2016年1月23日

祈りの島 五島列島 上五島

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、吉村和敏さんです。

 写真家の吉村和敏さんは、“赤毛のアン”の舞台となったカナダのプリンス・エドワード島の写真集で注目され、その後も世界各国や国内の旅を続けながら意欲的に撮影活動を続け、数々の素晴らしい写真集を出してらっしゃいます。この番組には、夕焼けと夜の闇の間に空が真っ青に染まる瞬間を収めた写真集“BLUE MOMENT”を出された時と、太陽が沈んで夜になっていく時間を収めた写真集“MAGIC HOUR”を出された時にご出演いただきました。そんな吉村さんが来月上旬に、長崎県・五島列島の写真集を出されるということで、今回はそのお話をたっぷりうかがいます。

雪の中にある色

前回出ていただいてから5年が経ちましたが、その間にペルーのあの世界遺産に行ったそうです。

「前から行ってみたかったマチュピチュに行ってきました」

●どうでしたか?

「実際にマチュピチュの遺跡を見ると感動しますよね。近くにワイナピチュという山があるんですね。マチュピチュの写真を見ると、後ろに三角の山があると思うんですが、その山の頂上に行ったんですよ。そこから見た遺跡の眺めは感動しました」

●どんな景色なんですか?

「空を飛んでいるような感じですね。雲が下界の方に流れていって、その流れている雲の隙間から遺跡が現れてくるんですよ。あれ見たときは感動しましたね。僕らが見ているマチュピチュ遺跡というのは、よくあるアングルの写真ですよね? それとは違う形で遺跡を見ることができたので、新しい風景を発見した感じがしました」

●国内ではどうですか?

「国内では、ずっと北国を狙ってました。雪の風景に惹きこまれていて、北海道・東北地方の雪景色を撮影していました」

●吉村さんのことですから、雪景色といってもただの雪景色じゃないですよね?

「確かに、絵葉書にあるような雪景色ではないですね。“雪の中にある色”をテーマに撮影してきました。例えば、冬の雪景色の中を移動していると、標識とか車の色など、生活風景の中に色があるじゃないですか。その色をテーマに写真を撮り続けてきました。そうすると、雪の白と生活風景の色がうまく融合して、北国の独特の世界観を生み出してくれるんですよね。そこに日本の風景の美しさを見つけて、それを作品にしてきました」

●確かに、普段のときよりも鮮やかに見えますよね。

「夏のときに見ると、森の緑や海の青さなど色々な色があるじゃないですか。でも、冬の場合は雪で周りが真っ白になってしまいますよね。その中に標識の黄色や赤があると、目に飛び込んでくるんですよ。そこに日本の美しさが隠されている感じがしましたね」

五島列島 カトリック教会

●吉村さんは2月上旬に長崎県・五島列島をテーマにした新刊を出されるんですよね?

「そうなんです。五島列島には美しい島があるんですよ。五島列島は長崎から船で2時間半ぐらいのところに140ぐらいの島があるんですね。僕が今回追いかけた島は“上五島”という島です」

●なぜそこで写真を撮ろうと思ったんですか?

「風景にすごく惹きこまれたんですよ。今から8年前に北海道から九州まで旅をして日本の風景を追いかけていたんですが、その過程で初めて五島列島を訪れたんです。そのときに島の風景に惹きこまれて、心から“写真を撮りたい!”と思ったんですね。それがキッカケです」

●どんな風景だったんですか?

「五島列島にはたくさんのカトリック教会が点在しているんですね。その教会がある風景が日本の独特の1つの景観を作り出しているんですよ。日本の漁村の中に洋風のカトリック教会がポツンと立っているその様子が、日本にいながら海外にいるような感じがして、すごく不思議だったんですよね。それに惹きこまれてしまいました」

●どうしてそこに教会が立てられたんですか?

「江戸時代の禁教の時代がありましたよね? そのときに信者が島に追いやられてしまったんですよ。その時代が終わると、そこにいた信者は次々と教会を作っていきました。なので、五島列島は色々な文化がある感じがしますね」

●そういう風に色々な風景や瞬間を吉村さんは撮影されているんですね。

「そうですね。今回の作品集は風景写真がメインなんですが、上五島に暮らしている人々の写真もたくさん撮りました。その写真も今回載せています。漁師の人に頼んで、漁に連れていってもらったり、キリスト教信者の方々がミサをやっているところを特別な許可をいただいて撮影したり、子供たちの写真もたくさん撮りました。町を歩いていると、子供とすれ違うじゃないですか。そのときに『こんにちは!』って元気に挨拶してくれるんですよ。それはいいなって感じがしますよね!」

●明るい子たちが多いんですね!

