2005年3月20日

小説家・石黒耀さんが語る「震災列島」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは石黒耀さんです。
石黒耀さん

 火山を題材にした小説「死都日本」でデビューした小説家「石黒 耀(いしぐろ・あきら)」さんをお迎えします。「死都日本」は科学的な根拠に基づいたリアルな描写が専門家をうならせました。そして2作目が昨年秋に発表された「震災列島」。この小説は、いつ起きても不思議ではないといわれる東海地震をモチーフに、科学的なデータをもとに書き下ろしたリアルな地震小説。今回は、そんな石黒さんに日本を襲う巨大地震についてうかがいます。

東海地震と富士山噴火が同時に起こる!?

●前回が2003年の夏、ちょうど防災の日の前日に「死都日本」という怖い小説についてうかがったんですが、石黒さんは昨年の秋に「震災列島」という東海地震にスポットを当てた小説を出されました。これは主人公が名古屋の人なんですよね?

「そうなんです」

●なぜ、名古屋をフィーチャーしたんですか?

「普通、東海地震というと静岡市なんですよ。今まで、書かれた話も静岡が舞台になっているんですけどね。もう、静岡市が東海地震でやられるというのは当たり前すぎて意外性が何もないんですね(笑)。もっと離れたところにもとんでもない影響があるよというのが書きたかったのと、あと、つぶれる町が大きいほうが面白いということもありまして名古屋にしました(笑)」

●大都会で大地震が起きたらどうなるかというシミュレーション番組もやっていますが、東海地震が来た際の名古屋がどうなるかというのは、「震災列島」を読んでいただければ細かに分かるようになっています。で、さらに離れている関東、東京にも影響が及ぶんですよね?

「ええ。そう信じております。覚悟は決められておいたほうがいいと思いますね」

★    ★    ★

 ここで「石黒」さんの小説、『震災列島』で起こる地震を簡単にご紹介しておきましょう。これは「複合地震」と呼ばれるもので、最近よく話題になる、「静岡県・御前崎沖」を震源とする「東海地震」と「紀伊半島沖」を震源とする「東南海地震」、そして「四国」の南側の海域で起こる「南海地震」という、大きな地震が相次いでやってくるというものなんです。しかも歴史上、これから起こるといわれている「東海地震」と「東南海地震」は、おおむねセットでやってくるため、江戸時代までは、この2つを分けずに、ひっくるめて“東海地震”と呼んでいたそうです。
 細かいメカニズムには、諸説あるので、ここでは触れませんが、「関東地方」の沿岸から「日本列島」に沿って「沖縄付近」まで、「関東以西」の「太平洋側」は、「フィリピン海プレート」のちょうど境目にあり、もしこの3つの大きな「複合地震」が起こったら、大きな被害が出るのは避けられない上、列島に近い海域で起こるこの地震は、津波の被害も心配されているんです。

★    ★    ★

「東海地震の場合も大きな津波が起きます。この間のスマトラ沖の地震の映像があちこちで流れていましたが、あのクラスの津波が来ます。大体、静岡の焼津辺りだと6mから8m。これは沖合の話で、沿岸だともっと大きくなる可能性がありますね。特に地形的に狭まっているところです」

●私は「震災列島」の中で気になったのが、「東海地震前後に富士山の活動が活発化して、同時期に噴火する可能性がある」と書いてあったことなんですが、詳しく説明していただけますか?

「はい。おそらく、今回の想定東海地震のあと何年かすると、富士山が噴火するんじゃないかと思っているんです。ただし、「死都日本」の時の珪長質(けいちょうしつ)マグマといいまして、粘っこいマグマと違って、富士山はサッと流れるタイプなので、ああいう大爆発は起こらないんですね」

●「死都日本」ほどではないんですね?

「はい。ただし、じゃあ物凄く小さなものかというとその保証もなくて、過去には富士山は大変な爆発を起こしたこともあるんです。例えば、富士宮辺りは火砕流とか、崩れた富士山の山体で埋まってしまう可能性は十分にあります」

●色々な意味で東海地震というのは、日本列島にとって怖いものになりますね。

「“人間にとっては怖い”というべきで(笑)、日本列島にとっては、これは日本を作ってきた力なんですね。地震と噴火がなかったら、日本列島ってありえなかったわけなんですね。日本列島にとっては、ありがたい力ということになります」

●そこに住む人間にとって・・・?

