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家族5人で自転車旅! 坂本家「世界6大陸大冒険」続行中!

2023/2/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自転車の旅人「坂本 達(さかもと・たつ)」さんです。

 坂本さんは1968年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、ミキハウスに入社。95年から99年にかけて、4年3ヶ月かけて、自転車で世界一周、43カ国、55,000キロを走破。その後、出版した本の印税で、お世話になったギニアの村に診療所を建てたり、井戸を掘ったりと恩返し、そして国内で社会貢献活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。

 世界一周の旅については以前、この番組で詳しくお話をうかがったことがありますので、ぜひ番組ホームページのアーカイヴをご覧いただけたらと思います

 坂本さんは現在、会社員のかたわら、親子5人、自転車による「坂本家・世界6大陸大冒険」にチャレンジ中です。きょうはそんな大冒険から、四国のお遍路、そしてスペインの巡礼路の旅についてうかがいます。

☆写真協力:坂本達

写真協力:坂本達

四国のお遍路800キロ!

 2015年に8年計画でスタートした坂本家「世界6大陸大冒険」は、およそ1ヶ月、長い時には3ヶ月ほどかけて、自転車で旅をするスタイルで、第1ステージのニュージーランド編に始まり、スペイン、ポルトガルほかのヨーロッパ編、続いてカナダ・アラスカの北米大陸編、そしてネパール、ブータンほかのアジア編などを経て、2022年の第8ステージまで終えています。

 お子さんは男の子が3人。長男の健太郎くんが小学6年生で12歳、次男の康次郎くんが4年生で10歳、そして三男の大和(やまと)くんが3歳。上のふたりは、だんだん手がかからなくなり、だいぶ楽になってきたそうです。

※それではお話をかがっていきます。
 「世界6大陸大冒険」のサイトを見たら、第8ステージまで完了していました。第7ステージは四国に行ったんですよね?

写真協力:坂本達

「そうなんです。この年もコロナで海外が全然無理だったので、このタイミングで日本の文化とか日本の土地をまわるのもいいなと思いました。距離的にも文化的にも四国を一周すると約1000キロ、四国は自転車のルートを整備していたりと、お遍路の文化があるので、このタイミングでちょうどいいんじゃないかなと思って、それで四国を選んだんです」

●2021年ですよね?

「はい、2021年ですね。夏休みです」

●期間はどれくらいだったんですか?

「1ヶ月ちょっとです。徳島からスタートして、高知をまわって愛媛、香川でぐるっと一周っていう感じですね」

●自転車で走った距離はどれくらいですか?

「だいたい800キロぐらいだったかなと思います。実はその夏は台風とか雨とかが四国のほうに来ていて、全く走れない日があったりとか、ビーチに行こうと思っても荒れていたり、楽しみにしていた四万十川も濁っていたりと、ずっ〜と走れない日が続いていました。
 実は大和がまだ1歳半だったので、妻が大和を車に乗せて、サポートカーっていう形でまわったんですね。

 僕と長男と次男は自転車で走って、朝、別々に出発して、途中何ヶ所かで合流してお昼を食べたりして、目的地を大体決めていましたね。ずっと一緒に走ると車のほうもストレスなので、途中途中で会って・・・大和もチャイルドシートでぎゃん泣きしたりしていたので(苦笑)、お兄ちゃんたちがあやしてくれたりとかしながら、時には車に乗って移動したりしていました。本当は1000キロぐらい走れるかなと思ったんですけども、800キロぐらいだったと思います」

写真協力:坂本達

 

●四国のお遍路にはお接待の文化があると思うんですけれど、やはりお世話になったんですか?

「なりました。コロナっていうこともあって、お遍路さんも少なくて・・・例年、特に外国人が多いそうなんですけど、2021年はぜんぜんっていう声をよく聞きましたね。
 その分、お遍路宿に泊まっても、私たちしかいないということもあったりで、子供たちが泊まる料金をただにしてもらったりとか、草引きをお手伝いしたら、もう1泊してっていいよとか、ご飯を特別に出してもらったり、おにぎりを持たせてもらったり・・・そういった文化に触れることはすごく多かったです」

再びスペインへ、巡礼路の旅

※続いて、第8ステージについて。2022年7月から8月にかけて、再び、スペインに行っていたみたいですね?

「そうなんです。実は7年前にも同じ道を走っていたので、2回目になったんですけれども、やっぱり小さい子の安全面、交通事故に合わないようにって考えると、どうしても車が通らない道というのを選んで、なかなか海外では少なかったですね。

 あと前回、子供たちが巡礼者や現地の人にとても励ましてもらって、走ることができた一体感みたいな・・・世界中の巡礼者が集まってきて、最後は家族みたいになって一緒にゴールするっていう1〜2ヶ月の、そういうルートをまたやりたいと思って、それでスペインの巡礼路に行ったんです」

写真協力:坂本達

●どれくらいの走行距離だったんですか?

「旅の期間がちょうど1ヶ月と限られていまして、1ヶ月の間に自転車を(日本から)運んで組み立てて、最後にバラして日本に送るところまでだったので、実質走行したのは3週間ぐらいかな・・・距離にして大体500キロぐらいです。巡礼路自体は1000キロ以上あったりするんですけども、私たちはピレネー山脈を超えた平原が広がるところ、そこの町からだと、だいたい500キロという感じでしたね」

●家族5人で?

「はい、そうです」

●大和くんは、当時は2歳くらい・・・?

「そうですね。2歳半です」

●奥様は不安も大きかったんじゃないですか?

「今回は私の後ろに大和を乗せる感じだったので、妻は自転車の荷物だけで、それほど不安はなかったかな・・・あっ! 暑かったですよね? 日本も。去年は熱波がヨーロッパにも来ていたので、それは大変でしたね」

(編集部注:ちなみに今回のスペインの旅では、自転車4台や装備、ウエアなど、荷物の総重量は130〜140キロほどになったということで、特に海外に行く場合は、大変だろうなと思ったんですが、坂本さん曰く、いろんな意味で覚悟はいるけれど、準備さえしっかりしていけば、海外でも助けてくれるかたはいるので大丈夫ですよと、経験豊富な坂本さんらしいお話がありました)

子供たちの成長

※スペインの旅は、先ほど熱波だったというお話がありましたが、旅の後半に奥様が体調を崩してしまうというアクシデントがあったそうです。そんな状況の中、健太郎くんと康次郎くんがお母さんの自転車を押したり、荷物を持つなど、いろいろ気遣っていたそうですよ。子供たちの成長を感じた旅でもあったんじゃないですか?

写真協力:坂本達

「そうですね。特に健太郎は、小学6年生っていうこともあって、体力がついてきましたね。康次郎が初めて自分で荷物を積んだので、その分、妻の荷物が少なくなったんですが、それでも上り坂(標高が)1300メーターぐらいの峠が2つぐらいありますので、健太郎がもっと荷物を持ってあげるって言って、まだまだ軽いから、まだまだ大丈夫とか言って・・・一回、健太郎の荷物を持ったら、むちゃくちゃ重たくて、えっ! こんなに重たいのを持っているの! みたいな・・・そんなふうに何も言わないのにやってくれたりとか・・・。

 荷物も、毎日移動しますから、パッキングしたりとか、着いたらすぐに荷物を部屋に運び込んで、今まではこれやって、あれやってっていうのを、もう言わなくても全部自分たちで段取りをやってくれるようになりました。

 空港についても自転車の大きい箱を載せたカートを押してくれたりとか、私たち夫婦がやっていたのを子供たちがだいぶ手伝ってくれるようになったので、その辺はすごく成長して本当に助かりました」

●どんどんたくましくなっていきますね! すごいですね!

「はい、ありがたいですね」

●家族5人で、しかも自転車で旅をされていると、いろんな方々から声をかけられたんじゃないですか?

「スペインは本当にいろんな人が当たり前に声をかけてきてくれて、子供たちはもうべらべら喋られるのが嫌だっていうぐらい声をかけられるみたいです。

 一回、スーパーに買い物に行った時に、妻が子供たちとメロンを見ていたらしいんですね。そうしたら、おばちゃんがいたので(妻が)”ちょっとメロン高いわね”って話しかけたら、”子供を連れて自転車で冒険していたら、お金もかかって大変でしょう”って言って、子供たちに1ユーロずつ、お小遣いをあげてくれたりとか・・・。

 あとは公園に行っても、子供たちに声をかけてきてくれたりとか、巡礼者同士もお互い励まし合って、特に小さい子がいるので、“チャンピオン、チャンピオン”って、”お前はチャンピオンだ、すごいな”って声かけてくれたりするので、むしろひとりにしてもらえないというぐらいな感じで(笑)、本当にスペインは暖かかったし、すごく励まされましたね」

写真協力:坂本達

坂本家の旅はまだまだ続く!?

※2015年に8年計画で始まった世界6大陸大冒険は、予定では今年で最終となるはずでしたよね?

「はずだったんですね。さすがに子供も6年生になったら、自分の時間、夏休みとか友達とも遊びに行きたいかなとも思っていたんですけれども、三男の大和が生まれて、年の離れた子がいることで、一緒に冒険にチャレンジしたいって言ってくれているんですね。今年の夏は、どうしようかっていうのも毎日のように話したりしています。
 友達とは学校のあととか週末に遊びながら、冒険は冒険でもうしばらく続けようっていう感じで、父としては嬉しい限りですけどね(笑)」

●子供たちの意思を尊重して、続けるだけ続けていこうという感じですね?

「そうですね、はい。でもだんだん子供たちに体力がついていく一方で、私は体力の維持が大変なので・・・(笑)」

●そうですよね(笑)

「ほかにも時間を手に入れるのが私としてはいちばん難しいところ、大変なところですけど、それに向けていろんなことを調整するようにしています」

●それでもやっぱり旅を続けようって思われるのは、どうしてですか?

「なんでしょうね・・・まず私が純粋にやりたいっていうのもありますし、妻が自転車でなければ、出会えない人たちとの出会いが宝になって・・・例えば四国と北海道は妻が妊娠中だったり、大和がちっちゃくて、サポートカーだったんですけど、(妻が)やっぱり出会いがすごく少なかったと、車に乗っていると出会いが半分ぐらいになってしまうと言っていたんですね。

 やっぱり旅先で出会った人たちとの出会いって、その後もずっと続いていて、普段の生活では出会えない人たちの出会いとか経験とか、そういうものが何事にも変え難いので、子供たちにとってもすごくいい経験になりますね。

 ある意味、教育っていうには違うかもしれないんですけど、異文化を肌で感じて、予定通りにいかないこの自転車のプロセスを、どうやったら解決できるかっていう、答えのないことを家族で話し合いながら進める、そういうプロセスが私は好きですね。
 子供たちもだんだん年を追うごとに自分で決められる、意思決定して距離とか泊まる場所とかを決められるようになったので、それを楽しく感じられる、それもあると思います」

写真協力:坂本達

旅以外の異文化交流

※坂本家のように家族で自転車旅をしてみたいと思った方にぜひアドバイスをお願いします。

「家族と自転車旅ですか・・・そうですね・・・(家族で自転車旅をしているかたは)いないことはなくて、海外のかたはそれこそ1年とか2年、子供を連れて走っていて、旅先で会うと、”あれ? 子供たちは学校どうしているの?”って聞いたら、オンラインでやってるとかホームスクーリングをやっているんだとか・・・。

 現実的な仕事とか学校っていうのはあると思うんですけど、これしなきゃいけないというのも現実にはあるとは思うんですけど、本当にやりたいことが家族での自転車の旅だとしたら、それを中心に仕事もそれに向けて変えて、学校もそれに向けて変えたりとか、そのままで難しかったら、環境を大きく変えてしまうというのが、いちばん難しいんですけど、でもいちばん続けやすいとは思いますね。

 ただそうは言ってもなかなか難しいとは思うんですね。コロナもあけてくると思いますし、海外からのサイクリストも日本に来始めていて、家のほうにも泊めてもらえないかっていう連絡が来たりしているので、そういう人たちを日本でおもてなししながら、一緒に家族同士、自転車で旅をしたりとか、家にホームステイして泊まってもらったりとか・・・。

 自転車旅だけではないと思うんですけど、海外の人との交流って・・・自分たちが海外に行かなくても、週末だけ子供たちに”ちょっと部屋を貸してくれる?”って言って、海外からのお客さんに泊まってもらったり・・・。

 子供たちに、トイレとかシャワーとかタオルとか、使い方を教えてあげないと(海外からの)お兄ちゃんたちが生活できないからって言うと、なんとか案内しながらコミュニケーションを取ってくれたりするんですね。

 自転車に限らず、海外の人と交流したりすることは、だいぶできるようになると思うので、今までと違った環境とかホームステイとか、そういうのもいいんじゃないかなって思いますね」


INFORMATION

写真協力:坂本達

 「坂本家・世界6大陸大冒険」の旅の模様は、オフィシャルサイトに写真とともに詳しく載っています。子供たちの頑張りや成長がよくわかりますよ。ぜひご覧ください。詳しくは、坂本達さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.mikihouse.co.jp/tatsu

 坂本さんは、世界一周の旅の経験を子供達に伝える活動もされています。そのひとつがベネッセのオンライン対話型ライヴレッスン「未来キャンパス」、3月後半から4月に開催予定とのことです。詳しくは以下のサイトをご覧ください。

https://bit.ly/3Gf4UEG

アウトドアで「ととのう」! 自然と一体化できるテントサウナ!!

2023/2/19 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、日本初のテントサウナ専門ブランド「サウナキャンプ」の代表「大西 洋(おおにし・ひろし)」さんです。

 大西さんは、テントサウナを日本のカルチャーにするために日々奮闘中。世界初とされている3層式のテントサウナなど、関連商品を海外から輸入しているほか、ご自身でもテントサウナ専用のアパレルやギアを開発されています。

 そんな大西さんが先頃『All About TENT SAUNA〜テントサウナのすべてがわかる本』を出されました。日本初のテントサウナの専門書といえる本で、基礎知識やノウハウなどが満載。テントサウナを楽しんでいる写真もたくさん載っていて体験したい! そんな気分にさせてくれます。

大西 洋さん

 きょうは自然との一体感が味わえるというテントサウナの醍醐味やノウハウなどうかがいます。

今週は「大西」さんが先頃出された、テントサウナのすべてがわかる本を、抽選で3名のかたにプレゼント! 応募方法は こちらから!

☆写真協力:SaunaCamp.

写真協力:SaunaCamp.

自由さとモバイル性!?

※いきなりなんですが、テントサウナの魅力って何ですか?

「いくつかの側面があるんですけど、ひとつはプライベート・サウナだっていうことですね。世界最小単位のプライベート・サウナって僕らは言っているんです。日本でサウナっていうと、街の中にあるいわゆる公共スペースなので、自分たちが好きなように振る舞うことってなかなかできないんですよね。

 でも本場のフィンランドとかそういった国々だと、基本的に(サウナが)ご自宅にあったりとかするので、好きなタイミングでサウナストーンにアロマ水をかけるロウリュ、あれを自分のタイミングで楽しめたりとか、家族や友達と一緒に入って、おしゃべりを楽しんだりとか、そういうことが自由にできる場所が日本にはなかなかなかったですよね。やっぱり(サウナを)買おうと思うと高いんですよね、ご自宅に作ろうと思うと・・・。

 だけど、テントサウナだったら気軽に買えて、収納もちょっとした物置に置いておけるぐらいで、使う時だけ広げて、男女で一緒に入れる、夫婦で一緒に入れる、恋人と入れる、友達と入れるので、自分のタイミングでロウリュも楽しめる、この自由さが魅力のひとつですね」

●テントサウナ は、やっぱり自然の中で体験できるのがまた魅力なんですよね?

「ふたつ目の魅力がやっぱりモバイル性なんですね。どこにでも持って行けて、どこにでも建てられる、小さいものだと2メートル四方ぐらいのスペースがあれば、そこがサウナになるんで、世界が違って見えるんですよ。

 このラジオの収録スタジオの中にも、物理的にはサウナが作れると思うと、綺麗な湖のほとりに建ててみようとか、綺麗な川の横でやってみようとか、そういうふうに世界が違って見えてくるんですね」

●なるほど。確かにすぐ冷たい水に入れるっていうことで、川とか湖とか海の近くがいいっていうことなんですね。

「いわゆるサウナは、サウナだけじゃなくて、サウナ、水風呂、外気浴のこの3つがセットなので、やっぱり体を冷やす水風呂となる場所が必要なんですけど、自然の中で楽しむとなると、川、湖、海みたいなところでやると、熱々に体を温めたあと、すぐに綺麗な湖に飛び込むみたいなことができるので、これがやっぱり本場の楽しみ方なんですね。

 今まで日本でそういうことを楽しめる場所は、ほとんどなかったので、テントサウナさえあれば、海外の本場のサウナが気軽に体験できるっていうことなんですね」

●確かに川とか湖とか海の近くがいいっていうことは、カヤックやラフティング、サーフィン・・・そういった水遊びのアクティビティとも相性がいいっていうことなんですよね?

「そうですね。僕も実際、釣りとサウナを一緒に楽しんでいたりするんですけど、キャンプ場に行ってテントサウナを建てて、一旦釣りを楽しんで、その間にサウナを温めておくんです。で、ひとしきり終わって、ご飯とか食べたあとにサウナに入って、夜は焚き火を楽しんで、みたいなことができたりしますね」

●贅沢な1日になりますね!

「そうですね」

(編集部注:サウナは、2000年ほど前にフィンランドで始まったとされています。白夜の国フィンランドで、冬の厳しい寒さや労働の疲れを癒すために、生活の知恵として生み出され、現在はおよそ550万人の人口に対して、300万個ほどのサウナがあり、フィンランドでは家を建てる時、サウナを中心に設計すると言われています。フィンランドの人たちは、友人や知り合いを食事に招く時、サウナへも招待するそうです。

 先ほど、釣りとの相性がいいというお話がありましたが、サーフィンも相性抜群で、寒い時のサーフィン大会にテントサウナが一台あるだけで、体を温められるとサーファーには大人気だそうです。

 ちなみにテントサウナの起源は、紀元前5世紀頃までさかのぼるそうですが、現在のようなスタイルは、フィンランドや北方の軍隊が戦時中に利用していた簡易型のサウナがもとになっているそうです。

 大西さんによれば、日本でテントサウナが初めて紹介されたのは、2008年頃で、その後、2016年から2017年にかけて、徐々に話題になり始めたということで、まだまだ新しいカルチャーと言えそうです)

富士山を見ながら、非日常!?

写真協力:SaunaCamp.

※大西さんはいつ頃、テントサウナを知ったんですか?

「僕が初めてテントサウナを買ったのは、2016年です。その頃、本当にサウナから湖に入りたいっていう夢があったんですけど、それが叶う場所が日本になくて、それでインターネットでいろいろ調べていたら、テントサウナというものがあるというのを知りました。
 もともとキャンプをずっとやっていたので、なんとか自分ならこれを使いこなせるんじゃないかと思って、フィンランドから輸入したのがいちばん最初ですね」

●実際、テントサウナをやってみてどうでした?

「なんかちょっと笑っちゃうというか、非日常がすごすぎて・・・いつも行っている、富士山の目の前にキャンプ場があるんですね。本栖湖っていう綺麗な湖があって、そこの前でいつものようにテントを建てるんですけど、その中がサウナになるなんて考えたこともなかったんですね。

 いつも見ている風景がサウナの中からの風景に変わって、サウナの中から富士山と本栖湖を見て、さらにそこに入るっていう経験がちょっと自分の想像の外にありすぎて、笑いが・・・(笑)、もちろん感動と、とんでもない気持ちよさがあったんですけど、ちょっと笑っちゃいましたね、すごすぎて」

●そこからどハマりして、ついにはテントサウナの専門ブランド、サウナキャンプを作られたんですよね?