「そうなんですよね。そこに惹かれて撮影した写真もたくさんありますね」

●その中でベストな風景って何ですか?

「これがベストな風景って選びきれないんですが、例えば海に沈む夕日や海から昇る朝日をストレートに見ることができるので、それも感動しましたね。あと、もう1つ心に残っているのは、“キリシタン洞窟”という昔隠れキリシタンの人たちが暮らしていた場所が若松島の切り立った崖にあるんですね。そこに今、イエス様が立てられているんですが、そこは船に乗って上陸することができるんです。そこは感動しましたね!」

●船に乗らないといけないんですね。

「道がないので、乗らないといけないんです。なので、禁教の時代、キリシタンの人がそこに移り住んで生活していたんですよね」

●色々な想いが残っていそうな場所ですね!

「当時信じていた人たちが大切にしていた心や想いというものをストレートに感じる場所ですね」

●そこに行くと、何かを感じるんですね。

「そうですね。あと、上五島には“三王山”という山があるんですね。そこから眺める島の風景は素晴らしかったですね」

●どんな風景が広がっているんですか?

「全ての島を一望できるんです。小さな展望台がありまして、そこから続いていく島並を見ることができるんです。海に光が反射していて、すごくキレイな日本の風景が広がっています。そこはオススメの場所ですね」

●先ほど夕日の話がでてきたのでもう少しうかがいたいんですが、吉村さんといえば、日が沈んでから夜になるまでの“マジックアワー”を撮り続けていますが、五島列島でもマジックアワーを撮影されたんですか?

「たくさん撮りました。日が沈んで空が淡い色彩に包まれますよね。そのときに教会がポツンとある入り江を見ると、すごく画になりましたね。特に、クリスマスの時期がすごく心に残ってます。カナダでイルミネーションをしている民家とか教会はたくさん見てきましたが、それと同じ光景が上五島にもありましたね。上五島の場合は、教会は入り江のほとりに建っているケースが多いんです。つまり、そのイルミネーションに彩られた教会が入り江に写りこんでいるんですよ。それは非常に幻想的でした。まさに“光のマジック”でしたね」

まずは行動!

※吉村さんはどんな風に写真を撮っているのでしょうか?

「僕は予備知識をそれほど入れないようにしています。まず現地に行ってみます。その現地にいることによって、風景や人との出会いなど、色々な発見があるので、そういったのを素直な気持ちで切り取っていくスタイルです。それをずっと繰り返していくことによって、1つの大きなまとまりができるんですよね。本を作るときは、そのまとまりから自分の思い出に残った写真をピックアップしてまとめます。なので、とにかく現地に行って、たくさんの写真を撮ることが大切なんですよね。物事をあまり深く考えないで、自分の気持ちを作品に置き換えていくような感じでいつも撮影しています。詳しいことを調べたりするのは、その後にやればいいと思っています。最初にその場所の歴史とかを調べちゃうと、作品が弱くなっちゃうし、説明的な写真になってしまうんですよね。なので、まず自分で見て発見して、詳しいことは後で調べていくというのが好きな流れですね」

●それは写真以外にも言えることですよね。とりあえずやってみることが大事ですよね!

「そうなんですよ! まず行動するのが大切ですよね! 最近の若い人はなかなか行動しないですよね」

●やっぱり先に調べちゃうんですよね。

「今は非常に便利な世の中で、インターネットで何でも調べることができるじゃないですか。でも、それは最初にやらない方がいいと思っています。もし『この国に行ってみたい!』と思ったら、行けばいいと思います。そこから何かを発見して、後で調べればいいと思います」

●そうですね。やっぱり行って失敗して大変な思いをしたくないって思って、事前に調べちゃうんですよね。

「そのトラブルも1つの思い出になりますからね」

●今度は下調べをあまりせずに行ってみようと思います。

「それが大切かもしれないですね」

美しいふるさと日本

※吉村さんが今一番心惹かれている“日本のふるさと”についてうかがいました。

「海外に行けば行くほど、『日本ってすごくいい風景なんだよな』と、生まれ故郷が好きになってくるんですよ。僕が生まれ育った長野県にも美しい自然が残されているし、人々も素朴で素晴らしいんですよ。そういうことに改めて気づき始めましたね」

●それは最初にいるときにはあまり気づかないものなんですか?

