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旅、サーフィン、米づくり〜自然とつながるシンガーソングライター東田トモヒロ

2023/7/9 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、旅とサーフィンをこよなく愛するシンガーソングライター「東田トモヒロ」さんです。

 東田さんは1972年生まれ、熊本市在住。2003年にメジャーデビュー。旅とサーフィン、スノーボーディングをこよなく愛し、自然に寄り添った暮らしや、旅をモチーフにして生まれる曲と、オーガニックなサウンドが多くのファンを魅了しています。

 そんな東田さんは、いち早くエネルギーと食べ物の自給自足に取り組んでいるほか、福島県相馬市の保育園にお米や野菜を届ける活動もされています。

 そして6月7日にデビュー20周年、通算16作目となるアルバム『Rough Morning』を発表されました。「ラフ・モーニング」というタイトルは、東田さん曰く、英語にはない言葉だそうですが、ある日、ライヴが終わって、海のそばに車を止め、ライヴの余韻や疲れもあって、そのまま寝てしまい、朝を迎えた時に、なんとなく車の中がちらかっていることがあったそうです。

 そして曲を作り始めたら、メロディとともに思いついた「ラフ・モーニング」というフレーズを口ずさんだところ、その言葉がしっくりきたので、残すことにしたそうです。

 そんな東田さんに熊本での暮らしぶりなどうかがうほか、デビュー20周年を記念するオリジナル・アルバム『Rough Morning』から旅をテーマにした新曲もお届けします。

☆写真協力:東田トモヒロ

東田トモヒロさん

曲のアイデアは旅先で

※東田さんは旅をモチーフに曲作りをすることも多いそうですが、今回の20周年記念アルバムに収録されている曲も、旅で出会った景色や人からインスピレーションを得て作ったとか、そんな感じなんですか?

「そうなんですよ。だいたい自分の場合、スタジオとか自宅でギターを持って、さあ曲を作ろうっていうんじゃなくて、ふとアイデアとして思い浮かぶんですね。それがどういう時が多いかっていうと、移動している時が多いんですよ。

 車で移動していて、走っている時になんとなくメロディを思いついて、それでボイスレコーダーで、そのアイデアを録っておいて、あとで聴き返す時にピアノの前に座ったり、ギターを持ったりして、あの時思いついたメロディにはどんなコードが合うんだろうとか、そうやって作っていくんですよね。

 だからツアーの途中で曲を作って、ひとつのツアーが終わったら、なんか1曲アイデアが残っていて、その結晶がアルバムっていうか・・・今回のアルバムもそうやって作りましたね」

●旅先で見た景色とか出会った人とか、そういったところからインスピレーションを得ていらっしゃるんですね。

「まさにその通りです。 『Traveling』っていう曲は・・・よく覚えているのが四国で信号待ちしている時にメロディを思いついて・・・あ、これいいぞと思って、ちょうど旅の途中だったから『Traveling』っていうテーマで書いてみようと思って、 四国を旅している間に作りましたね、歌詞まで全部。それをよく覚えていますね」

●ヘぇ〜! 四国だったんですね。

「愛媛でどこかの信号待ちしている時に・・・そうそう(笑)」

(*放送ではここで「Traveling」を聴いていただきました)

みんなで田植え、チャリティ米

※東田さんは地元熊本で農家さんから田んぼや畑を借りて、4家族でシェアし、役割分担しながら、お米や作物を育てているそうです。毎年育て方などを勉強し、10年ほど続けているそうですよ。今年も田植えを行なったそうですが、イネの苗は手植えなんですか?

写真協力:東田トモヒロ

「もう今ほとんど使われなくなったんだけど、手押しの田植え機っていうのがあって、それはもうほとんどの農家の方が使っていないので、余っているんですよね。だから安く譲ってくださったり、あるいはくれたりする場合があるんですけど、それを使っているのと、もうひとつ別の場所は(田植えをする時に)毎年呼びかけるんですよ、ワークショップとして。30人ぐらい集まってくださったりします。

 そこはなんでそういうふうにしているかっていうと、手植えでやるんですよね。手で植える体験を子供たちとか、大人もやったことない人たちを募って、総勢30人から40人ぐらいで手で田植えをしています。

 で、しかもそこの手で植えた田んぼで収穫したお米は、チャリティ米にして、福島の南相馬の保育園に送っているんですね。南相馬はまだ、飼料米しか作れないということで、給食のお手伝いをできたらなと思って、それも10年続けているんですけど、その手植えのゾーンはチャリティ田んぼにしていますね」

●九州の季節の野菜や果物とかも届けていらっしゃるんですよね? 

「それも一環で『チェンジ・ザ・ワールド』っていう活動をやっているんです」

●その保育園の子供たちに、お米や野菜を送ろうと思ったきっかけは、なにかあったんですか? 

「そこの保育園は原発の事故のあと、地域のものがほとんど食べられなくなって、僕らは安全な食べ物を食べられているんだけど、それで困っているというか必要とされているところに、なんか手伝いできたらなということで、東日本大震災のあと、1年後からそういう活動を始めたんですよね」

●そうだったんですね。

「そうそう、それを今でもお米という形で、毎年お米を作って送ることを続けています」

写真協力:東田トモヒロ

自然とつながる安心感

※今年、野菜は何を育てているんですか?

「もうね、野菜は諦めました(笑)」

●あれ!? どうしちゃったんですか?(笑)

「 あのね、野菜はやっぱり、毎日そばにいる人じゃないと無理かも・・・。だから、野菜はやめて果物とお米だけにしました! もう本当にね、大変ですね! 何でもかんでもやろうとすると・・・。やっぱり本業は音楽だから(笑)、無理しないでできることをやらなきゃなと思ったんですよ」

●果物とお米にしたんですね。

「果物とお米だったら、そんなに毎日見ていなくても大丈夫じゃん。オクラとか一回植えて、旅から帰ってくると、もうなんだろ、あれ・・・すっげえ巨大なハサミみたくでかくなって、もう固くて食べられないみたいになっちゃうから・・・」

●そうですね。お世話が大変ですよね(笑)。

「だから果物だったら、この時期! って決まっているじゃないですか。そこだけいれば、美味しく食べられるし、田植えも稲刈りもそんな毎日やるもんじゃないから・・・だから田んぼは意外とミュージシャン向きなんですよ、やったほうがいいと思う、ミュージシャンみんな」

写真協力:東田トモヒロ

●食べるものを自分で育てるとか、自給自足に近い生活を送るっていうのは、なにか理由があるんですか?

「いや、特に理由はないんですけど、単純に楽しいっていうのと、お米もそれまで長いこと食べてきたけど、どうやって作られているかって実際やってみるまで知らなかったから・・・。で、やってみたら、なかなか言葉では、ロジックでは説明しづらい、安心感っていうか、そういうものが得られるんですよね。

 自分が大地とつながって存在しているというか、それはすごくサーフィンと似ていて、海に入る時っていうのは本当に自分の身ひとつで、サーフボードはもちろんあるんですけど、すごくシンプルな形で自然とつながれるじゃないですか。

 太陽があって海があって砂浜があって、自分がこの地球というか自然の中に存在しているとすごく実感できるんですよ。田んぼとか、それこそ果樹を置いている山の一部、そういうところにいるだけで、自分がちゃんと自然とつながった存在としてあるっていう、それはすごく安心する要素なんですよね。

 自分を肯定できるというか、自分を確認できるし、あと静かに自分に自信が持てるというか、なんかそんな気がするんですよね。だからこれはやっぱり自分のために続けるべきだなというふうに思って、きっかけは些細な、ちょっとやってみたいなくらいのことだったんだけど、サーフィンと似ていて、気づけば自分のライフワークというか、欠かせない活動のひとつになっていますね」

(編集部注:東田さんが育てている果物は、この時期はプラムがたくさん成るそうですが、野鳥にも食べられてしまうので、どっちが先に採るか、鳥と格闘しているそうですよ。またこれからは、ブルーベリーの時期になるので、朝、実を採って食べる新鮮なブルーベリーの味は最高だとおっしゃっていました)

ソーラー発電は音がいい!?

※熊本のご自宅でソーラーによる自家発電を行なっているそうですが、なにかきっかけとかあったんですか?

写真協力:東田トモヒロ

「そういう暮らしを、オフグリッドっていう暮らしをしている人がいるっていうのは長年知っていたんですね。それこそ完全に自給自足しているというか、僕の友達にもいるんですよね。煮炊きは全部薪でやって、電気は僕と同じようにソーラー発電で蓄電して、電気をバッテリーから取って、それを使って山の水を引いて暮らしている、その人は完全にオフグリッドで阿蘇のほうに暮らしているんですけど、さすがに(僕は)そこまではできないなと思って・・・。

 でも自分の暮らしの中で、一部そういうスタイルでやれたらいいかもな、自分にはそのぐらいでいいかもなというか、それで電力の一部を自分で賄おうと思って、そういう暮らしをしている人にアドバイスをしてもらったんです。

写真協力:東田トモヒロ

 それを導入して、今自分が使っているスタジオが、小屋みたいなところがあって、そこにドラムセットとかアンプとかスタジオの機材を全部置いているんですが、そこの電気と、もうひと部屋ぐらいは全部ソーラーで賄っていて、スタジオは完全オフグリッドですね。

 なので、今回のアルバムも太陽の光でできた電力で作りましたね。6枚の(ソーラー)パネルがあって、バッテリーはゴルフ場のカートで使っているやつを4台置いていて、1200ワットは発電しているんですよ。十分にレコーディング機材はそれで動くんですよね」

●雨とか曇りの日はどうされているんですか?

「さすがです! そうなんです。だから曇りの日が3日続くと、さすがにバッテリーに負荷がかかっちゃうから、4日目はもう使わないようにしているんだけど、だいたい日本は4日目に晴れるんですよね~、いや〜わかんないけど、多分、多分ね(笑)」

写真協力:東田トモヒロ

●スタッフから聞いたんですけど、私がパーソナリティーになる前に、この番組にシアターブルックの佐藤タイジさんにご出演いただいた時に・・・

「あー、タイジさん!」

●ソーラー発電の電気で録音すると、音が良くなるっておっしゃっていたみたいなんですけど、それは東田さんもそう感じることはありますか?

「それはわかんないですけど(笑)、あ〜、タイジさん、多分メンタルから入っていると思う(笑)、これは音がいいぞ!って。でも確かに彼が言っていることも一理あって、バッテリーから割とロスがなく、発電した場所から距離がほとんどないから、そこでロスが生まれずっていうのは聞いたことはあります。

 だから(音が)ピュアだっていうふうに言っている人がいたのは覚えていますね。あとノイズが少ないとかね。そういう意味では、もしかしたらいいのかもしんないけど、エビデンスが(笑)、佐藤タイジの言っていることのソースとエビデンスがほしい(笑)」

スリランカでサーフ&ライヴ!

※東田さんのナチュラルなライフ・スタイルは、やはり音楽にも現れていると思います。その辺は意識されていますか?

「そこをなるべく意識しないように音楽に落とし込めたらいいなと思っているんですよね。意識しないでも、やっぱ出ちゃうでしょうね、音には。

 例えばジャック・ジョンソンとか、彼はそこまで意識せずとも、やっぱハワイの空気感って出ているじゃないですか。きっとノラ・ジョーンズだったらノラ・ジョーンズの暮らしの、ニューヨークなのかもわかんないけど、ちょっと都会的な雰囲気とかね。

 だから多分、自分も普段の暮らしとか、旅をしている時に感じていること、見聞きしていることっていうのは、やっぱり知らず知らずのうちに出るっていうのがいいんだろうなと思って・・・音楽と向き合う時はかえって意識しないようにしていますね。そしたらちょうどいい塩梅になるんじゃないかなというか・・・」

東田トモヒロさん

●デビュー20周年のアニヴァーサリー・イヤーの最後12月に、インド洋に浮かぶ美しい島、スリランカでライヴを行なうんですよね? なぜまたスリランカだったのですか?

「そうなんですよ。これね、スリランカでライヴをやります! っていうと、そういう名前のカレー屋さんでやるんですか? って言われる時もあるんですけど(笑)、本当にスリランカでやるんですよ!」

●あの、スリランカですよね?

「あのスリランカですね。これ、なんでかって言うと、一度行ったことあるんです、実は。プロモーション・ビデオの撮影で、『LIFE MUSIC』っていう曲の・・・それ今YouTubeにはもう(ビデオは)なくなっちゃっているんですけど、もう一回スリランカを旅する映像を撮りたいなっていうのがあるのと、どこかで(ライヴを)やりたいって思った時に、記念の年だし、そういう記念になるようなところ、例えば、憧れているライヴ会場とか、そういうのもいいなと思ったんだけど、なんかそれってありきたりだなと思って・・・。

 やっぱちょっと面白いことやりたいと思って、サーフポイントのすぐそばで(ライヴを)やりたいな~、しかも海外でやったら面白いんじゃないかなっていうのが(笑)、なぜって言われたら、たぶん面白そうだからとしか答えようがないですけど・・・」

●サーフトリップの聖地のひとつであるスリランカには、サーフィンをやりに行くんですか? ライヴをやりに行くんですか?(笑)

「両方ですね! だから日本から行きたいっていう方とは(スリランカに)一緒に行って、サーフィンをやったことない方がもしいらっしゃったら、僕も友達と一緒にサーフレッスンしようかなと思っているし・・・」

●えっ! すごい! 贅沢ですね~。

「ライヴは一回だけなので、あとは全部多分サーフィンしているんで、一緒に波乗りしましょうっていうツアーですね」

●もうサーフィンツアーですね(笑)

「ですね!」

(*ここで「Everything」を聴いていただきました)

☆この他の東田トモヒロさんのトークもご覧下さい


INFORMATION

『Rough Morning』

『Rough Morning』

 東田さんのデビュー20周年を記念するオリジナルアルバム『Rough Morning』にはきょうお届けした「Traveling」と「Everything」を含め、全部で7曲収録されています。ソーラー発電の電力を使って、自宅スタジオでレコーディングした曲はいい意味で力が抜けていて、聴いていると、とてもリラックスできます。旅気分満載のナチュラルなサウンドをぜひお楽しみください。お買い求めは東田さんのオフィシャルサイトから、どうぞ。

 また、東田さんは現在、『Rough Morning』リリース・ツアーを行なっていて、7月14日から北海道ツアーに突入します。

 そして、アニヴァーサリー・イヤーのファイナルとして12月6日にスリランカでライヴを行なうことが決まっています。

 12月5日から4泊6日のツアーが組まれていて、滞在は、ビーチとサーフィンで有名なスリランカの南海岸「ミリッサ」のホテルだそうです。旅行代金など含め、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎東田トモヒロ・オフィシャルサイト:http://live.higashidatomohiro.jp

体が整う 薬膳×発酵の知恵~いつもの食材で健康に

2023/7/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、薬膳・発酵料理研究家の「山田奈美(やまだなみ)」さんです。

 編集者、そしてライターとして活躍されていた山田さんは「東京薬膳研究所」の「武 凜子(たけ・りんこ)」さんと出会い、薬膳に共感し、武さんからマン・ツー・マンで基本を学びます。その後、北京中医薬大学の日本校で本格的に薬膳を勉強し、資格を取得。そして、おばあちゃんやお母さんから教えてもらった発酵食の知識と、薬膳を組み合わせた、体に優しい季節の食を伝える活動を行なっていて、幅広い世代から支持されています。

 また「食べごと研究所」を主宰され、神奈川県葉山町の古民家をアトリエに、和食薬膳教室や発酵教室などを開催されています。

 そんな山田さんが先頃、『いつもの食材と調味料で 体が整うごはん』という本を出されました。

 きょうは、その本をもとに、薬膳と発酵のふたつの知恵を組み合わせた、手軽で、なにより体にいいお料理や、夏野菜のおすすめレシピなどうかがいます。

☆写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社

写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社

薬膳のもと、陰陽五行理論

※この本には薬膳と発酵食品を組み合わせたレシピなどが載っています。改めてなんですが、薬膳とはなにか教えていただけますか。

「薬膳というとちょっと難しいイメージがあって、漢方薬の生薬を使ったようなお料理じゃないかっていうイメージがあると思うんですけど、実際は普段使っているような、身近な食材ひとつひとつにも働きがちゃんとあるので・・・全部覚えるのは難しいんですけど、体を温めるとか冷やすとか血の巡りをよくするとか、そういう働きをなんとなく踏まえて、毎日の食べ物で健康を維持するっていうようなものが薬膳になります。

 難しいことは何もないですね。体に入ってきて、影響を与えない食べ物はひとつもないので・・・やっぱり自分の体質を知るのが大事になってくるんですけどね。その体質とか季節に合った食べ方をしていくと、本当に病気を防ぐことができると思います」

写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社

●薬膳のもとになっている理論があるんですよね?