「そうですね。日本にテントサウナって文化がそもそも全くなかったので、必要な道具もないし、必要な知識もない、どこで楽しんだらいい、どうやって楽しんだらいい、どんなものが必要、みたいなことが全く情報として整理されてなかったんですね。

 僕らも初めて買ったテントサウナは、全部フィンランド語で書かれていたので、何が何だか分からないまま読んでやっていて、結構苦労することも多かったんですよね。なので、日本にテントサウナの文化を根付かせるための活動が必要だなと思って、それで立ち上げたのがサウナキャンプっていうブランドですね」

●そうだったんですね。去年には一般社団法人「アウトドアサウナ協会」も設立されたそうですけれども、この設立の動機とか目的は何なんでしょうか?

「テントサウナ自体が、ありがたいことに人気が出てきて、キャンプ場に行ってもよく見るようになってきたんです。そうなると問題が出てきて、テントサウナってキャンパーの目線から見ると、結構高度なことをやっているんですよね。テントの中で火を扱うってことなので、当然危険が伴うんです。

 もしキャンパーだったら、ある程度経験を積んでから、多分トライする内容なんですけど、テントサウナを楽しむ方々って基本的にはサウナが好きでやっている方々で、アウトドアの知識が全然なかったりとか、危ないことを想像できなかったりとかするんですね。これは結構問題だなと思っていて、安全対策を発信することが必要と考えたのがまずひとつですね。

 もうひとつがマナー問題です。これもやっぱり同じなんですけど、アウトドアを楽しんでいると、例えば釣りをやっている人の横で、水風呂だっていって(川に)ボチャンって飛び込んだら、当然魚は逃げるじゃないですか。そういうことって想像すればわかるんですけど、視野が狭くなっちゃっていると、なかなか気づけなかったりするんですね。要はそこにいる場をみんなでシェアしようっていう感覚ですね。

 焚き火をする人もいれば、釣りをする人もいて、サウナを楽しむ人もいるっていう、みんなでマナーを、気をつけていかないと、テントサウナを禁止しようとかなっちゃうじゃないですか。
 なので、安全もマナーも自分たちが楽しめる場所を守るために必要だなと思っていて、これは社会的意義があるなと思ったので、一般社団法人にしてしっかり安全啓蒙をやっていこうっていうのが設立のきっかけですね」

テントサウナの基本セット

写真協力:SaunaCamp.

※実際にテントサウナをやるときに必要な道具を教えてください。基本セットには、どんなものがありますか?

「まず、テントサウナがテントとストーブとサウナストーン、この3つで構成されているんですね。それ以外に必要なものとしては、中で使うベンチ、それからバケツ、柄杓(ひしゃく)、アロマオイル、あと細かいですけど、耐熱グローブだったり、ペグとハンマーですね。そういったキャンプに必要なものが(テントサウナにも)必要になってくるんですけど、逆に言うとそれぐらいですね」

●テントはテントでも、キャンプ用のテントとはまた違うんですよね?

「普通のキャンプ用のテントには、煙突を付ける穴が開いていないので、専用品じゃないものは、テントサウナとしての使用は基本的に推奨していません。
 (専用のテントサウナ には)吸気口が備わっていたりですとか、特殊な気口があるんですね。サウナをやるために、安全に楽しむための気口が備わっていないものに、DIYとかでやっちゃうと事故につながりやすいので、基本的には販売されているテントサウナを使うのがおすすめですね」

●テントサウナ用のテントにもいろんな形があるんですよね?

「そうですね。ワンポールと言ってポール1本とサブポールで構成されているものから、巨大なドーム状のものとか、大きいものだと20〜30人が入れるものもありますね。一般的なのはドーム状で4〜5人が入れるぐらいのものが、いちばん使いやすいので、一般的にはそれを使うんですけどね。

 大きいテントを使うとリスキングとか、アウフグースって言われている、白樺の枝葉で体を叩いたり、タオルで風を送ったりとか、そういったアウトドアサウナならではのアクティビティも楽しめるようになるので、そういうのもやりたいって人はちょっと大きめのテントを買ったりするのがいいのかなと思いますね」

写真協力:SaunaCamp.

※続いて、道具が揃ったところで、次はどこでやるか、なんですけど、テントサウナを楽しめる場所を探すには、どうすればいいですか?

「基本的には4つ条件があります。ひとつがテントを建てていい場所、それから火を使っていい場所、テントサウナが禁止されていない場所、あと水遊びがOKな場所、この4つが条件になるんですね。

 これを満たしていれば、変な話、怒られないというか、怒られる理由がないなと思って、僕らもやっているんですけど、キャンプ場の方針、基本的にはキャンプ場が多いかなと思うんですね。そういったところで楽しむのがいいのかなと思いますね。
 地方だとお庭に(テントサウナを)建てて、毎日入っているみたいな方もいらっしゃるんで、そういうのは羨ましいなと思います」

●憧れますね〜。キャンプ場に普通のテントでキャンプしてる人もいれば、すぐその隣でテントサウナをしてる人もいるっていう、そういう状況なんですか?

「そうですね。テントサウナがやりやすいキャンプ場に行くと、必ず3〜4組いたりしますね」

●そうなんですね〜。流行ってますね〜!

「そうですね。僕が使い終わったウィスクっていう白樺の枝葉を束ねたやつとか(テントサウナを)終えて、きょう帰るなと思ったら、やっている人たちに”これよかったら使ってください”みたいな感じで、お譲りしたりとかもしてますね」

●テントサウナを楽しむためのコツっていうのはありますか? 温度とか湿度とかの調整がすごく難しそうだなって思うんですけど・・・。

「そうですね。そこは難しくもあり、楽しいところでもあるんで、やっぱり使う薪の割り方ですね。火力調整は基本的に薪でやるので、最初は細目の薪に火をつけて、だんだん温度が上がってきたら、太めの薪を入れてキープして、ちょっと温度が下がってきたなと思ったら、また細目の薪を入れるみたいなことで細かく調整ができるんです。
 それをやっていると焚き火がうまくなるんですね、火の扱いを覚えるようになるので。そこはちょっと難しいんですけど、楽しみのポイントではありますね。

 あとは、季節によっても結構(水風呂の)入り方が変わるんで、例えば冬だと水風呂に10秒ぐらい入ったらもう限界が来るんですね。なので、さっと入って外気浴を長く楽しむようにするとか・・・。
 逆に夏だとずっと泳ぐぐらいな感じで長〜く水風呂楽しんで、体が芯まで冷えたらサウナに帰るとか、そういう細かい調整をするのも楽しいですね」

写真協力:SaunaCamp.

「ととのう」の語源

※テントサウナで、これは絶対やってはいけないという注意事項を教えてください。

「まずはテントサウナの中で寝るのが、いちばんダメですね」

●そうなんですね。

「宿泊は僕らは禁止していて、なぜかというと、やっぱり一酸化炭素中毒の危険性が上がっちゃうんですね。これは本当にみんなでやめていこうって、僕らは言っていて、絶対NG! 

 あとは強風ですね。風速5メートルを超える日だと、普通のテントでも結構倒壊したり吹っ飛んじゃったりするので、そういう時にもし裸同然で、中にストーブがある状態で、風でテントが倒れたら、これは火傷とか火事にどうしてもなるので、風が強い日はやめましょうって、僕らは声を大にして言っているところですね」

●命に関わってきますよね。

「そうですね。そのふたつだけは、やめましょうっていう感じですね」

●ちなみに「ととのう」っていう語源はなんですか?

「これは諸説あるんですけど、いちばん正式には”濡れ頭巾(ずきん)ちゃん”っていう、僕らもよく一緒にサウナに入るんですけど、レジェンド・サウナーの方がいらっしゃって、その方が言い出したのがきっかけなんですね。

 サウナ、水風呂、外気浴を繰り返していると、なんとも言えない気持ちよさになるんですね。これ、なんだろう、今まである言葉ではなかなか当てはまるものがないなっていう中で、大喜利みたいにいろいろ言っていたらしいんですけど、その中で”ととのう”っていうキーワードが出てきて、あ、これかも!ってなったのが広まっていったんですね」

●そうなんですね〜!

「で、”ととのう”も漢字で書かれている場合もあるんですよ。整理整頓の”整”で、これで整うっていう場合もあるんですけど、これちょっと僕ら的にはそうじゃないよねと・・・」

●えっ、違うんですか?

「はい、調律の”調 ”、調べですね。あれも“ととのう”って読むので、さっきからチューニングとか調整みたいなことを言っていると思うんですけど、そういう要素もあるんで、ひらがなで”ととのう”って書くのがいちばんしっくりくるなと・・・。”心と体をととのえる”、マイナスをプラスにするというよりは、全部一旦ゼロに戻すみたいなイメージですね。フラットな状態に戻す・・・。

 サウナ、水風呂、外気浴をくり返した後に気持ちよくなると、心身ともにぼーっとした状態になるというか、いろんな悩みごととか、もうどうでもいっか、みたいな状態になったり、悩んでいたこととか忘れちゃったりとかして、フラットな状態に戻るんですね。これが”ととのう”っていう状態の意味というか・・・」

(編集部注:大西さんは2019年に、サカナクションの「山口一郎」さん率いるカルチャー・プログラム「NF」と、音楽とサウナの融合体験をテーマにコラボ・イベントを開催。プールサイドにテントサウナを設営し、参加者に体験してもらったそうです。参加者からは五感が研ぎ澄まされ、感受性が豊かになったと大好評だったということで、今年もコラボする予定だそうです)

テントサウナの体験施設

※テントサウナの基本セットを揃えて始めるのは、ちょっとハードルが高い気もするんですけど、テントサウナを体験できるような施設はあったりしますか?

「結構あるんですよ。グランピングがブームになっているので、そういった施設に最近(テントサウナを)導入していただくことが増えていますね。千葉だと例えばマザー牧場さんがやられている”THE FARM”というグランピング施設があるんですけど、そこはテントサウナが常設してあるので、泊まりに行ったお客さんだったら誰でも手ぶらで、テントサウナを楽しむことができますね」

●グランピング施設内にテントサウナがあるんですね〜!

「そうですね。結構、最近多いですね」

●水風呂はどうするんですか?

「川とか湖があれば、もちろんそれを使うパターンもあるんですけど、ドラム缶風呂の水風呂版みたいなものがあって・・・」

●それも楽しいですね!

「そうですね。ドラム缶風呂というかドラム缶に水が入っているだけなんですけど(笑)」

●ドラム缶に入ることもなかなかないですよね。

「そうですね。あとはプールを用意されているところもあるんで、家庭用のプールで水風呂代わりにすることもありますね」

●では最後に、テントサウナの伝道師・大西さんにお聞きします。大西さんにとってテントサウナとは?

「テントサウナは、僕は自然と人間の距離を縮めてくれる道具なのかなと思っていますね。僕は今37歳なんですけど、テントサウナがなかったら、こんなに川に入っていたかなってやっぱり思うんですよね。子供の頃は入っていたかもしれないんですけど・・・。

写真協力:SaunaCamp.

 露天風呂とかって、みなさん日本人は好きじゃないですか。でもあれってちょっと自然と一線を引いて、愛でるみたいな感覚だと思うんですよ。でも、テントサウナってある種、自然の中に飛び込んでいく、よりダイレクトに自然と一体化したいっていう行為だと思うんで、そういうふうに自然と、より近くなれる道具なのかなと思いますね」

●ありがとうございます。


INFORMATION

『All About TENT SAUNA~テントサウナのすべてがわかる本』

『All About TENT SAUNA~テントサウナのすべてがわかる本』

 テントサウナをやってみたいと思ったら、ぜひこの本を読んでください。基礎知識やノウハウなどが満載。タイトル通り、テントサウナの全部が分かります。写真がたくさん載っているので分かりやすいし、すぐにでもテントサウナを体験したくなりますよ。日本初のテントサウナの専門書、おすすめです。
 山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2822150370.html

 テントサウナ専門ブランド「サウナ・キャンプ」、そして一般社団法人「アウトドアサウナ協会」のサイトも見てくださいね。

◎「サウナ・キャンプ」HP:https://saunacamp.net

◎「アウトドアサウナ協会」HP: https://outdoor-sauna-association.jp

<プレゼントの応募方法>

『All About TENT SAUNA〜テントサウナのすべてがわかる本』を、抽選で3名のかたにプレゼントいたします。応募はメールでお願いします。
件名に「本のプレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。
メールアドレスはflint@bayfm.co.jp

あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。応募の締め切りは2月24日(金)。当選発表は発送をもって代えさせていただきます。たくさんのご応募、お待ちしています。
応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

アザラシのコミュニケーションは「アザラシ語」!?〜水中で聴こえる不思議な音に迫る〜

2023/2/12 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アザラシの音声コミュニケーションを研究されている「水口大輔(みずぐち・だいすけ)」さんです。

 水口さんは、石川県出身。動物の音声を使ったコミュニケーションに興味を持ち、様々な動物を研究。2016年に京都大学大学院を修了。その後、北海道区水産研究所でトドの研究、そして韓国の研究所で、歌う鳥の研究を経て、現在はPST株式会社で、ヒトの声を研究されています。

 そんな水口さんが先頃『アザラシ語入門〜水中のふしぎな音に耳を澄ませて』
という本を出されました。この本にはアザラシの研究やその調査方法、そして水口さんの奮闘ぶりが記されています。

 アザラシの音声と聞くと、なんとなく陸上で発している声と思うかも知れませんが、実は水中で聴こえる鳴き声のような音なんです。いったいどんな音なんでしょうか。きょうはアザラシ語ともいえる音に迫っていきたいと思います。

☆写真協力:水口大輔

水口大輔さん

水中で音を出すための器官!?

※本を読んで驚いたのが、アザラシが鳴き声のような音でコミュニケーションをとる動物だということ。海洋生物だと、クジラやシャチなどが知られていますが、アザラシもそうなんですか?

「そうですね。意外と知られていないんですけど、アザラシもそうですし、海の動物は音を使ってコミュニケーションをとるやつが多いです。

 というのも、音の伝わる速さ、空気中に比べて水の中は3倍から4倍ぐらい早く音が伝わって、とても伝達の効率がいいということで、アザラシもそうですし、あとはジュゴンとかマナティみたいな哺乳類も音を使ってコミュニケーションをとっています」

●アザラシの音声の研究については、今回初めて知ったんですけれども、以前からある研究分野なんですか?

「音声の研究を広く見ると海外では昔からよくやっていました。ただまあ、基本的には野外で水中マイクを垂らして音を録るだけなので、どんな音が録れているかはわかっているんですけど、誰が鳴いているか、どんなふうに鳴いているかが観察できていないので、結局は謎が多いままですね。

 それで私は直接、目でアザラシを見ることができる水族館で音声の研究を始めることにしました」

写真協力:水口大輔

●水口さんがアザラシを研究するようになったのは、何かきっかけがあったんですか?

「実は私、最初からアザラシの研究をしていたわけではなくて、もともとダニの研究をしていたんです」

●ダニ!? へぇ〜!

「ネズミとかモグラとかコウモリに付いているダニの研究をしていたんですけど、その時にお世話になっていた哺乳類の研究者の先生が、アザラシの研究もされていて、解剖でアザラシの体をさばいて、どんな仕組みかを調べている方でした。

 その方に今回のテーマの、クラカケアザラシの体の中のことを聞いたんですね。空気嚢(くうきのう)っていうアザラシがおそらく音を出す時に使っているであろう器官の話を聞いて、そんな面白い体の仕組みがあるんだと思って、じゃあ実際どんな音を出しているんだろうとか、そもそも誰が鳴いているんだろう、みたいなことを調べたくなって、ダニからアザラシに変えて研究しました」

●そうだったんですね〜。素朴な疑問なんですけど、アザラシはどうやって音を出すんですか?

「実はまだはっきりわかっていないんです。声帯はもちろんあって、空気中では声帯で声を出すんですけど、水の中で果たしてアザラシが何を使って音を出しているかって、実はわかってないんですよね。

 さっき言ったように空気嚢っていう、体の中に空気の袋があるクラカケアザラシだったり、アゴヒゲアザラシも肺の近くというか、首の部分がぷくっと風船みたいにふくれるんですね。おそらく水の中で音を出すために特殊な体の仕組みがあって、それを使って音を出していると思われているんですが、誰もちゃんと調べていないんです」

●研究がまだまだこれからっていうことですね。

「そうですね」

アザラシは耳たぶで見分ける!?

※アザラシの音声に関する研究についてお話をうかがう前に、改めてアザラシとはどんな生き物なのか、教えていただきたいのですが、世界には何種類ほどいるんですか?

「世界で18種類か19種類いると言われています」

●日本では何種類くらいですか?

「日本で見られるのは5種類ですね」

●どんなアザラシなんですか?

「今回、本にも登場するワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシ、クラカケアザラシの3種類に加えて、水族館でもおなじみのゴマフアザラシと、ゼニガタアザラシの全部で5種類ですね」

ゴマフアザラシの幼獣
ゴマフアザラシの幼獣

●それぞれどんな特徴があるんですか?

「そうですね・・・5種類の中でゼニガタアザラシだけは北海道に定住している種類になります。あとの4種類については、流氷が来る時期に合わせて、北のほうから南に下ってくるような種類ですね」

●群れで生活する生き物なんですか? それとも単独なんですか?

「どちらかというと基本的には単独性の強い動物ですね。集団で移動する種類もいるにはいるんですけど、例えば協力して餌をとるみたいな、そういう群れでの行動はしないと言われています」

●その餌となるのは魚ですか?

「これも結構いろいろで、もちろん魚も含まれますし、あとは頭足類(とうそくるい)といってタコとか、あとはちっちゃい生き物でオキアミとかですね。小さいものも獲って食べている種類もいます」

●似たような海洋生物と言えば、アシカとかオットセイがいますが、それらと違ってアザラシの大きな特徴は、どんなところですか?

「アザラシはアザラシ科っていう分類になって、アシカとオットセイについてはアシカ科という別のグループになっています」

●なんか似ていますけどね?

「みんな鰭足類(ひれあしるい)、鰭脚類(ききゃくるい)という言い方をします。同じグループの中にはいるんですけど、その中で別れています。

 アザラシについては、いちばん見た目のわかりやすい特徴は耳たぶですね。アザラシの場合は耳たぶがない、その見た目でアシカとアザラシの区別がつきます」

●耳たぶがないけど、耳はあるんですよね?

「耳は、穴だけ空いているって感じになるんです。アザラシのほうが水の中での生活に、より適用していますので、体が丸くなっていて、あまり陸上で動くのは得意じゃないですね。なので、水族館で芋虫みたいに動いているやつはアザラシです」

●確かにそのイメージはありますね(笑)

アザラシの不思議な音声

※水口さんの本はおもにワモンアザラシ、クラカケアザラシ、そしてアゴヒゲアザラシ、この3種類の研究について書かれています。

おたる水族館
おたる水族館

 調査方法としては、船に乗って知床半島沖で野生のアザラシの調査もされていますが、多くは北海道「おたる水族館」で飼育されているアザラシに密着して得られた成果が記されています。

 アザラシの鳴き声は、水中マイクで録音するわけですが、好奇心旺盛なアザラシがマイクをかじったりするので、防御するために塩ビのパイプでマイクを覆ったりと、いろいろ工夫してやっと録音できるようになったそうです。

 とはいえ、いつアザラシが鳴くかわからず、最初は極寒の中、四六時中、飼育されている水槽に密着。その甲斐あって、夜から朝方によく鳴く、繁殖期にオスからメスにアピールするために鳴く、そしてオス同士の縄張り争いで鳴くことがわかってきたそうですよ。

 そして今回、根気強い調査で水口さんが録音することに成功したワモンアザラシ、クラカケアザラシ、そしてアゴヒゲアザラシの、貴重な鳴き声のデータをお持ちいただきました。ひとつのデータは数秒ほどなので、何回か繰り返しています。

ワモンアザラシ
ワモンアザラシ

まずは、ワモンアザラシです。

(※放送ではここで、ワモンアザラシの鳴き声をオンエア)

●これがワモンアザラシ?

