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海底下の微生物の謎、そして人類史上初の壮大なプロジェクトに迫る!

2023/9/24 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立研究開発法人「海洋研究開発機構JAMSTEC」の上席研究員「稲垣史生(いながき・ふみお)」さんです。

 JAMSTECは、海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、
科学調査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」、その母船となる「よこすか」などを保有しています。

 この番組ではこれまでにも、横須賀にあるJAMSTECの施設を取材したり、研究員のかたにお越しいただいて、深海に生息する生き物のお話をうかがったりしてきました。

 そして、今回お話をうかがう稲垣さんは、深い海のその下、海底下の岩盤に生きる微生物を研究されているスペシャリストで、国内外の科学に関する数々の賞を受賞、世界から注目されている研究者でいらっしゃいます。

稲垣史生さん

 稲垣さんは1972年、福島県郡山市生まれ。九州大学大学院の博士課程修了。専門は「地球微生物学」。この学問は稲垣さん曰く、地質学や地球科学と、微生物学を融合したもので、1980年代頃からアメリカを中心に広まっていったそうです。

 稲垣さんが、海底下の微生物を研究するようになったのは1994年、大学院生だった頃、図書館で手にした科学雑誌「nature」に掲載されていた論文に出会ったことがきっかけなんです。

 その論文には、それまで生き物はいないとされていた、深海の海底下、500メートルを超える地層に膨大な微生物が存在すると書かれていて、大きな衝撃を受けたそうです。この論文との偶然の出会いこそが、稲垣さんの壮大な研究の始まりだったといえます。

 当時は、そんな海底下の地層に本当に微生物がいるのかと、世界中で議論になったといいます。その後、いくつかの国際的なプロジェクトが組まれ、ようやく少しずつ海底下の生き物の正体が明らかになってきたそうです。そんな海底下の微生物の調査・研究をリードする存在が、今回お話をうかがう稲垣さんなんです。

きょうは稲垣さんが先頃出された本『DEEP LIFE 海底下生命圏』をもとに海底下の岩盤に生きる微生物や、人類史上初の科学プロジェクトのお話などをうかがいます。

☆写真協力:海洋研究開発機構(JAMSTEC)

写真協力:海洋研究開発機構(JAMSTEC)

科学調査船『ちきゅう』は、洋上の研究所!?

※海底下の調査で活躍するのが、日本が世界に誇る船『ちきゅう』だと思うんですけど、稲垣さんの新しい本に掲載されている写真を見ると、豪華客船並みですよね。どんな船なのか、教えてください。

「そうですね。科学調査船としては世界最大かつオンリーワンの船と言っても過言じゃないと思いますね。
 全長は210メートルもあります。幅は38メートルで、総トン数が56000トンということですので、確かに豪華客船並みですよね。港で『ちきゅう』の写真を撮ろうとすると、近くからでは大きすぎて、全体が撮れないぐらい大きいんですよ。 なので、少し引き気味で遠くから撮らないと『ちきゅう』のいい写真は、なかなか撮れないですね」

●写真を見ると、船の上にやぐらのような大きな塔が立っていますけれども、これは何に使うものなんでしょうか?

「掘削をするとなると、パイプをひとつひとつ繋げて降ろしていく必要があるんですね。降ろす時にパイプを縦に引き上げて、それを海底に降ろしていく、そのための設備として、やぐらが必要なんです。

 このやぐら、非常に特徴的で高さは70メートル、水面からだと110メートルぐらいあります。パイプの吊り上げとか、連結のために必要なやぐらの下、船体の真ん中にムーンプールと呼ばれる穴が開いていまして、そこからパイプを降ろしていくというような仕組みになっています」

掘削で使うドリル・ビット
掘削で使うドリル・ビット

●どれぐらい深いところの岩盤まで掘ることができるんですか?

「『ちきゅう』は、現在のスペックですと、水深2500メートルの海底から約7500メートル掘削することができます。 これはライザー掘削という特殊な、石油業界で開発されてきた技術なんですけども、それを使うと2500メートルの海底から大体7000メートルから7500メートル掘れるということなんですね。パイプの長さが1万メートルぐらいと富士山の高さの大体3倍ぐらい、そのパイプを『ちきゅう』の船上に乗せるのに、あれだけ大きな船体が必要ということなんです。

 そういった石油業界のシステムを使わない掘削のやり方というのもあって、そうすると水深が2500メートルではなくて、もっと深い、例えば日本海溝のような数千メートルの深さから掘削をすることもできると、そういうすごい能力を持っています。

 『ちきゅう』の最も大きな特色は、やはり世界トップレベルの分析施設が船の上にあるということだと思うんですね。例えば、医療用のXCTスキャンとか電子顕微鏡まで船の上にあります。掘削によって採取してきた『コア』と呼ばれる棒状の地層のサンプル、これをXCTスキャンで分析をして、どんな地層なのかを瞬時に調べることができます。本当に船上に研究室がある“洋上の研究所”みたいな感じの施設になっています」

『ちきゅう』で作業中の稲垣さん
『ちきゅう』で作業中の稲垣さん

海底下は、キッツキツでアッツアツ!?

※稲垣さんの研究には欠かせないオンリーワンの船『ちきゅう』は、正式には地球の深い部分を探査するための船ということで、「地球深部探査船(ちきゅうしんぶたんさせん)」と呼ぶそうです。
 そんな『ちきゅう』は2005年7月に就航。その後、青森県八戸沖や、高知県室戸沖の海底下の掘削を行ない、地層のサンプルを回収しています。

 そのサンプルからどんなことがわかったんでしょうか。

「いろいろなことが分かりましたよ。私たちの本当に想像を超える膨大な数の微生物細胞がいることが、まず確かめられたということですね。 そして地層のサンプルから直接DNAを抽出して、その配列を読む。例えば、PCRっていう言葉は非常に一般的になりましたよね。あのPCRの原理を使って、微量なDNAを増やして、一体そこにどんな微生物がいるのか、というのを調べたということなんです。

 そうすると、地下にいる微生物は例えば、私たちの腸内細菌であるとか、もしくは発酵食品にいる納豆菌とか乳酸菌、そういう地上のありふれた微生物とは全く違う微生物たちで、その海底下の過酷な環境で独自の進化を遂げた、海底下にしかいない固有の微生物たちだったということが分かりました。そしてそれらが非常にゆっくりと活動することで地球規模の元素循環に重要な働きをしているということが分かってきました」

写真協力:海洋研究開発機構(JAMSTEC)

●稲垣さんは深い海の底の、その下の環境を”キッツキツでアッツアツの世界”と表現されていました。そんな過酷な環境にいる微生物は、どんな生き方をしているんですか?

「過酷なんですよね〜。海底下の世界って深くなればなるほど、古い地層だし、温度や圧力もどんどん高くなっていきます。そういった中で海底下の微生物はどうやって生きているんだろうと・・・極めてゆっくりひっそりと暮らしているようなイメージかと思います。ただただそこにじっとしていて、何百万年もの間、生き長らえていると言ってもいいかもしれません。

 そもそも岩石、もしくは堆積物の世界なので、その現場に水とか栄養が地表のようにバンバン供給されているような場所ではないわけです。食べるものが少ないので、超エコなサバイバル生活をしていると、そういうような世界だと思っています」

●何かしらのエネルギー必要ですけど、どうやってエネルギーを得ているんですか?

「すごくいい質問です! 基本的には我々が住んでいる地表の世界だと、太陽光がバンバンと降り注いでいて、活発にそのエネルギー使っていますね。しかし海底下深部、深海底のさらにその下となると、太陽の光は届きませんよね。そもそもエネルギーはどこから得ているんだろうと思いますよね。

 基本的には、地下に埋没した有機物が餌なんですけれども、非常に使いやすい有機物は地表で食べ尽くされちゃっているので、なかなかそれもご飯としては食べにくい・・・そうすると、何を食べているんだろう? どうやって生きているんだろう? っていうのが大きな謎なんですね。

 最近の学説ですと、岩石と水が相互作用することによって、実は微量な水素とか電子とか、そういったものがゆっくり出てくるということがわかっています。 実は地下の微生物は、そういう岩石と水との反応に生かされているっていうか、地球に生かされているような感じで、地質学的な時間スケールで、それこそ何百万年、何千万年も生きているんじゃないかと、そういう学説もあるくらいです」

回収された地層のサンプル
回収された地層のサンプル

究極のエコシステム!?

※私たち人類は、いま温暖化など地球規模の環境問題や、エネルギー問題に直面していて、SDGsもそうですが「持続可能」という考え方が求められていると思います。海底下の微生物を研究されていて、どんなことを思いますか?

「エネルギーが豊富にある世界に我々は住んでいるわけですけれども、海底下はエネルギーが枯渇した世界と言っても過言じゃない。そうすると、その差について考えさせられますよね。

 地表の世界は、太陽光の恩恵を受けた非常にエネルギーに満ちた世界なんですけれども、そこでは我々人間を含めて熾烈な競争とか自然淘汰のような進化が起きていますよね。
 ですが、海底下の世界だと太陽光が届きませんから暗黒で、本当にわずかなエネルギーしか利用できないということになります。逆にそのような環境では微生物たちはエネルギーを使い果たしてしまうと絶滅してしまうので、それを避けようとしているように見えます。

 つまり争いをやめて、究極のサバイバルモードに入っていると・・・。その差、もしくはその仕組みから、じゃあ人間社会がどういうふうに地球環境に寄り添って今後発展していくのか、持続可能性を創出していくのか、お手本になるといいますか、感覚的に学ぶ点が非常に多いなというふうに感じています」

●確かに微生物の生き方には、いろいろヒントがありそうですね。

「そうなんですよね。究極のエコシステムと言ってもいいんじゃないかと思います。 そこから持続可能性について何がわかるのか・・・。例えば、海底下の微生物生態系はおそらくですけれども、プレートテクトニクスとか、地震や火山活動とか、そういった地球本来のシステムに寄り添った形で進化して成り立っていると思うんですよね。

 また、エネルギーを無駄にする余裕は全くありませんから、自分の体のメンテナンス、例えば、DNAとかタンパク質等々が老化とともに損傷を受けますよね。そういったものを直していくためだけの、最小限のエネルギーしか使わずに、可能な限りのリサイクルをし、長いこと生きていると、そういう世界なんだなというのが分かります」

『DEEP LIFE 海底下生命圏~生命存在の限界はどこにあるのか』

壮大なプロジェクト、マントル・アタック!?

※稲垣さんの本に、海底下の岩盤のその先にある、マントルを目指す構想があると書いてありました。どんな構想なのか、教えていただけますか。

「地球という惑星の体積の83%が『マントル』という物質でできているんですね。私たちが暮らすいわゆる地表の世界、海水とか陸の土壌とか、そういった地表の世界は、マントルの上に存在するシャボン玉の幕のような場所だとイメージしていただければいいと思います。

 で、マントルの色って何? ってよく(みなさんに)聞くと、赤いドロドロしたやつじゃないの? っていう人が多いんですけれども、実はそうじゃなくて、マントルは『ペリドット』っていう緑の宝石の成分を多く含む岩石なんですよね。ドロドロしているわけではありません。ペリドットっていう宝石や、もしくはガーネット、ダイヤモンドも含まれていると言われています。なので、宝石の世界と言ってもいいんじゃないですかね。

 そういったマントルに含まれるエネルギーが、実は地球のシステムを駆動していると言いますか、動かしている。例えば、どうして海洋が循環するのか? どうしてプレートが沈み込んで地震が起きるのか? そういったさまざまな地球の事象は、実はマントルの動きにそのヒントがあると考えられています。

 なので、地球に生命がいるという状態を、マントルが作り出していると言っても過言じゃない。だけど人類は、まだマントルに到達したことがないんですね。そのマントルそのものの実態はまだ不明の点が多いということで、マントルを目指すという構想があります」

●すでに候補の海域とかってあるんですか?

「マントルに到達するにはもちろん深く掘削をしていく、そして調査をするということが必要なんですが、マントルの上に存在する地殻の厚さが重要なんです。地殻は岩石です。もちろんマントルも岩石なんですが、地殻の岩石の厚さが重要で、陸の近くは分厚すぎて、マントルに到達するのはおそらく難しい。でも海洋であれば、地殻の厚さが比較的浅い場所がいくつかあって、マントルに到達することができるんじゃないかと考えられています。

 現在はハワイ沖、コスタリカの沖合、そしてバハカリフォルニアというカルフォルニア半島の沖合、その3地点が比較的マントルに到達するまでの距離が短いので、掘削調査の候補地点として挙げられています」

※マントルへの到達を目指す、人類史上初の国際的なプロジェクトには、日本が世界に誇る科学調査船『ちきゅう』が大活躍することになると思うんですけど、プロジェクトが進行し、実現するのはいつ頃になりそうですか?

「なかなか答えるのが難しいんですが、国際的な科学者コミュニティーが最近、白書と言いますか、意見を取りまとめた文章を公開しておりまして、そこには、2050年までに実現すべき科学目標のひとつとして、マントル掘削というのが位置付けられていると・・・。

 ですから、先ほども申したように、まずその掘削候補となっている場所の地質を調べて、そしてマントルに至る途中の岩石を掘ってみて、どういう技術的な課題を克服しなければいけないのか、そういったものを見定めた上で最終的には“マントル・アタック”をやるというように、一歩一歩前進していくことが大事だと思います」

●ワクワクしますね!

「そうですよね。そもそもハワイ沖ですと日本に近いわけですが、水深4200メートルの海底から大体6000メートルぐらい掘削するとマントルに到達すると・・・、もしくは地殻とマントルの境界を貫いて、マントル、いわゆる宝石の世界に人類が初めて届くということになるんじゃないかと、そういうふうに考えられています」

生命の起源と地球の謎に迫る!

※果たして、アッツアツのマントルに微生物はいるのでしょうか?

「マントルに生命がいるのか? って言われると、いや、いないでしょうというふうに答えるかと思うんですけども、ハワイ沖であれば、上部マントルの温度はだいたい150度ぐらいと考えられているんですね。この間、室戸沖で掘った120度の地層にも微生物はいましたから・・・いや、どうなんでしょうかね・・・その生命が存在するかとか、もしくは生命の起源の鍵となるような化学反応が起きているかどうか等々、生命に関する多くの疑問がマントル掘削によって明らかになるんじゃないでしょうか。

 もちろん地球の構造はどうなっているんだろう? とか、そもそも地球はどんな星なんだ? っていうことが明らかになるわけですから、さまざまなことが発見されると思うんですけど、生命にとっても非常に重要な科学的な問いが、マントル掘削によって満たされるんじゃないかと思います。その鍵になるのは”水”だと思っています」

●水!?

「はい、つまり生命が存在する、もしくは生命の起源となる化学反応が起きる、つまりそれは、岩石と水との反応がないと、なかなか難しいと思うんです。
 岩石の中、地球の中にどれぐらい水があるのか? というのも、実は第一級の科学的な問いになっていて、その水が供給される何らかのメカニズムがあると、低温のマントルを含めて、そこに生命が存在する可能性というのは否定はできない、それを検証したいと思いますよね」


INFORMATION

『DEEP LIFE 海底下生命圏~生命存在の限界はどこにあるのか』

『DEEP LIFE 海底下生命圏~生命存在の限界はどこにあるのか』

 稲垣さんの新しい本をぜひ読んでください。海底下の岩盤に生息する微生物研究の歴史や動向、そして最前線を知ることができますよ。なにより稲垣さんの、研究にかける熱い思いを感じます。
 講談社のブルーバックス・シリーズの一冊として絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎講談社 :https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000377075

 JAMSTECのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。科学調査船「ちきゅう」の説明や写真も載っていますよ。

◎JAMSTEC :https://www.jamstec.go.jp/j/

今年後半の天文現象、おすすめは「中秋の名月」「ダイヤモンド富士」「ふたご座流星群」!

2023/9/17 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、平塚市博物館の天文担当学芸員「塚田 健(つかだ・けん)」さんです。

 幼少の頃から星や宇宙に興味を持っていた塚田さんは、東京学芸大学大学院の修士論文も天文学で書くほどの天文好き。専門は太陽系小天体と太陽系外惑星など。現在は学芸員のほか、東京学芸大学の非常勤講師や、月刊『天文ガイド』に寄稿する天文ライターとしても活躍、天文や宇宙に関する本も出していらっしゃいます。

 そんな塚田さんが先頃出された本『天文現象のきほん』は、初心者でもわかりやすい内容で、日常的に起きている日の出・日の入りや、月の満ち欠けを身近な天文現象と捉え、解説してあるのも特徴なんです。

 きょうは、今年後半の注目の天文現象から、おもに「ダイヤモンド富士」や「中秋の名月」そして「ふたご座流星群」のポイントや見所などうかがいます。

☆写真協力:平塚市博物館/塚田 健

写真協力:平塚市博物館/塚田 健

ダイヤモンド富士、10月23日、午後4時47分!

※太陽の現象でいうと「ダイヤモンド富士」が知られています。改めてどんな現象なのか、教えてください。

「ダイヤモンド富士というのは、富士山の頂上に太陽が沈んでいく、もしくは頂上から太陽が昇ってくるように見える、そういう現象です。富士山は頂上が平らじゃありません。火山なので凸凹している、その隙間から太陽の光が出てくる、それがすごく美しいのでダイヤモンド富士と呼ばれていますね」

●ベイエフエムのある海浜幕張からは、数日にわたって観察できるそうですね?

「ある一箇所からだと、だいたい年に2回見られることが多くて、おそらくベイエフエムさんのビルだと10月23日だと思います」

●次回のダイヤモンド富士が、そんなにすぐ見られるんですね!

「そうですね」

●ダイヤモンド富士を海浜幕張から見ようと思ったら、何時くらいから注目していればよろしいですか?

「これは計算できまして、太陽の中心が富士山の頂上に接するのが、およそ午後4時47分なんですね。その時は、富士山の上に半分ぐらい太陽が出ている状態になります。その2〜3分ぐらい前、午後4時45分ぐらいから見始めて、完全に隠れるのが48分過ぎっていう感じになりますので、午後4時45分から5分間ぐらい見ればいいのかなと思います」

●観察するときの注目ポイントはありますか?

「まずしっかりと時刻を把握しておかないと気がついたら、もう沈んでいるなんてことがあると悲しいですので・・・もちろん、30分〜40分前から待っていてもいいんですけれども、その瞬間を見逃さないためには時刻をしっかりと把握しておいてほしいかなと思うのと、やっぱり自分なりのビュースポットをあらかじめ探しておく、前の日の昼間とかでもいいので、探しておくっていうのがいいですね」

●どういう場所がいいんです?

「そうですね・・・やはり富士山が裾野まできれいに見えるところがいいのかなと思います。千葉県だと館山のほうで東京湾越しの富士山が見られます。海と富士山ってすごく綺麗なんですけれども、そういう自分が好きな風景と一緒に富士山が見える場所を探せるといいんじゃないかなと思いますね」

塚田 健さん

満月と富士山の共演! パール富士

※富士山の山頂から満月が昇ったり、沈んだりする「パール富士」という現象があることを塚田さんの本で知りました。この現象についても教えてください。

「月は白っぽく見えると思うんですけども、パール富士、パールって真珠ですよね。なので満月、ちょっとぐらい欠けてもいいんですけど、満月が富士山の頂上に沈んでいく、もしくは昇ってくる現象をパール富士と言います。これはダイヤモンド富士と違って結構珍しいですね」

●ダイヤモンド富士は1年に2回とおっしゃっていましたけれども、このパール富士はどれぐらいの頻度で見られるんですか?