「怖いというだけの話です」

原発を造ったのが最大の間違い

●「震災列島」の中で石黒さんが危惧していたのは原子力発電所。静岡県御前崎にある浜岡原発なんですが、原発震災になる可能性が高いそうですね?

「かなり高いです。まず、耐震基準が非常に甘い基準で作られたんですね。特に1号機、2号機は相当ひどいですね。で、当時から大地震が起こることは分かっていたんですけどね。まぁ、造っちゃえってことで造ってしまったんです(笑)。当時はこのくらいの強さで造っておけば、十分地震は切り抜けられるといわれていたのが、今から見ると全然大甘でですね、しかも経年変化、劣化というのがありまして、本来は1号機、2号機辺りは廃棄しないといけない時間が経っているのに、まだ使っているんですね(笑)。で、使っているだけでも危ないのに、そこへ地震が来るとまずもたないだろうというのが、比較的悲観的な地震学者さんたちの考え方ですね」

●2月に衆議院予算委員会の公聴会に、29年前に東海地震説を最初に唱えた神戸大学の石橋教授が出席して、浜岡原発の危険性を指摘されて話題になりましたが、地震学者の方が国会で警告するというのは非常に異例なことなんですか?

「はい。異例ですね。これが異例だというのが、私は恥ずかしいです(笑)。いかに科学的事実を無視して今まで国の運営がなされてきたかという証拠みたいなものですね。本当は、ずいぶん前からいわれていたんですけど、なかなか浸透しなかったですね」

●火山や地震が多く、震災国といわれている日本で原子力発電が行なわれています。原発は安全だという方がいますが、石黒さんの本には「原発は冷却加熱に大量のエネルギーを使うので、決して地球温暖化防止に役立っているとはいえない」と書いてありました。

「はい。全く役立っておりません」

●しかも、浜岡原発は偶然、揺れの大きい場所に設置されている。

「日本で原子力発電を選択したのは間違いだとハッキリ言えます。別な道があったはずです」

●ここまで進んできてしまいましたからね。

「そこで間違いを認めるかどうかですよね。自然科学というのは答えが実は自然の中にあるので、それを見つけさえすれば正解はすぐに出てくるんです。応用科学のほうは違うんですね。これは、明日新しい技術が開発されると嘘になっちゃうことがあるんですね。そこの判定基準がしっかりしていないからおかしなことになってきたわけで、答えは自然の中にあるということさえキッチリすれば、こんなところで道を踏み外すことはなかったんです。これから道を変えることも出来るんです。大体これだけ役に立っていないスギが日本にあるわけですからね。スギの木発電するべきですね(笑)」

●スギの木発電! 新しい発想ですね(笑)。

「いやいや(笑)、これは本気で言っているんです。スギの木ってなぜ薪に使えないかというと、油が多すぎるんですよ。ですから煙突の中にすすがいっぱい付くんですね。 実は、あれまで完全燃焼させるとカロリーが高いんですよ。で、あれだけスギに補助金を使ったのは間違いだとまず認めて、じゃあどうするかといった時に、政府かあるいは電力会社がスギを買い入れて発電に利用すれば世話をする人が出てくる。すると、山の保水力が高まる。すると、ダムを造らなくて済む。色々な問題が一気に片付いてしまうんですね。つまり原発を造ったのが最大の間違いだったんです」

●原発以前に、自然にもっと目を向ければよかったんですね。

「ええ。答えはあったはずなんです」

●小説の中で「メタン・ハイドレート層の大規模破壊が起こって、大変な被害をもたらす」というくだりがあるんですが、この「メタン・ハイドレート層」について説明していただけますか?