「はい、そうなんです」

●これはどんな状況で、どこで録られたんですか?

「これは水族館で録った音なんですけど、メスの若い個体(アザラシ)が、ちょっと大人のオスにちょっかいを出した時に攻撃されまして、その時に逃げながら、やめてくれっていう感じで出している音ですね」

●なんでやめてくれってわかるんですか?

「噛まれたりとか追っかけられたりしている時に、後ろにのけぞってというか、逃げている時にしか出さない音なんですね」

●音を出しているのはメスなんですね?

「はい、でもこれは性別は関係なくて、オスでも出している音ですし、また野外でも北極の海でも全く同じ音声が録られています」

●へぇ〜〜、ワモンアザラシはどんな特徴があるんですか?

「アザラシの中ではかなり小型の種類になります。北極のほうの海にいるんですけど、産室といって分厚い氷の中で捕食者から隠れて子育てをするというか、とにかく分厚い氷のエリアに棲むアザラシなんです。

 呼吸をするための穴、哺乳類なのでちゃんと陸上で息をしなきゃいけないんですけど、そういう呼吸穴の数がすごく少ないんで、その呼吸穴の周りにアザラシが集まると、呼吸穴を巡って攻防があるというか戦わなきゃいけないと・・・自分が息をするための場所を守らないといけないので、ほかの種類と比べると、私の個人的な印象としては喧嘩っ早いと・・・」

●面白い!

「そういうことで、さっき聴いてもらったような、逃げる時に出る音声がすごくたくさん録音できます」

●そうなんですね。アザラシの中でもちょっと喧嘩っ早いのがワモンアザラシ! 覚えておきます。

「もしかしたらアザラシのファンの方からすると、いやっ! そんなことはない! って言われるかも知れませんが、愛らしい見た目のアザラシです」

クラカケアザラシのオス(知床半島沖)
クラカケアザラシのオス(知床半島沖)

※続いて、クラカケアザラシを聴いてみました。

(※放送ではここで、クラカケアザラシの鳴き声をオンエア)

●ええっ! これもアザラシですか?

「これ、クラカケアザラシの音声ですね」

●テレビとか映画の効果音みたいな感じですけど、これはどういう状況だったんですか?

「クラカケアザラシがいちばん観察されていない種類で、本当にどういう時に鳴いているのかって全くわからない種類なんですよね。

 水族館でも2年間ぐらいクラカケアザラシの音を録り続けていたんですが、結局一回も鳴かなくて・・・だから今、聴いていただいた音声は知床で録った音なので、どういう時に鳴いているかはわからず、音だけが繁殖期に聴こえたことになります」

※続いて、同じクラカケアザラシなんですが、前半と後半では微妙に音が違います。

(※放送ではここで、前半にクラカケアザラシの鳴き声・ベーリング海編。後半にクラカケアザラシの鳴き声・知床編をオンエア)

「2種類聴いていただいたんですけど、前半がベーリング海っていう北のほうの海で録ったクラカケアザラシの音ですね。後半が先ほども聴いていただいた知床の音なんですけど、明らかに2種類の音が違っているんですよね。

 同じクラカケアザラシなんですけど、地域によって音が違う、方言みたいなものがあるということがわかりました」

●アザラシの世界にも方言があるんですね! オス、メスで鳴き方が違うとかはあるんですか?

「それが知りたいんですけど、まだ鳴いている姿を誰も一度も見たことがないので、オスが鳴いているのかメスが鳴いているかもわからないんですね」

オスとメスがデュエット!?

アゴヒゲアザラシ
アゴヒゲアザラシ

※続いては、アゴヒゲアザラシの音声データを聴いてみました。

(※放送ではここでアゴヒゲアザラシの鳴き声をオンエア)

●これ、アザラシですか?

「さっきと全然違うんですけど、これは北極海で録ったアゴヒゲアザラシの音になります」

●なんか花火のような音でもありますし、お化けが出てくるような、怪談の話で使われる効果音のような気もしますし、いろんな音に聴こえますね。

「これ、すごく長くて1分以上続くような音になります」

●アゴヒゲアザラシは、ワモンアザラシとは全然違う鳴き声というか、ピロピロピロ〜という音ですけど、これはどんな状況で録った音なんですか?

「これは北極海で録った音です。先ほども言った通り、観察が難しいので、実際どんな時に鳴いているかはわかってないんですよね。おそらくオスが鳴いていて、自分の縄張りを保持するため、示すためとか、メスへアピールするために使っているのかなと思われるんですが、野生ではなかなかそれがわからないですね」

●水中でこういう鳴き声を出しているんですよね?

「はい、そうですね」

●こういう音が聴こえるんですね?

「はい、マイクを垂らすと、そこかしこでこういう音が聴こえます」

●アゴヒゲアザラシの生態とか習性には、どういった特徴があるんですか?

「アゴヒアザラシに関しては、これも個人的な印象ですが、ものすごくおっとりしているというか、繁殖期以外は複数頭、水族館にいたりしても、全然お互い干渉しないというか、のんびりマイペースなんですね。

 それが繁殖の時期になると急に一変しまして、オスは一生懸命一日中鳴いて、メスも決まった時期だけなんですけど、オスの歌に、オスの音に対して、返事をするような感じで鳴き返すような行動も見られています」

●オスとメスで鳴き方が違うとかは特にないんですか?

「オスだけに特有な音とか、メスだけに特有な音っていうのもあります」

●アゴヒゲアザラシは、オスとメスでデュエットすることがわかったそうですね。

「そうなんです。その音声があります」

●じゃあ、ここでちょっと聴いてみましょう。

「オスとメスが同時に鳴いている音です」

(※放送ではここで、アゴヒゲアザラシのオスとメスのデュエットをオンエア)

●あ〜〜!

「これが今2頭同時に(鳴いています)」

●綺麗にハモってますね! これは意気投合してハモろうぜみたいな、デュエットしようぜ、みたいな感じなんですか?

「そうですね〜そうかなと思うんですけど、なかなかそこはアザラシに聞いてみないとわからないところではあるんですが・・・(笑)、こんな感じで鳴いています」

●すごい! お互いわかってやっているんですよね?

「そうですね。わかっているっていうのはなかなか難しいんですけど、少なくともタイミングを合わせて、あまり無駄に被らないというか・・・基本的には交互にオス、メスと順番に鳴いて、時々息をぴったり合わせてオスとメスが同時に鳴く、そういうようなことをやっています」

水族館で鳴き声を聴くには!?

※アザラシの音声を研究されてきて、今どんなことを感じていらっしゃいますか?

「いちばんはやっぱり未だによくわからんな〜というのが、正直なところなんですけれども(笑)、音のヴァリエーションがとっても面白いですし、今誰が鳴いているか、いつ鳴いているか、どんなふうに鳴いているかが、水族館でようやくわかってきたところなんですね。

 ここからまだまだやりたいことがたくさんあるので、新しくいろんなことがわかっていけばいいなと、やりたいことがもっとたくさんあるなという印象です」

●具体的にどんなことを今後、解き明かしていきたいですか?

「先ほどもおっしゃっていただいたように、繁殖期に相手を探すための音っていうのが通説なんですけど、それだと説明がつかないことが結構あってですね。実は野生で録られている音は繁殖期だけではなくて、全然繁殖期に関係ない時期にもアザラシがたくさん鳴いていることが最近わかってきています。

写真協力:水口大輔

 そうすると結局、果たしてなんで単独で、別に群れで生活するわけでもないのに繁殖にも関係ない時期に鳴くのか、繁殖期じゃない時の音の役割みたいなことがすごく気になるところかなと思います」

●へぇ〜〜不思議ですね、確かに。ぜひ解き明かしてください!

「はい!」

●アザラシが飼育されている水族館はすごく多いと思うんですけれども、今後水族館を訪れるかたに、アザラシのこんなところに注目するといいよ! というアドバイスがあれば、ぜひ教えてください。

「はい、注目よりも何よりも、まずアザラシはほとんど基本的にはゴロゴロしているという・・・(笑)」

●そのイメージあります!

「寝ているイメージがあるかなと思うんですよね。確かにそうで、かなりの時間、寝ているんですけど、意外とじっと待っていると、水の中に入っていろんな面白い行動を見せてくれることがあります。

 なので、まず第一に待つことですね(笑)。じっくりと待っていただくと、アザラシの面白い行動が見られるんじゃないかなと思います」

●音声は発してくれないですよね?

「種類によっては一年中出している音もありますので、ねばっていると聴けるかもしれないです」

●ねばることが大事!

「はい(笑)」

●ありがとうございました。

(編集部注:アザラシに会いたくなったな〜というかた、首都圏では、鴨川シーワルドがおすすめですと、水口さんはおっしゃっていました。現在はワモンアザラシ、ゴマフアザラシ、アゴヒゲアザラシ、そしてゼニガタアザラシの4種を飼育しているので、ねばっていれば、水中で発する音を聴けるかもしれませんね)


INFORMATION

『アザラシ語入門〜水中のふしぎな音に耳を澄ませて』

『アザラシ語入門〜水中のふしぎな音に耳を澄ませて』

 アザラシの研究成果やその調査方法など、興味深い話が満載です。なにより水族館に通い詰めて「アザラシ語」の解明に挑んだ水口さんの奮闘ぶりに研究者魂を感じました。面白いです! QRコードからアザラシの声を聴くことができますよ。ぜひチェックしてください。
 京都大学学術出版会から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎京都大学学術出版会HP:
https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814004393.html

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第11弾!〜「ピープルツリー 」みんなが幸せになるフェアトレード・チョコレート〜

2023/2/5 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第11弾!バレンタインデーを前に環境や人にも配慮したチョコレートをクローズアップ! 

 今回は「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「貧困をなくそう」「働きがいも経済成長も」そして「人や国の不平等をなくそう」ということで、フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」の活動をご紹介したいと思います。

 先日、ピープルツリーの自由が丘店にお邪魔して、広報・啓発担当の「鈴木啓美(すずき・ひろみ)」さんにおすすめのオーガニック・チョコや、フェアトレードの取り組みなど、いろいろお話をうかがってきました。

広報・啓発担当の「鈴木啓美」さん

「ピープルツリー」に込めた思い

 ピープルツリーは、1991年に発足したNGO「グローバル・ヴィレッジ」を母体に、フェアトレード専門ブランドとして、誕生。ものづくりに関して「森を壊さない」「水を汚さない」「空気を汚さない」「人と命を守る」「無駄にしない」という5つの環境ポリシーを掲げ、活動。フェアトレード・アイテムのお買い物を提案しています。

 そんなピープルツリーの広報・啓発担当の鈴木さんは、もともとはピープルツリーの商品が大好きな、いちファンだったそうですが、もっとみんなに知って欲しい、そんな熱い思いが募り、スタッフとして働くようになったそうです。

写真協力:ピープルツリー

※まずは、ピープルツリー というネーミングにどんな思いが込められているのか、お話しいただきました。

「そのままズバリなんですけど、ピープルは人、ツリーは木。でもそれだけじゃなくて、地球環境とか動物とか、生きとし生けるものという括りで考えていただけたら、人も地球もみんなが幸せに暮らせるように、そんな思いを込めて作られたブランドです」

●改めて「フェアトレード」とは、どういうことなのか説明していただいてもよろしいですか?

「フェアなトレード、直訳すると公正な貿易とか、公平な取引と訳すことができるんですけれども、簡単に説明する時は、人と地球に優しい取り組みです、とお伝えしています。

 今、フェアなトレードでないことがありますので、どうやったら関わる人たちがみんな幸せになれるのかを考えて活動しているんですね。なので、貧困問題と環境問題を、ビジネスの仕組みによって解決したいという取り組みが、フェアトレードだと考えています。

 例えば問題は、たくさんの解決策があったほうが早く解決するので、解決方法、手段はいっぱいあっていいと思うんですよね。だからビジネスじゃなくて、例えば寄付とかボランティアとか、そういうことで解決したいっていう取り組みがあってもいいし、あったほうがいい。フェアトレードは物を作って販売するビジネスの中で、貧困問題と環境問題を解決したい取り組みになっています」

●フェアトレードで大事にしていることだったり、実践していることはありますか?

「やはり人を大切にすることですね。環境も大事なんですけれども、働く人たちがちゃんと生活ができて、幸せに希望を持って生きていけることがすごく大事ですので、フェアであること、公平であること、公正であることが、人と人との関係性も作って物作りをしていくこと、そのためにも自然がないと続けることができませんから環境も大事にしていく・・・」

●まさにピープルツリーですね!

「そうですね!」

写真協力:ピープルツリー

手仕事で作られたこだわりの商品

※続いて、自由が丘店で販売している商品について。現在、どんなファッションや雑貨のアイテムを扱っているのか、教えていただきました。

「今この寒い冬のシーズンですので、イチオシは手編みのニットですね。あとはオーガニック・コットンの肌に心地いいウエアですとか、雑貨もザルもあったりカゴもあったりしますし、可愛い動物のモチーフのアイテムがあったりとか、バッグとかアクセサリーとかいろいろあります」

●楽しいですね。いろんな商品があって・・・。主にどこから輸入された商品が多いんですか?

「今ピープルツリーでは18カ国145の団体と、いろいろやり取りをしながら物作りをしています」

●18カ国、例えばどんな国がありますか?

「主にお洋服だとインド、バングラデシュで作っていただいていて、あと編み物だとネパールですね」

●こだわりはやはり自然素材?

「そうですね。環境を大切にするっていうところで自然の素材を、なるべくオーガニックの素材を、としているんですけれども、大事なのはやっぱり入手しやすこともあると思うんですよね。

 流通するのにいろいろ負担がかかるわけですから、入手しづらいと生産が滞ってしまうので、現地で手に入りやすくて、あとは例えば成長が早いとか、環境への負荷がかからないとか、そういう要素も入れて、その土地土地で手に入りやすい天然素材を使っています」

写真協力:ピープルツリー

●一点一点、手で作られているんですよね?

「そうなんです。手仕事をやはり大事にしています」

●判子のようなもので押して作ったウエアもありましたけれども・・・。

「はい、ブロックプリントという手法なんですね。柄を作り出すのに判子でポンポン押すように模様を作っていくんですけど、あれも1色につき、ひとつの判が必要なので、多色刷りする時にはその木の判がいくつも必要になる、本当に手間がかかっていますね」

●すごいですね〜! あとスカーフも手で描かれているんですよね?

「そうなんです。職人さんがアーティストのように筆運びをしてくださって、素敵な絵を描いてくださっていますね」

●味がありますよね〜! 唯一無二ですよね。

「そうですね。手仕事の場合、途上国で物を作っていただいているんですね。フェアトレードでは途上国に住んでいる経済的に立場の弱い方が、ちゃんと自立して生活できるように、仕事の機会を提供することも大事にしています。そういう方々が住んでいる地域は、例えば電気が通ってないとか社会的なインフラが整ってないケースがあるんですよね。

 そんな中ですぐに仕事になる、手を生かすことが大事。手編みだったりとか手刺繍だったりとか、そういうことなんですね。だから大規模な設備投資をしなくても大きな工場を作らなくても、すぐ現金収入が得られる仕事を作り出すためにも、手仕事を大事にしています」

●手仕事だからこそ、ファストファッションとは違った味わいみたいなものがありますよね。

「そう言っていただけると本当に嬉しいです。やっぱり作って、物として販売している以上、素敵だなと思っていただかないと手に取っていただけないので、そこはやっぱり欲しくなる魅力的なものを作る、そこもとても大事、それがピープルツリーの役目でもありますね」

大人気! ピープルツリーのチョコレート

※もうすぐ「バレンタインデー」ということで、ピープルツリーで販売しているフェアトレード・チョコレートをご紹介したいと思います。

 いつ頃からチョコレートの販売を始めたのか、お聞きしました。

「(販売を始めたのが)1994年から1995年にかけてなので、もう30年近くもなります」

●そうだったんですか! きっと見たことあるっていう方も多いと思うんですけれども、何種類くらい販売されているんですか? 

「業務用のチョコチャンクも含めて、今25種類販売をしております」

写真協力:ピープルツリー

●見た目もパッケージも可愛くて、食べ比べしたいな〜なんて思うんですけれども、それぞれどんな特徴があるのか教えてください。

「わかりました。オーガニックでフェアトレードの素材を使っているのは、もちろん全部共通する特徴になっています。そして美味しさの秘密はココアバターですね。口に入れるとすぐとろけるココアバターを贅沢に使っているので、とてもなめらかな口どけを楽しんでいただけます。

 それぞれにフレーバーがあって、フレーバーによって黒糖と砂糖を使い分けたりしているので、味わいを楽しんでいただけます。作っているのはスイスなんですけれども、ミルクチョコレートとか、すごいクオリティなんですね。
 材料は世界中からやってきていて、黒糖はフィリピン、砂糖はパラグアイ、カカオはボリビアやペルーといったところからやってきます」

●さまざまな国から材料を集めているわけですね。どんな味があるんですか? 

「定番のミルク、これは本当に30年前のスタートからあります。ミルクベースのチョコレートでもオレンジ・フレーバーだったり、ヘーゼルナッツやレーズン&カシューがあったりとか・・・あとはカラメル・クリスプ、キャラメルじゃなくて、わざわざカラメル、カリカリしているんですよ。その食感も楽しんでいただけます。

 ミルクを使わないビター・ベースのものもありますし、あとはレモンピールが入っていたりですとか、アーモンドが入っていたり、ザクロのゼリーが入っている甘酸っぱいのもありますよ。ビターは58%カカオのものと、75%のハイカカオのものもあります。珍しいところでは牛乳は使ってないんですけれども、ヘーゼルナッツのミルクを使った植物性のミルク・ベースのチョコレートもありますよ」

●見た目も可愛いからギフトにもピッタリですよね。

「ありがとうございます。フェアトレードのチョコレートだと知らなくても、可愛いって手に取っていただけたり、可愛いから友達にあげるっていうふうにして広まっていくので、ピープルツリーの名刺代わりのチョコレートだと思っております」

チョコレート試食レポ!

写真協力:ピープルツリー

●ではなにか試食させていただいてもよろしいでしょうか?

「ぜひ! 何か気になるフレーバーはおありですか?」

●なんだろう・・・おすすめをいただいてもいいですか。ビターだとハイカカオが気になりました。

「ぜひ食べていただこうと思うんですけれども、普通(カカオ)75っていうと、かなりハイカカオなので、苦いぞって思われると思うんです」

●そんなイメージがありますけど・・・。

「ピープルツリーのカカオは、その中ではマイルドな味わいになっているので、ぜひ食べていただきたいです」

●板チョコのような感じなんですね、長方形で・・・では、いただきます。

「いかがですか?」

●苦みはあるんですけど、でも苦すぎないっていうか、ちゃんとまろやかで美味しい〜!