「必ず年に何回とかそういう決まりが残念ながらないので、下手をすると年に1回も見えないこともありますし、運がよければ、年に2〜3回っていうこともあり得ます。月が富士山のほうに沈む時に、ちょうど満月になっていないといけないので・・・。

 そもそも満月は年に12回しかないですから、太陽はいつでも丸いまま毎日沈んでいきますけど、月はそうはいかないので、そういった意味ではパール富士は、場所を問わなくても、年に12〜13回しかチャンスがないんですよね」

●塚田さんの本に千葉の館山市で撮影されたパール富士の写真が載っていましたけれども、すごく神秘的ですね。

「そうなんです。太陽もすごくキラッとして眩しいくらいで綺麗なんですけれども、満月はすごく静かな感じがして、特に関東地方で見られるパール富士は必ず明け方ですから、月が沈む時に西の富士山に見えますので、周りも静かなんですよね、夕方と違って・・・。なので、そういった静かな、静のイベントっていう感じがします」

写真協力:平塚市博物館/塚田 健

9月29日は「中秋の名月」

※満月といえば、今年(2023)は9月29日(金)が「中秋の名月」となっています。今年の見所はどんなところですか?

「まず中秋の名月は、必ずしも満月とはならないんですけれども、今年は満月なので、丸い月がきれいに見えると思いますし、9月の下旬ということで比較的空がいい感じに晴れるかなと思うんですよね。9月下旬から10月の中旬ぐらいが、空は非常に安定しますので、晴れれば、綺麗な月が見られると思います」

●「中秋の名月」は満月じゃない時もあるんですね。

「あるんですね。中秋の名月は十五夜とも言います。これは昔の、いわゆる旧暦で15日目ってことになるんですけれども、月が地球の周りを回っている軌道、道筋が円じゃなくて楕円なので、地球に近い時は早く回って、遠ざかると遅く回っていきます。

 同じ速さで回っているわけではないので、どこで満月になるかで早い時は、ちょっと日付が早まりますし、もうちょっとずれることも、遅くなることもあって、13日から17日ぐらいまで 結構幅があるんですね」

●満月の中でも、この時期の満月を「名月」と呼ぶのはどうしてなんですか?

「まず、高さがちょうどいいんだと思います。太陽もそうですけれども、季節によって満月の高さって変わるんですね。冬の満月はすごく高いんです。空高くて、空高いと地球の空気の影響をあまり受けないので、月が真っ白く、凍てつくようなと言いますか、すごく刺さるような明るさを持つんですよね。

 それはそれで神秘的だと思うんですけれども、ちょっときついかなというか、そういうイメージがあるのと、夏は逆に満月はすごく低いんですよ。そうするとなんか霞んで色もちょっと赤っぽくなってしまいますし、ぼやけた感じになってしまいますね。

 で、高さ的には春と秋がいいんですけれども、春は春で花粉であったり黄砂であったり、空がかすんでしまいがちで、朧月夜(おぼろづきよ)って言いますよね。そうなってしまうので、定期的にもよく晴れて、月がきれいに見えるのが秋なのかなと思います」

●だから名月なんですね。満月の模様は日本では、ウサギがお餅をついているように見えると言われていますけれども、それは海外でも言われているんですか?

「海外だと別の動物ですね」

●ウサギじゃないんですか?

「ウサギじゃないんです。カニだったりカエルだったり、あとは本を読んでいる人とかですね。ひとつ変わった例が、ウサギにしてもカニにしてもカエルにしても、土の中に見える黒っぽいところをその形に見るんですけど、ヨーロッパの一部では逆に白っぽいほうを女の人の横顔と言うとか、本当に文化によって様々です」

写真協力:平塚市博物館/塚田 健

12月のふたご座流星群、好条件!

※今年(2023)10月以降の天文現象でおすすめはありますか?

「まず、なんといっても、 12月のふたご座流星群かなと思います」

●見どころはどんなところでしょう?

「まず、流れ星がたくさん流れるんですけれども、今年は月の条件がいいですね。流れ星がたくさん流れる時間帯に、月が残っていると明るくて、どうしても暗い流れ星が見えなくなっちゃうんですけれども、今年はその心配がないですね。

 あと、ふたご座流星群が全体的にそうなんですけれども、夜更かしをしなくても見られるんですね。ペルセウス座流星群って8月によく見える流星群であるんですけれども、ペルセウス座流星群は午前2時とか3時じゃないとたくさん流れてくれないんです。ふたご座流星群は夜の8時、9時でもまあまあ見えるので見やすいかなと・・・まあ寒いっていうのはあるんですけどね」

●1時間にどれぐらい出現しそうですか?

「空が暗いところであれば、50個60個は見えます」

●いいですね! 今年のふたご座流星群は観察しやすそうですね。

「そうですね。今年はおすすめです」

●同じ流れ星でも、光ながらも燃え尽きずに再び宇宙へ飛び出していく流れ星があると、塚田さんの本で知ったんですけれども、改めてそれはどんな流れ星なんでしょうか?

「流れ星は、そもそもの話をすると、小さな砂粒が地球に落ちてきて、地球の空気とぶつかって熱くなって光るんですね。地球は丸いですから、すれすれに(砂粒が)来ると、水切りと同じ要領で一回、地球の空気に入るんですけれども、そのまますっ〜と落ちずに飛んでいくっていうのがあるんです。地球の空気に入っている間だけ光ってそのまま去っていくので、見ていると入ってきて、また上がっていくっていうような不思議な感じがするんですね」

●それは実際に見ることはできるんですか?

「見ることはできるんですけれども、いつどこでっていうのは全く予想がつかないので、もう運次第です!  『アースグレイジング』と言って、流星群の時に見えることもあれば、そうではなく普段の日に何の前触れもなく見られることもあるんです」

●ものすごくレアなんですね!

「そうですね。なかなか機会はないですね」

(編集部注:お話にあった「アースグレージング流星」、「アース」は地球、「グレージング」には、かする、という意味があるそうです。塚田さんの本には2022年5月に観測された「アースグレージング流星」の写真が載っていますよ。ぜひご覧ください)

『天文現象のきほん』

星の色の違いは表面温度!?

※これから秋も深まり、冬になると空気が澄んできて、星空観察にはいい時期なりますよね。「冬の大三角形」や「冬のダイヤモンド」、そして「オリオン座」などが見頃だと思いますが、星空を見ていると、白だけじゃなくて、青い星だったり、赤く見える星もありますよね。星の色が違うのは、どうしてなんですか?

「星の色は、その星の表面の温度で変わるんです。イメージとちょっと反対かもしれませんけれども、青っぽい星のほうが温度が高く、赤い星のほうが温度が低くて、太陽はどちらかというとその真ん中へんの、遠くから見ると黄色っぽく見える星なんですけれども、大体6000度くらいですね。

 青白い星、冬の星で言いますと、オリオン座の『リゲル』っていう星がだいたい10000度とか20000度とかそれぐらいありますね。一方で3つ星を挟んでオリオン座の反対側にある 『ベテルギウス』っていう明るい赤い星があるんですけど、こちらは3000度くらいです。温度で色が決まっているんですね」

写真協力:平塚市博物館/塚田 健

(編集部注:今年、秋から冬にかけての天文現象として、土星の輪っか「リング」のお話もありました。塚田さんによると、土星のリングは、地球から見ると毎年傾きが変わるので、来年以降は見えなくなるそうです。
 次に見えるのは2027年だそうで、土星のリングを見たいかたは今年がチャンスだとおっしゃっていましたよ。望遠鏡を持っているかた、ぜひ観察してみてください)

見あげてごらん、星空を

※塚田さんは、小惑星探査機「はやぶさ2」の記事も書かれたことがあるそうですが、いま注目している宇宙開発や宇宙探査はなんですか?

「打ち上げが来年度で、詳しい日付は決まってないんですけれども、『MMX』っていう探査機を日本が打ち上げることになっています。MMXのMは『Mars(マーズ)』、つまり火星なんですね。

 火星の衛星、火星の周りを回っているお月様に行って、『はやぶさ』の時のようにそこの砂を採ってきて、地球に帰ってくるっていうミッションなんですね。まだ火星の衛星から砂を持って帰ってくるっていうのは、どの国もやったことがないことなので、新しいチャレンジになりますので、ぜひ成功してほしいなと思いますね」

●塚田さんのお話を聞いて、星や宇宙に興味を抱いたかたに何をいちばんお伝えしたいですか?

「星や宇宙っていうと遠いというか、自分たちのいる世界とは、かけ離れた世界と思ってしまいがちなんですけれども・・・でも地球は宇宙の中にありますし、当然私たちは太陽の光を浴びて昼は暮らしていますし、夜には月や星が見えます。

 宇宙は、実はそんなに遠いものではなくて、距離は確かに遠いかもしれないですけれども、身近なものですし、何より私たち生き物は宇宙から生まれてきた、宇宙の星とかそういったものから生まれてきたので、本当に無関係どころか密接な関係があるんです。

 なかなかそれを見て感じるっていうのは難しいんですけれども、晴れれば誰でも見られるんですよね、星って。もちろん街中では明るい星しか見えないってこともありますけれども・・・でも誰にでも、頭の上に等しく星空は広がっているので、ぜひ日頃から空を見上げてほしいなと思います」

写真協力:平塚市博物館/塚田 健

INFORMATION

『天文現象のきほん』

『天文現象のきほん』

 塚田さんの新しい本をぜひ読んでください。副題は「今夜はどの星をみる? 空を見上げたくなる天文ショーと観察方法の話」。天文と星空に関する説明が、太陽、月、惑星、太陽系の小天体ほか、全部で6つのチャプターに分かれ、62の項目がそれぞれ見開き2ページで完結、チェックポイントと楽しみ方が写真や図でわかりやすく解説されています。特に初心者におすすめですよ。
 誠文堂新光社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/astronomy/81383/

写真協力:平塚市博物館/塚田 健

 塚田さんが解説されているプラネタリウムの投影プログラムについては、平塚市博物館のサイトをご覧ください。

◎平塚市博物館:https://hirahaku.jp/

世界を股にかける動物園・水族館コンサルタント〜夢は家畜専門の動物園

2023/9/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、動物園・水族館コンサルタントの「田井基文(たい・もとふみ)」さんです。

 田井さんは1979年生まれ、早稲田大学卒業。2009年に世界で初めての動物園・水族館の専門誌「どうぶつのくに」を創刊。その後、日本動物園水族館協会の広報誌を手掛けるなど幅広く活動。2012年から動物園・水族館コンサルタントとして活躍。さらに動物園写真家としての顔も持っていらっしゃいます。

 そして先頃、『世界をめぐる 動物園・水族館コンサルタントの 想定外な日々』という本を出されました。

 きょうは、この本をもとに動物園・水族館コンサルタントとは、どんな仕事なのか、国内外の動物園や水族館の現状やあり方はどうなのか、そして、田井さんが作りたい夢の動物園のお話などうかがいます。

☆写真提供:田井基文

田井基文さん

動物園・水族館コンサルタントの仕事

※まずは、動物園・水族館コンサルタントとはどんなお仕事なのか、教えていただきました。

「私は10数年ほど前から、動物園・水族館コンサルタントの名刺を持つようになったんですね。といっても、これに明確な、例えば資格試験があるというわけではない仕事で、どれだけこの業界のことであるとか、人のこと、ネットワークや知見があるかっていうことが、問われる仕事なのかなと思っています。

 つまり単純に、特定の動物の種類やその個体に対して、深い知識を持っていますっていうことよりは、自分の持っている知識や経験、そういったことを、いかに柔軟にクリエイティヴに結びつけて、新たな価値を提示できるかっていうことが私の仕事になるのかなと。

 例えば、ある動物園で新しくホッキョクグマの展示を作りますと、なにかいいアイデアはないでしょうか? なんていうご相談を受けた場合に、あの動物園ではホッキョクグマのこんな展示が人気ですよとか、あるいはあの水族館ではこんなふうにチャレンジしていますよとか・・・。

 あるいは全く別の種類で、こんな動物はこんなふうに見せていますけど、これをホッキョクグマの展示にうまく応用できないかなっていうようなことだとか・・・。それを生物学的なことはもちろんなんですけど、動物園学的、あるいはデザインだったり建築学的なこと、そしてそれを受け入れる背景としての社会学的な部分も含めて、非常に多面的に検討して検証しながら、動物園や水族館に対して提案をしていくということになるかなと思います」

写真提供:田井基文

●動物園・水族館コンサルタントという肩書きで仕事をされているのは、日本では田井さんだけでいらっしゃいますけれども、海外ではスタンダードな存在なんですか?

「そう言っていいんじゃないでしょうか。非常に専門性の強い分野でもありますし、経験が物を言う業界、そんな背景がありますので、どこかの動物園や水族館で長くご活躍された館長、あるいはキュレーターみたいなかたを、そういったポジションで、また別の施設でお迎えするというのは珍しいことではないと思いますね」

●それだけ需要があるってことですよね。

「まあそうですね。そう言っていいと思います」

(編集部注:田井さんが動物園・水族館コンサルタントになった大きなきっかけは、ビジネスパートナーであるユルゲン・ランゲ博士との出会い。
 ランゲ博士は、ベルリン動物園の統括園長を長年続け、ヨーロッパの業界では大変有名なかたで、田井さんいわく、魚類や哺乳類、家畜ほか博物学にも精通し、その幅広い知識とネットワークは、ランゲ博士の右に出る人はいないそうです。そんなランゲ博士から、一緒にやらないかと誘われ、ふたりで動物園・水族館コンサルタントの仕事を始めたということです)

ランゲ博士と田井さん。ガラパゴス諸島での写真。
ランゲ博士と田井さん。ガラパゴス諸島での写真。

動物と動物園のサステナビリティ

※田井さんによれば、日本には大小合わせて、動物園が160から170箇所、水族館が120から130箇所、合わせると300箇所ほど、アメリカにはおよそ200箇所、ドイツには150箇所ほどあるそうです。海外との違いは、日本は県や町が運営する公立の施設が多いのに対し、海外はほとんどが企業が運営しているとのこと。

 田井さんは取材を含めて、国内外の施設を1000箇所以上訪れているそうですが、特に感銘を受けた施設を挙げるとしたら、どこになりますか?

ベルリン動物園
ベルリン動物園

「動物園は、ひいき目なしにやっぱりベルリン動物園が大好きですね。飼育している数、飼育の展示施設のデザイン、それから歴史的な背景も含めて、やっぱり動物園ではベルリン動物園に右に出るものはいないでしょうね。

 水族館で言うと、スペインのバレンシアの水族館(*)が、僕は大好きですね。建築にご興味のあるかたは特におすすめしたいんですけど、水族館の肝になるのはひとつ建築の要素が、本当に大部分を占めると僕は思っているので・・・」

(*編集部注:施設名「オセアノグラフィック」)

●建築ですか?

「はい、建物としての美しさはバレンシアの水族館はダントツですね。ぜひ行ってください(笑)」

オセアノグラフィック
オセアノグラフィック

●水族館と建築には、そんなに深い関わりがあるんですか?

「やっぱり日本でも水族館を作るにあたっては、単なる四角い箱の中に(生き物を)入れるということではなく、それをある種の美術館や博物館のような感じで捉えて、建築している例がいくつかありますよね。海外の場合はもっと顕著にそういうのが出てくるわけですけれども・・・」

●日本では新たにオープンするっていうよりも、リニューアルが多いように思います。やっぱりコンサルタントとしては腕の見せ所だと思うんですが、田井さん自身、コンセプトというか、どんなことを大事にされていらっしゃいますか?

「いかにその展示施設全体が、その動物にとって自然な環境であるかっていうことは、大前提になると思います。動物たちにとってナチュラルな環境がなかったとすると、本来彼らが自然界でとる自然なアクションは、もちろん見られなくなるし、そうなってくると、本質的な動物の魅力も引き出してお見せすることはできなくなる・・・。

 さらにそういった環境下になければ、もちろんペアリングだとか子育てみたいな、次なるミッションにもなかなか取り組んでいけない、無駄なハードルを勝手に作っちゃうみたいなことになるわけです。その動物たちにとってのサステナビリティは、動物園としてのサステナビリティにも直結するっていうのが、ひとつのモットーですかね」

●その施設のある町がどんな町なのかを調べると、本に書かれていましたけれども、それはどうしてなんですか?

「先ほどの自然環境の話と、ある意味では遠からず、つながった話かなとは思うんですね。本にも書きましたが、例えば 日本の高知県で高知のかたにアンケートを取った時に、きっと坂本龍馬のことを知らない人いないと思うんですよね。もちろん直接的に龍馬ゆかりの何かをっていうことでは、決してないんですけど、そのことを知った上でやるか、あるいは知らずにやるかは大違いだと思います。

 だから世界的に有名かどうか、そんなことは割とどうでもよくて、むしろその地元ゆかりの人物、あるいは建物、文化でもいいし、風習でもいいし、郷土料理なんかもいいと思うんですが、そういうところには必ず何かヒントがあると私は思っています」

(編集部注:田井さんは、個人的に期待している動物園として、千葉県では市川市動植物園の名前を挙げてくださいました。園長さんも優秀なかたで、施設自体にも高いポテンシャルがあるとおっしゃっていましたよ)

田井基文さん

動物園と水族館のあり方

※時代とともに動物園と水族館のあり方が変わってきているように感じます。以前は狭い檻での展示でしたが、今はその生き物がもともといた環境に近い状態で展示している施設も多くなったと思います。そうなった背景にはなにがあるのでしょう?

「いちばん大きな要素としては動物福祉、『アニマルウェルフェア』なんていう言い方をしますけれども、あるいはその動物たちがより自然な、よりナチュラルな形でいられるような『ウェルビーング』なんていう言い方をする、そういう考え方、観点が非常に強く意識されるようになってきたというのが、大前提としてあると思います。

 アメリカやヨーロッパでは30年40年前ぐらいから、そういう意識がどんどん高まっていて、そういったことをスローガンに掲げた団体が非常に活発に活動されていました。そういった考え方や概念が日本の動物園や水族館にも、ちょっとずつ持ち込まれるようになってきたというのが、経緯かなとは思いますね」

●動物園も水族館も飼育展示する生き物を、どこから持ってくるのかが課題だと思いますけれども、絶滅の恐れのある動植物の取引を禁止したワシントン条約の存在も大きいですよね?

「そうですね。日本はワシントン条約を1980年に批准し、現在183カ国が加盟しています。これらの国と地域では、この条約に定められたルールにのっとってのみ規定された動植物に関して、輸出・利用させるということが大前提になりましたから、それまでとは違って、簡単に動物を持ち込むことができなくなっていると思いますね」

●となると、やはり繁殖させるっていうのが大事になってくるわけですよね?

「もちろんです。やっぱり飼育下での繁殖は喫緊の課題ですよね。動物園業界では『ブリーディングローン』なんていう言い方をしていますけれども、繁殖を目的とした動物の個体の貸し借りは、本当に国内外問わず積極的に行なっていますね。

 ただその動物を貸し借りするにあたっても、やっぱり常にリスクは伴います。例えばゾウとか、大きな動物キリンでもいいですけれども、Aという動物園からBという動物園に貸し出すことが決まっても、運ぶリスクがあったりするし、運んだはいいけれど、行った先で体調を崩してしまうとか、環境が肌に合わないとか、水が合わないとかっていうようなことも常にあります。

 それに対して例えば、冷凍で精子だったり細胞を保管しておく方法も、最近は少しずつ考えられていくようになりましたね。
 アメリカのサンディエゴの動物園だったり、イングランドの自然史博物館なんかが有名なんですけれども、本当に100単位の種類の動物たちの細胞だったり、精子だったりっていうのを冷凍状態で保管して、いざという時にはそれを利用して繁殖させられるように、ということも考えてやっていますよ。
 もちろんそれぞれ全部がうまくいっているわけではないですけれども、そういう考え方も一般的にはなってきましたね」

写真提供:田井基文

(編集部注:田井さんの本によれば、国内で飼育されているラッコは1990年代には120頭ほどいたそうですが、年々減って、現在なんと!たったの3頭。なぜ減ってしまったのか、それはぜひ本を読んでいただければと思います。田井さんがおっしゃるには、飼育下で絶滅が危惧されている動物は意外とたくさんいるそうですよ。対策が急がれますね)

夢は家畜の動物園

※田井さんは「家畜専門の動物園」を作りたい! そんな夢があると本に書かれています。それはどうしてなんですか?