「そうですね。ちょっと難しいんですけど、陰陽五行理論(いんようごぎょうりろん)というものがあります。陰陽論と五行論が組み合わさったものなんですけれども、古代中国に生まれた哲学のようなものなんです。

 陰陽論は、ちょっと聞いたことがあるかもしれないんですね。陰がちょっと冷たいとか暗いとか水とか、下に下がるようなエネルギーとか、そういうものです。陽は明るいとか暖かいとか、太陽のような・・・そういうふたつの相反するエネルギーを、陰と陽とに分けているのが陰陽論ですね。すべての食べ物も、宇宙にあるすべてのものも、この陰と陽に分けているんですね。それが陰陽論になります。

 で、五行論。五行は、木火土金水(もくかどこんすい)って言うんですけど、木・火・土・金・水という5つ元素みたいなものを言います。そしてこの“行く”っていう字は、巡るとか循環するっていう意味なので、5つの元素が巡ることによって、あらゆるものが生まれたり、変化していくのが、五行論になります」

『いつもの食材と調味料で 体が整うごはん』

陰陽五行理論〜五味・五性

※食物も「五行」に分類されるということですが、本に、五つの味と書く「五味(ごみ)」のことが載っていました。体の中に入ってきたときの働きも含めて、ご説明いただけますか。

「五味というのは酸味・苦味・甘味・辛味、あと塩辛い味の鹹味(かんみ)と言うんですけど、その5つが五味と言います。それぞれ五臓と密接に関係していて、酸味のものは肝臓の働きを補うというか、整えるような働きを持っていて、苦味は心臓、甘みは脾胃(ひい)と言って胃腸ですね。

 で、辛味は肺とか大腸の働きにつながっています。鹹味、塩辛い味は腎臓とか膀胱につながっていると言われていますので、それぞれの味を食べることによって五臓を補うことができると考えるのが、五行論の五味ですね」

●つながっているんですね〜。5つの性質と書く「五性(ごせい)」というのも、
山田さんの本に載っていましたね。

「これは食べ物を5つの、温めるとか冷やすとかっていう性質に分けたものなんですね。五性は、熱・温・平・涼・寒と言って、熱性・温性・平性・涼性・寒性・・・平性というのは、温めも冷やしもしない中間の性質です。

 涼性はちょっと冷やす、寒性は寒いのでかなり冷やすという性質なんですけど、食べ物によって、冷やすものだったり、温めるものだったりというのがありますので、自分が例えば 冷え性だなと思ったら、できるだけ温めるものを摂っていくと、冷え体質も少しずつ改善されていくことになります」

消化を助ける発酵食品

写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社

※薬膳の知恵と、お味噌やお醤油などの発酵調味料を組み合わせることで、どんなメリットや効果が生まれるのでしょうか?

「発酵調味料のメリットとしては、消化がすごく良くなるってことが、まず第一にあげられますね。日本人は、基本的には消化力が弱い人がとても多いんですね、胃腸が弱い人がね。胃はどうしても湿度に弱い、水分に弱いんです。日本は海に囲まれていて、木も多いし、川も多いので、どうしても湿度が高い環境になって、そこに(日本人は)暮らしているので、胃が弱くなりやすいんですね。

 大陸の乾燥した所で育っている、中国とかアメリカの人たちと比べると、体温も低いですし、胃の働きがやっぱり弱いので・・・向こうの人たちは本当にガツガツ食べても大丈夫なんですが、日本人は割と胃を壊しやすいんですよね。ちょっと限度を超えるとね。
 胃腸が弱いので、それを補ってくれるのが発酵食品になります。発酵食品をちょっとプラスしてあげるだけで、消化を助けてくれるっていう感じになります」

●本当に日本人の体質に合っているんですね。

「そうですね。和食は本当に発酵調味料をいっぱい使うものが多いし、日本はもともと発酵文化なので、やっぱり日本人の胃腸の弱さを補うために、昔から使われてきたんじゃないかなと思いますね」

●そうだったんですね〜。薬膳の働きと発酵調味料を組み合わせる時の、なにかコツみたいなものはありますか?

「できれば、全部じゃなくてもいいんですけど、ちょっと事前に漬け込んでおくとより消化が良くなりますね。お肉類ですね・・・特にタンパク質は消化に時間がかかるものなので、お肉とかお魚もそうですけど、少し10分とか15分でもいいので、塩麹とか味噌に漬けるとかね。そういうのに漬けてから加熱してあげると、より消化は良くなります」

血を巡らす料理〜ナスを皮ごと!?

●山田さんの新しい本『いつもの食材と調味料で 体が整うごはん』に、こんな不調を感じている時は、全身が冷えているから体を温める料理がいいですよとか、疲れやすくて元気がない時は、気を補う料理がおすすめですよという、そんなページがありました。

「不調から見るあなたのタイプは?」というふうに、いろんな設問が載っているので、私もやってみたんです。私は手足が冷えやすいとか、目の下にクマができやすいとか、肩こりがあるということで、血を巡らす料理がいいですよ、と出ていたんですけれども、これからの季節、夏場ですと、どんなお料理がおすすめですか?

「そうですね。血を巡らすのはやっぱり女性にはすごく必要で、血の滞りやすい冷えている人が多いですね。そうすると血の巡りが悪くなりやすいので、そういう人には血を巡らす料理がとてもいいと思います。

 あと、温める料理もいいと思いますので、それをミックスしていくといいんです。例えば、夏の血を巡らす(食材)だと、意外かもしれないんですが、ナスはいいですね。血を巡らします。でもちょっと冷やすんですよ」

●冷やすイメージがありますよね。

「ナスはできるだけ皮ごと、皮の紫色のところに一応、血を巡らすような働きとかがありますので、皮ごと食べていただいて、プラス薬味をいっぱい入れてあげるといいですね。だから焼きナスにしたりとか、蒸しナスにしてショウガとかシソとかをたっぷりのっけて、しょうが醤油とかで食べてあげるとか・・・簡単ですがいいと思います」

●早速、ナスを買って帰ります(笑)。夏は外が暑いですけど、電車とかオフィスは寒いじゃないですか。冷房で体調を崩しちゃうこともあると思うんですけど、そういう時はどういうレシピがいいですか?

「やっぱり自律神経がバランスを崩しちゃうことが多いんですよね、寒暖差があると・・・。その時、自律神経は肝臓と考えるんですね、中医学(ちゅういがく)だと。肝が神経を、自律神経を担うので、肝臓にいいのは緑のものとか酸味のものがいいと言われています。

 例えば、緑のツルムラサキとか、夏だったらモロヘイヤとか、ゴーヤもいいですよね。そういう緑のものにちょっと酢の物の酸味をプラスしてあげると、自律神経を補う肝の働きを助けることができると思いますので、いいと思います」

和食の基本「さしすせそ」

小尾ちゃんが、山田さんの本に載っているレシピをもとに作った 「納豆と青梗菜、牛肉のオイスター炒め」。
小尾ちゃんが、山田さんの本に載っているレシピをもとに作った
「納豆と青梗菜、牛肉のオイスター炒め」。
ご主人がご飯をおかわりするほど、美味しくできたそうです。

※私は去年結婚して、毎日、夫のために献立を考えて夕飯を作るようになったんですけど、主婦の知恵として、この発酵調味料さえ使えば大丈夫、というようなコツがあれば、教えていただけますか。

「和食だと『さしすせそ』の基本の調味料がほとんど発酵食品になります。『さ』は昔は砂糖もみりんだったと言われていますので、みりん、酢、醤油、味噌ですよね。その基本の調味料を毎日使って、(みなさん毎日)だいたい使うと思うんですけど、そういうのを使っていれば、基本的には発酵調味料は摂れていると思います。あとそこにプラスして塩麹とか醤油麹とかがあると、より料理の幅が広がるっていう感じがしますね」

●山田さんの本を読んでいて、塩麹がいろんなレシピに使われているなっていう印象を持ったんですけど、やはり麹はいいですか?

「麹は日本の国菌(くにきん)って言われているぐらい日本ならではの菌だと思うので、(日本人の)体にも合っていると思いますね。なので、麹でいろんなものが作れるのでとてもいいと思います」

●具体的に麹を使った料理でいうと、なにかありますか?

「塩麴ですか? 塩麹ね・・・いろいろ使っているので・・・」

●塩麹をどう使うと美味しいよ、とか、おすすめだよ、とかあれば、ぜひ。

「鶏肉とかにちょっと塩麹をつけて、それで煮込んでもいいし、唐揚げとかにしちゃっても、とても柔らかくなって美味しいですね。煮物にするときは醤油麹にしてあげると、醤油系の煮物にはとても合いますので、いいと思いますね」

●やっぱり夏には夏の、秋には秋の、旬の食材をお料理に取り入れるのがいいですよね?

「基本そうですね」

●夏野菜でいうとおすすめは?

「おすすめは、そうですね・・・これから暑くなってくると、あまり使わない人も多いんですけど、冬瓜(とうがん)とかね。薬膳ではとてもいい食材だと考えられていて、(冬瓜は)水を出してくれるんですよね 。

 この時期、だんだん湿度が高くなると、体の中に水が溜まりやすいんだけど、水が溜まってくると冷えるし、肩こりになったり頭痛がしたりとか、いろんな不調につながっていくので、とにかく水は綺麗に出してあげるのが大事なので、その時に冬瓜とかトウモロコシとか、そういうのがとてもいいです。

写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社
冬瓜のエスニックスープ

 私の新しい本だと、冬瓜のエスニックスープが載っているんですけど、冬瓜も体を冷やすので、ちょっとエスニック風の黒酢とかナンプラーとかショウガとか、そういうものを入れて、温める食材をプラスして、スープにしてあげると、とてもいいと思います」

(編集部注:山田さんはご自宅でお醤油や米麹、納豆やオイスターソース、そしてお味噌などもご自分で作っていらっしゃいます。初心者でも作れる発酵調味料をお聞きしたら、塩麹と醤油麹を勧めてくださいました)

常に幸せを感じながら

※山田さんのお料理は「旬の食材をシンプルに調理」が基本なんですよね?

「そうですね。旬の食材で美味しい野菜だと、本当に何もしなくてもとても美味しいですね。ただ茹でただけとかでも美味しいので、できるだけ手をかけないっていうか、味を濃くしないで素材の味が出るようにすることを心がけています」

●無意識にあれ食べたいなって思う時があったら、それは体がそれを欲しているっていうことですか?

「そういうふうに感じていただけるといいと思います。あまりわからない人も多いんですけど、欲していることを感じられるのはすごくいいことですね。
 甘いものを食べたいなっていう時は、けっこう疲れている時だと思うので、それに従って、お砂糖の多いものじゃなくて、穀物とか芋類とか小豆とか、そういう甘みのものを摂っていくといいと思いますね。体の欲しているものを食べるのは、基本的にとてもいいことだと思います」

●体を整えるにはやっぱり体の声を聞いて、必要なものを摂っていくことが大事になりますか?

「そうですね。とても大事だと思います。あとは季節に合うものですね」

●旬のものとか?

「そうですね」

写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社

●山田さんは1日の中で、幸せだなって思う時は、どんな時ですか?

「なんかもう、常に幸せっていうかなぁ~(笑)。あまり嫌だなって思う瞬間がないので・・・」

●素晴らしいですね~!

「好きなことをやっているからかも知れないんですけど、基本的に日々毎日、常に幸せを感じられていると思っています(笑)」


INFORMATION

『いつもの食材と調味料で 体が整うごはん』

『いつもの食材と調味料で 体が整うごはん』

 山田さんの新しい本、おすすめです! お話にあった陰陽五行理論について、わかりやすく載っていますよ。そして、普段の食材と発酵食品を組み合わせた手軽で美味しいレシピが、おかず、汁物、ご飯と麺、そして保存食に分けられ、全部で84のレシピが、豊富な写真とともに紹介。どれも美味しいそうで、作りたくなっちゃいますよ。薬膳と発酵の力を知る一冊、ぜひあなたのおうちにも常備してください。ナツメ社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎ナツメ社:https://www.natsume.co.jp/books/18012

写真協力:山田奈美、福井裕子、ナツメ社

 山田さんが葉山のアトリエで行なっている「和食薬膳教室」は現在は、4月スタートの年間コースとなっているそうです。空きがあれば、体験で参加することもできるとのこと。ほかの教室のことなども含め、詳しくは「食べごと研究所」のオフィシャルサイトを見てください。

◎食べごと研究所:http://tabegoto.com

地球一周の大冒険「Globe 40」! MILAIの激闘に迫る!

2023/6/25 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、セーリング・チーム「MILAI」のスキッパー「鈴木晶友(まさとも)」さんです。

 稲毛ヨットハーバーのジュニアヨット教室に参加したことがある鈴木さんは、ヨットで地球を一周したい、そんな夢を抱き、なんのツテもなく、単身フランスに渡り、地道な活動を経て、ついにはセーリング・チーム「MILAI」を結成します。

 このチームはスキッパーの鈴木さんのほかに、セーリング・パートナーとして「中川絋司(なかがわ・こうじ)」さん、そしてフランス人の女性ふたり「エステル」さんと「アン」さん、イタリア人の「アンドレア」さんの、5人から成る国際チームなんです。

写真協力:Team MILAI

 そんなセーリング・チーム「MILAI」が挑戦したのが、初開催となった「Globe 40(グローブ・フォーティー)」。全長12メートルのヨットにふたりで乗って、地球を一周する外洋ヨットレースなんです。

 2022年6月にモロッコのタンジェをスタート、途中7箇所の港に寄り、8つのレグ(区間)を、およそ9ヶ月かけて、ゴールのフランス・ロリアンに戻る大冒険です。総距離はおよそ55,000キロと想像を絶します。

 今週は、そんな壮大なレースに挑戦し、見事完走を果たしたセーリング・チーム「MILAI」のスキッパー、鈴木晶友さんをお迎えし、「Globe 40」の激闘に迫ります。

☆写真協力:Team MILAI

写真協力:Team MILAI

第1レグはトップ! 第2レグは嵐!?

前回のご出演がちょうど1年前の6月ということで、その時はリモートでお話をうかがったんですけれども、今回はこうしてスタジオにお越しいただきました。ありがとうございます!

「初めまして! 今さらになりますが、よろしくお願いします」

●いや〜やっとお会いできました! よろしくお願いいたします。帰国後、いろいろ報告会とかも開催されたそうですけれども、いかがでした?

「思っている以上にみなさんが歓迎してくださって、やっと帰ってきてくれたねって言っていただきました」

●私たちもですよ~。

「ありがとうございます。ベイエフエムのみなさんにも歓迎していただいて、嬉しいです。 本当に自分が帰ってこられたなっていうのを嬉しく思います」

鈴木晶友さん

●鈴木さんがチームを組んで挑戦された、地球を一周する外洋ヨットレース「Globe 40」を振り返っていきたいと思うんですけれども、結果としては当初の目標だった完走を見事果たして、総合3位でフィニッシュしました。本当にお疲れ様でした。

「ありがとうございました。思っていた以上に地球は大きかったですね(笑)。でも本当に3位でフィニッシュすることができて、ただただ嬉しいです。

 もちろんもっといい成績を狙えたかもしれないんですけれども、私たちは地球一周を達成するということが目標だったので、今回しっかりと、こうやってフィニッシュできて、みなさんにいい報告ができて、本当に嬉しいですね」

●第1レグ、これはモロッコのタンジェからアフリカのカーボベルまでの区間でしたけれども、トップでゴールされたんですよね!

「そうなんですよ」

●これは思い通りのレースでしたか?

「手応えよくて最初からよかったですね。カーボベルまではだいたい貿易風に乗るまでの海域になるので、基本的に追っ手の風で走っていけるんですね。距離も3,000キロなかったかな、2,500キロぐらいだったので、最初の第1レグとしては、慣らし運転ってわけじゃないですけど、無理しないで行こうと思っていたんです。すごくいい走りができたので、本当にいい第1レグを走ることができました」

●幸先のいいスタートでしたね。

「そうですね」

●続いて第2レグは、カーボベルデからモーリシャスまでのレースでした。ここが今回の大会でいちばん期間が長いんですよね?

「そうですね。全体で39日間かけて、アフリカ大陸をぐるっとまわって、モーリシャスまで行きました」

●1ヶ月以上ということですね。

「海の上で1ヶ月以上ですね」

●これはやっぱり難しいコースでもあったんですか?

「8月だったので、まだ南半球は真冬なんですよ。その真冬にアフリカ大陸の下をぐるっとまわるのは、結構大変なコースだったので、すごい嵐もありましたし、あと潮の流れも速くて、すごく難しくて、きついレグでしたね」

鈴木晶友さん

●で、この第2レグでトラブルに見舞われたんですよね。

「早速ね(苦笑)」

●何が起こってしまったんですか?

「南アフリカのケープターンをまわる直前に嵐にあいまして、その時に、ヨットの下にぶら下がっている、船のバランスを保つための、2トンの鉛が付いている『キール』っていう重りが、船の揺れでちょっと動き出してしまったので、急遽ケープタウンに入港して確認をすることを決めました」

●その「キール」が機能しないと、どうなるんですか?

「転覆しちゃうんですよ」

●えっ~~〜!

「キールが機能しないで、下手したら落ちてしまうと、もう船はバランスを失って
転覆してしまうので、いちばん大事なパーツなんですね」

●それで、どうやってリカバーしたんですか?

「最初にキールが動き出してしまって、ちょっと危ないなと・・・ただこのまま走ることもできるかもしれないってことだったんですけど、まだ地球一周、先が長いので・・・」

●そうですよね。

「とりあえずここで1回確認をしようということで、一時的に緊急入港して確認をして、応急処置をして、またスタートしたっていう感じですね。2日間ケープタウンにいました」

第6レグで、最大のアクシデント!?

*第2レグでアクシデントに見舞われたMILAIでしたが、レースに復帰後、本来の実力を発揮し、ニュージーランドのオークランドからタヒチのパペーテまでの第4レグと、パペーテからアルゼンチンのウシュアイアまでの第5レグは再びトップでゴールしたんです。

写真協力:Team MILAI

 これは、2年かけて、セーリング・パートナーたちとの練習や、船の整備も含めて、いい準備ができていたから、ということなんですが・・・

 今回の「Globe 40」で最大の危機がやってくる、ウシュアイアからブラジルのレシフェまでの第6レグです。今年1月にスタートして、アルゼンチン沖でまたもやアクシデントに見舞われてしまうんですよね?

「スタートして4日目にアルゼンチンの沖で、未確認浮遊物体に衝突しました。これは、本当に何にぶつかったかわからないです。 生き物なのか、コンテナなのか、木なのか、わからないですね。

 明け方に急に船が(何かと)衝突して、船が止まってしまいました。まずは船の状態を確認しようということで、全部確認をしたらかなりの損傷だったので、一度レースから離脱しようということを決めました」

●ケガとかは、なかったんですか?