「嬉しいです!」

●これ、ハイカカオですよね! もっとすごく、うわっ、苦い! っていう感じなのかと思っていました。

「マイルドに作られております」

●ビターじゃないものもいただいてみてもいいですか?

「定番のミルクを」

●牛さん(のイラスト)がパッケージにありますね。それぞれイラストが描かれていて本当にパッケージが可愛いですね。

「何が入っているのか、中のフレーバーがわかるようなイラストを描いていただいています」

●ではミルクですね。

「ダントツのいちばん人気です」

●そうなんですね(チョコレートを割る音があって)

「お〜〜、いい音です(笑)」

●いただきます。う〜ん、甘い! ほっとする味ですね。

「まさにそのほっとするっていうのが、人気の秘密だと思うんです。 いっぱいフレーバーがあって、中身にナッツだったりとかレーズンだったり、いろいろ入っているものもあって、つい私もいっぱい入っているほうがお得感があるわって、そっちばっかり選んでしまった時期もあるんですけど、やっぱり王道のミルクに戻ってくる・・・黒糖のコク! 美味しいですよね」

●甘いです!

「甘いんだけど、余韻はあるんだけれども、嫌な甘さじゃないですよね」

●そうなんです。すっきりしていて・・・。

「これを食べて、コーヒーを飲んでほっとするのが、私はこの寒い冬の待ち遠しい時間ですね(笑)」

●本当に癒されます〜。

写真協力:ピープルツリー

(編集部注:鈴木さんによると、72時間練り上げるスイスの伝統技法により、 ココアバターやカカオなど、チョコの材料が均質に混ざり合うので滑らかさを味わえるし、香りもよくなるとのことでした。

 そしてもうひとつ「ホワイトアーモンド」というホワイトチョコも試食させていただきました。鈴木さんからは、ココアバターの品質がストレートに出てくるので、ホワイトチョコはまずなめて、ココアバターが溶ける感触を味わってから食べるといいですよ、というアドバイスをいただきましたよ)

「カカオ・ポイント」農家支援

※ピープルツリーでは「カカオ・ポイント」というプロジェクトを進めています。どんなプロジェクトなのか、ご説明いただきました。

「もともとスタートしたのは、ボリビアでカカオの木の病気が蔓延したことが理由なんです。病気なので、ほかのカカオにうつっちゃうんですよ。だから伐採して焼却処分しなきゃいけなくなっちゃうんですね。そうすると1割とか2割しか育たなくなって、カカオの収穫がどんどん減ってしまったっていうことが、2012年ぐらいに起きました。

 それで産地をサポートするために始めたのがカカオ・ポイント、板チョコ1枚につき1ポイントにして、10ポイント集めてピープルツリーに送っていただいたら、1本苗木を産地に送るプロジェクトとしてスタートしました。

 で、何年も続けて、今は やっと落ち着いたかなと・・その時に植えたカカオの木がすくすくと育っているので、今度は違うプロジェクトにしようということで、今はコスタリカのカカオ農家を支援するような取り組みにしています。

 ピープルツリーのチョコレートは、すべてオーガニックな素材を使っているんですけれども、 オーガニックにするには様々な条件があるんですよね。 今まで普通の作り方をしていたのを、ちゃんとオーガニックの作り方にしようって切り替えることがやっぱり必要になってくるので、どうやったらちゃんとオーガニックで育てられるのかとか、そういうこと学びながら(カカオの木を)育ててもらうので、その支援をするようにしています」

(編集部注:ピープルツリーのチョコの購入は、ピープルツリーの通販サイトをご利用くださいとのことです。ちなみに千葉県内でも扱っているお店はありますので、いずれも詳しくは、ピープルツリーのオフィシャルサイトを見て、チェックしていただければと思います)

エシカルウエディング!?

写真協力:ピープルツリー

●ほかにもピープルツリーでは、エシカルウエディングも提案されています。お店に白いドレスが飾られていて、私も新婚なので気になったんですけれども・・・。

「気になりますよね」

●これはどんなことなんですか? エシカルウエディングというのは?

「はい、結婚式はやっぱり人生の中でも最大級に幸せなことだと思うんですよね。だから幸せのお裾分けではないんですけれども、作ってくれた人も幸せなアイテムを使ってほしいなと思います。

 式の会場に来てくださった方も、結婚されるおふたりの幸せももちろんのこと、それに関わる人たちを広げてみると、ウエディング・ドレスであったりとか、いろんな小物とか、そういうものを作ってくれた人がちゃんと幸せになれる、そんなアイテムを使っていただきたいなっていうのが、エシカルウエディングですね」

●ドレスだけじゃなくて、引き出物とか・・・。

「はい、カードとか手すき紙の、味のあるカードがありますので、そういうのを使っていただいたりとか・・・。あとは例えば食材として、ピープルツリーのココアパウダーとかコーヒーとかチョコレートとかを使っていただいて、それを式の時に出してくださるカップルの方もいたりとか・・・。最後にプチギフトを出口でお渡ししたりしますよね。そういうのにチョコレートを使っていただいたりしています」

●いいですね〜!

フェアトレードは1枚のチョコレートから

※では最後に、環境や経済、人権など幅広い分野にかかわるフェアトレードに関して、私たちはどんなことを心がければいいのか、お話しいただきました。

「まずはそういうことを知ったら、なにかアクションに起こしてほしいと思っています。 例えば今回のフェアトレード・チョコレートも、フェアトレードを知ったらまず食べてみる、フェアトレードのチョコってどんななんだろう、誰が作ってくれたんだろう、どんなふうに作られたんだろう、そういうことに思いを馳せるところからスタートしていただけたら嬉しいなと思います。

 社会的な課題は続けていくのがしんどくなっちゃうというか、自分ひとり何ができるんだろうとか、自分ひとりが頑張っても意味がないんじゃないか、みたいな無力感を感じることがもしかしたらあるかもしれないんですけれども、やっぱりひとりひとりの力ってすごいものがあると思うので、続けるっていうのも大事ですよね。
 そのためには自分自身も楽しいっていうことがすごく大事だと思うので、美味しいとか可愛いとかおしゃれとか、そういうところから始まって、生活の中に取り入れていただけたらいいかなって思っています。

●フェアトレードの商品は、お値段的にちょっと高いんじゃないかって思う方もいらっしゃると思うんですけれども、そんな方にはどんなお声がけをされますか?

「そうですね。高いというのが何と比べて高いのかって言った時に、安すぎるものと比べて高いと思っていないかってことをまずお伝えしたいなって思います。

 安く売ることができる背景に、例えば作っている人たちが生活できないような搾取をされているんじゃないかとか、安全面とか健康面とかでの配慮がされてないんじゃないかっていう、そういう可能性もあるわけですよね。だからどうしてこの値段で成り立つんだろうって、ちょっと疑問を持っていただきたいなっていうふうにも思います。

 いきなりすべてをフェアトレードのものにっていうのはなかなか無理だし、すべてのアイテムを賄えているわけではないので、それだと息が詰まっちゃうと思うんですね。ぜひご自身の関心のあるところからスタートしていただくのがいいのかなと。
 1枚、本当に味わえるチョコレートを食べてみる、そうなると物との付き合い方が変わってくると・・・自分の生活も、チョコレートの枚数は減ったかもしれないけど、豊かさは増すかもしれないですよね。そういうふうにして工夫するといいのかなって思います」

写真協力:ピープルツリー

INFORMATION

 ピープルツリーは、発展途上国の生産者=パートナーのスキルアップや資金、さらには現地の学校運営など様々な支援をしている「世界フェアトレード連盟」に加入しています。

 フェアトレードの商品かどうかを見極めるポイントとしては「世界フェアトレード連盟」の認証マークがあるか、ないかがお買い物をするときのひとつの目安になるとのことです。ほかにも、認証マークがなくても、フェアトレードの商品が販売されているケースもありますので、鈴木さんのアドバイスとしては、確かめる意味でもお店の人に、どこでだれが作った商品かを尋ね、そのストーリーを知ると、大事にしたい気持ちが生まれてくるのでは、ということでした。

 ピープルツリーでは、フェアトレードをひとりでも多くのかたに広めるために、「フェアトレードの学校」というプログラムを実施しています。今月2月は26日の開校予定です。

 ピープルツリーで販売されているオーガニックチョコはチョコレートのほんとうの美味しさを味わえますし、パッケージが可愛いので、プレゼントにぴったり! おすすめですよ。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎ピープルツリーHP:https://www.peopletree.co.jp/

サンゴが教えてくれる〜10万年分の記録が残された島

2023/1/29 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、喜界島サンゴ礁科学研究所の所長「山崎敦子(やまざき・あつこ)」さんです。

 山崎さんは北海道・北見市出身。北海道大学大学院修了。当初は古生物や地質学の研究をされていたそうですが、サンゴの生き方や美しさに魅せられ、サンゴやサンゴ礁の研究へ。現在はサンゴの、ある性質に着目して研究を続けていらっしゃいます。実は山崎さん、大人になるまでサンゴを見たことがなかったそうですよ。

 喜界島サンゴ礁科学研究所は2014年の設立、日本で唯一、サンゴ礁の研究に特化した施設なんです。

 きょうは喜界島の、注目すべき特徴や研究所で行なっている100年後に残すための活動などうかがいます。

☆写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

山崎敦子さん

世界的にも珍しいサンゴの島

 九州の南、鹿児島と沖縄のちょうど真ん中あたりに全部で8つの島で構成されている奄美群島があります。その奄美群島のいちばん北にある「喜界島(きかいじま)」は、鹿児島県に属し、一周がおよそ40キロ、人口が7,000人弱の島。気候的には海洋性の亜熱帯気候で雨の多く、観光よりも農業が盛んで、島独特の伝統文化や自然がそのまま保存されているような島だそうです。

 そんな喜界島はサンゴの化石で出来ていて、実はある特徴で、世界でも類を見ない島として注目されています。いったいどんな特徴があるのでしょうか。

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

※まずは研究所設立の目的を教えてください。

「私たちは、世界中のサンゴ礁を研究させてもらっているんですけれども、研究者の人たちが研究して、そこで(得た)データとか、みなさんにいろいろお話をうかがったりとかして、(その成果を)大学に持ち帰って研究を続けて、発表は大学とか学術の分野で行なっているんですね。

 私たちがやっていることが、その地域に還元されていないんじゃないかっていうことを感じまして、私たちがお世話になっているフィールドに直接、研究所があれば、私たちの研究成果を地域の人たちに直接お話ししたりですとか、お返しできるんじゃないかなと思って作りました」

●サンゴ礁の研究に特化した施設は、なかなかないですよね?

「そうですね。日本はサンゴ礁に恵まれた国だと思うんですけれども、サンゴ礁の研究でいうと、結構バラバラにみなさん(研究を)されていたりするので、ひとつ集まれる場所があれば、同じサンゴ礁からいろんな視点で、環境を見ることができるんじゃないかなと思っていますね」

●そんな中でも、なぜ喜界島だったんですか?

「私はサンゴ礁を研究している中でも、バックグラウンドが地質学なんですね。喜界島はサンゴの化石で出来た島としては、非常に世界的に有名な島で、たくさんの研究者が訪れているんです。そこに研究所を作ったら、日本のサンゴ礁研究のシンボルになるだろうなっていうのがひとつです。

 あと、熱帯と亜熱帯のちょうど真ん中にあるっていうところで、生態系も環境に対して敏感に反応して変化するなと思いまして、日本のサンゴ礁の変化を捉えるのに、いちばんいい場所なんじゃないかなと思って喜界島にしました。

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

 サンゴ礁が作られる条件が、まずは浅瀬で暖かい海っていうことなんですけど、喜界島の場合は、島自体が地殻変動でどんどん持ち上がるような場所にあって、浅くなってきたところにサンゴが棲み始めて、そのままそのサンゴが海面に持ち上がっちゃったみたいな島なんですね。それを過去10万年間ずっと続けてきているので、10万年間のサンゴ礁の歴史が全部詰まっているということです」

●すごいことですよね!

「すごいことだと思います」

●今現在も、少しずつ流起しているっていう感じなんですか?

「そうですね。その過去10万年間で今、島の高さが200メートルぐらいなんですけれども、平均すると年間2ミリ、地核変動としてはすごいスピードで上がってきていますね」

●へ〜〜〜、サンゴ礁で出来た島は、世界的にも珍しいんですか?

「サンゴ礁で出来た島は(世界には)いっぱいはあるんですけれども、喜界島のように流起するスピードが早いのは、なかなかないですね。私たちが普段見ることのできない年代のサンゴが、そのおかげで見られているっていうのが、世界的にも珍しいところかなと思います」

(編集部注:喜界島は先ほどお話にあったようにサンゴの化石で出来ている島なので、雨が降っても隙間のたくさんあるサンゴ台地に雨水がすぐ染み込んで海に流れ出ていくそうです。なので川はほとんどないそうですよ)

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

サンゴは生き字引!?

※改めてサンゴとは、どんな生き物なのか教えてください。植物ではないんですよね?

「そうですね。いつも小学校とかに行くと、みなさんにクイズを出すんですけど、植物なんですか? 動物なんですか? って・・・石と思っているかたもいらっしゃるかなと思っていて、その3つの性質をすべて持っているのが、サンゴの面白いところかなと思っています。

 分類としては、クラゲとかイソギンチャクと同じ刺胞動物っていう種類なんです。イソギンチャクみたいな形の、その触手の中に植物プランクトンを共生させている特徴があって、それが光合成をして、サンゴにそのエネルギーをあげるっていう仕組みを持っているんですよね。

 暖かい海はすごく栄養が少ない海なんですけれども、彼らが光合成をすることによって、サンゴに栄養を直接与えることができるっていう、うまい体の仕組みを持っている生き物かなと思います」

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

●日本にはだいたい何種類ぐらいのサンゴが生息しているんですか?

「日本には400種類ぐらいあるかなと思いますね」

●そのサンゴたちが集まったのがサンゴ礁っていうことですか?

「そうですね。サンゴ礁は地形の名前なんですけど、サンゴが死んでしまったら、その体の下に作ってきた、私たちは骨って呼ぶんですけれども、みなさんがビーチで見てるような白くて綺麗な骨格ですよね。あれが堆積していって、沿岸から沖にかけて堆積物を作る地形のことを、サンゴ礁って呼んでいるんですよね。

 それを作ってくれることによって、その中にプールのような地形が出来るので、そこにたくさんの生き物が棲めるようになる仕組みになっています」

●サンゴの研究は、具体的にはどういった方法で何を調べて、どんなことがわかっていくんですか?

「私たちは主にサンゴの年輪を使って研究しているんですね。サンゴは樹木みたいに1年1年、年輪を刻みながら成長していく生き物で、その年輪を観察します。

 サンゴが生きてきた期間、大きいものは数百年とか1000年弱くらいまで生きるんです。その間の海の環境がわかるのと、さらにその年輪の中をすごく細かく分析していくと、過去の水温とか塩分とか日射量とか、いろんな情報がサンゴの中に詰まっていて、今私たちが地球温暖化って言っている記録自体も、実はサンゴから明らかになってきた部分が大きいかなと思っています」

●情報量、すごいですね! サンゴって!

「そうですね。海に生息しながら、生きてきた環境を私たちに教えてくれるので、本当におじいちゃん、おばあちゃんのような、生き字引みたいな感じで、お話を聞いているような気分になります」

(編集部注:日本には400種ほどのサンゴが生息しているとのことでしたが、喜界島周辺ではそのうち150種ほどのサンゴが確認されているそうですよ。まさにサンゴの島なんですね)

Coral CO2プロジェクト

※喜界島サンゴ礁科学研究所では2015年から「Coral CO2プロジェクト」を進めていらっしゃいます。どんなプロジェクトなんですか?

「Coral CO2プロジェクトは、サンゴが年輪を作って堆積していく中に、炭素が必ず含まれているんですけれども、その炭素が私たちが排出した二酸化炭素の素性を保存しているんですよね。なので、人が化石燃料を燃やして出した炭素の素性が海にどれくらい溶け込んできたのかのを、サンゴの生きてきた記録から解析するプロジェクトになっています」

●このプロジェクトは、ハワイで進めていらっしゃるですよね?

「そうですね。ハワイは人類の記録の中で、いちばん長く大気中の二酸化炭素の濃度を測っている場所なんです。それでも私たちが持っている記録は60年ぐらいなんですよね。なので、本当に大気の中に二酸化炭素が増えてきたっていう証拠のひとつでもあるんですけれども、それをサンゴに聞くと、その記録が200年とか300年とかに伸びるんですよね。

 まず、スタートとしてハワイで、そのサンゴの記録と私たち人が録ってきた記録を比較することによって、どれくらい大気中の二酸化炭素が増えてきましたっていう証拠と、海の中にどれくらい溶けてきましたっていう記録が、直接比べられるのがハワイだなと思って、ハワイでスタートしました」

喜界島の教育プログラム

※研究所では「キカイ・カレッジ」という教育プログラムにも取り組んでいらっしゃいます。このキカイ・カレッジとはどんなプログラムなんですか?

「私たちが喜界島の中でいろいろ活動させていただく中で、地域の人たちと一緒に
活動に取り組む機会もいただいているんです。それを続けていくと、サンゴとか海とか環境だけに興味がある学生さん以外にも、地域のことをやりたいっていう学生さんだったりとか、環境保全をやりたいっていう学生さんとか、いろんな興味を持った方々が集まってくれるようになりました。

 このちっちゃい島の中で、彼らがひとつプロジェクトを行なうことによって、私たち人と環境がどうやって関わっていけばいいかっていう部分を、ひとつひとつのプロジェクトで、彼らが成功体験というか実体験で学ぶことができるかなと思ったので、『キカイ・カレッジ』っていう名前にしてプログラム化しました。喜界島をモデルにしてプロジェクトに取り組むチャンスを、いっぱい増やそうと思って作ったプログラムになります」

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

●対象は大学生っていうことですか?

「そうですね。大学生・大学院生が主にそのプロジェクトに取り組んでいるんですけれども、さらに今度は彼らが自分たちの下の世代を育てるのも重要だなと思っていて、小学生から高校生までは『サンゴ塾』っていうプログラムがあります」

●サンゴ塾はどんな塾なんですか?

「私たちがこの喜界島に入った時に、いちばん最初に研究者を理解してくれたのが子供たちというか、興味の方向とか知りたいこととか、自然に対してワクワクする気持ちがすごく子供たちと近いなと思って、最初に一緒に研究をするプログラムを始めたんですね。

 そこから夏休みに短い期間、研究者と一緒に研究をする“サイエンスキャンプ”っていうイベントを毎年実施しているんです。さらにお家に帰っても、一緒につながりながら研究をしたいっていう子供たちがいて、じゃあ彼らが一緒に私たちと研究できるプログラムをちゃんと作ろうと思って、今オンラインと、あと来年度も来るんですけども、研究所で一緒に研究する子供たちが参加しているのがサンゴ塾になります」

●子供たちの感性に驚かされることもあるんじゃないですか?

「そうですね。いちばんは、面白いと思ったことにまっすぐに進んでいくので、面白くないことは見向きもしてくれないというか(笑)」

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

●(笑)正直ですね。

「すごく正直だなと思っています。逆にそれを面白いと思って目をキラキラさせて、私たちの話を聞いてきくれたりすると、研究者としてもすごく嬉しいんですよね。 これをワクワクして聞いてくれる人たちがいるんだなっていう、私たちが研究に取り組む原動力にもなっていますね。
 あとはやっぱりすごく鋭いし、感性が豊かなので、子供たちの発言から気づかされることもすごくたくさんありますね」

(編集部注:現在、サンゴ塾は春と夏に開催予定、春は奄美群島を中心にいろいろなサンゴ礁に出かける予定、夏は喜界島をフィールドに実施するそうです。

 参加した子供たちに、サンゴの化石にはいろいろな情報がつまっていることを説明すると、さっきまでただの石のように見えていたものが突然、宝物に変わり、目をキラキラ輝かせてサンゴの化石を探してくれるそうですよ)

「100年後に残す」活動

※喜界島サンゴ礁科学研究所として、今年、特に取り組んでいきたいことはありますか?