「家畜ってまずなんなのか、説明できない人が圧倒的に多いと思うんですよね。家畜ってなんですかって言われて、説明できます?」

●豚とかそういうのは言えますけど、確かに家畜とは?って言われても・・・人のために、っていう感じですか。

「そうそう、おっしゃる通りです。いちばん重要なのはそこで、もともと家畜動物は人間が作り出して、人間と共に暮らして、人間と共に進化してきた、人間のために生きてきた動物です。我々人間にとっていちばん身近な存在の動物だって言えると思うんですよね。

 毎日みなさん、きっと牛乳を飲んだり、チーズを食べたり、あるいは卵を食べたりすると思うし、寒くなってくると、まだ暑いですけど、ウールのニットのセーターを着たりとか、あるいはダウンジャケットを着たりするかたが多いと思います。 あるいは革製品のバッグだったり、靴だったり履くでしょうし・・・。
 もちろんペットもそうですよね。飼っているかたはたくさんいらっしゃるんじゃないかと思います。これ全部、家畜がいなかったら成立しないことばっかりです。

愛媛県の在来馬「野間馬」
愛媛県の在来馬「野間馬」

 牛も馬も羊も鶏も豚も、それから犬も猫もみんな家畜です。この家畜はやっぱりその国やその地域によって、それぞれ暮らしてきた人たちに合わせて進化してきているので、非常に多様な進化をそれぞれの地域で遂げてきているわけですよね。

 つまり住んでいる人が違えば、その環境も違えば、やっぱりそれに適した家畜も違ってくるということなんです。アメリカにはアメリカの家畜がいるし、インドにはインドの家畜がいると・・・。もちろん日本には日本の家畜がいるんですけど、じゃあここで質問です。みなさんに牛を絵で描いてくださいって言ったら、どんな牛を描きます?」

●白に黒の・・・?

「そうですよね。きっとそうだよね」

●はい。

「鶏を描いてくださいって言ったら、どんな色で鶏を塗りますか?」

●えっと・・・トサカがあって、赤で・・・。

「トサカが赤で、足が黄色ってイメージすると思うんですけど・・・。みなさんが描かれる、白くて大きな体に黒いドットのある牛は、ホルスタインという品種ですね。あれはもともとオランダとかドイツの家畜ですし、みなさんが鶏だと思ってイメージされる、白い羽根で赤いトサカの黄色い足をした鶏は、『白色(はくしょく)レグホン』という品種で、あれはもともとはイタリアの品種だったりするわけなんです。

 じゃあ日本を代表する家畜とか動物ってどんなの? って言っても、9割以上のかたはきっとご存じないので、そこのギャップをちょっとでも埋められたらいいなっていうのを考えていますね。

 きっとみなさん動物園に行かれても、パンダのために2時間3時間並ばれることは、今はざらだと思うんですけど、じゃあ牛や鶏のためにきっとそんなことなさらないと思うんですよね。
 もちろん好みもあって、それでいいんですけど、希少性っていう意味で考えた時に、よほどパンダよりも希少な家畜は本当にたくさんいます。それが古来から日本で暮らしてきて、我々日本人の生活を支えてきてくれた存在だっていうことだったりとか・・・。

 あとはさっきも言った通り、所変われば品変わるじゃないけれども、家畜としての多様性、世界中にいろんな種類の家畜がいるよっていうことを、少しでも興味を持って知っていただけたら、いいんじゃないかなっていうことは考えていますね」

(編集部注:家畜専門の動物園、その手始めとして、田井さんは世界中の家畜などを知ってもらうために「LIVESTOCK ZOO」というサイトも運営されています。現在はリニューアル中とのことですが、ぜひサイトを見ていただければと思います)

◎LIVESTOCK ZOO http://livestockzoo.com

写真や映像にはないものがある

※以前から、動物園や水族館はほんとうに必要なのか、そんな問いもあったと聞いています。今後、動物園や水族館はどう進化していけばいいのか、田井さんは何が大事になってくると思いますか。

「やはり教育ということが、その大部分を占める要素になることは間違いないでしょうね。あらゆる動物たち、それは植物もそうですし、昆虫もそうですけれども、あらゆる生き物って我々人間が暮らす地球をシェアする、ある意味では仲間だと思うんですね。
 その仲間たちがそれぞれ今どういう環境で、どんな状況で暮らしているかを知っていただく、あるいは思いを馳せていただく、最低限そんなきっかけを得られる施設って動物園・水族館を差し置いて、ほかにないと僕は思っているんですよね。

 もちろん写真も素晴らしいし、映像だってクオリティが上がっているし、AIだってすごいなと思いますけど、チャットGPTでは教えきれないものが、やっぱり生の動物のインパクトにはある、そこにはかなわない要素が必ずあるんじゃないかなっていうのが僕の考え方です。

 例えば、その動物を実際に見に行くために、野生に行けばいいじゃないかっていう考え方もちろんあるし、それは重要なことですけれども、ライオンを見ようと思った時にまずアフリカまで飛行機で飛んでいかなきゃいけないですよね。何十時間もかけて、何十万円もお金をかけて旅をして、現地でレンジャーに案内をしていただいてライオンが出てくるのを待つ、探す、でも確実にライオンを見られるかどうかなんて本当はわからないですよね。

 それがありとあらゆる種類に対して言えるわけで・・・ただそういう希少で稀有な動物たちに出会うチャンスを、数百円、数千円で、動物園に行けば、自分の町で 生きた動物たちに出会うことができる、こんな施設が今すぐなくなっていいとは、僕は思わないですけどね」

●そうですね。飼育されている生き物たちからどんなことを感じますか?

「飼育されている生き物から感じることか〜どんなことだろうなぁ〜」

●動物の身で考えると、野生で生きていたほうが幸せなのかな?とか・・・。

「なるほど、なるほど、そういうことか。それってよく言われることですけど、動物に聞いてみないとわかんない(笑)」

●確かに(笑)

「聞いてみてって思いません? いや、もちろんわかりますよ。とってもわかるし、動物園反対論者のかたに面と向かって、それがすべて間違っているなんて、僕は到底思わないんだけど、本当にその動物が幸せかどうかなんて、本人にしかきっとわからないし・・・」

●おっしゃる通りですね。

「ホッキョクグマ、ライオン、なんでもそうですけど、それだけ広い環境、それだけ自然に近い環境を与えられていれば、本当に幸せかっていうことはわからないんですよね。と同時に野生で暮らしていて、明日食べるものがどうなるかもわからない状況で暮らしているホッキョクグマが本当に幸せなのか、どっちがハッピーですか?って言ったらわからないし・・・。

 ただ忘れてはいけないことは、やっぱりその動物たちのことを、自然を第一に考えて飼育をすることは、もう大前提にはあるわけです。かつての見物小屋だった時代に戻ることは、決してあってはいけないことだとは思いますが、とはいえ、そうやって動物園や水族館で今暮らしている動物たちにも、それ相当の役割があって、今そこにいることに我々は感謝しながら付き合っていくべきなんじゃないかなと思いますね」


INFORMATION

『世界をめぐる 動物園・水族館コンサルタントの 想定外な日々』

『世界をめぐる 動物園・水族館コンサルタントの 想定外な日々』

 田井さんの多岐に渡るお仕事やその流儀、動物園・水族館の舞台裏、海外出張でのハプニングや、ビジネス・パートナー「ユルゲン・ランゲ博士」への思い、そして国内外のおすすめの動物園や水族館なども載っています。動物園・水族館好きにはたまらない一冊! 産業編集センターから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎産業編集センター:https://www.shc.co.jp/book/18861

 田井さんは、動物園の様子を有料でライヴ配信するプロジェクト「KIFUZOO(きふずー)」も運営されています。これはコロナ禍で入場料収入が激ってしまった動物園や水族館を支援するために「寄付しよう」をコンセプトに3年ほど前にスタート。北海道の旭山動物園や、沖縄こどもの国ほかから定期的に配信中です。過去には千葉市動物公園からの配信もありました。

 「KIFUZOO」については、オフィシャルサイトを見てください。

https://kifuzoo.com

 田井さんのオフィシャルサイトもありますよ。

http://motofumitai.com

moumoon YUKA「私はできるだけ自然の中にいたいなって」

2023/9/3 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、moumoonの「YUKA」さんです。

 ユニット名のmoumoonは「やわらかい月」という意味で、フランス語のmou 「やわらかい」と英語のmoon「月」を掛け合わせて作った造語なんです。

 そんなmoumoonは、2005年にヴォーカルのYUKAさんとコンポーザーのMASAKIさんによって結成され、2007年にメジャー・デビュー。2010年にリリースしたシングル「サンシャイン・ガール」がスマッシュ・ヒット! また、YUKAさんはベイエフエムで2007年から2016年までレギュラー番組「moumoonのやわらかい月の下で」のパーソナリティとしても活躍されていました。

 YUKAさんには、以前にもこの番組にご出演いただき、大好きな山や自然のお話をしていただきましたが、きょうは、およそ4年ぶりにリリースしたニュー・アルバム『FELT SENSE』に込めた想いほか、山歩きや自然から感じることなどうかがいます。

☆写真協力:YUKA(moumoon)

写真協力:YUKA(moumoon)

『FELT SENSE』〜ジャケット秘話

※『FELT SENSE(フェルトセンス)』というタイトルには、どのような想いが込められているのでしょうか?

「『FELT SENSE』という言葉は、なかなか言語化するのは難しいけれど、自分の内側に流れている確かな感覚みたいな、そういうものを意味する言葉なんですね。4年半くらいかけて作ったアルバムなんですけど、自分の感覚を信じて進んでいけるようにという思いをすごく込めて、このタイトルにしました」

●アルバムのジャケットが水色の水面に光が漂うような写真で、すごく美しいですね。これはどなたが撮った写真なんですか?

「これは、アルバムを出すまでに何曲かシングルをリリースさせてもらっているんですけど、そのミュージック・ビデオを撮ってくれた、水野那央貴(みずの・なおき)監督というかたがいらっしゃいます。私はそのかたの色彩感覚というか、独特の色の表現が本当に好きで、もともとは映像を作られるかたなんですけど、ぜひ(アルバム)ジャケットのほうもお願いしますと強くオファーさせていただいて、写真を1000枚ぐらい撮ってくださったんですよね。

『FELT SENSE』

 何を撮ったかっていうと・・・このアルバムの中に『ブルーアワー』という曲が10曲目に入っているんですけど、この曲は鎌倉の海に出かけた時に見た夕陽とか・・・ブルーアワーっていう言葉はご存知ですか? 夕暮れ時にあたり一面が、日が沈んだ後に少しの間だけ真っ青に染まるんですよ。

 マジックアワーやピンクアワーという言葉もあるんですけど、そのブルーアワーっていう時間がとっても素敵だなと思って、その景色を絵に描いたものを水に透かして、写真に撮ってもらったんですね。なので、ちょっと夕暮れの空の色合いみたいなものが映っているかなと思うんですけど・・・」

●初めてこの写真をご覧になった時は、どんなふうに思われました?

「やっぱり水野監督に頼んでよかった〜ってすごく思いましたし、自分がやりたかったことをすごく感じてやってくださったんだなっていうことと、”YUKAさん、1000枚くらい撮りました!”っていうその熱意に本当に心打たれて、あ〜本当によかったって思いました」

●とっても素敵なジャケットです。

「ありがとうございます!」

自然の中に身を置く

※今回のアルバムには全部で10曲収録されていますが、作詞は基本的にYUKAさんが担当されています。歌詞を見てみると「水」や「波」、「虹」や「太陽」、「月」や「星」、そして「風」や「storm(嵐)」など、自然や地球、そして宇宙を感じるワードがよく出てきます。これは無意識に、それとも意識的、なんでしょうか?

「もう本当に無意識に入れているんだと思います。敢えて入れているっていうよりも、自然の景色を見ながら歌詞を書くこととか、自然の中に身を置いて感じたことを言葉にしていくことがとっても多いので、やっぱり必然的にそうなっちゃうんだなっていう感じですね」

写真協力:YUKA(moumoon)

●自然に関係するワードが出てくるのは、やはり趣味の山歩きが影響を与えているんですかね?

「そうですね。山で過ごすのが本当に好きで、なんて言うんだろうな・・・自然に触れていないと、私は頭がどんどんごちゃごちゃしちゃうというか、リセットされないので、できるだけ時間があったら山に行ったりとか、海辺に行って砂浜の上に座ってぼーっとするとか、そういう時間を取らないとダメなんですね。すごく(自然の)影響はあると思います」

●例えば、山登りしながら、ふと、いい歌詞が思い浮かぶっていうような感じなんですか? 

「やっぱり自分ひとりだけになって、山の中で小鳥のさえずりとか、木が風に吹かれて、枝が葉っぱとともに一緒に揺れる音とか、その風の音とかを聴いていると、どんどん余計なものがそぎ落とされていって、いちばんシンプルに自分が大事だなって思うことが浮かんでくるので、ああそうだったな、私、忘れちゃってたな、これが大切だったんだよなっていうことを思い出せた時に、本当に伝えたいことが出てくるんじゃないかなって思います」

●自然の中で過ごしている時に、幸せを感じる時ってどんな時ですか?

写真協力:YUKA(moumoon)

「植物を観察したりするのが、私すごく好きで、小さい頃から長野県の山の野草とか野山の草花とかキノコとかを図鑑を片手に観察していたんですね。

 これがふむふむこの植物か!って見たりとか、それを絵に描いて自分で図鑑を作るのを夏休みの宿題でやったりとかするぐらい、植物を観察するのがすごく好きですね。植物を見ていると、家でも育てたりしているんですけど、気持ちがあんまり急がなくなるというか・・・。

 だから本当に風が吹き抜ける中で目を閉じて、すごく深く呼吸すると、自分の持っているペースに戻ることができると思うんですね。できるだけ自分が穏やかでご機嫌でいられたら、まわりの人のことも大切に心に余裕を持って、仲良くしていけるかなと思うので、私はやっぱり自然の中にいたいなって。いつもは無理かもしれないんですけど、できるだけそこにいたいなって思いますね」

写真協力:YUKA(moumoon)

高尾山で「わ〜冷たい!」

※今は夏山シーズンですけど、最近どこかに出かけたりしましたか?

「私、高尾山が大好きなので、高尾山に沢の上を歩いていくコースがあるんですけど、水が流れてくる沢の上をゆっくり歩いて、すごく洗い流されるような感覚がありました。もう最高でした!」

●久々の登山は、かなり気持ちよかったんじゃないですか?

「もうすごくはしゃいでしまって・・・(笑)。大学生ぐらいの男の子なのかな〜? ふたりですごくびしょびしょになって、小さな川の中に入っている子たちが見えたんですね。登山の途中に(川に)入りたいって思っちゃったんだと思うんですけど、全部リュックとかおろしてTシャツとズボンで入っていて、”冷たくないの?”って聞いたら、”気持ちいいですよ!”って答えてくれたので、友達と一緒に“じゃあ、うちらも入ってみる!?”みたいな感じで、パシャンと入れないですけど、トレッキング・シューズを脱いで靴下も脱いで、裸足になって”わ〜冷たい!”とか言いながら、せせらぎに足を入れてみたら、本当に気持ちがよくて、あっ! これだよなと思って、はしゃいでしまいましたね(笑)」

写真協力:YUKA(moumoon)

※山に行くときに必ず持っていくものはありますか?

「やっぱり頂上で食べるご褒美の食べ物!(笑)ですかね。この間の登山では母が送ってくれたすごく立派なさくらんぼがあって、それを小さいタッパーに、冷え冷えの状態で食べたいと思って、保冷剤をたくさん入れて持っていって、頂上でさくらんぼを食べて、すごく幸せな気持ちになりました」

●あ〜いいですね!  女性がアウトドアに行くときに、これがあると便利だよっていうようなおすすめグッズってありますか?

「私、登山が終わった後、下山した時に温泉に入るのが大好きなんですよ。なので、ちょっとしたお風呂キットとか持っていくと、紫外線も多分浴びると思うので、保湿のためのパックを1枚だけとか入れておけば、多分そんなに重くないし、ちょっとご褒美時間が味わえるんじゃないかなと思うので、そういうのもいいかなって思います」

写真協力:YUKA(moumoon)

※以前、森の中で自然の音を録音したりすることがあるとおっしゃっていました。今でも録音したりするんですか?

「そうですね。私やっぱり水の、せせらぎの音が大好きなので、本当に日常でもちょっとリフレッシュしたい時は、あそこで録った水の音を聴こうとか、YouTubeにあがっているせせらぎの音を聴いちゃったりとか、けっこう変なことしているなと思うんですけど、こういうことする人いるのかな〜? 
 小川があったらすぐその時に持っているレコーダーで、1分とか2分ぐらい、ちょっと静かにしててもらっていい? ちょっと、しーっ! みたいな感じで録ったりしますね」

●癒されますよね、そういう自然の音って・・・。

「そうですね。けっこう前に作ったアルバムでは、自分が録った水の音を相方のMASAKIくんに渡して、この音をちょっと使ってくれないかとか言ったりして、いいね、この音いいね! じゃあ例えばこの雨の音を入れてみようかとかやってくれることはあります。今回のアルバム、さっきのお聴かせした『ブルーアワー』はMASAKIくんチョイスなので、どこの水の音かはわからないんですけど(笑)」

写真協力:YUKA(moumoon)

サプライズ! ウェディング・パーティー

※去年の春、長年活動を共にしているメンバーのMASAKIさんと入籍されたことを発表されました。そして、サプライズのウエディング・パーティーがあったということをInstagramで知ったんですけど・・・グランピングでのパーティーだったようですが、どういう状況だったんですか?

「すごく照れくさいんですけど、あの時はキャンプがすっごく好きな、もともとすごくお世話になっている方がいて、YUKAとMASAKIの結婚祝いにグランピングをプレゼントしたいからぜひ来ないかって、なんだったらすごく大切な友達とかそういう人を呼んでいいから、連れておいでって言ってくれて、さらになんだったらウェディング・フォトも撮ろうみたいな感じで言ってくれたので、せっかくだと思ってウェディング・ドレスといろいろ持っていって、ヘアメイクさんの友達も一緒に来てくれて撮影しに行ったんですけど、行ったらなんか披露宴みたいになっていて(笑)」

YUKA(moumoon)

●素晴らしいですね!

「本当! 先輩のアーティストさんもお祝いしに来てくださったりして、何もかもにびっくりしすぎて、ずっと私たちは、あぁぁぁ〜ってなっていたっていう・・・」

●素敵なサプライズ! 知らなかったのはYUKAさんとMASAKIさんだけだったんですね!

「ですね!」

●どんなことがいちばん記憶に残っていますか?

「 えぇぇぇ! なんですかね・・・ウエディング・ケーキを、すごくお世話になっているというか、仲よくさせていただいているシェフのかたがいるんですけど、振る舞ってくださって、ケーキカットやりましょう! みたいになった時に、すごく恥ずかしい、どうしようと思いながら、ケーキカットした瞬間にmoumoonの曲が流れて、うわぁ〜みたいな、なんだこれは! みたいな感じになったのは、すごく覚えていますね。不思議な感じでした」

●素敵ですね〜、愛に溢れていますね! 素晴らしい!

「もう本当に恥ずかしさがいっぱいだったんですけど、みなさんに祝っていただけて、本当に幸せな時間でした」

写真協力:YUKA(moumoon)

月から感じるパワー

※moumoonといえば、満月の日にライヴを行なう「FULLMOON LIVE」が有名ですが、そのスペシャルが11月19日にLINE CUBE SHIBUYAで開催されることになっています。どんなライヴになりそうですか?

「毎年この日のために準備をしていると言っても、過言ではないぐらい気合が入っているライヴなんですね。楽曲のアレンジもすごくこだわっていたりとか、今回は新しいアルバムの曲もあるので、とにかくどっぷりと浸かれるような、心揺さぶられることもあるかもしれないけど、最後には本当にあ〜気持ちよかったって思ってもらえるようなライヴにしたいなと思っています」

moumoon

●月は潮の満ち引きとか人間の体にも影響を与えると思うんですけれども、満月の日のライヴでは何かパワーみたいなものを感じたりしますか?