「ケガは大丈夫でした。実は私は寝ていたんです。寝ていた時に急な衝撃で起きて、船の中はガラスファイバーが壊れる臭いというか・・・」

●じゃあ、また再び修理をしてっていうことですよね?

「そうです。いちばん近い岸がおよそ1,000キロの距離で、マル・デル・プラタ(*)という港があることがわかったので、4日間かけて、まずはマル・デル・プラタを目指すことにしました。とはいっても、船は結構損傷が激しかったんですね。4日間、船の修理をしながら陸に向かっていましたね」
(*アルゼンチンのブエノスアイレスにある港湾都市)

●壊れた状態で4日間過ごしていたんですね。

「そうなんです」

●不安もありましたよね?

「またもや、キールなんです」

●またですかー!?

「キールがぶつかってしまったので、船から取れて落ちる状態に近くなってしまったんですね。なので、船の中でできる補強をしながら、船のまわりにコンビニとかないから、船にあるものだけを使って修理をしながら岸を目指しました」

写真協力:Team MILAI

●修理をして、またレース続けようっていう決断をされたわけじゃないですか。そう簡単じゃないと思うんですけど・・・。

「まずは入港したマル・デル・プラタに、ヨット・レース用のヨットを修理する設備がなかったんですね。なので、その設備を作るところを探したり、船を乗せる台を作ったり、人を見つけたり・・・で、全部で1か月以上かけて船を直すことになったんです。

 自分が知らないところで、本当にここで船を直せるのかなっていう・・・直したあとに、またあと1万2000キロも走んなきゃいけないんですよ。 大丈夫かなっていう決断をするのは難しかったですね」

●もうやめようって思うことはなかったですか? 諦めちゃおうって・・・。

「100回ぐらい思ったかも(笑)」

●そうですよね~。

「やめて、それこそ貨物船に船を乗せて、フランスに帰るっていうことも、本当に何回も考えたんです。でもヨットの成績は置いといて、レースの成績は置いといて、自分たちの目標は世界一周を達成することなので、その可能性を探り続けて、これならしっかり船を直してフランスまで帰れるなっていうのを、自分で確認して修理することを決めました」

写真協力:Team MILAI

●そういう思いが支えになったわけですね。

「あとね、応援してくださる方々がたくさん、本当心配してくださって、エールだけでもなくて、いろいろアドバイスをくれたりとか、ここに聞いたらいいんじゃないかとか・・・やっぱり日本の方々からの、そういったサポートもすごく嬉しかったですね」

(編集部注:鈴木さんたちはおよそ1ヶ月かけて、船を修理したわけですが、当然その間もレースは続いていて、結果、鈴木さんたちは第6レグから第8レグまでは「リタイア扱い」になったんです。

 それでも完走し、総合3位になったのは、鈴木さんの説明によると、「Globe 40」は地球を一周するレースなので、設定したコースを通ってゴールのフランス・ロリアンに戻ってくれば、完走扱いになるとのこと。

 また、8つのレグのうち、第1レグから第5レグまでの間に3回トップになり、その時点で総合2位だった、つまり貯金があったので、後半3つのレグをリタイアしても、ロリアンに戻ってきたので、総合3位と認められたそうです)

楽しいセーリング、そして喜ぶ顔

※再スタートを切って、ロリアンまでの航海は、気持ち的にはどうでしたか? レースというよりは、外洋の航海を楽しむ感じになったんじゃないですか?

「途中で、それこそちょっとルアーを作って釣りをしてみたりとか・・・もちろんレースじゃないですか。今回はレースではあるけれども、ほかのレース艇はいなくて、無事にフランスに帰ることが大切なので、風がない時はそうやって少し、自分でルアーを作って(海に)流してみたりとか・・・釣れなかったですけどね(笑)」

●でもちょっと(航海を)楽しむ余裕みたいなものもありましたよね?

「初めて! 余裕を持ったセーリングができたっていうのは、本当に初めてでしたね。いつもやっぱりライバル艇と1分1秒を競って、少しでも早く走んなきゃいけないっていうのがあったんですけど、今回は無理せずに、無理しすぎずにフランスに帰ることが第一目的だったので、少し気持ち的な余裕もあって楽しかったですね」

●船の上で出会った、忘れられないシーンはありますか?

「いちばん印象に残っているのは・・・やっぱり生き物が世界一周、地球を一周してく上でたくさんいるんですよ。たとえば、鳥。僕はそんなに鳥に興味はなかったんです、正直に言うと・・・。

 でも地球を一周していく中で、鳥の種類、大きさ、色、性格が移動していくごとにどんどん変わっていくんですよ。きょうの鳥はちょっと色が変わったなとか、なんかきょうは種類が変わったなとか・・・それを地球の上を移動しながら、その変化を見てこられたのが、僕の中で、すごくいいもの見たなって思いましたね」

●ある意味忘れられないレースになりましたね。楽しめたレースというか・・・。

「はい、最後の大西洋、フランスまでは、本当に楽しいセーリングでした」

写真協力:Team MILAI

●最終的には当初の予定よりは1カ月遅れになりましたけれども、最終ゴールのフランス・ロリアンに無事に戻ってこられて、その時のお気持ちはどうでした?

「ただただ嬉しかったですよ。僕ら船の上で無線をいつもオンにしているんですね。船同士、走るための、話すための無線をオンにしているんですけれど、フランスに近づいてきて、久しぶりに無線からフランス語が聞こえてきた時に、あっ、帰ってきたんだなっていうのを感じましたね。

 やっぱり世界一周していると、その国の言語なんですよね、無線が。なので、久しぶりにフランス語を聞いて、あっ、本当に帰ってきたな、いよいよだなって思いましたし、フィニッシュ・ラインが見えた時に、お迎えの人たちがボートで来てくれて、すごく嬉しかったですね」

●奥様も喜ばれたんじゃないですか?

「ねっ! 本当にみんな喜んでくれて、なんだろう・・・僕以上に自分たち以上に家族だったりとか、あとはレースを応援してくれたフランスの方、日本の方、現地に来てくれた日本の方々がすごく喜んでくれたので、みなさんの喜んでくれる顔を見られて嬉しかったですね」

写真協力:Team MILAI

メンタルをポジティブに

※レース中は、睡眠はパートナーと2時間交代でとって、天候が荒れたら食事もとれないですよね。そんな中、毎日どんなことを考えていたんですか?

「もちろん船のセーリングを、しっかり安全なセーリングをしなきゃいけないので、船を走らせることをまずは考えるんですけども、それプラス、やっぱり(レグの)期間が長いじゃないですか、1ヶ月間かそれ以上・・・。

写真協力:Team MILAI

 船の中では、2〜3畳間くらいのスペースにふたりでずっといるので、メンタルをちゃんとキープしようと・・・。お互いの、ふたりの雰囲気もよくしないといけないし、自分自身の気持ちもよくしなきゃいけないので・・・いちばんメンタルをキープしやすいのが、あと何日でゴールできるかなっていうのを、僕はずっと頭の中で計算してましたね」

●カウントダウンということですね。 

「たとえば1ヶ月、30日間かかるレグだとしても、3日終われば、これで10分の1、終わったんだなとか。たとえば5日目とかになると、もう6分の1終わったんだなとか、ポジティブにポジティブに考えながら、日々過ごしていましたね」

(編集部注:ちなみに天候が安定しているときは、読書をしたり、映画を見ることもあったそうです。でも、気持ちはどこかオンのままだったとか)

自然のサインを読み取る!?

写真協力:Team MILAI

※ヨットレースは、刻々と変化する気象を読んで、いかに風をつかむかが大事だと思うんですけど、これは経験を積むとわかるようになるんですか?

「最初は、インターネットが海の上でも使えるんですよ。飛行機の機内wi-fiみたいな形でインターネットにつながるので、そこで天気のデータをダウンロードして、1週間2週間先までの自分たちの航海計画は毎日立てるんですね。

 ただやっぱり予報なので、海の上で天気がガラッと変わったりするんですね。その時はやっぱり勘かな、経験かな・・・雲を見たりとか、途中、たとえば湿気が多くなってきたなとか、匂いが少し違うなっていうのを・・・」

●匂いまで!?

「体で感じて、それで早めに、セイル(帆)を小さくしたり、大きくしたり、方向転換したり・・・予報が外れた場合は、自分の勘で(船を)走らせるっていう感じですね」

●そういったわずかな自然のサインをすべて感じ取るんですね。

「そこがすごく大切です。それをちゃんと感じないと、船が壊れちゃうかもしれないし、そうしたら自分の力でゴールできないかもしれないので、そこが大切なところですね」

もう1回、地球一周したい!

※今回初めて開催された外洋ヨットレース「Globe 40」に挑戦し、そして完走を果たした今、鈴木さんの中にどんな思いがありまますか?

「本当にありがたいことに、この「Globe40」を通じて、世界一周を体験することができたので、日本全国のヨットをやっている方、何かに挑戦したいなと思っている方に、この体験、経験をお話しさせていただきたいなと思っています。

 まずはこの1年、2年かけて、日本全国をまわって、世界一周の体験をいろんな人にお伝えしようと思っています。あとはこの世界一周の体験がすごく楽しかったし、自分自身も挑戦することが好きなので、まだ今は明確には決まってないですけど、次の挑戦を決めて、それに向けて活動したいなとも思っています」

●漠然と、なんとなくはあるんですか、次の目標が?

「ねえ~何かな・・・はっきりとは言えないけど、やっぱりセーリングが好きですし、地球一周もすごく楽しかったので、もう1回、地球一周したいなと!」

●またお話を聞かせてくださいね、その時に!

「ぜひ!」

●では鈴木さんにとって、ヨットとは?

「難しい質問ですね(笑)。ヨットとは・・・まぁ僕そのものかな。自然の力で自分の力で、大陸と大陸の間にある海を横断できる、地球の上を移動できる、それを叶えさせてくれるのがヨットであるし、それに乗れるのが自分であるので、これからもヨットに乗り続けていきたいなと思います」

鈴木晶友さん

INFORMATION

 セーリング・チーム「MILAI」や「Globe 40」の激闘の模様、そして近況についてはオフィシャルサイト、または「MILAI」のfacebookをご覧ください。

◎「MILAI」HP:https://milai-sailing.com

◎「MILAI」Facebook:https://www.facebook.com/milai.aroundtheworld/

清水国明さんの定点観測28回目!〜「あのねのね」結成50周年全国ツアー

2023/6/18 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、芸能界きってのアウトドアズマン「清水国明」さんです。

 清水さんには毎年一回、この番組にご出演いただき、そのとき、どんなことに夢中になっているのかをお聞きする定点観測を続けさせていただいています。その定点観測、今年でなんと28回目! つまり28年以上前からこの番組にお付き合いいただいているんです。

 今回は、結成50周年を迎えた伝説のフォーク・デュオ「あのねのね」のツアー情報ほか、茨城県常総市に整備したキャンプ場「くにあきの森」や「笑顔食堂」プロジェクトのお話などうかがいます。

☆写真協力:kuniaki.plus

全国ツアーの前にリハビリ・ライヴ!?

●毎年この時期にご出演いただいて行なっている定点観測、今回で28回目となります。本当に長いお付き合いありがとうございます!

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

清水国明さん

●まずはなんといってもこの話題からです。伝説のフォークデュオ「あのねのね」が今年で結成50周年なんですよね。おめでとうございます!

「ありがとうございます! めでたいのかどうか、まあ50年も続けばね・・・昔、原田(伸郎)が言っていたけれど、中途半端に古いと値打ちはないけども、このくらい古くなると、骨董品としての値打ちが出てくるとか言うてましたね(笑)。
 自分で言うのもおかしいけど、レジェンドっていうようなことを各局で言われるようになってね。あ、俺レジェンドなんだとかって、思いますけれども、そのくらい(長く)やらさせていただいているということは、確かなことなのでありがたいです」

●その50周年を記念して全国ツアーを行なうんですよね?

「これはね、本番の50周年のコンサートがあるじゃないですか。それに向けてのリハビリ・ライヴということで・・・実は40周年をやりました。その頃の感を取り戻すために・・・この10年間やっていないようなものなんでね。
 生きてはいたんですけど、もちろん解散もしていないんですけれども、活動もしていなかったものですから、あのねのねとしてのトークであるとか、歌の間とか音程とか、そういったことをリハビリしないと、みっともないことになるぞということで、ライヴをやろうやないかという思いで、リハーサル代わりにやっているわけです」

写真協力:kuniaki.plus

●全国ツアーの前にリハビリ・ライヴってことですね。

「そうですね。だから何箇所かやってきたんですけれども、もちろんぐしゃぐしゃなんですよ。演奏して歌を忘れるし、音を外すしで、まあ本番で頑張ろうやとか言いながら・・・それをお金を出して見にきた人にはえらい災難ですけどね。まあそんなふうに全国でやらさせてもらっています。

 みなさんの評価は、すごく楽しかったとかっていうのと、それから元気になったとかも・・・それは確かにわかるんですよ。俺72歳だし、原田も71歳の爺さんふたりが、50年も前と同じような感じで、キャッキャ言いながらアホな歌を歌ったりしているわけだから・・・。同世代の人たちに見にきていただいたんですけれども、あ〜我々もまだできるなという、そういう励みにはなったかもわからないです」

あなたまかせのキャンプ場

写真協力:kuniaki.plus

※清水さんは先頃、茨城県常総市の「ふるさと大使」に就任されました。常総市のほうから、キャンプ場を作って欲しいという要請があり、それを受けて、「くにあきの森」というキャンプを整備、今月グランドオープンを迎えたそうです。どんなキャンプ場なんですか?

「あのね、水とトイレと電気、これはやっぱりいるなと思って・・・トイレも、僕はアウトドアズマンと言われていますが、ウォシュレットがないとだめなもんですからね(笑)。洗浄便器をくっつけたトイレはしっかりあるんです。あとは何にもなしのとりあえず森、雑木林ですね。

 何があるか、いるかというと、クワガタとカブトムシ。これは、そこを開発しようと思って、ユンボをガーーーっと・・・草ボーボーで薮とか竹とか茂っていて、ガガガガッと3〜4メートル入った瞬間に、カブトムシの幼虫が5〜6匹ポロポロって出て、いや〜すげー!って、もう一気にそこが気に入りましてね。

 それまでも隣の柏市で杉林を開発して(キャンプ場を)作っていたんですけど、その時はそういう昆虫はいなかった・・・ところが雑木林ってすごいね。入り口にそれだけいるってことは、奥のほうにはもうてんこ盛りにいるんじゃないかと思って勇んで行ったら、奥にはあんまりいなかった(笑)」

写真協力:kuniaki.plus

●あははは(笑)

「そういう虫がいっぱいいる場所で、クワガタ、カブトムシの森というのも施設として作ろうかなと思っています。で、自然が豊かなのと、それから自由が豊かっていうか、自由がいっぱいある、ほったらかしの・・・キャンプ場の前に“あなたまかせ”というフレーズをつけたんですよ。

 いろいろ設備だったり、グランピングとか、いろいろどうじゃーってなっているけど、あれは方向性として違うなと思っているんですよ。

 なんにもなしで、自ら然(しか)るって『自然』ってそういうことで、自分でやる、自分で決める、自分で楽しむっていうのが、キャンプであり自然だと思うから、ほったらかしです。 

 なんでも自由にしてください、自己責任ですよと。自他自由と言っているんですが、あなたも自由だけど、他人も自由だから、他人の自由を犯す自由はないよ、みたいな・・・それから自修自得って言っているんですが、自分で楽しめよと。

 なんやここなんにもないから、つまんないっていう人は自分で楽しんでないです。ここ何でもできるなって自分で喜びを作りだせる人は、これ以上のところはないと思います。もうほったらかしですからね。そういう自由がある自然な森をキャンプ場というふうに捉えていただければいいんじゃないかな」

●あなたまかせのキャンプ場、面白いですね!

「このあいだね、ホームページを作っているやつからね、“チェックイン、チェックアウトの時間はどうしたらいいですか”って質問がきたから、“あなたまかせ”って(笑)、好きな時に出てって好きな時に入ってちょうだいって(笑)」

●いいですね〜(笑)

写真協力:kuniaki.plus

笑顔食堂、あした笑顔になあ〜れ

※清水さんはほかにも「笑顔食堂」というプロジェクトを進めていらっしゃいます。これはどんなプロジェクトなんですか?