「私たちが科学の世界で積み上げてきたものを、次の世代に残さないといけないなっていう思いが強くて、弊所のスローガンは『100年後に残す』ですけれども、つないでいってくれる人たちをどんどん増やしていきたいなって考えています。

 『キカイ・カレッジ』とか『サンゴ塾』のプログラムに参加してくれるみなさんを増やしていきたいと思いますし、喜界島でやってきたことが世界の基準、モデルみたいになってくるような気がしているので、私たちの経験をいろんな地域に拡大したりとか、伝えていく活動に特に力を入れていきたいなと思っています」

●山崎さんご自身の研究で、何か明らかにしていきたいことはありますか?

「来月はタヒチに行くんですけれども、私は今、ポリネシアにどうして人が渡ることが出来たのかっていう研究をしているんですね。
 1000年前に、1000キロ離れたすごく遠い島に旅をした人たちがいて、それがポリネシアの人たちの祖先になると思うんです。その人たちが渡っていったきっかけが、もしかして気候の中にあるんじゃないかなって思っています。サンゴの気候の記録と人の記憶を融合させて、新しい発見をしたいなっていうことで、今取り組んでいるところです。

 それは多分サンゴが、私たちの記憶と同じ時間=スケールを記録してくれているから出来ることかなと思っています。サンゴが客観的に海の環境を記録してくれていることが、私たちの行動の理由だったりとか、私たちがどういうふうな将来を選択してきたか、その背景になっているような気がするんですよね。

 なので、サンゴが教えてくれる環境の変化自体が、人がどういうふうに生きていったらいいかを教えてくれるような気がするので、人とサンゴをつないでいくような研究を、これからもしていきたいなと思っています」


INFORMATION

喜界島サンゴ礁科学研究所

写真協力:喜界島サンゴ礁科学研究所

 ぜひ山崎さんの研究、そして喜界島サンゴ礁科学研究所にご注目ください。研究の成果や教育プログラム「キカイ・カレッジ」そして「サンゴ塾」については研究所のオフィシャルサイトをご覧くださいね。

 研究所では、活動をサポートしてくださる会員を随時募集しています。正会員で会費は年5,000円です。ぜひご支援ください。また、研究所では宿泊できる「サンゴ・ロッジ」や「サンゴ・カフェ」も運営。いずれも詳しくはオフィシャルサイトを見てくださいね。

◎喜界島サンゴ礁科学研究所HP:https://kikaireefs.org

動物心理学〜ネコの心を読み解く

2023/1/22 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、気鋭のネコ心理学者「髙木佐保(たかぎ・さほ)」さんです。

 髙木さんは1991年生まれ。同志社大学卒業後、京都大学大学院を経て、現在は日本学術振興会と、麻布大学の特別研究員として活動中。イエネコを研究対象にされていて、2016年に発表した論文が海外のメディアでも取り上げられ、話題になりました。2017年には業績が評価され、京都大学・総長賞を受賞されています。

 ネコ好きな髙木さんは現在、兄弟のネコを飼っていて、一匹は食いしん坊、もう一匹は運動能力が優れていると嬉しそうに話してくださいましたよ。

 そんな髙木さんがおよそ10年にわたる研究をまとめた本『ネコはここまで考えている〜動物心理学から読み解く心の進化』を出されました。

 ネコの心理学とは!? イエネコの優れた能力とは!? じっくりお話をうかがいます。

☆写真協力:髙木佐保

髙木佐保さん

ネコの心理学とは!?

●髙木さんはネコ心理学者でいらっしゃいます。 こちらの勉強不足で大変恐縮なんですけれども、動物に心理学という研究分野があることを初めて知ったんですが、心理学ということはネコに心があるということですか?

「人間の心理学を想像すると、言語化した心の働きとかを想像されるかと思うんですが、動物に言語がないことから、そういうふうな心が研究しづらいんじゃないかって思われると思うんですね。

 私たちがやっている心理学は主に認知能力に関してです。例えば記憶能力ですとか、あとは飼い主さんをどういうふうに認識していますかっていうことを調べています。そういう証拠は蓄積されてきていますので、ネコにも心はあるっていうふうに考えています」

●髙木さんのご専門が「比較認知科学」ということなんですが、どんな学問なんでしょうか?

「簡単に言うと、心の進化を探る学問になっています。 それをどういうふうにして探るかというと、現存する様々な動物の心とか認知能力を比較することで、どういう動物がどんな心を持っていますか、っていうのをひとつひとつ研究していって、心の形成にはこういうことが影響しているんだっていうことを検討していくような学問です」

『ネコはここまで考えている〜動物心理学から読み解く心の進化』

●興味深いですね〜。髙木さんは昨年『ネコはここまで考えている〜動物心理学から読み解く心の進化』という本を出されました。 私も読ませていただいたんですけれども、まさにタイトルの通り、ネコってここまで考えているんだっていうことに驚きました。
 いろいろな調査結果が載っていて、この本を読んだあとにネコを見ると、より愛おしく感じられそうだなと思ったんですけれども、研究の対象がいわゆるイエネコなんですよね。イエネコに絞った理由は何でしょうか?

「研究室や実験室で飼育されているネコを対象にせずに、家庭で飼育されているイエネコを対象にしているんですけども、その理由としてはやっぱり、人との生活の中でどういうことを学習していますかっていうのを明らかにしたかったので、人に飼育されているようなネコに限定して、今は研究を行なっています」

(編集部注:人間がネコと生活を始めたのはいつ頃か、髙木さんにお聞きしたところ、最古の資料によるとおよそ1万年ほど前で、貯蔵している穀物をネズミなどの食害から守るためにネコを導入。その後、見た目の可愛さもあって、愛玩動物になっていったのだろうとのことでした。
 ちなみに、イエネコの祖先はアフリカやアラビア半島に生息するリビアヤマネコ、別名アフリカン・ワイルドキャットだそうです)

イエネコは同居するネコの名前を認識!?

※髙木さんはイエネコを研究対象にされていますが、研究するとなると、たくさんのイエネコが必要ですよね?

「そうですね。その研究にもよるんですけど、ひとつの研究につき、大体50匹ぐらいは必要にはなってくるんですね」

●どうやってイエネコを集めていらっしゃるんですか?

「地道な営業活動を行なっていて、初期の頃だと知り合いの、知り合いのネコちゃんを人づてに聞いて、協力してもらえませんかって頼んで行なわせていただくっていうふうな形でしたね。最近はメディアで研究を紹介してくださって、それを見てくださった飼い主さんが、こういう研究に参加したいです! っていうふうに応募してくれるかたも増えてきてはいますね」

●この本にまとめるまでに10年近くイエネコを研究されているということですけれども、トータルでいうと何匹ぐらいのネコを調べたんですか?

「そうですね・・・(笑)難しいですけど、データになっていない個体も含めると500匹以上は調べているかなとは思いますね」

●イエネコの研究では、どんな環境で飼われているかも重要になってくると思うんですけれども、1匹で飼われているとか、髙木さんのように兄弟ネコを飼っているとか・・・そういうのでやっぱり変わってくるんですか? あとネコカフェとかもありますよね?

「そうですね。私の最近の研究からも、それぞれ1匹飼いとか複数飼いとか、ネコカフェのネコちゃんたちで行動が違うことはわかってきていますね。 それぞれの環境で何を学習しているのかとか、何が重要なのかっていうことが環境ごとに違うので、行動の違いが出るのかなと思います」

●行動の違いが出るってことは、周りの環境からそれぞれネコちゃんたちが学習しているっていうことですか?

「そうですね。具体的な研究でいうと、私の最近の研究から家庭で飼育されているネコは、同居するほかのネコちゃんの名前を認識していることがわかったんですね。その認識はネコカフェのネコちゃんでは、そういう認識はしていないんじゃないかっていう結果が得られていますね」

●自分以外のネコのことを認識はしているけど、ネコカフェのネコだと名前までは認識していない・・・それは家で飼われているネコと何が違うんですか? 

「名前を呼んで、そのネコちゃんが反応するのを(ほかのネコが)観察することで、そのネコの名前を覚えていくと思うんですけど、ネコカフェのネコの場合は飼っている数がすごく多い・・・30匹以上とかで飼われているネコカフェさんもありますし、お客さんがそれぞれネコちゃんの名前を呼んでいる状況なので、特定のニックネームがもしかしたらないのかもなっていうふうなことは考えていますね」

飼い主さんの声を記憶!?

※髙木さんはイエネコの「認知能力」に関する研究で国内外から注目されています。改めて、ネコの認知能力について解説していただけますか。

「はい、私の調べている認知能力は、実はすごく身近な能力で、飼い主さんをネコちゃんがどういうふうに認識していますかとか、人の言葉をどの程度理解していますかっていうことを調べています」

●飼い主のことはもちろん認識はしているんですよね?

「そうですね。飼い主さんの声を、知らない人の声と区別しているっていう研究ですとか、あとは飼い主さんの声を聞いた時に、飼い主さんの顔を想像しているっていう研究などが明らかになっていますね」

●ネコって気まぐれだったり、ちょっと小悪魔的な要素もあるというか、人間が振り回されるようなイメージもありますけれども、ちゃんとネコちゃんは考えているんですね。

「そうですね(笑)。飼い主さんのことはちゃんと認識して、気にしてはいるみたいですね」

●飼い主の声は、記憶しているってことですか?

「飼い主の声も記憶していると思います」

●例えば、飼い主のお友達が来て、〇〇ちゃん! ってネコちゃんを呼んだとしても、ネコは、あっ! いつもの声じゃないとかわかるんですか?

「そうですね。声だけでちゃんと判別していることはわかっていますね」

●飼い主の声を覚えているということなんですけれども、どうやってそれはわかったんですか?

「スピーカーを使った研究なんですけど、知らない人の声をまず4回再生するんですね。知らない人の声で、ネコちゃんの名前を呼ぶ音声を4回再生して、4回再生する中で、最初はネコちゃんの反応は、おっ! ていうふうな反応を見せるんですけど、だんだん1回目、2回目、3回目、4回目と続くうちに反応の強度っていうのが下がっていくんですね。

 で、5回目に飼い主さんの声で、ネコちゃんの名前を呼ぶ声を再生すると、下がっていった反応強度が、また、おっ! っていうふうに上がるっていうことがわかりました。そこから飼い主さんの声と、知らない人の声を区別しているんじゃないかっていうことが示唆されましたね」

●ちゃんと聞き分けているんですね〜!

「そうですね」

●それは飼い主にとって嬉しいですよね!

「そうですね。ちゃんと聞いています(笑)」

●この本を読んで改めて気づいたんですけど、ネコって狩りをする動物なんですよね。その狩りも「視覚」ではなくて「聴覚」を使うっていうことに驚いたんですけれども、音で獲物の位置がわかるっていうことですか?

「そうですね。やっぱりネコって聴覚の能力がすごく発達していて、見ていてもわかると思うんですけど、耳が左右別々に動いたり、その動く角度とかも360度近く動いたりするんですね。そういう耳を見ていてもわかるんですけど、ネコって非常に聴覚が優れていて、その耳で獲物の位置もちゃんと音から把握しているってことがわかっています」

写真協力:髙木佐保

ネコは聴覚動物!?

※イエネコが窓のそばで、遠くを見ながら、物思いにふけっているような写真や映像をよく見ます。ネコは何かを思い出している、そんな可能性はありますか?

「そうですね。私の研究から一度きりの出来事を後々思い出せますよっていう記憶の研究を行なったことがあるので、きょうあった出来事をぼんやりと思い出しているみたいな可能性はあるかと思います」

●えっ、それはどういった調査結果で分かったんですか?

「簡単な記憶テストを行なって、餌皿にあった食べ物を食べ逃しちゃうっていう経験をさせるんですけど、後々食べ残した餌皿をちゃんと覚えているよっていうことを明らかにした研究になります」

●時間の感覚は、ネコにはあるんですか?

「はい、おそらくあるんじゃないかって考えられています。ある研究では飼い主さんが30分間留守にしていた時と、数時間留守にしていた時では、帰ってきた時の反応が違うっていうことがわかっているので、おそらくネコにも時間の感覚があるっていうふうに考えられていますね」

●なんか愛おしいですね〜本当に。髙木さんがイエネコをこれまで研究されてきて、ほかにももっと能力があるってことを感じたりはされますか?

「そうですね。まだまだ研究が始まったばかりなので、全然科学が追いついていないというか、明らかにできたことってほんのひと握りだなって感じていて、なのでもっともっと今後ネコのすごい能力に関して明らかにしていきたいなと思っています」

●どんな能力があると思っていますか?

「私は聴覚能力に関して結構調べているんですけど、人の言葉をどの程度理解しているのか、そんなことに興味がありますね」

●確かに気になりますよね。ネコの社会性はほかの動物と違うって感じることは多いですか?

「そうですね。やっぱり祖先種が単独性なので、同じ伴侶動物の犬と比較すると、
社会的なシグナルというか社会的な行動は、犬よりは少ないかなって思いますね」

●1匹でいるのを好んでいるっていうわけではなく・・・?

「祖先種が単独性で、ネコ自体は祖先種よりは、かなり社会性を獲得して来たっていうふうには言われているんです。犬の場合だと祖先種が非常に社会的な動物なので、そういう動物から進化してきた犬と比べると(ネコは)ちょっとツンツンしてるように見えちゃうのかなとは思いますね」

ネコたちの上下関係!?

※ネコカフェもそうですが、複数で生活しているネコたちに、上下関係みたいなものはあるんでしょうか?

「研究としては調べられてはいないんですけど、ネコカフェのスタッフさんの話を聞いていると、新入りのネコちゃんにこの子がいろいろネコのルールを教えてあげているんだよ、みたいな話とかはよく聞きますね(笑)」

●ボスみたいなネコがいるわけですね。

「そうですね。面倒見の良いネコちゃんが新入りのネコちゃんにいろいろ教えて、その新入りのネコちゃんが本当に、教えてくれたネコちゃんの行動みたいになるみたいな話は聞きますね」

●へ〜〜、真似して行動しているってことですね。

「そうですね」

●ネコを飼っているかたって、リスナーさんの中にもたくさんいらっしゃると思うんですけれども、髙木さんから、ネコのこんな能力を知っているといいよ! ってことがあったらぜひ教えてください。

「リスナーのかたも、ネコを飼われているかたは既にお気づきかとは思うんですが、ネコはやっぱり想像以上に人の会話を聞いているんじゃないかなって、私は考えているので、たくさん話しかけてあげたら、すごく関係性が良くなるのかなと思います」


INFORMATION

『ネコはここまで考えている〜動物心理学から読み解く心の進化』

『ネコはここまで考えている〜動物心理学から読み解く心の進化』

 髙木さんのおよそ10年にわたる研究をまとめた本。身近なイエネコの運動能力ではなく認知能力、例えば、記憶や考える力に迫った、とても興味深い本です。ミステリアスなネコちゃんたちの心をのぞいてみませんか。ネコ好きなかた、ネコを飼っているかたには、特に読んでいただきたい一冊です。

 慶應義塾大学出版会から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎慶應義塾大学出版会:https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428438/

深海魚を透視!? 骨格画像にギョギョギョ!

2023/1/15 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立科学博物館の研究主幹で魚類学者の「篠原現人(しのはら・げんと)」さんです。

 篠原さんは昨年『深海魚コレクション』という本を出版。この本はエックス線CTスキャンで撮影した深海魚の画像を集めた画期的な本として注目を集めています。今回はエックス線CTスキャンによる研究や、深海魚の驚くべき進化についてうかがいます。

☆写真協力:国立科学博物館、オーム社

篠原現人さん

深海魚の骨は美しい!?

 篠原さんは1964年生まれ。北海道大学大学院修了。現在は国立科学博物館の研究員として活動。専門は魚類の系統分類学。主な研究対象は深海の海底に生息している、細長い体が特徴の「ゲンゲ」と呼ばれる魚だそうです。

 子供の頃は藤沢市に住んでいて、毎週のように、お父さんに連れられて釣りに出かけていたこともあり、魚が大好きに。そして大学生の時に進路を決定づける本『稚魚を求めて』そして『日本海の成立』という2冊の本に出会い、研究者になることを決めたそうです。

 篠原さんの本『深海魚コレクション』には魚の骨格や、骨の隅々までがわかる立体的な画像が掲載されていて、深海魚の不思議な姿を写し出しています。

『深海魚コレクション~エックス線CTで探る不思議な姿』

●掲載されている魚の骨格の画像がとても綺麗ですよね?

「はい、綺麗ですよね。私も深海魚は実際、標本とかでたくさん見ているんですけれども、骨で見ても綺麗だなっていうのは改めて感じました」

●びっくりしました。魚の内部を見ることってなかなかないので、すごく興味深かったです。この本には深海魚をエックス線CTスキャンで捉えた画像が掲載されていますが、人間が健康診断とかで撮るエックス線写真とはどう違うんでしょうか?

「健康診断で使うエックス線写真は、レントゲン写真って言われますよね。全体を平面的に撮影するものなので、例えば臓器とか骨が重なって見えて、それを分けて見ることはできないですよね。細かいところはよく見えないと。

 それに対して エックス線CTスキャンというのは、撮る方向をちょっと変えて、対象物の断層写真、輪切りの写真をエックス線で撮るんです。それを重ねていって立体画像を作ると。それでパソコンの画面の中に立体画像ができるので、それをクルクル回すと、いろいろなところが見えます。

 例えるなら、普通のプリンターと3Dプリンター、レントゲン写真のほうは普通のプリンターで印刷した画像と思ってください。それに対して、エックス線CTで撮った画像は、重ねて立体的に見えるので、3Dプリンターで印刷したものみたいな、そんな感じですよね」

●深海魚の3D画像は、骨格とか骨の構造が一目瞭然で驚いたんですけれども、本当に魚は骨が多いんですね?

「人と比べると特に多く感じるでしょうね。人にはない骨なんかもありますけれども、魚の骨は種類にすると、70種類くらいの骨で構成されているんですね。それは主数なので実際、数はもっと多いですよね」

写真協力:国立科学博物館、オーム社

●どれくらいになるんですか?

「数は分からないです。例えば人間の背骨でいうと、人間は背骨、脊椎骨って言うんですけれども、24個あるんですね。深海魚の中のウナギの仲間、シギウナギというのがいるんですけれども、それは200個くらい脊椎骨があります。だから全然数が違うと」

●いや〜すごいですね。そういった骨のひとつひとつをこの本で見ることができるんですね。普段の研究でエックス線CTスキャンを使って、深海魚を撮影されているんですよね? この手法はいつ頃からあるものなんですか?

「エックス線自体は、1900年よりちょっと前にレントゲンという人が発見したんですよね。それから70年くらいあと、1970年くらいにエックス線CTスキャンができる機械が発明されたと言われています。先ほども少し言いましたけれども、最初はやっぱり人の体を細かく、切らずに見るために開発されたものですよね。それがだんだん工業用になって、今は研究用になってきたと・・・自然資料なんかを見るための機械になってきたっていうことですね」

●改めてこのエックス線CTで撮影すると、特にどんなことが分かるんでしょうか?