「うん、そうですね・・・どんな時も月がポンと空に浮かんでいると、すごく悲しい時でも慰めてくれるような優しい光だなぁと思うし、見ているとすっごく気持ちが柔らかくなるなと思います。

 すごく素敵だなと思うのは、みんながなんとなく空を見上げた時に月があって、もうすぐ満月になるな、そしたらライヴでみんなと会えるなって思い出してもらえるのがなんかいいなって・・・。月が綺麗だねって、なんとなく言い合うっていうのもすごく素敵なことだなと思うので、そういうところにもパワーは感じていますね。

 ファンのかたがたに、きょうはこんなに綺麗な三日月でしたとかメッセージをもらったりとか、なんとなく月の写真を撮ってSNSでシェアし合うみたいなのが、みんなの日常の中にもうあるんだなっていうのを感じた時に、とても素敵だなと思いましたね。私も綺麗な月を見かけた時は、”ねぇねぇ、綺麗な月が出てるよ!”って呟いたりとか・・・身近な人とそういうものをシェアするのも、とっても素敵なことだと思いますね。

 ある意味、月は人と人をつなげてくれる特別なものなんじゃないかなって感じています」


INFORMATION

『FELT SENSE』

 ニュー・アルバム『FELT SENSE』には、きょうオンエアした「ブルーアワー」「わたしに還ろう」「Beautiful Sky」ほか、全部で10曲収録されています。ポップでキラキラしていて、何度でも聴きたくなるアルバムです。YUKAさんの声に元気と癒しをもらえますよ。ぜひ聴いてください! おすすめです!

 11月19日(日)にLINE CUBE SHIBUYAで開催される「FULLMO
ON LIVE SPECIAL 2023 ~中秋の名月~」にもぜひお出かけください。ほかのライヴ情報も含めて、詳しくはmoumoonのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎moumoon:https://moumoon.com

可愛いペンギンに会いに行こう! ~ 水中では高性能!?

2023/8/27 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ペンギン愛好家の「木村悦子(きむら・えつこ)」さんです。

 木村さんは上智大学卒業、複数の出版社に勤務後、編集事務所「ミトシロ書房」を開業。現在は雑誌、書籍、WEB記事などの編集・執筆、そして撮影も行なっていらっしゃいます。そして先頃『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』を出されました。

 水族館取材をきっかけに、すっかりペンギンにハマってしまった木村さんは、本を出すにあたってペンギンが飼育されている水族館や動物園、数十箇所を取材。中には年間パスを買って、週一で通っていた施設もあったそうです。

 きょうはそんな木村さんに、日本の水族館や動物園で会えるペンギンたちの、知っていそうで知らない生態や、ペンギン観察におすすめの水族館のお話などうかがいます。

☆写真協力:木村悦子

写真協力:木村悦子

可愛いのに体育会系!?

※日本では12種のペンギンに会えるということですが、いちばん多く飼育されている種は、どのペンギンなんですか?

「圧倒的にフンボルトペンギンが多いと言われています。この表紙にもあるんですけど、白黒で顔のくちばしのまわりに、ピンクの地肌がちょっと露出している可愛いペンギンちゃん、これだと思います」

●やっぱり多いっていうことは、飼育しやすいってことなんですか?

「はい、南米のチリやペルーの温帯に棲んでいるペンギンなので、日本の気候とそんなに変わらないっていう点と、長い飼育・繁殖の実績があるからなんですね。
 こういうことになったら、こうすれば卵が生まれるよね、こういうペアはいいよね、みたいなのが、飼育員のかたや獣医師のかたの間で蓄積があるので、やっぱり繁殖はうまくいくみたいで、年に2回繁殖可能になることもあるそうです」

●一方で飼育員のかたに人気なのが、ジェンツーペンギンと本に書かれていましたけれども・・・。

「小尾さん、ぜひジェンツーペンギンのページをじっくりご覧いただきたいんですけど、この顔、これは脊髄反射で可愛い! っていう反応が出ると思うんです。ジェンツーペンギンが動いていると、なんか猫っぽいっていうか、たまに気が向いたら、見ている人を追いかけてくるんですよ。これをされるとやっぱり動物好きはコロっといく!」

●興味津々というか好奇心旺盛なんですね! 可愛い!

「そうそう、人間好きだーみたいな感じで、この30ページ、飼育員を執拗に追いかけるペンギン! これもなかなかいい写真が撮れました!
 今(大阪の)海遊館で飼育員さんの掃除を邪魔するみたいな、邪魔になるから抱き抱えるみたいな、そういう面白いのが話題になっていますけど、ペンギンも哺乳動物、猫や犬みたいなじゃれかたをしてくるので、すごく見どころがあると思います」

●飼育員のかたのブラシとかホースにじゃれつくと、写真の説明にありますよね。可愛いですね〜。

「そうなんですよ〜。目がすごく、遊んで〜みたいな感じで言っているみたいで・・・」

●人懐っこいんですね〜。

「そうです。そんな感じがしますよ」

●でも泳いだりとか潜ったりする能力はすごいんですよね?

「そうなんです! これが自分の印象としては(ジェンツーペンギンは)美ペンギンって感じだったんですけど、取材に行けない所はプロのフォトグラファーにひとりで行ってもらって、写真だけ撮ってもらったんですけど、女性のフォトグラファーが“ジェンツー(ペンギン)は 体育会系だ!”みたいなことをコメントしてくれて、すごく本質をついていると思って、そういう気づきもありました」

●どれぐらい速く泳げて、潜れるんですか?

「最速35キロ、水深80メートルまで行けるっていう記録があるみたいですよね」

●いや〜すごいですね! 

「そうなんです! 山口県に『海響館』という水族館があって、そこにペンギンの遊泳能力、どんだけ早く泳げるの? どんだけ深く潜れるの? っていうところに着目した水槽があって、それをみなさんご覧になると、ペンギンの身体能力はすごすぎないか! っていうところに気づいてもらえるんじゃないかと・・・」

写真協力:木村悦子

世界最大のペンギン、デカっ!

※続いて、エンペラーペンギンのお話です。

●世界最大のペンギンも日本で見られるんですよね?

「『名古屋港水族館』と(和歌山の)『アドベンチャーワールド』にいます」

●写真を見ると、いわゆる白黒のペンギンの色ではなくて、胸元がオレンジ色だったりとか背中が灰色だったりとか、綺麗だなと思ったんですけれども・・・。

「本当に現物は写真よりもっと綺麗なんですけど、この黄みのところとか、ぜひ生体を見る時にじっくり見てほしいなと。光の加減でまたさらに綺麗な色になったりするので、これで異性の気を引いて、性的なアピールになるんじゃないかって言われています」

●サイズはどれぐらいなんですか?

「サイズは身長約120センチ、けっこう大きいですよね」

●そうですよね〜。

「これ、文字で120センチ、あ、そう!って感じで予習していくと、デカ!って感じで(笑)、あまりの大きさに、これは何かの間違いじゃないかっていうぐらいデカいです(笑)」

●圧倒的な存在感ですよね。

「よくそんなんで生き延びてきたなっていう、謎の感慨が・・・」

●生息地はどの辺りなんですか?

「生息地は南極圏内の海氷上と南極海ですね。繁殖期になると南極大陸周辺の海氷、浮氷上でコロニーを形成するという生態があるようです」

●飼育できる施設は限られているみたいですけど、それはどうしてなんですか?

「南極の水温と光を再現するために大変な光熱費がかかります」

(編集部注:世界最大のエンペラーペンギンに対し、世界最小のコガタペンギンも日本で飼育されています。その体長はおよそ35センチ、エンペラーペンギンの4分の1くらいでしょうか。妖精のようなので、フェアリーペンギンとも呼ばれるコガタペンギン、ほんとちっちゃくてキュートです。ぜひ木村さんの本でチェックしてください)

『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』

ふれあいペンギンビーチ!?

※木村さんの本にユニークな展示を行なっている施設が載っていました。「長崎ペンギン水族館」には9種類のペンギンが飼育されているそうですね。どんなペンギンが飼育されているんですか?

「これを読み上げますね。キングペンギン、ジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、キタイワトビペンギンとミナミイワトビペンギン、フンボルトペンギン、マゼランペンギン、ケープペンギン、コガタペンギンです」

●9種類、多いですよね〜。

「そうなんですよ。水族館・動物園に行くと“ペンギン、展示しています”ってあっても、だいたい1種類なので、ああこれがフンボルトペンギンかぁ〜って散漫と見て、あんまり頭に残らないんですね。

 (長崎ペンギン水族館は)似たような3種、フンボルト、マゼラン、ケープが同じ・・・同じって一応、柵で区切ってあるんですけど、比べることによって、それぞれの特徴が際立ってくる、比べてわかるっていう点で、いろんな種類が同じ施設で見られるって意味では、すごく価値があるところだなと思います」

●1年を通じて実施されているイベントもあるんですよね?

「そうなんです。天然の海を区切ったプールがあって、ペンギン10羽ぐらいが、そこにみんなで歩いていて、決まった時間、天然の海で泳いで楽しく過ごすっていう『ふれあいペンギンビーチ』っていうのをやっておられて、これが素晴らしいです! 自分は見られなかったんですけど、羨ましいなと思っています」

●ふれあいペンギンビーチ!?

「そう、カラッと晴れた日にペンギンを見に行こうっていう贅沢ってあるなと思っていて、夏はおすすめという感じで2ページ書きました!」

●写真も豊富に載っていましたね。

「そうなんです」

●賞も受賞されたんですよね?

「はい、これはペンギンの幸せな暮らしを実現するため、飼育環境に工夫を加えて環境を豊かで充実したものにしようという試みが評価されて、『エンリッチメント大賞2013』の大賞を受賞したっていうお話を聞いています」

●すごいですよね〜。一方で北海道では旭山動物園が行動展示でも知られていますけれども、ペンギンの散歩も有名ですよね?

「旭山(動物園)に行かれたことありますか?」

●ないんです〜〜。

「なかなか遠いから〜」

●そうなんです、行きたいんですけど・・・。散歩するペンギンはどの種類なんですか?

「キングペンギンが登場します」

●これは通年開催されているんですか?

「寒いところのペンギンだから、暑い中で歩けないので、雪がないと実施できないんですね。なので、だいたい12月下旬ぐらいから、翌年の3月頃までっていうことで公表しているみたいですね。ただペンギンの体調とか、羽が生えかわって健康管理の面からやめようみたいなことがあるので、おすすめは1〜2月に行くのがいいですよっていうのを飼育員さんに聞いています」

(編集部注:水陸両用のペンギンたちが飼育されている施設では陸上の部分と、泳ぐためのプールが設置されていますが、プールの水は真水、それとも海水、どっちでしょうか? 答えは、どちらもあり、なんです。木村さんの本によれば、海に近い施設は海水を使ったり、また、人工海水を使うところもあれば、真水を使っている施設もあるそうです。

写真協力:木村悦子

ペンギンの優れた体の秘密

※ペンギンは進化の過程で飛ぶのをやめた鳥だと思うんですけど、水中を飛ぶように速く泳げるのは、どうしてなんでしょう?

「体の作りが泳ぐのに適しているというのがあると思うんですね。まず、骨の密度がすごく高くて、深く潜ることに適している。体が流線形で水中での抵抗がなくなって、ちょっとフリッパー(羽)をパタって動かすだけですっと進む、という体上の利点がある。さらに、すごく太い胸の筋肉で翼を動かせるので、陸上ではぎこちないヨチヨチ歩きでも、水中に入ったら強すぎる、早すぎる(笑)」

●ギャップがすごいですよね〜。

「本当におっしゃる通りだと思います」

●ペンギンが長く潜っていられるのは、何か秘密があるんですか?

「これもこの本の、今回のキモかなと思っているんですけど、『気嚢(きのう)』という肺から分岐した袋状の器官があって、これはほかの鳥にもあるんですけど、ペンギン(の気嚢)はすごく大きく発達しているという特徴があります。

 この中に空気を溜めたり、出したりすることによって、水中で呼吸の補助をしてくれるので、長時間息継ぎをしなくても泳げるということが確認されています。

 この気嚢が袋なので、死ぬとぴしゃって潰れちゃうらしいんですよ。だからペンギンをたくさん解剖したっていう先生でも、この気嚢がどんな姿をしているのかを現物では見られないんです。それを今回様々な大学の先生、獣医師さんの力を借りて、おそらく世界初だと思うんですけど、図解化に成功しているので、これをぜひみなさんに見ていただきたい。

 これはイラストがあまりにもよく出来すぎたということで、出版社でこの版権を買い取って、これをぜひ動物園や水族館に展示してほしいなっていう小さなプロジェクトもあるので、ご興味のあるかたは出版社にお問い合わせいただけるといいかなと思っています。無料でパネルを・・・。
 ペンギンの体の中はどうなっているのかって、夏の自由研究に最適のテーマじゃないかななんて・・・ちょっと地味ですけど、絶対いいと思います」

●体を覆っている羽毛にも秘密があるんですよね?

「そうですね。羽毛もやっぱり完全に水をはじく・・・動物園の昔の写真を見たんですけど、ペンギンに水がかかっていても、全部完全にはじいている写真を見て、あ〜やっぱりペンギンは高性能だなって思いました」

●防水性が!

「本当に体の細部に至るまで、すごく精緻な構造になっているんだなと思って圧倒されますね」

(編集部注:千葉県内でペンギンが見られる施設は、鴨川シーワールド。ここでは南米チリの沿岸を再現し、フンボルトペンギンを展示。ほかにもキングペンギンやジェンツーペンギンも見られます。そして、千葉市動物公園ではケープペンギンが飼育されていますよ。ペンギンたちに会いに、お出かけされてみてはいかがでしょうか)

絶滅危惧種のペンギンたち

※おすすめのペンギンの観察方法、ここを見て欲しいというのがあれば、ぜひ教えてください。

「ペンギンを見ていると、可愛い!ってみんないうから、可愛いをダイレクトに味わうのがすごく大事だなっていうのと、あと、体の中身はまだ全然わからないところがあるっていう不思議さ・・・どう観察するかってその人次第だなと思っていて、自分なりの視点を見つけるといいなって思っているんです。なので、まずは年パスを買って毎月行くのはどうかと提案したいですね」

●見続けるっていうことですね。

「そうです、そうです」

●絶滅危惧種に指定されている種も多いんですよね。

「そうですね。世界18種のうち10種が絶滅危惧種、日本だと君どこの水族館でもいるよねっていうレベルのフンボルトペンギンでも絶滅危惧種ということなので、けっこう深刻な事態じゃないかなと思っています。

 この本買ってくれる人はペンギン好き、動物好き、環境好きみたいな意識のかたがいると思うんで、やっぱりまず第一歩として寄付をするみたいなこととか、具体的に何をすればいいのか、可愛い! 守りたい! じゃあ何する? っていうところも書いているので、この黄色い巻末のページをぜひお読みいただければと思います」

●18種のうち10種って半分以上ですね。

「そうですね」

●では最後に、木村さんを虜にしているペンギンのいちばんの魅力を聞かせてください。

「これが難しいなと思ったんですけども、可愛い、面白い、見ていて飽きない、そんな感じですかね」

木村悦子さん

INFORMATION

『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』

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 日本で飼育されている12種を網羅。一種一種を豊富な写真ともに詳しく解説。12種の卵やヒナも載っていますよ。さらに飼育員さんや獣医師さんのインタビューも掲載。そしてお話にもあったペンギン解剖図は必見! 驚きの体の秘密が分かります。なにより、可愛い写真だらけでペンギン好きにはたまらない一冊! グラフィック社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎グラフィック社:http://www.graphicsha.co.jp

 木村さんが開業した編集事務所

◎ミトシロ書房:https://mito-pub.mystrikingly.com

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第14弾!〜小豆島から海をきれいに!「クリーン オーシャン アンサンブル」〜

2023/8/20 UP!

 

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」の広報担当「大西亜未(おおにし・あみ)」さんです。

 SDGs「SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ)=持続可能な開発目標」の中から「つくる責任 つかう責任」、そして「海の豊かさを守ろう」ということで、NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」の活動をご紹介します。

 2020年12月に発足した「クリーン オーシャン アンサンブル」は海洋ごみゼロの世界を目指し、香川県小豆島で、おもに海洋ごみ回収装置の開発を行なっています。

 なぜ小豆島だったのか、回収装置とはどんなものなのか、広報担当、大西亜未さんにいろいろお話をうかがっていきます。

☆写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

海洋ごみをなんとかしたい!

●「クリーン オーシャン アンサンブル」というネーミングには、どんな思いが込められているんでしょうか。

「クリーンはきれいな、オーシャンは海を、なんですけど、アンサンブル っていうのがフランス語で、『より多くの人と一緒に』っていう意味が込められています。代表の江川は英語とフランス語も喋れるので、英語とフランス語を掛け合わせた名前にしたと聞いています」

●代表理事の江川裕基(えがわ・ゆうき)さんは、以前はJICAの海外協力隊として活動されていたということですけれども、やはり海外での活動経験が「クリーン オーシャン アンサンブル」の原動力になっているんでしょうか?

「そうですね。代表の江川はアフリカのブルキナファソっていう国で、廃棄物を処理する仕事をしていたんですね。そこで、ごみをよく見ていたんですけど、本当にごみが道路に積み上がっているような状況をすごく目にしていたそうです。

 もともとバックパッカーとして、いろんな国をまわっていて、“あれ? 世界ってごみだらけだな〜、ちょっと壊れてきているな”って思ったみたいで、これは早急に何とかしなきゃいけないと思って、それが原動力になって発足した団体です」

大西亜未さん

●大西さんは去年から「クリーン オーシャン アンサンブル」で活動されているそうですが、参加する前は何をされていたんですか?

「小豆島にADDress(アドレス)っていう多拠点生活サービスがあるんですけど、そこの旅人さんを受け入れるお仕事をしていて、小豆島の拠点の管理人をしていました。
 小豆島に来てくれる人って、そもそも島の環境に興味がある人がすごく多くて、海洋ごみの話とかでも盛り上がるような方々で、そういう人をおつなぎするような感じで、『クリーン オーシャン アンサンブル』ともおつなぎしたりとか、そういうことを以前からしていたって感じですね」

●出身は小豆島なんですか?

「 私は横浜出身です」

●横浜からどうしてまた小豆島へ・・・?

「その時付き合っている、今も付き合っているパートナーがいるんですけど、一緒に移住先を探しておりまして、多拠点生活サービスADDressを利用して、小豆島に来たことがきっかけで移住を決めました」

●いろんな選択肢がある中で、どうして小豆島だったんですか?

「横浜の海がちょっと濁っている感じの海で、あまり海が好きじゃなかったんですね、正直。だけど、小豆島に来た時に臭いがしないっていうのと、こんなにも穏やかな海があることにすごく感動して、初めて海が好きだなって思ったんですね。

 この海のそばに住みたいと思って、小豆島に移住を決めました。歩いて30秒で海なんですね。疲れた時は海を眺めたりとか、(海に)ちゃぽっと足をつけて入ったりとかして、ストレスの発散ができて、幸せな毎日を過ごせています」

写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

●江川さんから何か影響を受けたことはありますか?

「(環境に)興味があるADDressの会員さんとおつなぎした時に、一緒にビーチクリーンをやったんですけど、そのビーチクリーンの内容が分別の徹底だったりとか、こんな行政の事情があってとか、最終処分場の事情があってとか・・・今までビーチクリーンやごみ拾いに参加させてもらったことが、ほかの県でもあったんですけど、ここまでガチな感じのビーチクリーンって初めてだったんですね。

 しかも小豆島は観光地なんですけど、移住するきっかけがやっぱり観光がすごく素敵だったからとか、友達がもともと移住していたとか、そういうかたが多い中で、代表の江川だけが海洋ごみを何とかしたいから移住したっていう、そんな理由で移住する人いる!? みたいな、その本気度に影響を受けて、参加したいなって思いましたね」

地元の漁師さんとタッグを組む

※代表の江川裕基さんがおもな活動エリアを香川県小豆島にしたのは、何か理由があったんですか?