「これはですね・・・ご存知のように子供食堂っていっぱいあるじゃないですか。日本に7300ぐらいあるんですって」

●全国いろんなところにありますよね。

「それをやっている人は庄野真代さんとか、うちの会社グループもふたつぐらいやってるんですけど、いいことやってんなと思いながらも、あんまりそれに関心を示さなかったんです。

 私は毎日の食事を用意するっちゅうなことは、いちばん苦手なんです。ぽっと瞬間的にそういうことするのはできるんだけども・・・だから子供食堂はできないなと思っていたんですが、それっていわゆる社会が子供たちを育てるという形なんですね。自分の子供だけ育てればいいっていうわけじゃないなと思い始めたんですよ。

 72歳ということは、そろそろエンドがちらほらと見えてくるわけですよ、終活というかね。もうこの先、俺も72だからせいぜい生きて、あと60年ぐらいですか(笑)。だからそろそろ亡くなった後、あ〜、あの人、ひどいことしていたけど、こういうこともやってたんだっちゅうなこともやらないかんからね。

 それと、人さんのお子さんを育てるということは、今まで考えてなかった・・・自分の利益、自分の家族の幸せというものを中心に考えてきた・・・けど、今度うちのライヴでもやってくれる、ナオちゃんっていうハーモニカのミュージシャンがいるんですが、その人がね・・・“ナオちゃん、家族どうなってんの?”って、“今、里子(さとご)がいます”って言って里親になって、それも二組目なんですって! いや〜偉いねって・・・考えてみたら、俺そういうことしてこなかったなということで、無関心だった・・・。

 無関心ってのは、愛という言葉の裏返しが無関心だそうでね。これは愛のない日々を過ごしてたなということで、だから『笑顔食堂』・・・ちょっと話が長くなりましたけど、『笑顔食堂』というのは、自分ができることをやろうと思って、キャンプ場をいっぱい作ってますから、そこに来てもらって自由に遊んでもらう・・・それはもうただで来てください、中学生までですね。ただで遊んでもらって、お父さんお母さんも来てくださいよと・・・で、『笑顔食堂』の食事作りを手伝ってくれたら、大人は入場料半額ですよっていうことで、なるべくみなさんが来やすいようにね。

写真協力:kuniaki.plus

 つまり、子供の支援っていうか貧困というのは、経済的なものと時間的なものと、それから愛情の貧困って、いろいろあるらしいのね。そういう意味では、食べ物は我々もやりますけれども、子供食堂があるけれども、自然体験とか親子の触れ合う時間とか、自然の中でのびのび、というものを提供できる・・・そして子供たちが今苦しくても、あした笑顔になあ〜れって言ってるんですが、あした笑顔になれるような、そういう取り組みをやろうというふうに思いたったわけです」

(編集部注:「笑顔食堂」プロジェクトのキックオフ・イベントが10月5日に東京国際フォーラムのホールAで開催予定だそうです。清水さんは、みんなが楽しむためのフェスティバルにしたいと、いろいろ構想を練っているようですよ。もちろん「あのねのね」も出演するとのことです。楽しみですね)

遊びも仕事も、常に全力!

●河口湖にある自然体験施設「森と湖の楽園」、瀬戸内海の無人島リゾート「ありが島」、あとは3年ほど前に千葉県鴨川の杉林を開拓して作られた「かもがわ自然楽校」、そして今回の「くにあきの森」がありますが、ご自分で汗を流して切り開いて何かを作るっていうのは、アウトドアズマンである清水さんの得意とするところだと思うんですけど、改めてどうですか?

「あのね、この28年間で何回か言ったかもわかりませんが、ある人の評価で“清水さんの頭の中は、おもちゃ箱をひっくり返したようになってる”・・・それでよく言われるのは“どこまでが仕事で、どこまでが遊びか、そのメリハリがない”・・・ずっ〜と遊び、ずっ〜と仕事みたいな感じで、自分の人生を使い切って終われたら幸せやなと思ってるんですね」

●常に全力ですよね。全力で遊ぶ! 全力で仕事する! 

「多分ね、中途半端に何かをやった時、中途半端な感動しか得られないからね。思いっきり、おら〜って言った時は、おりゃーという喜びがあります。それはもう何回か繰り返してきてね。

 ”楽(らく)”と”楽しい”は違うって言いますよね。楽(らく)しちゃうと、本物の感動は得られないんじゃないかなと思って、わざわざしんどいほうを選ぶ・・・僕はリスクテイカーとも言ってるんですが、リスクのあるほうに飛び込んでしまう・・・体質がMなんでしょうね。これね〜、そういう生き方を貫いていると、ややかっこいいですけど、そんなことやってますね」

生きる力が退化!?

※清水さんが、自然体験のできる施設やキャンプ場を作っているのは、やはり多くのかたに「生きる力」を身につけて欲しい、そんな思いがあるからなんでしょうか。

「今の生活プラス生きる力というよりも、生きる力がものすごくなくなってきたような気がするんですよ、大人も子供も。つまりスマホで全部解決してしまうから、地図を覚えないしね。
 俺、東京のテレビ局とかラジオ局に行ってても、そこから帰る時、必ずナビ入れてしまうもんね。そんなもん、もう100回ぐらい通ってんやから、それなしでも帰れそうなのに、でもなぜかナビを入れてしまう・・・。

 それと漢字が書けなくなってきたんですよね。それとか、なんか調べ物するにしても、自分の頭の中にある記憶を取り出そうとせずに、ついスマホで調べてしまう・・・スマホ依存症ということらしいね。

 そのくらい、子供と大人も、やっぱり今の便利なものにどんどん飛びついて、そして生きる力っちゅうか、工夫する力、自分で考える、思い出すというようなところを手放してしまってる・・・人類ってどんどん成長してるように思うけど、実はどんどん退化してるんじゃないか・・・その退化しているのは何かというと、やっぱり何もないとこでも、生きていけるような生きる力というのがない。

 それを補填してくれるというか、読み出してもう1回リスタートしてくれる、そのスイッチを入れてくれるのは、自然の中の、これもずっと言い続けてると思うんですが、そういう中で得られる『熱い、寒い、臭い、痛い』みたいなものを得ることによって、むくむくっと出てくるんじゃないかなと・・・最後のリハビリというか立ち直るには、その環境が本当に外せないなと思うわけですね」

●今年の後半は「あのねのね」の50周年全国ツアーに全力投球だと思うんですけれども、その先はまた新しいことにチャレンジするとか考えていらっしゃるんですか?

「はっきり言えるのは、60周年はないということ! ってことは最後だと・・・この50周年のライヴがですね。だから生で『あのねのね』というものを・・・噂で聞くか、ちらっとお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんが言ってたなみたいな『あのねのね』を、生で見られる最後のチャンスなんでね、ぜひ(ライヴに)来ていただいきたいなと思います」


INFORMATION

「あのねのね」結成50周年を記念したツアー情報

 リハビリ・ライヴを終えた「あのねのね」は6月24日・京都、11月5日・東京でコンサート。ほかにも7月23日・神戸、9月10日・福岡、10月15日・長野でライヴを行なうことになっています。ぜひ、生で「あのねのね」のライヴをお楽しみください。会場によっては、すでにソールドアウトになっているところもあるそうです。

 詳しくは「あのねのね」の公式Facebookでご確認ください。

https://www.facebook.com/profile.php?id=100089085037073

 茨城県常総市にある「くにあきの森」については、以下のサイトをご覧ください。

◎くにあきの森:https://www.kuniakinomori.com

 清水さんの近況はFacebookをご覧ください。

◎清水国明さんFacebook:https://www.facebook.com/kuniaki.shimizu2/?locale=ja_JP

自宅に「湿地帯ビオトープ」を作ろう!〜生物多様性につながる水辺づくり

2023/6/11 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、水生生物の研究者「中島淳(なかじま・じゅん)」さんです。

 中島さんは1977年、静岡県生まれ、東京育ち。幼少の頃から、生き物全般が好きで、特に淡水に棲む魚と昆虫に興味を持っていたそうです。

 その後、九州大学に進学し、大学院を経て、現在は、福岡県保健環境研究所の専門研究員でいらっしゃいます。専門は淡水魚と水生昆虫の、生態学と分類学。これまでに新種としてドジョウ類12種、そして水生昆虫4種に名前をつけたそうですよ。

 研究の傍ら、生き物の観察会や講演会の講師としても活動。また、ネット上では「オイカワ丸」という名前でも活動されていて、淡水魚が好きな人には、お馴染みのかたかも知れません。

 きょうはそんな中島さんが先頃出された本『自宅で湿地帯ビオトープ! 生物多様性を守る水辺づくり』をもとにいろいろお話をうかがっていきます。

☆写真協力:中島 淳

中島淳さん

湿地帯と生物多様性

※まずは「ビオトープ」とはなにか、改めてご説明しておきましょう。
 ビオトープはドイツ語なんですが、もともとはギリシャ語で「命のある場所」、つまり「生き物が生息している場所」のこと。森や川、海岸など、生き物が生息している場所はすべてビオトープになります。そういう意味では地球そのものも、巨大なビオトープと言えますね。

 中島さん曰く、湿地帯ビオトープには4つの大事なキーワードがあるそうです。その4つとは、湿地帯、生物多様性、外来種、そしてエコトーン。

 それではひとつずつ詳しくうかがっていきましょう。まずは湿地帯なんですが、水辺全般を湿地帯と呼んでもいいのでしょうか。

「そうですね。大きな意味では、海は除くんですけれども、だいたい水深6メートルより浅い沿岸域、だから潮の満ち引きの影響があるところ、そこから陸域にかけてですね。河川とか、ため池とか湖とか田んぼ、あと地下水、こういったものは湿地帯と定義されます」

●やっぱり、かなり重要な場所なんですよね?

「はい、そもそも人間は水、淡水を飲まないと生きられません。その淡水の主要な供給源がこの湿地帯になるわけです。また湿地帯で生きている生き物は、例えばアサリとかでもそうですけれども、食べ物として非常に重要ですね。本当に大事なビオトープ、生息場のひとつというのが湿地帯だと私は思っています」

●湿地帯ビオトープを作ると、それは生物多様性を守ることにつながっていくんですか?

「そうですね。森にも砂浜にもビオトープはあるんですね。それぞれ特有の生き物が暮らしているので、どこの環境も非常に貴重なんですけれども、特に日本では湿地帯、身近な水辺の環境がかなり破壊されています。

 そういうところに暮らす生き物の多くが絶滅したり、絶滅危惧種になってしまっているということで、そういった湿地帯を想定したビオトープ、生物の生息場所を増やしていくというのは、生物多様性に大きく(貢献し)、特に日本で広くつながると考えています」

●生物多様性が失われてしまうと、私たちの生活に具体的にはどんな影響が出てきてしまうんでしょうか?

「いちばんわかりやすいのは、握り寿司ですね。お寿司とか好きかなと思いますけれども、種類がいろいろあるのが、お寿司の楽しみのひとつだと思うんです。これがまさに生物多様性の恵みそのものですね。生物多様性が失われると、寿司ネタが一品ずつ減っていくというようなことになります」

『自宅で湿地帯ビオトープ! 生物多様性を守る水辺づくり』

外来種とエコトーン

※大事なキーワードの続き、外来種とエコトーンについて。湿地帯ビオトープを作るときに、もっとも注意しなければいけないのは、外来種を育ててしまうことなんですか?

「育てることが問題ということではないですね。どちらかというと、育てた外来種が野外に出て行って、それがそこに、もともといた生き物とか生態系に悪影響を与える、これが問題だということですね。

 外来種というのは、人が持ち込んだものという定義ですけれども、その定義で言えば、稲とかカボチャとか、野菜の多くは外来種ですね。それが問題だというわけではないということですね。それがコントロール不能になって野外に出て行って、生物多様性を破壊してしまうことがあるわけですね。そういうことにならないようにすることが重要だということです」

●エコトーンという言葉を、私は初めて知ったんですけれども、詳しく教えていただけますか。

「エコトーンは端的に言えば、異なるふたつの環境です。それが少しずつ変化しながら接する場所という意味で、水辺に関して言えば、陸と池・・・その陸と水の間、陸から徐々に水の中に入っていくような・・・一見、陸だと思って踏み込んだら、ズブズブと足が沈んでしまうような、そういった場所がエコトーンということになります」

●ちょうど狭間のようなものっていうことですね。エコトーンこそ湿地帯ビオトープの要と言えるんですか?

「そうですね。ビオトープという言葉は古くからある言葉ですけれども、あえてタイトルに“湿地帯”を付けたのも、そういった概念として、連続的に変化するような環境を含めて、ビオトープ化して楽しむことができないかなと思って付けたものです。
 そういう意味で湿地帯というのは、エコトーンを含むような意味合いとして、湿地帯ビオドープという一連の言葉は、これは造語だと思いますけれども、それで今回、本の名前として付けたものになります」

●エコトーンで暮らしている生き物って、どんな生き物がいるんですか?

「身近でよく知られているもので言えば、ドジョウという魚ですね。あるいはサンショウウオとかトノサマガエルみたいな両生類ですね。こういったものはエコトーンを重要な生息場にしている、田んぼとかでよく見られるような生き物ですね。

 こういったものは、完全に干上がらない川とかは好きじゃないんですけれども、陸もダメで、陸と水の間のときどき干上がったりはするけれども、割と常に水があるような環境、そういった場所じゃないとうまく繁殖できなかったり、生きられなかったりするような生き物になりますね」

写真協力:中島 淳

湿地帯ビオトープの作り方

※中島さんの本によると、実際に自宅に湿地帯ビオトープを作るには、水と陸、そしてその境であるエコトーンを作ることがポイント。用意するのは、水を貯めておくための防水シート、プラスチックのコンテナ、そして小型の睡蓮鉢など。小型のコンテナや睡蓮鉢は手軽なのでマンションのベランダでも活用できるそうです。容器に入れる土は、ホームセンターなどで売っている赤玉土など。

 湿地帯ビオトープの作り方について、詳しくは中島さんの本をご覧いただきたいのですが、小さなビオトープだったら、数時間で作れるそうですよ。

写真協力:中島 淳

 さあ、生き物たちが暮らせる場所が整ったところで、育てる水生生物や植物はどうすれば、いいのか、中島さんにお聞きしました。

「植物についても本の中でいくつか詳しいことを書きました。外来種の話を本の中でも解説しているんですけれども、ビオトープから外来種が出ていって、野外に行ってしまうという構造の場合は、やっぱり変な外来種の植物は入れないほうがいいわけですよね。

 ただそうじゃなくて(外に)出にくいような構造であれば、ある程度自由に、売られているものを入れてもいいかなと思いますが、真に生物の保全につなげるためには、できれば住んでいる家の、まずはビオトープを置く場所の、周囲の川から取ってきたものを中心に入れるのが、いちばんいいかなと思います。

 それから動物、魚なんかは、メダカであれば、買ってきて入れるということも、やむを得ない場合もあるかなと思いますが、そんな場合もメダカが逃げ出さないように、逃げ出すとそれが外来種になってしまいますので、そういった点には注意する必要があります。

 あとは水生の昆虫類なんかは、実はゲンゴロウとかトンボとか、いろんな種類が日夜、我々の頭上を飛び回っているんですね。なので、いい水辺があれば、棲みつくようになります。 いろんな昆虫が突然現れたりするので、それを楽しむというのがいちばんいいかなと思います」

写真協力:中島 淳

●本には何も入れない湿地帯ビオトープっていう説明もありましたけれども、何も入れなくても、いずれは生き物たちが暮らすビオトープになるっていうことなんですか?

「はい、実は水草というか水生植物の中でも、タネが空を飛んでいるような種類は結構多いんですね。タネがうまく発芽するようなエコトーン、これがあれば、実は何らかの植物は、意外と生えてくるものですね。場を作って粘り強く待つという楽しみ方もひとつあります」

●場所だけ作っておいて、何も入れなくても、生き物たちってやってくるものなんですね。

「そうですね。周辺の環境にもよりますけれども、粘れば何かしらくるのは、日本の場合は間違いないだろうと思います」

(編集部注:先ほど、近くの川から植物や生き物などを持ってくるというお話がありましたが、なんでも持ってきていいという話ではありません。中島さんによれば、魚などは各都道府県が定める規則に従わなくてはいけないとのこと。また、植物や土、石は河川法という法律によって、個人が自由に採取することは禁じられているそうです。

 とはいえ、採取する量が極めて少ない、または常識の範囲内であれば、問題にはならないそうですが、個人での判断が難しいときは行政の担当部署に問い合わせてくださいとのことです。詳しくは中島さんの本に載っていますので、ご確認いただけければと思います)

人間は自然を再生できる

写真協力:中島 淳

※中島さんのご自宅の庭には、10年ほど前に作った湿地帯ビオトープがあります。現在はメインのビオトープのほかに、埋めるタイプのコンテナ・ビオトープが5つ、睡蓮鉢ビオトープが2つ、それらを管理しているとのことです。

 勝手に飛んできたトンボ類やアメンボなどの水生昆虫がどんどん増えているそうですよ。どんな湿地帯ビオトープなのか、これも本に載っているので、ぜひご覧ください。

 お休みの日にご自宅の湿地帯ビオトープにいると、どんなことを感じますか?

「植えた植物もあるんですが、勝手に(池に)やってきた昆虫はやっぱり嬉しいですよね。場を作ってその生き物に選んでもらえたというところですね。この池がなければ、その虫はここで増えることはなかったわけですから、そういう意味では生物の保全にもつながる新しい場作りができたし、そういったのを呆然と眺めているのは楽しいですね」

写真協力:中島 淳

●首都圏でおすすめのビオトープってありますか?

