認めるっていうルールだったんですね。それが今回、何とかまとまったということで、とりあえずこれをもって、”パリ協定のルールブック”って、よく俗称で呼んでいましたけど、それが完成しましたねっていう評価になっていました」

●これは大きな成果ですよね?

「そうですね。これも期待している人たちも多かったので、それなりに大きな成果ということが言えます。何が大事かっていうと、ふたつぐらいポイントがあって、何のために国際的に排出量の削減量を取引出来るようにするのかっていうと、ひとつは各国が目標を達成しやすくするためなんですよ。国によっては、同じ1トンのCO2を削減しようとした時に、かかるお金、費用が違うんですよ。

 すでに色んな技術が進んでいる国、特に先進国でこれから1トン削減しようと思うのと、まだそういう技術が入っていない、先進国だと当たり前のような技術が入っていない途上国で、同じ1トン削減するのにかかる費用が違います。でもCO2の削減っていう意味でいうと地球全体のことなので、別にどこで削減してもいいじゃないですかっていう話があるんです。

 ほかの国で削減する代わりに、その削減した量をうちの国で、例えば日本の企業さんがインドネシアに出かけて行って、インドネシアで削減をする代わりに、そこで削減した量を、日本の目標の達成のために使わせてよと。そうするとインドネシアの側からしてみると、日本の企業が入って来てくれて、技術とお金を落っことしてくれるという利点があると。日本の立場からすると、日本で同じ量を削減するよりも安くあがると。そういう利点があるんですよ。

 だから目標を達成しやすくする仕組っていう意味でひとつめがあって、ふたつめは、今申し上げたような感じで、日本とインドネシアの間で協力が進みそうな感じがするじゃないですか。日本とほかの国、色んな国同士での協力を進めるみたいな意味合いがこの仕組みにはあるんですね。ただ、ルールをちゃんと作らないと大変な問題になるので、今回まで結構もめていたっていうことがあります」

残された課題は資金支援

写真:WWFジャパン

※COP 26では、課題も残されたと思います。そのひとつが先進国による途上国への資金支援だと聞きました。これは具体的にどういうことなんでしょうか。

「元々このテーマってすごく大きくて、先進国からしてみると、途上国にもっと頑張ってもらわないという思いがあります。特にここでいう途上国って中国とかインドとかも、いわゆる普通の文脈だと新興国って呼ばれるような国々も含めて途上国と、この交渉の分野ではいうので、そういった国々にも頑張ってもらわないと削減はままならないっていう思いがある一方で、途上国からすると、今の温暖化って基本的に先進国が引き起こしてきたので、その対処がすごく遅れに遅れてここまで来ている・・・アメリカの歴史なんか見ていると、それはすごくよく分かると思うんですけど、そういうのを見ている中で、何で俺たちにしわ寄せが来るんだっていうのが、すごくあるんですよね。

 その間を取り持つ議論として、途上国に対する資金支援がすごく大事なお話になっていて、今からもう10年以上前の2009年に、段階で先進国から途上国に総額で公的なお金も、それから民間のお金も合わせて2020年までに、1000億ドル資金の流れを作りますよという風に約束をしているんですね。

 これがどうやら達成出来なそうだっていうのが分かっていまして、現状で大体800億ドル弱しかいってなくて、トータルで1000億ドルには届いていないんですよね。なので、途上国の側からからしてみると、いやいや、約束が違うじゃないかっていう話になっているのがひとつ大きな問題です」

COP27の展望と、ユース世代の台頭

※次のCOPは今年エジプトで開催されることになりました。このCOP27に期待することはなんでしょうか?

「はい、COP27はさっきもちょっと申し上げたように、もう1回、各国が削減目標を持ってくるっていう一応約束にはなっているんですよね。そこで、どれくらい積み増し出来るのかを、引き続き見ていかなければいけないことかなと思います。

 日本も、例えば今年、削減目標を1回積み増ししているんですよね。元々、2030年までの日本の温室効果ガスの排出量の削減目標は、2013年と比べて26%削減しますっていう目標だったんです。これを46%削減にしますと菅前首相はアナウンスをされて、実際に国連に提出されています。

 もうひとつ、その46%には但し書きみたいなものがあって、出来れば50%の高みにチャレンジしていきますというような付け足しみたいのがあるんです。努力目標みたいな奴がね。なので、その50%の方向にどれくらい近づけていけるのかっていうのが、まずひとつは課題になるのかなと日本的にいうとあります。

 ほかの国でも、削減目標をちゃんと積み増していくことが大事ですし、それはもうアメリカやヨーロッパの国々みたいな先進国だけじゃなくて、中国とかインドに対しても必要なことで、世界全体で削減目標を積み上げて、何とか1.5度の希望が消えないようにしていくのが、COP27の大きな課題かなと思っています」

写真:WWFジャパン

●山岸さんは、長年COPの現場に行かれて、気候変動の問題もずっと見てこられたと思うんですけど、山岸さんとしては今、どんな思いがありますか?

「そうですね。やっぱりふたつ相反する思いがありますね。昔から言ってきたけどまだ不十分だなっていう思いと、他方でようやくここまで来たなっていう思いと、ふたつあります。
 なるべく希望を持っていただきたいので、後者をちょっと強調して言うと、過去2〜3年の日本の流れを見ていると、ずいぶん変わったなって思うんですよ。何でかって言うと、それこそパリ協定が採択された2015年の段階から、CO2の排出量をゼロにしましょうっていう話って結構あったんですよ、その当時から。

 でも、そんなの絶対無理だよ! っていう雰囲気がやっぱり世の中には多かったんですね。今は、まあ今でも無理だよって人は多いですし、実際無理だなって思っている人も多いと思うんだけど、”脱炭素化”っていうキーワードによく表れているように、とりあえずここを目指さないといけないよね! っていう雰囲気はだいぶ、特に大きな企業さんの間では広まってきています。それは本当に隔世の感がありますね。

 あとは、若い人の台頭が日本でも見られるようになってきたのは、結構希望が持てるなと思っています。今回のCOP26も若い人が、ユースの方々が何名か、すごく来にくい状況下に関わらず(会場に)来ていたんですよね。で、一生懸命、日本の若者として他国の若者と連帯してメッセージを出していて、岸田首相にお手紙を届けたりとか、そういうことを一生懸命やっていらっしゃいました。