「香川県にまず江川は着目しました。なぜかというと、香川県は香川県方式っていうものを作っています。漁師さんがお魚を獲る時にごみが網の中に入ってしまうので、漁師さんたちは自腹で(ごみを)処理していたんですが、香川だけは自治体が無償で処理するようになったんです。そういう画期的なシステムを構築したということで、まずは香川県にしようっていうことになったらしいんですね。

 小豆島っていう島は瀬戸内海にあって、ほかの県に囲まれた島なので、日本のごみだけが漂ってくることとか、波がすごく穏やかで、回収装置を作るにあたって壊れるリスクがすごく少ない、そんなことを掛け合わせて、小豆島がいいということになったと聞いています」

●「クリーン オーシャン アンサンブル」では海洋ごみの回収装置を作っていらっしゃいますよね。サイトに掲載されている写真を見ると、漁網のようにも見えるんですけれども、どんな装置なのか説明していただけますか。

「漁師さんが使う網をUの字に広げて(全長が)30メートル、下に垂れている部分が2〜3メートルになっています」

写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

●網を沈めておくと、勝手にごみが入ってくる感じなんですか?

「そうですね。浮きで浮かせている部分と、重りで沈んでいる部分があって、その網はずっと固定されているんですね。その固定されている網に向かって潮が流れてくるので、波の影響を受けて、ごみが自動的にキャッチできるようになっています」

●その回収装置を仕掛けるには、やはり地元の漁師さんの協力も必要になってきますよね?

「そうですね。小豆島を拠点にするっていう時に、江川が片っ端から漁業組合さんに電話をかけたらしいんですけど、やっぱりお断りされたりしたそうです。唯一、小豆島に森組合長さんという方がいるんですけど、その人だけ全面的に協力したいって言ってくれて、ここだったらやりやすいなと思ったそうです。海を使わせていただくということは漁師さんの協力が必須になってくるので、森組合長とタッグを組むということで、小豆島にしたって言ってましたね」

写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

香川大学と連携

●海洋ごみを回収すると言っても、海流とか波とか風とか、いろんな影響を受けて、そう簡単には回収できないようにも思うんですけれども、いかがですか、その辺りは?

「そうですね。ほんとうに波乱万丈な実験というか繰り返しだったんですけど、海洋ごみを回収する際に、どうやったら効率的に回収ができるかっていうことで、やっぱり潮の流れがキー・ポイントになってくるんですね。
 なので、香川大学さんと連携させてもらって、今回はそんなに捕れませんでしたとか、今回はすごく捕れましたっていうデータをすべて提出して分析してもらました。その中でごみが流れやすい時期があることがわかったので、その時期に合わせて設置するところから始めていきましたね」

●その時期とはいつ頃なんですか?

「小豆島は夏と冬で、ごみが溜まるエリアが変わってくるのがわかったので、今回私たちが活動しているところは、夏のほうが集まるので、夏に設置するようにしました」

●トライアンドエラーを繰り返しながら改良していったという感じだったんですね。

「そうですね。やっぱり1号機から4号機まで、結構大変だったですけど、ほんとうにビニールのかけら3つとか、そんなレベルでしか捕れなかったんで、すごく大変でしたね」

●今ではどれぐらいの量のごみを回収できるんですか?

「4号機目で初めて1.5キロ回収ができたんですよ! もうみんなで歓喜しました」

海岸に「豆管」がコロコロ!?

※そもそもなんですけど、海洋ごみの回収装置を作ることにしたのは、どうしてなんですか?

「海洋ごみは海に漂っている間と、打ち上げられたごみを比べると、打ち上げられたごみはかなり風化してしまい、紫外線とかでボロボロに細かくなりやすいんですよね。それこそそれが(海に)戻って魚が食べちゃうとか、あとは細かくなりすぎて、風で雑木林まで飛んでいっちゃうとか・・・。そうすると人間が取りに行けなくなっちゃうんですよね、奥にまで行ってしまうと。なので、その前の段階、海の中に漂っている段階で回収したほうが、やっぱり効率がいいんじゃないかっていうことで回収装置を作ることになりました」

●ビーチクリーンの活動も行なっていらっしゃるんですよね?

「そうですね。毎月一般向けにイベントをやらせていただいています」

写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

●どんな海洋ごみが目立ちますか?

「タバコとかペットボトルとか、そういうのはやっぱり当たり前にすごく多いんですけど、瀬戸内海には『豆菅(まめかん)』っていうのがあるんですけど、豆管ってご存知ですか?」

●なんでしょう?

「豆管っていう、お菓子のポテコみたいな、指にはめられるリングのようなもののプラスチックバージョンでありまして、その豆管が牡蠣の養殖でよく使われるんですね。それがコロコロと転がっているのがすごく目立ちますね」

●集めた海洋ごみをご覧になって、どんなことを感じますか?

「はい、やっぱり豆管とか細かいものはもちろんなんですけど、こないだ拾ったペットボトルが結構レトロなパッケージでして、いつのペットボトルか調べたら、なんと40年前のごみだったんですよ。40年前のごみが今漂っているってことは、40年間分のごみは絶対にあると・・・。海の中をずっと漂っているってことは、もっと前のもあるかもしれないし、ずっと蓄積しているんだなと思って、もっと問題視しなきゃいけないなって思いましたね」

(編集部注:先ほどお話に出てきた「豆管」、プラスチック製のパイプを、1.5センチくらいに切って、牡蠣を養殖する際に使うとのこと。嵐などで海が荒れると、たくさんの豆管が海岸に打ち上げられるそうです)

写真協力:NPO法人「クリーン オーシャン アンサンブル」

海洋ごみゼロに向けて

※「クリーン オーシャン アンサンブル」では、学校や企業に向けて、環境教育の活動も行なっているそうですが、環境教育はやはり大事なことですか?

「そうですね。最近知ったんですけど、歴史の勉強の時に旧石器時代とか、縄文時代って言うじゃないですか。今の時代って『大プラスチック時代』らしいんですよ。そんなレベルというか、多分きっと教科書に載るべきもの、そういう時代になってきているっていうことで、やっぱり自分たちのためでもあるし、将来の子供のためにも今のこの問題を勉強してもらって、意識を持ってもらうのはすごく大事なことなんじゃないかなと・・・。やっぱりひとりひとりの意識が変えられるような環境教育は大事なんじゃないかなって思っています」

●大西さんのお話を聞いて「クリーンオーシャンアンサンブル」の活動を応援したいと思った方は、どのようにしたらよろしいでしょうか?

「私、SNSの広報部長をやっておりまして、なので今instagramにすごく力を入れているんです。instagramをぜひぜひフォローしてもらいたいですね。それで『クリーン オーシャン アンサンブル』の活動をシェアしてもらいたいなって思っています」

●では今後の目標を教えてください。

「はい、海洋ごみの回収装置を1号機から4号機まで作ってきたんですけど、流木とか自然物もすごく多く回収されたりもしました。今度の5号機目は(自然物ではない)海洋ごみを優先的に拾えるように改良して頑張っていくことを目標にしています」

●「クリーン オーシャン アンサンブル」が掲げているビジョン、海洋ごみゼロの世界が実現したら、私たちの暮らしはどうなっているんでしょうね?

「今なかなか想像がつかないんですけど、やっぱり物だらけの現代っていうことで、プラスチックのものだらけのところから、必要なものを繰り返し使う暮らしだったりとか、減ってしまったお魚が戻って、美味しいお魚が食べられて、世界中にきれいな海が取り戻せる、そんな素敵な暮らしに戻るんじゃないかなって思っています」

☆この他の「SDGs〜私たちの未来」シリーズもご覧ください。


INFORMATION

 海洋ごみの回収装置がどんなものなのか、ぜひ「クリーン オーシャン アンサンブル」のオフィシャルサイトを見てください。動画や写真が載っていますよ。

 そして活動をサポートしてくださるかたや、寄付も募っています。活動内容も含めて、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎「クリーン オーシャン アンサンブル」:https://cleanoceanensemble.com

目立たない苔が癒しのインテリアに。苔テラリウムを始めよう!

2023/8/13 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、苔クリエイターの「石河英作(いしこ・ひでさく)」さんです。

 石河さんは1977年、東京都生まれ。もともと植物好きだった石河さんは2013年に苔の専門ブランド「道草michikusa」を立ち上げ、ネットで苔テラリウムを販売しているほか、you tubeの道草チャンネルでその作り方や育て方などを発信されています。

 そして先頃、『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』という本を出されました。きょうはそんな石河さんに、初心者向けに見ているだけで癒される苔テラリウムの作り方などをうかがいます。

☆写真協力:石河英作

写真協力:石河英作

道端の苔に日の目を

※石河さんは、もともと植物に関係するお仕事をされていたそうですが、苔を専門にしようと思ったのは、どうしてなんですか?

「卒業してから贈答用の胡蝶蘭とか、ああいう蘭のお花を開発している会社に勤めていたんですよ。蘭のお花って華やかで、ギフトでもらってとか、そういうイメージがあるじゃないですか」

●存在感もありますしね。

「存在感もあるし、高級っていうような・・・そういうのはそういうので楽しくやっていたんですけど、あれは育てるっていうよりは、胡蝶蘭も開店祝いとかでいただいて、そこで一回終わってしまうみたいな感じがして・・・自分で何か植物の仕事を始めるなら、育てることをやりたかったんですよね。

 で、そういうふうに考えた時に、蘭の足元にも苔を使ったりとかっていうのがあるんですよ。それって苔が脇役っていうか添え役というか、蘭の日陰にちょっと使うだけっていう感じがするじゃないですか。でも苔って日本にいっぱい生えているし、国歌にも歌われているのを考えた時に、もっと日の目を当ててあげることができたら、みんな楽しめるのかなと思ったりとか・・・」

●確かに国歌にも出てきますね!

「出てきます。苔のむすまで、って・・・」

石河英作さん

●そうか、そうですね! 
 石河さんが立ち上げられた苔の専門ブランド『道草michikusa』、すごく素敵なネーミングだなと思ったんですけど、どんなコンセプトなんですか?

「ふたつの思いを込めています。ひとつは本当に道端の草、ありふれているものって、その辺にも生えるんで、強いじゃないですか。そんなに育てる対象にされてない、それを何か工夫してあげるとかっこよく見えたりとか。
 実は日の目を浴びてないんだけど、この器に入れてあげたら、すごく引き立つものって多分まだまだ溢れていて、そういったものに注目したい、道端に生えている草にも注目したいっていうのがひとつと・・・。

 あとは、都会で働いていて疲れちゃうみたいな、日々忙しくてっていうことがあるのを、育てるだけじゃなくて、道草するように植物に触れて・・・今メインでやっている、ガラスの中で育てるテラリウムも、自分で作って育てるみたいなのが楽しかったりするので、それって自分の生活の中で、すごくスローな時間だと思うんですよね。

 苔とかそういう小さい植物って、成長していくのもすごくゆっくりで、日々見ていても全然変化がなくて、1ヶ月2ヶ月ぐらいすると、ちょっと大きくなっていたぐらいのペースの成長の仕方なんですよ。それってこの都会の忙しさと時間軸が違うっていう感じがあって、そういう部分で道草するようにこの植物を愛でていただきたいなっていう、そういう思いとそのふたつが込められています」

(編集部注:小さな植物「苔」には、一般的な植物のように、水や栄養を吸い上げる根などがなく、葉っぱや茎から直接、細胞に取り込むそうです。根の代わりに「仮」の「根」と書く「仮根(かこん)」という器官があり、それを使って石や木に体を固定しているとか。
 そんな苔植物は「蘚類(せんるい)」「苔類(たいるい)」そして「ツノゴケ類」という3つのグループに分類され、園芸用に育てられているのは「蘚類」に属する種類だそうですよ)

石河英作さん

ジメジメ好き、カラカラ好き!?

※日本には何種類くらいの苔がいるんですか?

「日本に生えているものでも毎年(新種が)見つかるので、正確な数は言えないんですけど、現在1800種類超えぐらいな感じですね。世界を見ると18000種類ぐらいいるそうです」

●どれも同じように見えますけど、違うんですよね。

「プロの人が見ても、実は区別がつかないぐらいわずかな差だったりするんですよ」

●なのにたくさんの種類があるんですね。

「それも面白いですよね。種類を見るのにまずはルーペ、虫眼鏡を使って観察するのはマストですね。その先に細かい種類まで見ていこうと思うと、顕微鏡で葉っぱの形とかを見たりして、種類を特定していくっていう、すごく狭いジャンルですね」

●花は咲いたりしないと思うんですけれども、どんなふうに増えていくんですか?

「そうなんです。苔は花は咲かない植物で、胞子を使って基本は増えていきます。胞子っていうのは、苔には基本オス、メスみたいな、雄株と雌株・・・たまに合体している同種っていうのがいるんですけども・・・雄株と雌株があって、それが受精すると胞子体っていう球状のものがぴょこんと出てきて、その胞子体の中にはすごく細かい胞子って呼ばれるものが詰まっています。

 その胞子が風とかでパーッと飛ばされて、いろんな場所に行き着くんですよね。その場所がたまたま 苔にとって生えやすい居心地のいい場所だと、そこから胞子が発芽して新しく苔が増えていくというような増え方をしています」

●繁殖力は強いほうなんですか?

「どう言ったらいいんだろう・・・みるみるどんどん広がっていって、この敷地を埋め尽くすみたいな、空き地に雑草が生えるみたいな意味での繁殖力っていうのは、そんなに強い植物ではないんですね。逆にほかの大きい植物が生えないような場所、そういった場所にも適応できるっていうのは苔のすごさです。

 海浜幕張の駅からここに歩いてくるまでの間でも、道路脇とかをよく観察すると、日当たりがいいところにも生えていたりします。苔はすごくジメジメしたところだけってイメージがあるんですけど、日本に1800種類いる中には、ジメジメが好きなやつもいれば、カラカラが好きなやつもいたりします。

 大きい植物が生えるような草地とかにいっちゃうと、体が小さいので苔って負けちゃうんですよ。いろんな隙間隙間、ほかの植物が来ないところとか・・・で、苔同士の中でも争いがあるわけです。同じ石の上にいろんな苔の胞子が落ちた時に、誰がいちばん勝つのかみたいなところの争いがあって、その争いに勝つために、ほかの苔にはやれない場所に、俺はやれるぜみたいなところで居つけるというのが特徴ですね。

 だから繁殖力っていう意味でいうと、ほかの植物が行けないところに行けるので、すごく繁殖力があるみたいなイメージもあるんだけど、ほかの植物が居心地のいいところでは完全に負けるっていう・・・」

(編集部注:街中でよく見られる苔は、ジメジメしたところが好きな「ゼニゴケ」、そして道路脇など日当たりの良い場所を好み、乾くと銀色に見える「ギンゴケ」、その2種類だそうです)

<ウォードの箱>

 テラリウムの語源は、ラテン語で「テラ」は陸地、「リウム」は場所を意味する造語で、密閉された透明なガラスケースの中で、陸上の生き物を育てる方法のことを、テラリウムと言うそうです。

 その起源は19世紀のヨーロッパで発明されたガラスの容器、その名も「ウォードの箱」。当時、世界中の珍しい植物や、役に立つ植物を探し求めて、プラントハンターが中南米やアジアに渡っていました。移動手段は船だけだったので、長い船旅の間、満足に水やりもできず、また潮風にさらされることもあり、採取した植物を生きたまま持ち帰るのは、とても難しいことでした。

 それを解決したのが、イギリスの医師ウォードで、ガラス容器の中では水分が循環することを発見し、「ウォードの箱」を開発したそうです。テラリウムにはそんな歴史があったんですね。

初心者向け「苔テラリウム」の始め方

※石河さんが先頃出された本『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』には苔テラリウムの作り方などが載っています。初心者におすすめの苔や作り方を教えてください。まずは、どんなガラス容器を用意すれば、いいんでしょうか?

写真協力:石河英作

「蓋ができるガラス容器・・・初心者の方だとあんまり小さすぎると、ピンセットで植えるので、結構器用じゃないと大変なんですよ。雑貨屋さんだとか100円ショップでも、小さめ小瓶とか買えるんですけども・・・だいたい8センチから10センチぐらい直径がある、口が広い容器のほうが手も入るのでいいですね。それで蓋ができるもの。テラリウムは容器の中に湿気を保てるのがポイントになりますので、蓋ができるものを選んでください」

●道具はどんなものが必要ですか?

「道具は最低限、ピンセットとハサミと、水やりをするのに霧吹き、この3つがあれば大丈夫です」

●すごく手軽に始められそうですね。

「そうですね」

●初心者にはどんな苔がおすすめですか?

「苔の種類も本を見ていただくといっぱい出ているんですけど、種類によって育ちやすい育ちにくいが当然あります。初心者の方だと『ヒノキゴケ』っていう種類と『ホソバオキナゴケ』って種類、この2種類が特に丈夫なのでおすすめです。

 ホソバオキナゴケはちょっと背が低くて、テラリウムで芝生とか草原っぽいようなイメージで植えるのに向いているものですね。ヒノキゴケはちょっと背が高めの種類なので、(その2種類を)合わせると、草原の中に木が生えているみたいな景色を作ったりとかもできるので、このふたつをまず覚えてもらうといいと思います」

写真協力:石河英作
(左)ヒノキゴケ (右)ホソバオキナゴケ

●これは、販売されている苔を使うんですか?

「そうですね。今おすすめした2種類もそうなんですけど、テラリウムに使える育てやすい苔は、どちらかというと街中に生えている苔よりも森の中、常にしっとりした環境に生えているものが育ちやすいんですね。

 街の中って公園とかでも、じめっとした時間もあれば、結構ドライになる季節とかドライになる時間もあるじゃないですか。そういったところに適している苔が生えているので、瓶の中に安易に入れてしまうと、結構すぐダメになります。だから苔だからなんでも瓶の中に入れたらいいのかっていうと、そうでもないんですよね」

●なるほど〜! 日頃のお世話の点で注意すべきことってありますか?

「基本のお世話は、だいたい2週間に1回ぐらい霧吹きで、シュッシュぐらいじゃダメなので、よく湿るぐらい水をかけてあげる・・・苔を植える時に下にテラリウム用の土を敷くんですけれども、その土もしっかり湿らせるぐらいに水をあげるんですが、それも毎日あげる必要はなくて、2週間で忘れそうだったら、毎週1回は苔を観察する日 みたいなのを設けてもらって、苔の様子を見ながらシュッシュッシュって水やりをしてもらう・・・」

●湿っているかは、目で見てわかるものですか?