「生息場として、いい湿地帯はたくさんあるんですけども、本でも紹介しましたが、エコトーンに注目するのであれば、やはり東京の井の頭池ですね。あそこはかなり意識的にエコトーンを再生するということをしています。

 エコトーンというものをこの本でちょっと読んで、どんなものかなと脳内にイメージを置いて、改めて井の頭池だけ見てみると、あ〜こういうことをしているのかというのがよくわかってきます。

 実際あそこは生き物も多いので、私も何度も行きましたが、そういう知識があると解像度が上がると言いますか、あ~なるほどというので全く見え方が違ってきて、面白いんじゃないかなと思いますね。町の真ん中にありますので、そういう中でもこういった場を作ると、これだけ生き物が棲めるようになるんだということがよくわかって、東京都周辺では井の頭池はおすすめポイントですね」

●では最後に、この本『自宅で湿地帯ビオトープ! 生物多様性を守る水辺づくり』 を通して、いちばん伝えたいことを教えてください。

「伝えたいことはたくさんあるんですけれども、そうですね・・・場を作ることですね。人間は自然を再生することができるっていうことに気付いてほしいなというところがあります。

 家にエコトーンを含む湿地帯を作ってみて、それを維持したり管理したり開発したりする、そういった経験を持った上で、今度は野外の池とか川とかを見て、その実態を見る、解像度というか見る目、それが上がっていく、そういった経験を楽しんでもらえるといいなと思います」

(編集部注:お話にあったおすすめの井の頭池は、都立井の頭恩賜公園の中にあります)


INFORMATION

『自宅で湿地帯ビオトープ! 生物多様性を守る水辺づくり』

『自宅で湿地帯ビオトープ! 生物多様性を守る水辺づくり』

 自宅の庭やベランダに湿地帯ビオトープを作るためのノウハウが、写真やイラストとともにわかりやすく解説。また、湿地帯ビオトープの生き物図鑑ほか、入れてはいけない外来種も写真入りで掲載されています。大和書房から絶賛発売中です。
 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎大和書房HP:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b618603.html

 中島さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。

◎中島淳さんHP:http://kuromushiya.com/koushiki/top.html

<全国砂浜ムーブメント2023>

 以前番組でもご紹介しましたが、日本自然保護協会のキャンペーン「全国砂浜ムーブメント」が今年も始まりました。海や砂浜のことを楽しく学べる特製の「砂浜ノート」や専用のアプリを使って砂浜を守る3つのアクションにぜひご参加ください。砂浜にいる生き物調査や、ゴミ拾い活動を多くの人たちと共有します。
 詳しくは「日本自然保護協会」のホームページをご覧ください。

◎日本自然保護協会HP:https://www.nacsj.or.jp

<オンライン講座「身の回りのマイクロプラスチックと、私たちにできること」>

 現在、マイクロプラスチックがどのような問題を引き起こしているのか、環境ジャーナリストの「栗岡理子(くりおか・りこ)」さんが解説します。開催日時は6月29日(木)午後7時から8時10分まで。Zoomを使用、参加費は無料、定員は先着300名です。
 詳しくは「日本野鳥の会」のホームページのお知らせをチェックしてください。

◎日本野鳥の会HP:https://www.wbsj.org

<#リユースでラブアース>

 国際環境NGOグリーンピース・ジャパンのリユースを広めるSNS投稿キャンペーン。マイタンブラーやマイ容器の写真を、ハッシュタグ「#リユースでラブアース」をつけ、メッセージを添えて、インスタグラムに投稿してください。期間は6月30日まで。集まった画像はメッセージとともにカフェや企業に届けることになっています。
 詳しくはグリーンピース・ジャパンのホームページをご覧ください。

◎グリーンピース・ジャパンHP:https://www.greenpeace.org/japan/

若き古生物学者、ウンチ化石に挑む!?〜地層から読み解く化石の謎

2023/6/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、千葉大学准教授で古生物学者の「泉 賢太郎」さんです。

 泉さんは1987年、東京都生まれ。子供の頃から、地球や生き物に関心があり、ざっくりいうと「昔」が好きで、歴史本や図鑑、博物館に置いている石などに興味を抱く少年だったそうです。

 その後、東京大学大学院で地球惑星科学を専攻し、2015年に博士課程を修了。専門は、古生物の活動の痕跡である「生痕化石(せいこんかせき)」に記録された生き物の生態の研究など。

 泉さんは、チバニアンの研究チームで活躍するなど、その活動が注目されている若き古生物学者です。

 ちなみに古生物学とは、泉さんによると遥か昔、地球上に生息していた生き物の暮らしぶりなどを、化石や今生きている生き物の研究を通して推論する学問だそうです。

 そんな泉さんが先頃、『化石のきほん』という本を出されました。きょうはその本をもとに、ティラノサウルスのものと考えられている超巨大なウンチ化石や、チバニアン含め、地質や地層と化石の密な関係についてお話をうかがいます。

☆資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

糞の化石を研究!?

※まずは、化石の基礎知識。
 化石は大きく2種類に区分されます。ひとつは、恐竜の骨や歯、アンモナイトなどの古生物そのものの痕跡で、「体の化石」と書いて「体化石(たいかせき)」。

 もうひとつは、足跡や巣穴、糞など、古生物の活動の痕跡である「生痕化石」。
1万年より古いものを化石と呼ぶことが多いそうです。

 泉さんは、化石の中でも「生痕化石」に着目されていて、中でも糞の化石、いわゆるウンチ化石を研究されています。

 もっとも化石にならないと思われる糞が、化石として残っているというお話に驚いたんですけど、この本『化石のきほん』に、ティラノサウルス類のウンチ化石と推定されるものが発見されたと書いてありました。どこで、どれくらいの大きさの化石が見つかったんですか?

「これは、数は少ないんですけど、カナダで見つかっています。大きさは、いちばん大きいやつで、長さが60センチぐらいで、幅というか太さが20センチですね」

●巨大ですよね〜。

「巨大ですよね。両手で持って、たぶん崇めるみたいな、そんなものだと思うんです。実は私も対面したことがなくて、そういう意味でも貴重な化石標本なんですけど・・・」

●でも、それがティラノサウルスのものだというのは、どうやってわかるんですか?

「そこがすごく個人的には興味持っているところです。論文もしっかり端から端まで読んでみると、だいたい3本の推論の柱みたいなのがありますね。

 イメージ的には事件現場に残されたあらゆる痕跡を頼りに、その容疑者が自分がやりましたって言わない限りは、厳密には証明できないので、同じようなジレンマを持っているんですけど、なんとか可能性の高い仮説を出したいというので、ひとつめの証拠がまずそのサイズですよ、でかい! 

 でかいだけだと、でかい動物だろうということにしか絞れないんですけど、次は中身ですね。でっかいウンチの一部を切り出して、プレパラートみたいなのを作って顕微鏡で見てみると、中に骨の断片とか(見つかると)肉食性のでかい動物だろうというところが第2段階ですね。

 第3段階が状況証拠・・・アリバイっていうんですかね。化石は、ウンチ化石でも骨の化石でも、必ず地層の中にもともとは埋まっているんですね。なので、登場人物を洗い出すっていうイメージで、その当時の同じ地層にどういう化石が見つかるか、いろいろ登場人物を洗い出すんですね。
 その中でこのふたつの特徴、大きいかつ肉食動物の化石の中で、いちばんでかいのはティラノサウルスだよねと! そんな感じで推論されています」

(編集部注:なぜ糞が化石になるのか、不思議ですよね。糞は、一般的には微生物などで分解されてしまうんですが、例えば、水中とか酸素が少ないところに落ちて、その後、なんらかの作用が働き、鉱物化してしまったのではないかということなんです。でも、実際のところはわかっていないそうですよ)

泉 賢太郎さん

化石と地層の密な関係!?

●泉さんの新しい本『化石のきほん』の最初のところに、地質年代表っていうのが掲載されていました。やはり化石と、地質や地層は非常に密な関係にあるということなんですね。

「そうなんです。おっしゃる通りです。この『化石のきほん』でひとつ重点的に意識したのが、”化石のきほん”というタイトルなんですね。
 その化石の文脈っていうんですかね・・・地層の中に埋まっているので、その化石からいろいろ読み解いていくためには、文脈ごとにやっぱり知る必要があるんです。化石と地層の関わりはすごく意識して書きました」

●化石の中にはいろんな情報が込められているんですね?

「そうなんです。ただ地層から取り出して、綺麗な化石だけの状態になってしまうと、見た目は美しくなるかもしれないんですけど、文脈が失われてしまうので、その途端に情報量が激減してしまうんですね。
 古生物の研究者は私も含めて、いろんな研究対象とかいろんな目的があるので、全員というわけじゃないんですけど、地層ごと化石の資料を取るということが多いんですね。

 そうすると、化石とまわりについている地層を同時に観察することができるんです。文字通り、本当に切っても切り離せないというか(情報が)埋まっているので、そこを化石だけ取り出すことができる場合もあるんですけれども、大半はこの本の表紙のようにまわりの地層ごと化石を取り出します。

 たとえば、アンモナイト化石が地層の岩石に埋まった状態のイラストが、表紙に載っているんですけど、これもこだわりのひとつです。ここに生物学を代表する有名化石のアンモナイトが、アンモナイトの化石単体じゃなくて、地層に泥岩に埋まっているこの状態を、やっぱり出したかったんですよね、表紙に」

●化石だけじゃなくて、地層ごと取る化石っていうことですね。

「まさにおっしゃる通りです。そこに地層をなくしちゃうと、化石から見ための情報は増えるかもしれないんですけど、どういう時代に生きていたのか、どういう環境にいたのかと、そういった背景にある文脈の情報が一気に失われてしまうんですね。
 目的次第なんですけれども、完全に化石のことを知るために、化石だけを見るっていうよりも、一般的には地層も含めて見たほうが、より広範囲にわかるかなと思います」

資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

「チバニアン」誕生に貢献

※3年ほど前に、地質年代にラテン語で「千葉の時代」を意味する「チバニアン」が誕生し、一大ニュースになりました。泉さんも協力されたということですが、どんなことをされたんですか?

「専門のひとつである生痕化石ですね。地層に生痕化石が何種類ぐらいいるんだろう、どんな種類がいるのかなというのを観察することで、その当時の生態系の様子を推定したりですとか・・・。生痕化石も、地層がどんな環境でできた地層なんだろうっていうのを推定するのに一役買っているんですね。

 見た目は本当に何の変哲もない川沿いの崖って感じで、調査に行ってみたら、その辺の崖って感じでしたね(笑)。その辺の崖と言っても、なかなか人によってイメージが違うかもしれないんですけどね。そんなところで、文字通り這いつくばるというか、壁にぺたっと(はりついて)生痕化石を探したんです。

 こういう種類とこういう種類がいるってことは、たとえば水深帯だったら、これぐらいでとか、こういう環境でできた地層じゃないかなと・・・そういったデータを出して、それが研究プロジェクトの中のひとつの立ち位置っていうんですかね。

 地層の成り立ちを、やっぱりその由来を知らないと、ここの地層がいいと言っても、どういう理由でいいのか、どんなことがわかっているのか、なにがわかっていないのかとか・・・。ほかと比較するとこの辺がやっぱり優れていると、一個一個証拠を出すということで、生痕化石の観察というところでは、うまくひとつデータを出せたかなと思っています」

●あの一大ニュースの裏には化石が活躍していたわけですね!

「ほかにも目に見えないぐらいちっちゃくて、顕微鏡じゃないと見えない、微笑の微に化石と書いて“微化石”って言って・・・」

●微化石!?

「それはそれで顕微鏡から広がる形も多様で、いろいろ見た目も綺麗なんですけれども、そういったちっちゃい、人知れず崖の中の泥とか砂粒の粒子と同じぐらいの大きさの、そういうのを一個一個取り出して調べて、どれぐらいの年代だったんだろうとか、あとどういう環境でできたりするのかなとか、そういうのを調べたんですね。ということで、千葉の名前が世界中に、地質学の中でもひとつ認知されたと・・・。

 たとえば有名な地質時代、ジュラ期っていうのがあると思うんですけど、『ジュラシックパーク』『ジュラシックワールド』のジュラシックが、”ジュラ期の”っていう意味なんです。あれも地名なんですよね。ジュラ山脈っていうヨーロッパの地名から来ているんですね。ジュラ期とかジュラシックが有名になりすぎて、地名に由来しているんだっていうこと自体が逆に(知られていないと・・・)。

 けっこう地名が由来となっている場合が多くて、ほかにもペンシルバニア期とか 、“ペンシルバニアン”って言いますし、意外と地名由来っていうところがあったりします」

(編集部注:泉さんによると、古生物学の研究が盛んなのは、太古の地質が残っているヨーロッパで、国でいうと、ドイツやイギリス、フランスなどだそうです。一方、恐竜の化石が多く見つかっているのは、アメリカやカナダ、中国あたりだそうですよ)

資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

化石は意外と日常に!?

※化石は意外と私たちの身近にあったりしますよね?

「“近すぎて見えない化石”と呼んでいるんですけど、たとえば珪藻土(けいそうど)、吸水性がいいので、よくバスマットとかに使われていますよね。あれも珪藻って植物プランクトン、目に見えないちっちゃいプランクトンがガラス質の殻を持っているんです。
 そのプランクトンの本体の、アメーバ状の部分は化石に残らないんですけど、そのまわりを覆っている殻が化石になって、たくさん集まっていると・・・化石の殻にいっぱい穴が開いているんですよね。吸水性がいいってのはスカスカなんですよね、珪藻土のマット自体。なので、水が効率的に染み込んでいくということなんです。

 本当に感動しますよね。足を乗っけてすぐ乾いている、みたいな! 緻密な岩石で、中にスカスカの空間がほとんどないやつだと、水がベチャってなったまんまっていうのがあると思うんですけど、珪藻はガラス質で穴がたくさんあるスカスカな化石がいっぱい詰まって、そのスカスカの部分がいっぱいあると水がすぐ浸透していくと、そういうことが起こります。
 あとはビルの石材とかですかね。デパートの白っぽい壁や床に大理石が使われたりとか。そういうところにアンモナイトの化石があったりすることもありますね。

 個人的には、お寺の石碑っていうんですかね。黒っぽい文字が刻まれたりしているんですけど、そこにむしろ生痕化石を見ちゃうと。文字は読めないけど、なんて書いてあるかわかんないけど、生痕化石はあるな! みたいな、そういう体験もします」

●素人の私たちが、なにか見つけるコツがあったりしますか?

「あると思います。一応こういうやつがいるかも知れないよみたいな、いくつかの鑑定ポイントみたいなのはありますね。ただ日常生活だとやらないぐらい(石碑に)近づかないと・・・。触れられないところでも見ることはできると思うので・・・生痕化石のひとつのいいところって、見て楽しめるっていうんですかね。採取禁止みたいなところでも、あ〜こういう生痕化石があったと・・・そこから僕も話が盛り上がっていきますよね」

(編集部注:お寺の石碑などに生痕化石が見つかることもあるということでしたが、見つけるコツはまわりと違う模様や構造を探すことだそうですよ。じっくり根気よく見るしかないですね。ちなみに泉さん自身は、化石探しはうまくないとおっしゃっていました)

泉 賢太郎さん

ワクワクする気持ちを大事に

※最後に、古生物学を勉強したいと思っている子供たちや、学生さんに向けて伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。

「これはですね、いちばんここが本でもこだわったところで、ページ数としてはあまり割いていないんですけど、ぜひ興味を持ち続けて、それで目の前の勉強に一生懸命取り組んでくれればいいかなと思っています。

 というのも私自身も・・・ほとんど過去の自分に向けて言っているような感じになっていますけど、いわゆる同じぐらいの世代で、めちゃめちゃ詳しくて経験もあって、化石のこともよく知っていて発掘もしていてっていう人がいると、どうしても、比べたくなくても比べちゃって、こんな自分でもやっていけるのかなって思うかもしれない。

 研究はまた別の枠組みだなとすごく感じています。そこは過去の経験の差が生きることもあるかもしれないですけど、思っているほど関係ないのかなと・・・ちゃんと目の前の勉強を一生懸命するとか、目の前のことに取り組む。

 あと何よりも、古生物学の研究をやってみたいな、そういう研究者になってみたいなと思っているのであれば、その気持ちを持ち続けて欲しい。研究をやり始める前にやっぱり自分には無理だっていう子がすごく、もしかしたらいっぱいいるのかもしれない。それってすごくもったいないなと思うんですよね。

 経験がなくても好きだ、興味があるっていう気持ち自体が、ひとつ素晴らしいことかなと思います。化石発掘とかよく知らないからダメなんだじゃなくて、なんかよくわかんないけど、ワクワクするっていう気持ちがあったら、それは大事にしてほしいなって思いますね。
 ただそれだけでやっていけるわけでもないので、やっぱりちゃんとした学校の勉強とか、そこは本当に礎かなと思うのでしっかりと、まあ世代にもよるんですけど、勉強を頑張るといいかなと思います」


INFORMATION

『化石のきほん~最古の生命はいつ生まれた? 古生物はなぜ絶滅した? 進化を読み解く化石の話』

『化石のきほん~最古の生命はいつ生まれた? 古生物はなぜ絶滅した? 進化を読み解く化石の話』

 チャプター1の「ようこそ、化石の世界」からチャプター5の「めざせ、古生物学者」まで5つの章に分かれていて、全部で60項目ありますが、見開き2ページで完結しているので興味のあるところから読めますよ。イラストも豊富で楽しめます。化石の入門書的な一冊、ぜひチェックしてくださいね。
 誠文堂新光社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社HP:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/78757/

 泉さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎泉 賢太郎さんHP:https://www.cn.chiba-u.jp/researcher/izumi_kentaro/

家庭菜園は、自然と遊べるエンターテインメント!〜超初心者向け、野菜作り入門

2023/5/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、漫画家でイラストレーターの「荻野千佳(おぎの・ちか)」さんです。

 荻野さんは富山県出身、現在は東京の郊外にお住まいです。2016年から家庭菜園を始め、すっかりハマってしまい、ついには、日本家庭園芸普及協会認定のグリーンアドバイザーの資格を取得されています。

 そして先頃、『野菜づくり、はじめます!〜マンガと図解でわかる! 一番やさしい家庭菜園の本』を出されました。

 きょうはそんな荻野さんに、超初心者に向けて、おもにベランダ菜園で必要な道具、失敗しないコツ、そして、すぐ収穫できるおすすめの野菜のお話などうかがいます。

☆写真&イラストレーション:荻野千佳

荻野千佳さん

短期間で収穫できる野菜がおすすめ!

●荻野さんが先頃出された本を拝見いたしました。

「ありがとうございます!」

●可愛いイラストでわかりやすく、野菜の育て方が描かれていて、これなら私も始められるかもと思いました。読んでいて、すごくワクワクしました。

「ありがとうございます! 嬉しいです」

『野菜づくり、はじめます!〜マンガと図解でわかる! 一番やさしい家庭菜園の本』

●私は家庭菜園には興味はあるんですけど、実際に育てたことがあるのはミニトマトとか、あとは豆苗で再生栽培するぐらいで、本当に全くの初心者なんです。やはり野菜作りと聞くと作業が大変で、なんか難しいイメージがあるように思うんですけど、実際はいかがでしょうか?