「これまで見えなかった、いろんな角度から骨なんかを見ることができますよね。新たな発見にもつながります。それからテクニックをいろいろ開発すれば、例えば骨以外のところも見えますよね。筋肉とか、あと血管なんかも見ることができますね」

アゴゲンゲの生鮮写真とCT画像
アゴゲンゲの生鮮写真とCT画像
保管中のゲンゲ類の液浸標本
保管中のゲンゲ類の液浸標本

実は身近な深海魚

※改めて、深海魚の定義を教えてください。

「これはなかなか難しいところがあるんですけれども、今は水深200メートルより深いところを深海と呼ぶので、そこにいる魚を深海魚と呼ぶようにしていますね。この水深では浅いと言われて、500とか600メートルより深いところにいる魚を、深海魚と呼んでいた時期もあるんですけれども、今は200メートルより深いところにいる魚です。

 この200は何かというと、日本の周辺には大陸棚があって、その多くがいい漁場になっているんですけれども、それより外側、沖に出るとドカッと深くなるんですよね。200メートルより深いところの海がずっと広がるんですね。そういうところがひとつ基準になっています」

●定義になる深さが変わるんですね。

「そうですね。ただ200メートルになるとほとんど光が届かないです。届く光は太陽光なんですけれども、1パーセント以下って言われているので、そういう意味で真っ暗な深海という場所に相応しい水深かもしれませんね」

●私たちが普段食べている魚にも深海魚っているんですよね?

「みなさん結構食べています。有名なのはマダラとかアンコウですよね」

●そうですね。深海魚になるわけですね。

「深海には美味しい魚が結構いますよね」

写真協力:国立科学博物館、オーム社

特徴は発光器、ブヨブヨ!?

●そんな深海魚の大きな特徴を教えてください。

「深海魚ですごく特徴的なのは発光器ですね。水深200メートルから水深1000メートルの間にいる深海魚に多いですよね。それぞれの発光器はただ光るだけじゃなくて、その外側にレンズみたいな、鱗が変形したんですけど、そういう部分もあって、それで光を調整している、いわゆる調光システムを持っていると言われています。そういうかなり特殊な発光器は深海魚でしか見られないものですね。

 それから体がブヨブヨなものも結構、深海魚に多いですよね。あまり骨の発達がよくないとか、触ったらブヨブヨするような・・・見た目は可愛いらしいんですけれども、体が柔らかくて結構もろやつがいますよね。それも深海魚の特徴かもしれません。

 深海だとやっぱり餌が少ないので骨が作りにくいとか、逆に体をブヨブヨにするってことは水分が多いんですけども、水分が多いってことは、体を軽くするのに役立つんですよね。クラゲで分かりますよね。クラゲってなんか浮いているような感じじゃないですか。あれは重いものが体にないからなんですよね。深海魚も体をブヨブヨっていうか、水っぽくすることによって浮力を得て、それで移動を楽にしているっていうのもあります 」

大きな口と、大きな目

●深海魚には、ほかにはどんな特徴がありますか?

「よくみなさんが感じる大きな目とか大きな口、これもやっぱり深海魚の特徴ですよね」

●そのイメージあります。どうして深海魚は目が大きくなったり、口が大きくなったりすんですか?

「はい、まず目が大きいほうは、深海は結構、発光生物が多いんですよね。深海魚はそういう発光生物を食べるものが多いです。だから発光生物を目で見つけて食べるために、目が大きくなって、よく見つけられるようになっていると。

 それから口は、捉えた獲物を丸飲みするとか、もしくは一撃を与えて逃げられないようにするっていうそういう仕組みがありますよね。つまり出会った餌を逃さないために大きな口とか、口に大きな牙みたいな歯ができることが多くありますよね」

●目とか口とか発光器もそうですけれども、そういった特徴は深海っていう特殊な環境で、どんどん進化していったものなんですか?

「そうですね。深海に行ったからできたものでしょうね。そうしないと多分生きられないっていうギリギリのところだったんじゃないですかね」

●すごく変化していくんですね〜。

「もちろん進化なので、すごく長い時間をかけて少しずつ変わっていったと思いますけどね」

●先ほど太陽光が1パーセントほどっておっしゃっていましたけど、そんな光の届かない深海でどうやって食べるものを探すんですか?

「先ほど言った発光生物がいる層では、目で見て探すことが多いと思うんですけれども、1000メートルよりも深いところは、逆に目がちっちゃくなるんです。代わりに何が発達するかっていうと、音を聴く器官、側線(そくせん)が発達します。だから彼らは周りの音を聴いて・・・音というのは振動なので水の動きですよね。それを感じて獲物がいるとか、危険が迫っているとか、そんなことを感じているって考えていますね」

●そんなに大きな振動ってわけではないですよね? すごく些細なものを聴き分けるってことですか?

「はい、非常に感度の高いセンサーを持っている深海魚は多いですよね」

(編集部注:篠原さんによれば、深海魚は世界に約4000種ほどいて、世界の魚類の11%ほどを占めているそうです。最終的には新種を入れて6000種を超えるのではないか、とのことでした。ちなみに日本の近海で見つかっている深海魚は約600種、日本列島の周りには深海が多いので、深海魚の研究には適しているそうです)

ドイツの深海調査船「ゾンネ」
ドイツの深海調査船「ゾンネ」

オニキンメに感動

※今まで見た中で、特に強く印象に残っている深海魚を教えてください。

「私が深海魚を捕るために調査船に乗ったんですけれども、オニキンメが捕れたんですよね。オニキンメって金目鯛(きんめだい)の仲間なんですけど、普通の金目鯛とは違って、口が非常に大きくて、牙が発達しているんですよ。目もちっちゃい、色も黒っぽい、そういう魚なんですね。それが非常にいい状態、生きた状態で捕れたんですよね。

 水族館ではまだ飼育できていない、非常に珍しいオニキンメという魚を、船の上でしたけど、しばらく水槽で見ていましたね。生きた状態で見られたので、非常に感動して・・・それがひとつすごく印象に残っていますね。

オニキンメの液浸標本
オニキンメの液浸標本

 あとはバケダラっていう名前もちょっと変わっていますけれども、タラの仲間ですね。ソコダラの仲間なんですけれども、深海にしかいないんですよ。頭が風船のように膨らんでいて、つぶらな瞳と、口が下にぽこっと付いているやつがいるんですけれども、それも非常に印象に残っていますよね。

 膨らんでいる部分が何かっていうことなんですけども、実は皮をめくってみると、中に側線が発達しているんですよ。だから頭全体が水の流れなんか感じる、非常に感度の高いセンサーになっているんですよね。いろんなところでソコダラの写真が最近は図鑑とかに出ているので、興味のある方はソコダラの姿を見て、あっ、 あの頭はセンサーなんだと、そういうふうに思ってください」

(編集部注:深海魚は何を食べているのか・・・篠原さんにお聞きしたら、深海では植物プランクトンは生育できないので、海の上のほうから落ちてくる生き物の死骸を食べる種が多いそうです。いわゆる肉食性ということになるんですが、中には、ほかの魚の鱗を食べる深海魚もいるそうですよ)

深海魚は外見も内部も魅力的!

※これまでにたくさんの深海魚を見てこられて、どんなことを感じていますか?

「やっぱり深海魚は個性的な魚が多いので、面白いですよね。生き方というか、それになんか感動することが多いです。先ほどからも何回か言いましたけれども、オニキンメっていう魚は、実はすごくちっちゃいんですよね。顔だけ見ると非常に怖そうな、牙が発達して怖そうなんですけれども、ちっちゃくて体は柔らかいんです。

オニキンメのCT画像
オニキンメのCT画像

 でも頭と顎だけすごく発達しているんですね。硬いんですよ。なんて言いますかね・・・潔いというか、餌を取るための器官だけは、すごくしっかり発達させて、体はわりとあっさりしているっていうか、全然防御もしないような体ね。そんな姿を見ると、なんか気持ちのいい生き方しているなっていう感じもして、そういうのに感動することがありますよね」

●では最後に『深海魚コレクション』はエックス線CTで深海魚の骨格を見せている本ですが、この本を通してどんなことを伝えたいですか?

「魚ってやっぱり美しいんだっていうのを、いろんな人に知ってもらいたいですよね。 深海魚ってどちらかというと、なんか黒っぽいとか、なんか真っ赤とか、どっちかっていうと地味な魚と思われがちなんですけれども、形は非常に面白いんです。

 外見も非常に面白いんですけれども、内部を見ると、さらに深海魚の魅力に気づいて、それで魚が好きな人や魚に興味を持つ人が増えてくれたらいいなっていうつもりで書きました。対象は小さいお子さんから社会人、それから研究者まで耐えられる、そんな内容を目指しましたので、いろんな方に見てもらいたいっていうのが私の気持ちです」

(編集部注:お魚屋さんやスーパーで売られている魚にはアンコウやタラ、キンメダイのほかにも、目が光っているので関東では「メヒカリ」と呼ばれる「アオメエソ」やメバルの仲間「メヌケ」、そして篠原さんが好きな「キンキ」と呼ばれるカサゴの仲間「キチジ」など、食用になる深海魚は意外に多くいるそうです)


INFORMATION

『深海魚コレクション~エックス線CTで探る不思議な姿』

『深海魚コレクション~エックス線CTで探る不思議な姿』

 エックス線CTスキャンで撮影した深海魚の、立体的な画像をもとにその生態や特徴などを解説、特に名前の由来などをまとめた豆知識は「へ〜〜そうなんだ!」の連続で面白いですよ。そしてなにより、今まで見たこともない深海魚の骨格や骨の隅々までわかる綺麗な画像をぜひご覧ください。オーム社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎オーム社HP:https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274229060/

 国立科学博物館の篠原さんの研究サイトもぜひご覧ください。

◎篠原さんの研究サイト:
https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=s-gento

多様性の海〜海洋写真家「中村武弘」の視点

2023/1/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海洋写真家の「中村武弘(なかむら・たけひろ)」さんです。

 中村さんは1979年、東京生まれ。子供の頃から海や自然に親しみ、写真家になってからは、海を幅広くとらえて撮影されています。海洋写真家としてのキャリアは18年ほど。そして先頃、初めての写真集『海』を出されました。ちなみにお父さんは海洋写真家の第一人者「中村庸夫(なかむら・つねお)」さんです。

 きょうは、海上や海中、磯や干潟など、様々な表情を見せる海への思いや奇跡的ともいえる写真の撮影エピソードなどうかがいます。

☆写真:中村武弘

写真:中村武弘

表紙は「半水面写真」

※写真集のタイトルを、ストレートに「海」としたのは、どうしてなんですか?

「私は海洋写真家を名乗っておりまして、海中に限らず、幅広い海を撮っているんですね。それで今回の写真集には、海中や海上の自然、そして海の動物とかを選んで掲載しています。海には様々な環境があって、そういうものを感じていただきたいなと思って、タイトルをシンプルに『海』にしました」

●まさにおっしゃっている通り、写真集には海面だったり海中だったり、いろんなシーンがありました。魚たちが海の中でとっても近くにいて、こちらを見ている写真があって、魚と目が合っているような感覚になりました。あれはそーっと魚に近づいているんですか?

「魚が並んでいる写真があって、こっちを向いているみたいなんですけど、実はそういうふうに並ぶところがあるんですよ。海流の関係でそうやって並ぶんですね。なので、ゆっくり行くと結構近づけて、魚も大きいのであまり驚かないっていうか・・・(笑)」

●かなりの至近距離ですよね。怖さとかはないですか?

「危険な魚ではないですし、向こうもダイバーに慣れているので、あまり逃げたりはしないんです。あともうひとつ、ハリセンボンっていう魚の顔のアップの写真があるんですね。ハリセンボンは泳ぐのがゆっくりな魚で、近づくことはできるんですけど、実はあそこまで寄ることはできなくて・・・なぜ撮れたかっていうと・・・」

●どアップでしたよね?

「そうですね。あれは潮溜まりと言って、磯にある、要は潮が引いて岩の隙間に海水が取り残されてできるのが潮溜まりと言うんですけど、そこにハリセンボンが取り残されていたんですよ。僕は水中に入らないで、防水のデジタルカメラを手に持って、それだけ(潮溜りに)突っ込んで撮ったので、全然警戒心がなくて、こっちを見ている感じになりました」

●本当に写真のど真ん中にハリセンボンの顔がどアップで写っていましたね。
 あと表紙にもなっている、海中と波、白い雲と青空が写っている写真、これはどうやって撮ったんですか?

『海』

「これは半分が水中、半分は海上で、半水面写真っていう・・・要は(写真の構図の中に)水面が半分ぐらいある写真を半水面写真って言うんですけれど、これはダイビングが終わってボートに戻る前に海面に浮いて撮りました」

●すごいですよね。海の中と海の上が見える、なかなか見ることができない写真ですね!

「そうですね。見ていただくと分かるんですけど、小さい波がいっぱいあるんですね。なので、ちょうどレンズの真ん中辺りにこの水面が来ないと、こういう写真は撮れないんです。
 こっちもただ浮いているだけで、踏ん張ったりできないので、なかなか撮れなかったんですけど、数枚いい写真が撮れて、こうやって表紙になるような写真になりました」

●ぜひリスナーさんにも見ていただきたい写真です!

(編集部注:中村さんの撮影の主なフィールドは東京湾や房総半島、三浦半島など。最新の写真集『海』ではそのほか、沖縄の西表島や小笠原諸島の西之島の近海、そして海外で撮った写真も掲載されています)

クジラからタツノオトシゴまで

※今回の写真集には、海に暮らすいろいろな生き物が登場します。撮影した中でいちばん大きな生き物はクジラですか?

「そうですね。いちばん大きいのがこの写真集でも使われているんですけども、ザトウクジラの写真ですね」

写真:中村武弘

●かっこよかったです。水の飛沫が舞っていて。

「大きさでいうと大体15メートルぐらいなんです。場所はアラスカで、海面に(ザトウクジラの頭が)出ている写真なんですね。なぜこういうふうになっているかっていうと、実はバブルネットフィーディングっていう漁をしているところなんですよ。

 バブルネットフィーディングっていうのは、バブルは泡で、ネットはネットなんですけど、要は複数のザトウクジラが一緒になって泡を吹いて、その泡でネット(のようなもの)を作って、その中に魚を追い込んで、魚が海面近くに行ったら、複数のクジラたちが大きい口を開けて、海面にガバっと飛び出して魚を食べるっていう漁なんですね」

●大きな口を開けている姿がどアップで写されていますけど、この周りが泡なんですね。

「そうですね。本当その泡の中から(ザトウクジラたちが)飛び出すっていう写真です」

●実際ご覧になってどうでした? 迫力がものすごくありそうですけど・・・。

「実際はかなり遠い距離なので、レンズを覗いた風景しか僕は見られないんですけど、やっぱり遠くでもその音が聴こえてくるわけですよね、ガバッていう音が・・・そういう水飛沫の音が聴こえてきて、やっぱりそれはまさに大自然の中にいるなっていう感じですね。
 クジラはこの口の大きさなので、人間は口の中入っちゃいますからね(笑)。実際食べることはないんですけれど、やっぱりそれだけ大きな生き物がこうやって地球上にいて暮らしているんだなっていうのは、すごいことだなと思っています」

●逆にいちばん小さな生き物だと、どんな生き物になりますか?

写真:中村武弘

「いちばん小さいのは、タツノオトシゴの仲間のピグミーシーホースという魚なんですね」

●ピンクの! 水色の海にピンク色がバーッと、もうお花のような感じですね!

「周りはサンゴの仲間なんですけれど・・・このピグミーシーホースの大きさは大体2センチくらいです」

●そんな小さいんですか! 

「はい、その周りのサンゴに擬態しているっていうか、ほとんど同じような模様と色をしていて、こうやって隠れているんですね」

●なんか梅の花かな? みたいな・・・本当にそんな感じもしますけど、2センチって大変じゃないですか? 小さな生き物を撮影するのは大変かと思うんですけど・・・。

「まず、小さいものは見つけるのがとても大変で、大体現地のダイビングガイドさんに教えてもらってから撮るんですね。
 やっぱり撮影するときに難しいのは、小さい生き物を撮る時、マクロレンズっていう(被写体に)寄れるレンズを使うんですけど、そのレンズで寄るとピントの合う範囲が狭くなるんですよ。

 生き物は基本的に目にピントを合わせて撮るものなんですけど、海の中は相手が止まっていても海水は動いているので、生き物自体も動いているし、撮る僕も動いています。そういう状況の中で、目にぴったりピント合わせて撮るのは大変だなっていつも思いますね」

(編集部注:写真集『海』には、東京湾の最奥部にある貴重な干潟「三番瀬」を、セスナ機に乗って上空から撮影し、群れをなして飛ぶスズガモとらえた写真や、西之島の近くまで行くクルーズに参加して、船上から海面に飛び出した無数のトビイカをとらえた奇跡的な写真も掲載されています。ぜひご覧ください)

写真:中村武弘
三番瀬を上空から撮影、スズガモの群れ

自然を相手にする難しさ

※撮影のテーマというか、大事にしていることはありますか?

「あまりそういうのを意識してきたことはないんですけど、常に思っているのは、珍しいものとかそういうものよりも、当たり前にあるものや身近にあるものを撮りたいなっていうのが常に頭にありますね。例えば磯とか干潟とか身近な場所なんだけど、プロで撮っている人があまりいないとか、そういう世界を見せたいなっていう思いがあります」

●撮影に行く前は、どこに行けばどんな生き物に出会えるとか、そういったことはしっかりリサーチしてから行かれるんですか?

「いつか撮りたい被写体に関しては、どこに行けば何が見られるかは頭に入っているんですね。そういう情報は結構溢れているので、例えば撮影をする時、リサーチってほどではないんですけど、現地のガイドさんにお話を聞くとか、そういうことで詳しい情報を得たりします。

 あとは、SNSをやっているダイビングガイドの人が、撮影した写真をアップしたりするんです。それを見て、これ見たいな、撮りに行きたいなと思って出かけたりとか、そういうスタイルのことが多いです」

●SNSも駆使しながら、ですね。

「やっぱり生き物はいつもいるものと、たまに出るものとか珍しいものとかってあって、いつもいるもの以外は結構すぐにいなくなっちゃったりするんですね(笑)。なので、その時に時間があれば撮りに行ったりとかはします」

●本当に海とか生き物の撮影は、天候も含めて難しいことだらけだと思うんですけど、どんなところが大変ですか?

「やっぱり自然を相手にしているので、本当に天候に左右されることがとても多いです。やっぱり海が荒れると危険なので潜ることができなかったりするので、本当に普通に海に行って楽しもうと思ったら、晴れている海がいちばん(笑)」

●そうですよね(笑)

奇跡は二度ある!? イルカのジャンプ

※中村さんは、うまくいかなかったことはあまり覚えていないそうですが・・・

「実はひとつだけ覚えていることがあって、今回の写真集でも使われている写真なんですけど、逆光の中を飛ぶイルカ(の写真)なんですね」

写真:中村武弘

●キラキラキラーって光の中に、イルカが飛び上がっていますよね。

「実はこれを撮る前にすごく悔しい思いをしていまして・・・それ何かっていうと、同じようなシーンでイルカがジャンプしたんですよ。でもイルカってどこで飛ぶのか分からないので、その時は反応できなくて、カメラを向けることができなかったんですよ。ご覧いただいたようにすごく良いシーンなんで・・・」

●垂直にブワーッと飛んでいますよね!