「慣れてくればわかります。土も乾いてくると湿った時と色合いが変わってきますので、それがわかるぐらい、できれば毎日見てもらいたいっていうのが本当の気持ちです」

(編集部注:石河さんによると、街中に生えている苔を持ってきて、ガラス容器の中に入れると、虫がわいてきたりするので、苔テラリウム用に販売されている苔を使ってくださいとのことです。
 また、ガラス容器内の苔はレースのカーテン越しの光や、LEDライトでも育つので、直射日光と暑さは禁物だそうですよ。

写真協力:石河英作

 石河さんの新しい本には、数種類の苔を使った寄せ植えの苔テラリウムも紹介されています。コツとしてはタイプの違う苔を組み合わせること。
 また、苔玉の作り方も掲載されていますが、石河さんがおっしゃるには、苔玉は苔テラリウムと違って、基本は屋外で育てるものだそうです。詳しくはぜひ本をご覧ください)

自然の景観をテラリウムで再現

※日本の苔テラリウムは、テラリウム発祥地ヨーロッパほか、アジア圏でも大人気だそうです。人気があるということはニーズがあるということで、自然界から勝手に苔を持ってきてしまう、そんな問題も起こっているとか。石河さんは苔を愛するひとりとして、こんな指摘をされています。

「苔ってその辺にもありふれているように見えるものじゃないですか・・・っていうのもあったりして、街中でも(苔を)安易に採ったり、あとは旅行先の山でも、いっぱい生えているんだから、ちょっとぐらいいいんじゃない、苔なんてただみたいなもんでしょ、みたいな感覚で採られてしまうのが、やっぱりここ数年特に苔の人気が出てきてから起こっていますね。

 当然のことながら、他人の敷地で採ったりだとか、山も国定公園、特に苔の景勝地っていうか自然な景観が守られているところって国定公園になっていたりするので、そういったところは苔を含む動植物を採取すること自体が、法律的にNGだったりするんですよ。

 そういったところで、わずかなひとつまみの苔であっても、そこの中に生態系があったりするので、安易に採るのは当然よくないことですし、大きい塊の一部を採ったことによって、綺麗に塊になっていた(苔の)一部から、なんて言うんですか・・・ここに小さい世界が作られているので、採られた一部がきっかけで、全体が枯れてくるみたいなことが苔ってあるんですよ。塊になっているから、ちょうどいい水加減を塊で保っているみたいなところがあります。

 安易な行動が、あとの人たちも見に行きたい景観を壊してしまったりみたいなことがあったりするので、できるだけ自然な中のことは目に焼き付けたり、写真に撮ったりして、その風景をあらためて家で、テラリウムとかを作って再現するみたいな楽しみ方をしていただきたいなと思います」

写真協力:石河英作

「東京苔展2」開催

※9月に苔のイベントを計画されているそうですね。どんなイベントなのか、教えてください。

「『東京苔展2』というイベントです。板橋区立熱帯環境植物館で、苔の企画展を予定しております」

●どんなイベントになりそうですか?

「苔が好きな人って、今でこそテラリウムは少しずつ認知されてきているんですけど、まだまだ“私、苔が好きなの!”ってカミングアウトしづらいようなところが、実は苔好きの中ではあるんですね。密かに通学途中とか通勤途中に苔が生えているの、いいよねって思っているんだけど、職場とか学校でも友達とかに言っても“何?”とかって言われちゃうんで、言えないっていう人が結構いるんですよ。

 そういう人たちが東京とかこの近郊にもいるんじゃないかなっていうので、そういった方々が“苔好きだよ!”って言える場所みたいなのを作りたくて、企画を始めたんですよ。

 そういう一般の方とか愛好家の方の投稿してくれた写真を展示したりだとか、あとはテラリウムの作品はプロのテラリウムの作家さんが作ったものだとか、そういったのを並べたり展示したりします。

 (会場の)植物園の中に温室がありまして、その中にもやっぱりちょこちょこと苔が生えているので、普段は大きい植物とかお花が、試作植物を飾ってある植物園なんですけども、そのお花とか木は見ないで、足元の苔だけを見て回りましょうっていう苔マップとか。あとはツアー動画も作りまして、その動画を見ながら足元を這いつくばって歩いてもらうっていう企画を考えていたりします」

●楽しそうですね〜! いいですね! 以前、苔役者の石倉良信さんに番組にご出演いただいたことがあるんですけれども、石倉さんも参加されますか?

「石倉さんも参加します。その観察動画は石倉さん出演です」

●そうなんですね! 石河さんは苔を通してどんなことを伝えていきたいですか?

「やっぱり出だしが(苔を)育ててもらいたいっていうところから始まっているので、苔って身近に生えていてすごく小さい植物なので、まだ植物を育てていない人でも気軽に置いてもらいやすい大きさだと思うんですよ。

 テラリウムだと2週間に1回ぐらい水やりすればいいっていうと、働いていて忙しい人でも始めやすいじゃないですか、っていうところで、部屋に植物はないんだけど、何か植物を置いてみたいなって言った時に、まず苔から始めてみようって思ってもらえたら嬉しいなと思います。
 で、その先に次のステップでいろいろな植物を育ててもらってもいいですし、そのきっかけが作れたらいちばん嬉しいですね」

●改めてになりますが、石河さんを虜にしている苔のいちばんの魅力とはなんでしょう?

「いちばんの魅力は、ぱっと見たら苔って緑の塊で、もう苔でしかないんだけど、ぐっと近づいてルーペとかを覗いた時に、種類が無数にあって、本当に小さな苔の森が広がっているように見えるんですよね。その違いを、遠目で見た時と近くで見た時の違いっていうのがすごく面白いので、ぜひ(苔に)近づいてみてもらいたいです」


INFORMATION

『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』

『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』

 初心者に向けて、苔テラリウムや苔玉などの作り方が豊富な写真でわかりやすく解説してあります。全編カラーなので、みずみずしいモスグリーンを見ているだけで癒されますよ。この本を参考にあなただけの「苔インテリア」を作ってみませんか。家の光協会から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎家の光協会:https://www.ienohikari.net/book/9784259567620

「東京苔展2」

 石河さんが立ち上げた苔の専門ブランド「道草michikusa」のサイトでは素敵な苔テラリウムも販売。また、9月12日から10月1日まで板橋区立熱帯環境植物館で開催される「東京苔展2」の案内も載っています。詳しくは「道草michikusa」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎道草michikusa :https://www.y-michikusa.com/blog/topics/7472/

絶滅の危機にあるユキヒョウを守ってあげたい〜ユキヒョウ姉妹の奮闘記

2023/8/6 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、絶滅の危機に瀕しているユキヒョウを守る活動をされている双子の姉妹、木下こづえさん、さとみさんです。

 おふたりは「ユキヒョウ姉妹」というユニット名で活動をスタート、2013年に任意団体「twinstrust」を設立、主に中央アジアでフィールドワークを行ない、ユキヒョウの保全活動に取り組んでいらっしゃいます。

 お姉さんのこづえさんは現在、京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科の准教授。専門は動物の保全・繁殖生理学。ユキヒョウの研究には2006年から取り組んでいらっしゃいます。

 そして妹さんのさとみさんは、九州大学大学院を経て、現在は電通でコピーライターそしてCMプランナーとして活躍されています。

 そんなおふたりが先頃『幻のユキヒョウ〜双子姉妹の標高4000m冒険記』という本を出されました。この本は、ユキヒョウを守る活動10年の奮闘ぶりがそれぞれの視点で書かれています。また、ユキヒョウを追い求めて訪れたモンゴルやラダック、ネパールやキルギスなど、辺境の旅の記録でもあるんです。

 きょうは、調査・研究からわかってきたユキヒョウの興味深い生態や、現地と日本をつなぐ活動のお話などうかがいます。

©twinstrust

ユキヒョウってどんな動物?

※まずは、動物の研究者でいらっしゃる、こづえさんにお聞きします。ユキヒョウとはどんな動物なのか、特徴も含めて教えてください。

こづえ「まず、ユキヒョウは大型のネコ科動物です。アジアの高山地帯、中国の西側をぐるっと囲むように、南はネパール、北はロシアというふうに12カ国にまたがって生息しています。

 大人の個体は3000頭ほどとされていて、多く見積もっても(全体で)8000頭ぐらいと言われているんです。基本的には高山の、人が足を踏み入れるのも難しいところに生息していますので、いったい何頭いるのか分かっていません。

  世界中のユキヒョウを、例えば阪神甲子園球場に連れてきたとしても、アルプススタンド片側分、高校野球でいうところの応援(スタンド)1個分ぐらいにしかならない頭数が12カ国に散らばっていると思っていただけたらいいのかなと思います。
 高山にいるので、岩山や雪山を駆け巡れるように毛が長くて、密度が高いんですけれども、足裏にもぎっしり毛が生えていて、尻尾が長いのが特徴です」

●そんなユキヒョウを研究するようになったきっかけは、何かあったんですか?

こづえ「もともと私が兵庫県出身で、神戸大学で繁殖学を学んでいたんですね。神戸大学の隣の駅には神戸市立王子動物園があるんですけど、その動物園がユキヒョウの繁殖に力を入れていたので、一緒に研究をしませんか と、動物園のほうからお声かけいただいたのが始まりでした」

(編集部注:ユキヒョウは現在、国内の9つの動物園で合わせて20頭が飼育されているそうです。首都圏では多摩動物公園で見られます。幻のユキヒョウが国内で見られるのは奇跡的なことかも知れませんね)

『幻のユキヒョウ〜双子姉妹の標高4000m冒険記』

●さとみさんは、コピーライターのお仕事をされていますが、伝えるプロとして、ユキヒョウのキャラクターや歌を作ったんですよね?

さとみ「たまたま会社の飲み会がありまして、そこに歌もののCMソングとかを作るのが得意な先輩がいらっしゃったんですね。その飲み会で、うちの姉はこんなことをしているんですと話したんです。
 毎日(動物園に通って)行動観察をしているけれども、通りすがる来園者のかたがユキヒョウを見て、チーターとかジャガーだ〜って、いやこれ、ユキヒョウなんですけど〜って、なんでユキヒョウって知られていないんだろう、悲しいなって話を(姉から)聞いて、それを話していたら(先輩から)自分でユキヒョウの歌を作ってみたらいいんじゃないって言われたんですね。

 君が歌詞を書いて、僕が歌を作るからって言ってくださったので、じゃあ歌詞を書いてみようかなということで、姉にユキヒョウの特徴を聞いて歌を作り上げました。まだ駆け出しの頃で自分の作品って言えるものがなかったので、何かひとつ形になったのはすごく嬉しかったですね」

(編集部注:さとみさんが作詞した歌のタイトルは「ユキヒョウのうた」、歌っているのはCMソング「まねきねこダックの歌」で知られる「たつや」くんです)

ユキヒョウ姉妹、ユキヒョウ親子を撮る!?

※おふたりが設立した任意団体「twinstrust」、これはさとみさんが作ろうと持ちかけたんですか?

さとみ「はっきりした記憶はないんですけど、団体って言っても私たちふたりが中心になって、ほぼふたりでやっているような形なんですね。

 せっかく歌が出来上がったので、それを野生のユキヒョウに還元したいね、つなげたいねっていう姉の思いもあり、ちょうど姉が大学に席を置くタイミングと一緒だったので、お世話になった動物園に挨拶回りをしていたところ、私も一緒について行ったんです。
 何かこの歌でできることはありませんかって、おうかがいしていた時に、ちょうど旭山動物園の坂東園長が野生と動物園をつなぐ活動されていたので、何かヒントがあるのではないかと感じていました。

 その時に坂東園長から、生活の中で意識を変えないと環境保全にはつながらないよって教えていただいて、会社員である私にも何かできるんじゃないかなというので、ふたりでタッグを組みました」

※最初の具体的な活動としては、調査・研究のためには赤外線カメラが必要だということを知り、クラウドファンディングを募り、集まった支援金でカメラ8台を購入。みんなで買ったカメラで撮れた写真を、支援してくれたかたに戻す、そんなコンセプトのもと、ふたりで初めて調査に向かったのが、2013年11月のモンゴル。このときは赤外線カメラをユキヒョウがいそうな山の数カ所に設置する作業がメインでした。

©twinstrust

●どこに設置するのかがポイントになってくると思うんですけど、何か目安のようなものはあったんですか?

こづえ「初めに動物園でずっと観察していたので、ユキヒョウが自分のテリトリーをアピールするために、尿や糞でマーキングをすることはわかっていました。(尿の)スプレーを吹き掛けたりしてマーキングをするんですけれども、そのマーキングを探して、そこに仕掛ければ、ユキヒョウの行動が撮れるんじゃないかなと思っていましたね。

 実際に(モンゴルの山に)行ってみると、動物園もそうなんですけれども、ちょっと岩場がハングしているところに尿スプレーをするので、その岩場を見つけて、実際にスプレーをした跡があったので、まずはそこに仕掛けてみようと思ったのが第1号の初めての赤外線(カメラの)トラップでした」

●さとみさんにとっては、この時が初めてのフィールドワークだったそうですけれども、実際やってみてどうでしたか?

さとみ「そうですね。私もいわゆる観光地にしか海外は行ったことがなかったんですけど、ほぼ同じ体、同じ 体力の姉がフィールドワークとして行なっているならば、私もできるんじゃないかなという思いで行きました。

©twinstrust

 あとは最初の土地がモンゴルだったということもあり、書籍でも触れているんですけど、私たちはユーミンが、松任谷由実さんが大好きで、13歳の多感な時期に見たユーミンのテレビ番組がちょうどモンゴルを訪れるという・・・都会的なユーミンじゃなく、野生的なユーミンの魅力に惹かれたきっかけの場所でもあったので、そこに行けるのかという冒険心のほうが勝っていましたね」

※ユーミンがいざなってくれたとさえ思えるモンゴル。その大地に連なる山に設置した、ユキヒョウ姉妹の思いがつまった赤外線カメラのデータは、現地の研究者から8ヶ月後にこづえさんのもとに届いたそうです。

●最初の調査で大きな成果があったんですよね?

こづえ「そうですね。先ほどのハングしていたところに仕掛けたカメラなんですけれども、私たちが仕掛けた数日後にユキヒョウがやってくるんです。1頭ではなくて親子連れで、ちょうど巣穴から出てきたぐらいの小さな子供のユキヒョウが写っていました。

 匂いを嗅いでフレーメンっていう行動をするんですけど、フレーメンはちょっと笑っているような、口角を上げて詳しく匂いを嗅ぐんですけれども、それを母親がやっている姿を真似て、子供が同じようにフレーメンをしているのが写っていました。で、小さい山なので、ユキヒョウはいないっていうふうに考えられていたんですけれども、繁殖する場所としても有用な場所なんだよってことがその1枚で分かりました」

©twinstrust

●さとみさんは、こづえさんから写真が撮れてたよって連絡を受けて、すぐに見に行かれました? どうでした? 

さとみ「SDカードでモンゴルから姉の元に届いたんですね。なので私はデータを送ってもらって見たんですけど、本当に誰も何もいない、生き物の気配すら感じないところだったので、本当にいるのかなと思っていたんです。

 自分が立っていた同じアングルで、数日後にユキヒョウが立っている写真が撮れているっていうのは、なんか不思議な感じがしました。本当にいたんだな、もしくは、どこかから見ていたんじゃないかなっていう気持ちになりましたね」

ユキヒョウとの共存共生

※モンゴルに続いておふたりは、2016年に、インド北部の山岳地帯ラダックに調査に行かれました。標高がおよそ3500メートルということで、体を慣らすのが大変だったそうです。そんなラダックでなんと、野生のユキヒョウに遭遇したんです。どんな状況だったんですか?

こづえ「一生に一度、研究者でも会えたらいいほうと思っていたので、会えないかなと思っていたんですけども、到着した時にユキヒョウが村の家畜を襲ったということが、現地の共同研究所に連絡が入ったので駆けつけました。

 山の中奥深くに(ユキヒョウが)いるのかなと思ったんですけども、いた場所はその村の民家の裏山で、民家のベランダから見えるぐらいのようなところに、ユキヒョウが崖からひょっこり顔を出していて、野生の猫っていうより里猫のような感じでいるのがかなり意外でした」

©twinstrust

●さとみさんはどうでした?

さとみ「あくびをしたり伸びをしたり、時より動物園で見せるような可愛らしい姿を見せてくるので、なんだかちょっと勘違いしそうにもなるんですけど、ただこちらを警戒しながらも家畜を襲いに来ている状況ではあったんですね。

 民家の家畜を狙っている状況で、少し時間が経ったあと、私たちは部屋に入って晩御飯を食べていたんですけど、その時に(ユキヒョウが)牧羊犬を狙いに来ました。その牧羊犬が襲われた時、断末魔のような叫ぶ声が聴こえてきた時に、私はなぜかポロポロと涙が出てきてしまったですね。

 家で犬を飼っているからなのかなと一瞬思ったんですけど、そうではなくて、生と死の重なりを目の当たりにしたと言いますか・・・ユキヒョウを守りに来ているのになんで泣いているんだろう・・・じゃあ何を守りに来ているんだろう、私は・・・みたいな複雑な気持ちで、初めて言葉にできない涙が流れた出来事だったなっていうふうには思います」

※村人にとっては家畜は財産なので、ユキヒョウに対する報復心は強いと、こづえさんは感じたそうです。
 現地では、ユキヒョウが人里に出てきたら、政府機関に通報し、麻酔を打って捕獲、遠くへ移送することにはなっているそうですが、ユキヒョウの獲物になるヤギの仲間アイベックスなどが民家の裏山にいたりするので、ユキヒョウにとっては狩り場になり、どうしても村人の生活空間と重なってしまうということだそうです。

©twinstrust

●ユキヒョウと人の共存・共生を目指す上で、どんなことが大事になりますか?

こづえ「人との共存共生って言った時に、私たちが日本にいてイメージするのは、おそらく野生動物とそこに暮らしている人たちっていうふうに、ちょっと遠いところの存在で捉えがちだと思うんですけれども、実はユキヒョウはアジアに生息していますし、生息しているいろんな国々と日本は密接な関係を持っている、同じアジアですので、より密接につながっています。

 この地球上に暮らしている以上、必ず何かの形で、遠くの野生動物、遠くの人々ともつながっています。やっぱり今私たちが手にしているもの、食べているものは、何かを享受して成り立っているので、それはいったいなんなんだろうっていうことを考えることが大事なのかなと思っています。

 自然から乖離(かいり)して暮らしている人ほど、都市部の人たちほど、遠くの自然を享受して生きていたりもするので、どこから来たんだろうっていうのを考えることが、いちばんのスタートになるのかなと思っています」

匂いのコミュニケーション

©twinstrust

※現在、調査の主なフィールドは、中央アジアの山岳国キルギス。首都のビシュケクは都会的な街並みで、ぐるりと4000メートル級の山々が囲み、街ゆく人たちの顔立ちは日本人によく似ていて、なんだか不思議な魅力に溢れている所だったそうです。

 キルギスでの調査で、同じ場所にいろんな野生動物がマーキングをすることがわかり、研究者のこづえさんは、彼らは匂いでコミュニケーションをとっている、そんな仮説を立てていらっしゃいます。これについて説明していただけますか。

こづえ「私たち人間も霊長類で、視覚的な見える世界に頼って、実は生きていて、嗅覚の能力はだいぶ弱っているんです。ネコ科動物は匂いの世界で生きているっていうのは私もわかっていて、繁殖を研究していたので、マーキングを使って密度の薄いところで、ぽつんと暮らすユキヒョウたちが、どうやってユキヒョウ間でコミュニケーションをとっているのかを興味を持って研究をしていたんですね。

 野生に行ってみて実際にカメラを仕掛けると、そのカメラはいろんなユキヒョウを写すことはほぼなくて、ユキヒョウはマーキングにやっては来るんですけれども、基本的にはオオカミだったりクマだったりキツネだったり、いろんなほかの動物たちがやってくることに気づかされて・・・。

 あっ、そうか! と。実際彼らはユキヒョウへのアピールも大事だと思うんですけれども、そこで生きていく以上、同じように肉食動物で狩りをしているオオカミに対してのアピールであったり、匂いを嗅ぐことで餌動物は、ここにユキヒョウが来たんだっていうことを知って、活動時間帯を変えたりとか・・・行ってみると何にも動物がいないような閑散とした場所なんですけれども、彼らは匂いですごくコミュニケーションをとりながら、そこで生きているんだっていうことに気付かされました」

©twinstrust

※「twinstrust」で行なっている「まもろうPROJECT ユキヒョウ」の一環として、キルギスでぬいぐるみ「ユキヒョウさん」を作っていますよね。どんな活動なのか教えてください。

さとみ「キルギスにいらっしゃるJICAのかたが運営している『一村一品プロジェクト』というのがあるんですが、その一村一品プロジェクトとコラボしてユキヒョウさんグッズを制作しています。

 その一村一品プロジェクトは、キルギスの伝統文化であるフェルトとかを使って、首都から遠く離れた村の女性たちが一針一針フェルトを作ってくださっています。田舎の村のほうで使われなくなった学校を改装して職場にして(フェルトを)作っていらっしゃいます。
 昔は女性は遠くに出稼ぎに行かないと、なかなか稼げないっていうことがあったんですけど、JICAのかたがその村で、家族と暮らしながら現金収入を得られる、女性の地位を高めるという意味での一村一品プロジェクトをされていました。

 去年、実際に私たちもその村を訪れたんですけど、本当に何もないところに急にポツンと学校が現れまして、中に入ると、あれだけ誰もいなかったのに学校の中には女性たちの賑やかな明るい声が溢れていて、こんなところから一針一針、手作業で作られて届いているんだなってことを感じました」

©twinstrust

●同じく新商品としてユキヒョウさんのスノーハニーというハチミツがありますけれども、これもキルギス産なんですよね?