「なんか大変そうっていうお気持ち、すごくわかります。外で一生懸命やるのかなって思われるかと思うんですけど、基本、誰でも簡単にできる、自然と遊べるエンターテイメントだと私は思っているんですね。

 私の場合ですと2016年から自宅の狭い庭で、夏野菜を育て始めたのがいちばん最初なんですけれども、素人ながら今年で8年目になるんですね。今は自宅の庭でプランター栽培をやっていまして、あとは農業体験農園っていう貸し農園のグループに参加して、そこで家庭菜園をやっています。

 経験上なんですけど、育てるのが難しい、失敗したって、なってしまう理由として、収穫までの時間が長くかかる野菜を選んでしまっているんじゃないかなと思うんですね。収穫まで時間がかかると、いろんな虫に食べられちゃったりとか、急に台風が来たりとかして・・・。

 例えばスイカは、タネから始めて収穫までに4ヶ月かかってしまうんです。その間に収穫直前に大雨が降って(スイカが)割れちゃったとか、そういうことがあるかもしれないなと・・・。なので、最初のうちは収穫までの時間が短い野菜を選ぶと、作業も簡単で心配いらずで、収穫までを楽しむことができるかなと思います」

写真:荻野千佳

道具はジョウロ、ハサミ、スコップ

※私はマンション住まいなんですけど、まず何から始めたらいいですか?

「ちなみに何の野菜を育てたいとかって、ご希望はあります? 例えば、できれば気軽に始めてみたいなっていう感じもあるかと思うんですけど・・・」

●それが最優先です!(笑)

「そうですよね! 先ほど小尾さんが、豆苗の再生栽培をなさったことがあるっておっしゃっていたんですけど、実はタネからも(栽培は)できるんです。
 たぶん再生栽培ってことは、買ってきたものをチョキンと切って、料理で使って、もう1回伸ばしたっていう形だと思うんですけど、豆苗はタネから発芽させて、いちばん最初の、売っている状態まで育てられるんです。

 それが私の中でいちばん簡単な家庭菜園かなと思っております。これだと100円ショップに水切りかごっていう、ちっちゃな二重に重なった、お皿なんかを入れて乾燥させるような、上部が網で下がかごになっているのがあるんですけど、それがあれば(豆苗の栽培は)できますね」

写真:荻野千佳

●道具は、ほかに何か必要なものはありますか?

「サラダに使いやすいような葉物、ベビーリーフなんかをもし気軽にやりたいなっていう場合ですと、3つの道具だけで始められるんですね。それはジョウロ、ハサミ、スコップ、この3つだけが、まずは道具としてはあれば十分です」

●土はどんなタイプのものを用意したらいいのでしょうか?

「土は、ホームセンターなんかでいっぱい並んでいると思うんです」

●いっぱいありますよねー。

「私も最初はどれがいいのか、わからなかったですね。腐葉土とか赤玉土とか鹿沼土とか、もっと細分作化された、なになに用の土とかって売っていると思うんですけども、プランターに使う土であれば、袋に培養土と書いてあるものがあれば、それには土の中に最初から肥料が含まれているのでベストだと思います。袋に野菜用の培養土と書いてあるものであれば、全然問題ないですね。

 また、培養土の重さに配慮した、軽い培養土もあるんですね。これは運ぶのは楽ちんですごく便利なんです。私も最初はそれをよく使っていたんですが、経験上、便利は便利なんですけれども、背が高くなる野菜、例えばミニトマトなんかを植える時に、プランターに軽い培養土を入れてしまうと、(プランターの)移動は楽なんですけれども、土台が不安定になってしまって、風で倒れちゃうっていうようなこともあったので、軽い土をお使いになる時はご自分の環境によって、プランターが倒れないように、ちょっと縛るなり、何か工夫をなさったらいいかなと思います」

写真:荻野千佳

おすすめはニラ!

※荻野さんおすすめの野菜はありますか?

「めちゃめちゃおすすめは、ニラなんです(笑)」

●ニラ! へぇ〜!

「これも繰り返し収穫できるんですね。収穫のやり方として、発芽して成長して収穫する時に、地ぎわから3センチぐらい残して、ちょきんと切って収穫します。そして「お礼肥(おれいごえ)」って言うんですけど、ある程度肥料を足したあとに、新しい芽が出てくるんです。それがまたもとの高さぐらいになって、また収穫するっていう、そういうのを3年ぐらいは繰り返せるんですよ。

 冬場はさすがにちょっと緑はないんですけれども、私は庭のプランターでいつもニラを育てているんですね。手軽にちょっと庭に出てチョキンと切ってスープに使うっていう感じです。切ったあとにニラ特有の匂いがして、なんか気分が良くなるというか、やってるわ〜みたいな感じで楽しいですね」

(編集部注:いつ植えるのがいいのか、初心者にはわからないことのひとつだと思いますが、野菜全般について言えるのは、春か秋に植えることが多いそうですよ)

イラストレーション:荻野千佳

水やりのコツを伝授

※水やりも初心者には難しいと、よく聞きますよね。基本的に地植えは、土が乾いていなければ、水やりの必要はなし。一方、プランターは水やりが大事になってくるそうです。何かコツのようなものはありますか?

「ポイントとしてジョウロで水やりをする場合は、ジョウロの先についている穴があると思うんですけれども、あれは取り外しできるんです。あの部分を『ハスクチ』って言うんですね。あれを下のほうに水が出るように180度逆にして付けて、葉の上からジャバジャバではなくて、植わっている土の辺りにかけるようなイメージで、水やりなさるといいかなと思います」

●なるほど。葉っぱ自体にはかけちゃいけないっていうことですか?

「そうですね。葉っぱにかけちゃうと泥はねとか、土の中にいる雑菌が野菜の葉っぱに付着しちゃって、病気の原因になるっていうことがありますので、上からじゃなく株もとにたっぷりやるのがコツとなりますね」

●わかりました。水やりは朝とか夕方とか決めておいたほうがいいんですか?

「タイミングと季節にもよるんですけれども、例えば春先にタネまきをして、その時、水やりをするとなると、まだ気温が低いので、午前中のちょっとポカポカした時に、水道水をそのままじゃっと出しちゃうと、水の温度も低いので、できればちょっと(水を)汲み置きして常温になっている水をあげるといいですね。

 野菜のタネって発芽温度っていうのがあるんです。だいたい25度前後なんですが、そこに冷たい水をかけちゃうと発芽率に関わってしまうので、できれば常温のお水をあげたほうがいいかなと思いますね。

 で、逆に6月以降の真夏のようなカンカン照りの時は、朝か夕方が最適ですね。
 朝と夕方、1日2回の水やりは、仕事が忙しくてできないっていう方で、1日1回ならなんとかっていう方には、夕方をおすすめします。
 というのも夕方ですとそのまま夜になりますので、水持ちしている時間が長いわけなんですね。朝(水を)やっちゃうとそのまま、がっと温度が上がって、すぐなくなっちゃうので、夜の間ですと、ゆっくりゆっくりなくなっていくようなイメージなので、夜がおすすめです。

 最後にこれ重要なんですけど、真夏のプランターの水やりは、真昼には絶対していただきたくないことなんですよ。真夏のお昼にプランターに(水を)やりますと、あっという間にプランターの中でお湯になってしまって、野菜が傷んでしまうんですね。なので、絶対に夜か夕方あたりにしていただけたらいいかなと思います」

(編集部注:真夏にプランターへの水やりは要注意というお話でしたが、直射日光が当たるようなベランダは、熱を和らげるためにウッドパネルや人工芝、よしずなどを設置して環境を整えてあげてくださいともおっしゃっていましたよ。

写真:荻野千佳

 また、肥料についてなんですが、最初に肥料を与える「元肥(もとごえ)」と、あとで追加する「追肥(ついひ)」というのがあるそうです。ちなみに、培養土には最初から有機物が入っているので、元肥の必要はないとのことでした)

自然からの贈り物

※野菜作りを始めて、8年ほどということなんですけど、荻野さんは、野菜と向き合っている時に、どんなことを感じますか?

「やはり自然からの贈り物としての野菜は、ありがたいなっていうことにつきますね。やっぱり人間ですから、食べないと生きていけないので、感謝しながら収穫しているっていうところですね。

 あと野菜は成長がすごく早いので、成長している姿に気づいた時・・・数日前は背が低かったのに、あれっ! こんなに伸びているってなった時に、ちょっと恥ずかしいんですけれども、”うわっ! 君は頑張っているね、ありがとう!“みたいなことを、本当に声に出して話しかけてしまうことも、ほかの方がいらっしゃらない時になんですけれども(笑)ありますね」

●もう我が子のような感じですよね〜。

「確かにそんな感じですね〜」

●これから収穫を迎える野菜っていうと、どんな野菜になるんですか?

「まさに今楽しくてしょうがない、収穫期を迎えたなって感じなんですけど、やっぱり夏野菜ですね。代表的なのはトマト、ナス、キュウリといったもので、みなさんも(家庭菜園を)やっていらっしゃる方はもうワクワクが止まらないと思うんですけれども・・・。
 あとは春にタネをまいて収穫が終わったような、春菊のような葉物はもう終わっちゃった頃なので、少し空いている土地があれば、9月までに収穫まで終われるような、新しい野菜を育ててもいいかなと思います」

写真:荻野千佳

家庭菜園は体力がつく!?

※ご自分で野菜を作るようになって、食に対する意識が変わったりしましたか?

「例えばスーパーマーケットで売られている野菜を見て、自分も育てているので、この野菜はアタリかハズレかっていうのが判断できるようになりましたね。

 例えば大根なんですけど、食べる白いところをよく見ると、ちっちゃいくぼみの穴みたいなものが、てんてんてんと並んでいると思うんですよ。あれが両サイドに2列並んでいるはずなんですね。
 その並び方がまっすぐであればあるほど、中の組織も揃っているって目安です。成長の段階で問題なくすくすく育った証なので、そのてんてんのくぼみがまっすぐ並んでいるものを選んでいただけたらと思います」

●覚えておきます(笑)。野菜作りの生活を続けていて、ご自身の中で心身の変化とかもありましたか?

「やっぱり自分で育てて収穫する分、野菜をめちゃくちゃ食べるようになりましたね。旬の野菜をその時期にたくさん収穫することができるので、育て方の勉強に加えて調理法も畑の仲間に聞いたりとかして詳しくなりましたね。

 あと圧倒的に体力がつきましたね。私の場合、畑にいると土を踏んで作業するので、自然に体幹が鍛えられるといいますか・・・。あと自動車を持っていなくて自転車で行きますので、収穫期には行ったり来たりしながら運ぶっていう、まあ楽しい作業の中で自然に体力がつくようなこともあるかなと思います」

荻野千佳さん

●そうなんですね。これから家庭菜園で野菜作り始めてみようと思っている方に、ぜひアドバイスをお願いします。

「自分で育てた野菜を収穫して食べる楽しみはもちろんなんですけれども、野菜を見ていて癒されるとか、仲間や家族で楽しむとか、育てるだけじゃない、いろんな楽しみ方があると思うんですね。遠出しなくてもできる、日常に寄り添ったアクティヴィティなんじゃないかと思っています。

 収穫したてのトウモロコシとか枝豆は、お子さんも好きだと思うんです。甘みが強くて非常に美味しいので、遊びながら食べるっていうような身近な楽しみ方のひとつかなと思うので、簡単ですのでぜひ始めてみていただけたらいいかなと思います」


INFORMATION

『野菜づくり、はじめます!〜マンガと図解でわかる! 一番やさしい家庭菜園の本』

『野菜づくり、はじめます!〜マンガと図解でわかる! 一番やさしい家庭菜園の本』

 野菜作りを始める前の荻野さんに、8年後の荻野さんが野菜作りのアドバイスをするというストーリー仕立てになっています。全編マンガなので、絵を見てすぐ理解できます。また、図解による野菜の育て方や、野菜のミニ知識も掲載。超初心者に向けた野菜づくりの入門書です。ぜひお買い求めください。
SBクリエイティブから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎SBクリエイティブ:https://www.sbcr.jp/product/4815618438/

 荻野さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。体験農園や、日々の野菜作りのレポートも載っていますよ。

◎荻野千佳さんのサイト:https://ogichika.com

デュエットするテナガザル、女性飼育員に恋するゴリラ、焚火にあたるニホンザル 〜霊長類専門の動物園「日本モンキーセンター」の愛すべきサルたち

2023/5/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、愛知県犬山市にある「日本モンキーセンター」の学芸員「綿貫宏史朗(わたぬき・こうしろう)」さんです。

 「日本モンキーセンター」は、公益財団法人が運営する霊長類専門の動物園で、先月末の時点で56種、およそ750頭のサルのなかまを飼育・展示していて、サルのなかまに特化した動物園としては世界最多を誇ります。

 そんな「日本モンキーセンター」の飼育員さんたちがイラストや解説文を手掛けた本『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』を出されたということで、きょうは解説文を担当された綿貫さんに、オスとメスでデュエットするテナガザルや、女性飼育員に恋するゴリラなど、飼育員さんだからこそ知っている、サルたちの興味深いお話をうかがいます。

☆写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』

サルたちを通して、地球と人を研究

※愛知県犬山市には、日本の霊長類学の研究をリードしてきた、現在は名称が変わっていますが、京都大学の霊長類研究所があります。そのお隣にある「日本モンキーセンター」は、実は霊長類研究所よりも早く、60数年前に開設され、飼育員のほかに調査・研究する学芸員がいる、日本の動物園としては珍しい施設です。

 そんな学芸員のひとり、綿貫さんは、1986年生まれ。ご本人曰く、熊本の山奥で育ち、子供の頃から動物好き。そして漫画「動物のお医者さん」に影響を受け、東京農工大学に進学、その後、獣医師の資格を取得。

 現在は「日本モンキーセンター」のほか、京都大学の研究員として「大型類人猿情報ネットワーク」プロジェクトに携わり、日本国内で飼育されているゴリラやチンパンジーなど、貴重な研究対象の情報を集める活動もされています。

 ちなみに綿貫さんは、日本の動物園水族館協会に加盟するおよそ90の動物園を数年前に制覇、海外の動物園にも出かけるほどの動物園マニアで、ご自分で「動物園学研究家」を名乗っていらっしゃいます。

綿貫宏史朗さん

●世界的にも珍しい霊長類専門の動物園「日本モンキーセンター」が目指していることって、どんなことですか?

「やはりサルのなかま、霊長類は、私たち自身もその一員であるということで、私たちにいちばん近い存在の動物たちなわけですよね。

 私たちにいちばん近い、いわゆる隣人というか、そういう動物たちを通して、地球環境ですとか、人がどういうふうに誕生して、どういうふうにこの地球上で生きているのか、そんなことをみなさんに知っていただくために研究をしていく、そういうような場所としてやっていきたいと、そんなことを目指しています」

愛のデュエットをするテナガザル

※先頃発売された『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』は、「日本モンキーセンター」の現役の飼育員さんがイラストを描き、綿貫さんが飼育員さんたちから集めた、とっておきのネタやサルの雑学を原稿化した本なんです。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

 その中からいくつか気になったことをお聞きしていきたいと思います。シロテテナガザルは歌を歌うと書いてありますが、ほんとなんですか?

「はい、シロテテナガザルはテナガザルのなかま、私たち人に比較的近い類人猿と呼ばれる手の長いサルなんですけど、その手の甲の部分がどんな個体も真っ白なんですね。それでシロテテナガザル、白い手のテナガザルってそういう意味なんですけれど、歌を歌うんです。
 テナガザルのなかまはシロテテナガザルに限らず、歌を歌うんですね。オスとメスがペアになってデュエットで」

●へぇ〜〜!

「実はサルのなかまでもテナガザルはちょっと珍しくて、あまり大きな群れとか作らないんですね。オスとメスとその子供たちっていう、人間でいうところの核家族みたいな、そういう単位で暮らしているサルのなかまなんです。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

 で、いわゆる夫婦、オスとメスのペアの絆を確認するためだとか、あるいは単位が非常に小さいので、ご近所関係はあまりよくないんですね。隣の家族にここは私たちがいるところだから、あまりこっち来ないでねって、アピールしているっていうふうにも言われているんです。
 そういうことで非常に大きな声で歌を歌って、オスとメスがそれぞれ違うパートを歌って、重ね合わせてデュエットするという、そういう特徴があるんですよね」

●大声ということは、かなり迫力がありそうですよね。

「はい、テナガザルの中でもいちばん大きなのがフクロテナガザルといって、全身は真っ黒なんですけれど、喉の下に自分の顔と同じぐらいの大きさの喉袋があって、そこを膨らませて声を共鳴させて大きい音を出す。それがサルのなかまでいちばん大きな声を出すと言われているんですね。だいたい4キロぐらい遠くまで聴こえると言われています。

 なので、日本モンキーセンターでもフクロテナガザルが、ちょうどこの収録の直前まで鳴いていたので、収録に影響が出ないかなって心配していたんです(笑)。犬山駅がちょっと離れたところにあるんですけど、その駅前でもたまに風向きによって、声が聴こえたりすることもある、すごく大きな声ですね」

●そうなんですね! 近くで聴いたら本当にものすごく大きな声なんでしょうね。

「そうなんです。園内でガイドしている時に、ちょうどそのデュエットが始まったりすると、私たちのガイドの声が来園者の人たちに聴こえないこともあったりします。そういう時は歌が止むのを待ってから、”これがお聴きいただきました通り、テナガザルの歌です”なんて、そんな話をしますよ」

女性飼育員に恋するゴリラ

●ほかに顔の色が派手なマンドリルというサルがいるんですよね。鼻筋が赤くて、その両脇が水色でとっても綺麗ですけれども、これは生まれた時から派手なんですか?