「逆光の中にいるっていうのは、太陽と僕の一直線上でイルカが飛んでいるっていうことなので、そういうチャンスはもう二度とないだろうと、その瞬間すごく悔しく思ったんですけど、そしたら次の瞬間に同じところで(イルカが)飛んでくれたんです!」

●そうだったんですね! 本当に御光が射しているような神々しい写真ですよね。

「これ、ハシナガイルカなんですけど、スピンジャンプをするイルカなんですよ。なので、まっすぐ飛んでいるいわけではないんですね。体をくねらせながら飛んでいるんですよ」

●うわぁ〜〜すごい!

「その中で、このイルカらしいシルエットの瞬間が切り取れているのも奇跡的だなと思って・・・」

●奇跡が重なった写真なんですね。

磯や干潟は重要な場所

※写真集には磯や干潟で撮った写真も多くありますが、中村さんは、磯や干潟のどんなところに魅力を感じますか?

「まず、磯とか干潟は子供が遠足で初めていく場所だと思うんですよ」

写真:中村武弘

●そうですね〜。

「僕は子供の頃は、小学校の遠足で行った記憶はあったんですけど、それ以外では行ってなくて・・・。それで写真家になって磯と干潟に行くタイミングは、最初の頃に結構あったんですね。行ってみると、とにかく生物数の多さにすごく驚いたんですね。

 僕が子供の頃から見ていた海は、南国の生物が当たり前にいるような海だったりしたので、関東の海はあまり色のない海で、生き物がたくさんいるっていう意識があまりなかったんです。でも磯や干潟に通って見てみると、地球環境にとってすごく重要な場所であるっていうことに気づいたんですね。

 どちらもとても地球環境に重要な役割を果たしている、そんな海に東京の自宅から車で1時間くらいで行けるんです。磯や干潟は潮が引くと海中だった場所が海底になって現れるので、大人や子供でも歩いて磯や干潟に行くことができるんですよ。

 そんな大人も子供を簡単に親しめる海で、それでいて地球環境にとって重要であるっていうところがすごく魅力的だなと思っています。そういう意味でこれからも長く撮っていこうと決めたところであります」

●潮の満ち引きによって、全く違う表情にもなりますよね。

「そうですね」

● 首都圏でリスナーさんにおすすめの干潟とか磯はありますか?

「干潟ですと、この近くにある三番瀬とか、あと内房に木更津とか富津とか、そういうところに塩干狩りができる干潟があるので、そちらがいいですね。 三浦半島だと公園になっていて駐車場とかトイレがあるようなところも何か所かあって、そういうところは車で気軽に行くことができますね」

中村武弘さん

海は守らなければいけないもの

※地球温暖化や海洋プラスチックが、海という環境にいろいろな影響を与えていることが指摘されています。中村さんが、特に気になっていることはありますか?

「海水温の上昇とかプラスチックごみ、台風の異常発生はとても気になっていますね。 特にプラスチックごみについてなんですけれど、マイクロプラスチックになって、小さい生き物の体内に取り込まれていくんですね。そういう小さい生き物を食物連鎖で、人間が食べるような食用の魚介類であったりするわけですね。
 結局それを人間が食べることになると、人間が捨てたゴミが人間に戻ってきてしまっているので、やっぱりゴミの問題はすごく深刻だなと思っています」

●そうですよね〜。

「あとは海水温の上昇についてなんですけれど、海水温が上昇すると何が起こるかっていうと、生き物の生態系が変わってきてしまうんですね。 当たり前にいた生き物が見られなくなって、例えば関東近辺だと南国の生き物が見られるようになってきたと・・・。
 あと海水温の上昇で影響を受けるのが海藻なんですね。海藻は冬に海水温が下がることによって育つんです。なので海水温が下がらないと育たないんですよ。

 海藻は何が大事かっていうと、珊瑚と同じで光合性をしているので、二酸化炭素を吸収して酸素を排出してくれるっていうそういう役割を果たしています。あとは小さな生き物の隠れ家になったりとか、食料になったりするので、海藻がなくなるっていうのはすごく深刻なことだなと思っています」

●では、海洋写真家として伝えたいことはありますか?

「海っていうのは面白かったり、かわいいとかすごいなど、魅力的な生き物で溢れているんですけれども、僕たちはそれを写真に収めてみなさんにお見せするのが仕事なんですね。同時に海の現状をお伝えするっていう役割も担っていると思うんです。 なので、海っていうのはご存じの通り、環境が壊れていっているので、海は当たり前にあるものではなくて、守らなければいけないもの、そういう意識を持ってもらいたいなと思いますね」


INFORMATION

『海』

『海』

 中村さんの初の写真集をぜひご覧ください。国内外で撮った様々な海の表情を見ることができます。海の多様性を感じられる力作! 素晴らしいです。中村さんのオフィシャルサイトから直筆サイン入りで購入できます。ぜひチェックしてください。

◎中村武弘さんHP:https://nakamuratake.base.shop/

キャンプ事始め〜小尾渚沙、キャンパーへの道

2023/1/1 UP!

 新年第1回目の放送は、新春特別企画! 題して「キャンプ事始め〜小尾渚沙、キャンパーへの道」。ということで、先日モンベル御徒町店にお邪魔して、キャンプの基礎知識や最低限必要な道具、そして使い方などを伝授していただきました。

 今回は、いま流行っているソロキャンプにならって、ひとりひとりがキャンプに必要な道具をそろえて、キャンプ場に集まる。そして季節は春、という設定でウエアや道具をコーディネートしていただいたんです。

 きっとキャンプ初心者、そしてキャンプをやりたい女性にも参考になることがたくさんあると思いますよ。

☆協力:株式会社モンベル

協力:株式会社モンベル

機能的でおしゃれなアウトドア・ウエア

●今回、モンベル御徒町店にお邪魔しています。そして私の隣にはモンベル新宿南口店から来ていただきました店長の川上和克(かわかみ・かずよし)さんがいらっしゃいます。川上さん、よろしくお願いいたします。

 きょうはキャンプのインストラクターとして、いろいろと教えていただければと思います。

「はい、よろしくお願いします」

協力:株式会社モンベル

●私はキャンプの初心者で、一度しかやったことがないという・・・しかもちょっと便乗したっていうだけで、本当に本当の初心者です。キャンプに必要な道具も使い方もわからないという状態なんですが、川上さんはアウトドアのプロでいらっしゃるんですよね?

「そうですね(苦笑)。登山を始めとしてマウンテンバイクをおもにやっています」

●アウトドア歴も長いんですか?

「そうですね・・・30数年っていう感じですね」

●もう大ベテランでいらっしゃるということで、きょうはいろいろ教えてください。

「よろしくお願いします」

●まず、アウトドアのウエアやシューズについてうかがいます。
 今回は春キャンプをイメージしてウエアを全身コーディネートしていただきました。女子ですので、アウトドア・ファッションも楽しみたいなと思いまして、暖かいんだけど、ちゃんと可愛げもある、そんなファッションでお願いします、というオーダーをさせていただいたんですが、見事! 希望通りの全身コーディネートになりました。

「気に入っていただいて、ありがとうございます」

●ロングのTシャツにフリース、ダウン、そしてジャケットと4枚着ているんですけど、本当に軽くて動きやすくて、色も見た目も可愛いです。帽子もチェック柄で可愛かったりで、映えますね。可愛いのに暖かいし、機能性もあって素晴らしいですね。

「そうですね。機能と見た目というかデザイン性というか、そういったところも含めて作っております。またアウトドア・ウエアの場合、重ね着が基本になりますので、それぞれの素材のいいところを取って、重ね着をしていただくということになりますね」

協力:株式会社モンベル

●アウトドアのウエア選びポイントとなるのは、やっぱり重ね着になるでしょうか?

「そうですね。気温の寒暖差が結構激しくなりますし、動いたりすると暑くなりますので、脱いだり着たりを組み合わせてやっていきますね」

●確かに脱ぎ着して調節できるっていうのが大事なんですね。

「そうですね」

●インナーとかアンダーウエアは、どんなところをポイントに選んだほうがいいのですか?

「春先ですと保温性と、あとは汗をかいたりする時の吸水速乾性というのがいちばん重要になってきますね。また防臭効果ですとか、そういったこともアンダーウエアには求められます」

●あと今回、タイツの上にレッグウォーマーを着けましたが・・・

「はい、これは保温力を高めることと、タイツと重ねることで、より可愛く見せるというのもありますね。暖かさと可愛さの両面を持たせています」

●本当にお洒落だし、機能性もあるしってすごいですね〜!

「ありがとうございます」

●いやぁ〜感動しています!

(編集部注:ほかにも川上さんから、帽子は、日除けにも防寒にもなるのであったほうがいいというお話がありました。用意していただいたキャップには耳あてが付いていて、あったかでしたよ。
 ハイキング・シューズも軽くてびっくり!靴選びで大事なことは防水性だったり、滑らないようにソールにグリップ力があることだそうです。
 そして、忘れてはいけないのが、レインウエア! アウトドアの必需品ですね)

テント、寝袋、マットは必需品!

協力:株式会社モンベル

●続いて、キャンプをするために最低限必要な道具について教えていただきたいと思います。どんなものが必要なんでしょうか?

「はい、まずはテントです。寝るために必要なものになります」

●そうですね。

「これは『ステラリッジテント』と言いまして、重量が1.14キロです」

●ちょっと持たせてもらっていいですか。

「はい、どうぞ」

●あっ! 本当だ〜軽いですね! これ、テントですか?

「はい、テントとフライシートがセットになっています。モンベルの山岳用テントとして出しているもので、非常に軽量なものになります」

●コンパクトにまとまった状態で袋に入っているんですけど、取り出したらテントになるってことなんですね?

「そうです。フレームとテントと本体を組み立てて、フライシートを被せれば完成です。慣れれば3分ぐらいで組み立てできます」

●そんな手軽にできるんですか?

「そうです」

●テントのハードルがだいぶ下がりますね。

「本当に組み立てやすくて、風にも強いので、ひとりでも簡単に立てられます。
 次に寝袋、シュラフです。モンベルでは女性用の寝袋も出しておりまして、これは『シームレスダウンハガー800』というシリーズですね。 3シーズン用の寝袋として出しているので、春・夏・秋・・・冬はちょっとこれは寒いですけども、お使いいただける感じですね。女性のサイズに合った形になります」

●確かに夜はぐっと冷えますよね。

「そうですね。テントと寝袋は基本セットです。あとはマットですね。寝袋の下に敷いていただくもので、こちらは『アルパインパット』っていうものになります。空気とスポンジが入っています」

●サーフィンのボードみたいな形なんですね。

「これは人型なんです」

●本当に人がひとり寝るのにちょうどいいというか・・・ふわふわ!

「そうなんですよ」

●すごく弾力性があって!

「快適に寝ていただくためにはマットは必需品です」

●テントにこのマットを敷くんですね。

「はい、(テントの)中に入れて」

●その上に寝袋で、万全ですね!

「マットは断熱効果もありますので、寒い時は下からの地熱を抑えてくれる効果もあります」

●キャンプに行こうって友達に誘われたこともあったんですけど、(地面に)寝るのがきっと(ゴツゴツして)痛いんだろうな〜と思って、それで断ってしまっていたんです。今はこんな素敵な商品があるんですね。

「マットが地面のゴツゴツをある程度吸収してくれるので、だいぶ寝やすくなりますね」

実際にテントを組み立ててみた!

●ここからは実践編ということで、テントの立て方を教えていただければと思います。

「はい、では一緒にやってみましょう」

●人生初です、テントを立てるのは・・・。

「簡単なんで大丈夫です。まず、このステラリッジテントは今回ひとり用をご用意しております。ポールとテント本体、そしてフライシートというような構成になっております。

 ではまずテントを広げてみましょう。これがテントのベースになります。あとポールを伸ばしていきます。これは、中にショックコードというゴムがついているので、ポールが全部つながっています」

●えー! そうなんですね?

「真ん中をこんなふうに・・・」

●わ〜なんですかー、いきなり! 一気にポールが長くなりました。

「そうなんです。ゴムが入っていることで、ポールが全部つながっていくんですね。なので、非常に素早く組み立てができます」

●今まで短かいポールが何本も連なっていましたけど、それが一気に長くなりましたね。

「はい。そしてポールの真ん中にジョイントがありまして、そこにポールを差し込んでいただくとフレームが完成します」

協力:株式会社モンベル

●一気にポールが組み上がりましたね。

「続いて、このポールをテントの本体の四隅に、はめ込んでいく作業になります」

●そんなに簡単にできるんですね。

「そうなんです。ではこちら側に来ていただいて、実際にはめていただきましょう」

●はい、テントの四隅にはめ込みますね。

※このあとも作業を続けて・・・

「最後にフライシートを被せることで、雨にも風にもより耐えうるようになります。はい、フライシートを被せて完成です」

●おお〜〜、被せました!

「これでテントの形が完成しました」

●すごい〜、こんな簡単に! だって5分も経ってないですよね。

「そうですね。あとは風が強かったりすると、テントは軽いので飛ばされちゃいますので、”ペグ・ダウン”と言って、地面にペグを打ち込んでテント本体を固定します」

●なるほど・・・。

テントの中に入って寝袋にくるまれてみた!

※テントの組み立てが終わったところで、テントの中にマットと寝袋をセットして、寝床の準備が整いました。

●テントにお邪魔します〜。いいですね〜自分で仕上げたテントに入ってみます。わぁ〜! えっ! 天井も高い! 川上さん〜、見えますか〜? 天井が高くてなんか秘密基地みたいで、いいですね〜!

「そうなんですよ」

●これは本当に自分の空間っていう感じで・・・では寝袋に入ってみます。うわっ!温かい、ふわふわ〜、これダウンですか?

「そうです。ダウンを使っています」

●寝袋にはフードもあるんですね。

「そうですね」

●本当に覆われてない部分が顔だけっていう感じで、頭まで全部覆ってくれるんですね?

「保温性を確保するためですね。また顔の周りを絞っていただくと・・・」

●あ! どんどん、おお〜!

「本当に(外に出ているのは)顔だけっていう・・・そういうこともできます」

協力:株式会社モンベル

●うわっ! 本当だー、すごい! 目と鼻と口だけ! すっごく温かくて寝心地がいいんですね! マットと寝袋のおかげで、こんなに寝心地がいいんですね。すごいな〜。

「ダウンもかなり高品質なダウンを使っていますので、少ない量ですけども、温かさを十分確保できるようになっています」

●もうなんかちょっと汗ばんできました。それぐらい温かい! すごーい! 本当に軽いので、なんか重く覆われているって感じじゃないですよね。

「そうですね」

●身動きもしやすいです! 寝返りもしやすい!

「足を結構広げられますよ」

●本当にそうですね

「あぐらもかけるような、そういうストレッチ・システムを採用していますので、より快適に寝返りを打ったりとか、そういったことにも対応している寝袋になります」

協力:株式会社モンベル

●確かに(あぐらも)かけます。寝袋って入ってしまったら、少しも動けないのかと思っていました。こんなに自由に動けるんですね。

「でも一度入ってしまうと出るのが・・・」

●もう出たくないです! もうこれできょうの取材は終わりにしたいぐらい、気持ちいい〜、温かい〜、はぁ〜。

(編集部注:小尾さんがもぐり込んだモンベルの寝袋は、女性用の「シームレス・ダウンハガー800」。特徴は、高品質のダウンを使っていることと、シームレス、つまり縫い目がないので、高い気密性が保たれ、抜群の保温力があること。とにかく温かくて軽くて心地よくて、ずーっとくるまれていたいと思えるほどの寝心地だったそうです)

おすすめキャンプ・グッズ!

協力:株式会社モンベル

※続いては、個人装備としてそろえておきたい、おすすめのグッズをご紹介いただきました。

「テントの周りにセッティングするような形で、椅子ですとかテーブル、あとは料理をするために、バーナー、コッヘル、焚き火台という感じになりますね。それぞれご案内させていただくと・・・」

●教えてください。

「椅子に関しては、『ヘリノックス』というブランドの椅子なんですけども、持っていただくと・・・」

●おっ、軽い!

「(重さは)1キロぐらいでして、組み立ても非常に簡単ですし、テントサイトでリラックスするのにお使いいただけます」

●えっ! これ、椅子が入っているんですよね?

「そうなんです」

●こんなにコンパクトで・・・!?

「袋を開けると座面と、あとはフレームが一緒に入っています」

●折りたたみになっているんですね?

「そうですね。組み立ても非常に簡単ですので、どなたでも組み立てることできます。 椅子とテーブルは大体セットになってくるかと思いますので、例えばご飯を食べる時とか、物をちょっと置いたりする時にテーブルがあったほうがいいと思います。 ひとりでキャンプする際は、ローテーブルと言って、高さの低いテーブルがおすすめですね」

●これ、今すごく薄くなっていますけど、これがテーブルなんですか?

「テーブルなんです」

●細長いですね。

「そうですね。非常にコンパクコトになります。これはライトウエイトテーブルという製品で軽いです」

●テーブルと椅子を持ち歩くって、本当におおごとかと思っていたんですけど、これなら女性ひとりでも軽々持てますね。

「あとは食事のためのバーナーとコッヘル、お鍋のセットですね。バーナーのほうは『ジェットボイル』というブランドのものになります。すぐにお湯が沸くので食事もすぐに取れますし、このジェットボイルはお鍋もセットになっていますので、これだけ持っていけば、ひとつ料理ができちゃうよという感じです」

協力:株式会社モンベル

●これも片手で持てるぐらいの軽さですね。

「そうですね。あと、あると便利なものとしては焚き火台、火を見ながら落ち着いた時間を過ごすというのがあると思うんですけども・・・」

●はい、過ごしたいです。

「ちょっと重さはあるので、頑張って持って行っていただくことになりますが・・・。次にヘッドランプですね」

●あ〜大事ですよね。

「そうですね。頭に付けることによって両手が空きますので、懐中電灯よりも
ヘッドランプのほうが、より行動的に使えるかなと思います。
 ”クラッシャブル・ランタンシェード”というのがありまして、これを(ヘッドランプに)付けることで、テント内とかでランタンの代わりにもなるんですね」

●えっ! この袋みたいなものが・・・!?

「使用しない時は袋としてもお使いいただけますが、これをヘッドランプに付けて被せると、行燈(あんどん)のような灯りになります」

●お〜〜、灯りがふわっと拡散されるというか・・・。

「そうなんです。本を読む程度の灯りは取ることができますので、テント内で過ごす時にも十分お使いいただけるかと思います」

●この小さな袋がそういう効果を発揮するんですね。

「そうなんです」

(編集部注:ほかにもおすすめのグッズとしては、スプーンとフォークが一体となった「スポーク」や、「野箸(のばし)」という軽量コンパクトなお箸。
 そしてフィンランドの「クピルカ」というアウトドア食器のブランドで、一見すると木をくり抜いたようなマグカップやお皿など素朴な味わいがあって、おすすめです)

キャンプに行って何をするか!?

協力:株式会社モンベル

●全国にいろんなタイプのキャンプ場があると思うんですけれども、キャンプ場選びのポイントは何かありますか?

「周りに何があるか、何をするかをまず考えて、例えばカヌーがしたい、トレッキングがしたいっていうことになれば、カヌーだったら水辺の近くのキャンプ場ですし、登山がしたいということでしたら、登山口の近くのキャンプ場とか・・・。またキャンプをするということでは、海辺もひとつの選択肢に入ると思いますね」

●事前に予約していったほうがいいですよね?

「そうですね。最近は予約が不要のキャンプ場でも並んでいたりするケースが・・・朝並んでいますので、特に初めての場合は予約したほうがいいと思います」

●ちなみに千葉県でおすすめのキャンプ場はありますか?