さとみ「そうですね。白いハチミツもキルギスの遊牧民に長年愛されてきた伝統文化です。実際に私たちも去年その花畑を訪れたんですけど、遠くにユキヒョウが生息している山が見えるんですね。私たちが調査している山、あそこ! っていう感じに見えるんです。
 そこにいるミツバチたちが・・・高山植物のエスパルセットっていう植物が蜜元なんですけど、本当にその生態系の中で採れたハチミツだなということで、それを動物園だったり、雑貨屋さんで売っていただいています」

ユキヒョウは平和の親善大使

※「twinstrust」を立ち上げて、およそ10年が経ちました。こづえさんはユキヒョウの研究者として、今後明らかにしたいことはなんでしょう?

こづえ「まずやはり何かを守ろうって思った時には、人と人もそうだと思うんですけれども、守る相手を知らなければ、正しく守ることはできないと思うんです。そもそも私自身も生物学の研究者として、ユキヒョウの生態そのものをまだまだわかっていないので、彼ら自身を知りたいと思って、10年前(調査活動を)スタートはしたんですね。

 ユキヒョウが暮らすいろいろな国に行くと、ユキヒョウっていうのは人々の文化や宗教、時には紛争にも関わっていたりもして、そこに暮らす人々のことを知らなければ、ユキヒョウのこともわからないってことがわかってきたので、今はユキヒョウを通して人々の文化も明らかにしながら、動物を守るっていうことの実態を明らかにしていきたいなと思っています」

●さとみさんはこの『まもろうPROJECT ユキヒョウ』の活動で、今後やっていきたいことってありますか?

さとみ「具体的にこれっていうようなことではなく、曖昧ではあるんですけど、いろんなご縁をつないでいきたいなと思っています。
 最初、研究者の姉とコピーライターの私、全然違う職業のふたりがタッグを組むことで、予想もしなかった展開があったように、自分たちが面白がって双子でやっていると、いろいろ面白そうだねって、この指止まれ、じゃないんですけど、人が集まってくるので・・・今回のラジオもそうです。なんかそういった人との関わりとか、化学反応を楽しんでいきたいなと思っています」

●では、おふたりにとって、ユキヒョウとはどんな存在ですか?

こづえ「ユキヒョウは高山にいるので珍しいと思うんですけど、彼らは国境をノー・ボーダー、ノー・パスポートで縦横無尽に走り回っている、その姿がやはり魅力的だなって感じています。そのユキヒョウに出会えたおかげで、いろいろな国の人たちの文化を知ることができたので、私たちにとっては本当に平和の親善大使だなっていうふうに思っています」

●さとみさん、お願いします。

さとみ「ユキヒョウを好きになったことで、私もこんなにも世界が広がりました。自分でも歌詞に書いたんですけど、”好きな動物はなあに? 僕はユキヒョウ”っていう、好きな動物を好きになることは、本当に入り口で、好きになったら、その動物はどこに棲んでいるんだろうとか、どんな人との関わりがあるんだろう、自分にどう関わってきているんだろうと、どんどん見える景色が変わっていくので、好きになった動物、ただ好きで終わりではなくて、そこから広げていく面白さをユキヒョウは教えてくれたなと思います」

©twinstrust

(編集部注:ユキヒョウが減っている原因は、WWFジャパンのサイトによれば、特に山岳地帯で急速に進む地球温暖化の影響や、ユキヒョウの獲物である草食動物の減少。そして家畜を襲ったユキヒョウが人間によって殺処分されていること。ほかにも、違法取引のための密猟などもあって、毎年最大で450頭ほどのユキヒョウが犠牲になっているそうです。幻のユキヒョウが、本当に、幻にならないようにしたいですね)


INFORMATION

『幻のユキヒョウ〜双子姉妹の標高4000m冒険記』

幻のユキヒョウ〜双子姉妹の標高4000m冒険記

 ユキヒョウを守る活動10年の奮闘ぶりと、ユキヒョウを追い求めて訪れた辺境の地、モンゴルやラダック、ネパールやキルギスの旅、そして人々との出会いが、自然体の文章で書かれています。ぜひ読んでください。もちろん、野生のユキヒョウの貴重な写真も載っていますよ。
 扶桑社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎扶桑社:https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594094010

 手作りのぬいぐるみ「ユキヒョウさん」などのグッズは、以下の動物園で販売しています。

 旭川市旭山動物園/札幌市円山動物園/盛岡市動物公園ZOOMO/那須どうぶつ王国/いしかわ動物園(近日販売開始)/神戸どうぶつ王国/大牟田市ともだちや絵本美術館(大牟田市動物園内)*動物園によって、販売している商品は異なります。

 また、盛岡市動物公園ZOOMO、那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国のネットショップでも購入できます。

 詳しくは「まもろうPROJECT ユキヒョウ」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎まもろうPROJECT ユキヒョウ:https://www.yukihyo.jp

南アフリカ政府公認サファリガイド「太田ゆか」〜伝えたいのは「人間は自然の一部」

2023/7/30 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、南アフリカ政府公認のサファリガイド「太田ゆか」さんです。

 太田さんは1995年、アメリカ・ロサンゼルス生まれ、神奈川県育ち。小さい頃から動物が大好きで、将来の夢は獣医さんになること。そんな少女は、動物を守れるような仕事をしたいと思い、立教大学在学中に、環境保護に関わるボランティア活動を国内外で体験。

 そして、野生動物ならアフリカ! そんな思いから、アフリカ大陸南部・ボツワナ共和国でのサバンナ保全プロジェクトにボランティアとして参加。その時に人生を決定づけるガイドという仕事に出会い、現在は、南アフリカ政府公認のサファリガイドとして活躍されています。そんな太田さんが一時帰国されたときにお話をうかがうことができました。

 今回は新しい本『私の職場はサバンナです!』をもとに、クルーガー国立公園でのサファリツアーや野生動物の保護活動のお話などお届けします。

☆写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

太田ゆかさん

サファリガイドの訓練学校

 クルーガー国立公園は、南北およそ350キロ、東西およそ65キロの広大なエリアには哺乳類、野鳥、爬虫類、両生類など多種多様な生き物が生息している、まさに動物の王国! 

 そんな国立公園内には、およそ2000キロ以上にわたり、道路が整備されていて、車でめぐるサファリツアーが大人気なんだそうです。ちなみにサファリとはスワヒリ語で「旅」を意味するそうですよ。

 広大なサバンナには、ライオンやハイエナ、アフリカゾウやサイ、キリンやインパラなどが暮らし、まさに「ライオン・キング」の世界が広がっているそうです。

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

 動物が大好きでも、そう簡単にはサファリガイドにはなれないと思うんですが、どんな道のりを経て、ガイドになったのか教えてください。資格も取得されているんですよね。

「そうですね。私の場合は・・・訓練学校が現地にあって、サファリガイドになりたい人たちのための学校みたいな環境になっていて、そこに入学して1年間、訓練を受けて、試験に受かると実習に進めるんですね。

 で、実習を無事に終えると、南アフリカ政府が公認しているサファリガイドの資格を取得できるっていうような感じなんです。資格の取得自体は試験にさえ受かっちゃえば、みなさんなれるんですが、実際に働ける場を見つけるのは、やっぱり外国人として、すごくハードルが高かったですね」

●太田さんは、そこをどのようにされたんですか?

「サファリガイドは、やっぱりコネクションがすごく大事な、すごく狭い業界なんですね。私が今滞在しているのはクルーガーなんですが、クルーガー国立公園の周辺エリアで、業界の人たちにたくさん会って、信頼関係を築いて、なんとか活動できる場を見つけられたっていうような感じです」

●そのクルーガーは南アフリカのどの辺りになるんですか?

「南アフリカがアフリカ大陸のいちばん南にあるんですが、その中でも結構、北のほうにリンポポ州っていう州があります。その州の中にクルーガー国立公園っていう国が持っている土地があって、その周りにもたくさんサバンナが広がっていて、そこは市営保護区になっています。
 その市営保護区も国立公園も柵なしで、どっちもつながっているので、南アフリカの中の、北のエリアには本当に広い生態系が広がっていて、その中に今私は住んでいます」

●衣食住を含めて、どんな暮らしをされているんですか?

「食べ物に関しては意外と結構普通で、もちろん住んでいるのはサバンナなので、毎回毎回、町まで1時間ぐらいかけて(車で)行って、買い物してみたいな感じです。飲み水だったりとか、食料は週に1回とか2週間に1回とか、1回の買い出しでまとめてゲットするみたいなイメージなんですけど、ゲットできるものは、あまり日本と変わらないかもしれないです。

 もちろん日本食はないですけど、普通にお野菜だったりお肉とか、そういうものも売っている田舎の街が、サバンナの近くにもあるような感じですね。でもやっぱり電力に関しては、サバンナっていうところもあって、南アフリカは停電がずっと続いていて、そこだけは今も結構苦労しています」

●治安とかはどうなんですか?

「治安は、大都市ヨハネスブルクとかケープタウンとかダーバンとか、そういう大きい都市になると、やっぱり治安がよくないところもあるのは事実なんですが、サバンナまで行ってしまえば、人もいないので治安はものすごくよくて(笑)、気をつけるのは動物だったりとか、それぐらいかなっていう感じで、すごく安全な場所になっています」

サファリドライブの醍醐味

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

※サファリガイドになって7年くらいだそうですが、具体的にはどんなことをされているのか、1日のスケジュールも含めて、教えてください。

「基本的には太陽と一緒に暮らしていくようなスケジュールになっていますね。太陽が出てきたら、その時間に合わせてサファリドライブをスタートして、サバンナに出て行って野生動物を探してっていう・・・サファリドライブは朝、行なっていますね。
 いちばん暑い昼間の時間帯になると、ずっとサバンナの中に出ているのも大変になってくるので、そうすると私が住んでいるロッヂ、家に戻ってきて、パソコン系の作業をしたりみたいな・・・。で、夕方サバンナの気温が下がってきたら、またサファリドライブに出かけて野生動物を探すのが、基本的な1日の動きにはなっています。

 でも、動物に合わせてスケジュールも変わっていくので、罠にかかっている動物が見つかったってなると、普段のお仕事は置いといて、急にそっちに出動することもあるので、結構違う毎日を過ごしています」

●ツアーのルートは、ある程度は決まっているんですか?

「国立公園とか市営保護区の中で、どういうふうに動いていくかは全く決まっていません。やっぱり野生動物は動物園と違ってどこにいるか、その時になるまでわからないので、広大なサバンナの中から探し出すってなると、その動物が残してくれる足跡だったり糞だったり、そういった痕跡をたどりながら、動物の場所を探していく、辿っていくような感じなので、毎回違うサファリの内容になります」

●同行するガイドは、基本は何人なんですか?

「同行するガイドは基本、私がオープンサファリカーを運転して、私ひとりでガイドさせていただいているんですが、時々私が担当していない保護区にツアーに行ったりもする時があって、そういった時はそこにもガイドさんがいるので、現地ガイドと私が二人三脚でガイドしたりしています」

●ツアー客のみなさんは、車の上から動物を観察するっていう感じなんですよね?

「そうですね。基本的にはサファリドライブは車に乗っての移動になるので、車に乗りながら動物を探して観察してっていう感じではあるんです。でもやっぱり(痕跡を)辿って、動物を探し出すのが、サファリドライブの楽しさでもあるので、いい感じのフレッシュなライオンの足跡とかがあったら、サファリカーを降りて実際にその足跡を見てみたり、手を並べてみて大きさ感じてみたりっていうことはやったりします。周りが安全であることを私たち(ガイド)が確認したあとではあるんですが・・・。

 あとは、サファリドライブは1回3時間とか4時間とかになったりするので、途中で1回車を降りて足を伸ばす休憩タイムをとります。そこでジントニックだったりワインを飲んだりとか、そんなドリンク休憩を挟むこともあります」

●そうなんですね〜! 太田さんがガイドする時に心がけていることってありますか?

「やっぱりいちばん感じてほしいのは、動物が可愛かった、すごかったで終わってしまうのではなくて、ここの動物はこんなふうにほかの動物と、生態系の中でつながっているんだとか、まさにこの番組(のテーマ)と同じように、人間も自然の一部だよねっていうのを感じて欲しいメッセージとして私も持っています。

 そういったことを実際にサファリドライブを通して、身をもって感じてもらえるような、人間もずっとここに暮らしていたんだ、動物たちと一緒に暮らしていたんだっていうのを感じてもらえるような、ガイドができたらなって思っています」

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

(編集部注:サファリカーにお客さんを乗せて案内するなかで、日々いろんな動物と遭遇している太田さんですが、やはり赤ちゃんに出会うと幸せな気持ちになるそうです。
 たとえば、ハイエナの赤ちゃんは好奇心が旺盛で、向こうから車に近づいてきてくれて、いろんな行動を見せてくれるので、見ていてまったく飽きないとか。また、ガイドになって間もない頃、大きなクロサイに遭遇、その影に小さく動くものを見つけたそうです。実はそれが生まれたばかりの赤ちゃん! 絶滅危惧種のクロサイが命をつないでいることに感動を覚えたそうですよ)

アフリカゾウはキーストーン種

※アフリカといえば、ゾウを思い浮かべるかたも多いと思うんですけど、アフリカゾウの数が一時期、激減したというニュースがありました。現状はどうなんでしょうか?

「そうですね。アフリカに生息しているゾウは、実は1種類ではなくて2種類いて、マルミミゾウと、いわゆる私たちの知っているアフリカゾウがいるんですけど、アフリカ大陸も広いので、地域によって全然状況は違います。

 それこそマルミミゾウは、中央アフリカとかそういった熱帯雨林のようなジャングルみたいなところに棲んでいるゾウさんなので、そこは結構今でも密猟の影響があったりして、数がなかなか増えていなくて、大変な状況にはなっているんですね。

 南アフリカとかボツワナとか南部アフリカのエリアでいうと、私たちのクルーガー国立公園は、特にアフリカゾウは今すごく増えていて、クルーガー国立公園全体が日本の四国と同じぐらいの大きさなんですけど、その中に2万頭が生息しているっていうふうに言われています。

 これは今のところ統計上、記録がとられ始めてからいちばん数が多いんですね。なので、生息地がどんどん減ってしまっているのに、その残された生息地の中でゾウは増え続けています。生息域がずっと広くあればよかったかもしれない数なんですけど、現状もう(ゾウが)行ける場所がないのに、その中で増えてしまっているのが今最大の問題になってしまっています」

『私の職場はサバンナです!』

●そういう現状なんですね。本にアフリカゾウはキーストーン種と書いてありましたけど、このキーストーン種とはどういったものなんでしょうか?

「キーストーン種は、生態系にもたらす影響が大きい種だったりとか、いろんな動物とつながって、その生態系の中ですごく重要な役割を果たしている動物のことを言うんです。特にゾウさんはサバンナの自然を形作っていると言われるぐらい、いろんな動物といろんなバランスの中で生息しています。

 たとえばゾウさんは、たくさん食べてたくさん移動するので、移動距離が多い分、ゾウさんが食べた植物の種子が遠くまで運ばれて、そこで(糞と一緒に)出てくると、それは植物に対して種子散布の役割を果たしていたりします。

 あとは、水溜まりの中に魚がたくさん卵を産んでいたりするんですけど、そういう卵をゾウさんが体にくっつけて移動して、違う所に行ったりすると、そのお魚(の卵)を運んでいたり・・・なので、実は哺乳類の中だけでなくて、魚類だったりとか植物だったり、いろんな動物とつながって、今のサバンナのバランスを保ってくれているのがゾウさんです」

●サバンナにとってゾウは大切な存在なんですね。

「そうなんです! 大切な存在なんですけど、やっぱりたくさん食べる分(ゾウが)いすぎても影響は大きいので、そこが難しいところではありますね」

深刻なサイの密猟

※アフリカでは密猟が横行しているというニュースを見たりすることがあります。やはり、そうなんですか?

「南アフリカでいうと、アフリカゾウの密猟は結構今は少ないんですけど、今いちばん問題になっているのは、サイの密猟です。かなり深刻で、毎年たくさんのサイが、そのツノのためだけに殺されてしまっているっていう現状が起きています」

●対策としては、どんなことをされているんですか?

「サイに関しては、ツノがそれこそ東南アジアとか中国とかでは漢方薬として使えるとか、病気が治るみたいないろんな迷信があって、実際は人間の髪の毛や爪と同じケラチンなので化学的効果はないんですけど、そういうふうに信じられて消費されているのですごく価値が高くなっています。お金儲けのためにサイのツノを密猟している、ツノのためだけにサイが殺されてしまっているっていう状況なんです。

 ツノは髪の毛と全く同じなので、別に切っても痛くないんですね。人間が爪とか髪を切っても痛くないのと同じように。なので、今なんとかこの密猟を食い止めるために、獣医さんと一緒に麻酔を打って眠っているサイのツノを短くして、密猟する動機をなくさせる・・・ツノがなければ、サイも殺される理由がなくなるので。なるべくそういうふうにして、本来の姿を変えてしまうっていう意味では理想ではないんですけど、もう今はほんとに一刻を争う事態なので、少しでも多くのサイが生き延びれるようにツノを短くしています」

(編集部注:サイのツノは、人間の爪や髪の毛と同じだということで、また生えてくるんですね。太田さんによれば、2〜3年でもとに戻るそうです)

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

ゾウにGPSを付けて追跡

※日本でも野生動物が街中に出てきたり、収穫前の作物を食べてしまうような食害の問題があったりします。人と野生動物の軋轢というか・・・その辺、南アフリカではどうですか?

「私たちが今行なっている活動のひとつで、ゾウさんでいうと、場所を求めて、保護区の国立公園のエリアから出てしまって、村に入ってしまったりとか、畑に入ってしまっているので、GPSをつけて彼らの動きをモニタリングできれば、ゾウさんがどういう動きをしているのか、どこの通り道を通っているのか、そういうことがだんだん分析できるようになってきて、ゾウさんが出て行ってしまうことを未然に防げるようになったりします。

 結構おっきい首輪なんですけど、それにGPSが付いていて、それをゾウさんの首に付けさせてもらうと、そのゾウさんが保護区を出てしまう前にわかるので、そうするとヘリコプターを飛ばして、(保護区の)中に追いやったりとか。
 やっぱり1回出てしまうと戻すのが大変なんですね。射殺されてしまったみたいなことになっちゃうんですけど、出るのを防げればどっちもハッピーでいられるので、このGPSを付けることによって、なんとかしようっていう活動を今行なっています。

 ただやっぱりヘリコプターを飛ばしたり、GPS自体もすごく費用が高いので、今それでクラウドファンディングを行なっていて、ゾウさんの保護活動を日本で応援してくださるみなさんと現地で実現しようとしています」

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

人間も自然の一部

※太田さんが暮らす南アフリカ・クルーガーエリアの大自然や野生の生き物たちから、どんなことを感じますか?

