2002.7.21放送
アウトリガー・カヌー・クラブ・ジャパンのキャプテン、
荒木汰久治さんを葉山に訪ねて
以前、シーカヤッカーの内田正洋さんとともに荒木汰久治さんに出演していただいて以来、アウトリガー・カヌーそのものに興味を持った私たちは、厚かましくもアウトリガー・カヌーに乗せてもらおうと、荒木さんのフィールドである葉山の大浜海岸に押しかけました。葉山公園のベンチに座って、海辺の景色を見ながら、海風に吹かれながら、お話をうかがったわけですが、まずは前回のおさらい。

アウトリガー・カヌーとは?
「ハワイから我々が持って帰ってきた大型のカヌーです。6人乗りで左側にアウトリガーと呼ばれる“ウキ”がついていて安定性が保たれているという特殊な構造になっているんですが、それでレースも出来ますし、海の散歩もできると。」

今拝見していたら予想していたよりも大きいですね。

「大きいですね。全長が大体12メートルぐらいあって、重さが200キロ弱あります。ファイバーグラスで出来ているんですけど、元々は丸太ん棒を切り抜いて作ってたんですけど、今はそんな木も少なくなったというのと、軽量化と値段を下げるためにも、スポーツとして楽しむためにもアウトリガー・カヌーはFRPで出来ています。で、ヤックと呼ばれているアウトリガーにかかる橋、前後に2本あるんですが、それは今でも木で作られています。」
軽量化されたとはいえ200キロ?
「そうですね。」

じゃぁ、よく映像などで見るメンバーたちが抱えて水の方に走っていくのは、かなりきつい?
「かなりきついですよ。」

漕ぐだけじゃダメだと。だとすると、女性だけのチームとかは?

「女性のチームもあります。女性の場合は6人で担ぐ人たちは少なくて10人ぐらいでやってます。」

今日、私が乗せていただくのは6人乗りのアウトリガー・カヌーですね。

「そうです。昨年我々がモロカイ・ホエという世界選手権で使ったカヌーです。このあいだ、日本に持って帰ってきたばかりの新品のカヌーです。」

それじゃぁ、私もキズなどつけないように、一生懸命パドリングしながらアウトリガー・カヌー体験をしてみたいと思います。

 というわけで、まずは荒木さんを含めて5人のクルーに混ざって体験してしまいました。シーカヤックやカナディアン・カヌー、あるいはヨットと、今までに体験してきたものの中ではカヤックにいちばん近いかなとも思いましたが、何せスピードが速い。それに波を感じる迫力が凄かったんです。「スプラッシュなんとか」なんてめじゃないという凄さでした。その後、よせばいいのに、誰でも参加できる“ファン・レース”があるということで、ザ・フリントストーンの取材チームが無謀にもトーナメント・レースに挑戦しました。1番シートにミツミネ少年、2番シートにはじいさん、3番シートにははなちゃん、4番シートにはたいち、5番シートにエイミーが陣取り、一番後ろにはアウトリガー・カヌー・クラブ・ジャパンのスタッフに乗ってもらって、いざ出陣とあいなりました。
ところが、いつも一緒に仕事をしているのに、パドルはバラバラ。おまけに日ごろの運動不足がたたって、最後はアップアップでようやくゴール。見事に惨敗を喫し、トーナメントの一回戦で姿を消すことになりました。(もっとも、1回がやっとだったという説も・・・。しかも、我々が負けた相手は、この日の優勝チームだったし。)

アウトリガー・カヌー体験の後、びしょびしょになって戻ってきた私を笑顔で迎えてくれた荒木さんに再びお話をうかがいました。

「速いでしょ?200キロあるカヌーなんですけど、ものすごくスピードが出る形をしてるんですね。だから一旦スピードに乗るとメチャクチャ速いんですよ。ですから波に当たっても突き抜けちゃうんですね。突き抜けた後に波にバーンと落ちる衝撃が凄い。それを是非味わって欲しかったんです。」