「ちょうど東海地震とか、東南海地震とか南海地震が起こる場所に限って、海底の地面の深いところにメタンガスが水と反応してシャーベットのような層を造っているんです。で、それを取り出して常温にすると、ボコボコとメタンガスが気化して湧いてきます。これは、日本が使うエネルギーの200年分くらいが、さっきいった3カ所を合わせると、埋まっているといわれていまして、大変なエネルギー源なんです。ところが、うっかり突くと危なくて、暴噴(ぼうふん)という現象を起こすんです」

●暴噴ですか?

「ええ。暴れるに噴きだすで暴噴と読むんですけど、これが1度起こると連鎖的に繋がっているものですから、横へ横へと広がっていって止まらなくなる恐れがあるんです。実際、過去に暴噴が起こった跡もありまして、その時に気候の大変動が起こってしまうんですね」

●今、全く別のところで騒がれている気候の大変動ですね。それがここで繋がってきてしまうわけですね。

「ええ。ですから、その開発は物凄く慎重にやらないとまずいですね」

●ボロボロなんですね。

「ボロボロっていうか、我々はそういう国に住んでいるんですよ(笑)」

日本を知るところから災害対策が始まる

石黒耀さん

●私なんかは大きな地震というと、大都会に住んでいて感じるのがビルが多いこと。耐震は進んでいると聞きますが、シミュレーションのテレビなどを見ていると、倒れない代わりにすごく揺れています。大きく揺れたらビル同士がぶつかってしまうことってないんですか?

「神戸の地震の時も隣のビルとぶつかってしまうということが結構あったんです。だけど、あの時は地震が1秒に1回くらいのサイクルだったので、そこまでひどくはなかったんですね。東京なんかには1秒に10数回のサイクルで地震がきます。そうすると、今、盛んに建てている超高層ビルっていうのは、運が悪いとちょうどその周期にピッタリあって、非常に大きなブランコのような動き方をして、ほとんどの場合、隣の超高層ビルとの距離は離れているんですけど、例えば、同じ敷地の中に古いビルと超高層の新しいビルが建っているようなところっていうのは、意外に間が1mとか2mしかないような場所が結構あるんですね。そういうのはぶつかる可能性が結構ありまして、そういうぶつかったところで鉄骨材に亀裂が生じて、崩れていくということは有り得ますし、何よりも一番の問題は手抜き工事がないかということですね。これは、絶対あります」

●あと、大地震がきた時に間接的な被害もかなりありますよね。

「まず、金額的なことからいいますと、兵庫県南部地震の時は建物が倒れたなどの直接的な被害が10兆円だといわれているんですね。それから、銀行が倒産したので、そこが融資していた会社がつぶれたとか、労働力が地方に離れてしまって働けなくなったから生産力が落ちたとか、間接的なものが出てきますね。それがどのくらいだったか、そろばんをはじいてみると、人によって違うんですけど6兆円から9兆円といわれているんです。つまり、直接被害と近い額の被害が出たんですね。それに当てはめてみると、東海地震の時もおそらく50兆円くらいは出るんじゃないかと。で、もっと増える可能性も十分あります。というのは、50兆というと年間の国の税収を上回ってしまうんですね。特に、経済というのは日本中を一瞬で巡りますからね。
 ですから、東海地方の経済だけがダメになって済むという問題ではなくて、国の経済が破綻していくと。例えば今、保険料率が3割ですけど、これを8割にしちゃえってなれば、我々も病院に行くのをやめようかってなっちゃいますよね。そうすると、本来だったら治っていた病気も見つからなくてそこで死んでしまうと。それから、中小企業向けにかなり有利な公的貸出制度なんかもやめちゃえと。すると、バタバタと中小企業が倒れていくと。あと、浮浪者が増える、社会が不安定になると。それも実は地震の被害なんですね。
 これを端的に物語るのが、大正時代に関東大震災というのがありましたよね。あのあと、物凄い不況がきたんですよ。銀行がバタバタ倒れました。そこで国は何をしたかというと、軍の予算を減らそうと。で、2.26事件が起こってしまうわけです。それを抑えたのがまた軍なので、軍の発言力が一気に高まってしまうわけですね。で、軍主導で植民地を獲得して、植民地経営で乗り切れという方向に走ったので、太平洋戦争になっちゃったんですね。で、挙げ句に何人死んだかというと、中国朝鮮合わせて1700万人死んだというんですね。で、関東大震災だけなら10万人だけで済んでいたはずなんです。そこで済まないのが、大被害が出たときの恐ろしいところなんですね」

●日本は自然が豊かであるがゆえに、自然の厳しさも身をもって感じさせられるんですね。私たちは、そのことを知ったうえで生活しなければいけませんね。

「結局、日本のことを知っているかどうかということですよね」

●我々、日本人は知らなすぎですよね。

「と、思うんですよ」

3作目では日本が消滅!?