 そういう新しい力が、この分野にも流れ込んできているなっていうのはすごく感じるので、そういう意味で言うと、ようやくここまで来たねって、まだまだ希望は捨てられないねっていうのが、18年間くらいかな、このCOPの流れを見てきて、国連気候変動会議の流れを見てきても思うようになりました」

☆この他の山岸尚之さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

 COP26については、WWFジャパンのサイトに詳しく載っています。  ぜひご覧ください。また、WWFジャパンでは、活動を支援してくださる会員、そして寄付を随時募集しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎WWFジャパン HP:https://www.wwf.or.jp

冬の星座と天体ショー!〜心を清めてくれるスターライト

2022/1/9 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、福島県田村市(たむらし)にある「星の村天文台」の「大野裕明(おおの・ひろあき)」さんです。

 大野さんは1948年、福島市生まれ。小学生の頃に担任の先生が小さな望遠鏡で太陽を天井に映し出してくれたのをきっかけに天文に興味を持つようになり、将来は天文学者になる夢を抱きます。

 高校生のときに国際的に活躍する天体写真家「藤井旭(ふじい・あきら)」さんと知り合い、天体写真を撮りはじめ、益々のめり込んでいったそうなんですが、天文学者の道ではなく、家業を継ぐことになります。

 その後は、仕事のかたわら、天文ファンには有名な「白河天体観測所」のメンバーとしても活動。そして1991年に「星の村天文台」の責任者「台長」に就任、天文台のお仕事のほかに、ラジオやテレビ番組で星や天体の解説など幅広い分野で活躍されています。

 きょうはそんな「星の村天文台」の大野さんに、おすすめの冬の星座や、今年注目の、天体ショーのお話などうかがいます。

☆写真協力:大野裕明

写真協力:大野裕明
大野裕明さん

誕生星座を探してみよう

※今月1月から2月かけてのおすすめの星座はありますか?

「色々あるんだけど、春、夏、秋、冬、という地上の季節感と、お空のほうの決められた春の星座、夏の星座、秋の星座、冬の星座っていうのは、ちょうどひと月ぐらいズレが生じるんですよ。ですから1月2月、今のシーズンですとまだ秋の星座も夕暮れに残っています。
 それから冬の星座、有名なのではオリオン大星雲とかオリオン座、牡牛座とか。先月12月は、双子座流星群という流れ星がたくさん飛びました。その双子座もやっぱり今いちばん見ていただきたい星座かな」

写真協力:大野裕明

●私のような初心者に向けて、星空や天体を見るコツがあれば、ぜひ教えてください。

「今のシーズンですから、サッと見るんではなくて、防寒用具をしっかり着込んで、使い捨てカイロなんかも胸にお尻に色んなところに仕込んで、長時間見るっていうことがまず基本です。そして初めてのかたは天体望遠鏡を直接覗くんじゃなくて、自分の肉眼だけ、肉眼の世界で楽しむことなんですね。そして星座、オリオン座とか双子座だとか、そういうものを確認することでしょう。あと自分の誕生星座。小尾さんは何?」

●私は山羊座です! 

「山羊座ですか。今どこにあるかは特別に言いませんが(笑)、自分の誕生星座をまず探し出すことです。そこから入り込んでいただく」

●肉眼でちゃんと見えるものですか? 

「山羊座もちゃんと見えますよ。ただ、都会地だと街明かりでちょっと見にくいかなという星座ではありますけれども。でも山羊座のすぐそばに、知れ渡ったもうちょっと明るい星座がありますから、そういうところから紐解いて順繰りとその山羊座に辿り着けばいいんですよね。

 私は6月生まれですから、双子座だから、激しく流れ星が飛ぶところなので誰しもが知っているんですが、でも探しにくいんですよね。どうすればいいかって言ったら、双眼鏡を手に入れることなんですよ。望遠鏡はこの段階ではいりません」

●望遠鏡じゃなく双眼鏡?

「そう、初心者のかたは、例えばカメラ屋さんとかで売っていますが、倍率が8倍ぐらいの、片手で持てるぐらいの、両目でしっかりと見えるような、8倍ぐらいの双眼鏡がいいです」

写真協力:大野裕明

夜空にスマホをかざして!?

※ほかにこの時期の、おすすめの星座があったら教えてください。

「今ちょうど、夕暮れから8時〜9時ぐらいになりますと、頭のてっぺんにごちゃごちゃっと集まった牡牛座の”昴(すばる)”という星があるんです。あの谷村新司の、目を閉じて〜何も見えず〜♪ って目を閉じちゃったら何も見えないんだけど(笑)」

●あははは〜(笑)

「目をしっかり見開いて見ると、清少納言の枕草子にも書いてあるんですが、全天でいちばん綺麗な星の集まりだよっていう。そのすばるがあるから、そこに双眼鏡を向けるとキラキラってね、星が見えます」

●星座の早見表とかも活用したほうがいいですか? 

「そうですね。本屋さんに星座早見表というのがあります。それから天文書の間に星座早見盤がはめ込んであったりしますが、もうひとつはスマホ(のアプリ)で無料で星座を探し出そうというものがあるんですね。フリーでダウンロードできます。望遠鏡メーカーさんも一生懸命そういうようなものを出していますので、それを活用するんですよ。

 それで夜空のあの星なんだろうっていう方向にそのスマホを向けてあげますと、木星ですよとか、オリオン座ですよとか、それこそ山羊座も分かりやすいです。そういうものを入手することですね。スマホとかそういうものを十分活用するような方法をとっていただきたいと思います」

『星座の見つけかた』

今年、注目の天体ショー

※今年注目すべき天体ショーがあれば、いくつかご紹介いただけますか。

「たくさんあるんですよ。やはりなんてったって、金星とか、火星とか、木星とか、土星、そういうのが夜明けの空に(集合して)見える時があります。ひと昔前に惑星直列なんて言って、世界中が大騒ぎになったこともあるんですが、そういうものがあります。それから流れ星ですね。流れ星は見たことあるでしょ?」

●そんなに綺麗にちゃんと見たことはないです。

「そうですか。去年12月の双子座流星群も、うちの天文台で夜間公開やっているので、たくさん集まっていただいて。周りにもたくさんいるんですよ、駐車場のところにも。そうすると明るい星が流れる度に、“おお〜っ!”って地鳴のようになってね。大したことない流れ星だと、“おっ”っていうくらいで、それで明るさの度合いが分かるくらい(笑)。