「はい、モンベルのフレンドショップにもなっているんですけども、”ゆめパーク牧野”というキャンプ場おすすめですね」

●私のような初心者は、最初はキャンプすること自体が目的になると思うんですけれども、モンベルさんではベースキャンプというスタイルを提案されているんですよね。これはどういうことでしょうか?

「いわゆるキャンプが目的ではなくて、キャンプに行って何をするかということが我々のキャンプの提案ということで、先ほども言ったようなトレッキングだったりカヌーだったり、また自転車でのツーリングだったり、そういったスタイルでキャンプをして、周りで遊ぶというようなことを提案しています」

●アウトドアのベテランでいらっしゃる川上さんですけれども、川上さんご自身が感じるキャンプの良さってどんなところだと思いますか?

「非日常というか、私はキャンプも趣味ですし、マウンテンバイクに乗ったり、登山したりするので、その遊ぶをするためにキャンプをする、ということを考えていますね」

●番組スタッフは焚き火こそがキャンプの楽しみだって言っていたんですけれども、そういうものでしょうか?

「それもひとつの楽しみ方だと思いますよ」

●ゆらゆら揺れている火を見るのも気持ちいいですよね。

「そうですね」

●今ソロキャンプが流行っていますけれども、モンベルストアにもソロキャンプ志向のお客様は結構いらっしゃいますか?

「増えてきておりますね。特に女性が増えています」

●コロナ禍の影響とかもあるんですか?

「そうですね。やっぱり人と接しないで自由にできるという良さもありますので、そういった意味でも増えてきているかなと思いますね」

●実際にテントを立てさせてもらって、すごく自分の空間が保たれるなって感じたので、いいですね。人との距離も保てるし、自分の空間がありますよね。
 これからキャンプやってみたいという方にアドバイスをお願いします。

「はい、装備をそろえていただいたら、お友達同士で行くのもいいでしょうし、(キャンプの)イベントなどに参加していただくのもいいかと思います」

●まずは、キャンプを身近に感じるっていうのが大事ですよね。

「はい、そうですね。気楽に参加してみてください。モンベルストアに来ていただければ、親身になってご相談に乗りますので、お待ちしております!」


INFORMATION

協力:株式会社モンベル

 きょうご紹介したウエア、テントやシュラフ、椅子やテーブル、ストーブ、焚き火台などは全国のモンベルストアで販売されています。川上さんもおっしゃっていましたが、グッズの選び方や使い方など、わからないことはなんでもお気軽にモンベルストアのスタッフにお声がけくださいとのことでした。

 モンベルでは、アウトドアの様々なアクティヴィティにユーザーを誘う「モンベル・アウトドア・チャレンジ」も実施しています。

 モンベルで販売している製品や、モンベルストアの所在地など含め、詳しくは「モンベル」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎モンベル HP:https://www.montbell.jp

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第10弾〜相模原市藤野地区の市民活動「藤野電力」にフォーカス!

2022/12/25 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第10弾!「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「住み続けられる まちづくりを」そして「気候変動に具体的な対策を」、ということで神奈川県相模原市藤野地区の「藤野電力」の活動をクローズアップ!

 プロジェクト・リーダー鈴木俊太郎さんにミニ太陽光発電システムを作る防災ワークショップや、自給自足的な暮らしについてうかがいます。

☆写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

鈴木俊太郎さん

始まりは、東日本大震災

※藤野電力というと、電力会社なのかと思ってしまうかも知れませんが、企業でもNPOでもない、地域住民が行なっている市民活動です。そのリーダーの鈴木さんは藤野から東京に通うサラリーマンだったそうですが、暗いうちに家を出て、暗くなってから家に帰る生活に疑問を感じ、独立。現在は整体師を本業に、藤野電力の活動にも取り組んでいらっしゃいます。

●藤野電力はいつ頃、どんなきっかけで始まったんですか?

「2011年の東日本大震災ですね。その時の停電から始まった活動なんですけれども、ちょうどその時、私は相模原市内のほうに仕事に出ていまして、そこで地震があって、(近隣は)大停電で翌朝までずっと停電していたんですね。

 ちょうど夕方、日が落ちてきた頃、信号も住宅や店舗も電気は消えているし、街灯も消えていて、本当に真っ暗闇の中を家まで帰ってきた時に、多分うちだけはなんとかなっているかなって、ちょっと思っていました。
 それは今、藤野電力のワークショップでやっているような、小規模の自家発電の仕組みがあったから、おそらくその灯りがついているだろうと思いながら帰ってきたんですよ。

 で、実際にうちだけ、灯りが灯っていたっていうのを見て、やっぱりこれはすごく大事なことだろうなと思って、仲間内に声をかけたんですよ。うちはいつもと変わらない暮らしができましたよっていうようなことをね」

●ご近所の方々は、みんな停電になっている中で、鈴木さんのお宅だけ、灯りがついていたんですよね?

「そうなんですよ」

●まわりのみなさんは、なんでなんで!? ってなりそうですよね。

「そうですよね。翌日聞いたら、みんな寝るしかなかったから、寝ていたらしいです」

●まわりの方にこういうことやっているんだよとか、電気を自分で作っているんだよっていうのを、どんどんお伝えしていったっていう感じなんですか?

「そうですね。グループ活動がいくつかあって、その仲間にまずは声をかけて、そしたらぜひその仕組みを教えてほしいとか、勉強会を開いてほしいっていうようなことがあがってきたので、じゃあやってみようかっていうことで始めたんです。

 それはその時の単発ですけど、その中から改めて『藤野電力』っていう活動をやりたいですっていう声が地域からあがってきたんですね。最初、関わったこともあるので、私もちょっと参加してみようかなっていうことで始まりました。私が主として始めたわけではなくて、みんなの中にちょっとわかっている人が入ったっていうような、それがきっかけですね」

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 

●活動のモデルというか、何か参考にしている活動はあるんですか?

「トランジション活動っていうのはその前からあります。トランジション活動自体はイギリスの市民活動として始まったんですけど、簡単にいうといろんなものに、例えば石油に頼る暮らしじゃなくて、自分たちで何かを編み出すような、そういうちょっと前の日本みたいな暮らしにしていこうっていうような提案で始まったんですね。たまたまそれをイギリス留学中に勉強していた人が藤野に越してきまして、ぜひ日本でもやってみたいっていう声があがったんですよね。

 それが最初にトランジション活動として始まって、藤野電力はそのトランジション活動の中のエネルギーを考えてみようっていうグループなので、藤野電力っていうようなスタンスの見本は何もないんですけれども、ベースになっているのはトランジション活動っていうことですね」

(編集部注:鈴木さんによれば、藤野地区は昔から芸術家など外部の人を積極的に受け入れてきた地域で、現在もミュージシャンや俳優、カメラマンやライターなど、自立した方々が住んでいて、住民同士のつながりが密なエリアだそうですよ。藤野電力のほかにもグループ活動があるということですから、もともと市民活動が生まれやすい土壌だったと言えるかも知れませんね)

幼稚園児の頃から憧れていた!?

※藤野電力の具体的な活動についてお聞きする前に、鈴木さんご自身のことをうかがっていきたいと思います。鈴木さんはご自宅のログハウスをご自分で建てたと、ネットの記事で見たんですけど、そうなんですか?

「そうなんですよ。全部じゃなくて大工さんも入っているし、友達もいっぱい来て、みんなで作ったって感じなんですけど・・・」

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

●必要なものは自分で作っちゃう自給自足的な志向っていうことですか?

「そうですね」

●ご自身で作るのがお好き?

「好きですね」

●昔からですか? 何かきっかけがあったとか・・・。

「物作りが好きっていうのは子供の頃からだったので、純粋にそういうものに興味がありましたね。例えば時計があったら分解して、どういう仕組みになっているのかとか、中学生ぐらいだと自転車に乗っているので、自転車を改造したりとか、そういうことはずっと子供の頃からやっていたんですけれども、いわゆる自給自足的な暮らし、今みたいな暮らしにシフトしたいと思ったのは、実は幼稚園ぐらいの頃からですね(笑)。

 両親が山に登っていたこともあって、山小屋に泊まることがあったんですよね。そうすると木でできた建物で、薄暗い感じで、薪ストーブが炊かれていてっていうのを小さい頃から体験していたので、すごくそういう空間が自分に合っているなって小っちゃいながらに思っていましたね。

 決定打になったのは小学生ですね・・・9歳だったかな。その時に『アドベンチャー・ファミリー』っていう映画が放映されまして、カナディアンロッキーで暮らすファミリーの物語なんですけど、それを見て、そういう暮らしを絶対実現しようと・・・変わらず今もやってますけどね」

●鈴木さんのお宅は、生活に必要なエネルギーは全部ご自身でまかなっているですか? どんなお家なんですか?

「20年以上前に家を建てたので、当時はこういう自家発電、今はオフグリッドっていう言葉で一般的に言われていますけど、自家発電、オフグリッドっていうような考え方はもちろんなかったし、そういう機材も一般的には出回ってなかったので、普通に電力会社の電気を入れてましたね。

 藤野電力が始まったきっかけで、自分の家もそういうふうにシフトしていこうっていうことで、部分的にちょっとずつちょっとずつ増やしていって、今現在はメインで使うところは、ほぼ自家発電でまかなっていて、特に夏は大丈夫ですね。冬はどうしても山の中に暮らしているので、日が当たらないからちょっと厳しいんですけど・・・」

●寒いですよね?

「(寒い)ですけど、暖房に関しては薪ストーブで済んじゃうし、あと冷蔵庫や洗濯機、照明とか最低限のところは、冬でもなんとかまかなえますので、ある意味使う電気は自家発電でまかなえていますね。

 暖房は薪ストーブがあるし、料理は田舎なんでプロパンガスですけど、冬に関しては薪ストーブがあるから、なるべく薪ストーブで料理したり、お湯を沸かしたりってことをしています。あと水に関しては、よく羨ましいって言われるんですけど、井戸水なんですよ。だから水も自分の土地から吸い上げていて、水道代はかからないです」

●え〜! じゃあ電気とかガスとか契約してないっていうことですか?

「ガスだけはプロパンなんで契約していますけど、電気に関しては本当に最低限の契約だけして、足りない時だけ手動で切り替える仕組みを作っているので、そういうふうに切り替えてやったりとか・・・」

(編集部注:鈴木さんが藤野地区に引っ越してきたのは20年以上前で、自然暮らしをしたくて、土地を探してみたものの、田舎暮らしブームの前だったこともあり、なかなか思うような土地が見つからなかったそうです。そんな中、たまたま見つけたのが今住んでいる場所、つまり藤野地区に転居してきたのは偶然だったそうですよ)

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

ミニ太陽光発電システムを作る

※現在、藤野電力で行なっている主な活動について教えてください。

「まずはワークショップですね。これが毎月1回、藤野に事務所があるんですけど、そちらのほうで開催しています。それ以外も出張で依頼があれば、全国どこでもうかがってワークショップをしているんですね。

 ワークショップ自体は基本的な機材を組んで、発電の仕組みを作るっていうことと、電気に関するいろんなお話はさせていただくんですけど、なかなかそれだけだとその先進めない方も多いので、ちゃんとそれを使えるように家に設置してあげようっていうのも同時進行で始まったんです。

 これも実はちょっと逸話がありまして・・・うち(森氣庵)にずっと通っていた患者さんが、311の震災の時に計画停電がありましたけど、その時にも実は予約が入っていたんです。普通ならみんな来ないだろうと思っていたんですけど、いらっしゃったんですよ。

 その人は鈴木さん家だったら、絶対何があっても普通にやっているよっていうふうに家族に言って出てきたっていうことでした。その時にまわりは停電しているけど、(うちだけ)オフグリッドの電気で部屋が明るかったり、薪ストーブがあったりっていうのを見て、家を建てる時にはこういう暮らしがしたいって言っていたんですよ。その1年後ぐらいに実際、家を建てる時に設計士さんに言ったことが『鈴木さん家みたいな暮らしぶりがしたいので』って(笑)。

 その方が実は、藤野電力のオフグリッドの仕組みを家に設置してほしいって、最初に言ってくださった方なんです。それまで小さな仕組みをみなさんに伝えるっていうのはやっていましたけど、家に付けるとなるとちょっと違ってくるんで、じゃあうちで実験してみようとか、そういったことが始まって、そのきっかけから今現在も住宅施工と言ってますけど、そこに設置するっていうのもずっとやっています。 そのふたつがいちばん大きいですね」

●太陽光発電システムを自分で作るっていう発想がなかったんですけど、素人でも作れるものなんですか?

「はい、大丈夫ですよ。もともと私が始めた時には電気の知識は全くなくて、最初は2001年、震災より遥か前の話です。実は車のバッテリーがしょっちゅうあがってしまうのを、なんとかしたいっていうことから始まっています。

 たまたまちょうど夏だったんですけど、車が熱くて触れないぐらいに日差しを浴びて停まっているのを見た時に、太陽をなんとかできないか!? ってすごく思ったんですよ。それで調べてみたらソーラーパネルっていうのがあるっていうことがわかって、これならいけるかもしれないって始まったのが実は最初でした。なので電気の知識は全くないんですよ」

●それでもシステムを考案したのは鈴木さんってことですか?

「そうですね。使う機材自体は簡単にいうと、キャンピングカーに入っている仕組みなので、ソーラーパネル、バッテリー、コントローラー、インパーターっていう4つの機械を使うんですね。それ自体はキャンピングカーとかで流通はしていたけど、一般的なものじゃなかったんです。

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 知識がなかったのでいろいろ調べたりして、これを組み合わせれば、車のバッテリーの充電ができるなっていうところから始まりました。車のバッテリーは12ボルトなんですけど、それすら知らなかったし、ケーブルの太さはどうすればいいか全然わかんないわけですよ。

 そういう状態でとりあえず組み上げたものを実際使ってみたら、すごく便利で面白くて・・・。なので全然知らない状態で私が始めているので、知らない方がワークショップに参加しても全く問題ないですね」

(編集部注:鈴木さんは本業のほか、地域の人たちのお困りごと、例えば、破裂した水道管や、雨漏りのする屋根の修理ほか、藤野地区に引っ越してきた移住者の方の相談にのったりと、忙しい日々を送っていらっしゃるそうですが、ストレスはないと、にこやかにおっしゃっていました)

藤野は相模原のSDGs!?

※鈴木さんが藤野電力の活動を本格的に始めて、11年ほど経ちました。今どんなことを感じていますか?

「今はSDGsってよく言われるようになりましたよね。実は相模原市からも藤野は相模原のSDGsだっていうふうに言われてしまうぐらい、ずっと前からそういう活動を続けてきたっていう地域になっています。

 当時ソーラーパネルを使って電気を作るのは、一般的には売電って言われていて、屋根の上にパネルを設置して電気を作って売るっていうやつですよね。メガソーラーなんかは今いろいろ問題が出ていますけど、ソーラーパネル=電気を作って売る、いわゆる投資目的のものだったんです。
 その時代にそうではなくて、暮らしに使うための電気を自分で作るっていう、いわゆる自給自足的な発想を持って始めたのは全然いなかったわけですよね。

 絶対そっちのほうが面白いし、意味があるって思って始めているので、ずっとその路線で来たんですけど、10年経ってみたらSDGsっていうような言葉が出てきて、売電ではそんなに儲けられるものでもないから、蓄電して自分の家の電気として使いましょう! っていうような、まさにオフグリッドっていう発想に世の中がガラって変わってきたので、やっとこっちの時代に来たかっていう、間違ってなかったなっていう確信をすごく今は持っていますね」

●地球温暖化の影響もあって、国内でも世界でも今までにないような災害が起きています。普段から備える防災意識がすごく大事になってくるんじゃないかなって思うんですけれども、そのあたりいかがですか?

「そうですね。災害用とか非常用に藤野電力の仕組みが欲しいっていうことを言われる方もいらっしゃったり、例えば外灯、夜中つけっぱなしにするので、電気代がもったいないから、使いたいっていうことをおっしゃる方もいるんですけど、我々はそういうものに使うんじゃなくて、日々の暮らしの中で使う電気をまかなうという発想でやっているんですよ。非常用じゃないんですよってことをずっと言っているんです。

 非常用、例えば防災袋なんていうのもありますけど、1回買って20年も30年も経って、災害がなければそのままなわけですよ。邪魔だからどっか押し入れの奥のほうに入っちゃって、いざって時には使えない。そういうものでは意味がないので、日常用でなおかつ非常時には持っていけるような、そういう暮らしに変えていかないとダメなんですよっていうことをずっと伝えています。

 防災の関連のお話会とかワークショップも頼まれて行くことがあります。そういう時にも普段、常にカバンの中に入っていて、何かあった時にはそれでなんとかなるっていう最低限のものも入れてあるんですね。

 どっかに避難しなくちゃいけないっていう時には、(必要なものを)持っていかなくちゃいけないから、ある程度のサイズでギリギリなんとかなるものは、こういう中身でとか、なんかあった時の専用っていうよりは普段の生活の中で、こことここを持って出れば、それでなんとかなるっていうふうに変えていかないと、実際何の意味もないからっていうことを常に伝えているんです」

自分の手でなんとかする

※藤野電力の活動は、持続可能な暮らしにつながると思うんですが、都会で暮らしている方に向けて、アドバイスがあれば、ぜひお願いします。

「ワークショップに参加される方は、東京とか街中の方もたくさんいらっしゃって、ほとんどの方がマンションなんですね。 マンションのベランダで日差しは入るんですけども、その日差しが蓄電できるレベルかっていうギャップが結構あります。

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 (ミニ太陽光発電システムを)持って帰ったんだけど、どうもうまくつかないっていうことで見に行くと、ほんの一瞬太陽が横切る程度だったりとか。それから夏と冬で太陽の角度が違うので、(日差しが)全然パネルに当たってなかったりっていうことがありますね。

 マンションでやりたい方は、あまり大きなもの持って行っても設置場所もないですから、小さい仕組みを移動しながら、どこにどう置けば太陽の光がちゃんと当たるかを考えながらやっていただきたいっていうのもありますね。
 それでは現実的じゃないからやめますっていう人もいらっしゃるんですけど、やめちゃうと意味がないから、うまくいかないのをどう改善するかをぜひ都会に住んでいる方にはねチャレンジしてほしいって思いますね。

 田舎だと自分で何かをしなくちゃいけないとかって普通のことなんですけど、街中に住んでいると、お金を払って業者の人に来てもらうっていうような、お金とのやり取りが基本になってしまって、自分でなんとかしようっていう発想になかなかいかないんですよね。
 だからこそ、こういうちょっとした仕組みを暮らしに取り入れることで、ここはダメだからこっちにしてみようとか、ちょっと使いすぎちゃったから、みんなで使わないようにしてみようみたいに、自分たちの手を動かしながら、そこから学んでいただくっていうことをぜひやってほしいなと思います」


INFORMATION

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 鈴木さんのお話を聴いて「藤野電力」で行なっている、ミニ太陽光発電システムを作る「防災ワークショプ」に参加したいと思った方、1月も開催されますが、実は大変人気で、すでに定員に達しています。2月は12日(日)に開催予定となっています。

 体験コースと持ち帰りコースがあり、持ち帰りのほうは50ワットと160ワットのふたつのコースがあります。参加費など含め、詳しくは「藤野電力」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎藤野電力HP:https://fujino.pw

 鈴木さんの本業、整体師のサイト「森氣庵(しんきあん)」もぜひ見てください。

◎森氣庵HP:https://www.sinkian.com

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