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

「実は、生まれた直後の赤ちゃんの顔は真っ白なんですね。成長と共にだんだん色がついていって、初めは真っ黒い感じの顔になって、それから成長とともに鼻筋がうっすら赤くなり、顔のこぶのところが青くなる感じです。

 大人のオスですと顔が非常によく目立つんですけれど、金色のヒゲが生えたりとか、あとお尻がピンクから紫にかけた、なんとも言えない絶妙なグラデーションの色になったりとか、非常にカラフルで目立つ 動物ですね」

●顔だけじゃなくてヒゲもお尻も派手なんですね。あと、ニシゴリラのタロウくんには、お気に入りの女性飼育員がいるということで、男性飼育員が一緒にいると怒るっていうふうに本に書いてありましたけど、本当なんですか?

「そうですね。やはりなんか嫉妬みたいなものがあるようなんですね。実はうちのタロウさん、先日4月20日にちょうど50歳になったところで、日本国内のオスのゴリラとしては最高齢なんですよ。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

 非常に長寿のゴリラなんですけれど、実はドイツの動物園で生まれていて、16歳の時に日本に来ているんですね。
 お母さんが育てられなかったということで、50年も前のことなので確かな記録もないんですけれど、女性の飼育員の方が子供のタロウさんを育てたという逸話が口頭で残っています。それで女性の飼育員に特に愛着を持っているというふうに語り継がれています」

●そうなんですね〜。ちゃんとそういうふうに認識しているんですね。

「お気に入りの女性飼育員を取っていきそうな人が近くにいるのは、やっぱりちょっと不安になったりするのかもしれないですね」

焚火にあたるニホンザル

※「日本モンキーセンター」では屋久島に生息するニホンザル「ヤクシマザル」を130頭ほど飼育しているそうですが、その群れが、冬になると焚き火にあたるって、ほんとなんでしょうか?

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

「日本モンキーセンターの冬の風物詩ということで、『焚き火にあたるサル』っていうのを毎年開催しているんです。実は屋久島のニホンザル、ヤクシマザルなんですけれど、今飼育している個体はすべて、犬山市生まれなんですね。屋久島から来た世代から数えると、だいたい8世代ぐらいの子孫たちっていうことになるんです。

 かなり歴史を遡るんですが、大昔この辺に伊勢湾台風という大きな台風が来た時に、近くを流れている木曽川に大量の木材とかが流れ着いたりしたそうです。

 当時ヤクシマザルたちは、ここモンキーセンターの、今ある場所ではなくて、木曽川沿いにあった『野猿公苑』っていうところで飼育をしていたんですね。そこで台風の時の木材を焚き火として燃やしていたら、そこにサルたちがいつの間にか集まってきて、暖を取るようになってきたと・・・。

 火は、焚き火は、本来だったら動物は怖がるはずですけれども、怖いよりも多分暖かくて、いいものだっていう認識になったんでしょうね。それがいわゆる群れの文化っていう形で、親から子に焚き火はいいものなんだよ、みたいな・・・教えはしないですけど、そういうものが個体から個体にどんどん学習して伝わっていったと言われています」

5つの環境エンリッチメント

※「日本モンキーセンター」では飼育方法の工夫のひとつとして、「環境エンリッチメント」という手法を取り入れているそうですね。どんなことなのか、教えていただけますか。

「環境エンリッチメントっていうのは、平たくいうと飼育している動物たちの暮らしを豊かにして、できるだけ幸せになってもらいたい。そのために飼育担当者が行なう、あの手この手の工夫のことを環境エンリッチメントと言っています。

 環境を改変することで、間接的にその動物たちの行動が変わって、それで暮らしが豊かになるという、動物の行動に直接影響させるんではなくて、環境を変えようという、そういうのを環境エンリッチメントと呼んでいます」

●具体的にはどんなことがあるんですか?

「これは本当にいろんな種類があるんですけれども、私たちの動物園では分類をしていて、5つの種類があります。
 ひとつは採食と言って食べ物に関するものですね。どんな動物も基本的に食べ物に非常にモチベーションが湧きますから、例えば1日1回決まった量だけをどさっと与えるのと、何回かに分けて、しかもそれを頑張って探してっていうのでは、食べ物にかける時間が全然違ってきますよね。

 野生だとやっぱり動物は、食べ物を探すために森の中をウロウロするとか、いろんな行動をしているわけなんですけど、動物園だとどうしても上げ膳据え膳になってしまうのを、できるだけそうしないように、野生と同じように食べ物を探す行動をやってもらいたいということで、取り組んだりするんです。そういうのも『採食エンリッチメント』って言っていますね。

 ほかにも飼育している場所、それ自体をいろいろ改変する『空間エンリッチメント』ですとか・・・それから動物たちにはいろんな社会性があります。ひとりで暮らしたり群れで暮らしたり、テナガザルみたいにペアで暮らしたり・・・そういう動物にはその動物それぞれに適した社会的な刺激、ほかの動物と一緒に飼育する、同じ種類だったり別の種類だったり・・・そういう動物との社会的な刺激を作ってあげるという『社会エンリッチメント』ですね 。

 それから感覚、視覚とか聴覚とか嗅覚とか、そういうものを刺激するような機会を与える『感覚エンリッチメント』ですとか。あるいは認知。動物もやっぱり大かれ少なかれ、みんな自分で考えて行動しているわけです。その知能を使うような機会を発揮する『認知エンリッチメント』と、今ご紹介したような5つの種類に分けて実施することが多いですね。

 環境エンリッチメントは、日本の動物園の中ではメジャーな手法になっています。たいていどこの動物園でも飼育動物に対してはやっているという、そういう状況になっていますね」

●さまざまな工夫が施されているんですね。

「例えば、動物園に行ったりした時に、動物を展示しているエリアの中になんか見慣れない人工物みたいなものが入っているぞ、なんていう時は、実はよく観察しているとそれがエンリッチメントのための道具だったりすることがあります。

 動物がそれを使って、いろんな行動が引き出されて、いろんな行動を見せてくれたりするかもしれませんので、動物園に行った時にはただ漫然と動物を眺めるだけじゃなくて、そういう飼育上の工夫がどこかしらに隠されているんじゃないかなと思って見ていただけると、動物園の見方がより面白くなるんじゃないかなと思いますね」

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

(編集部注:飼育員さんたちの大事な仕事のひとつとして、サルたちの健康管理があるそうです。そのためには個体識別が重要で、一頭一頭、顔と名前を照らし合わせて、動きや餌の食べ具合などをチェックしているそうです。サルたちへの愛情がないと続かない仕事ですね)

便利な暮らしの裏側に

※気候変動や生息環境の減少などが野生動物にいろいろな影響を与えていると言われています。綿貫さんがいちばん気になっていることはなんですか?

「やはり人間の活動がサルたちが暮らす環境を脅かしているということで、サルは基本的に暖かい地方に棲んでいる動物なんですけれども、熱帯雨林とかっていう環境が今どんどん壊されているわけですね。
 そういう熱帯の森は、例えば先進国である私たちの普段の暮らしの中で使う、家を建てる木材だとか事務所で使うコピー用紙だとか、そういうものを作るために熱帯雨林の木々が伐採されていると・・・。

 伐採した後、裸になった地面にもう1回、森を育てるのではなくて、我々が普段の食生活の中で意識せずに口にしている植物性油脂、それを採るためのヤシ油のヤシの木を育てるプランテーションになっているんですね。
 私たちの見えないところで、サルたちの暮らしがどんどん脅かされているっていう現状があるわけですね。

 と言っても、今すぐにこの暮らしを全部変えるのは非常に難しいですけれども、どこか意識の片隅で、我々のこの便利な暮らしの裏側に、そういうことが起きているって意識して、日々できるところから、ちょっとずつ行動を変えていくことが重要になってくるのかなと思うんですね。
 そういう我々の活動が野生で暮らしているサルたちの環境を脅かしているのが、気になっているところですね」

●「日本モンキーセンター」のサルたちに会いに行こうと思っている方々に、綿貫さんからここを見てほしいっていうポイントがあれば、ぜひ教えてください。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

「当園、非常にたくさんの種類のサルたちを飼っていて、みんなそれぞれちょっとずつ違うんですね。その違いをよく観察して、体の違い、行動の違いを見て、楽しんでいただきたいですし、できるだけサルたちが幸せに暮らせるようにと、私たちは常に配慮して飼育に取り組んでいますので、動物たちが快適に暮らしている様子を楽しんでいただきたいなと思います。

 そういう様子を含めて、サルたちと同じ時間を過ごしていただいて、彼らが野生で暮らしている環境に思いを馳せていただきたいと、そういうふうなことを願っています」

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

INFORMATION

『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』

『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』

 「日本モンキーセンター」の現役の飼育さんたちが作った本です。サルたちの特徴をよくとらえたイラストが素晴らしいです。飼育員さんだからこそ知っているサルの裏話や、綿貫さんによるサルの雑学は面白いですよ。ぜひお子さんと一緒に見ていただければと思います。
 くもん出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎くもん出版:https://shop.kumonshuppan.com/view/item/000000003396

 公益財団法人「日本モンキーセンター」のオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎日本モンキーセンター:https://www.j-monkey.jp

宇宙旅行の時代がやってきた!〜宇宙日帰りプラン!? 宇宙ホテルに宿泊!? 月面史跡巡りツアー!?

2023/5/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、宇宙開発や宇宙旅行に詳しいフリーエディターの「鈴木喜生(すずき・よしお)」さんです。

 出版社の編集長から、現在はフリーのライター、そしてエディターとして活躍する鈴木さんは、生まれた年の1968年にアポロ8号が史上初めて月の周りをまわり、翌年にはアポロ11号が月面に着陸する偉業を達成。また、小学生の頃に映画「スターウォーズ」や「エイリアン」、「宇宙戦艦やまと」や「銀河鉄道999」などに影響を受けて、宇宙や宇宙船に憧れる少年時代を過ごしていたそうです。

 そして現在は、宇宙に関連する本をたくさん出していらっしゃいますが、宇宙開発の情報を常にストックしておくために、アメリカのNASAや、日本のJAXA、そしてヨーロッパの宇宙機関ESA、さらには、民間の宇宙開発企業が発表するプレスリリースを日々、入念にチェックされているそうです。

 そんな鈴木さんが先頃出された『宇宙の歩き方〜太陽系TRAVEL BOOK』は、これまで人類が宇宙に放った無人探査機などから得られた貴重なデータをベースに書いてあるので、半分はフィクションでも、まったくあり得ない話ではないそうですよ。

 きょうは近未来の宇宙の旅ということで、宇宙旅行日帰りプランや宇宙ホテル滞在プラン、そして月面史跡めぐりツアーのお話などうかがいます。

『宇宙の歩き方〜太陽系TRAVEL BOOK』

無重力体験、ひとり45万ドル!

※本のチャプター1で「宇宙パッケージツアー」として「お手軽日帰りプラン」が3つ紹介されています。そのうち、2つは既に実施されているんですよね?

「この第1章だけは、いわゆるほんまもんと言いますか、ガチの宇宙旅行ガイドなんですね。以前、前澤(友作)さんが宇宙に旅行したじゃないですか。あれが2021年なんですけども、あの頃まではロシアのソユーズっていう宇宙船を使っていたんですよ。

 過去にだいたい延べ12人ぐらいが自己資金でISS国際宇宙ステーションに個人旅行しているんですけども、ご存知の通りロシアがウクライナに侵攻したことで、そのサービスが今止まっちゃっていると・・・。
 では、今どうしても宇宙に行きたい人はどうすればいいかというと、今言われたそのふたつのサービスがあって、ひとつは有名なリチャード・ブランソン氏が立ち上げたヴァージン・ギャラクティック社、ここの『スペースシップ2』という宇宙船があります。

 もうひとつは、みなさんご存知のアマゾンを立ち上げたジェフ・ベゾス氏、彼が立ち上げたブルーオリジン社の『ニューシェパード』というこのふたつが、今お金を出せば、宇宙に行けるツールであるということになっています」

●それぞれどんなツアーなんですか?

「地球のまわりをくるくる周回する、いわゆる地球周回軌道に乗るわけではなくて、例えばボールを空に投げると、そのまま放物線を描いて落ちてきますけども、それと同じ飛び方をするんですね。
 つまりはその宇宙船がいちばん高いところに行ったところが宇宙であると・・・。いちばん高いところで宇宙に到達するんですけど、だいたい4〜5分の間、無重力が体験できるという、弾道飛行って言うんですけども、そういう飛び方をします」

●体験してみたいです!

「非常に時間は短いんですけども、ヴァージン・ギャラクティック社の『スペースシップ2』が、ホームページ にちゃんとお値段が出ていて、(ひとり)45万ドル、1ドル130円で換算するとだいたい5800万〜5900万円ぐらいです。今都内のマンションの平均価格が6000万ちょっと超えているぐらいなんで、マンション1室を買うのは諦めれば、5分間の無重力体験ができるというそんな感じですよね」

写真協力:鈴木喜生
写真協力:鈴木喜生

巨大なバルーンで宇宙旅行!?

※本では「お手軽日帰りプラン」の3つめに、巨大なバルーンに乗って高度30キロから地球を見るツアーが紹介されていて、驚いたんですけど、こんなツアーがあるんですね?

「これ僕、いちばんおすすめです」

●巨大バルーンで・・・!?

「これ実は、高度30キロなんで宇宙には到達しない、つまりは成層圏を漂うんです。一般的に宇宙っていうと、だいたい高度100キロぐらいから上が宇宙とされているんですね。ただ30キロまで上がると、もう上を見ても空が青くなくて真っ暗なんですよ。星が見えるんですよ。で、その下を見れば、例えばISS国際宇宙ステーションから見た時みたいに地球が見えるっていう、その眺めが体験できます。

 もうひとつは、さっきお伝えした宇宙船は打ち上がる時と、降りてくる時にすごくGがかかるんですよ。重力がだいたいいちばん高いと6Gぐらい。つまり寝そべってその上に自分が6人乗るぐらいの重力がかかるんですけど、このバルーンの場合は1Gのまんま。つまりなんの負荷もかからないで2時間かけてゆっくり上がって、高度30キロのところに2時間留まって、また2時間かけて降りてくるんですよ。で、この機内に入るとまずバーカウンターがあって・・・」

●びっくりしました。本に載っていてびっくりです!

「ソファーがあって、普通のトイレがあって、機内は高速wi-fiが飛んでいます(笑)。(スペース・パースペクティブ社の)ホームページを読むと書いてあるんですけど、要するにドリンク、アルコールも飲めるし、軽食もサービスで付くと・・・この前報道されたんですけど、ベンチャー会社の勢いのある社長さんが、これを社員のためにひとつチャーターしたみたいです」

●実際、いつからツアーが始まるんですか?

「来年から本格スタートだったと思うんですけども・・・2024年下期ですね。(料金は)おひとり12万5000ドルなんで、まあ1500万円ちょいなのかな、こちらは。だから高い車1台買うのを我慢すれば6時間遊べるという、お手軽価格です」

ヒルトンが監修する宇宙ホテル!

※『宇宙の歩き方〜太陽系TRAVEL BOOK』には、国際宇宙ステーションISSに接続する、史上初の宇宙ホテルが紹介されています。ほかにも、ホテル大手のヒルトンが監修する宇宙ホテルが載っていました。これはどんなホテルなんですか?

「簡単に説明すると、今NASAはいわゆる国の組織なんで、税金で宇宙開発しているんですけども、徐々に民間に仕事を開放しているんですね。で、在米の企業に宇宙ホテルを作れる会社ありますかって募集をかけて、応募してきてくれた会社のプランを見て検査して、それで良さげなものには補助金を出して開発に当たらせるという・・・。

 今は3社が選ばれて、その3社に基礎設計の協力金を出しているっていう状態で、またその次のステップで審査があるんですけども・・・。だから今アメリカではISSに接続する宇宙ステーションと、あと3機、宇宙ステーションを開発しているということです。

 そのうちのひとつが、ヒルトンが提携しようとしている『スターラブ』っていう宇宙ステーションなんですね。このスターラブ、いちばん面白いのは1回の打ち上げで、もう完成しちゃうと・・・。つまりはモジュールをひとつ 打ち上げて、あとはそこに空気を送り込んで、風船みたいに膨らませるんですよ。で、そこが居住区画になって4人が滞在できるんです」

●定員4名ということなんですね。

「その内装のデザイン、管理をヒルトンと提携してヒルトンがやると・・・。だからこっちはもう本当にお客さん目当てというか、そういう演出が効いている宇宙ステーションということになりますよね」

月面史跡巡りツアー!?

※アメリカの起業家イーロン・マスク氏率いる宇宙開発企業「スペースX」社は、全長120メートルの史上最大の宇宙船「スターシップ」で月のまわりを回るツアーを計画。また、NASAが中心となって進めている国際的な月面探査プロジェクト「アルテミス計画」も注目されています。月は地球人にとって、宇宙開発の象徴のような天体と言えるかも知れません。

 鈴木さんの本に「月面史跡巡りMAP」が載っていて、近い将来、史跡を巡るツアーが現実になるかも知れないと思ったんですけど、こんなツアーがあったら、面白いだろうな〜というのを紹介していただけますか。

「僕は宇宙、宇宙と言っても天文からロケットマニアからいろいろな(タイプがあって)要するに電車マニアもすごく細分化されているじゃないですか。それと同じように宇宙も、すごくここが好きっていうふうに分かれるんですけど、僕はどちらかというと、天体というよりはロケットとか宇宙船が好きなんですね。月に行っても多分、殺風景ですぐ飽きちゃうと思うんですよ。

 ですから、今までにアメリカとかロシアとかソビエトとか中国とかが(月に)いっぱい探査機を送り込んでいて、それが要するに風化しないもんですから、月面は風も吹かないし、空気もないから、その当時のまんまバッテリーが切れた状態でポツンとあるはずなんですよね。

 それを1個ずつ巡るとまあ面白いのかな・・・記念品でちょっと部品を持ってこようかなみたいな・・・要するにトレジャーハントだと思うんですけど、そういうのは面白いかもしれないですよね」

●月面から美しい地球を見たいなって思うんですけど、絶景ポイントってありますか?