写真協力:大野裕明

 流れ星は通常でも、私が一晩観測している時は3個か4個なんですが、1時間あたり10個とか20個とか流れる場合があるんですね。流星群と言われる時期があるんですが、夏休みの8月13〜14日がペルセウス座流星群っていうのがあります。これは毎年同じように1時間あたり50〜80個くらい出ます。

 それともうひとつおすすめなのは、12月になるんですが、先ほど言った双子座流星群。12月の13日、14日、15日あたり、クリスマスの前の週ぐらいですね。1時間あたり50個ぐらい出るかな。でも流星群の場合、(流れ星の数を)ものすごく多く言いますよね。50個とか100個とかって、騙されてはいけないです。 

 全天で100個だとしても、自分の見ている方向は3分の1ぐらいなんですね。100個と言われた時は、まあいいところで20個か30個かな。ところがご家族で、僕はこっち、君はこっちっていって全天をカバーすれば100個、そういう風になります」

●おお〜、いいですね。

「おすすめは8月のペルセウス座流星群と12月の双子座流星群なんですが、それと今年は11月の8日に皆既月食があるんです。昨年の暮れに皆既月食らしいものがありましたよね。今年の11月8日は皆既月食ということで、全部隠されます。

 夕方、東の方向から満月が出てきて、それで欠けるということで、全国で見ることができますので、日本全国の方々も東のほうをこの日は見ていただきたいと思います。あとは様々、小さいのも、天文関係者も大喜びなのがたくさんあるんですが、皆さんにはやはり春先に惑星が明け方に集合するよということと、流星群、それと皆既月食ということですね。今年もたくさん天文現象があります」

(編集部注:大野さんは1986年に地球に接近し、当時、国内外で大変話題になった「ハレー彗星」を見る日本航空主催のオーストラリア・ツアーに、白河天体観測所のメンバーとともに講師として参加。1ヶ月ほど滞在し、大きな望遠鏡を使ってテレビ番組で生中継も行なったそうです。また、日本全国を車で回るツアーも行ない、世界でいちばん望遠鏡を通してハレー彗星を見たのはきっと私でしょうとおっしゃっていましたよ)

見えたら長生き、カノープス

※大野さんがいちばん好きな星は何か教えてください。

「ここ福島県は、ある星が北限になっているんですよ。何かと言うと、りゅうこつ座のカノープス」

写真協力:大野裕明

●カノープス?

「カノープス、一等星なんです。ところが、南に低いばっかりに、福島では白河市あたりが北限なんですよ。もちろんオーストラリアとかに行くと、頭のてっぺんに見えるんですが、福島市だと一等星がうんと暗くて南に低くて見えます。
 白河でも4等星か5等星くらい、肉眼で見えるか見えないか。双眼鏡じゃないと見えないというくらいなんですが、それが昔からこだわっているんですよ、私は。つまり見えないものを見たいというのは誰しもある感情でしょ?」

●はい、そうですね。

「ですから、北限記録を白河の人が持っていたんですよ。見えたよということで、写真撮影して。そしたらそれを少しでも北上させようということで、安達太良(あだたら)という山、あの智恵子抄(ちえこしょう)で有名な安達太良なんですが、そこの山のてっぺんに行きまして、それで観察したことあるんです。
 それも夏は見えないんですよ。冬じゃないと見えないんです。で、11月くらいに仲間と登りまして、南のほうになんとか見えました。そして、降りてきた翌日は雪が積もっていたという・・・」

●お〜〜! 

「もう死ぬ思いでした。それで、みんなに綺麗に見えたよ、見えたよ!って言ったばっかりに、今度は仙台の人が蔵王であっさりと見ちゃって。そしたら、あまりにも彼たちが喜んでいたので、山形のかたが月山(がっさん)に行ってなんとか見ちゃったんですね。

 小躍りしすぎたなっていう感じがするのですが、月山以上はもう絶対見えないので、もうやめましょうと言うことで終息宣言を出しました。それは今、私のいるこの星の村天文台でもなんとか見えるんです。

 つまり北限の白河よりは北のほうなんですが、山の高さがあります。標高がある分見渡せるんですね。ですから、11月から今の1月2月くらいまでかな。なんとか南のほうに、ひょっこりと見えるという、そういうことでカノープス。
 カノープスは中国の伝説で、滅多に見ることが出来ないものだから、見えたら長生きできるよ!という長寿星なんですよ」

●おお〜!

「結構、日本中の人たちは、南東北から西日本の人たちは、割とたやすく見える位置にありますので、そういう人たちも見えたよ!って言って、大変喜ぶお星様です。ぜひ見ていただきたいと思います」

丸い地球を見てみたい!

※一般のかたが宇宙に行ける時代になってきましたよね。大野さんは、行けるとしたら、どの星に行ってみたいですか?

「お月様には行きたいですね! なぜかと言うと、(宇宙ステーションのように)地球の表面上だけ周っていると地球がまん丸く見えないんですって。私の知り合いの宇宙飛行士もそういう風に言っているんです。ただ、知り合いの宇宙飛行士は船外活動で外に出ましたから、くるりと見まわして丸く見えたというんです」

写真協力:大野裕明

●へぇ〜〜! 

「船内にいると、一部分しか、丸く見えないんですって! だから(地球を)まん丸く見るためには、地球を離れることですから、お月様に行きたいというのは、振り返ってみて、地球がまん丸いのを見てみたいです。

 私たちが望遠鏡で木星を見るとまん丸く見えるでしょ。土星を見ると丸く見えて輪っかが見えるでしょ。お月様も丸く見えるでしょ。望遠鏡を使わなくても月は丸く見えるでしょ。月に向かう途中でも(地球は)丸く見えるという、アームストロング船長とか、お月様に行った人たちはそういう風に言っているので、そういうシーンを見てみたいなって感じがしますね」

●では最後に、大野さんにとって、星や宇宙の魅力って何でしょう?