味わいました。でも、なんかさっきの感じでいくと、一番後ろにいるステアマンの人がパドルズアップと声をかけて、みんながふっとパドルを上げた時ぐらいしか息がつけないのかぁと思ったんですけど。
「パドルズアップというのはパドルを上げろということなんですけど、それには二通りの意味があってパドルを止めるという意味もあるし、準備するREADYという意味もあるんですね。それをステアマンが声をかけるんですけど、それ以外は絶対にパドルを止めない。例えば目の前にイルカやカメが浮いてきたりとか、浅瀬に乗り上げそうだとか。その時にパドルを止めちゃいけないんです。なぜなら、みんながパドルを止めたら推進力がゼロになってしまって変更がきかないんです。だからすべてステアマンが命令をする。右に行くのも左に行くのもステアマンが決め、後の5人はそれを信用するだけ。ですから息を抜く暇はないというのはまさにその通りで、特に我々が出ているモロカイ海峡の大きな波でレースをする時は、全員の息が合って、力も揃わないと一つの波に乗れないんですね。何百回と続く中で一つの波を乗り過ごすと、その一つの波の差が10秒とか20秒の差になるんですが、6時間漕いだ後のゴール・ラインで10秒とか20秒の差の中に3〜4チームが入ってくるんですよ。ということは6時間中に波を一つ逃したら順位を一つ落としてるのと同じことなんです。そうすると気が抜けないんです。」

シビアーですねぇ。

「ものすごいシビアーですね。まぁ、でもしっかりそうやって漕ぐときと、実は今日の午前中もトレーニングしてたんですけど、沖にカヌー出してシュノーケルしてたんです。その時なんか、パドルなんてバラバラですよ。」

楽しい時と一生懸命やる時と・・・

「そう。両方があるというのが、やめられないですね。」

そんな荒木汰久治さんは、アウトリガー・カヌーを使った遊びの達人になりたいといいます。

「日々遊んでる中で新しいことをクリエイトしていく力が出てくるんです。例えば水中を岩を持って走るというロック・トレーニングというのを今日やったんですけど、それも人から見れば、水中で息を止めて重い岩を持ってどれだけ走れるかなんて、どうしてそんなきついことやるの?って感じじゃないですか。でも、それが楽しいんです。人より長く走れなかったから悪いとかいうことではないし、それが競うことであっても単純に遊ぶだけのことでも楽しいんです。それに何かをクリエイトしていくことは重要だなと思うんですね。アウトリガー・カヌーというのはそれに一番適した道具だと、僕は考えてるんですよ。風が出ればセーリングもできるし、このあいだ、ハワイのブライアン・ケアナナっていう、去年僕らが韓国に渡ったときに来たゲストが、ここに来てカヌーに乗ってカイトをあげたんですよ。漕がなくていいわけですよね。そういうこともできるんです。あとは、今日僕らがやったようにアンカーを積んで、ヤクの部分にヒモを結んでアンカーを打つと、そこでダイヴィングができる。それに釣り糸を流してトローリング式にフィッシングもできる。それに4人乗りの短いカヌーもあって、それはカヌー・サーフィン用のものなんで、普通のサーファーと同じように波に乗れる。セーリング、サーフィング、フィッシング、ダイヴィング、それからパドリングと、全てができる遊びの道具がアウトリガー・カヌーなんです。」

それだけ応用がきく。一つのもので5度おいしいというわけですね。

「で、遊びながらも魚を捕る道具であり移動する手段でもあったわけですよね。すなわち生活と遊びが実際はつながってるんですよね。でも、今は生活と遊びがつながってないものばかりじゃないですか。そうじゃなくて本来あるべき姿ってそうじゃないと思うんです。僕らはここ葉山を中心に2週間に一度カナカ・イカイカ・ジャパンというパドリングの大会を開催してるんですが、その時に必ず僕が言うことがあって、会場に来てくれる200人ぐらいの人が、子供を連れてきたり犬を連れてきたりして自分なりに遊んだり、のんびりとしてるんですけど、それでいて真剣にガチガチとレースをしてる人もいるし、それぞれの楽しみ方で海という場を共有している。それはやはりスローな時間がそこに行けば流れている。それを感じて欲しいなと思うんです。そして決して大会の時だけじゃなくて普段からスローな時間というのが海に行けばあるんですよ。ですから、夏だけではなくて1年中海のそばにはスローな時間が流れているんですね。」