「これはやっぱり私がみなさんに感じてもらいたいことなんですけど、このクルーガーのエリアを歩いていたりとかガイドしていると、結構ゴロゴロと人間がそこに暮らしていたんだなっていう形跡が本当にたくさんあります。それこそ旧石器時代の人たちの石器の道具だったりとか、あとは岩場に残っている壁画だったりとか、本当に人がこうして動物と一緒に暮らしていたっていうことを、身をもって感じることのできるすごく貴重な自然だと思うんですね。

 やっぱりそういったところを感じてもらえると、私としてはすごく嬉しいし、それが環境保護だったり、みんなが長く平和に野生と共存できるような世界につながっていくのかなと思うので、なるべく多くの方にサファリツアーに来てもらって、人間が生態系の一部っていうのを、いちばん感じてもらいやすい環境で、みんなに感じてもらいたいと思っています」

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

●太田さんがサファリガイドとして、最も伝えたいことを教えてください。

「重ねてにはなってしまうんですが、人間がちゃんと自然の中で、生態系の中で役割を果たしていた時代が、過去にあったっていうのを踏まえて、今人間は結構(自然に対して)悪みたいな言い方だったり考え方になってしまうこともあると思うんですけど、でも本来は人間も生態系の一部としてずっと成り立ってきた存在だと思うんです。
 現在もアフリカの中にはそうやって暮らしている先住民の人たちってたくさんいるので、そういう人たちを目の当たりにすると、今の私たちも少しずつ工夫していくことで、少しでも彼らの生活の仕方に近づけるんじゃないかなって思うんですね。
 やっぱり伝えたいことってなると、人間も自然の一部っていう考えを、なんとか取り戻すことによって、みんなが少しずつ環境にいい暮らしに変化していくんじゃないかなっていうふうに思います」

●では最後に太田さんの夢を教えてください。

「長期的な夢でいうと、本当に死ぬまでサバンナにいるってことなんです。近くの短期間の夢でいうと、今日本のみなさんに応援していただいている、クラウドファンディングの支援金を使って、南アフリカで保護活動を成功させることですね。日本から応援したい、でもどうしていいかわからないっていう方たちが、意外といるんだなっていうのが最近わかってきて・・・。なので、そういった方たちと助けを必要としている現地の人たちをつなげるような存在になりたいなっていうふうに思っています。

 やっぱり直近の夢でいうと、そうやって応援してくれているみなさんの協力を得て、大きな保護活動を南アフリカだったり、ほか(の場所)でもいいんですけど、アフリカのサバンナの環境で、日本のみんなと現地の人たちをつないで、大きな保護活動を実現できたらいいなって思っています。

 まずはゾウさんにGPSを付ける保護活動を8月に予定しているので、それが大成功に終わるように頑張らなくてはいけないなと思いつつ、現地のNGOだったり研究者だったり、獣医さんと話しながら準備を進めています」

写真:日本人サファリガイド 太田ゆか

(編集部注:太田さん曰く、アフリカゾウの群れに囲まれても、彼らがリラックスしていると、とてもピースフルな雰囲気になるそうです。野生動物には不思議な力があって、癒されるそうですよ。
 太田さんは休みの日は、すっかりハマってしまった野鳥観察に出かけるそうですよ。これまでに400種以上の野鳥に出会ったとか。鳥を知るとサファリが倍楽しくなるとおっしゃていました)


INFORMATION

『私の職場はサバンナです!』

『私の職場はサバンナです!』

 サバンナに生息する野生動物の生態や、保護活動の最前線、そして人と野生動物が共生していくためのヒントなどが書かれています。大好きな動物を守りたいという太田さんの強い意志も感じる一冊。ぜひ読んでください。
 河出書房新社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎河出書房新社:https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309617510/

 お話に出てきたクラウドファンディング、現在は、ナミビアの砂漠で生き抜く幻のライオンを保護するための支援を募っています。

 また、太田さんがガイドしてくださる魅力的なサファリツアーや、なんと、サファリガイドの訓練学校を体験できるサファリ・スタディーツアーも企画されています。詳しくは太田さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎太田ゆか:https://yukaonsafari.com

まちなか 植物観察のすすめ~植物観察家・鈴木 純「まちの植物はともだち」

2023/7/23 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、植物観察家の「鈴木 純」さんです。

 鈴木さんは1986年、東京都生まれ。子供の頃、親御さんが小笠原に連れて行ってくれたり、夏休みには、自然の中に身を置く旅にいざなってくれたりということもあって、野山が大好きな少年だったそうです。そして東京農業大学で造園学を学び、その後、青年海外協力隊に参加し、中国で砂漠の緑化活動を行ない、帰国後、国内外のフィールドを巡り、植物への造詣を深めます。

 そんな鈴木さんは、友達に植物の面白さを伝えたいと思い、野山での観察会を企画したところ、人が集まらなかったそうです。野山に行くにはウエアやシューズ、持ち物などそれなりの準備が必要で、それがハードルになることに気づき、それなら気軽に集まれる街中だ!と思い、まずは友達向けの観察会をスタート。

 そして2018年からフリーの植物ガイドとして、街中での植物観察会を行なっていらっしゃいます。また、植物生態写真家としても活躍。

 そんな鈴木さんが『まちなか 植物観察のススメ』という本を出されました。きょうは、街中で植物観察をするときのコツや、植物を見分けるポイントなどうかがいます。道端に咲いている花や樹木のことをちょっとでも知るといつもの道がきっと楽しくなると思いますよ。

☆写真協力:鈴木 純

鈴木 純さん

木の葉っぱ、鋸歯を覚える!

※植物の名前をなかなか覚えられない、そんなかたは多いと思います。植物のどこに注目するのがいいのか、ポイントがあるんですよね。

「そうですね。とにかく植物は多分全部そうなんだと思いますけど、形を見ることがすごく大事なポイントになるので、まず初めは漠然と見ないで、形を見るんだっていう意識をちゃんと自分につけることです。慣れてくれば、そんなことを考えなくていいんですけど、初めは形に注目、意識するっていうことがすごく大事だと思います」

●この本には植物の名前を覚えたいなら、まず木がおすすめっていうふうに書かれていました。でもなんだか草花のほうがわかりやすいかなって思ったんですけど、木がおすすめっていうのはどうしてなんですか?

「これは僕が木から覚えたっていうのもあるんです。草と木の違いは、僕なりに思っているところがあって、草は結構短命なんですね。1年で枯れちゃったりするので、そういう短命な生き方は、植物にとって多少環境が悪くても、小さいまま花を咲かせたりとかするわけですよ。
 そうすると環境がいいところでは、大きく育っていた植物が、こっちでは小さい形で生きているとかっていう感じで、草は形が結構不揃いになるんですね。ただ、花の形は同じなんですけど、この話は後でまたしますね。

 見るべきポイントが葉っぱだとすれば、草は葉っぱを見るといろいろ混乱しちゃうけど、木の場合は長生きなので、長生きな植物は結構形が安定しているんですね。なので、葉っぱとかをヒントに植物の名前を調べるのであれば、そういう比較的形が安定している木から始めるほうが、意外と始めやすいんじゃないかなと思いますね」

●木の葉っぱは、どこに注目するのがいいんですか?

「僕がおすすめなのは、まず言葉を覚えるっていうところで、たとえば葉っぱをよく見ると、葉っぱの縁のところにギザギザが付いていたりするんです。そのギザギザには実は呼び方があって、これを”鋸歯(きょし)”って言うんですね。まずこの鋸歯って言葉を覚える! これを僕はおすすめしています。

 というのは、葉っぱの縁にギザギザがあるなって思っていると、このギザギザに鋸歯って言葉があるんだって思うと、僕は学生の時にギザギザに鋸歯があるって聞いた時にすごく感動したんですよね。鋸歯っていう言葉があったのか! って感動しまして、そうしたら葉っぱのギザギザがよく見えてくるようになっちゃったんですよ。

 なので、まずこのギザギザは鋸歯だっていうことをまず覚える! 自分で鋸歯っていう言葉を発してみる、これが大事ですね。何気にどこの葉っぱでもいいので見ながら、鋸歯があるな、鋸歯があるな、鋸歯があるなって、ひたすら鋸歯っていう言葉を発してみる。そうするとどんどん鋸歯が気になってくる、そういうことをまずやっていくのが僕のおすすめです」

(写真左)アオキ 荒い鋸歯(写真右)マンリョウ 丸い鋸歯
(写真左)アオキ 荒い鋸歯
(写真右)マンリョウ 丸い鋸歯

葉っぱの付き方~互生、対生

※街中の公園などでよく見る木で、この木の葉っぱを見ると面白い、というのはありますか?

「僕ね、葉っぱを見るのは簡単だと思いながら、難しいと思っていることもあって・・・っていうのは、今僕がたとえば、エノキの葉っぱ面白いんですよって言ったところで、まずはいろんな葉っぱの比較をしておかないと、どの葉っぱが面白いかっていうことがわからないんですよね。
 なので、たとえばエノキだったら、鋸歯が葉っぱの根元の部分、半分は鋸歯がないんですよ。その半分より先に鋸歯があるっていう形をしていて、僕にとってはすごく面白いけど、果たしてそれを面白いって思う人がどれくらいいるのかというところなんですよね。

 これは植物の葉っぱを、いろんな種類を見ていると、どんどん面白くなっていくっていう、そういうタイプの楽しみなんですよ。なので、なんというか、あまりどの葉っぱが面白いですかっていうのはなくて、言っちゃえば全部面白いんですよ。なぜなら全ての葉っぱが、どの葉っぱとも違う形をしているから・・・なんだけど、この面白さを伝えるには、まずひとつひとつの葉っぱを知る必要があるんだよね。急に楽しめないっていう、そこが僕は奥深いなと思っているところなんですよね 」

●葉っぱの付き方にも、いろいろあるんですよね?

「ありますね。これも面白いですよ! これもやっぱり言葉遣いがあって、たとえばいちばん多いのが”互生(ごせい)”って言って、これは枝に葉っぱが右、左、右、左って交互に付いているパターン、これを互生って言うんですね。

ケヤキ
ケヤキ

 で、これはよくあるパターン、互生はよくあるやつなんです。だから互生の木が出てきても、そんなにテンションが上がんないわけですね。互生か!って感じだけど・・・テンションが上がる葉っぱの付き方は、”対生(たいせい)”ってやつで、枝の一箇所から2枚出てくる、対になって出てくるっていうやつですね。対生の木はちょっと互生よりは少ないんですよ。なので、名前を知るためのヒントにはしやすいものになるんですね。

 種類によって、互生の木があったり、対生の木があったりする、葉っぱの付き方に違いがあるなんて、全く思わないわけじゃないですか、普通は。だけど意外とよく見ると違いがあるっていうところに面白みがあって、かつ対生であれば、互生よりも対生の樹木のほうが少ないことがわかっていれば、図鑑も引きやすくなるんですね。結構葉っぱの付き方を見るのは、大事というか面白いし、役に立つものですね」

クチナシ
クチナシ

(編集部注:鈴木さんによると、対生の樹木で、街中でよく見られるのは、クチナシ、キンモクセイなど。アドバイスとして、花が咲いているときに葉っぱをよ〜く見ておくと、花がないときでもすぐにわかるようになるそうです。
 ほかにも、蜜が出る葉っぱの代表的なものとして、ソメイヨシノを教えてくださいました。詳しくは鈴木さんの新しい本をぜひ見てくださいね)

草は花を見る

※続いては、草を見るときのポイントです。草の名前を覚えるには、花に注目するのがいいそうですが、それはどうしてなんですか?

「これは、草は短命で環境に合わせて、すごく小っちゃいまま、花を咲かせたりとかしちゃうから、葉っぱの形とかがあんまり信用できなかったりするんだけど、面白いことに花の形は整っているんですよ。なので、花の形は信じられる。

 これは、本当は木も一緒なんですね。木も一緒なんだけど、木の花は結構高いところに咲いていたりとか、意外と小っちゃかったりとかして、結構観察するのが難しいんですよ。でもその点、草は自分の背丈もないですよね。足もとに咲いているので、かがめば見られるっていうものなので、そういう意味で形が安定していることと、観察しやすいっていう意味で、花を観察するのがいいかな」

●この7月、8月にかけて咲く花で、この花を観察すると面白いよっていうのはありますか?

「いろいろあるんですが、ひとつテーマとしておすすめなのが・・・夏って暑いですよね。そうすると植物も昼間はあまり咲いてないんですよね。いつ咲いているかっていうと、早朝か夕方以降に咲いているんですよ。夏は結構、開花する時刻が決まっている植物が多いんです。
 ツユクサだったら、自分たちが起きてくる時間にはもう咲いていますし、オシロイバナは夕方4時から咲き始めます。夕方6時ぐらいからカラスウリの白い花が咲き始めたりするので、この開花の時刻をテーマに観察すると、面白いものが夏はいっぱいあるかなと思いますね」

『まちなか 植物観察のススメ』

オオバコの時間差戦略!?

※鈴木さんの新しい本に、めしべとおしべを時間差で出すオオバコという草の話が載っていました。なぜ時間差で出すのか、教えてください。

「オオバコって夏に見ると花茎(かけい)が伸びているんですよ。シュッと縦に伸びて、その軸をよく見るといろんなものが付いているんですね。
 そもそも知っておかないといけないのは、オオバコってひとつの花の軸に花がひとつだけ咲いているんじゃなくて、小っちゃい花がいっぱい付いている、その軸のところにぷつぷつって大量に・・・だから花の集合体なんですよね、そもそもオオバコってね。

 その花の集合体がどう振る舞うかが面白くて、まずつぼみの状態のオオバコがあったとしたら、小っちゃいつぼみがいっぱいあるっていう意味ですね、要するに。そのつぼみが下のほうから咲き始めるんですよ。下のほうから咲き始める時に最初はめしべだけを出すんですね。めしべだけ下のほうからバーっと上に向かってどんどん出していくわけです。

 めしべだけを出すってことはメスの状態ですよね。1回目のメスの状態になる。そうしたら今度はまた下からおしべがどんどん出てくる。メスの状態がだんだんメスとオスが一緒にいる状態になって、最終的にオスだけの状態に変わっていくっていう、オスとメスのタイミングをずらすっていう方法があるんです。

写真協力:鈴木 純

 これはすごく巧妙で、オオバコは風に花粉を運ばせるタイプの植物なんですけど、もしも同じ花の中で、おしべとめしべを同じタイミングで出しちゃったら、自分のおしべから出る花粉が、自分のめしべにくっ付いちゃう可能性があるわけです。

 植物も結構、実はほかの株と受粉したいと思っているわけですよ。メスとオスのタイミングがずれていれば、たとえば初めは、めしべだけが出てきてメスの状態になっていれば、ほかの花から花粉が飛んでくるのを受け取るだけになるわけですね。そうすれば、自分の株の中では受粉しないですよね。

 次におしべが出てくると、オスの状態になりますよね。この時は自分の花粉をほかの株に運ぶだけの状態になるってわけなので、そのオスとメスの熟すタイミングをずらすことのメリットがそこにあるわけですね」

(編集部注:ほかにおしべとめしべを時間差で出す植物で、夏に観察しやすいのはキキョウだそうです。最初はおしべが出て、それがぺた〜となったら、次にめしべが出てくるそうですよ。花の中心だけが変わるのが面白いと、鈴木さんはおっしゃっていました)

写真協力:鈴木 純

夏は「つる性」植物が面白い

※新しい本に森の環境に欠かせないのが「つる性」の植物と書いてありました。それはどうしてなんですか?

「つる植物って基本的に自分では自立しないわけですよね。自分の力では立てない。だからほかの植物に寄りかかったり、絡みついたりして伸びていくわけですけど、そういう生き方をするってことは、森があった時に森のいちばん端っこを覆っていくように成長していくっていう意味なんですよ、自然界の中ではね。

 そうすると、よく『森のカーテン』なんて言うんですけど、森の端っこをつる植物が覆ってくれると、そのつる植物によって強風が吹いても森の中に風が入ってこなかったりとか、林内の環境が安定するって言われているんですよね。温度も湿度も適当な状況に保たれるというところで、林内の環境を安定させるために役立っていると言われています」

●つる性と言ってもいろんな巻き方があるんですよね。

「あります! 夏以降はとにかく、つる植物を観察するのがおすすめですね。街中だったらフェンスを見ればいいので、フェンスをひたすら見る。そうすると自分のつる本体が巻きついていくっていう方法もあれば、自分のつるの本体から別の巻きひげってやつをぴろぴろって出して、その巻きひげでペタペタとしがみつきながら登っていく、なんかロック・クライミングしているみたいな感じですよね。

 そういう感じで登っていくつる植物もあるし、あるいは巻きつかないで、巻きひげの先を吸盤みたいにして、その吸盤で壁にペタペタ張り付いて伸びていくっていうのがあったりとかして、これも様々なんですよ」

ヘクソカズラ
ヘクソカズラ

植物の魅力は、動かないこと!?

※初歩的な質問で恐縮なんですが、植物はなぜ「緑色」なんでしょう?

「これは植物は光合成して生きていく・・・これ、極めて大事な話なんですけど、私たちは移動しますよね。何かほかのものを食べたりするわけですよ。そういう生き方をしているわけですけど、植物は移動しない! その場所で生きていかないといけないっていうところで、太陽光を集めて、そこから生きるエネルギーを作り出せるっていう、そういう生き方をしているわけですよね。

 なので、とにかく光合成をすることが非常に大事な行為になるわけですけど、光を吸収する必要があるわけです。その時に役立つのが葉緑素、クロロフィルってやつですね。それが要するに緑色をしているということです。あの色は植物が光合成をしているんだなっていう色なので、葉っぱって緑色じゃないですか。だから葉っぱで光合成しているんだなって思えるわけですよね。

 そう思うと草の茎とかって緑色をしているじゃないですか。ああいうところにも実は葉緑素が入っていて、茎も光合成していると言われているです。なので、植物のどこが緑色なのかを見ると面白いかもしれないですね。意外といろんな発見があるかもしれない」

●鈴木さんをこんなに虜にしている植物の、いちばんの魅力ってなんでしょう?

「やっぱり(植物は)移動しないっていうところが、本当に面白いなって思っていますね。とにかく僕たちとは全く違うんですよね、生き方が。移動しないって僕たちからすると、非常にデメリットに感じるじゃないですか。今ここで生きてろって言われても困っちゃいますよね。だけど、植物は別にそれでいいんですよね。

 だから移動しないためのいろんな工夫があって・・・たとえば、移動しないで誰かに食べられちゃったら、どうするのかなって・・・植物には芽っていうのがあるんですよ。もし体の一部が食べられても、芽が残っていれば、芽からまた新しい葉っぱが出てくるんですよ。

 そもそも移動しなくても生きていられるようになっているから、そういうのを見ていると、僕たちはつい植物は移動できないから、みたいなことを言うけど、逆に植物側からするとお前たちはなんで移動してるんだと・・・大変じゃないか、移動するのは、っていうふうに思われても、しょうがないよねって思うわけですね。

 そうすると自分はどういう生き物なんだろうとか、そういう視点が出てくるわけですよ。常に僕は植物を見ているけど、植物側から何かを投げかけられているっていうような気がするわけですね。そこに僕は魅力を感じているんですよね」


INFORMATION

『まちなか 植物観察のススメ』

『まちなか 植物観察のススメ』

 鈴木さんが主催する大人気の観察会を漫画で再現してあるので、参加者になったような感覚で楽しく読めますよ。きょう教えてくださった葉っぱや花のことなどもわかりやすく解説。さらに街中で見られる樹木や草の図鑑も載っています。この本を持って、街中の植物観察に出かけましょう!
 小学館から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎小学館:https://www.shogakukan.co.jp/books/09311536

写真協力:鈴木 純

 鈴木さんが主催している街中での植物観察会は現在、年間講座のみとなっています。駅前でも30種ほどの植物を観察できるし、基本的には同じルートを巡って、季節によって変化する植物たちを観察するそうです。植物の変化に気づくと人生がより楽しくなるともおっしゃっていましたよ。
 鈴木さんの活動については、オフィシャルサイト「まちの植物はともだち」をご覧ください。

◎まちの植物はともだち:https://beyond-ecophobia.com

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