「そうですね。やっぱり何でも忘れさせてくれますよね。皆さん人生で色んなことが起きるでしょ。どんな時でもお空を見ると、気がスッキリするよということでありますよね。いつでも星は同じところに輝いているし・・・。

 それからたまに、先日もレナード彗星っていう箒星が接近して帰っていくという、そういうものを見たりすると、やはり心が安まりますよね。心を癒してくれる。喜びも悲しみも人生で色々あるのを少し冷静にしてくれる。そういう部分があるんじゃないかと思います。だから、星の光には、何か我々の心を洗い清めてくれるものがあるんじゃないでしょうかね」


INFORMATION

「星を楽しむシリーズ」

 大野さんは誠文堂新光社から「星を楽しむシリーズ」という本を出していらっしゃいます。このシリーズは『星座の見つけかた』や『双眼鏡で星空観察』など全5タイトル。初心者に向けて、星の見方や星座の探し方など、楽しくわかりやすく解説しています。ぜひ参考になさってください。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎誠文堂新光社 HP:https://www.seibundo-shinkosha.net/series/enjoy_the_stars/

写真協力:大野裕明

 「星の村天文台」は田村市の観光名所「あぶくま洞」という鍾乳洞のすぐ近くにあります。標高は650メートル、空気が澄んでいて、街の明かりもないため、天体観測にとても向いている場所にあります。

写真協力:大野裕明

 福島県で最大級の、口径65センチの反射式天体望遠鏡が設置されていて、天文ファンだけでなく、子供たちにも人気のスポットです。星空の観望会などを定期的に実施しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎星の村天文台 HP:https://www.city.tamura.lg.jp/soshiki/20/

Jomonさんがやってきた!〜子供たちに伝えたい「命」のものづくり

2022/1/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、縄文大工の「雨宮国広(あめみや・くにひろ)」さんです。

 雨宮さんは1969年生まれ、山梨県出身。丸太の皮むきをするアルバイトをきっかけに大工の道へ。古民家や文化財の修復に関わり、先人の手仕事に感動し、伝統的な手法を研究。そして石の斧に出会い、能登半島にある真脇遺跡の縄文小屋の復元を手掛けました。

 この番組では、石の斧で作業をする大工、雨宮さんの存在を知り、2014年6月に山梨県甲州市にあるご自宅兼作業場を訪ね、お話をうかがい、その模様を放送したことがあります。その後、雨宮さんは国立科学博物館の人類進化学者、海部陽介さんが進める「3万年前の航海〜徹底再現プロジェクト」で、石の斧を使いこなす縄文大工として、丸木舟を造る重要な役割を担い、一躍注目を集める存在になりました。

 今回はそんな雨宮さんが、現在進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」をクローズアップ!  いったいどんなプロジェクトなのか、その全貌に迫ります。

☆写真協力:Jomonさんがやってきた!  三万年前のものづくり

2021 @kurokawa hiromi
2021 @kurokawa hiromi

求めていたものづくり

※改めて縄文大工を名乗るようになった理由や、石の斧との出会いについてお話しいただきました。

「縄文大工って、なんだそりゃ!? と思われるんだと思うんですけども、地球のためになる仕事をする人っていうことなんですね。そして今の仕事というのはほとんど人のためになる、もしくはお金を稼ぎやすい仕事が一般的なんですよね。これからの持続可能な暮らしを切り開いていく中で、やはり地球のためになる仕事を作り上げていきたい、そういう思いで縄文大工という名乗りかたをさせていただいています」

●石の斧との出会いというのは、どういった感じだったんですか? 

「私も、そもそも石斧っていうのは木工道具とは思わなくて、マンモスを狩るような狩猟の道具かなという程度だったんですね。もしくはただの石ころみたいな、そんなものは何の役にも立たない石ころだ、みたいな思いを抱いていたんですけども、2008年にその石斧と初めて出会う場面がありました。

 それから自分で石斧を作って、栗の木にひと振り石斧をコンと打ち付けた瞬間に、自分が求めていたものづくりはそこに全てあったみたいな、そこにもう引き込まれまして、以来研究を続けながら縄文大工としてやってきています」

●鉄の斧と比べて石の斧っていうのは、木を伐るにしても時間も手間もかかりますよね? 

「そうですね」

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

●でもそこが、あえて石を使いたいというか、石の斧がいいというか、そこが大事っていうことですよね。

「私も最初から石を使っていたわけじゃなくて、当然機械の道具、そして鉄の道具を使って効率よくものを作るっていう仕事をずっとしてきました。木という命あるものと向き合っているんですけども、それはただの木、命がないものとして、ものとして見ていたなっていうのがあったんですね。

 それはやっぱりその命と向き合う時間、ものと向き合う時間があまりにも目の前を一瞬で通り過ぎるというところで、感じることができなかったんだなと思うんですよね。石の斧を初めて手にして木と向き合った時に、その命を伐る時にもすごく時間を要するわけで、そしてその木を使って、家なり舟なり作るにしてもすごく時間がかかる。そういう中で、そのものが持っている本当の、脈打つ鼓動というか、そういうものを感じてくるんですよね。そういうところに惹かれましたね」

(編集部注:雨宮さんが使っている石の斧は全部自分で作っていて、用途によって使い分けるため、大きい斧から小さい斧まで、全部で100本くらいはあるそうですよ)

子供たちと丸木舟を作るプロジェクト

※雨宮さんは去年の夏に「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」プロジェクトをスタートさせました。来年の10月まで続くということなんですが、どんなプロジェクトなのか、まずは概要を教えていただけますか。

「ひとことで言いますと、全国の子供たちと石斧を使って、ひとつの丸木舟を作り上げるというプロジェクトなんですね。そして昨年の夏に丸木舟になる材料となる杉の木の命を子供たちと一緒にいただいて、今は富士五湖のひとつ、西湖という湖のほとりで、全国ツアーを前にして削り込みの作業を今、しているところです。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 これから今年5月に北海道に向けてスタートして、北海道から47都道府県を順番にツアーをしながら、子供たちが少しずつ丸太を削りながら、沖縄で最終的に完成させてその舟に乗るという、そういうプロジェクトですね」

●参加者はみんな、お子さんたちなんですか? 

「はい、地元の子供が主体に参加する形ですね」

●子供たちと一緒に進めていくということに意味があるということなんですか? 

「そうですね。これからの未来を担っていく、作っていくっていう子供たちと進めます。この地球上にたくさん生き物がいる中で、道具を手にして、ものを作る生き物は人間だけなんですね。その人間として、どういうものづくりをしていかなきゃいけないかっていうことを、子供たちと一緒に丸木舟を作りながら向き合って考えていきたいなと思うんですね」

●まずは石の斧を作ることから始めたそうですね?

