三方を海に囲まれる房総半島に位置する千葉県。
首都圏からのアクセスもよく、
通勤圏でありながら海や里山の豊かな恵みをあわせもち、
自然とともにある生活を楽しめるエリアです。
そんな「千葉の魅力」を支えるさまざまな活動や
想いムーブメントなどにスポットを当て、
現地取材の声も通して「魅力あふれる千葉」をご紹介していきます。

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※「YOU 遊 チバ」は、ミンナノチカラ~CHIBA~と連動し週ごとにさまざまなテーマで千葉の魅力をお届けしているコーナーです。

Every Fri. 18:45~18:59

第55回:鮮度抜群!江戸前船橋瞬〆すずき

2021/7/23 UP!

千葉県内の市町村をひとつづ紹介してきましたが、先週の一宮町で一段落。今週からは新たな視点で千葉県の魅力などをご紹介していきます。

今回はタイトルにもある通り、鮮度抜群!江戸前船橋瞬〆すずきです。

船橋港を拠点に東京湾で巻き網漁業をされている大野和彦さんにお話を伺ってきました。江戸前船橋瞬〆すずきあ千葉ブランド水産物にも認定されているんですよ。スズキは白身の美味しい魚。「セイゴ」→2~3年もの「フッコ」→4年以上「スズキ」と呼び名が変わる出世魚でもあります。

そんな「すずき」。漁師さんがとって、陸にあげるとすぐ劣化が始まります。魚は新鮮さが大事。でも、ちょっと時間が経つと熟成があって味に深みが出る。超新鮮か、熟成かのどちらかしかなかったんですが「瞬〆」という方法でしめると、その両方が成立しちゃうそうなんです。そんなウマイ話なんでできちゃうのか? 大野さんに教えていただきました。

「この〝活〆神経抜き〟をした「すずき」。船でまき網漁業でとって生かしたまま船橋漁港で水揚げをして、乗組員総出で血抜きをします。それから血液が良く抜けたらエアガンで神経を吹き飛ばすという締め方ですね。神経を飛ばすことによって、もう魚がそこで一瞬にして絶命をする、自分が絶命したことすら気づかないうちに、つまり死後硬直が遅れるんですよね。死後硬直すると魚の劣化が始まるんですが、その時間を稼げると。少し休ませてから不意を突いてしめると出る血液もすごいサラサラなんですよね。歯ごたえ食感も、こりこりぷりぷりと言うものが残っている。お陰様で、高評価いただいています。時期がはじまると「まだないの」とか「今日シケなの?なんだ~」なんて言う言葉もいただいていますし、直接飲食店さんの方からもオーダーいただいたりしてます。」

日本全国で、『すずきの水揚げ量日本一』が、実は船橋漁港なんです。「すずき」は日本の広いところに分布している魚なので、船橋が日本一というのは驚きでもあります。ところが、これ、大野さんによると「自慢できる話とはちょっと違う」んだそうで、むしろ心配なところもある、という ことなんです。

「すずきがたくさんとれるんですけれども、その背景には他に取る魚が少なくなったっていう現実があって。このすずきを大切に持続的にとっていかなければ、船橋の漁師すべてが死滅してしまうことに繋がる。だから、量で稼ぐのではなくて質で稼いでいこう、そういう資源管理型の漁業に切り替えたということですね。資源が豊富であれば、やすく消費者に提供できますけれども、そんなにない、なけなしのものをとっている中でたたき売る必要はないですよね。私は今年で船に乗って40年ですけれども、20年ぐらい前からそんなことを思い、悶々としてました。冬になるとすずきが産卵期を迎え、捕るものがなくなってしまうんですが、わざわざ産卵場に出向いて、卵を持ったすずきを捕っていた時期や、すずきの幼魚であるセイゴをとっていた時期もあった。そういうことをして売れるからいいや、買ってくれる人がいるからいいやということで捕り続けていた姿が今日なのかな。なので、ここで我々が改めないと、もう手遅れになってしまうということに気づいたという ことです。」

そんな思いの中、実は、東京でオリンピック、パラリンピックが開催されることが決まって「是非とも江戸前の魚を世界の人たちに食べてもらいたい。」と思った大野さん。交渉してうまくいけば納品できるのかと思っていたら、国際認証機関の厳しい審査を通ったものでないと提供できないということが判明しました。その基準には「とっている量は適切なのか?」「生態系に与える影響はどのぐらいのものなのか?」などの項目があり、「世界は、こんなにしっかり未来のこと、環境のことを考えてやっているんだ、日本はどうなんだろう?」と愕然とされたそうです。自分が悶々と思っていたこと、心配していたことはまさにこれだ!と気づき、とてつもなく高いかもしれないけれど、その壁を乗り越えようと決めたそうです。

大野さんは、こうお話くださしました。

「これは乗り越えなきゃならない壁だから、それにもまして江戸前の魚を東京オリンピックに出したいっていう思いの方が人1倍、やっぱり強かったんだと思います。『今この地球というのは、先祖から受け継いだものではなく、子供たちから借り受けているものだ。だから持続的な状態で子供たちに返さなければならない』というサンテグジュペリという星の王子さまの作家さんが言った言葉。非常に重い含蓄のある言葉だなと思います。我々東京湾の漁師って、長年『東京湾で魚が捕れるんだ』『捕れてもそれ食べられるの?』とか、負のイメージを払拭する戦いをずっと続けてきたんですが、今後(の戦い)は、例えば近畿大学の先生の調査に東京湾のセグロイワシの中からマイクロプラスチックがいくつ見つかっただとかありましたが、次の世代の子供たちにそういったプラスチック汚染をした魚を食べさせたくない。自分たちが努力することによって、そういったものを少しでも解消できる方向に導いていきたいなと。例えば、発泡スチロールの箱を自然に溶けるような生分解性の素材を使ったものに変えていくだとか、我々の使っているナイロンの網をですね、これもやはり生分解性の方に徐々に変えていくだとか、そういった取り組みを続けております。」

大野さんは、その想いを本にまとめられています。

「ただ獲れればいい」という考えを完全に捨てて、「未来にちゃんと返せるのか」をしっかりと考えたうえで漁をする。例えば魚を運ぶ発泡スチロールの箱、生(せい)分解性(ぶんかいせい)のものは、普通の十倍近いお値段がするんだそうです。でも、使いきりだったこの箱をお店との間で10往復以上させれば、コスト的にも成立するし、環境にも負荷をかけにくくなる、、、とか。目の前の魚のことだけじゃなくて、私たちが住んでいる環境もしっかりと見据えて色々と活動していかないと未来がないと、熱くお話しされていました。

大野さんのお話からは、海へのリスペクト、そして長年、それに気づかず魚をとってきた罪滅ぼし、責任、いろんなものを感じます。「船橋の瞬〆すずき」。海への感謝の気持ちも重なって、さらに美味しく感じる。是非皆さんにも食べてもらいたいです。

詳しくは以下のリンクからご覧になってみてください。「瞬〆すずき」の急速冷凍品は、解凍してお刺身でもいけちゃうそうです。他に、東京築地の『漬け人』がすずき本来のおいしさを最大限に引き出した逸品「漬け魚」や大野さんの著作本なども紹介されています。

https://kaikobussan.com/

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