以前、ウォーターマンというお話もうかがったんですけど。

「そうですね。ウォーターマンというのは海のことなら何でもやってしまうという海の達人ですよね。下に潜ったら20メートル以上潜水してしまったり、20フィート以上の大波に笑顔で乗っちゃったりとか、外洋の島から島へ平気でパドルしてしまったりとか、いろんな達人がいると思うんですけど、そういう人でさえ、どっかの芸能人みたいに鼻高にならずに人々の身近に存在して、自分を決して過大に表現したりもせず、人から尊敬される人間性を持っていてというウォーターマンが理想像だと思うんですけど、彼らのライフスタイルというのが多分スローなライフスタイルだと思うんです。僕はウォーターマンという存在に憧れて色々活動していたとしても、決してウォーターマンにはたどり着けないんですよね。近づくことは出来てもそこの域にたどり着けることは無理だと思うんです。自分にエラがついていて水中でも呼吸ができるなら別ですけど、人間は陸上の生き物ですから水の男になりえるというのは、ほぼ不可能です。ただ、まわりの人から、あいつはウォーターマンだって尊敬の意をこめて呼ばれる肩書きのようなものですから。でも、ウォーターマンのライフスタイルは誰でも真似できるんですよ。だから僕はウォーターマンのライフスタイルを提唱したいし、それを少しでも多くの人に感じて欲しいと思いますね。」
 さて、ウォーターマンを目指す荒木汰久治さんは、アスリートとして、いくつものレースに参加しているわけですが、その中でも、最も重点を置いて目指しているのが、“モロカイ3制覇”。つまり、モロカイを舞台に行なわれる3つの国際レースを制覇することなんですね。そしてその第1弾として、5月にはサーフ・スキーの大会、“モロカイ・チャレンジ”に参戦しました。ちなみに、このレースは、日本人には完漕さえ無理といわれた、60キロのモロカイ海峡を渡るというものなんですが、荒木さんは、初挑戦から5年を経て、ついに、日本人で初めて4時間の壁を突破。世界ランク14位を達成しました。
 また、来週、7月28日には、手のひらだけで60キロの海峡を渡りきる“モロカイ・パドルボード・レース”が控えています。このレース、荒木さんは昨年、無念の失格となっているので、今年にかける意気込みも強く、現在、すでにハワイに渡ってトレーニング中です。
 そして いよいよ10月には、6人のチームを編成して参加するアウトリガー・カヌーの大会、“モロカイ・ホエ”もあります。こちらの方には去年と同じく、ナイノア・トンプソンの参加も決まっているそうです。
 更に、今年も昨年同様、韓国までの航海、“パドル・トゥ・コリア”が行なわれるんですが、なんと今回はパドルボードで玄界灘を渡る予定だということです。
 まさにウォーターマンへの道を日々前進し続けている荒木さんですが、“アウトリガー・カヌー・クラブ・ジャパン”では、私たちにも広く門戸を開放して、ウォーターマンのライフスタイルに私たちが少しでも近づけるように、場を提供してくれています。

「世界を目指す我々のファースト・クルーだけではなく、マスターズ・クルーもありますし、女子だけのクルーもありますし、ジュニアのクルーもあるんです。だから色々な年代の人たちがカヌーに乗れるような環境を作っていきたいですし、そういう人は是非クラブのホーム・ページにアクセスしていただければいいかと思います。僕のホーム・ページもフリントストーンとリンクしてますから、ダイレクトにメールいただいたらいつでも僕がお答えしますし。」

これからもどんどん忙しくなっていきそうな荒木さんですが、最終目標は?
「僕の最終目標はアスリートとして自分が納得いく成績を残すことですね。大会のプロデュースをしたり、大学の講師もしているので人を教える立場とか、色々あるんですが、一番根底にあるのは、やっぱり一番になりたいという、僕は純粋なアスリートなんですよね。誰よりも勝負事に対して厳しく挑むし、勝ちに対して誰よりも努力してトレーニングしてることには自信があるんです。トレーニングや食事の調整など大会にかける気持ちは絶対に負けたくないというのがあって、それで結果を残すこと。モロカイで優勝すること。それを目指したいですね。それと同時にウォーターマンの存在を知る人、ウォーターマンのライフスタイルを一部味わう程度でいいので、僕の生まれたこの日本に、海の文化を根づかせたいですね。それが僕が一生を通じてできる最終目標です。」

 お話にもあったように、“アウトリガー・カヌー・クラブ・ジャパン”ではサーフ・スキーやパドル・ボード、シーカヤックなど、パドリング・スポーツの魅力を伝え、海という大自然、もっといえば、地球と触れ合うためのイベント、“カナカ・イカイカ・ジャパン・シリーズ”を、毎年、葉山の大浜海岸を拠点に開催しており、イベントの最後には、今回、私たちも参加させていただいたアウトリガー・カヌーの“ファン・レース”、つまり、一般の誰もが参加できるレースがあるので、ぜひ、皆さんもチャレンジしていただきたいと思います。ただ、残念ながら、今年の“カナカ・イカイカ・ジャパン・シリーズ”は、すべて終了してしまったので、来年、ぜひ参加して下さいね。

荒木汰久治さんホーム・ページ
http://www.arakitakuji.com

「アウトリガー・カヌー・クラブ・ジャパン」ホーム・ページ
http://www.occj.org

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