●石黒さんは「死都日本」「震災列島」とお書きになっていますが、この先の予定を教えて下さい。

「僕が考えているのは、実はこれ3部構成でして、火山、地震ときて最後に一遍、日本を全部潰してしまおうかという(笑)」

●そうきましたか(笑)。

「で、日本に誰も住めなくなったときに、日本人が果たす役割は一体何なのだろうというのを書きたいです。小松左京さんの『日本沈没』という非常に有名な作品がありますが、あの作品はみなさんが世界中に散らばるところで終わっていたんですね。僕は、その先が問題じゃないかと思うんですね」

●確かに私もあの先が気になりました。

「ただ散らばってダメになるのか、本当に日本人って滅亡してくれてよかったと思っているのか、そこが分かれ目だと思います」

●それが3部作の最終章になるんですね?

「それはあんまりだという説もあって(笑)、ちょっと一休みして違う方面の話を書けという声もあるので・・・」

●石黒さんは、いずれは日本が消滅してしまうという小説が最終的には書かれるんですね?

「書きたいとは思っているのですが・・・(笑)」

●(笑)。今後も私たちがぬるま湯に浸からないように、警鐘を鳴らすような小説を書き続けていただきたいと思います。今、一番注意すべきは東海地震ですね?

「そこは難しいですね。ここは東京だということを考えると、むしろ、首都直下地震のほうが被害が大きいですし、被害額も、東海地震で浜岡原発がつぶれなかったときと比べると、首都直下でマグニチュード7.3程度が起こるほうが遥かに被害が大きいんですね。で、国がひっくり返る可能性としても、首都機能がありますから、首都直下のほうが危ないことは危ないです。ただ、浜岡原発がメルトダウンすると、これまた首都も全部ダメになりますので、さぁどっちが危ないでしょうね(笑)」

●(笑)。一概には言えないんですね。

「なかなか難しいです」

●いずれにしても、生活の仕方から国のあり方まで考え直さなきゃならないということなんですね。

「そうです。それが基本ですね」

●その詳しくは「震災列島」をお読みになって、みなさんの頭の中でシミュレートしていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの石黒耀さんのインタビューもご覧ください。

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■小説家「石黒 耀」さんの本の紹介

震災列島

・『震災列島
講談社/定価1,890円
 去年秋に出版された「石黒」さんの最新の本。近い将来起こるであろうといわれている東海地震をモチーフに、科学的なデータをもとに書き下ろした大作。
 

・『死都日本
講談社/定価2,415円
 「石黒」さんのデビュー作(第26回メフィスト賞を受賞)。九州の霧島火山の北西側にある古いカルデラが巨大火砕流噴火を起こし、日本全体が大混乱に陥るという近未来小説。
 尚、この本については2003年8月31日に番組でうかがっています。興味のある方は「小説家・石黒耀さんの大噴火シミュレーション『死都日本』」をご覧下さい。
 

・このほか、現在発売中の雑誌「文藝春秋」には「石黒」さんが書かれた東京に直下型の大地震が来た時のシミュレーション記事『シュミレーション・東京直下大地震が来た』が掲載されている。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. DEEPER UNDERGROUND / JAMIROQUAI

M2. I FEEL THE EARTH MOVE / CAROLE KING

M3. DANGEROUS / THE DOOBIE BROTHERS

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. HAVE A GOOD TIME / PAUL SIMON

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. SAY WHAT YOU WILL / ERIC CLAPTON

M6. LIVIN' ON THE EDGE / AEROSMITH

M7. WHERE DO WE GO FROM HERE / CHICAGO

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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