「子供が好きなものっていうと大体、棒とか石なんです。それを合わせたものが石斧になるわけですけども、本当に無我夢中になって楽しく石斧を作って、丸太をコンコン削る作業を、子供たちってがむしゃらに楽しくやるんですよね」

●そもそもこのプロジェクトを始めようと思ったきっかけっていうのは、何なんですか? 

「やっぱり命をいただくっていう行為をしっかりと受け止めて、その命を活かしたものづくりをしたいっていうことを思ったんですね。どうしても今、私たちのものづくりって本当にただのものとして見ていて、木にしても道具にしても、その命をいただくっていう行為になっていないと思うんですね。

 何故かっていうと、そのいただくって行為は相手に対して、あなたの命をいただいてもいいですかっていう対話をしなければいけないんですけども、その対話がなく一方通行で、力づくで、ある意味その命を奪い取ってしまっているというか、そういう形になっているんですよね」

巨木との対話

※雨宮さんが進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」はパート1が、去年の夏に愛知県北設楽郡東栄町の森の中で実施されました。

 丸木舟にするための大きな杉を、石の斧で伐り倒す作業を子供たちと一緒に、18日間かけて行なったということなんですが、その杉の巨木はなんと樹齢が約250年、高さは50メートル、いちばん太い部分の幹周りが1メートル40センチ。雨宮さんいわく「おそれ多い、神の宿る木」という印象だったそうですよ。

 雨宮さんはその木に常に話しかけ、こういう理由であなたの命をいただきたい、と語り、対話を続けていたといいます。その巨木にご自身の思いは伝わったと思いますか?

「おそらく、その思いが伝わらなければ、私の言っていることに、もし偽りがあれば、それは間違いなく命を差し出してくれることはしてくれないなと思ったんですね。本当に嘘ごまかしなく、本心をとにかく伝えました。 そして杉の木の根元に寝たというのは、何故そこに寝たかというと、私の命を向こうも奪うことが出来るんですよ。それは250年生きた木で、50メートルという高さになって、太い枝がいっぱい付いているんですけども、枯れたような枝もいっぱい付いているんですね。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり
写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 木はそういう枝は自然に落とすんですよね。神社なんかでも枯れた枝が落ちているのをよく目にすることがあると思いますけども、そういう風に、私がそこの根元に寝て、もしお前なんかに命を渡さない! そんな汚い心だったら渡さない! っていうことを杉の木が決めれば、寝ている間に私の上にその太い枝を落とすことが出来るんですよね。そういうことを私も分かっていてそこに寝るわけですよ、びくびくしながらね。

 だけども、本心を伝えているから、これでもし命がなくなったら、それはそれで伝わらなかったんだろうという覚悟のもとに寝たんですね。そういう中で、杉の女神が枕元に立ってくれればいいなと思ったんですけども、なかなか女神様は訪れませんでした。

 そうこうしている間に実際、石斧を入れて、斧入れ式をして、斧を入れ始めたんですけれども、実は斧を入れる前日の夜に私がそこにまた寝ようと思って、夜中に杉の根元に行って、木として最後の晩を共に過ごしたいなと思って行ったんですよ。
 そうしてその杉の木の前に行ったら、光る点滅するものが現れたんですよね、杉の木の根元に。何だろうって思って、一瞬その光るものが杉の心臓の鼓動みたいな感じに見えたんですけども、近づいたらみたら実は、それは“ホタル”だったんです」

●え〜〜〜っ! 

「でも、8月の中くらいですから、もうホタルなんていないんですよ、本来なら。大体(ホタルが飛ぶのは)6月頃ですからね。しかも広大な山の中に、たまたまその木の根元の所にいるわけですよ。その時私は本当に、あ! 杉の木が今まで私がそういう心を伝えたことによって、“明日、僕に斧を入れてもいいよ!”っていうことを言ってくれているのかなと、そういう風に思ったんですよね」

●すごい! 対話が出来ていますね! 

「そうですね。木は言葉が喋れないから、そんなことしたって無理だよとか、意味がないよとか、そういう風に言ったら、命をいただくってことが成り立たないですよね。たまたま人間の言葉が喋れないだけで、やっぱり全てのものは意思疎通が出来る、そういうもので繫がっていると思うんですよ。それが、生きること、他のものの命をいただくことだと思うんですね。そういうことをやっぱり子供たちに伝えたい」

(編集部注:去年の夏に丸木舟を作るために伐り倒した杉の巨木は、現在、富士五湖のひとつ、西湖のほとりのキャンプ場に保管。長さ11メートル 50センチで10トンの重さがあるそうですが、丸木舟作りを体験してもらう全国ツアーに出るために石の斧でくり抜く作業を続け、4トンくらいの重さにするとのこと。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 予定では今年5月に北海道を皮切りに南下し、1年かけて沖縄まで。その沖縄で、子供たちに丸木舟に乗る体験をしてもらったあとに「みんなの舟」ということで、瀬戸内の海や浜名湖、そして西湖でやはり体験をしてもらう予定だそうです。

 雨宮さんの夢はもっと膨らんでいて、丸木舟で与那国島から沖縄本島、そして九州から北海道まで日本一周、さらに太平洋を渡りサンフランシスコまで行きたいとおっしゃっていました)

木の命をいただく

※プロジェクトのイベントに参加した子供たちに接する時、どんなことを心がけていますか?

「本来であれば、昨年の夏に行なわれた(パート1の)“杉の木の命をいただく”イベントに、みんな参加していただきたかったですね。そこが本当にこのプロジェクトの肝なんですけども、残念ながら参加出来ていない人たちに、いかに私が木の命をいただくことを伝えられるか、どんな気持ちでその命をいただくのか、そしてそのいただいた命をどういう風に活かしていくのか、そのところをしっかりと伝えていきたいと思ってですね。

 私が今まで感じたことは、木をただのものと思っている、あと道具をただのものと思っている、だからどうしても扱い方が非常に乱暴になる傾向があるんです。それをなくしたい。

 自分の命を守ってくれる舟、これは当たり前ですね。海というある意味、宇宙的な空間に出れば、その舟が沈没すれば、自分も生きられないわけで、壊れれば生きられない。自分の命を守ってくれる舟、それと心を通わす、思いを込める。

 そして、その舟を造るには、自分の手とか歯とか、体では造れない。道具を通して初めて造れる。で、その道具に感謝して、道具を通して木と一体となり、全てのものと仲よく、舟を造る心を通わせる、そういうものづくりを目指したいと思っています」