「ご存知の通り月って、片面が常に地球に向いているじゃないですか。ずっと同じ面を向けて地球のまわりを回っているんで、そちら側にいると常に真っ青な地球が見られるんですよ。ただその裏側、月の裏側に行くと何が起こるかというと、真っ暗になるわけですね、基本的に。そうするとものすごく星が綺麗に見えるはずなんですよ」

●あ〜そうだ〜!

「それも見てみたいですよね」

火星旅行〜山と峡谷!?

※実はイーロン・マスク氏の「スペースX」社は火星に人を送るプランも進めているほか、NASAも有人の火星探査を計画しているそうです。

 近い将来、月まで行ったら、火星旅行もしたくなりますよね。火星で見逃せないポイントと言ったら、何がありますか?

「火星は見所がふたつあって、太陽系でいちばん高い『オリンポス山』、これがだいたい22キロぐらいの標高があるんですね。だからエベレストの3倍くらいはあるのかな。
 もうひとつは『マリネリス峡谷』、火星のよくある写真を見ると、左下に見えるんですけど、すごく深い亀裂みたいな、傷みたいなのがあるんですよ。そこがすごく深くて総距離が4000キロぐらいある峡谷なんですね」

●巨大な峡谷!?

「はい、今火星のまわりの周回軌道を無人探査機がくるくる、一生懸命いろいろ観察して、観測して調べているんですけども、それの電磁波もしくはレーザー照射で調べたところ、このマリネリス峡谷に水があるらしいということになってます」

(編集部注:火星に水があるかも知れないということですが、もしあれば、今後の宇宙開発にとって、重要な意味を持つそうです)

地球を大切にしましょう

※鈴木さんが宇宙旅行に行くとしたら、どの星に行ってみたいですか?

「僕はね、地球がいいですね!」

●えーっ!(笑)地球ですか!?

「宇宙に行くと現状、お酒を飲めないんですよ。多分、宇宙に行くと血が頭のほうに均等に上がってきちゃうんで、顔がパンパンになって、足は細くなるんですけど、おそらくその状態でアルコールを飲むと、すごく酔っ払うと思うんですね。 あとお風呂に入れないでしょ!」

●はい(笑)

「ただね、1個だけ(行ってみたいのは)木星の衛星で『ガニメデ』っていうのがあるんですね。その表面は、おそらく岩石と氷に覆われているんですけど、中に海があるんですよ。内部海って言うんですけど、ESA欧州宇宙機関がそこに向けて『ジュース』っていう無人探査機を打ち上げたばっかりなんです。

 それを周回軌道から観測して、もしかしたらその海に生命がいるかもしれないということを探索するんですけど、ちなみにそこに(ジュースが)到着するのが8年後なんですね。だから結果を僕が見られるかどうかはわかりませんね」

●いやいや、でもすごいですね。また新しい発見につながるかもしれないってことですね。鈴木さんは地球人として、地球という星にはどんな思いがありますか?

「太陽系のほとんどの惑星、衛星はかなり詳しく分かるようになってきたんですね。最近、写真も撮れているし、探査機も到達しているし・・・やっぱり地球ほどいい星はないんですよ。
 氷ばっかりだったりとか、木星とか土星はガスですからね。表面にほんのりアンモニアが乗っかっているわけですよ、多分行ったら臭いんだと思うんですけど・・・。だからそういうのと比べて考えると、地球みたいにいいところは、おそらくないので、みんな大切にしましょうね、地球を! っていう感じでしょうかね」


INFORMATION

『宇宙の歩き方〜太陽系TRAVEL BOOK』

『宇宙の歩き方〜太陽系TRAVEL BOOK』

 この本には、実際に行ける宇宙旅行パッケージツアーほか、月や火星エリア、水星や金星の岩石惑星エリアなどが豊富な写真やデータとともに紹介。
 QRコードが載っていて、スキャンするとYouTubeで貴重な動画も見られます。NASAが撮ったISSから見るオーロラや夜景、宇宙旅行日帰りプランでご紹介したバルーンから見る景観を動画で再現してあったりと、見所満載です。ぜひチェックしてください。
 G.B.から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎G.B.: https://gbeshop.thebase.in/items/69825180

『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』

『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』

 もう一冊、鈴木さん執筆の最新刊。軌道上の宇宙望遠鏡80機以上の詳細な解説と、最新画像を豊富に掲載した240ページにも及ぶ豪華本です。見たこともない壮大で神秘的な写真に圧倒されます。こちらもぜひ!
 朝日新聞出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎朝日新聞出版:https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=24201

雲博士に聞く、雲の不思議と珍しい雲

2023/5/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、気象予報士の「わぴちゃん」こと「岩槻秀明(いわつき・ひであき)」さんです。

 子供の頃から自然や気象のことが大好きだった岩槻さんは、小学校高学年の時にニュースで気象予報士という国家資格があることを知り、さっそく勉強を始めたそうです。そして絶対に合格するという強い意志のもと、高校2年生の時に、3回目のチャレンジで見事合格!

 そんな岩槻さん、現在は気象予報士、そして自然科学系ライター、さらに千葉県立関宿城博物館の調査協力員としても活躍されています。

 そして先頃、『空を見上げるのが楽しくなる! 雲の図鑑』を出されました。このムック本には、100種類以上の雲の写真が掲載されていますが、そのほとんどが岩槻さんの撮影なんです。

 きょうは雲博士、岩槻さんに雲の不思議や種類、そして珍しい雲のお話などうかがいます。

☆写真協力:岩槻秀明

気象予報士の「わぴちゃん」こと「岩槻秀明」さん

雲のメカニズム

※改めてなんですが、雲はどのようにしてできるのか、そのメカニズムをなるべくわかりやすく解説していただけますか?

「天気の現象で、雲はどうしてできるの?とか、雨はどうして降るの?とか、風はどうして吹くの?って、小っちゃな子供たちからも出てきそうな質問なんですけど、その仕組みを説明するとなると、すごく複雑なんですよね(笑)。なので、いつも大変苦労はしているんですけれども、雲ができるメカニズムはいくつかのポイントがあります。

 まずひとつは空気、その中に目に見えない水蒸気が含まれている。これがひとつポイントですね。空気の中にある水蒸気は空気の温度、気温が高くなるほど、水蒸気をいっぱい持つことができるんですよ。

 で、気温が下がって冷たい空気になると、あまり水蒸気を持つことができなくなるので、持ち切れなくなった水蒸気が追い出されて、小っちゃな水とか氷の粒になって出てくるんですね。ひとつはこれなんです。

 もうひとつは、空気がなんらかの理由で、下から上に持ち上げられると、ふわっと膨らむんですよね。下はすごく空気がいっぱいあって、ぎゅうぎゅうに押し込められた感じなんですけど、上のほうは空気が薄いので広がっていく。まわりから押さえつけられる力がなくなるので、わーっと広がる。で、広がる時にエネルギーを使うんですね」

●エネルギー!?

「はい、膨らむのにエネルギーを使うんですよ。熱のエネルギーを使ってしまうので、使ってしまった分、冷たくなるんです。

 だから今のふたつの前提がありまして、まず空気中に水蒸気を含んだ空気があって、それがなんらかの理由で持ち上げられると、もわっと膨らんで、その時に熱エネルギーを使うので冷やされる。冷えてしまうと、空気は水蒸気をあまり持てなくなるから、その持ち切れなくなった水蒸気が水の粒とか氷の粒になって漂う、それが雲です」

(編集部注:雲の正体は、とても簡単に言ってしまうと、水蒸気が冷やされてできた小さな水滴や、極めて小さな氷の結晶の集まりだそうです)

『空を見上げるのが楽しくなる! 雲の図鑑』

雲は何種類!?

※雲を分類するにあたって、何か基準になるものはあるんですか?

「雲の分類、昔の人はよくやりましたよね。昔、最初にやろうとした人の中には、そんな無駄なことはやめて、別のもっと役に立つことをやれって諌められたっていう話があるくらいで、よくやったなと思うんですけどね。とりあえず今は10種類に分けておりまして、その視点があるんですね。

 まずは浮かんでいる高さ。雲は地上から上空だいたい1万3千メートルくらい、対流圏っていうところで、できるんですけれども、それを3つに分けるんですね。5千から1万3千メートルくらいの間の対流圏上層、それからちょっと被っているんですけど、2千〜7千くらいの対流圏中層、あと2千メートルより低い下層、その3つに分けて、上層にできる雲か、中層にできる雲か、下層にできる雲かっていうのが、まずひとつの視点。

 もうひとつは雲の形というか性質というか、モクモクって上に向かって伸びる性質があるタイプなのか、横にベタ〜っと広がる性質がある雲なのか、あとは筋みたいにシュッシュッシュッてなるタイプなのかという3つ。あと雨を降らせるかどうか、これの組み合わせで10種類になっている感じですね」

羽根雲
羽根雲

●本の中で面白い説明が付いている雲を見つけました。「羽根雲(はねぐも)」って言われている雲がありましたよね。これはどんな雲なのか教えてください。

「文字通り、鳥の羽根みたいな形(笑)」

●それは普通に私たちも見ることができる雲ですか?

「時々出ていますね。筋みたいな『筋雲(すじぐも)』って呼ばれる雲がいっぱい広がっている時に注目して見ると時々できていますね。これがよく出やすいのが飛行機雲ができて、その飛行機雲が時間と共に変化するパターンですかね」

キャッツアイ/猫の目雲

●あと「キャッツアイ」っていう雲もありましたよね?

「ありますね。波頭雲(はとううん)という雲ですね」

●これはどんな雲なんですか?

「これまた、言葉で説明するのが難しい雲なんですけど(笑)」

●さきっぽがくるんって巻いてあるというか、波にようになっていますよね。

「はい、よく言われるのが日本画に出てくる波!」

キャッツアイ
キャッツアイ

●あ〜はいはいはい! まさに波打っている波っていう感じですよね。

「くるん!となった、鎌みたいなというか、それがいくつも並んだ状態で、正式には『ケルビンヘルムホルツ波』っていう舌を噛みそうな名前の風の波、それに雲が巻き込まれてできるものなんですけれども、ケルビンヘルムホルツ波が時間と共にくるっと巻いていますよね。先がどんどん巻いていくんですよ、くるくるくるって・・・。

 最終的には猫の目みたいな形になるので『キャッツアイ/猫の目雲』って言われるんですけれども、そこまでいくまでに崩れちゃうことが多いので、私は綺麗な形の猫の目は見ていないんですよね」

●先ほどもちょっとお話に出ました飛行機雲ですけど、何か定義はあるんですか?

「はい、すごくざっくり言っちゃうと、飛行機によってできる雲なんです。今回のこの雲の本でも使っている国際的な基準があるんですね。雲の分類の『国際雲図帳(こくさいうんずちょう)』っていう、全世界で使われている基準みたいなものがあります。度々改定が重ねられてきて、私が生まれてからつい最近まで、ずーっと同じのが使われていたんですけれど、それが2017年版で改定になったんですね。

 改定前までは飛行機雲って、すごく宙ぶらりんな位置付けだったんですよ。とにかくそれこそ飛行機によってできる雲くらいの位置付けしかなくて・・・今回2017年版できちんと明記されたというか、どうなったかって言いますと、やっぱり10種類のどれかに位置付けることになったんですね。

 氷の結晶でできて、シュッシュッてしているから『巻雲(けんうん)』、人工的なメカニズムでできた巻雲ということに位置づけられました。ただちょっと条件がついたんですよ。飛行機が通ってから10分以上雲として残り続けたら、人工的な巻雲、飛行機の巻雲として認めますよって・・・」

●確かに毎回、飛行機雲って出現するわけじゃないですよね?

「そうですね。空気が乾燥しているとすぐ消えちゃったりとかしますね」

(編集部注:岩槻さんの『雲の図鑑』には、出会える頻度「レア度」がAからDの4段階で表示されています。Aはよく見られる、Bは時々見られる、Cはたまに見られる、そしてDは極めて稀。お話にあった「キャッツアイ」はレア度はCでした)

滝のように溢れ出る雲

※5月から7月にかけて、よく見られる雲はありますか?

「意外に雲って例えば、モクモクした雲は夏の雲で、筋みたいな雲とか羊雲は秋の雲だとか、よくイメージはあるんですけれども、意外に季節的な傾向はありそうでなくてですね」

雄大雲
雄大雲

●そうなんですか?

「そうなんですよ。だから今この季節だから、この雲は出ないなんてことはなくて、多分1ヶ月毎日、丁寧に見ていれば、十種雲形の10種類はちゃんと揃えられると思います。これから夏休みの季節でも十種雲形を集めようと思えば、多分毎日ちゃんと見ていれば、集まると思います」

●自由研究とかいいですね?

「あっ、いいですよね。その中でも5月から7月って梅雨時なので、梅雨にまつわる雲が出やすいかもしれないですね」

●こういう雲が出てきたら雨が降るとか、そういう雲が出てくるってことですか?

「雨雲系ですからね。世間一般的にはあまり嬉しがられない、乱層雲みたいなしとしと雨を降らせるやつ・・・あとは5月くらいだと、まだ冬の名残りみたいな寒波が上空に流れ込んできたりすることがあるので、積乱雲が発達することがありまして、雷雲が見られます。

 5月6月って実は意外に雹(ひょう)が多い季節でもあって、雹の災害に気を付けなきゃいけないんですね。なので積乱雲とかそういった梅雨時の乱層雲とかが比較的よく見られる雲かもしれないですね」

●今まで岩槻さんが見てきた中で強く印象に残っているとか、珍しかったなって思う雲はありますか?

「実はもう数えきれないほどいっぱいありまして(笑)、どれを出そうかってすごく悩むんですけれども、やっぱりいちばん印象に残っているのは、とあるテレビのロケで行った滝雲(たきぐも)。

滝雲
滝雲

 秋の終わりぐらいの冷え込んだ朝に霧が出ることがあるんですけれども、その霧が山と山の窪みの盆地みたいなところに溜まるんですね。その霧がまるで盆地の入れ物から溢れるように、滝のように溢れ出るような感じで動く雲、それを滝雲って言うんですけど、それをテレビのロケで見に行ったんですね。それでロケ日にぴったりと、わーっとダイナミックな光景が見られたのですごかったです」

(編集部注:地形の影響で出現する滝雲、岩槻さんは新潟県の南魚沼で目撃したとのことですが、調べてみると魚沼市にある「枝折峠(しおりとうげ)」が滝雲の有名なスポットで、息を呑むほどの神秘的な光景を見られるそうですよ)

自然と触れ合う、雲をそのきっかけに

※雲は天気の変化や、季節の移り変わりを知らせてくれるメッセンジャーかも知れませんね。

「その通りですよね。まずその季節の変化も感じますし、昔の人はそれで天気の予報をしていましたしね。あとこれからの季節で、いわゆるゲリラ豪雨って呼ばれているような天気の急変、雷雲とか前兆となる雲があります。それを知っていれば、あの雲が出てきたから、ちょっと早めに撤収しようかって逃げることもできますし、まさにメッセンジャーですよね」

●岩槻さんは仕事柄いろんな雲をご覧になっていると思うんですけれども、純粋に雲を見てどんなこと感じますか?

「これは雲の種類とかにもよって変わりますけれども、綺麗な雲を見たら素直に綺麗ってなりますよ。 で、綺麗な雲を見つけた時って、滅多に見られない雲とか憧れの雲を見つけた時って、カメラを構えるんですけど、手が震えるんですよね。だから意外に、あれっ?あれっ? みたいな感じで撮れていないとかなっちゃうっていう、結構冷静なようで感情的に見ているなって・・・(笑)」

●でも、それだけ心揺さぶられるものがありますよね?

「揺さぶられますね〜」

●では最後にこの本『空を見上げるのが楽しくなる! 雲の図鑑』を通して、いちばん伝えたいことを教えてください。

「みなさん、外に出たら・・・なかなか今は、まわりを見渡すとスマートフォンの画面をご覧になっちゃっているかたのほうが多いんですね。それはそれでもいいんですけれども、ぜひ空を見たりとか、あと肌で空気を感じてみたりとかね。

 それから身のまわりの、雲の流れ、風の動き、自然の振る舞いとか、いろいろ感じてみるのもいいと思いますので、外に出た時は自然と触れ合える、雲はそのひとつのきっかけ、ひとつの要素として、ぜひ雲も取り入れてみていただけると嬉しいななんて思っていたりします。
 あと、第二第三の私みたいな雲の図鑑を作るような雲博士が登場して、どんどんこの業界を盛り上げてほしいななんて思っていたりもします」

朝焼け雲
朝焼け雲

INFORMATION

『空を見上げるのが楽しくなる! 雲の図鑑』

『空を見上げるのが楽しくなる! 雲の図鑑』

 岩槻さんが出されたムック本には、100種類以上の雲の特徴が網羅されています。ほかにも雲のメカニズムや眺めるときのポイントなどがわかりやすく解説、写真が大きいので雲の形がよくわかりますよ。マキノ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎マキノ出版HP:https://www.makino-g.jp/book/b620661.html

◎岩槻秀明さんのオフィシャルサイト:http://wapichan.sakura.ne.jp

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