「20代のころは外にばっかり気持ちが向かってましたね。故郷には全然興味ありませんでした。なので、カナダに行ったりヨーロッパに行ったりと、海外中心でした。そのときは『日本の風景なんてどうでもいい』と思ってましたね(笑)。それが、経験を積んでいくにしたがって、『日本って本当にいい国だな』と思うようになっていきました。だからこそ“故郷を撮りたい”と思うようになっていったんだと思います。あと、自分の生まれ育った故郷や日本という国を改めて見つめ直してみて、その魅力を海外の多くの人に発信していきたいという想いが強くなってきたんですね。だから、自分が撮った作品を海外の人に見てもらうということをこれからやっていきたいと思っています」

●今までの作品を海外の人に見せて、反応はどうでしたか?

「『こんな風景があるのか!』とみんなビックリしますよ」

●意外と日本の風景って知られてないんですね。

「知られていないですね。例えば、富士山や京都といったメジャーなところの写真は海外の人も見ているんですが、でも田舎の素朴な暮らしのスタイルや山の中にポツンとある神社といったものは意外と知られていないんですよね。そういう日本の風景や生活分野を見たいと海外の人はみんな希望しているんですよね」

●そうなんですね! メジャーなところの方が人気なのかと思ってました。

「海外の人は、誰もが知っているようなところには興味を示さないんですよ。みんな日本を訪れたらまず『田舎に行きたい。田舎の素朴な暮らしを体験したい』っていうんですよね。そういったものを発信していけたらと思っています」

●そういう暮らしって、段々と失われつつあるじゃないですか。そういうところを海外の人が注目してくれていると、日本人としては嬉しいですよね!

「そうですよね。それが日本を見つめ直していくいい材料になるんじゃないでしょうか。例えば、僕が今追いかけているのが“錦鯉”なんです。錦鯉って池にいますよね? その錦鯉の文化を日本各地を旅して撮影しているんです。海外の人は錦鯉にすごく興味を持っているんですよ。やっぱり美しいじゃないですか。でも、僕たち日本人からすれば“池にいるカラフルな鯉”っていう感じじゃないですか。そこを見つめ直して写真を撮ることによって、日本の1つの美しさや日本の大切な文化を形にできるかなと思うんですよね」

●当たり前のように見過ごしていた日本の風景を、改めて写真を見たりお話を聞いたりすることで、再認識できますね。

「そうなんですよ。まだまだこの国にはたくさんの魅力が残されているんですよね」

●今後も、そういった隠された日本の美しさを発信していくんですね?

「はい。精力的に旅をして、色々なテーマを持って追いかけていきたいと思っています」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 吉村さんの写真を見ていると、とても不思議な気持ちになるんです。それは、例え人が写っていなくても、そこに人々の息づかいや生活が見えてくるということ。もしかしたら、吉村さんはその景色に残っている人々の“思い”や“記憶”も一緒に写真に収めているのかもしれませんね。五島列島に暮らした人たちの記憶、美しい風景と共に、ぜひ吉村さんの写真で感じて下さい。

INFORMATION

KAMI-GOTO〜五島列島上五島 静かな祈りの島〜

写真集『KAMI-GOTO〜五島列島上五島 静かな祈りの島〜』

 丸善出版/本体価格2,700円

 写真家の吉村和敏さんが撮り続けてきた長崎県・五島列島の写真が満載のこの写真集。どんな島で、どんな景色が見られるのか、まさに吉村さんらしいこだわりの構図と色合いを感じます。見ていると、実際に行ってみたくなりますよ。

オフィシャル・サイト

 吉村さんの作品や近況などは、オフィシャル・サイトやブログをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1.  ALL AROUND THE WORLD / LISA STANSFIELD

M2. A LETTER / THE CHARM PARK

M3. MAGIC / CARAVAN

M4. TRUE LOVE / GLENN FREY

M5. I GOTTA FEELING / THE BLACK EYED PEAS

M6. WHAT A WONDERFUL WORLD / THE INNOCENCE MISSION

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」