●木があることが当たり前ではないんだよっていうことは、日々生活している上でなかなか感じないですよね。

「そうですね。なかなか命をいただくって行為が、しっかりと出来ていない現代社会なので・・・奪い取るんではなくて、やはり対話をしていただくことで、そのいただいた命をしっかりと次の未来のために活かすことが、生きる、食べる、いただくってことなんですね」

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

丸木舟は地球船

※子供たちは純粋ですから、伝えたいことをすべて吸収してくれそうですね。

「そうですね。子供は本当に素直に聞き入れて、理解力抜群ですね。大人はどうしても、しがらみとか、この矛盾しきったものが分かっているんだけれども、今を成り立たせなければ、生きられないことを、どうしても優先して考えちゃうので、思考がちょっと止まっちゃうところがあるんです。でも子供は本当に普遍的なものをしっかりと理解するんですね。

 どんな時代になろうと、生きる! 人間らしく生きる! っていうことをちゃんと受け入れられる、それを目指そうとする。それを子供が、例えば大人になった時に、”縄文大工に僕はなりたい!”と言った時に、親が“いや、お前そんなものは金にならんからダメだ”と、”もっとお金になる仕事を探せ! やれ!”と言うんではなくて、やっぱり社会全体で地球のためになる仕事を応援してあげる。で、その子の夢が実現するように支えてあげる。そういう世界に変えていきたいなと思いますね、このプロジェクトを通してね」

●雨宮さんのプロジェクトに参加した子供たちの中には、将来“縄文大工さんになりたい”っていう子供もいたんじゃないですかね?

「そうですね。今の世界の目標が持続可能な暮らしですからね。やっぱり人間だけが幸せになる仕事ではなくて・・・地球の、いわゆる丸木舟って地球船そのものなんですよね! 実は」

●地球船!?

「丸木舟の中の全ての生きものが、楽しく仲良く面白く暮らせるものづくりって何かな? って考えたり、そういう風に出来るようにするにはどんな仕事があるのかなということを考えて、想像してもらいたいですね、これからの子供たちに」

●最後に改めて、このプロジェクトを通してどんなことを伝えたいですか?

「そうですね。やっぱりこの地球上に敵はいないってことなんですね。無敵っていうのは、敵を作らない、当然そもそも敵がいない、みんな仲間だっていうことですね。そういう意識を常に持つ。そうすると小さな丸木舟の中でもみんなで楽しく仲良く暮らせるんですね。みんな仲間ですから。同じ命です」

☆この他の雨宮国広さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 雨宮さんが進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた!  3万年前のものづくり」にぜひご注目ください。今年5月から1年かけて行なうパート2の「丸木舟作り全国ツアー」のあと、来年8月に沖縄で行なうパート3の「航海体験」まで続きます。

 現在、活動のための資金をクラウドファンディングで募っています。ぜひご支援いただければと思います。詳しくはクラウドファンディングのサイトを見てくださいね。

https://readyfor.jp/projects/Jomonsan

 プロジェクトの詳細と雨宮さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎雨宮国広さん HP:https://jomonsan.com/

捨てられる獣たちの命〜有害駆除の現状と、ある猟師の挑戦〜

2021/12/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、プロの猟師「原田祐介(はらだ・ゆうすけ)」さんです。

 原田さんは1972年、埼玉県生まれ。20年ほど外資系のアパレルメーカーに勤めたあと、唯一の趣味だった狩猟を職業にする、つまりプロの猟師として生きていくことを決意。まず、山を知るために林業の会社で働き、2015年に「猟師工房」を設立。2019年には君津市に「猟師工房ランド」をオープン! 駆除されるイノシシやシカなどの有効活用、そして、年々高齢化している猟師さんの後継者問題などを発信されています。

 きょうはそんな原田さんに、有害駆除の現状などをうかがいながら、命の尊さについて考えたいと思います。

☆写真:原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

人間の身勝手

原田祐介さん

●先頃出された本『週末猟師』には、猟をするというのは究極のアウトドアのひとつという文章もありましたけれども、山の中でソロキャンプをして火を起こして、そうやって夢中になってたどり着いた先に、週末猟師という選択肢があるという風に載っていましたよね。猟師の生活ってこういう感じなんだなって、未知の世界を覗いている気分ですごく興味深かったです!

「ありがとうございます」

●副題にある「ジビエ・地域貢献・起業」、そして「充実のハンターライフの始め方」という言葉が、この本の内容を表していると思ったんですけれども、中でも原田さんがいちばん重点を置いているのはどの項目なんですか? 

「そうですね〜。一生懸命、趣味で始まって、極まってくると地域貢献のための有害駆除なんていう、増えすぎた獣を獲って農業被害を減らしたりするような取り組みも行なっているんですが、いずれ獣を捕獲するかたが減ってくる中で、これから獣が増えすぎて、自然に非常に負荷がかかるような状況が出てくるんですね。そこをなんとかプロとして携わって、未来の日本のためになるような取り組みに、最後はつながっていく、そこがいちばん申し上げたいことだったんです」

●ジビエは専門のレストランがあったりというイメージはありますけれども、国内で獲れたジビエのお肉はどの程度、流通しているんですか? 

「これが非常に衝撃的な数字なんですけど、今国内で獲られる獣の数、有害獣として駆除される数が、年間120万頭だそうです。最近ジビエがブームになって、おっしゃった通り専門のレストランができたり、テレビ番組なんかで取り上げられたりする機会があるので、ブームにはなっているんですが、120万頭のうち、ジビエとかジビエのペットフードとかで、利活用されている数値が9%なんです」

●一桁? 

「残りの100万頭以上はどうなっているか・・・どうなっていると思います?」

●捨てられてしまっているということですか? 

「そう、人間の身勝手で農業被害を減らすと称して駆除されて、100万頭以上が今ゴミとして残念ながら捨てられている現状があります」

●千葉はどういう状況なんですか? 

「千葉は令和元年度の数字、これが最新の数値なんですが、年間5万頭の獣が獲られています」

●そのうち、ちゃんとお肉として活用されているのはどのくらいなんですか? 

「1500頭」

●え!? そうなんですね。それ以外は?

「残念ながら今のところ、猟師さんが自分たちで食べる以外はゴミとして処分されます。生きものを殺めた以上、日本人の道徳観からしたら、やっぱりきっちり最後まで、いただきますの精神で、きちっと食べて供養するっていう方向に持っていかなければいけないんですけど、そんな状況になっていないのが実情です」

千葉は埼玉の10倍!?

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

※君津市で運営されている「猟師工房ランド」は、どんな施設なんですか?

「これは昭和63年に廃校になって30年間放置されていた、旧鍵原小学校っていう山の中にある小さい山学校があるんですよ。そこを君津市さんから借り受けて、リノベーションを行なって、ジビエとか狩猟のテーマパークのようなものを作ったんですね」

●そもそもどうしてそういう施設を作ろうと思われたんですか? 

「やっぱりこの現状を広く都会のかたなんかに知っていただきたいと。たまたま、房総スカイラインっていう観光道路沿いにある学校だったんで、割と外房へ遊びに行くかたなんかが観光で必ず通る道なんですよ。

 山のほうの人は獣の実情をよく見たりするので、そういうのを知っているんですけど、千葉も北部の人とか、あとはアクアラインを使って(千葉に)来る東京のかた、神奈川のかたは、なかなかそういうことを知らないんで、是非そういうのを見て感じて味わっていただいて、この問題に一石を投じられたらいいなと思って作った施設です」

●オープンした時は、君津の山はどんな状況だったんですか? 

「私、埼玉から移住してきたんですけど、数値で言えば埼玉の10倍、獣が駆除されています。埼玉も素晴らしい自然があって、山もたくさんあるんですけど、全然比べものにならないほど、千葉は獣が多くて、獣という視点から見て、いろんな被害がすごいっていう感じだったんです」

●千葉はどんな生きものが多いんですか? 

「いちばん多いのはイノシシ。ほかにシカ、アライグマ、キョンなどが今たくさん駆除されていますね」

●千葉の特徴としてはどんな感じですか? 

「特徴としては温暖な地域で、海沿いにはドングリがたくさん成ったりする木がいっぱい生えているので、大きいイノシシが増えやすい状況にありますね。やっぱりイノシシがいちばん多い」 

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

(編集部注:「猟師工房ランド」ではイノシシやシカなど、有害駆除された野生動物をきちんと処理して、食品衛生法に従って、いわゆるジビエのお肉として販売しています。

 美味しい食べ方として原田さんのおすすめは、その肉の風味を感じて欲しいということで、塩・コショウで味わっていただきたいとのことでした。また、シカのお肉はしゃぶしゃぶも、おすすめだそうですよ。

 「猟師工房ランド」ではお肉のほかに、毛皮やツノ、骨などを素材にしたキーホルダーやアクセサリーなどを元小学校の体育館を改装した、広々とした店内で展示・販売しているそうです)

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

土砂崩れは獣の仕業!?

※地元の君津で野生動物の被害が増えていることと、猟師さんの後継者問題は、関連があるんですよね?

「そこなんですよ。そこがあったんで、この本がその入り口になってくれればって思いもすごく強くて、(本に)書いているんですよね」

●どんどん(猟師さんが)高齢化してきちゃって、山に人が入らなくなってしまったら、どうなってしまうんですか? 

「もう無尽蔵に獣が増えます。獣が増えると・・・山の上のほうに獣が棲んでいるとしますよね。人間と一緒で歩きやすい道をずっと毎日歩くんですよ。で、歩いて、川に水を飲みに行ったりご飯を食べに行ったりすると、”けもの道”って言われる道ができます。

 今から20〜30年前は千葉の山もここまで獣が多くなかったはずなんです。でも今や、ひとつの山に例えば、昔は2頭しか獣がいなかったけど、今はひとつの山に20頭いる、10倍いるんですよ。毎日20頭が同じ道を行ったり来たりするのと、1頭や2頭が行ったり来たりする場合と、けもの道のほじくれ具合が違いますよね。数が多いほうがたくさんほじくれちゃいますよね。

 気候変動の影響で、ここ最近の、昔はなかったゲリラ豪雨みたいなのが、集中的にばーって雨が降るとします。掘り下がった、けもの道に雨水が流れちゃうわけですよ。昔より掘れているから、そこを川みたいに(雨水が)流れちゃう・・・。

 そうすると何が起こるかっていうと、表面の泥を洗い流す”洗掘”っていう現象が起きる。そうすると地下に雨水が染み込んで、たふたふのスポンジみたいになって、表層崩壊っていう土砂崩れが起きたりする原因にもなっているそうです」

●ただただ作物を荒らすとか、そういった獣の被害だけではなくて、土砂災害にまでつながってくるんですね。

「最近各地で起こっている土砂災害も複合要因なんだけど、獣もその原因のひとつにはなっているはずです」

●そもそもなんでそんなに獣が増えちゃったんですか?

「これはやっぱり捕獲する人が急激に減ってしまったんですね。昔はたくさん獲る人がいた。それこそ明治の頃まではニホンオオカミがいたんで、捕食するオオカミがいることによって、獣たちが神経を尖らせ、そこまで爆発的に繁殖できなかったりする現状があったんですけど、今オオカミも絶滅してしまって、捕獲従事者、趣味でやるかたも有害駆除で捕獲するかたも高齢化で減っちゃっていると。それがゆえに増えてしまったという現状もあります」

爆発的に増えている「キョン」!

※「猟師工房ランド」には、どんな方が来ますか?

「割と都会のニューファミリーとか、家族連れのかたが寄ってくれて,お子さんが毛皮とか角とか、色んなものを見て触って・・・ニューファミリーの方が多いかな」

●確かにお子さんは、ちょっと興味深いかも知れませんね。

「僕の取り組みの中で、やっぱり全くこのことに触れないで一生を終えるようなかたたちに、ちょっとでも日本の自然のことを垣間みていただけるような施設にしたいなっていう、そんな思いもあって、あの施設を作ったんだけどね」

●きょうも色々スタジオに(販売している商品を)持ってきていただきましたけれども、この毛皮は何ですか?

「これは、キョンなんですよ。聞いたことあります?」

キョンの毛皮

●あります! あります!

「最近また報道番組とかで、(キョンが)増えて東京に進出するんじゃないかなということで、うちにもすごく取材が来たりするんですけど、これ今、千葉で爆発的に増えてしまっているんですね」

●キョンは改めてどんな生き物なんでしょう?

「日本でいうと特定外来生物で、よくご存知なところではブラックバスと同じような、日本にいちゃいけない生き物です。これは勝浦にある、とあるレジャー施設から逃げ出したもので、昭和50年にそのレジャー施設が潰れたんだそうです。そこで放し飼いになっていた個体が、餌をもらえなくなったので、外にどんどん広がっていったっていうのが経緯らしいんです。今、千葉県内で4万4千頭、生息しているって言われています」

●大きさはどれくらいなんですか?

「大きさは柴犬くらい。これは中国南東部とか台湾の生き物なんですね。中国や台湾では超高級食材として、非常に高い評価を受けて流通しているようなものです」

●毛皮はすごく滑らかな美しい毛並みですね。

「シカはたくさんの種類がいるんですけど、キョンはシカの中でも毛皮が最高峰って言われています」

●艶やかですね!

「そう、キューティクルがね・・・」

●それから他の商品・・・こちらは? 

「捕獲個体をゴミとして捨てないで、ちゃんと利活用していくっていうのも、うちの社の理念の根幹となっているんですね。捕獲個体そのものも、極力余すところなく使っていきましょうっていう取り組みの中で、人間が食べられないというか、例えばイノシシも、小っちゃい、うりぼうちゃんから、100キロも150キロもある、おばけみたいな、ドラム缶みたいな個体もいるんですよ。

 大きい個体は、割と人間にはちょっと硬くて不向きだったり、あとは、可哀想なんですけど、美味しく食べるためには、血抜きっていう作業が必要で、毛細血管の隅々までの血を排出するような、特殊な絞めかたがあって、それをちょっと失敗してしまったものは、人間には血生臭くて不向きなんですね。

 硬かったり血生臭かったりするものは、逆にワンちゃんには栄養価の高いとても喜ぶご飯になるので、そういう意味で人間が食べられない、でもワンちゃんにはとてもプラスになるものを、ワンちゃんたちに手伝ってもらっているということで、ペットフードもたくさん作っているんですよね」

●なるほど〜! 

(編集部注:原田さんは君津市から委託を受け、狩猟をする後継者を育てるために「君津市狩猟ビジネス学校」を開催したり、小学生から高校・大学生に向けて、有害駆除の現状や命の尊さを伝える教室「命の授業」を行なったりされています。

 高校生向けの「命の授業」ではイノシシを解体し、お肉になる過程をあえて見てもらい、時にはまだ温かいお肉をビニールの手袋をして触ってもらうこともあるそうです。そこには原田さんの、命の尊さを伝えたい、そしてともに、日本の自然を未来に引き継いでいこうという、そんな熱い思いが込められています)

命の授業

※「命の授業」に参加された生徒さんの反応は、どんな感じなんですか?

「初めは、やっぱりちょっとギョッとした感じです。なかなか今を生きるかたたちって、それこそ、スーパーに並んでいるお肉が、どういう行程を経てお肉になるのかっていうのを知らないので・・・。

 私は49歳で、小っちゃい頃、田んぼの真ん中に住んでいたので、近所のお爺ちゃんが、ニワトリを絞めてお鍋にするのを近くで見ていたりとか、猟師さんがハトを獲ってきて捌いているのを見ていたりしてましたね。何となく生きものの生き死にとか、命のいただきかたをぎりぎり見られた世代なのかなと思うんだけど、今の小学生の親御さんなんかは、お若いからそんなことは知らないんですよ。

 だから、僕らがやっている家業がそういうことなんで、子どもとかに伝えられるじゃないですか。どうやってお肉って出来上がっていくんだろう、どうやって生きものを殺めると美味しいお肉になるんだろう、生きているものが亡くなっていくって、こういうことなんだなっていうのを、子どもたちが見てくれることによって、これはいずれ、フードロスの問題とか、食べものへの感謝とか、そういったものに・・・SDGsですよね。そういうものにつながってくると思うので、そんな感じの取り組みをしていますね」

(編集部注:「命の授業」については原田さんの本『週末猟師』にも掲載されています。ぜひご覧ください)

未来の日本のために

●改めて、この本を通していちばん伝えたいこと、最後に聞かせてください。

「はい。今、猟師も減っています。未来に向けて獣と人間がうまく共存出来るような仕組みを作るには、やはりきちっとした知識を持った猟師が、未来の日本のためには必要なので、興味があるかたがいたら、この本を読んでいただいて、本気でやるつもりがあるんだったら、猟師工房ランドに来てくれて、僕と話をしましょう」


INFORMATION

週末猟師〜ジビエ・地域貢献・起業、充実のハンターライフの始め方

『週末猟師〜ジビエ・地域貢献・起業、充実のハンターライフの始め方』

 週末にハンターとなって過ごすための基礎知識から、有害駆除の取り組み、週末猟師を体現している人たちのインタビューなども掲載。知られざる猟師の生活やリアルな現状を理解できる一冊です。徳間書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎徳間書店 HP:https://www.tokuma.jp/book/b592900.html

 君津市にある「猟師工房ランド」ではジビエなどの販売ほか、元小学校の広い校庭を利用して、ソロキャンパー専用のキャンプサイトも運営しています。詳しくはオフィシャルサイトを見てくださいね。

猟師工房ランド

◎猟師工房ランド HP:https://www.facebook.com/Hunter.workshop/

1 8 9 10 11 12 13 14 15 16 21
サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW
  • 世界を放浪する自転車の旅人、山下晃和。自転車とキャンプのすすめ!

     今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自転車の旅人、モデルの「山下晃和(やました・あきかず)」さんです。  山下さんは1980年生まれ、東京都出身。高校生の時に海外に行きた……

    2024/4/14
  • オンエア・ソング 4月14日(日)

    オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」 M1. BICYCLE / LIVINGSTON TAYLORM2. CONVERSAT……

    2024/4/14
  • 今後の放送予定

    4月21日 ゲスト:福井県立恐竜博物館の主任研究員「柴田正輝(しばた・まさてる)」さん  柴田さんが監修された「オダイバ恐竜博覧会2024」の見所や恐竜王国・福井についてうかがいます。 ……

    2024/4/14
  • イベント&ゲスト最新情報

    <山下晃和さん情報> 2024年4月14日放送  5月開催の「BIKE & CAMP」、日程は5月25日(土)から26日(日)。開催場所は福島県いわき市の「ワンダーファー……

    2024/4/14